区分
環境データサイエンス科目 環境情報科目 環境情報展開科目
ディプロマ・ポリシーとの関係
専門性
理解力
実践力
カリキュラム・ポリシーとの関係
専門知識
教養知識
思考力
実行力
カリキュラム全体の中でのこの科目の位置づけ
多様化する環境問題や地域社会の諸問題に関心を持ち、環境・情報・社会に関連する幅広い基礎知識と専門的な理解を深めると共に、学際的な柔軟性を有し、実践的な能力を有する。グローバルな視野と研究調査力を持ち、昨今の情報社会に貢献できる力を有する。企業・地域社会などのあらゆるコミュニティに寄与する組織的な活動能力を有する。
科目の目的
データに含まれる情報は、それを私たちが「知る」こと、そして誰かに「知ってもらう」ことによってはじめて活かされる。データビジュアライゼーションは、単なる装飾とは異なり、定義された「要素」と「文法」によって構造化された出力の技法である。また、視覚による情報認識に優れた人間にとって、データと人をつなぐ優れたインターフェースとして機能するものであり、人間の認知特性を踏まえて視覚に訴える表現(アート)でもある。データビジュアライゼーションの目的は、データに潜む傾向・関係・異常などを見いだし、新たな問いや仮説、洞察を得る「探索的可視化」と、得られた事実・知見・解釈などを他者に分かりやすく伝え、理解・議論・意思決定を支援する「説明的可視化」に大別される。本科目では、データの持つ情報を迅速かつ適切に理解・伝達し、研究や課題解決、意思決定など、社会のさまざまな場面で活用できる能力を培うことを目的とする。
到達目標
到達目標は、以下の5点を達成することである。
・データビジュアライゼーションの意義と目的を理解し、探索的可視化と説明的可視化の特徴や役割の違いを説明できる。
・データを可視化するために必要な「要素」と「文法」、命令型・宣言型などの可視化における設計思想や図表の構造について理解できる。
・データの種類・尺度・構造を理解し、可視化に適したデータ構造への変換を含む、基本的なデータハンドリングを適切に行うことができる。
・座標系・座標軸・スケール、人間の視覚・認知や色の特性を理解し、それらを踏まえて、効果的で誤解の少ない視覚表現について説明できる。
・可視化の目的やデータの特性に応じて適切な可視化手法を選択・構成し、各手法の特性や制約、注意点、守るべき作法を踏まえた可視化を実践できる。
科目の概要
第一部では、データビジュアライゼーションの目的や意義、「探索的可視化」と「説明的可視化」の理解にはじまり、データを視覚表現へ変換するための「要素」と「文法」、命令型・宣言型などの可視化の設計思想と実装方法について学習する。さらに、可視化の“材料”となるデータの種類・尺度・構造とそのハンドリング方法、座標系・座標軸・スケールの考え方を学ぶ。また、人間の視覚・認知の特性、色の仕組みやカラーシステム、データの種類や目的に応じた色の活用方法を学び、第一部の最後にこれらの基礎事項を統合的に整理する。
第二部では、量や内訳、分布、関係性、時間的変化、地理空間など、可視化の目的やデータの特性に応じた代表的な可視化手法について、理論と実践の両面から学習する。各手法の特徴や制約、適切な使い分けなどを理解し、データを可視化する際に陥りやすい誤りや不適切な表現、視認性やアクセシビリティ、不確かさの扱いなどについても具体例を交えて学習する。最終的には、目的に応じて適切な可視化手法を選択・構成し、卒業論文等に応用できる力を養う。
科目のキーワード
①データビジュアライゼーション(Data Visualization)、② The Grammar of Graphics、③ 写像(Mapping)、④ 整然データ(Tidy Data)、⑤ 座標系(Coordinate System)・スケール(Scale)、⑥ 視覚・認知、⑦ 色・カラーシステム(Color System)、⑧ 探索的可視化(Exploratory Visualization)、⑨ 説明的可視化(Explanatory Visualization)、⑩ 可視化の作法
授業の展開方法
毎回の授業は、前回の復習、講義、Quarto Markdownを用いた実装体験、要点のまとめ、小テストからなる。授業の最初に前回の学習内容を振り返る。講義では、データビジュアライゼーションの理論や考え方を、具体的なデータや図表、適切・不適切な可視化の事例などを用いて解説する。その後、受講者自身がQuarto Markdown教材を操作して実装を体験することで、理論と実践を関連づけながら理解を深める。最後に、その日の学習内容の要点を整理したうえで、LMS上の小テストにより理解度を確認する。
受講者は、インターネットに接続可能なノートPCを毎回必ず持参すること(授業前に十分に充電しておくこと)。
全15回の内容は以下のとおりである。
【第一部】
第1回 イントロダクション
第2回 可視化の要素と文法
第3回 可視化の実装手法
第4回 データハンドリング
第5回 座標系と座標軸
第6回 視覚・認知
第7回 色とカラーシステム
第8回 色の活用
第9回 第一部の総復習
【第二部】
第10回 量や内訳を可視化する
第11回 分布を可視化する
第12回 関係性を可視化する
第13回 変化を可視化する(時系列・トレンド)
第14回 空間を可視化する(位置情報)
第15回 可視化におけるTips/総復習
オフィス・アワー
【火曜日】4時限目(前期のみ)・5時限目、【木曜日】4・5時限目、【金曜日】4・5時限目
科目コード
ENS526
学年・期
3年次・後期
科目名
環境ビジュアライゼーション
単位数
2
授業形態
講義
必修・選択
選択
学習時間
学習時間 【授業】90分×15 【予習】90分以上×15 【復習】90分以上×15
前提とする科目
なし
展開科目
なし
関連資格
担当教員名
蛭田有希
回
主題
コマシラバス項目
内容
教材・教具
1
イントロダクション
科目の中での位置付け
本科目は、データを人間が理解できる視覚表現へと変換し、探索と説明を支えるデータビジュアライゼーションを、理論と実践の両面から体系的に学ぶ科目である。前半の第一部では、可視化を構成する要素と文法、実装思想、データ構造、座標、視覚・認知、そして色について学ぶ。後半の第二部では、量や内訳、分布、関係性、変化、空間といった目的別に、可視化の方法を学んでいく。第1回は、その全体の見取り図を共有する回である。データビジュアライゼーションの定義と社会的な意義を確かめ、その主要な目的を「探索的可視化」と「説明的可視化」の二つの観点から整理する。また、今後の授業を円滑に行うため、R、RStudio、Quarto Markdown、Teamsなどの作業環境を整える。第1回は、以後の授業全体を貫く視点を共有したうえで、学習環境を整える導入回に位置づけられる。
コマ用オリジナル配布資料
(該当回のQuarto Markdownファイル)
*必要に応じてプリントを配付する。
コマ主題細目
① 科目ガイダンス ② データビジュアライゼーションとは ③ 可視化の目的―探索的可視化と説明的可視化 ④ 学習環境の整備
細目レベル
①
科目ガイダンス
まず「ビジュアライゼーション」という言葉が指す範囲を確認し、そのなかでもこの授業ではデータビジュアライゼーションを中心に扱うことを確認する。授業は全15回で、前半の第一部では可視化を支える基礎理論を、後半の第二部では目的に応じた具体的な手法を扱う。各回はばらばらの知識ではなく、少しずつ積み重なって、最終的な可視化の設計へとつながっていく。この科目を通して最終的に目指すのは、手元のデータがどんな種類で、何のために使うのかを読み取り、それに合った可視化を自分で選んで組み立て、なぜその表現が適切なのかを説明できるようになることである。授業では環境分野の実例も取り上げ、ここで学ぶ知識が卒業研究や、社会に出てからのデータ活用にどうつながるのかを見通せるようにする。
②
データビジュアライゼーションとは
データビジュアライゼーションとは何かを確認する。これは、数値や記録といったデータを、位置・形・大きさ・色などの見た目に置き換えて、人が理解したり、新しい発見をしたり、判断を下したりするのを助ける方法である。ここで大切なのは、それが単に「見やすくきれいな図」や飾りではなく、データと人とをつなぐ入り口(インターフェース)だという点である。この考え方を、統計グラフの歴史や、いまのデータ社会での使われ方を通して理解していく。あわせて、図やチャート、グラフ、プロット、地図といった、授業でよく使う言葉が何を指すのかも整理する。昔の統計図表から今のインタラクティブな可視化までを見わたすと、技術は変わっても、「データを目に見える形に翻訳して、理解や判断を助ける」という核心は変わっていないことが分かる。
③
可視化の目的―探索的可視化と説明的可視化
データビジュアライゼーションの目的を、「探索的可視化」と「説明的可視化」という二つの面から整理する。探索的可視化は、まず分析者自身がデータを理解するために行うものである。傾向や分布、関係、異常、全体像などをいろいろな角度から探り、新しい問いや仮説、気づきを得ることをねらいとする。この段階では、さまざまな変数や表現を試しながら、データの特徴を見つけ出すことが大切になる。これに対して説明的可視化は、探索や分析を通して得られた事実や解釈を、特定の読み手に分かりやすく伝えることを目的とする。伝えたい情報を選んで整理し、色やラベル、注釈、強調などを使って、相手の理解や議論、意思決定を助ける。この二つはきっぱり分かれるものではない。探索で得た気づきを説明し、その過程からまた新しい問いが生まれて、ふたたび探索へ戻る。そうした行き来のなかで可視化が使われることを理解する。
④
学習環境の整備
細目④では、これから学んでいくための環境を整える。この授業では、R、RStudio、Quarto Markdownを用いる。Rを用いるのは、データの読み込みや整形、統計的な処理、そして可視化までを一つの環境で続けて扱うことができ、研究やデータ分析と相性がよいためである。さらにRでは、本科目で学ぶThe Grammar of Graphicsの考え方に基づくggplot2を使える。これにより、データの変数を位置や色、大きさといった視覚的属性へ写像し、幾何要素や尺度、座標系を組み合わせて図を構成するという可視化の文法を、理論と実装を対応させながら学ぶことができる。また、Quarto Markdownを用いることで、理論の説明、コード、実行結果、そして可視化を一つの教材のなかで確認できる。なお、本科目では、特定のプログラミング言語を習得すること自体を目的とするのではなく、可視化の原理や構造を具体的に体験するための実装環境としてRを用いる。授業中のURLやデータの共有、コミュニケーションにはTeamsを用いる。細目④では、R、RStudio、Teamsといった学習環境を整え、配布された教材を開いてコードを動かすことで、RStudioやTeamsの基本的な操作も確認する。
キーワード
① データビジュアライゼーション(Data Visualization) ② 探索的可視化(Exploratory Visualization) ③ 説明的可視化(Explanatory Visualization) ④ 洞察 ⑤ 意思決定
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
【復習】授業で用いたQuarto Markdownの内容を読み返しながら、ブランクに用語やコードを入力し、必要なコードを最後まで実行して出力を確認する。分からない点は、書籍・Webサイト・ChatGPTなどで調べる。また、調べても分からないことは積極的に教員に質問する。なお、調べたことや学習内容の要点をQuarto Markdownに追記し、自分専用の教材として整備することで、復習に役立てることもできる。
【予習】シラバスの細目レベルの内容を確認する。さらに、各自の専用フォルダに事前に資料がアップロードされている場合には、それらに目を通し、理解が困難な箇所を事前に把握しておく。また、関連するキーワードをインターネットで検索するなどして、事前に知識を得たうえで授業に臨むことが望ましい。
2
可視化の要素と文法
科目の中での位置付け
第1回では、データビジュアライゼーションの目的と、科目全体の見取り図を確かめた。第2回では、個々のグラフを「棒グラフ」「散布図」といった完成した種類として覚えるのではなく、共通する要素の組み合わせとして構造的に捉える見方を学ぶ。とりわけ、データに含まれる変数を、位置・形・大きさ・色などの視覚的属性へ対応づける「写像」を中心に、The Grammar of Graphicsが示す抽象的な文法を理解する。ここで身につける「変数―写像―視覚表現」という考え方は、第3回の命令型・宣言型という実装思想、第4回の整然データとwide/long形式、そして第5回以降の座標・認知・色の学習をつなぐ土台になる。
コマ用オリジナル配布資料
(該当回のQuarto Markdownファイル)
*必要に応じてプリントを配付する。
コマ主題細目
① 可視化の役割と抽象モデル ② The Grammar of Graphics ③ データビジュアライゼーションの要素 ④ 変数と視覚的属性の写像
細目レベル
①
可視化の役割と抽象モデル
