区分 犯罪心理学発展科目 法心理学領域
ディプロマ・ポリシーとの関係
専門的知識と実践的能力 分析力と理解力 地域貢献性
カリキュラム・ポリシーとの関係
課題分析力 課題解決力 課題対応力
カリキュラム全体の中でのこの科目の位置づけ
個人・社会・自然が直面する課題に対して専門的な理解を深めると共に、学際的な柔軟性を有し、実践的な能力を有する。
科目の目的
刑事政策とは刑事法に関わる諸政策の策定やその諸政策を研究する幅広い領域である。刑事政策の対象となるのは犯罪対策である。犯罪対策の刑罰論(刑事制裁論)と犯罪者処遇論を通じて、犯罪事象の予防と制圧、および被収容者の再社会化に関する基本的な理念を理解する。国内外におけるこれまでの具体的な政策について、その目的と問題点を整理する。また、犯罪原因の理論としての犯罪行為の類型や行為者の類型、政策の公的・私的コスト、相反する権利等をふまえ、現代社会に生起する様々な犯罪事象から個人や社会を守るための合理的、合目的的な政策論的手法を精査、検討するための基礎となる知識と思考力を養う。特に犯罪心理学が刑事政策に寄与する領域や可能性についての考察を深める。
到達目標
刑事政策がカバーする領域についてまず把握することが第一の目標である。次に、刑事政策のそれぞれの領域の具体的な内容を理解し、刑事政策が社会において果たす役割について把握することを目標とする。刑事政策は、刑法、刑事訴訟法とも深い繋がりを持っているが、その基本的特徴は刑法のような犯罪とは何かという問題意識や、刑事訴訟法のような具体的な犯罪の公的な手続きの法とは異なり、むしろそれらから派生する多くの諸問題に対処する政策や、学問のことである。その守備範囲は広く、半年の授業ではその全容を知るのは難しいが、科学的思考が要求される範囲も広く、心理学との関わりも多くあるために、理解しやすい部分も多くある。しっかりと学習して、刑事政策の知識を確立することを目標とする。
科目の概要
1)刑事政策とは何か、2)刑事政策と隣接諸科学につて、3)刑事政策と暗数の問題、4)刑事政策の国際性と新しい動向、5)犯罪原因論、6)精神医学的・生物学的原因論、7)心理学的原因論、8)社会学的原因論(1)、9)社会学的原因論(2)、10)刑罰制度について:概観、11)刑罰制度について:概観、12)刑事制裁:死刑を考える、13)無期刑・終身刑・自由刑、14)処分論について、15)警察
科目のキーワード
刑事法に関わる諸政策 犯罪者処遇論 犯罪事象の予防と制圧 犯罪原因 犯罪心理学
授業の展開方法
基本的にOHPによる授業によって行う。授業の初めに、ほぼ毎回、復習の成果を見極めるために簡単なクイズを行う。統計資料等が授業に必要な場合には、授業内で事前に配布する。
オフィス・アワー
【月曜日】4時限目(後期のみ)、【火曜日】3時限目(前期のみ)・4時限目(後期のみ)、【水曜日】2・3時限目(前期のみ)
科目コード PSC600
学年・期 2年・後期
科目名 刑事政策論
単位数 2
授業形態 講義
必修・選択 必修
学習時間 【授業】90分×15 【予習】90分以上×15 【復習】90分以上×15
前提とする科目 法と倫理
展開科目 刑事法
関連資格 なし
担当教員名 厳島行雄
主題コマシラバス項目内容教材・教具
1 オリエンテーション(刑事政策とは何か) 科目の中での位置付け 初回の授業では、刑事政策論で行う15回の授業の内容を概観する。また、成績評価に関する情報を提供する。第1回授業は刑事政策論の入り口にあたる授業であり、刑事政策という概念が一体何を意味しているのかを紹介する。刑事政策には類似した概念が、歴史的にどの国からの影響を受けたのかによって、いくつか存在する。本授業ではその類似点と相違点についても紹介する。そして、刑事政策における狭義の意味と広義の意味について説明する。
コマ主題細目①②③
藤本哲也(2006) 『刑事政策概論(第6版)』青林書林 第1章・刑事政策の基礎、第1節「刑事政策の定義」第2節「刑事政策と隣接科学」(3〜9頁)
コマ主題細目 ① 刑事政策とは何か ② 刑犯罪学、刑事政策、刑事学 ③ 刑事政策の二つの意味 ④ 刑事政策の定義 ⑤
細目レベル ① 刑事政策とは刑事法に関わる諸政策の策定やその諸政策を研究する幅広い領域である。刑事政策の対象となるのは犯罪対策である。犯罪対策の刑罰論(刑事制裁論)と犯罪者処遇論を通じて、犯罪事象の予防と制圧、および被収容者の再社会化に関する基本的な理念を理解する。国内外におけるこれまでの具体的な政策について、その目的と問題点を整理する。刑事政策という言葉はドイツ語に由来 1800年頃、ドイツの刑法学者「刑事政策の父」と呼ばれる フォイエルバッハ(Anselm von Feuerbach)によって初めて用いられたものである。日本でのこの言葉が使用されたのは1900年頃からで、大学においてこれが講じられるようになったのは、東京帝国大学法学部であり、1924年のことであった。それは「刑事学」という名称であった。

刑事政策の大まかな分類としては、(1)犯罪の予防または鎮圧に向けられた国家活動、(2)刑事立法政策であるとするもの、(3)刑法政策とするものに分類されよう。以上はヨーロッパ大陸で展開されたものであるが、最近では英米法の影響を受けた学者たちの間で、刑事政策学は「事実としての犯罪学や規範学としての刑法学との関連において、その対象領域が決められるべき」との見解が行われるようになった。つまり、広義の犯罪学の一分野を形成するとの見方である。
授業ではその両者について学ぶ。

② 犯罪学、刑事政策、刑事学:これら3者の違いとは何か:3つの類似た学問領域が刑事政策学には存在している。日本ではこれら3者の概念は同じ意味内容を持つもとして扱われている。前田信二郎(前田、1970年、1ページ)はこれら3者が「その名称にちがいがあっても、内容的には全く同一のものであるといえよう」としている。その違いは重点の置き方、体系的叙述において主観的あるいは方法論的な相違が認められるに過ぎないと述べている。ではなぜこのようなちがいが発生したのだろうか。それはそれぞれの概念の出所のちがいが反映したものといえよう。犯罪学は英語でCriminology刑事政策はドイツ語Kriminalpolitikで、刑事学はフランス語のPolitiquue Criminelleであり、日本語における3者はこれらの訳語に由来しているといえそうである。以上のような事情を考慮して藤本哲也は『刑事政策概論第6版』5頁で、「犯罪学には広義の犯罪学と狭義の犯罪学があり、狭義の犯罪学はいわゆる犯罪原因論意味するものであるのに対して、広義の犯罪学(刑事が卯と呼んでも良いと思う)は犯罪と刑事制裁一般に関する学問を意味し、事実学(狭義の犯罪学)、規範学(刑法学)、手続学(刑事訴訟法学)及び政策学(刑事政策学)を含めた広い学問分野を意味するものと解しておきたいと思う」と述べている。これはなかなかうまく整理し内容に仕上がっていると思われる。
③ 刑事政策の二つの意味:事実としての刑事政策と学問としての政策学の区分。この両者はその意味内容が異なっていることに注意する必要がある。
事実としての刑事政策には二つの意味合いがある。
広義の意味・・・犯罪の予防または鎮圧を主たる目的とする国家機関の一切の施策
狭義の意味・・・施策のうち、直接犯罪者または犯罪的危険者に対して加えられる心理学または実力的な強制措置(犯罪の防遏を目的とする刑罰放棄の制定、発生した犯罪事件に対する検察及び裁判、刑事警察の活動、刑罰の実施、再販防止のための保安処分ないしは教育・保護処分)
学問としての刑事政策は、以上の事実としての刑事政策を研究対象にして、その実施の現場を体型的に認識して、その目的効果の有無程度を明らかにするとともに、これを批判検討して、いかにすればこれより合理的かつ効果的ならしめるかを研究する学問ということである。

④ 「刑事政策とは犯罪の原因を探究し、これに基づき犯罪を防止するための国家・団体・個人の活動であると解し、学問としての刑事政策、すなわち刑事政策学は事実としての刑事政策を一定の理念から批判し、より合理的にして効果的な諸原則のチア系を考究しようとする学問である」

キーワード ① 犯罪学  ② 刑事政策 ③ 事実としての刑事政策 ④ 学問としての刑事政策 ⑤
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:刑事政策は現実に起こり得る犯罪を射程に捕らえながら、実際にその犯罪の予防、おこった犯罪に対する捜査・検察・裁判、その後の処分等等を、いかに有効に実施するのか、それを法律的に解決する方法を求めるものである。故に、実際の刑法や刑事訴訟法の範囲を超えて、現実における諸問題の解決を要求される。そういう意味でも、心理学が関わりを持てる法的世界である。ただ、花井学、刑事政策、刑事学と類似した概念が存在するので、そのニュアンスのちがいをきちんと抑え、知識を整理しておこう。
2 刑事政策と隣接諸科学につて 科目の中での位置付け 第1回目の授業で、刑事政策学と犯罪学、そして刑事学との関係を学んだ。今回の授業では、広い意味での犯罪学がどのようなものかをまず学ぶ。ここではリストの刑法学の3つの任務という考え方、そしてゲールツの全犯罪科学の理論、フルウィッツの犯罪科学論についても学ぶ。次に、事実としての犯罪学と規範学としての刑法学の関係についてその内容を理解する。最後に被害者学が犯罪学の中に占める位置について考察し、現在の刑事政策において重要な研究テーマとしての位置を占め始めたことを考える。
コマ主題細目①②③④
藤本哲也(2006) 『刑事政策概論(第6版)』青林書林 第1章刑事政策の基礎、第1節「刑事政策の定義」第2節「刑事政策と隣接科学」、第2項、第3項、第5項(11〜20頁)