私たち人間には、数字や文字列などのデータそのものからその構造やパターンを直接捉えることは難しい。細目➀では、可視化を視覚表現を通してデータの構造やパターンをつかむための「外化」のしくみとして捉える。棒グラフや散布図を完成した「作品」として眺めるのではなく、「元のデータ」「変換・要約」「視覚への写像」「表示された図」という流れに分解してみる。そうすると、どのデータを、どんな視覚的な特徴に置き換え、どんな規則で画面上に並べた結果なのかが見えてくる。種類の違う図であっても、その裏には共通したしくみがあることを確認し、図の名前を覚える学習から、構造を理解して新しい表現にも応用できる学習へと視点を移していく。可視化が科学的な推論や人とのコミュニケーションを支えるのはなぜかを、第1回で学んだ探索的可視化と説明的可視化の両方と結びつけて考える。
②
The Grammar of Graphics
Leland WilkinsonのThe Grammar of Graphicsという考え方を学ぶ。これは、図表を名前の一覧としてではなく、生成規則をもつ「文法」として記述しようとする発想である。自然言語が、限られた語彙と文法規則の組み合わせから無数の文を作り出すように、可視化もまた、データ・写像・幾何要素・尺度・座標などの組み合わせから多様な図を作り出せる。この見方が身につくと、はじめて見る図でも「どのデータが、どの属性へ写像され、どんな幾何要素・尺度・座標で表現されているか」と読み解き、目的に応じて改善できるようになる。続く第3回では、この抽象的な文法を、実際のソフトウェアがどのように形にしているのかを見ていく。
③
データビジュアライゼーションの要素
The Grammar of Graphicsを手掛かりに、可視化を組み立てている主要な部品を見ていく。具体的には、データ、写像、美的属性(視覚的属性)、点や線・棒といった幾何要素、平均や平滑化などの統計変換、データの値を画面上の位置・色・大きさへ変換する尺度、複数の条件を並べて比べる分割などである。それぞれがどんな役割を担うのかを、実際の図で確かめる。これらの部品は互いに独立しているわけではなく、同じデータでも幾何要素や尺度、座標系を変えれば、見えてくる特徴も解釈も変わる。そこで、いくつかの図を部品ごとに分解し、「何をそのままにして、何を変えると、図がどう変わるか」を見比べる。こうして、可視化の設計を「部品の選び方」の問題として捉えられるようにする。あわせて、続く第3回の実装手法、第4回のデータ構造、このあとの座標や色、目的別の可視化の回が、この枠組みのどこを詳しく扱うのかも見通しておく。
④
変数と視覚的属性の写像
可視化設計の中心にある「写像」を扱う。写像とは、データの変数を視覚的な属性へ対応づける規則のことである。たとえば、年を横方向の位置、気温を縦方向の位置、都市を色に対応づければ、同じデータから意味のある図が立ち上がる。ここで大切なのは、写像が単なる見た目の設定ではなく、データの意味を視覚へ翻訳する設計行為だという点である。たとえば、数量は位置や長さに、カテゴリは色相や形に対応づけるというように、変数の意味と、それを表す視覚属性の性質とが合っている必要がある。量的な変数か、質的な変数か、順序を持つ変数かによって、ふさわしい属性は変わってくる。同じ変数でも別の属性へ写像すると読み取りやすさが変わることを、実例を見比べて確かめる。写像を「表の列を選ぶ操作」ではなく、「データの意味をどの視覚チャネルへ翻訳するか」という判断として理解し、第3回の可視化の実装手法を経て、第4回の変数やデータ構造の学習へつなげる。
キーワード
① The Grammar of Graphics ② 可視化の構成要素 ③ 写像(Mapping) ④ 美的属性(Aesthetics) ⑤ 幾何要素(Geometric Elements)
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
【復習】授業で用いたQuarto Markdownの内容を読み返しながら、ブランクに用語やコードを入力し、必要なコードを最後まで実行して出力を確認する。分からない点は、書籍・Webサイト・ChatGPTなどで調べる。また、調べても分からないことは積極的に教員に質問する。なお、調べたことや学習内容の要点をQuarto Markdownに追記し、自分専用の教材として整備することで、復習に役立てることもできる。
【予習】シラバスの細目レベルの内容を確認する。さらに、各自の専用フォルダに事前に資料がアップロードされている場合には、それらに目を通し、理解が困難な箇所を事前に把握しておく。また、関連するキーワードをインターネットで検索するなどして、事前に知識を得たうえで授業に臨むことが望ましい。
3
可視化の実装手法
科目の中での位置付け
第2回では、可視化を共通の構成要素と文法として理解し、特に変数と視覚的属性の「写像」を、可視化設計の中心として学んだ。第3回では、その抽象的な文法を、コンピュータ上でどのように形にするかを扱う。可視化ツールを、単なる操作方法の違いとしてではなく、「どう描くか」を順を追って指定する命令型と、「何をどのように表現するか」を構造として宣言する宣言型という、二つの設計思想から比べる。さらに、The Grammar of Graphicsを体現するggplot2を具体例として、文法と実装との対応を確かめる。ここでもコードを暗記するのではなく、実装の背後にある設計思想を理解することを重視し、第4回のデータ構造との関係へつなげることを意識する。
コマ用オリジナル配布資料
(該当回のQuarto Markdownファイル)
*必要に応じてプリントを配付する。
コマ主題細目
① ツール選択の考え方 ② 可視化の設計思想―命令型 ③ 可視化の設計思想―宣言型 ④ Grammar of Graphicsとggplot2
細目レベル
①
ツール選択の考え方
可視化のツールをどう選ぶかを考える。可視化に使える道具は、Rのbase graphicsやggplot2、PythonのmatplotlibやAltairなど、いくつもある。どれを使うかは、「有名だから」「使い慣れているから」という理由だけで決めるものではない。結果を再現できるか、拡張しやすいか、学びやすいか、表現の自由度はどうか、扱うデータ構造と相性がよいか、といった観点から選ぶ必要がある。同じ図が描ける場合でも、背後にある設計思想が違えば、考え方も操作の仕方も変わってくる。本科目では、The Grammar of Graphicsとの対応が見えやすいggplot2を主な実装例として使う。ただし、特定のソフトの操作を覚えること自体が目的ではなく、ほかの環境にも応用できるよう、その裏にある設計思想を理解することを重視する。あわせて、論文なのか、プレゼンなのか、Webなのかという出力先によって必要な機能も変わることを確認し、「目的に合う道具を選ぶ」という判断も、可視化設計の一部として捉える。
②
可視化の設計思想―命令型
可視化の設計思想の一つである命令型を扱う。命令型では、「点を描く」「線を加える」「凡例を置く」というように、描画の処理を具体的な手順として順番に指定していく。流れが直接的なので、細かな制御や特殊な表現には向いているが、図が複雑になると、その構造が命令の並びのなかに埋もれてしまいやすい。複数の系列がそれぞれ別の列として入っているwide形式のデータとは、「この列を描き、その上に次の列を重ねる」という発想の相性がよいことが多い。ただし、命令型なら必ずwide形式、というような固定した対応があるわけではなく、データの構造や目的に応じて使い分けることが大切である。授業では、同じデータに描画命令を順に積み上げ、途中の命令を入れ替えたり削除したりすると図がどう変わるかを観察し、その特徴を、次に学ぶ宣言型との比較に生かす。
③
可視化の設計思想―宣言型
もう一つの設計思想である宣言型を扱う。宣言型では、描く手順そのものよりも、「どのデータを、どの視覚的属性に、どの幾何要素で表すか」という構造を記述する。たとえば、年をx位置、気温をy位置、都市を色へ写像すると宣言すれば、図が生成される。この考え方は、変数が明示されたlong形式や整然データと相性がよく、同じ規則を別のデータや表現へと広げやすい。命令型とどちらが優れているかを決めるのではなく、何を制御したいのか、どんなデータ構造を扱うのかによって、向いている考え方が違うことを理解する。授業では、写像や幾何要素だけを変え、ほかの構造はそのままにして表現を変えてみる。こうして、宣言型が「構造を保ったまま表現を変更できる」考え方であることを体験し、あわせて図の意図を言葉で説明する練習も行う。
④
Grammar of Graphicsとggplot2
ggplot2が、The Grammar of Graphicsの考え方を、実際に使える道具として形にしていることを学ぶ。第2回で扱ったデータ、写像、美的属性、幾何要素、尺度、座標、分割といった要素が、ggplot2では対応する機能として組み合わされている。授業では、要素を変えると出力がどう変わるかを観察し、理論としての文法要素と、実際の図とのつながりを体験する。ここでも大切なのは、関数名や構文を覚えることではなく、出来上がった図を見て、どの文法要素を選び、どう変えたからその表現になったのかを説明できることである。この理解を、第4回で扱う整然データやwide/long形式へとつなげ、なぜ変数が明示されたデータ構造が宣言型の可視化と相性がよいのかを考える準備とする。
キーワード
① 命令型(Imperative Approach) ② 宣言型(Declarative Approach) ③ ツール選択 ④ ggplot2 ⑤ The Grammar of Graphics
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
【復習】授業で用いたQuarto Markdownの内容を読み返しながら、ブランクに用語やコードを入力し、必要なコードを最後まで実行して出力を確認する。分からない点は、書籍・Webサイト・ChatGPTなどで調べる。また、調べても分からないことは積極的に教員に質問する。なお、調べたことや学習内容の要点をQuarto Markdownに追記し、自分専用の教材として整備することで、復習に役立てることもできる。
【予習】シラバスの細目レベルの内容を確認する。さらに、各自の専用フォルダに事前に資料がアップロードされている場合には、それらに目を通し、理解が困難な箇所を事前に把握しておく。また、関連するキーワードをインターネットで検索するなどして、事前に知識を得たうえで授業に臨むことが望ましい。
4
データハンドリング
科目の中での位置付け
第2回で可視化を「変数を視覚的属性へ写像する文法」として捉え、第3回では命令型と宣言型という実装思想を比べた。第4回では、視点を可視化の側からデータの側へ移し、その文法で扱いやすいのはどのような構造のデータかを学ぶ。量的変数・質的変数や尺度水準を確かめたうえで、整然データの原則、wide形式とlong形式の違い、両者の変換、抽出や集計といった前処理を扱う。とりわけ、wide形式では系列が列名として表れやすいのに対し、long形式では系列の違いそのものが一つの変数になる。そのため、long形式や整然データは、変数を美的属性へ写像するThe Grammar of Graphicsに基づく宣言型の可視化と相性がよいことを理解する。データの整形を、単なる操作の技術ではなく、可視化設計の一部として捉える回とする。
コマ用オリジナル配布資料
(該当回のQuarto Markdownファイル)
*必要に応じてプリントを配付する。
コマ主題細目
① データの種類・尺度と変数 ② 整然データとwide/long形式 ③ wide ↔ long変換 ④ データ操作と前処理 ⑤ 可視化の設計思想とデータ構造の関係
細目レベル
①
データの種類・尺度と変数
可視化の材料となるデータそのものを整理する。まず、量的変数と質的変数、連続値と離散値、名義・順序・間隔・比率という尺度の水準を確認する。同じ数値として保存されていても、ID番号と気温とでは意味がまるで違うように、保存されている形式と変数の意味は分けて考える必要がある。その値が「区別」「順序」「差」「比」のどこまでを意味として持つかによって、ふさわしい集計の仕方も可視化の表現も変わってくる。また、wide形式のデータでは、本来一つの変数の水準が、複数の列名として散らばって現れることがある。いくつかの例を分類しながら、可視化に入る前に「この列は何を意味する変数なのか」を言葉にする習慣を身につける。さらに、変数の種類と、位置・長さ・色相・明度・大きさといった視覚属性との相性にも触れ、第2回で学んだ「写像」が、データの意味にもとづく選択であることをあらためて確認する。
②
整然データとwide/long形式
整然データ(tidy data)の考え方を学ぶ。その基本は、各変数が一つの列に、各観測が一つの行に、各値が一つのセルに収まっている、という形である。wide形式とlong形式は、単に表が横長か縦長かという見た目ではなく、「何が変数として表のなかに存在しているか」という観点から見比べる。たとえば「年|東京|大阪」というwide表では都市名が列名になっているのに対し、「年|都市|気温」というlong表では、都市そのものが一つの変数になっている。この違いが、宣言型の可視化で写像をしやすいかどうかに関わってくる。一方で、人が一覧するにはwideのほうが見やすい場合もある。同じ内容の二つの表を比べながら、人が眺めるための見やすさと、可視化や集計のための扱いやすさとは必ずしも一致しないことを確認し、目的に応じて構造を選べるようにする。
③
wide ↔ long変換
wide形式とlong形式を互いに変換する操作を扱う。同じ情報を持つデータでも、目的によって適した形は異なる。wideからlongへの変換では、複数の列名のなかに埋め込まれていた系列の情報を一つの変数にまとめ、対応する値を別の変数へ整理する。逆にlongからwideへの変換では、ある変数の水準を列に展開して、一覧しやすくする。授業では小さな表を実際に書き換え、変換の前後でどの列が変数になり、どのセルが値になるのかを確かめる。tidyrなどの道具も使うが、履修判定で重視するのは、特定の関数の構文ではなく、変換の意味を理解し、手作業でも適切な形に直せることである。変換のあとで情報が抜け落ちたり重複したりしていないかを確かめる方法も考え、この操作を、形を変えるだけのものではなく、データの意味を保ったまま構造だけを組み替えるものとして理解する。
④
データ操作と前処理
可視化の前に必要となるデータの前処理を扱う。可視化に入る前には、必要な観測を抜き出す、必要な変数を選ぶ、新しい変数を作る、カテゴリごとに集計する、グループに分ける、欠損や異常な値を確認する、といった作業が必要になる。授業ではdplyrなどを使ってこれらを実践するが、大切なのは関数名を覚えることではなく、「どの観測を対象にし、何を新しい変数として作り、どの単位で集計したのか」を自分の言葉で説明できることである。前処理は、それ自体が分析の対象を変えてしまうことがあるため、可視化の正確さと再現性を支える重要な工程である。処理の前後でデータを見比べ、観測の数、変数の数、値の意味がどう変わったかを確認する。欠損値や外れ値についても、機械的に削除するのではなく、その分析の目的や、データがどう生まれたのかを踏まえて扱う必要があることを学ぶ。
⑤
可視化の設計思想とデータ構造の関係
第3回で学んだ命令型・宣言型と、この回で学んだwide形式・long形式との関係を、あわせて整理する。命令型では複数の列を順番に描いていく処理が自然なことがあり、wide形式と相性がよい。一方、宣言型では「都市を色へ写像する」のように変数と視覚属性の関係を宣言するため、系列の違いが変数としてはっきり表れているlong形式や整然データと相性がよい。具体例を見比べながら、可視化ツールの設計思想とデータの構造が、互いに影響し合っていることを理解する。ただし、命令型ならwide、宣言型ならlong、と決まっているわけではない。あくまで典型的に相性のよい組み合わせとして捉え、目的に応じて構造を選ぶことが大切である。この見方が身につくと、「ツールが受け付けないから仕方なく変換する」のではなく、「表したい変数どうしの関係をはっきりさせるために構造を整える」という、より一般的なデータ設計の考え方へと進んでいける。
キーワード
① 尺度水準(名義・順序・間隔・比率) ② 整然データ(Tidy Data) ③ wide形式 ④ long形式 ⑤ データハンドリング
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
【復習】授業で用いたQuarto Markdownの内容を読み返しながら、ブランクに用語やコードを入力し、必要なコードを最後まで実行して出力を確認する。分からない点は、書籍・Webサイト・ChatGPTなどで調べる。また、調べても分からないことは積極的に教員に質問する。なお、調べたことや学習内容の要点をQuarto Markdownに追記し、自分専用の教材として整備することで、復習に役立てることもできる。
【予習】シラバスの細目レベルの内容を確認する。さらに、各自の専用フォルダに事前に資料がアップロードされている場合には、それらに目を通し、理解が困難な箇所を事前に把握しておく。また、関連するキーワードをインターネットで検索するなどして、事前に知識を得たうえで授業に臨むことが望ましい。
5
座標系と座標軸
科目の中での位置付け
第4回までに、可視化の文法と実装思想、そして可視化に適したデータ構造を学んだ。第5回では、データの変数を視覚的属性へ写像したあと、それを画面上のどこに、どのような尺度で配置するかという「空間への翻訳」を扱う。座標系、座標軸、スケールを区別し、それぞれが可視化の意味と読み取りに果たす役割を理解する。直交座標系や極座標系といった座標系、線形や対数といったスケール、表示範囲や軸の始点、目盛、ラベル、単位の設定を比べ、同じデータでも設定しだいで見え方や解釈が変わることを学ぶ。この回は、第6回以降で学ぶ「人間がその図をどう知覚するか」の前提になる。
コマ用オリジナル配布資料
(該当回のQuarto Markdownファイル)
*必要に応じてプリントを配付する。
コマ主題細目
① 座標系 ② 座標軸 ③ スケール ④ 座標・スケールによって変わる見え方
細目レベル
①
座標系
座標系とは、データの点を画面や紙面のどこに置くかを決める、基準となる枠組みのことである。もっとも一般的な直交座標系では、直角に交わるx軸とy軸を使って、二つの変数の位置関係を表す。極座標系では、半径と角度で位置を表し、周期的・循環的なデータに向くことがある。座標系の選択は、見た目が変わるだけの問題ではない。何を比べやすくするか、どの関係を強調するかに関わるため、可視化の目的に応じて選ぶ必要がある。直交座標系だけでなく、極座標系や地理座標系も例にとりながら、同じデータでも座標系によって距離や方向、周期性の見え方が変わることを確かめる。座標系は単なる「枠」ではなく、データの空間を表示の空間へ変換する規則の一部であり、選び方しだいで、際立つ特徴もあれば見えなくなる特徴もある。のちの円グラフや地図投影を理解するための基礎として、この「座標変換」という考え方を身につけておく。
②
座標軸
座標軸は、座標系の方向と、データの値がどこにあるかを読み取るための基準線である。軸の始点と終点、向き、表示範囲、目盛の間隔、ラベル、単位といった設定は、その図が何を意味するのかを読み手へ伝える大切な情報になる。とりわけ、棒グラフのように長さそのものが量を表す場合と、散布図のように位置が関係性を表す場合とでは、軸の範囲や、ゼロから始めることの意味が違ってくる。授業では、軸を省略したり、途中で切ったり、向きを反転させたりした例を見比べ、見た目の強調がデータの意味を歪めていないかを判断する。こうして、軸を単なる飾りではなく、データの意味を読み手へ翻訳する要素として、また、データと読み手をつなぐ「ものさし」として設計する視点を身につける。
③
スケール
スケールとは、データがとる値の範囲を、画面上の位置・長さ・色・大きさといった表示の範囲へ変換する規則である。線形スケールでは、等しい差を等しい距離として表す。これに対して対数スケールでは、等しい比を等しい距離として表すため、桁の異なる値どうしを比べやすくなる。必要に応じてべき乗変換などにも触れながら、スケールの選び方しだいで、見えてくるパターンや傾向が変わることを確かめる。ここで、データのもとの値域(domain)と、表示の範囲(range)という考え方を使い、もとの値が画面上のどの位置へ割り当てられるのかを確認する。対数スケールではゼロや負の値をそのままは扱えない、といった制約にも触れる。スケールは、データを都合よく歪めるためのものではなく、その構造を目的に合わせて読み取りやすい形へ変換する規則であり、どんな変換をなぜ使ったのかを明示することが大切であると理解する。
④
座標・スケールによって変わる見え方
これまでに学んだ座標系とスケールを組み合わせ、設定によって図の見え方や解釈がどう変わるかを確かめる。同じデータを、軸の範囲、ゼロから始めるかどうか、線形か対数か、直交座標か極座標か、といった複数の条件で描き比べる。設定しだいで、差が実際より大きく(あるいは小さく)見えたり、周期性が強調されたり、隠れていた関係が浮かび上がったりする。その一方で、不適切な設定は読み手を誤解させることもある。変化の大きさ、外れ値、グループ間の差、周期性など、読み手が受け取る印象がどれだけ変わるかを検討し、「どちらが正しいか」だけでなく、「どんな問いに答えるための設定なのか」を説明できることを重視する。あわせて、意図するかどうかにかかわらず人を誤解させてしまう例も取り上げ、座標やスケールの選択を、可視化の倫理や、守るべき作法と結びつけて考える。
キーワード
① 座標系(Coordinate System) ② 座標軸(Coordinate Axes) ③ スケール(Scale) ④ 対数スケール(Logarithmic Scale) ⑤ 極座標系(Polar Coordinate System)
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
【復習】授業で用いたQuarto Markdownの内容を読み返しながら、ブランクに用語やコードを入力し、必要なコードを最後まで実行して出力を確認する。分からない点は、書籍・Webサイト・ChatGPTなどで調べる。また、調べても分からないことは積極的に教員に質問する。なお、調べたことや学習内容の要点をQuarto Markdownに追記し、自分専用の教材として整備することで、復習に役立てることもできる。
【予習】シラバスの細目レベルの内容を確認する。さらに、各自の専用フォルダに事前に資料がアップロードされている場合には、それらに目を通し、理解が困難な箇所を事前に把握しておく。また、関連するキーワードをインターネットで検索するなどして、事前に知識を得たうえで授業に臨むことが望ましい。
6
視覚・認知
科目の中での位置付け
第5回までに、データを整え、変数を視覚的属性へ写像し、座標やスケールによって画面上へ配置するまでのしくみを学んだ。第6回では、その出力を受け取る人間の側のしくみへと焦点を移す。可視化の良し悪しは、データが正確であるかだけでは決まらない。人間が位置・長さ・角度・面積・色などをどう知覚し、何を素早く見つけ、どのように複数の要素をまとまりとして認識するかによっても左右される。そこで、「見る」しくみ、前注意的処理と注意的処理、視覚的属性ごとの知覚精度、そしてゲシュタルト原則を学び、可視化の設計を、人間の知覚・認知の特性から説明できるようにする。
コマ用オリジナル配布資料
(該当回のQuarto Markdownファイル)
*必要に応じてプリントを配付する。
コマ主題細目
① 「見る」仕組み ② 前注意的処理と注意的処理 ③ 視覚的属性と知覚精度 ④ ゲシュタルト原則
細目レベル
①
「見る」仕組み
可視化を理解する前提として、人間が光を受け取り、それを視覚情報として処理するしくみを学ぶ。可視光が眼に入り、網膜の視細胞で受け取られ、視神経を通って脳の視覚野で処理される、という流れをおおまかにたどる。ここで大切なのは、「見る」ことが、外の世界をそのまま写し取る受け身の作業ではないという点である。脳は、形や色、方向、奥行きといった特徴を抜き出し、これまでの経験や周囲の文脈をもとに意味づけていく。つまり、私たちが見ているものは外界の完全な写しではなく、感覚器官と脳が選び取り、組み立てた結果なのである。可視化はこのしくみを利用して情報を伝えるものだから、視覚の強みだけでなく、錯視や見落としといった限界も、設計上の条件として考えに入れる必要がある。こうした理解が、可視化を「正しく描けば自動的に伝わるもの」と思い込まないための土台になる。
②
前注意的処理と注意的処理
前注意的処理と注意的処理という二つの視覚情報処理の違いを学ぶ。視覚情報のなかには、色や形、向き、大きさ、位置の違いによって、意識して探さなくても瞬時に目に飛び込んでくるものがある。これが前注意的処理である。一方、複数の対象を意識的に見比べて判断するのが注意的処理で、こちらは時間も認知の負担もかかる。たとえば、たくさんの要素のなかで一つだけ色や向きが違う対象は、探すまでもなくすぐ見つかる。可視化では、この性質を利用して、重要な点を色や大きさで際立たせ、読み手の視線を自然に導くことができる。ただし、強調をあれもこれもと使うと、すべてが目立って、かえって何も伝わらなくなる。細かな値の比較や複数条件の照合には注意的処理が要る分だけ負担も増えるので、重要な情報を前注意的に目立たせ、こまかい比較を必要以上に増やさないことが、効率のよい設計につながる。何を素早く見つけさせ、何をじっくり比べさせるのか、という設計の意図と結びつけて理解する。
③
視覚的属性と知覚精度
視覚的属性ごとに、人間が値を読み取れる精度が違うことを学ぶ。位置、長さ、角度、面積、色の明度や彩度といった属性は、どれも同じ正確さで比較できるわけではない。ClevelandとMcGillの研究を手掛かりにすると、共通のものさしの上での位置や長さは数量の比較に比較的向いており、角度や面積、色の濃さでは差の判断が難しくなることが分かる。この精度の違いは、そのまま各手法の得意・不得意につながる。たとえば、棒グラフと円グラフ、散布図とバブルチャートのどちらを選ぶかも、ここから説明できる。さらに、その図の目的が「正確に比較すること」なのか、「大まかな傾向をつかむこと」なのかによっても、適した表現は変わってくる。知覚の精度と、盛り込む情報量のバランスを考える視点を持ち、これを、第二部で個々の手法を「なぜその表現を選ぶのか」と考えるための根拠としていく。
④
ゲシュタルト原則
人間が多数の要素を、ばらばらの点や線ではなく「まとまり」として捉えるしくみを、ゲシュタルト原則から学ぶ。近接、類同、閉合、連続、共通運命といった原則を具体的な図で確かめ、点と点の距離、色や形の似かた、線のつながり、囲みや背景の使い方しだいで、同じデータでもグループの見え方が変わることを理解する。これらの原則は、凡例や表、散布図、複数パネルのレイアウトなど、実際のデザインにそのまま応用できる。たとえば、離れた場所にある凡例と図とを視線で往復する負担と、線のすぐそばに直接ラベルを置いた場合とを見比べると、要素の配置そのものがグループの認識を作り出していることが分かる。視覚要素を新たに増やさなくても、間隔や整列、まとまりを調整するだけで読みやすさは改善できる。こうして、認知の負担を減らす設計へとつなげていく。