コマ主題細目 ① 広義の犯罪学 ② 事実学としての犯罪学と規範学としての刑法学 ③ 犯罪学・刑法学と政策学としての刑事政策学 ④ 被害者学と犯罪学 ⑤
細目レベル ① 広義の犯罪学:すでに前回学習したように、広義の犯罪学とは「犯罪と刑事制裁一般及び刑事司法制度全般に関する学問を意味し、事実学(狭義の犯罪学)、規範学(刑法学)、手続き学(刑事訴訟法)及び政策学(刑事政策学)、そしてさらに被害者を含めた広い学問分野を意味する。包括的な定義である。この定義はリストの全刑法学やゲールツの犯罪科学の概念に近いものである。
リストの刑法学の3つの任務という考え方:1)裁判官のような実務家の教育、2)犯罪や刑罰に血ついて科学的研究を行い、その因果関係を解明すること、3)政策の実施、である。
授業では、以上のリストの理論のほかに、ゲールツの全犯罪科学の理論、フルウィッツの犯罪科学論についても紹介する。

② 事実学としての犯罪学と規範学としての刑法学:規範学としての刑法学は現行法規に関する科学であり、その中心テーマは現行法規の体系・構成・解釈にある。
事実学としての犯罪学は、犯罪の原因を探究し人間行動を経験科学的に分析することにその主目的がある。犯罪のどのように現れるのか、そして事実関係がどのようなものかを問うことが必須である。

③ 犯罪学は犯罪の原因を探究し、犯罪現象の分析を通して、犯罪の防止を考究することにその使命がある。一方、刑事政策の課題は、こうした知見を具体的な立法政策として提言し、価値体系的な法原理の全体構造と調和させることにあるので、犯罪学は刑事政策を通して初めて刑法学と接点を持つと考えられる。
④ 被害者学とは
犯罪が実行されるにあたっての被害者の役割および被害者の寄与を研究の対象とする学問分野である。つまり、被害者の側から犯罪現象を考察しようとする学である。
犯罪学ではもっぱら加害者の側面から犯罪原因を究明しようとしてきた。
これに対し被害者学は、犯罪における被害者の重要な役割に注目し、
1)犯罪にいたる過程における被害者側の有責性の度合い
2)犯罪を受けやすい被害者の特性
などの研究を行なって、独立した学問分野を形成するにいたった。


キーワード ① 犯罪学 ② 政策学 ③ 刑法学 ④ 被害者学 ⑤
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:広義の犯罪学とはどのようなものか、そして狭義の犯罪学とはどのようなものか、各自、その説明がきちんと自分の言葉でできるように理解を進めること。法律の言葉や概念は慣れていない者には難しく響くが、実は日常の言葉よりも正確に定義されている。何回も反復して学習することで、知識を確実にしよう。
予習:犯罪には暗数という概念がつきまとう。暗数とは実際の数値と統計結果の誤差のことで、何らかの理由により統計に現れなかった数字のことである。授業ではこの暗数の持つ種類、暗数調査についても学ぶので、事前に暗数について調べておこう。

3 刑事政策と暗数の問題 科目の中での位置付け 刑事政策を学ぶ上で重要な事項の一つが、自国においてどのような犯罪がどれほど発生しているのかを理解することである。犯罪がなければ刑法も刑事訴訟法も、刑事政策も必要ないし、警察も裁判所も必要ないということになる。しかし、そうなってはいない。犯罪が存在しているからである。犯罪の種類と頻度を知っておくということが重要なのは、種類によってその原因を考える必要が出てくるし、発生頻度からはその犯罪への対策のありようが検討されることになるだろう。犯罪の原因を同定し、有効な刑事政策を樹立するためには、犯罪の現象の正確な把握が必要となるということである。しかし、私たちは全ての犯罪を知り得るわけではない。私たちが利用可能なのは犯罪に関わる各種の白書類であるが、これらも万能ではなくて、一定の制限の元に収集・整理されて公にされる。それらの性質をきちんと押さえて、利用する必要がある。
また、暗数という問題も避けられない。暗数とは実際の数値と統計結果の誤差のことで、何らかの理由により統計に現れなかった数字のことである。授業ではこの暗数の持つ種類、暗数調査についても学ぶ。

コマ主題細目①②③
藤本哲也(2006) 『刑事政策概論(第6版)』青林書林 1章・刑事政策の基礎、第3節「刑事政策と暗数の問題」第1項〜第4項(20〜30頁)
コマ主題細目 ① 犯罪統計の意義 ② 統計使用上の注意点 ③ 犯罪統計と暗数調査 ④ ⑤
細目レベル ① 犯罪統計の意義:刑事政策を学ぶ上で重要な事項の一つが、自国でどのような犯罪がどれほど発生しているのかを理解することである。犯罪がなければ刑法も刑事訴訟法も、刑事政策も必要ないし、警察も裁判所も必要ないということになる。しかし、犯罪は存在する。犯罪の種類と頻度を知っておくということが重要なのは、種類によってその原因を考える必要が出てくるし、発生頻度からはその犯罪への対策のありようが検討されることになる。
犯罪の原因を同定し、有効な刑事政策を打ち立てるためには、犯罪の現象の正確な把握が必要となる。しかし、私たちは全ての犯罪を知り得るわけではない。私たちが利用可は犯罪に関わる各種の白書類であるが、これらも万能ではなくて、一定の制限の元に収集・整理されて公にされる。それらの性質をきちんと押さえて、利用する必要がある。『警察白書』や『犯罪白書』である。犯罪現象を押さえる場合には、『警察白書』が、そして刑事司法全体の流れを把握するには『犯罪白書』を用いることが多い。『犯罪白書』には警察、検察、裁判、矯正・保護の各段階での情報が整っているからである。

② 日本における上述の各白書は極めて正確かつ詳細である。しかしながら、どのような統計白書であろうと、当然のことながら色々な制約を持っている。それは刑事司法各機関が処理した犯罪を示すもので、その機関に固有の特徴が現れて当然である。そのために、これらの白書の利用者はそれらの効用と限界を知って、利用することが要求される。上述の白書で現実に起こった犯罪に関する知識を得ようとしたら、『警察白書』が最も現場の事件を扱うわけであるから、犯罪現象の分析には適したものであることがわかる。しかし、裁判における有罪無罪の比率を知りたければ、『司法統計年報』を使用して知識を得るということになる。
例えば、警察白書の特徴として、星野周弘(1973,26頁)は次の4点を挙げている。1)犯行と記録作成の時間的な一致が比較的に見られ、現資料としての性質を最も鮮明にしている、2)法執行過程の中で生じる資料上の隔たり(バイアス)が含まれることが少ない、3)犯罪(者)の母数が限定され、そこから抽出された標本が犯罪(しゃ)全体を代表する、4)全法執行機関の記録の中で、最も安定した数値を提供する、ということである。犯罪心理学には現実の犯罪現象を把握するという大きな課題があるので、警察白書を紐解くことは必須である。
ただ、以下の点は注意が必要である。つまり、特別司法警察員の認知件数(例えば麻薬取締官による)や検察官によるもの認知事件は計上されていない。さらに犯罪の発生と認知という概念の使用に関しても、歴史的変遷があり、注意が必要である。

③ 各種犯罪統計を示す白書があることはすでに述べたが、それらの統計には暗数問題が必ず存在しているということである。では暗数とは何か。実際に発生した犯罪数と公的な犯罪統計に記録された犯罪数との差を意味している。そのように定義しても、実際問題として、正確な犯罪の発生数を示すこと自体ができないことはすぐにわかる。例えば、未発見や未報告の犯罪の存在がある。これらは知る方法が難しい。ただ、暗数について考える場合には二つの意味があることを知っておく必要がある。一つ目は、法執行機関によって認知され、統計に現れないという意味での暗数と、二つ目として法執行機関が生み出す暗数があるということである。


キーワード ① 警察白書 ② 検察統計年報 ③ 司法統計年報矯正統計年報 ④ 暗数 ⑤
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:犯罪の現実を知るためには、犯罪の種類、各々の犯罪の頻度等を正確に知る必要がある。ただ、日本の各種の犯罪に関わる統計はすでに学習したように、数種類存在する。それぞれの特徴をきちんと理解し、その正しい使用方法について理解しよう。また暗数問題が常に統計につきものであることも理解しておこう。予習:刑事政策は国内の問題だけにとどまらない。国境を越えたグローバル化の問題が犯罪にも及んでいる。国際的な犯罪の生起に対応する必要が生じている。E Uなどでの動きを参考に、その対応を見ておこう。
4 刑事政策の国際性と新しい動向 科目の中での位置付け これまで、刑事政策とは国家または地方公共団体が犯罪鎮圧を直接の目的として講ずる施策と一般的に理解されてきた。しかし、世界が狭くなるにつれて、犯罪防遏のために諸国家の連帯の強化が叫ばれ、現にこの連帯性思想に基づく施策が講じられているのを見ると、刑事政策の概念も修正せざるを得ないであろう(森下、1979、6ページ)」ということが指摘されている。このむしろ40年以上前の学者ですらこのような意見を述べているのだから、現在は推して知るべし、である。現在では刑事政策や犯罪学、刑法学の国際的学会も設立されているし、麻薬に関する条約(1992年)の批准が我が国でも行われ、それに伴う法律の改正も行われてきている。そういう意味で、国際的な水準での刑事政策の必要性はますます高まって行くことになろう。特にグローバル化に伴う刑事政策の新しい展開も必要となってきている。本講義では、そのような国際性の動向をヨーロッパ、国連の動向から学んでいく
コマ主題細目①②
藤本哲也(2006) 『刑事政策概論(第6版)』青林書林 第1章・刑事政策の基礎、第4節・刑事政策の国際性と新しい動向