キーワード
① 視覚認知(Visual Cognition) ② 前注意的処理(Pre-attentive Processing) ③ 注意的処理(Attentive Processing) ④ 知覚精度(Perceptual Accuracy) ⑤ ゲシュタルト原則(Gestalt Principles)
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
【復習】授業で用いたQuarto Markdownの内容を読み返しながら、ブランクに用語やコードを入力し、必要なコードを最後まで実行して出力を確認する。分からない点は、書籍・Webサイト・ChatGPTなどで調べる。また、調べても分からないことは積極的に教員に質問する。なお、調べたことや学習内容の要点をQuarto Markdownに追記し、自分専用の教材として整備することで、復習に役立てることもできる。
【予習】シラバスの細目レベルの内容を確認する。さらに、各自の専用フォルダに事前に資料がアップロードされている場合には、それらに目を通し、理解が困難な箇所を事前に把握しておく。また、関連するキーワードをインターネットで検索するなどして、事前に知識を得たうえで授業に臨むことが望ましい。
7
色とカラーシステム
科目の中での位置付け
第6回では、人間の視覚・認知のしくみと、視覚的属性による知覚精度の違いを学んだ。第7回では、そのなかでも可視化で頻繁に使われる「色」を、感覚的な好みではなく、物理・知覚・表現体系という観点から理解する。色が見えるしくみ、色相・明度・彩度という三つの属性、光を混ぜる加法混色と色材を混ぜる減法混色を整理し、RGB、HEX、HSL・HSV、CIE系といった主要なカラーシステムの特徴を学ぶ。色を数値として指定・再現するための体系を理解することで、第8回で扱う「どのデータにどのような色を使うか」という、実践的な色の設計へとつなげる。
コマ用オリジナル配布資料
(該当回のQuarto Markdownファイル)
*必要に応じてプリントを配付する。
コマ主題細目
① 色が見える仕組み ② 色の三属性(色相・明度・彩度) ③ 加法混色・減法混色 ④ RGB・HEX・HSL/HSV・CIE系等のカラーシステム
細目レベル
①
色が見える仕組み
色を、物体そのものに初めから備わった性質としてではなく、光源からの光、物体による反射・透過・吸収、そして人間の視覚が受け取るはたらき、という三者の相互作用から生まれる知覚として理解する。可視光の波長と色の関係、網膜の錐体細胞による色の感じ取り方、光源そのものの色(光源色)と物体の色(物体色)の違いをおおまかにつかむ。同じ色の指定でも、周囲の明るさや背景の色によって見え方が変わることも確かめる。さらに、ディスプレイのように自ら光を発する媒体と、紙やインクのように反射した光を見る媒体とでは、色の作られ方そのものが異なる。可視化を画面で見せるのか、印刷物で見せるのかが色の設計に影響することを押さえ、色を単なる装飾ではなく、人間の視覚系と表示媒体の両方に左右される情報表現として捉える。
②
色の三属性(色相・明度・彩度)
色を整理するための基本として、色の種類を表す色相、明るさを表す明度、鮮やかさを表す彩度という三つの属性を学ぶ。同じ「赤」でも、明度や彩度が違えば、目立ちやすさも受ける印象も変わる。三つを切り分けて考えると、「色を変える」という一つの操作のなかに、区別する・強調する・順序を示す、といった別々の情報表現が含まれていることが見えてくる。色相の違いは主にカテゴリを見分けるのに、明度の段階は順序や量を表すのに、彩度は強調に向いていることを、可視化の例で確かめる。ただし、三つの属性はそれぞれ独立に感じ取られるわけではなく、背景や周りの色との対比、面積の大きさによって印象が変わる。色を色名で覚えるのではなく、どの属性を動かせば読み手にどの情報を伝えられるか、という設計上の変数として理解する。
③
加法混色・減法混色
光を混ぜる加法混色と、インクや絵具といった色材を混ぜる減法混色の違いを学ぶ。加法混色では、赤・緑・青の光を適切な強度で重ねると白に近づき、これがディスプレイのRGB表現の基礎になっている。これに対して減法混色では、シアン・マゼンタ・イエローなどの色材がそれぞれ特定の波長を吸収するため、重ねるほど反射する光が減って暗くなる。この原理の違いから、画面表示と印刷物とで同じ色指定が必ずしも同じ見え方にならない理由が説明できる。プロジェクタ、ディスプレイ、プリンタでは、再現できる色の範囲も異なる。したがって、画面上できれいに見える配色が、印刷でも同じように機能するとは限らない。可視化をどの場面で使うのかによって、配色の効き方が変わることを理解する。
④
RGB・HEX・HSL/HSV・CIE系等のカラーシステム
色を再現・指定するための代表的なカラーシステムを整理する。RGBは光の三原色の強さで色を表し、HEXはそのRGB値を16進数で書き表した、Webやプログラミングでよく使われる表記である。HSL・HSVは、色相・彩度と、明度に関連するLightnessやValueを用いて、比較的直感的に色を指定できる体系である。一方、CIE XYZやLab・Luvなどは、色の測定や、人間が感じる色の差を扱うための基盤となる。これらはいずれも同じ「色」を別々の座標や数値で表すしくみであり、それぞれ得意とする用途が異なる。RGBやHEXは画面上の色指定に、HSL・HSVは色相や彩度の調整に、CIE Lab・LuvやHCLは、知覚的な色差や明るさの変化を考慮した色設計に利用される。ここで大切なのは、「色をどう表すかという体系」と「データにどう色を割り当てるかという設計」を混同しないことである。可視化では、出力する媒体や、色を操作する目的に応じて、これらを使い分ける。
キーワード
① 色相(Hue) ② 明度(Lightness) ③ 彩度(Saturation) ④ RGB・HEX(RGB / HEX) ⑤ カラーシステム(Color System)
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
【復習】授業で用いたQuarto Markdownの内容を読み返しながら、ブランクに用語やコードを入力し、必要なコードを最後まで実行して出力を確認する。分からない点は、書籍・Webサイト・ChatGPTなどで調べる。また、調べても分からないことは積極的に教員に質問する。なお、調べたことや学習内容の要点をQuarto Markdownに追記し、自分専用の教材として整備することで、復習に役立てることもできる。
【予習】シラバスの細目レベルの内容を確認する。さらに、各自の専用フォルダに事前に資料がアップロードされている場合には、それらに目を通し、理解が困難な箇所を事前に把握しておく。また、関連するキーワードをインターネットで検索するなどして、事前に知識を得たうえで授業に臨むことが望ましい。
8
色の活用
科目の中での位置付け
第7回では、色が見えるしくみと三つの属性、主要なカラーシステムを学び、色を物理的・体系的に扱う基礎を得た。第8回では、その知識をデータビジュアライゼーションの設計へと応用する。色相・明度・彩度が持つ視覚的な効果を踏まえ、順序を持たないカテゴリ、順序や連続する量、基準値からの増減、周期的なデータなど、変数の性質に応じてカラースキームを選ぶ。あわせて、強調・識別・順序づけのための色の使い方、色数が多すぎることや虹色スケールの問題、色覚多様性への配慮、色以外の属性も併せて使う冗長符号化について学ぶ。第一部で学んだ「変数から視覚的属性への写像」を、色という具体的な属性で実践する回とする。
コマ用オリジナル配布資料
(該当回のQuarto Markdownファイル)
*必要に応じてプリントを配付する。
コマ主題細目
① 色が持つ視覚的効果 ② 定性・連続・分岐・循環カラースキーム ③ 強調・識別・順序表現における色の使い方 ④ 色使いの作法と色覚多様性
細目レベル
①
色が持つ視覚的効果
色が持つさまざまなはたらきを整理する。色には、対象を区別する、順序を示す、量を強調する、注意を引く、図と地を分ける、といった多様な効果がある。色相の違いはカテゴリを見分けるのに、明度の段階は順序や量の変化を示すのに、彩度は強調などに利用できる。ただし、色は面積や周囲の色、表示する媒体、背景によって見え方が変わるため、ただ「目立つ色を使う」だけでは安定した表現にならない。同じ色でも、周囲とのコントラストや面積によって目立ち方は変わり、彩度の高い色は少し使うだけでも強く注意を引く。だからこそ、すべてを目立たせようとするのではなく、強調したい対象と、背景や補助的な情報の役割とを分けて色を配ることが大切になる。実例を見比べると、色は視線をうまく導く一方で、使いすぎると情報の階層を壊し、かえって読み取りを難しくすることが分かる。色を使う目的をはっきりさせ、どの変数のどの意味を色へ写像するのかを説明できるようにする。
②
定性・連続・分岐・循環カラースキーム
変数の意味に応じて色の組み合わせ(カラースキーム)を選ぶ考え方を学ぶ。順序を持たないカテゴリには、異なる色相を並べる定性的スキームが向く。低い方から高い方へ連続的に変わる量には、明度などがなめらかに変化する連続的スキームを使う。0や平均との差のように、意味のある中心から正負に分かれる量には分岐的スキームが、方位や時刻、季節のように両端がつながる量には循環的スキームが適する。これは、色を「好み」で選ぶのではなく、データの型と意味に対応させるという第2回の写像の原則を、色について具体化したものである。スキームの選び方を誤ると、本当はない順序や境界を、読み手に感じさせてしまうことがある。いくつかのデータ例について適切なスキームを選び、その理由を、変数の意味と尺度の水準にもとづいて説明できるようにする。
③
強調・識別・順序表現における色の使い方
色を情報伝達に生かすための実践的な方法を学ぶ。重要な系列だけを彩度の高い色で強調してほかを抑える、背景とデータのコントラストを整える、凡例と図中の色の順序をそろえる、といった工夫である。あわせて、避けたい使い方も具体例で確かめる。カテゴリが多すぎると色相だけでは見分けにくくなること、連続する量に虹色のような不規則なスケールを使うと、実際には存在しない境目が生まれてしまうこと、色の濃さと量の大小の対応がちぐはぐだと誤解を招くこと、などである。カテゴリが増えすぎる場合は、重要なものだけに絞る、直接ラベルを付ける、パネルを分ける(ファセット)といった代わりの方法も検討する。順序や量を示すときは、色相をやみくもに変えるより、明度の連続性を保つ方が読み取りやすい。凡例の並びを図中の順序と合わせるなど、色そのものだけでなく、ラベルや配置と組み合わせて認知の負担を下げることを学ぶ。目的しだいでは、色を減らすこともまた優れた設計である。
④
色使いの作法と色覚多様性
色の見え方には個人差があることを踏まえた、色使いの作法を学ぶ。特定の色の組み合わせを見分けにくい人もいるため、赤と緑など、識別しにくい場合のある色の組み合わせだけに依存した区別は避け、明度の差を十分に確保する、色覚多様性に配慮したパレットを使う、といった配慮が求められる。さらに、色だけに意味を持たせず、形や線の種類、ラベルなども併せて使う「冗長符号化」を実践する。色覚の特性には多様性があり、表示する環境や加齢によっても見え方は変わる。白黒印刷やプロジェクタなど、異なる環境でも情報が失われないかを、グレースケールにして確かめる習慣も身につける。こうしたアクセシビリティへの配慮は、特定の人だけのためのものではなく、暗い会場や小さな画面といった多様な条件のもとでも情報を確実に伝えるための、基本的な設計だと捉える。
キーワード
① カラースキーム(Color Scheme) ② 定性的・連続的・分岐的・循環的 ③ 強調 ④ 冗長符号化(Redundant Encoding) ⑤ 色覚多様性(Color Vision Diversity)
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
【復習】授業で用いたQuarto Markdownの内容を読み返しながら、ブランクに用語やコードを入力し、必要なコードを最後まで実行して出力を確認する。分からない点は、書籍・Webサイト・ChatGPTなどで調べる。また、調べても分からないことは積極的に教員に質問する。なお、調べたことや学習内容の要点をQuarto Markdownに追記し、自分専用の教材として整備することで、復習に役立てることもできる。
【予習】シラバスの細目レベルの内容を確認する。さらに、各自の専用フォルダに事前に資料がアップロードされている場合には、それらに目を通し、理解が困難な箇所を事前に把握しておく。また、関連するキーワードをインターネットで検索するなどして、事前に知識を得たうえで授業に臨むことが望ましい。
9
第一部の総復習
科目の中での位置付け
第1回から第8回にかけて、データビジュアライゼーションの目的に始まり、可視化の文法と実装思想、データ構造、座標・スケール、人間の視覚・認知、色のしくみと活用までを、順に学んできた。第9回は、それらを個別の知識としてではなく、一つの可視化を設計し評価するための、ひと続きのプロセスとして統合する「踊り場」の回である。データがどのように整えられ、変数が視覚的属性へ写像され、座標・スケール・色によって表現され、そして人間に知覚されるのか、という流れを一度に見渡して整理する。あわせて、不適切な可視化を診断し、その原因をデータ構造・文法・座標・認知・色の観点から特定して改善する演習を行い、第二部の目的別の可視化へと橋渡しする。
コマ用オリジナル配布資料
(該当回のQuarto Markdownファイル)
*必要に応じてプリントを配付する。
コマ主題細目
① データから視覚表現までの全体フロー ② データ構造・文法・座標・認知・色の統合 ③ 不適切な可視化の診断と改善
細目レベル
①
データから視覚表現までの全体フロー
第一部で学んだ内容を、一続きの流れとして組み立て直す。すなわち、目的を定め、データの種類と構造を把握し、必要な形へ整え、変数を視覚的属性へ写像し、幾何要素・尺度・座標を決め、色やレイアウトを調整し、最後に人間がそれを知覚・解釈する、という流れである。これらの段階は互いに独立しているのではなく、前の段階での判断が、後の段階の判断を方向づける。とりわけ、探索的可視化なら「何を見いだしたいのか」、説明的可視化なら「誰に何を伝えたいのか」という目的が、データ構造から色使いまで、すべての設計判断を方向づける。一つのデータセットを例に、最初から最後までの判断を順にたどり、各回で学んだ概念がどの段階に当たるのかを整理する。ここでは「目的を定める前にグラフを選ばない」「変数の意味を確かめてから写像する」という順序を重んじる。学生自身が各段階で何を判断したのかを言葉にし、第一部を、単発の知識の寄せ集めではなく、繰り返し使える設計の手順としてまとめる。
②
データ構造・文法・座標・認知・色の統合
一つの図を取り上げ、複数の観点から総合的に読み解く。元データの変数や尺度の水準、wide/longの構造、写像、幾何要素、座標系、スケール、色、ゲシュタルト原則、知覚の精度、といった観点である。たとえば、色分けされた複数の群を含む散布図を題材に、なぜlong形式が扱いやすいのか、どの変数が色へ写像されているのか、軸の範囲は適切か、色数は多すぎないか、凡例が認知の負担を増やしていないか、などを検討する。同じ元データから複数の図を作り、それぞれの違いが、データ構造・写像・座標・尺度・色・認知上の工夫のどれに当たるのかを分類してみるのもよい。個々の選択は独立ではなく、系列の違いが変数として明示されたlong形式では色への写像がしやすくなる、座標を変えると角度の知覚が重要になる、というように互いに影響し合う。第一部の用語が一枚の図のなかでどうつながるかを説明できることを到達点とし、第二部の、目的別の手法選択へとつなげる。
③
不適切な可視化の診断と改善
問題のある図を診断し、改善する練習を行う。軸を恣意的に切った棒グラフ、カテゴリに不向きな連続色を使った図、色だけで見分けさせる図、過度に飾り立てた図、データ構造と写像が合っていない図などを例にとる。ここで目指すのは、「見にくい」と感覚で片づけるのではなく、問題のありかを具体的な言葉で指摘することである。「棒の長さと数値が比例していない」「順序を持つ変数なのに、順序を表さない色相のみを使っている」というように、これまで学んだ概念を使って理由を挙げ、どう直せばよいかを説明する。さらに、元データや可視化の目的は変えずに改善案を考え、その改善によって何が読み取りやすくなるのかを述べる。こうした診断と改善の練習を、第10回以降で各手法の長所と制約を比べていくための準備とする。
キーワード
① 統合 ② 可視化設計 ③ 診断 ④ 改善 ⑤ 全体フロー
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
【復習】授業で用いたQuarto Markdownの内容を読み返しながら、ブランクに用語やコードを入力し、必要なコードを最後まで実行して出力を確認する。分からない点は、書籍・Webサイト・ChatGPTなどで調べる。また、調べても分からないことは積極的に教員に質問する。なお、調べたことや学習内容の要点をQuarto Markdownに追記し、自分専用の教材として整備することで、復習に役立てることもできる。
【予習】シラバスの細目レベルの内容を確認する。さらに、各自の専用フォルダに事前に資料がアップロードされている場合には、それらに目を通し、理解が困難な箇所を事前に把握しておく。また、関連するキーワードをインターネットで検索するなどして、事前に知識を得たうえで授業に臨むことが望ましい。
10
量や内訳を可視化する
科目の中での位置付け
第二部では、第一部で学んだデータ構造、可視化の文法、座標、視覚・認知、色を土台として、「何を見せたいか」に応じた可視化手法の選び方を学ぶ。第10回で扱うのは、最も基本的な目的である「量を比較する」ことと「全体と部分の関係を示す」ことである。棒グラフ、点グラフ、並び棒、積み上げ棒、パイチャートなどを、図の名前として覚えるのではなく、長さ・位置・角度といった視覚属性、共通の基準線、カテゴリの数、絶対量と構成比の違いといった観点から比べる。プロポーショナルインクの原則や、並び順、棒グラフにおけるゼロ基準といった作法も確かめ、データと目的から適切な表現を選ぶ力を養う。
コマ用オリジナル配布資料
(該当回のQuarto Markdownファイル)
*必要に応じてプリントを配付する。
コマ主題細目
① 量を比較する ② 全体と部分(内訳)を表す ③ 棒・点・積み上げ・パイ等の使い分け ④ プロポーショナルインクと比較の作法
細目レベル
①
量を比較する
カテゴリごとの数量や値の大小を比べる代表的な方法として、棒グラフと点グラフを扱う。棒グラフは長さを量に対応させるため直感的で、原則としてすべての棒が同じ基準点(ゼロ)を共有することが重要になる。一方、量の差が小さく、ゼロから始めると差が読み取りにくい場合には、長さではなく、共通のものさし上の位置で比べる点グラフが有効なことがある。カテゴリを意味のある順序や値の大小で並べること、ラベルの長さに応じて縦棒と横棒を使い分けることなど、比較をしやすくする工夫も学ぶ。並び順を五十音順にするか値の順にするかでも読み取りやすさは変わるため、順序も設計の要素として扱う。棒グラフでは長さが量を表すのでゼロを基準にするのが原則である一方、点グラフでは位置を比べるため軸の範囲を絞れるなど、幾何要素の違いによって守るべき作法が変わることを理解する。
②
全体と部分(内訳)を表す
「内訳」を、意味のある総量に対して各カテゴリがどれだけを占めるかを示すもの、として捉える。パイチャート、積み上げ棒グラフ、100%積み上げ棒グラフなどを見比べ、全体量を保ったまま構成比を示す場合と、構成比だけを比べる場合との違いを理解する。内訳を扱う前提として、各部分が互いに重ならず、それらを合わせたものが意味のある全体を構成しているかを確かめる必要がある。割合だけを見せたいのか、全体量の違いも同時に見せたいのかによって、適した図は異なる。カテゴリが多くなると、角度や積み上げた部分の比較は難しくなる。複数の群の内訳を比べる場合は、共通の基準線を持つ表現の方が読み取りやすい。こうした点を、第6回で学んだ知覚の精度、すなわち角度や面積より共通基準線上の位置の方が正確に比べられる、という理解と結びつけて考える。内訳ではないデータを無理に割合へ直さないことも、大切な作法として扱う。
③
棒・点・積み上げ・パイ等の使い分け
量や内訳を表す各手法を、目的に応じて使い分ける練習を行う。同じデータでも、「最大のカテゴリを知りたい」「AとBの差を正確に比べたい」「全体に占める割合を直感的に示したい」「複数年で構成比の変化を見たい」など、答えたい問いによって適した表現は変わる。そこで、読み手に答えてほしい問いを先に決めてから、棒・点・並び棒・積み上げ棒・パイなどの候補を並べて選ぶ、という進め方をとる。選ぶ根拠となるのは、比較の基準線、カテゴリの数、合計に意味があるか、時間変化を見るか、ラベルの量はどれくらいか、といった観点である。見慣れているからという理由だけでパイチャートや棒グラフを選ぶのではなく、これらの根拠にもとづいて手法を選べるようにする。モザイク図やツリーマップといった発展的な内訳表現も、どんな場面で有効かを紹介するが、手法をカタログのように覚えることよりも、選択の原理を理解することを重視する。
④
プロポーショナルインクと比較の作法
プロポーショナルインクという考え方を学ぶ。これは、面積や長さなど、データを表すために使う「インク」の量は、原則としてその数値に比例すべきだ、という原則である。棒グラフの軸をゼロ以外から始める、3D効果で面積や体積を大げさに見せる、といった表現が、実際の差以上の印象を与えてしまうことを、具体例で確かめる。棒グラフでゼロを基準としない軸、奥行きを誇張する3D棒グラフ、数値と面積が比例していない表現などを、典型的な問題例として診断する。ただし、この原則を機械的に当てはめてはならない。散布図や点グラフのように位置が値を表す図では、必ずしもゼロから始める必要はない。だからこそ、「どの視覚的属性が量を担っているか」を見極めて判断することが大切になる。正確さと差の見やすさをどう両立させるかを考え、必要であれば注釈や基準線を添えて、誤解を避けながら伝えたい差を明確にする方法を学ぶ。
キーワード
① 内訳 ② 棒グラフ(Bar Chart) ③ 積み上げ棒グラフ(Stacked Bar Chart) ④ パイチャート(Pie Chart) ⑤ プロポーショナルインク(Proportional Ink)
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
【復習】授業で用いたQuarto Markdownの内容を読み返しながら、ブランクに用語やコードを入力し、必要なコードを最後まで実行して出力を確認する。分からない点は、書籍・Webサイト・ChatGPTなどで調べる。また、調べても分からないことは積極的に教員に質問する。なお、調べたことや学習内容の要点をQuarto Markdownに追記し、自分専用の教材として整備することで、復習に役立てることもできる。
【予習】シラバスの細目レベルの内容を確認する。さらに、各自の専用フォルダに事前に資料がアップロードされている場合には、それらに目を通し、理解が困難な箇所を事前に把握しておく。また、関連するキーワードをインターネットで検索するなどして、事前に知識を得たうえで授業に臨むことが望ましい。
11
分布を可視化する
科目の中での位置付け
第10回では、カテゴリ間の量や、全体と部分の関係を比べた。第11回では、一つの変数がどの値のあたりに多く集まり、どの程度広がり、どのように偏り、外れ値を持つか、という「分布」を可視化する。確率密度関数(PDF)の基本的な考え方を確認したうえで、ヒストグラム、密度プロット、箱ひげ図、CDF・eCDFなどを、データの分布をさまざまな観点から捉える方法として比べる。ビン幅やバンド幅といった設定によって見え方が変わること、中心や広がりの数値要約だけでは分からない特徴があることを理解し、目的に応じて分布の表現を選べるようにする。分布を捉える力は、第12回で散布図の点の集まりを解釈する際にも、重要な基礎になる。
コマ用オリジナル配布資料
(該当回のQuarto Markdownファイル)
*必要に応じてプリントを配付する。
コマ主題細目
① 分布と確率密度関数 ② ヒストグラムと密度プロット ③ 箱ひげ図等による分布の要約 ④ CDF・eCDF ⑤ その他の分布可視化手法
細目レベル
①
分布と確率密度関数
統計学でいう分布を、変数がどの値をどのくらい取りやすいか、つまり、中心・広がり・偏り・山の数・裾・外れ値といった特徴の全体として捉える。連続的な変数では、値がどのあたりに現れやすいかを表す考え方として、確率密度関数(Probability Density Function: PDF)がある。確率密度関数では、曲線の高さそのものが確率なのではなく、ある区間に対応する曲線下の面積が、その区間に値が入る確率を表す。ここで注意したいのは、平均や標準偏差が同じでも、分布の形はまるで違うことがある、という点である。だからこそ、要約統計量と可視化は併せて使う必要がある。このことを、要約統計量が似ていても分布の形が異なる複数のデータ例を通して確かめる。平均・中央値・最頻値、標準偏差、四分位範囲、パーセンタイルといった基本的な指標が、図から見える特徴とどう対応するのかも整理する。分布を可視化することは、「典型的な値はいくつか」だけでなく、「どのくらいばらつくか」「どんな形か」「極端な値はあるか」を同時に考えるための手段である。この中心・広がり・形という観点を、以降の各手法に共通する読み取りの軸として用いる。
②
ヒストグラムと密度プロット
ヒストグラムと密度プロットを扱う。ヒストグラムは、数値をいくつかの区間(ビン)に分け、各区間の頻度や密度を棒の高さで表すので、分布を直感的につかみやすい。ただし、ビンの幅や区切りの開始位置によって見え方が変わる。密度プロットは、観測されたデータから確率密度を推定し、分布の形をなめらかな曲線として表す方法である。代表的な方法としてカーネル密度推定があり、描かれた密度曲線は母集団の確率密度関数そのものではなく、手元の標本データから推定したものである。複数の群を重ねて比べるのにも向くが、バンド幅の取り方しだいで、細かな凹凸が強調されたり、逆にならされたりする。同じデータでビン幅や境界、バンド幅を変えて、山の数やなめらかさがどう変わるかを見比べる。これらの設定には「唯一の正解」があるわけではなく、細かすぎればノイズを拾い、粗すぎれば大事な構造を見落とす。複数の設定を試し、結論が特定の設定だけに依存していないかを確かめる習慣を身につける。あわせて、縦軸が頻度なのか密度なのかを区別し、密度曲線では高さそのものではなく、曲線下の面積が確率に対応することも理解する。
③
箱ひげ図等による分布の要約