コマ主題細目 ① 刑事政策の国際性 ② ヨーロッパ理事会 ③ ④ ⑤
細目レベル ① 刑事政策の国際性:1990年代より、様々な国際協力が刑事政策の次元でも求められてきている。1922年には麻薬新条約が批准され、その国内担保処置として「麻薬及び向精神薬取締法等の一部を改正する法律」(平成3年法律第93号)などが成立している。さらに近年では、急速な国際刑事協力制度が展開している。大きな動きとしては、①日韓犯罪人引渡条約の締結(2002)、受刑者移送条約への加入と国際受刑者移送法の制定(2002-2003年)、日米刑事共助条約の締結(2004年)、さらにテロ資金供与防止条約(2002年)、国際組織犯罪防止条約(2003年)、サイバー犯罪条約(2004年)の加入などが行われてきた。今後も犯罪のますますのグローバル化が進むであろうことが予想されるので、国際的な水準での刑事政策における各種の条約の締結が進んでいくであろう。
② ヨーロッパ理事会は1957年に閣僚委員会のもとに、ヨーロッパ犯罪問題委員会を設置した、東欧を除くヨ―ロッパの国家間の協力による刑事政策の推進を図った。このことを出発点として、ヨーロッパでは刑事司法に関する条約が結ばれてきている。初期には「犯罪人引渡し条約」(1957年)、「刑事司法共助条約」(1959年)、「テロリズム防止条約」(1977年)などがあり、その後もE Uが拡大され、刑事法の世界でも法的統合が進んでいて、あらゆる面での統合が行われている。その結果、E Uで増加している組織経済犯罪に対抗する刑事法規定が検討されるに至った。それは1997年にコルプス・ユリスという統一法典が提案された。さらに組織犯罪の他にも人身売買、児童の性的虐待・児童ポルノ、テロ犯罪、薬物犯罪に対処する法の整備も行われてきている。



キーワード ① 刑事政策の国際性 ② ヨーロッパ委員会 ③ E Uにおける刑事法の統合化 ④ ⑤
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:世界が様々な領域で国際化する中、犯罪も同様に国際化している。犯罪の国際化はもちろん交通の利便性、経済の活性化、芸術文化、科学の国際化等によって促進されてきた。犯罪も同様に国境を越えて、起こるようになってきている。特に、近年のインターネットの発展に伴う犯罪の国際化は顕著であり、その影響も大きい。このような国際的な犯罪の拡張に伴う対応がどのように行われているのかを押さえておこう。
予習:犯罪の原因を考えることは、刑事政策においても重要な課題の一つである。犯罪はその種類、頻度がどのようになっているのかを明らかにすることが、極めて重要であるが、その点に関する理論的展開を見ておこう。



5 犯罪原因論 科目の中での位置付け 犯罪のない社会は存在しない。残念ながら人類が犯罪から無縁であったときはないのかもしれない(もちろん、犯罪の定義によるが)。しかし、人類は犯罪のない社会を目指し(不可能であろうと)、それを減少させる努力を払ってきた。特に科学的思考が普及した世界では、犯罪の原因を解明する努力がなされてきたことは事実であるし、現在でもその努力が続けられているのである。では、科学が起こる以前はどうであったか。犯罪の原因は非科学的な説明によって示されていた。代表的な考え方が「鬼神論的な説明」であった。つまり、人智の及ばない力や何者かによって説明するということが行われたのである。このようないわゆるアミニズム的思考を脱却し、その後は科学的な検討が行われるようになった。しかし、犯罪の原因という極めて複雑な現象を単一の統一理論で説明することはできずに現在まできている。しかし、統一理論ではないにしても、いくつかの視点から妥当性の高い科学的説明がなされるようになってきている。本授業ではそのような犯罪の原因論にについて学ぶ。
コマ主題細目①②③④⑤
藤本哲也(2006) 『刑事政策概論(第6版)』青林書林 第2章・犯罪原因論、第1項・犯罪原因としての素質と環境、第2項・精神医学的・生物学的原因論

島田貴仁(2013)『環境心理学と犯罪研究:犯罪原因論と犯罪機会論の統合に向けて』環境心理学研究, 1. 46-57.
コマ主題細目 ① 鬼神論的犯罪学理論 ② 内的要因・素質説 ③ 外的要因・環境説 ④ 犯罪家族の研究 ⑤ 一元的原因論と多元的原因論
細目レベル ① 鬼神論的犯罪学理論:この理論はいわゆる科学的説明ができない時代、つまり前科学的説明としての犯罪の原因論である。ヴォルド(G.B.Vold)はこれを鬼神論的説明と呼んだ。これは人間の力が及ばない、超越的な力の存在(神の力や霊魂)によって犯罪が起こるという説明である。もちろん非科学的な説明であるが、これも科学の存在しない時代にあっては、“一つの可能な説明”として機能していたのである。厳島の祖母は地震がなぜ起こるのかと問うと、「地球に大きなナマズがいて、普段はおとなしくしているが、空腹になると食を求めて動き出すから、地震が起こるのだ」と信じていた。これも地震のナマズ原因論とでも呼べよう。現在でも、このような非科学的な説明がないわけではない。否、意外に多いのかもしれない。科学で説明できない現象も多い。というより、科学が扱えなければ、科学的解明はあり得ないわけだが、実際、科学が扱えない対象は多い。
② 内的要因・素質説:これは犯罪者が素質としてそのような原因を有しているという考え方である。つまり、環境によるのではなく、その人が生まれつき持っている、生得的な要因によって説明しようという説である。この素質論はロンブローゾによって提唱されたが「犯罪者は一つの特別な人種である」との説明に始まり、その後1920年代に急速に発展した理論である。その後は、犯罪者と各種の精神障害との関係や、遺伝的特質との関係を捉える試みが発展することになった。
③ 外的要因・環境説:素質説とは異なり、環境説は犯罪者を取り巻く環境の中に犯罪の原因を見出そうとする。犯罪者個人の中に原因を見出すのではなく、社会的・物理的な要因によって犯罪が起こると考える。この立場は1830年代のフランスにおけるゲリー(A. M. Guerry)、ベルギーのケトレ(A. Quetelet)らによって展開され、その後、フェリ(E. Ferri) が維持した考え方である。フェリは「犯罪法話の法則」という考えを提唱し、社会要因を犯罪原因とする立場を主張し、具体的には気候、四季、湿度などの自然環境、さらに人口密度、家族、教育制度、工業生産宗教、経済、政治などの社会・文化的要因を重視した。この立場はリヨン学派と呼ばれるグループに引き継がれ、発展していった。

④ 犯罪家族の研究:これは心理学では馴染みのある、家系研究による成果によって遺伝化環境かという問題の解決を図ろうとするものである。バッハ家やダーウイン家のような優秀家系はここには登場しない。犯罪と関わるという意味で、どうしても犯罪家族が研究の対象となる。この研究の代表はヘンリー・ゴッダードが1912年に出版した、カリカック(精神薄弱と南北戦争の兵士マーチンとの間に生まれた子どもとその子孫、そしてマーチンがのちに結婚した一般女性との間にできた子どもたちの追いかけ研究である。その研究では、カリカック家には多くの精神薄弱者や問題を抱えた人たちが出現していたのに対し、一方、一般人との結婚では、いわゆる善良な市民が圧倒的に多かった(中には医者、裁判官、弁護士、教育者などもいた)。しかし、問題はこれらが本当に遺伝によるものなのかということである。カリカック家はそもそも貧困であり、そのために栄養出張、過度のアルコール摂取、教育機会の剥奪など、環境要因の影響も十分考慮されなくてはならない。もちろん、一卵性双生児を参加者にして、その知的要因を検討したものなどもあり、知的能力の遺伝的影響も認められているが、遺伝だけで全てが説明できるわけではない。結論づけるためには今後の研究の発展を待たなくてはならない。
⑤ 一元的原因論と多元的原因論:一元的原因論とは、犯罪の原因を単一の原因によって説明する理論であり、多元的原因論とは犯罪の原因を多数の因子によって説明しようという考え方のことである。この両者があるものの、人間の行動への影響要因は多数存在するのであるから、説明原理として多元的原因論が優勢になるであろうことは予想に難くない。しかし、最近の行動遺伝学などの成果を見ると(安藤, 2020)、子どもの能力に関する調査研究結果であるが、経済格差よりも遺伝的な要因によって算数や国語の能力が決定されているという結果(60%から70%の間の要因を説明)は、単に多元論を主張するだけではなく、遺伝との関係をも捉える興味深い研究であるといえよう。犯罪におけるこの問題は、当然のことながら国語や算数の能力とは異なり、さらに複雑であるから今後の研究を待たなくてはならないが、より正確な説明が可能となれば、良い意味での刑事政策に及ぼす影響も期待されるところである。
キーワード ① 鬼神論的犯罪学理論 ② 内的要因・素質説 ③ 外的要因・環境説 ④ 犯罪家族の研究 ⑤ 一元的原因論と多元的原因論
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:犯罪の原因の究明に関しては、今日まで様々なアプローチがなされてきた。今回の授業では、そのようなアプローチの中から、鬼神論的犯罪学理論、内的要因・素質説、外的要因・環境説、犯罪家族の研究、一元的原因論と多元的原因論という5つのアプローチを紹介した。それらの各々の内容を理解しておこう。
予習:次回の授業は、やはり犯罪原因の精神医学的及び生物学的原因論について学ぶ。それぞれのアプローチに関して、その相違点、類似点について見ておこう。

6 精神医学的・生物学的原因論 科目の中での位置付け 犯罪原因論については幅広い議論が歴史的に展開されてきた。これは刑事政策にも重要な意味を持つ。つまり、犯罪の起源が解明されれば、言い換えれば、犯罪を構成する原因が明らかになれば、それに対する施策も可能になる。しかし、前回の授業で見たように、多元論的説明が優位になった現在においては、複雑な要因からなる犯罪原因を簡単に同定することはできない。そこには、多くの科学的知見を援用しながら、真相の究明がなされなくてはならない。今回授業はそういう流れの中で提出されてきている、犯罪の精神医学的・生物学的原因論について学ぶ。
藤本哲也(2006) 『刑事政策概論(第6版)』青林書林 第2章・犯罪原因論、第1項・犯罪原因としての素質と環境、第2項・精神医学的・生物学的原因論
コマ主題細目 ① ロンブローゾの生来性犯罪人説 ② ゴーリングの批判 ③ 新ロンブローゾ学派理論 ④ ロンブローゾ学説の継承 ⑤
細目レベル ① ロンブローゾの生来性犯罪人説:ロンブローゾ(チェザーレ・ロンブローゾ)は1835年生まれのイタリアの精神科医である。犯罪生物学の創始者にして、犯罪学の父と呼ばれている。1876年、その後極めて有名になる『犯罪人論』を著した。彼は犯罪者は生得的な要因を持っていると結論づけたが、それは以下のような有名な言葉で表現されている。「犯罪者は,人類の一つの特別の変異,すなわち一つの特有な人類学的類型として特徴づけられる。この類型は,身体的表徴と精神的表徴を有する。前者は,左右不均等な頭蓋骨,長い下顎,平たい鼻,まばらな顎ひげなどであり,後者は,道徳的感情の欠如,残忍性,酒色たんでき,痛覚の鈍麻などである。このような人間は,生れながら必然的に犯罪者となるものである。そして,この類型は,野蛮人類型への復帰(隔世遺伝)によって生ずるものである。」
しかし、彼の研究はのちにイギリスの監獄医ゴーリングの行った、犯罪者と非犯罪者の超大な比較研究成果から、両者に相違がないということが報告され、彼の学説は否定されるようになった。