箱ひげ図を、中央値、四分位範囲、外れ値候補などをコンパクトにまとめて示す可視化として学ぶ。複数のグループを並べて比べやすい反面、分布の山の数や細かな形までは分からない。そこで、密度プロットやバイオリンプロット、ジッターを付けた点などと組み合わせると有効なことがある。箱の範囲やひげが何を表すのかを正しく理解し、箱ひげ図は分布そのものではなく、分布を統計量へ要約した表現である、という点を押さえる。箱ひげの定義や外れ値候補を示す代表的な規則を確認し、「外れ値として描かれた点は必ずしも誤ったデータではない」ことも理解する。複数の群を同じ尺度で並べれば、中心・広がり・外れ値を手際よく比べられる。その長所を生かしつつ、要約によって山の数や形の情報が失われることにも注意し、目的に応じて、要約のしやすさと形の情報のどちらを重んじるかを判断する。
④
CDF・eCDF
累積分布関数(Cumulative Distribution Function: CDF)と、その経験版である経験的累積分布関数(empirical CDF: eCDF)を学ぶ。CDFは「ある値以下となる確率」を表す関数である。連続的な分布では、確率密度関数(PDF)が「どの値の周辺にどの程度の密度があるか」を表すのに対し、CDFはその密度を小さい値から累積して表したものと捉えることができる。実際のデータから作るeCDFでは、横軸のある値に対して「その値以下の観測が全体の何割か」を、そのまま読み取れる。eCDFはビン幅やバンド幅を決める必要がなく、中央値や90パーセンタイルといった任意の分位点を読み取りやすいという利点がある。「この値以下が何%か」「上位10%の境目はどこか」といった問いにも直接答えられる。複数の群のeCDFを重ねれば、同じ割合のところでの値や、同じ値のところでの割合を比べられ、どの値域で分布が違うのかが分かる。グラフが急に立ち上がる部分では観測が集中し、平らな部分では観測が少ない、という読み方も押さえる。こうして、確率密度、ヒストグラム、密度プロットとは異なる角度から同じ分布を見る方法を身につける。
⑤
その他の分布可視化手法
分布を見るためのそのほかの手法を紹介する。理論分布と比べるQ–Qプロット、密度と要約統計量を組み合わせるバイオリンプロット、点をそのまま並べるストリップ・ジッタープロットなどである。Q–Qプロットでは、標本の分位点と理論分布の分位点を比べ、点が直線からどうずれるかによって、歪みや裾の違いを診断できる。このほか、複数の分布を少しずつ重ねて並べるリッジラインなども取り上げる。ここでねらうのは、すべての手法を同じ深さで覚えることではない。「何を知りたいのか」に応じて、形を詳しく見るのか、要約するのか、分位点で見るのか、理論分布と照らし合わせるのか、という選び方の基準を理解することである。高度な手法の名前を覚えること以上に、分布について何を知りたいかから表現を選ぶ、という考え方を大切にする。
キーワード
① 分布(Distribution) ② 確率密度関数(Probability Density Function: PDF) ③ 累積分布関数(Cumulative Distribution Function: CDF) ④ 箱ひげ図(Box Plot) ⑤ 密度プロット(Density Plot)
コマの展開方法
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該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
【復習】授業で用いたQuarto Markdownの内容を読み返しながら、ブランクに用語やコードを入力し、必要なコードを最後まで実行して出力を確認する。分からない点は、書籍・Webサイト・ChatGPTなどで調べる。また、調べても分からないことは積極的に教員に質問する。なお、調べたことや学習内容の要点をQuarto Markdownに追記し、自分専用の教材として整備することで、復習に役立てることもできる。
【予習】シラバスの細目レベルの内容を確認する。さらに、各自の専用フォルダに事前に資料がアップロードされている場合には、それらに目を通し、理解が困難な箇所を事前に把握しておく。また、関連するキーワードをインターネットで検索するなどして、事前に知識を得たうえで授業に臨むことが望ましい。
12
関係性を可視化する
科目の中での位置付け
第11回では、一つの変数の分布を、中心・広がり・偏り・外れ値などから捉えた。第12回では、二つ以上の変数がどのように関係し合うかを可視化する。基本となる散布図を出発点に、相関係数とコレログラム、散布図行列、色や大きさを使った多変量の表現、そして対応のあるデータの可視化を扱う。同時に、相関係数だけでは外れ値や非線形の関係を捉えられないこと、相関と因果を混同してはならないこと、変数を増やしすぎると知覚の負担が高まることも学ぶ。第一部で学んだ写像・知覚精度・色の知識を用い、探索的可視化として関係や例外を見いだす場面と、説明的可視化として得られた関係を他者に伝える場面の、両方から適切に設計し解釈する力を養う。
コマ用オリジナル配布資料
(該当回のQuarto Markdownファイル)
*必要に応じてプリントを配付する。
コマ主題細目
① 散布図による関係性の可視化 ② 相関とコレログラム ③ 複数変数の関係 ④ 対応のあるデータの可視化 ⑤ 関係性の解釈上の注意
細目レベル
①
散布図による関係性の可視化
散布図を、二つの量的変数を横方向と縦方向の位置へ写像し、観測を点として並べる、関係性の可視化の基本として学ぶ。点の集まりが示す向き、広がり、曲がり、群れの分かれ方、外れ値などから、正の関係か負の関係か、直線的か曲線的か、性質の異なるグループがあるか、といったことを目で捉えられる。値の重複や丸めなどによって点が重なって見えにくいときは、透明度や必要に応じてジッターを使うこと、軸の範囲や縦横比によって関係の印象が変わることも確かめる。ここで大切なのは、二変数の関係を一本の相関係数へまとめてしまう前に、まず散布図を見る、ということである。傾きだけでなく、直線的か曲線的か、ばらつきが一定か、群が分かれていないか、外れ値はないか、といった複数の特徴を読み取る姿勢を、アンスコムの四重奏のような例と結びつけて理解する。
②
相関とコレログラム
Pearsonの相関係数を、二つの変数の線形な関係の向きと強さを一つの数にまとめた指標として理解し、−1から1までの値が何を意味するかを確かめる。変数が3つ以上あるときは、相関行列を色や大きさ、形で表すコレログラムを使うと、変数全体の関係の構造を一望できる。ただし、コレログラムは多くの変数対を一度に見渡せる反面、もとの散布図にあった外れ値や非線形の関係は見えにくくなる、という制約がある。相関係数やコレログラムだけに頼ると、非線形の関係、外れ値の影響、性質の異なるグループの混在などを見落としかねない。そこで、相関係数と散布図を補い合うように使い、数量的な要約と、目で見る診断とを行き来する。コレログラムは相関の強い組み合わせを探す入口として使い、気になった関係は個別の散布図に戻って確かめる、という手順を学ぶ。色や大きさ、楕円の形で相関を表す方法は、第8回で学んだ色の使い方とも結びつけて考える。
③
複数変数の関係
三つ以上の変数の関係を可視化する方法を学ぶ。散布図に色や点の面積を加えるバブルチャート、複数の変数どうしの散布図を一覧にする散布図行列などである。ただし、変数を足せば足すほど情報が増えて分かりやすくなる、というわけではない。面積による量の比較の知覚精度、点の重なり、色数の増加、凡例の複雑化などによって、かえって読み解きにくくなる。一枚の図に視覚的属性を足すほど表せる変数は増えるが、読み手が同時に正確に比べられる情報量には限りがある。バブルの面積・色・位置を同時に読み取る負担を実際に体験し、散布図行列やファセットへ分ける代わりの案と比べてみる。多変量の可視化では、「できるだけ多く詰め込む」ことではなく、問いに必要な変数を選び、重要な関係が埋もれないように表現を設計することが大切になる。ここでも、第一部で学んだ視覚的属性の知覚精度と色の作法を用いて、「一枚に詰め込む」か「複数のパネルに分ける」かを、目的に応じて選ぶ。
④
対応のあるデータの可視化
同じ対象を異なる条件や時点で測った「対応のあるデータ」の可視化を扱う。この種のデータでは、集団をならしてしまうのではなく、一つひとつの対象の変化や差を保ったまま表す必要がある。二つの時点の値をx軸とy軸に置いて対角線と比べる散布図や、各対象の前後の値を線で結ぶスロープグラフなどを用いる。対角線を添えた散布図では、二つの条件の値を対象ごとに比べ、対角線からのずれとして系統的な差を捉えられる。スロープグラフでは、各対象の変化の向きと大きさを線の傾きとして表せるが、対象の数が多いと線が入り組んで読みにくくなる。平均値だけを比べると、個体差や変化の方向が失われてしまうことを確かめ、「対応がある」というデータの構造を可視化の設計に反映させる。独立した二つの群として扱う可視化との違い、そして第13回の時系列可視化とのつながりも意識する。
⑤
関係性の解釈上の注意
可視化された関係を読みすぎないための注意点を整理する。相関は因果を意味しないこと、たった一つの外れ値で相関が大きく変わりうること、非線形の関係ではPearsonの相関係数が小さくても明確な関係が存在しうること、第三の変数によって見かけ上の関係が生じうること、などを具体例で確かめる。共通の第三の変数による交絡、範囲の制限、外れ値、非線形性などによって、相関の見え方や値は変わる。また、標本の大きさは、相関係数の推定の安定性や不確かさに影響する。二つの変数が同時に動いていても、一方が他方の原因だとは限らない。さらに、軸の範囲や点の重なりといった可視化上の選び方が、関係を実際より強く見せることもある。図から言えることと言えないことを区別し、探索的可視化で得た「関連がありそうだ」という判断と、因果の主張とを混同しない姿勢を養う。可視化は「答えを証明する図」ではなく、関係や例外を見つけ出し、追加の分析や仮説づくりへつなげるための道具である、という理解を持つ。
キーワード
① 散布図(Scatter Plot) ② 相関係数(Pearson Correlation Coefficient) ③ コレログラム(Correlogram) ④ 散布図行列(Scatterplot Matrix) ⑤ 対応のあるデータ(Paired Data)
コマの展開方法
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その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
【復習】授業で用いたQuarto Markdownの内容を読み返しながら、ブランクに用語やコードを入力し、必要なコードを最後まで実行して出力を確認する。分からない点は、書籍・Webサイト・ChatGPTなどで調べる。また、調べても分からないことは積極的に教員に質問する。なお、調べたことや学習内容の要点をQuarto Markdownに追記し、自分専用の教材として整備することで、復習に役立てることもできる。
【予習】シラバスの細目レベルの内容を確認する。さらに、各自の専用フォルダに事前に資料がアップロードされている場合には、それらに目を通し、理解が困難な箇所を事前に把握しておく。また、関連するキーワードをインターネットで検索するなどして、事前に知識を得たうえで授業に臨むことが望ましい。
13
変化を可視化する(時系列・トレンド)
科目の中での位置付け
第12回までに、量・分布・関係性という、データの静的な特徴を可視化してきた。第13回では、時間や順序に沿った「変化」を扱う。時系列データは、観測の順序を入れ替えられず、前後の値が関連し合い、トレンド・季節性・周期性・不規則変動といった構造を持つ点で、一般的なデータとは異なる。基本となる折れ線グラフと複数系列の表現、短期の変動をならして長期の傾向を示す平滑化、そして時系列をトレンド・季節性・周期性・残差などの成分に分けて捉える考え方を学ぶ。線や面を使うときの知覚上の意味、直接ラベルや色の使い方など、第一部で学んだ認知・色の知識も統合しながら、時間的な構造を誤解なく伝える方法を身につける。
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コマ主題細目
① 時系列データの特性 ② 折れ線グラフと複数系列 ③ 平滑化とトレンド ④ 時系列データの要素分解
細目レベル
①
時系列データの特性
時系列データを、明確な時刻情報を持ち、時間の順に並び、同じ指標を継続して観測した系列として捉える。時系列には、観測の順序に意味があって並べ替えられないこと、近い時点の値どうしが関連する「時間的な依存性」を持つこと、そして長期的なトレンド、季節性や周期性、不規則変動といった複数の成分が重なっていること、という特徴がある。時刻情報を持つデータであっても、必ずしも単純に折れ線で結べばよいとは限らない。欠測した時点、不等間隔の観測、集計単位の違いなどに注意する必要がある。並べ替えると意味が失われ、近い時点どうしが独立でないことが多い、というのが時系列の性質である。さらに、時間軸の粒度を日・月・年のどこに取るかによっても見えるパターンが変わるため、データが生まれる頻度と分析の目的に応じて、時間の単位を選ぶ必要があることを理解する。
②
折れ線グラフと複数系列
折れ線グラフを、時間を横軸に取り、観測点を時間順に線で結ぶ、最も基本的な時系列可視化として学ぶ。ここで意識したいのは、点は実際の観測値を表し、線は観測点間の順序や連続性を視覚的に示すための補助である、ということである。したがって、観測の間隔が粗いときは、線があたかも未観測の値を確定的に示しているように見えないよう注意する。点がまばらなら点と線を、密なら線だけを使うなど、データの密度と目的に応じて表現を選ぶ。複数の系列を描くときは、色や線の種類を使い分け、できれば凡例ではなく線のそばへ直接ラベルを置くことで、各系列を追跡しやすくする。系列どうしが交差して読みにくい場合の工夫や、凡例と図とを視線で往復する負担を減らす設計も検討し、第6回から第8回で学んだ認知と色の知識を応用する。
③
平滑化とトレンド
短期的な揺らぎのなかから長期的な傾向を見いだすために、移動平均やLOESSといった平滑化を扱う。移動平均は、窓の幅を大きくするほどなめらかになる一方で、細かな変化は失われる。LOESSなども設定しだいで見えるトレンドが変わる。ここで大切なのは、平滑化した線を、客観的な「真のトレンド」と思い込まないことである。窓の幅や平滑化のパラメータを変えればトレンドの形も変わるので、もとのデータと平滑化した線を併せて示し、どの程度の短期変動を取り除き、どれだけの変動を残したのかを説明する。移動平均とLOESSなどの違いは、計算式を覚えることではなく、局所的な変動をならして大きな傾向を見せるという目的、端の点の扱い、解釈のしやすさ、といった観点から比べる。あわせて、対数スケールなどによって比率的な変化や指数的な増加を捉えやすくする考え方を、第5回と関連づける
。
④
時系列データの要素分解
観測された時系列を、長期的なトレンド、季節性・周期性の成分、そして残差・不規則な成分に分けて考える。STL分解などを例に、一本の線としては重なって見える複数の構造を分離することで、長期的な変化、繰り返されるパターン、異常な変動を捉えやすくなることを学ぶ。トレンド成分を取り除いて残差や周期的な変動を捉えやすくする「デトレンド」の考え方にも触れる。観測された系列が一本の線に見えていても、その背景には、異なる時間スケールの構造が重なっている。残差は必ずしも「意味のないノイズ」ではなく、異常や外的なショックを検討する手掛かりにもなる。ただし、分解の結果はモデルや設定に依存するため、各成分を確定した真実のように扱わず、もとの系列と照らし合わせながら解釈する姿勢を身につける。
キーワード
① 時系列(Time Series) ② 折れ線グラフ(Line Chart) ③ 平滑化(Smoothing) ④ トレンド(Trend) ⑤ 時系列分解(Time Series Decomposition)
コマの展開方法
社会人講師
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その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
【復習】授業で用いたQuarto Markdownの内容を読み返しながら、ブランクに用語やコードを入力し、必要なコードを最後まで実行して出力を確認する。分からない点は、書籍・Webサイト・ChatGPTなどで調べる。また、調べても分からないことは積極的に教員に質問する。なお、調べたことや学習内容の要点をQuarto Markdownに追記し、自分専用の教材として整備することで、復習に役立てることもできる。
【予習】シラバスの細目レベルの内容を確認する。さらに、各自の専用フォルダに事前に資料がアップロードされている場合には、それらに目を通し、理解が困難な箇所を事前に把握しておく。また、関連するキーワードをインターネットで検索するなどして、事前に知識を得たうえで授業に臨むことが望ましい。
14
空間を可視化する(位置情報)
科目の中での位置付け
第13回では、時間という順序を持つ変数に沿った変化を可視化した。第14回では、地理的な位置や空間参照を持つデータを扱う。空間データは、ふつうの表形式のデータに加えて、「どこにあるか」という位置情報と、点・線・面といった幾何情報、そして座標参照系を持つことが特徴である。地理座標と投影座標、地図投影による歪み、ベクタ・ラスタといったデータ形式、地図のレイヤー構造、コロプレスマップなどの主題図を学ぶ。第5回の座標・スケール、第8回のカラースキームを地理空間へと広げ、面積・形状・距離・色の扱いによって誤解が生じうることを理解する。地図を単なる背景として使うのではなく、空間というデータ構造を可視化するための方法として捉える。
コマ用オリジナル配布資料
(該当回のQuarto Markdownファイル)
*必要に応じてプリントを配付する。
コマ主題細目
① 空間データの種類と特性 ② 座標参照系・地図投影 ③ レイヤー構造と地理空間データ ④ 主題図による空間可視化 ⑤ その他の空間可視化手法
細目レベル
①
空間データの種類と特性
地理空間データを、属性の情報に加えて、位置と形状を持つデータとして理解する。ベクタデータでは、地点を点(ポイント)、道路や河川を線(ライン)、行政区域や土地利用を面(ポリゴン)として表す。ラスタデータでは、標高・気温・衛星画像などを格子状のセルとして表す。地理空間データでは、位置関係や近さ、領域の広さそのものが意味を持つため、ふつうの表形式のデータとは違った注意が必要になる。距離、隣接、面積といった空間的な関係が、そのまま情報になるのであり、それらを適切に扱うためには座標参照系を意識する必要がある。属性の表だけを見ても分からないパターンが地図の上では現れる一方で、地図の形や面積が視覚的な印象を強く左右することも理解する。そのうえで、位置の情報と属性の情報をそれぞれどの視覚的属性へ写像するのか、という観点から、第一部の文法とつなげて考える。
②
座標参照系・地図投影
地球上の位置を緯度・経度で表す地理座標系と、地球表面を平面に投影してx・y座標で表す投影座標系とを区別し、位置をどの基準と座標系で表すかを規定する座標参照系(CRS)の役割を学ぶ。座標参照系には、どの楕円体や測地系を基準とし、どの単位・軸で位置を表すか、といった情報が含まれる。異なる座標参照系のデータをうっかり重ねると位置がずれてしまうことを確かめ、GISでは座標の値だけでなくCRSの情報が欠かせないことを理解する。曲面である地球を平面へ写す地図投影では、面積・角度・距離・形状のすべてを同時に完全には保てない。メルカトル図法のような正角図法、正積図法などの特徴を例に、「唯一の正しい地図」があるのではなく、何を保つかによって適切な投影が変わることを学ぶ。目的に応じて投影を選ぶ、という視点を身につける。
③
レイヤー構造と地理空間データ
地図上の可視化の基本となるレイヤー構造を学ぶ。背景地図、標高、道路、行政界、観測地点、ラベルなど、複数の情報を層として重ねていく。GISや可視化ツールでは、それぞれのレイヤーが異なるデータ形式・属性・座標参照系を持つことがあるため、位置を正しく合わせ、必要な情報だけを重ねることが大切になる。レイヤーを増やせば情報量は増えるが、背景地図が濃すぎたり境界線が多すぎたりすると、肝心の主題データが埋もれてしまう。背景と主題、参照のための情報と注目させたい情報、という階層を意識し、必要なレイヤーだけを残すように設計する。ポイント・ライン・ポリゴンのそれぞれに、色・大きさ・線の幅といった属性を割り当てる際には、第2回の写像と第8回の色の原則を当てはめ、地理的な文脈を保ちながらデータを際立たせる。
④
主題図による空間可視化
地域ごとの値を色で表すコロプレスマップを中心に、空間的な量を表す主題図を学ぶ。ここでまず注意したいのは、人口などの絶対数をそのまま色にすると、地域の規模そのものの影響を強く受け、地域間の強度や割合を適切に比較できない場合があるという点である。また、面積の大きな地域は地図上でも視覚的な占有面積が大きいため、その影響にも注意する必要がある。そこで、人口密度や割合のように、地域の規模で標準化した値を用いる方が適する場合が多い。連続的な色にするか、段階に区切った色にするか、その分類の区切りをどこに置くかによっても、地図の印象は変わる。分類方法や区切り方によって見え方が変わることを理解し、その根拠を明確にすることが重要である。ここでは、第8回で学んだ連続・分岐のカラースキームを当てはめ、色と地理的な形の両方が読み手の判断に影響することを理解する。あわせて、比例シンボル図といった代わりの手法とも比べ、「地域ごとの強さを見たいのか、総量を見たいのか」に応じて選べるようにする。
⑤
その他の空間可視化手法
空間を表すそのほかの手法を紹介する。領域の形を量に応じて変形するカルトグラム、同じ大きさのマスに置き換えるグリッド型の表現、地理的な位置に小さなグラフを並べるスモールマルチプル、標高や建物の高さを扱う3D表現、都市や環境をデジタル空間に再現するデジタルツインなどである。これらの発展的な手法は印象的である一方、地理的な形の歪み、重なり、視点への依存などによって、正確な比較が難しくなることもある。カルトグラムは量を強調する代わりに地理的な形を歪め、グリッド型は地域どうしの比較をしやすくする代わりに実際の地理的な形状や位置関係の正確さを失う、というように、それぞれに引き換えとなる条件がある。3Dの都市モデルやデジタルツインは、高さや立体の構造を直感的に示せる反面、視点や物陰による読み取りの偏りにも注意が必要である。新しい技術を「高度だからよい」と評価するのではなく、目的に対する利点と、そこで失われる情報とを比べる姿勢を持つ。
キーワード
① 空間データ(Spatial Data) ② 座標参照系(Coordinate Reference System, CRS) ③ 地図投影(Map Projection) ④ レイヤー構造(Layer Structure) ⑤ 主題図(Thematic Map)
コマの展開方法
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コマ用プリント配布資料
その他
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「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
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【復習】授業で用いたQuarto Markdownの内容を読み返しながら、ブランクに用語やコードを入力し、必要なコードを最後まで実行して出力を確認する。分からない点は、書籍・Webサイト・ChatGPTなどで調べる。また、調べても分からないことは積極的に教員に質問する。なお、調べたことや学習内容の要点をQuarto Markdownに追記し、自分専用の教材として整備することで、復習に役立てることもできる。
【予習】シラバスの細目レベルの内容を確認する。さらに、各自の専用フォルダに事前に資料がアップロードされている場合には、それらに目を通し、理解が困難な箇所を事前に把握しておく。また、関連するキーワードをインターネットで検索するなどして、事前に知識を得たうえで授業に臨むことが望ましい。
15
可視化におけるTips/総復習
科目の中での位置付け
第15回は、第一部で学んだ可視化の基礎理論と、第二部で学んだ量・内訳・分布・関係性・変化・空間の各手法とを統合し、実際の図を「仕上げ、診断し、改善する」ための最終回である。タイトル、ラベル、凡例、注釈、直接ラベル、冗長符号化、アクセシビリティといった実践的な作法を整理し、見栄えだけでなく、誤解を防ぐ設計を考える。また、不確かさの可視化について、推定値や予測値を確定した値のように見せないこと、エラーバーや信頼区間の意味を明示することといった要点を、誠実な情報提示という観点から整理する。さらに、同じデータであっても、探索的可視化では多様な特徴を確かめられること、説明的可視化では伝える内容を整理して強調することが大切であり、目的によって図の仕上げ方が変わりうることを確認する。最後に全15回を振り返り、与えられたデータと目的から可視化を選び、組み立て、説明するという、履修判定指標へとつなげる。
コマ用オリジナル配布資料
(該当回のQuarto Markdownファイル)
*必要に応じてプリントを配付する。
コマ主題細目
① ラベル・凡例・注釈等の作法 ② 冗長符号化・視認性・アクセシビリティ ③ 誤解を招く表現と不確かさの扱い ④ 可視化の診断・改善 ⑤ 全15回の総復習
細目レベル
①
ラベル・凡例・注釈等の作法
タイトル、軸ラベル、単位、凡例、注釈、キャプションなどを、情報を補うだけの「周辺の飾り」ではなく、図の意味を正確に伝えるための構成要素として整理する。目指すのは、読み手が図だけを見ても、対象、単位、期間、カテゴリ、データの出典などを必要な範囲で理解できる状態である。凡例を使う場合は、その並びを図中の系列の順序と合わせ、できれば線や点へ直接ラベルを付けて、視線の往復を減らす。注釈は、重要な変化や外れ値の意味を補うために使い、データそのものを覆い隠すほど増やさない。十分な文字サイズを確保することも大切である。論文、プレゼン、Webといった媒体に応じて文字サイズや情報量を調整し、不要な装飾は削りつつ、必要な説明は削らない、というバランスを整える。
②
冗長符号化・視認性・アクセシビリティ
アクセシブルな可視化の基本を整理する。同じ情報を色だけでなく形・線の種類・ラベルでも表す冗長符号化、十分なコントラスト、色覚多様性への配慮、印刷や投影、小さな画面でも読める文字サイズ、などである。冗長符号化とは、「同じ情報を無駄に重ねる」ことではなく、一つの視覚的属性が使えない状況でも情報が残るよう、識別を確実にするための設計である。小さな文字、低いコントラスト、色だけに頼った区別は、多くの読み手にとって認知的な負担になる。図を縮小したり、印刷したり、グレースケールにしたりしても読み取れるかを確かめ、色と形、線の種類と直接ラベル、というように複数の手掛かりを組み合わせる。アクセシビリティを「特別な対応」と考えるのではなく、さまざまな閲覧環境でも情報をできるだけ確実に読み取れる、頑健な設計と考える。ここでは、第6回から第8回で学んだ認知と色の知識を、図の仕上げに応用する。