② ゴーリングの批判:1913年、イギリスの監獄医であるゴーリング(チャールズ・ゴーリング)は『イギリスの犯罪者−統計的研究』において3000人近い累犯の受刑者と非犯罪者の身体的特徴を比較し、両者の間に統計的な差異がないことを報告した。この研究によって、ゴンブローゾの説は否定されるべきであると主張されるに至った。
③ ロンブローゾ学説の継承:ロンブローゾの学説はゴーリングの批判によって打撃を受けたものの、その後、ハーバード大学の人類学者であるフートンによって、継承された。彼はゴーリングの方法論を検討し、ゴーリングの方法に問題があることを指摘した。そしてフートン自身は、犯罪のタイプに基づいて、それぞれのタイプを比較することで、殺人犯、強盗犯、窃盗犯、強姦犯などの犯罪における犯人の生物学的特徴を詳細に記述していった。そして、それぞれの犯罪に固有の傾向があることを示した。


キーワード ① 生来性犯罪人説 ② ゴーリングの批判 ③ 新ロンブローゾ学派理論 ④ ⑤
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:今回の授業で取り上げたのは、大陸系の犯罪原因論の発展である。そこでは、(1)体質生物学的見解、(2)遺伝学的見解、(3)生物学的見解が発展した経緯がある。心理学でも性格の類型論に分類される、精神医学者のクレッチマーの理論が紹介されていたりするので、馴染みやすいかもしれない。ヨーロッパの伝統的アプローチを垣間見ることができる。
予習:次回の授業はいよいよ心理学的な犯罪の原因論を学ぶ。刑事政策学では、フロイトの説を中心として、精神分析学的アプローチが取り上げられることも多い。ここではその学派の発展を理解しておこう。

7 心理学的原因論 科目の中での位置付け 犯罪の心理学的要因を探るが今回授業の目的である。刑事政策の中で犯罪原因を明らかにすることは、その原因に対処する方法が工夫できる可能性があるということである。ただ、犯罪という極めて複雑な人間の行為は、すでに数回の授業で見てきたように、単純な要因の関与によるとは限らない。その背後には複数の要因の関与があるかもしれないし、本人の気づかない(つまり意識に上らない)要因の関与も否定できない。しかし、そのよう要因をわからないままにしておくことはまさに意味がない。また犯罪の起こる心理学的要因に関しても、それなりの理論を持つことは、その理論が修正されたり、棄却されても相応の具体的な研究を生み出すはずであるから、そういう理論を見ていくことも価値ある学習態度と言えるだろう。
藤本哲也(2006) 『刑事政策概論(第6版)』青林書林 第2章・犯罪原因論、第3項・心理学的原因論
コマ主題細目 ① 犯罪心理学の起源 ② フロイトの精神分析学的犯罪観 ③ フロイトの後継者たち ④ 精神分析学的犯罪論の諸学説 ⑤
細目レベル ① 犯罪心理学の起源:犯罪心理学という言葉は18世紀においてすでにヨーロッパでは使用されていた。それはドイツにおける法医学の一領域として、犯罪者の有する判断や動機の研究から始まった。ドイツの詩人、シラーの短編小説(史実に基づいた)に、彼の恩師であった心理学者のアーベルから教えられたであろう内容を反映した内容を持つ作品がある。これなども犯罪心理学と関連した作品といえよう。しかし、本格的な心理学としては19世紀のイタリアのロンブローゾ(彼の仕事についてはすでに授業で説明した)の関与が大きい。日本では、寺田精一(『犯罪心理学』1926年)の仕事や小熊虎之助らが関連ある仕事を残している。

② フロイトの精神分析学的犯罪観:犯罪の心理学的原因について考えるとき、無視できないのがフロイトの精神分析理論である。フロイトの精神分析理論は犯罪を説明するために思考されたものではなく、心の働きに関する彼の理論を、心の病の治療という道筋を通して、発展させたものである。その中心的な考え方は、無意識という、私たちが意識化することができない(意識に登らせることができない)心の働きを、行動決定する要因として捉えたところにある。もちろん、それらの無意識の世界の一部は顕現して、意識の世界にも現れる。そしてフロイトは無意識と意識というその両者の関係をも説明理論に組み込んでいる。学生諸君はパーソナリティの授業で、彼の考え方を学んでいることと思うが、ここは復習の意味もかねて、フロイト理論について考えたい。
フロイトの説で重要な概念は以下の通り。
イド(エス):エスは「イド」とも呼ばれ、原始的な快楽欲求が支配している機関であり、非論理的な思考や衝動的な行動をもたらす。
自我:「エゴ」とも呼ばれ、エスから派生し、幼児期における基本的生活習慣などのしつけを通し、現実的思考や欲求に対する不満耐性を身に付けることで発達する。この自我の強さが、健全なパーソナリティの基礎となり、個人としての統一性を維持するものとフロイトは考えた。超自我(スーパーエゴ):道徳的禁止機能や理想的規範を果たし、イドによる本能的欲求を監視、抑制する。幼児期での両親との同一視、しつけを通して取り込まれた道徳律が基礎となり、意識のみならず無意識的に罪悪感などの感情をもたらす。

③ フロイトの後継者たち:(1)アレクサンダー(F. Alexander)は、真的葛藤の結果、特定事態における行動は悪いが、他の事態では全く良心的な行動をとる犯罪者の類型を挙げて、これを神経症的な行動表出犯罪者と呼んだ。その意味は、禁じられた願望に起因する強い無意識的罪業感が存在するために、超自我が自らの処罰を求めて犯罪を行われるような場合を言っている。彼の理論と同様に、犯罪を説明する分析的な犯罪理論にオーストリアのアイヒホルンの説がある。この説では、非行原因の原因として自我と超自我の発達障害を仮定している点に特徴がある。彼は、超自我の発達不全によって、本能的衝動の統制が難しくなり、現実適応の基本的なパタンの確立を阻害すると考えた。
またフリードランダーは非行要因を基本的なものと副次的なものに分類し、初期の親子関係の情動的要因が問題となると指摘した。つまり、生後数年の親子関係が問題となると指摘した。この関係に問題があると(疎遠、歪曲等)、現実原理に従う自我か形成されにくくなり、自我は本能に囚われて、情動的要因から反社会的性格が形成されるとした。

④ 精神分析学的犯罪論の諸学説:フロイトと袂を分ち、個人心理学を打ち立てたアドラーは劣等感による犯罪の原因説を示唆している。つまり、劣悪な環境で育成された場合や身体的な劣等生の気づきによって無気力が醸成される。このことから他者より優れたいという欲求が生まれ、これが犯罪につながると考えられた。

キーワード ① アンブローゾ ② フロイト ③ コンプレックス ④ 無意識 ⑤
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:今回授業は犯罪原因説としての精神分析学的アプローチを中心に話を進めた。このアプローチは科学的というよりも、解釈学的要素の強い立場であるが、こういう理論的アプローチにも慣れておく必要があるだろう。フロイトの思想は心理学だけでなく、文学などにも強い影響力を持っている。彼の著作は文庫本でも購入可能なので、そういうものを紐解くのも良いだろう。
予習:次回は犯罪の原因への社会学的接近を学ぶ。シラバスに紹介されている内容を読んでおくように。

8 社会学的原因論(1) 科目の中での位置付け 犯罪原因論の中には、社会学的原因を考察し、これを展開した学者たちがいる。個人の内面に犯罪の生起の原因を探るのではなく、社会という、私たちを取り巻く環境に犯罪原因の源泉を探る立場である。犯罪を考える場合、今までに見てきたような、生物・遺伝学的要因、心理学的要因ももちろん重要な要因であるが、日々私たちが生きている世界(社会)の影響も当然のことながら、私たちの行動の決定に影響を与える。今回と次回の授業では、この社会に目を向けた犯罪原因論を見ていくことにする。
コマ主題細目①②③④⑤
藤本哲也(2006) 『刑事政策概論(第6版)』青林書林 第2章・犯罪原因論、第4項・社会学的原因論
コマ主題細目 ① フェリと犯罪社会学 ② 文化伝搬説 ③ 文化葛藤理論と下層階級文化理論 ④ ⑤
細目レベル ① フェリと犯罪社会学:フェリ(E. Feri)はロンブローゾの弟子であり、ダーウイン、スペンサー、マルクスなどの影響を受けて、自説を構築していった。彼を有名にしたのは、「犯罪飽和の法則」としられる原理である。これは「犯罪は物質的、地理的、人類学的、社会的因子の総合的産物であり、一定の社会環境に一定の人的・物理的状態が伴えば、犯罪の数は一定である」との主張である。このフェリの見解に近い考え方には、ケトレやデュルケムの者がある。ケトレは「社会は犯罪の萌芽を含み、犯罪を準備する。社会が準備した犯罪を犯罪者は実行するに過ぎない」、やデュルケムの「犯罪は社会を動かす潤滑油の役目を果たすものである」という見解である。ここでは社会の側に犯罪を用意する要因があることが示唆されていることが見てとれよう。以上は19世紀から20世紀初頭に展開された犯罪の社会的原因説である。
② 文化伝搬説:文化伝搬を中心とする犯罪社会原因論には(1)社会解体理論、(2)文化伝搬理論、(3)異質的接触理論、(4)異質的同一化理論などがある。
(1)社会解体理論とは、要するに社会秩序の維持が困難な状態に陥ると、社会規範の統制や意地が困難になる状態のことである。そのような状態になると、第1段階として、社会構成員の共感が得られなくなり、社会意識の分裂が現れる。次の段階は、社会統制の昨日が失われ、代替の統制機能も存在しないためにスラム化が進み、道徳的敗退が見られるようになる。第3段階として、多様な形態の社会崩壊現象が生まれる、その結果として社会の解体が進行・常態化し、犯罪が発生しやすい土壌が生まれると説明する。
(2)文化伝搬理論:この理論は文化が世代を超えて伝搬されるように、犯罪も伝搬するという考え方である。ショーやマッケイという学者たちが、都市の犯罪生態学研究を行い、その結果、シカゴ学派と呼ばれる学派のサザランド(異質的接触理論)やグレイザー(異質的同一化理論)の研究へと発展した。

③ 文化葛藤理論と下層階級文化理論:文化葛藤理論というのは、基本的に一つの文化から他の異文化へと移った際に生じる文化的な葛藤と、歴史的・社会的発展史的な葛藤の二つを仮定している。そして、そこに生じた規範の葛藤によって犯罪の誘発を説明しようとしている。下層階級文化理論では、いわゆるアメリカの下層階級における犯罪の多発を説明する試みとして提案された理論である。そこでは、下層階級には下層階級なりの規範があり、それがより広い社会の法規範と抵触することになるという。そして下層階級の存在自体が持つ伝統や価値が犯罪行動を喚起すると考えた。


キーワード ① 犯罪社会学 ② 文化伝搬説 ③ 文化葛藤理論 ④ 下層階級文化理論 ⑤ 社会構造説
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小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:今回授業では、社会との関わりの中で犯罪を説明しようとする諸説を中心に抗議を行った。研究者による犯罪の原因をどのような社会的視点で捉えるかによって、そのバリエーションが生まれる。各説の違いのポイントを整理しておくことが大切である。予習:次回の授業も犯罪原因への社会学的アプローチである。社会心理学によるアプローチも登場するので、馴染み深いかもしれない。ただ、諸説の間の犯罪原因の説明の違いを事前学習で理解しておくようにしよう。
9 社会学的原因論(2) 科目の中での位置付け 今回の授業も引き続き犯罪原因論のうちの社会的原因論について講義する。今回の授業では、社会の構造に基づく不平等から発生する逸脱行動の理論や、社会心理学的要因による逸脱行動の説明、社会的相互作用による説明、そして最近の社会的実体説について理解する。
コマ主題細目①②③④
藤本哲也(2006) 『刑事政策概論(第6版)』青林書林 第2章・犯罪原因論、第4項・社会学的原因論
コマ主題細目 ① 社会構造説 ② 社会心理説 ③ 社会的相互作用説 ④ ⑤
細目レベル ① 社会構造説:社会構造説の一つにアノミー理論がある。この理論は逸脱行動が文化的に規定された目標と、その目標を達成するための社会的に構造づけられた制度手段とが、調和的に作用しない場合に生じるとした理論である(マートンによる提案)。つまり、現代社会においては、目指す目標は単一であっても(幸福になる)、その目標を達成する手段を得る機会が社会構造上制限されたり、排除されてしまっている。このような制限下にある人たちは規範に対する共感や指示を喪失し、合法・非合法を問わず、目標達成の手段のみを確保することに集中するようになる。そこに逸脱行動が生じると考えている。構造説のもう一つの理論は非行副次文化理論と呼ばれるものである。この理論では、非行副次文化と呼ばれる、犯罪者や非行者集団で所有される特定の信念や価値観に基づく思考や行動様式が、問題の行動を産むと考えられている。コーエンはこの非行副次文化を階級構成との関係で検討し、そこで少年非行が男子労働者階級に圧倒的に多く観察されることを見出した。彼の視点は階層(下層階級)という現実と犯罪行動を関連づけて説明しているところに特徴がある。
② ここでは社会心理説を代表する5つの理論を紹介する。①非行漂流理論、②非行中和技術理論、③潜在的価値理論、④自己概念理論、⑤牽制理論である。
①非行漂流理論とは、非行を犯す者たちが、非行という副次的な非行文化に常に支配されているわけでも、反社会的行動に常に従事しているわけでもない。彼らは常に非行と無非行の間を漂流しているに過ぎないという見方である。コーエンのような下層労働階級にのみ犯罪を限定しているのとは対照的である。
②非行中和技術理論は、非行がその非行を行う者がその行為を正当化することで中和されるが、その基底にあるのは社会規範への同調の要求をいかにして中和するのかということを知ることで、理解されるとした。その中和の方法が技術という言葉で表現されている。つまり、非行者も当然社会規範を知っているのだが、自分が犯している規範との中和(正当化)を図る必要がある(安定もしくは調和を保つため)。この正当化の方法が中和技術である。それらは、責任の否定、損害の否定、被害者の否定、非難者への避難、より高い忠誠への訴えの5つとされた。
③潜在的価値理論とは、非行の原因を特定の階層の価値意識に置くのではなく、むしろそれは潜在的な、社会に共通の基盤の中に潜在的にあるものという考え方である。
④自己概念理論とは、グレイザーの異質的同一化理論に近いものであるが、この理論にさらに自己概念等概念を導入して、心理学的要素を強めた理論になっている。この理論では少年の非・非行的価値が内在化していて、それが彼らの自己概念と強く結びついているために、非行行動に陥ることを防いでいるとしている。
⑤牽制理論はレックスによって提出された仮説である。その考えの中心は規範的な行動が、正当な社会的期待への方向づけと同様に、逸脱に対する抵抗によっても規制されるというアイデアにある。アクセルとブレーキという二つの相異なる力の存在を仮定していると言って良い。

③ 社会的相互作用説:この理論の中心的な思考は、それまでの犯罪原因が逸脱者を中心に発展させたものであったが、シカゴ学派のハワード・ベッカーは逸脱者と規則を作りそれを執行する者との間の相互作用によって、逸脱を捉えようとした。つまり、逸脱とは行為者の内的な属性ではなく、周囲の者から与えられるラベル(ラベリング)によって生み出されるものであるとする。犯罪原因の視点の転換がそこにある。


キーワード ① 社会的相互作用説:この理論の中心的な思考は、それまでの犯罪原因が逸脱者を中心に発展させたものであったが、シカゴ学派のハワード・ベッカーは逸脱者と規則を作りそれを執行する者との間の相互作用によって、逸脱を捉えようとした。つまり、逸脱とは行為者の内的な属性ではなく、周囲の者から与えられるラベル(ラベリング)によって生み出されるものであるとする。犯罪原因の視点の転換がそこにある。 ② 社会心理説  ③ 社会的相互作用説 ④ ⑤
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:今回授業では、犯罪原因の社会構造説、社会心理説、社会的相互作用説について学んだ。社会心理説ではさらに5つの下位の理論も紹介したので、それらの理論が犯罪原因をどのように説明しようとしているのかを整理しておこう。予習:次回は刑罰制度である。犯罪は刑法に基づき処罰される。その犯罪と処罰の関係はどのように規定され、変遷を遂げてきたのか。そこには当然のことながら、人間の犯罪の歴史と社会に深く関わる思考がある。それを理解するように心がけよう。
10 刑罰制度について:概観 科目の中での位置付け 刑事法思想も歴史とともに変遷を遂げ、それぞれの社会制度のもとで、それぞれ特徴的な思想を帯びた刑事法思想が生まれた。今回の授業ではそれらの刑事法思想の変遷を追いかけ、それが現代の刑事法思想へとどのように変化してきたのかを、歴史的な展開に基づき、理解することを目指す。
コマ主題細目①②③④
藤本哲也(2006) 『刑事政策概論(第6版)』青林書林 第3章・刑事制裁に関する諸問題、第1節・刑罰制度の概観
コマ主題細目 ① 刑罰制度の歴史的変遷 ② 刑事行政の時代的推移 ③ 啓蒙主義刑事法思想 ④ 自由主義刑事法思想 ⑤
細目レベル ① )刑罰制度の歴史的変遷:人類史において犯罪の概念や犯罪の類型にはそれほどの変化は見られないものの、刑罰に関しては歴史的にその刑罰を用いる国家の文化的背景や価値と密接に関連している。そういう意味では刑罰も社会現象として捉えられる。ここではそのような認識から、刑罰の具体的制度について見ていくことでその存在意義を見いだせるということになる。
② 刑事行政の時代的推移:この時代的推移には3つの時代区分が可能である。一つは中世紀初期の贖罪金と罰金刑の時代、中世紀後期の身体刑と死刑が多用された時代、そして拘禁系がメインとなる17世紀以降である。これらの刑罰の背景にはそれぞれの時代が持つ固有の社会制度や、法律、経済状態、庶民の暮らしなどの影響があった。詳細は竹内・本庄の『刑事政策(2019)』を参照のこと。


③ 啓蒙主義刑事法思想:刑事思想という概念がある。これは刑事法の思想的背景を表すもので、歴史的な展開によって説明されることが多い。ここで啓蒙主義的刑事法思想というのは、国家刑罰権の基礎を社会契約説に基づくものとして、罪刑専断主義を廃して罪刑法定主義の確立を目指すことを主張したものと解される。具体的には、宗教犯罪の廃止、犯罪と刑罰の均衡化、身分的差別の廃止、刑罰の一身専属性の確保、刑法と宗教、道徳との峻別、恩赦権の否定、未決拘束の制限、拷問・密告制度の廃止などによって現れる内容となっている。それは、また絶対主義制度の元での抑圧からの自由を求め、神学的応報刑論に基づく専制裁判を排除するという、革命的な役割を果たした。そしてこの流れがさらに自由主義刑事思想への発展していくのである。
④ 自由主義刑事法思想:19世紀に入ると生存競争の激化から貧困層が出現し、それまでに行われていた犯罪者処遇方策に逆戻りしよういう機運が、ブルジョアジーの間に広まった。この思考を推し進める根拠となったのが、カントやヘーゲルの思想である。カントらは、刑期中に含まれているあらゆる目的論的要素を否定し、もっぱら形而上学的な絶対的応報刑思想を強調した。近代刑法学の父と称されるフォイエルバッハは、功利主義的概念をカントの理論と結合させ、処罰の合法規制という形式的人権保障に力点を置いて、自由主義刑事法思想へと橋渡しをしたと考えられている。この自由主義刑事法思想は犯罪と刑罰の均衡を要求し、犯罪理論を客観主義的に構成したという意味で、啓蒙主義刑事法思想と共通性を持っている。ただ、日本における古典学派と呼ばれる立場は、この自由主義刑事法思想の立場を指していて、その特徴は行為刑法、客観主義、罪刑法定主義、応報刑、一般予防の重視が指摘される。