③
誤解を招く表現と不確かさの扱い
誤解を招きやすい表現を総復習したうえで、不確かさの扱いを学ぶ。切断された軸、3D表現、過剰な色、データの意味や目的に合わないカテゴリの並び順、面積と数値の食い違いなどは、いずれも誤解のもとになる。さらに、推定値や予測値には不確かさが伴うため、それらを点や線だけで「確定した値」のように示すと、実際以上に確からしい印象を与えてしまう。エラーバー、信頼区間、信頼帯などについて、それが何を示す幅なのかを明示し、標準偏差(SD)、標準誤差(SE)、信頼区間(CI)を混同しない、という基本的な作法を確認する。すべての図に不確かさの表示が要るわけではないが、意思決定に関わる場合には、それを省くことで生じる誤解を考える必要がある。見た目を強く見せるために不確かさを隠すことの問題点も議論する。読み手と目的に応じて、正確さと分かりやすさのバランスを取ることを学ぶ。
④
可視化の診断・改善
既存の図を診断し、改善する力を仕上げる。「何が悪いか」を感覚で指摘するのではなく、データ構造、写像、幾何要素、尺度、座標、知覚の精度、色、手法の選択、ラベル、不確かさ、といった観点から問題を特定し、具体的な改善案を提案する。診断にあたっては、目的、データ構造、写像、幾何要素、尺度・座標、色、ラベル、認知の負担、不確かさ、という観点を順に確かめるチェックリストを用いる。同じ図をただ「きれい」にするのではなく、何を読み取りやすくしたいのかをはっきりさせて改善することが大切である。改善の前後を見比べ、どの設計変更が読み取りやすさ・正確さ・アクセシビリティに効いたのかを説明する。こうして、第9回で行った診断を、第二部の目的別の手法まで広げ、デザイン上の判断を、主観的な好みではなく根拠にもとづいて行う力を完成させる。
⑤
全15回の総復習
本科目の全体を、「目的→データ→構造化・前処理→写像→幾何要素→尺度・座標→知覚・認知→色→目的別の手法→仕上げ・診断」という一本の流れとして振り返る。量・内訳、分布、関係性、変化、空間という各目的に対して、どのようなデータの種類・尺度・構造、視覚的属性、手法が適するのかを、総合的に判断できるようにする。期末試験に向けては、用語を一つずつ暗記するのではなく、wide/long変換、手法の選択、軸・色・ラベルの判断、簡単な手書きの作図までを、一つの設計問題として練習する。最終的な到達点は、自分で作る図だけでなく、他者の図を批判的に読み、改善案を根拠とともに説明できることである。試験対策にとどまらず、卒業研究や社会で未知のデータに出会ったときにも、目的とデータの性質から表現を選び、その結果を他者へ説明できることを意識して、全体を締めくくる。
キーワード
① アクセシビリティ(Accessibility) ② 冗長符号化(Redundant Encoding) ③ 不確かさ(Uncertainty) ④ 診断・改善(Diagnosis and Improvement) ⑤ 可視化の作法
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
【復習】授業で用いたQuarto Markdownの内容を読み返しながら、ブランクに用語やコードを入力し、必要なコードを最後まで実行して出力を確認する。分からない点は、書籍・Webサイト・ChatGPTなどで調べる。また、調べても分からないことは積極的に教員に質問する。なお、調べたことや学習内容の要点をQuarto Markdownに追記し、自分専用の教材として整備することで、復習に役立てることもできる。
【予習】シラバスの細目レベルの内容を確認する。さらに、各自の専用フォルダに事前に資料がアップロードされている場合には、それらに目を通し、理解が困難な箇所を事前に把握しておく。また、関連するキーワードをインターネットで検索するなどして、事前に知識を得たうえで授業に臨むことが望ましい。
履修判定指標
履修指標
履修指標の水準
キーワード
配点
関連回
➀データビジュアライゼーションの意義と目的の理解
データビジュアライゼーションが、単に見栄えのよい図表を作成する技術ではなく、データを人間が理解可能な視覚表現へ変換し、探索と説明を支援する方法であることを説明できること。探索的可視化について、データに潜む傾向・分布・関係・異常などを見いだし、新たな問いや仮説、洞察を得る役割を説明できること。また、説明的可視化について、探索や分析によって得られた事実・知見・解釈などを特定の読み手に分かりやすく伝え、理解・議論・合意形成・意思決定を支援する役割を説明できること。さらに、両者は完全に分離するものではなく、探索によって得た知見を説明し、その過程から新たな問いが生じるなど相互に関係することを理解し、研究や社会における具体的な活用場面と関連づけて説明できること。
データビジュアライゼーション、探索的可視化、説明的可視化、洞察、意思決定
5
第1回
②可視化の要素・文法と実装思想の理解
データビジュアライゼーションが、データ、写像、美的属性、幾何要素、統計変換、尺度、座標系、分割などの要素を組み合わせることで構成されることを理解し、それぞれの役割を説明できること。データ変数を位置・形・大きさ・色などの視覚的属性へ対応づける「写像」が可視化設計の基本であり、既存の図表を文法的な要素に分解して説明できること。また、「どう描くか」を手順として指定する命令型と、「何をどのように表現するか」を構造として指定する宣言型という実装思想の違いを理解すること。The Grammar of Graphicsの考え方を体現するggplot2等を具体例として、宣言型の実装と可視化の文法との関係を説明できること。
Grammar of Graphics、写像、命令型・宣言型、美的属性、ggplot2
10
第2・3回
③データの種類・構造とデータハンドリングの理解・実践
可視化の対象となるデータについて、量的・質的データ、尺度水準、連続値・離散値などの基本的な種類を区別し、それらがデータの扱い方や可視化表現の選択に関係することを説明できること。整然データの考え方を理解し、表形式データにおける変数・観測・値を正しく判別できること。wide形式では複数の系列が別々の列として表されやすいのに対し、long形式では系列の違い自体を一つの変数として表現できることを理解すること。そのためlong形式・整然データが、変数を視覚的属性へ写像するGrammar of Graphicsや宣言型の可視化と高い親和性を持つことを説明できること。さらに、与えられたデータを目的に応じてwide形式とlong形式の間で適切に変換し、抽出・選択・集計・グループ化等の基本的なデータ操作の役割を理解していること。
整然データ、long形式、wide形式、変数・観測、データハンドリング
20
第4回
④座標系・座標軸・スケールの理解
データを視覚的な位置へ変換するために必要な、座標系、座標軸、スケールの役割と相互関係を説明できること。直交座標系や極座標系など代表的な座標系の特徴を理解し、同じデータであっても座標系の選択によって表現方法や読み取り方が変化することを説明できること。また、線形・対数等のスケール、表示範囲、軸の始点、目盛、ラベル、単位などの設定が図の見え方や解釈に影響することを理解すること。データの性質と可視化の目的を踏まえて、それらを適切に設定する必要性を判断・説明できること。
座標系、座標軸、スケール、極座標系、対数スケール
10
第5回
⑤視覚・認知と色に基づく可視化設計の理解
人間の視覚・認知の特性が可視化の理解しやすさや正確さに影響することを理解し、位置・長さ・角度・面積・色などの視覚的属性の知覚特性、前注意的処理、ゲシュタルト原則等を説明できること。また、光と色の基本的な仕組み、色相・明度・彩度、代表的な表色系・カラーシステムの特徴を理解すること。さらに、定性的・連続的・分岐的・循環的カラースキームを、変数の種類や可視化の目的に応じて選択する考え方を説明できること。強調・識別・順序・量などを色によって適切に表現するとともに、色覚多様性等に配慮した色設計の必要性を理解していること。
視覚認知、ゲシュタルト原則、色相・明度・彩度、カラーシステム、カラースキーム
10
第6・7・8回
➅量・内訳の可視化手法の理解と選択
量や大小を比較する可視化と、全体を構成する部分の割合や構成を示す可視化の違いを理解し、それぞれの目的に適した表現方法を説明できること。棒グラフ、点グラフ、パイチャート、積み上げ棒グラフ、並び棒グラフ等について、その特徴、長所、制約を理解すること。カテゴリ数や比較対象、絶対量と構成比のどちらを重視するかなど、与えられたデータと目的に応じて適切な手法を選択できること。また、プロポーショナルインクの原則、比較のための共通基準線、カテゴリの並び順など、量や内訳を誤解なく伝えるための基本的な作法を説明できること。
棒グラフ、内訳、パイチャート、積み上げ棒グラフ、プロポーショナルインク
10
第10回
⑦分布・関係性の可視化手法の理解と選択
データの中心、広がり、偏り、外れ値などの分布特性を把握するためのヒストグラム、密度プロット、箱ひげ図、eCDF等について、それぞれの特徴と制約を説明し、目的に応じて適切な方法を選択できること。また、二つ以上の変数間の関係を表す散布図、散布図行列、コレログラム等について、それぞれが表現できる情報と制約を理解すること。相関係数による数量的な要約と散布図による視覚的な把握を関連づけ、相関関係と因果関係を区別すること。さらに、外れ値や非線形な関係など、単純な統計量だけでは捉えにくい特徴にも注意して図を解釈できること。
ヒストグラム、密度プロット、散布図、相関、コレログラム
10
第11・12回
⑧変化・空間の可視化手法の理解と選択
時間や順序を持つデータについて、折れ線グラフ等を用いて変化やトレンドを表現する考え方を理解し、時間の順序、連続性、複数系列の比較、長期的傾向と短期的変動などを説明できること。また、位置情報を持つ地理空間データについて、地理座標、地図投影、レイヤー構造、主題図等の基本的な考え方を理解すること。地図投影によって面積・形状・距離等に歪みが生じることや、コロプレスマップ等では扱う値や配色方法によって解釈が変化することを理解し、時間的・空間的なデータの特徴と可視化目的に応じて適切な表現方法を選択できること。
時系列、折れ線グラフ、トレンド、主題図、座標参照系
10
第13・14回
⑨目的に応じた可視化の統合的な選択・構成・作図
第一部で学習したデータ構造、可視化の文法、座標、視覚・認知、色等の基礎知識と、第二部で学習する量・内訳・分布・関係性・変化・空間等の可視化手法を関連づけ、与えられたデータと、探索的可視化・説明的可視化のどちらを主目的とするかを含む可視化目的に応じて、適切な可視化を選択できること。データの各変数を位置・形・大きさ・色などのどの視覚的属性へ対応づけるかを判断し、軸・尺度・表示範囲・カテゴリの順序・色・ラベル等を適切に設定して、データの特徴を誤解なく伝える簡単な図を手書きで構成できること。また、その可視化を選択した理由や既存の図を改善すべき点について、可視化の文法、人間の知覚特性、データの種類、各手法の特性・制約および可視化の作法に基づいて説明できること。
手法選択、マッピング、作図、可視化設計、可視化の作法
15
第9~15回
評価方法
期末試験(100%)により評価する。
評価基準
評語
学習目標をほぼ完全に達成している・・・・・・・・・・・・・
S (100~90点)
学習目標を相応に達成している・・・・・・・・・・・・・・・
A (89~80点)
学習目標を相応に達成しているが不十分な点がある・・・・・・
B (79~70点)
学習目標の最低限は満たしている・・・・・・・・・・・・・・
C (69~60点)
学習目標の最低限を満たしていない・・・・・・・・・・・・・
D (60点未満)
教科書
なし
参考文献
〇藤俊久仁, 渡部良一. (2019). データビジュアライゼーションの教科書. 秀和システム.
〇Wilke, C. O. (2022). データビジュアライゼーションの基礎: 明確で、魅力的で、説得力のあるデータの見せ方・伝え方(小林儀匡, 瀬戸山雅人 訳). オライリー・ジャパン.
※原著の著者公開版はこちらから閲覧可能:https://clauswilke.com/dataviz/
〇矢崎裕一. (2024). データ可視化の基本が全部わかる本: 収集・変換からビジュアライゼーション・データ分析支援まで. 翔泳社.
〇江崎貴裕. (2023). 指標・特徴量の設計から始めるデータ可視化学入門: データを洞察につなげる技術. ソシム.
〇Sievert, C. (2022). Rによるインタラクティブなデータビジュアライゼーション: 探索的データ解析のためのplotlyとshiny(株式会社ホクソエム 監訳, 輿石拓真, 今井康貴, 髙木誠二, 和田尚樹 訳). 共立出版.
〇Wilkinson, L. (2005). The Grammar of Graphics (2nd ed.). Springer.
〇Wickham, H. (2016). ggplot2: Elegant Graphics for Data Analysis. Springer-Verlag New York.
実験・実習・教材費
なし