キーワード ① 刑罰制度 ② 自由主義刑事法思想 ③ 啓蒙主義刑事法思想 ④ カント ⑤ ヘーゲル
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
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小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:刑事法の歴史的展開について、それぞれの時代区分に特徴的な思考が存在している。今回の授業ではそれらの時代に固有の思考法について、比較的大まかな区分と、その後に続く自由主義刑事法思想、啓蒙主義刑事法思想について学習した。それぞれの法思想の特徴をまとめておこう。
予習:犯罪に対して有罪が決定されると、その犯罪の種類に応じて刑罰が用意されている。この刑罰にはどのような種類があり、どのようなことが仮定されて、与えられるのであろうか。果たして、これらの刑罰で犯罪の予防的効果があるのだろうか。法が仮定するところと、私たちの直感とはどのように異なり、また一致するのだろうか。そういう視点で予習して欲しい。

11 刑罰の種類について 科目の中での位置付け 現行刑法が予定している刑罰(刑事制裁ともいう)には、死刑・有期(1月以上30年以下)、無期の懲役・禁錮刑、1万円以上の財産刑である罰金刑、1日以上30日未満の自由刑である拘留刑、1万円未満の財産刑である科料、犯罪に使用した物件や犯罪から獲得した物件の没収、没収が不能な場合の追徴がある。この中で、没収と追徴は単独では言い渡しができない付加刑と呼ばれ、他の刑罰は単独で言い渡しが可能な主刑である。日本の刑罰の特徴は、諸外国に比して、その種類が少ないことである。諸外国では刑罰としての保護観察や社会奉仕命令、損害賠償命令など、多くの種類の刑罰が用意されている。今回の授業では、刑罰の種類、本質、目的について理解を深める。
コマ主題細目①②③④
藤本哲也(2006) 『刑事政策概論(第6版)』青林書林 第3章・刑事制裁に関する諸問題、第1節・刑罰制度の概観

コマ主題細目 ① 刑罰の種類 ② 刑罰の本質 ③ 刑罰の目的 ④ 刑罰の機能 ⑤
細目レベル ① 既に位置づけで述べたように、刑罰には多様の種類が用意されているが、日本における刑罰の種類は極めて少数の範囲にとどまっているのが現状である。反復になるが、現行刑法が予定している刑罰(刑事制裁ともいう)には、死刑・有期(1月以上30年以下)、無期の懲役・禁錮刑、1万円以上の財産刑である罰金刑、1日以上30日未満の自由刑である拘留刑、1万円未満の財産刑である科料、犯罪に使用した物件や犯罪から獲得した物件の没収、没収が不能な場合の追徴がある。この中で、没収と追徴は単独では言い渡しができない付加刑と呼ばれ、他の刑罰は単独で言い渡しが可能な主刑である。このような少数の刑罰しかない現状に対して、種類を増やすべきという議論もあるが、種類を増やした国においては(例えば、アメリカ合衆国)、刑罰の厳罰化が進むことによって、拘禁施設が飽和状態になり、そのための他の種類の刑罰、例えば、保護観察や社会奉仕命令、損害賠償命令のような刑罰が追加されていったという経緯がある。このような発展が果たして好ましいものなのかどうか、ただ単に刑罰の種類を増やせば良いというものではないであろう。刑罰の本質や目的をしっかり見据えての取り組みが要求されるところである。
② 犯罪を犯した者に対して、刑罰は課せられる。犯罪は社会的に有害な行為であるとともに、その行為に対して社会的な非難が向けられる行為でもある。そのために刑罰は社会的非難の具現化という意味合いをも持つ。そうでありながら、その非難をどのように形成するのかには、複雑な要因が絡む。それは例えば、人道主義を考えればわかることである。日本国憲法は第36条で、「残酷な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。」と定め、残酷な刑罰を最高裁は以下のように定義している。つまり「不必要な精神的、肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる刑罰」としている。これらは抽象的な定義であり、具体性に欠けると言える。言い換えれば、そこに幅の広い解釈の可能性が指摘されるし、また具体的な基準が見えにくいという傾向が認められる。本来の刑罰は当然のことながら、社会的に「犯罪者」という烙印が押されるという制裁も加わる。これは刑罰が予定している範囲を超える場合もあるし、そうでない場合もあるであろう。つまり、この部分に関してはコントロールが効かないのである。そこで考えられたのが、この烙印づけを最小限に留め、刑罰の重さを剥奪法益の重大さによって表すという原則が考えられたのである。刑罰の基本は犯罪者に苦痛を与えることにあることは間違いない。しかし、その波及効果による不利益まで与えて良いものかどうかは、議論のあるところであり、そういう次元から死刑の問題を考える必要もある。
③ 刑罰の目的とは、苦痛を与えることで何を達成しようとしているかという問題である。かつては絶対的応報論という、刑罰は犯罪防止の効果によってではなく、犯罪に対する応報であるとの考え方であるが、今日ではこの考え方は採用されていない。むしろ、犯罪防止の効果もあるとする相対的応報論が有力になっている。これは一般予防や特別予防を考慮する目的刑論と類似した概念である。そして、その目的として予定される機能に関して、以下の分類がなされている。
消極的一般予防:潜在的犯罪者の威嚇を手段として犯罪防止を目指すもの
積極的一般予防:遵法的市民の規範意識の維持・回復を主だとするもの
消極的特別予防:犯罪者の威嚇や隔離を手段とするもの
積極的特別予防:犯罪者の規範意識の向上を手段とするもの

④ 刑罰の機能に関する実証的研究は、死刑の抑止力に関するものがあるものの、ほとんど行われていないのが現状である。ただ、自由刑に関する犯罪予防効果に関しては幾分とも研究がおこなわれているという程度である。その研究によれば、厳罰化を行って拘禁期間を長期化させても、その効果、つまり犯罪の現象はほとんど観察されていないという。これは、例えばスキナーの行動主義心理学の学習論からも明らかで、罰は望ましくない行動を消去させずに、潜在化させてしまう可能がある。再犯が多いということは、それ以前の拘禁の効果がないという事実を語っている。むしろ、犯罪の発覚のリスクが抑制と関係するという。さらに、この刑罰の機能に関しては、拘禁の長さという指標には関わらない多くの他の要因の関与が指摘されている。例えば、犯罪認知件数の多い窃盗に関しては、経済的な状況の影響が大きく、交通関係の犯罪においては、取り締まりをどの程度厳しくするかに依存している。もちろん、全くの刑罰がない世界、もしくは刑罰が課せられない状況を仮定できれば、当然、犯罪も増加することは火を見るよりも明らかである。

キーワード ① 刑罰の機能 ② 刑罰の本質 ③ 刑罰の目的 ④ 刑罰の種類 ⑤
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
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小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習: 刑罰の種類とその内容について、知識を整理しておこう。さらに刑罰の本質と目的、その機能について、どのようなことが仮定されているのか、心理学的な知識から判断してそのような仮定される機能は実現されているのか、心理学から検討できることも多いと思われる。そういう批判的思考を養おう。
予習:次回の授業は死刑という刑罰について考える。死刑に関しては、世界の多くの国々で廃止の決定がなされてきている。しかし、日本ではそれが維持されていて、廃止の方向性は見えていない。死刑がどのような刑罰であるのか、理解しよう。

12 刑事制裁:死刑を考える 科目の中での位置付け 死刑は現行法上最も重い罪である。死刑に関しては、人間の存在そのものを否定・抹殺するという刑罰のであるために、古来より、その存廃が議論されてきた。近年では世界的に死刑廃止の方向での議論が盛んであり、1989年12月には「死刑廃止条約」が採択されるなど、死刑廃止に向けた議論や運動が盛んに行われてきている。人間存在の否定という問題もさることならが、裁判が絶対的に正しということもない。もし、裁判が誤ったがために、人の命が誤って抹殺されるとなれば、それは国家の犯罪ということになる。実際、1970年代には死刑囚が冤罪とわかり、無罪となることが起こった。本授業では、死刑の抱える様々な議論・問題を考える。
コマ主題細目①②
藤本哲也(2006) 『刑事政策概論(第6版)』青林書林 第3章・刑事制裁に関する諸問題、第2節・死刑
コマ主題細目 ① 日本の死刑制度 ② 死刑存廃論の理論 ③ ④ ⑤
細目レベル ① 日本の死刑制度、その概要:刑法典12罪種、特別法6種の法廷刑に死刑が含まれている。外患誘致罪(刑法81条)は死刑を絶対的法定刑としている。外患誘致罪とは、外国と通謀して日本国に対して暴力を振るう行為をいう。法定刑で死刑のみというのは現行法令上では本罪のみである。さて、死刑が確定すると、執行まで刑事施設に拘置される(刑11条2項)。刑事施設では、心情の安定を目標とし(刑処32条)、昼夜間単独室にて処遇され、死刑確定者は原則お互いに接触することはない(同36条)、刑罰は一般に検察官の指揮によって執行されるが、死刑は法務大臣の命令によって執行される(刑訴法475条1項)。
死刑執行命令は判決確定から6ヶ月以内に執り行わなければならないが(同2項)、これは訓示規定と解され、有名無実化している。心神喪失、妊娠中の女子に関しては、法務大臣の命令によって執行を停止される(同467条)。執行方法は絞首であり(刑11条1項)、刑事施設内の刑場において執行される(刑処178条1項)。検察官、検察事務官、刑事施設長またはその代理の者の他は、検察官、施設長が許可したものしか立ち会いできない(刑訴477条)。
死刑の適用状況:死刑の適用は永山基準に準じて認められるようにと求めている。死刑の適用に関しては、謙抑的な基準となっている。つまり「犯罪の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残忍性、結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき、その罪責が誠に重大であって、刑罰の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には、死刑の選択も許される」最高裁58・7・8刑集37巻6号609頁)である。
永山基準とは、死刑を適応する際の基準。永山事件では、被告人が米軍基地より盗んだ銃で4人を殺害した。地裁では死刑、控訴審の東京高裁では無期懲役、上告の最高裁では死刑判断の基準を示すことになり、その基準は判例ではあるが(法律ではない)、死刑を言い渡す際の基準となっていて、それを永山基準と呼んでいる。刑事施設では、心情の安定を目標とし(刑処32条)、(昼夜間単独室にて処遇され、死刑確定者は原則お互いに接触することはない(同36条)


② 死刑存廃論の理論:既に記したが、死刑に関しては国際的には、その廃止が主な潮流になってきている。死刑廃止国は現在、142カ国に達し、存続国は56カ国にとどまっている。いわゆる先進国と呼ばれる国で死刑制度を維持しているのは、米国と日本くらいである。E Uはその加入条件に、死刑の廃止を求めている。アメリカ合衆国は死刑を残す州が29州と連邦である。
この死刑の存廃に関しては、その案件の複雑さゆえに、当然のことながら多くの論点が存在する。
賛成論の根拠:
① 法の正義である絶対的正義の見地からは故意の殺人には死刑が最もふさわしい
② 死刑廃止は殺人犯人の生命が被害者の生命よりも高く評価されていて不当
③ 殺人者は生命を奪われるべきとの国民の法的確信が存在する
④ 世論では国民の多くは死刑の存置を望んでいる
⑤ 社会の応報感情は犯人が死刑に処せられることで満足する
⑥ 被害者の親族は加害者が死の贖罪によって満足する
⑦ 死刑の廃止は私刑の増加を招く
⑧ 現在の犯罪状況は死刑を必要とする
⑨ 裁判は慎重な手続きで進められていて、現状で支障はない
⑩ 死刑には犯罪抑止効果がある
⑪ 死刑は無期懲役に比べて経費がかからない
⑫ 大多数の死刑犯は、罪の償いとして死刑を歓迎する
反対論の根拠:
① 死刑は人道的感情に反する野蛮な刑罰である
② 死刑の存在は国家が殺人を禁止していることと矛盾する
③ 社会的形契約として自己の生命を奪わせる権能を他人に授ける人はいない
④ 世論調査は世論を正しく反映しておらず、生命剥奪を大多数によって決めるのはおかしい
⑤ 死刑には威嚇力がない
⑥ 死刑は自己犠牲の衝動を満足させ、この制度がなければこうした欲求を満足させるための殺人はおこらない
⑦ 死刑は一般人に対して残忍性を流布し、人命軽視の風潮を醸成する
⑧ 死刑は復讐を基礎とするもので、改善主義の理念に反する
⑨ 誤判の場合、死刑は執行されると回復できない
⑩ 死刑は憲法に違反する

最高裁は
① 憲法13条は公共の福祉に反する場合は、国民の生命権も制限ないし剥奪されることを当然予想している
② 憲法31条は、刑罰として死刑の存置を想定している
③ 死刑そのものが残酷な刑罰として、憲法36条に反するとは考えられない
として、死刑を合憲として判断している(最大判昭23・3・12刑集2巻3号191頁)

さあ、学生諸君の意見やいかに。




キーワード ① 死刑 ② 最高裁 ③ 憲法 ④ 廃止論 ⑤
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小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:死刑は単純に考えられがちだが、国が人を死にいたらしめるという刑罰である。人権との関係、賛成反対論、考えなくてはならない重要なテーマが目白押しである。一国がどのような死刑制度をもつのかというのは、人間の生命をどう考えるのかが反映される極めて重要な問題である。そのことを意識して復習してほしい。
予習:次回の授業では、死刑以外の刑罰である無期刑、終身刑、自由刑について学習するので、シラバスを読んでおくように。

13 無期刑・終身刑・自由刑 科目の中での位置付け 無期刑とは執行期間が定まっておらず、10年経過後に釈放が可能になる自由刑である(刑28条)。つまり、無期形とは、期間が定まっていない刑罰というように理解すれば、10年以上の不定期刑ということになる、しかし、現行法の規定では、仮釈放になっても恩赦が与えられないと、一生刑が終了しないことを意味する。つまり、仮釈放付きの終身刑というように解釈可能である。現行法上仮釈放のない終身刑は存在していないが、死刑の代替刑としての終身刑に、死刑の何を代替するのかという問題がつきまとう。このあたりの解決がなされないと難しい罪刑になる。現行法上の自由形は、懲役、禁錮、勾留である。懲役と禁錮には無期と有期があり、有期は1月以上20年以下とされている。勾留は1日以上30日未満である。今回の授業ではこの無期刑・終身刑・自由刑の3者の刑罰の相違等を理解する。
藤本哲也(2006) 『刑事政策概論(第6版)』青林書林 第3章・刑事制裁に関する諸問題、第3節・短期自由刑、第4節・不定期刑、第5節・罰金刑
コマ主題細目 ① 無期刑 ② 終身刑 ③ 自由刑 ④ ⑤
細目レベル ① 既に記したように、無期刑とは執行期間が定まっておらず、10年経過後に釈放が可能になる自由刑である(刑28条)。つまり、つまり、言い換えれば、刑期の終わりが無い、つまり刑期が一生涯にわたるもの(受刑者が死亡するまでその刑を科するというもの)を意味し、有期懲役より重い刑罰である。この無期刑を複雑にしているのは、この無期刑が死刑にするには躊躇されるとの判断で採択される場合と、有期刑では賄えないと判断されて採択される場合があるということである。つまり、ダブルスタンダードがこの両者によって示されてしまうという問題である。今日、無期刑の仮釈放は30年以上の刑の執行を受けないと行われないことになっている。2017年において、仮釈放が許可されていない受刑者は250人を超えている。この者のうち、仮釈放が審理で許可されなかった割合が77%になる。つまり、仮釈放を受けるのは難しいという現実がある。
② 終身刑:この終身刑においても、死刑の代替案としての終身刑が、死刑の何を代替するのかが議論になる。つまり、①死刑からの格下げなのか、②無期刑からの格上げなのかという問題である。この終身刑は、社会復帰もめざさす、しかも死刑確定者のような心情の安定という処遇の目標も求められていないために、その処遇の目的が不明との解釈も成り立ってしまう。この問題に対して、施設内での処遇次第で生きがいを見出すこともできるとの見解もある。しかし果たしてそうであろうか。社会復帰の意味もなく、不安に暮らすという可能性もあろうし、高齢化の問題も回避できない。この終身刑の導入には理論的整合性を見いだせない限り、その導入には身長でなくてならないであろう。
③ 自由刑とは、刑事施設に身体を拘束することで移動の自由を奪う刑罰をいう。現行法では、懲役、禁錮、拘留が自由刑になる。上に記述した通り、懲役と禁錮には無期と有期があり、有期は1月以上20年以下とされている。勾留は1日以上30日未満である。これらに共通しているのは、施設内において拘置されるということである。ただ、懲役には「所定の作業」というものが付与される。しかし禁錮にはこれがない。
①自由刑の歴史:自由刑が刑罰において重要な意味を担うようになったのは16世紀末のことといわれる。それは労働力としての受刑者という機能に結びついている。歴史的には懲治場としてのロンドンのブライドウエルやオランダのアムステルダムでのことで、貧救院、工場、刑事施設を併せ持ったものであった。

自由刑は、期間によって有期刑・無期刑(終身刑)・不定期刑に分類できる。有期刑は、期間を定めて自由を剥奪するもの、無期刑(終身刑)は(原則として)死ぬまで刑期が終了しないもの、不定期刑は期間を定めないものである。無期刑(終身刑)は(原則として)死ぬまで刑期が終了しないもの、不定期刑は期間を定めないものである。



キーワード ① 無期刑 ② 終身刑 ③ 自由刑 ④ 不定期刑 ⑤ 仮釈放
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小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:無期刑、終身刑、自由刑のそれぞれの刑がどのような内容であるのかをきちんと整理してまとめておくこと。さらに、無期刑においては、解釈によってはダブルスタンダードに思われるような内容を含み得るということを念頭に、その刑の問題につても考えておくと良い。予習:次回の授業は処分という、将来に犯罪の起こる危険性に対して、特別予防という概念によって、その危険性に対処しようとしている。このような処分にどのようなものがあり、どのような機能を果たすのかシラバスを読んで理解しておきたい。
14 処分論について 科目の中での位置付け 犯罪への公的対応制度としての刑罰を、過去に生じた犯罪行為への応報と考える場合、その犯罪行為に対する責任を超える国家的な介入は許されない(行為責任主義)。ただ、行為そのものに対してではなく、その行為者に対しては、将来の犯罪の危険性にどのように対処するのかが問題となる。刑罰とは別にこの問題が論じられるのが「処分」である。現行法上は「保安処分」は存在していない。しかし特別予防という概念を全面に押し出していけば、保安処分という概念に近づくことが理解される。この関係が行為責任という概念と強い緊張関係を生み出す可能性に注意が必要である。今回授業では、この処分という法的概念について学ぶ。
コマ主題細目①②③④
藤本哲也(2006) 『刑事政策概論(第6版)』青林書林 第3章・刑事制裁に関する諸問題、第7節・保安処分、第8節・保護処分
コマ主題細目 ① 保安処分 ② 補導処分 ③ 精神障碍者による触法行為への対応 ④ 資格制限 ⑤
細目レベル ① 保安処分とは犯罪の防衛のために設けられた(特別予防という点から)刑罰以外の法律効果のことである。この保安処分には人に向けられるものと物に向けられるものがあり、前者にはさらに自由剥奪を伴うもの(施設内での執行)とそうでないものがある。
自由剥奪を伴う対人的保安処分には①精神障害者に対する治療・養護処分、②アルコール・薬物中毒者に対する禁絶処分、③精神病質者に対する社会治療処分、④危険な常習者・性癖的犯罪者に対する予防処分・保安拘禁、⑤労働嫌忌者・浮浪者・売春婦などに対する労作処分などがある。自由剥奪を伴わない対人保安処分には、①居住制限・禁止、②職業禁止、③国外追放、④断種・去勢、⑤善行保証、⑥行状監督などがある。対物的保安処分には、①没収、②営業所・事務所の閉鎖、③法人の解散、④運転免許の剥奪などがある。

② 補導処分:現行法で唯一保安処分とされるのは、売防法第3章に定める補導処分である。これは売防法第5条に違反する罪を犯した女子に対して懲役、禁錮の刑の執行の猶予をしたときに、その執行猶予の代わりに婦人補導院(日本では東京に1庁置かれているだけである)に入れて、その更生に必要な補導を行えるとする処分である。
補導処分で、第5条「売春をする目的で、次の各号の一に該当する行為をした者は、六月以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。一 公衆の目にふれるような方法で、人を売春の相手方となるように勧誘すること。二 売春の相手方となるように勧誘するため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと・・・」と規定している。

③ 精神障碍者による触法行為への対応:心神喪失者・心神耗弱への対応:責任能力とは、弁識能力(是非の判断能力)と制御能力(自己の統制能力)から構成される。これらの能力のいずれかがないと心神喪失で無罪となる(刑39条1項)。そして、これらの能力のいずれかが弱まっていると心神耗弱により刑が軽減される(刑39条2項)。ただ、これらの法の適用以前に不起訴処分とされて、無罪となる者の数を凌駕しているのが現状である。
措置入院制度:精神保健福祉法に基づいて、精神障碍者で自身を傷つけたり、他者に危害を加える可能性がある者は、本人・関係者の同意なしに、精神科医の診察によって都道府県知事が公立もしくは指定の病院に入院させる制度をいう(精神保健福祉法29条)。特徴はそれが司法判断ではなく、行政判断であるということ。

④ 資格制限:有罪の宣告や刑事処分を受けて、犯罪行為者が社会生活を送る上で必要な権利や地位を剥奪することを、資格制限という。歴史的には変遷がある資格制限であるが、現在では以下の類型がある。制限ないし剥奪される客体:①市民としての権利、②公務員の身分、③職業である。
①知られた例としては公民権の制限(公民権停止)がある。
②に関しては、禁錮刑以上の刑を受けた者がその執行が終了するまで、公務員に就けないという制限である。
③職務遂行上の犯罪に関連して、その職務に従事することを禁止するものである

資格制限に関しては、現代ではその資格が多様化していて、その形態や法的運用に関する議論が十分に行われる必要があるように思われる。


キーワード ① 保安処分 ② 補導処分 ③ 精神障害の場合の処分 ④ 資格制限 ⑤
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小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:処分には4つのカテゴリーにさらに、下位の項目が多くあるものがある。それらの処分は、現実にそういう処置をしないと将来に一般市民に危険が及ぶということが予想される場合に行われるものである。このような処分は適切に行われれば、正しい予防になるだろうが、一歩間違えば、人権蹂躙につながる危険性を孕んでいるとも言えよう。批判的思考が試される。しっかり理解したい。
予習:次回は司法過程について学習する。ここでは特に、身近な存在である警察について考える。その歴史、その規模、法律、目的などについて事前にシラバスを読んでおこう。

15 刑事司法過程について 科目の中での位置付け 刑事司法過程という概念は、典型的には判決が確定するまでのプロセスを指す。従来、この部分に関しては刑事訴訟法学の担当ということになっていた。しかし、刑事政策の伝統的な定義では、犯罪の予防も検討対象とされている。また捜査や公判での犯罪の解明過程では、制度の持つ特徴や運用が色濃く出てくることがある。今日では裁判員制度も導入され、さらに被害者参加制度も導入され、専門家以外も刑事司法に参加するようになってきた。そのような折には、刑事司法制度が健全に機能することをきちんと保障するような検討が常になされる必要がある。今回の授業では、犯罪の捜査に欠かすことのできない警察の組織と責務について考える。
コマ主題細目①②③
警察の仕組み:警察庁Webサイト 
https://www.npa.go.jp/about/overview/sikumi.html
コマ主題細目 ① 警察の組織 ② 警察の責務 ③ 警察改革 ④ ⑤
細目レベル ① 警察の組織:歴史的に警察制度は明治時代に作られた、中央集権型の国家警察であり、衛生、建築、労働などに関する事務も所轄する巨大組織であり、権力も集中していた。特に治安維持法のもとでは様々な人権蹂躙が行われ、戦後にはその反省とともに組織改革が行われた。戦後には、その責務が制限され、自治体警察と国家警察とに分けられた。また市町村、都道府県、国にそれぞれ公安委員会が設置された。しかし1954年には警察法の改定により、大きく組織改革が行われ、警察組織は都道府県警察に一本化され、警察庁長官の指揮監督制度、地方の警察の国庫支弁制度、上級幹部職員を国の職員とする制度を用意した。
警察官の階級は、警視総監、警視監、警視正、警視、警部、警部補、巡査部長、巡査に別れている。警視正以上の給与、犯罪鑑識施設の経費、警察車両船舶装備の経費、警衛・警備の経費、などなどは国が支弁している。つまり、自治体警察の理念はここにはない。警察の組織分類はおおよそ次の4つである。
刑事警察:犯罪対策
警備警察:公安、治安、災害などに対処
交通警察:交通に係る諸業務(指導、教育、運転免許)
生活安全警察:地域防犯活動支援、ストーカー、D V、サイバー犯罪など

② 警察の責務:警察の任務は「個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締、その他公共の安全と秩序の維持に当たることをもってその責務とする。」と定められている(警察法2条1項)。そして同条の第2項では、その権限についての規定を述べている。「警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであって、その責務の遂行に当たっては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあってはならない」としている。
③ 1990年代後半に、警察官が被害女性に押収品の売買や交際を強要したり、覚醒剤使用の疑いのある同僚を匿ったり、重大事件が発生しているのに出動要請に応じなかったり、その折に幹部が宴会に興じていたなどの不始末が頻発した。被害女性が殺害された桶川事件は大きな社会問題になった。そこで2000年に警察刷新会議が開かれ、警察改革要綱が出された。その内容は①情報公開の推進、②警察職員の職務執行に対する苦情の適切処理、③警察による厳正な監視の実施、④公安委員会の管理機能の充実と活性化、⑤国民の要望と意見の把握と誠実な対応、⑥国民の身近な不安を解消するための警察活動の強化、⑦被害者対策の推進、⑧実績評価の見直し、⑨新たな時代の要請に応える警察の構築、⑩警察活動を支える人的基盤の強化、である。
警察は巨大な組織と権力を有している。組織が暴走しないような市民の監視が必要であり、また実務的な統制に関しても常に考えておく必要があろう。




キーワード ① ② ③ ④ ⑤
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小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:警察の存在は身近でありながら、実際の法律に関しては意外に知られていないのではないだろうか。犯罪の予防、取り締まり、職位、問題点など、きちんと理解しておくことが重要である。かつて、警察が行った誤った行為によって、多くの人が辛酸を経験した。市民はきちんと警察の活動をウオッチしておく必要があるだろう。そういう意味でもしっかり復習して警察の全体像を理解したい。


履修判定指標
履修指標履修指標の水準キーワード配点関連回
刑事政策の理論的展開及び刑事政策における統計の利用と問題の理解 刑事政策に関する基本的概念を広義の意味と狭義の意味から考える。さらに刑事政策がどのような形で理論的に発展したかを、ドイツ、フランスからの影響を考慮しながら、日本の刑事政策について理解する。また、刑事政策の目的がどこにあるのか、隣接諸科学との関係を理解する。また犯罪の現実を理解するためには、統計的情報が欠かせない。犯罪に関わる統計の種類、それらの統計の各々の持つ特徴、統計における暗数問題への考慮を理解する。 犯罪学  刑事学  刑事政策 事実としての刑事政策 学問としての刑事政策 犯罪統計 暗数 20 1,2,3
刑事政策の国際性と新しい動向、各種犯罪原因論の理解 刑事政策は国内の犯罪に関係するだけに止まらない。そこには現代におけるグローバル化に伴う国際問題への対処が関係する。この国際的な次元での刑事政策を理解する。次に、刑事政策における重要なテーマの一つである犯罪の原因について理解する。ここでは、現在に至るまでにさまざまな原因についての研究が行われてきている。それぞれの犯罪原因に関する諸事実や理論に関して理解し、隣接諸科学におけるアプローチも理解していること。 国際性 犯罪原因 鬼神論 内的要因 外的要因 家族研究 精神医学的原因論 生物学的原因論 20 4,5,6
犯罪の心理学的原因論と社会的原因論の理解 犯罪の原因論における心理学的原因論と社会的原因論を理解する。犯罪対策には犯罪の根本である発生原因の理解が必要不可欠である。しかもその原因の解明には隣接諸科学からのアプローチからの成果に頼る必要がある。犯罪の心理学的原因論と社会的原因論の理解
では、前者に関してはフロイト及びフロイト以降の精神分析を用いた理論的展開を理解し、そして社会的原因論においては社会心理学からの説明について理解することが必要である。
フロイト コンプレックス 無意識 犯罪社会学  文化伝搬学説 文化葛藤理論 下層階級文化理論 社会構造説 社会心理説 社会的相互作用説 20 7,8,9
刑罰制度について理解すること(その思想的発展と各種刑罰について) 罪と罰。ここでのテーマはいわゆる罰である。刑罰についても現在の刑罰に至る歴史的展開がある。それを理解すること。そして何よりも重要なのは、現実にどのような刑罰が用意されていて、それらはどのような目的で、どのような機能を果たすことが予想されているのかを、個々の刑罰に関して、理解することである。歴史的な認識のもとに発展してきた刑罰が日本に導入されて、どのように展開されてきたか、その問題点も批判的に吟味できること。 刑罰制度 自由主義刑事法思想  啓蒙主義刑事法思想  カント ヘーゲル 刑罰の機能 刑罰の本質 刑罰の目的 刑罰の種類  死刑制度 憲法 最高裁 死刑 20 10,11,12
無期刑・終身刑・自由刑と処分の理解 警察制度の理解 死刑に続く刑罰として、無期刑・終身刑があり、さらに自由刑がある。これらの刑罰の存在理由とその内容について理解すること。また、処分という、犯罪行為そのものではなく、行為者の将来の犯罪の危険性に関わる刑罰以外の法律効果について理解しておく。処分の種類、それぞれの処分の内容について説明できる。また犯罪捜査の最前線で活動する警察という組織の持つ目的と責務、そして警察に関わる問題解決のための警察改革について理解する。 処分論 保安処分 補導処分  資格制限 警察の組織 警察の責務 警察改革 20 13,14,15
評価方法 定期試験の結果によって評価する。
評価基準 評語
    学習目標をほぼ完全に達成している・・・・・・・・・・・・・ S (100~90点)
    学習目標を相応に達成している・・・・・・・・・・・・・・・ A (89~80点)
    学習目標を相応に達成しているが不十分な点がある・・・・・・ B (79~70点)
    学習目標の最低限は満たしている・・・・・・・・・・・・・・ C (69~60点)
    学習目標の最低限を満たしていない・・・・・・・・・・・・・ D (60点未満)
教科書
参考文献
実験・実習・教材費