区分 犯罪心理学発展科目 法心理学領域
ディプロマ・ポリシーとの関係
専門的知識と実践的能力 分析力と理解力 地域貢献性
カリキュラム・ポリシーとの関係
課題分析力 課題解決力 課題対応力
カリキュラム全体の中でのこの科目の位置づけ
個人・社会・自然が直面する課題に対して専門的な理解を深めると共に、学際的な柔軟性を有し、実践的な能力を有する。
科目の目的
刑事法は、刑法、刑事訴訟法、犯罪者処遇法という3つのグループから構成されている。刑法は犯罪と刑罰の内容を定めている。刑事訴訟は実際に方の下に犯罪行為に対して証拠を集め、刑法の処罰規定に照らして刑の重さを決定し、その刑を執行するための具体的手続きを定めたものである。本講義では、刑法学の歴史についておさえた上で、刑法総論、そもそも犯罪とは何か、また、多くの犯罪に共通する犯罪の成立要件(犯罪論)とそれに対する刑罰(刑罰論)を中心に解説する。あわせて、判例にもとづいて犯罪とは何か、そして、刑法の本質的な考え方について理解を深めるとともに、その背後にある刑法上の理論的問題点についても考察する。以上により犯罪心理学を専門的に学ぶために必要となる刑事法理解の土台を形成する。ただ、犯罪原因と犯罪者処遇に関しては、刑事政策論と重なるため、この部分はそちらの授業にて教授する。
到達目標
この講義の目標は、刑事法を始めて学ぶ学生諸君が、刑事法の全体像の概略を理解することを目標にしている。刑事法は刑法、刑事訴訟法、犯罪者処遇法という3つのカテゴリーから構成されている。犯罪者処遇法に関しては、刑事政策論において授業を展開するので、本授業では必要最低限のレベルにとどめ、必要に応じて言及することにする。刑法は犯罪に関する総則きて及び個別の犯罪の成立要件やそれに対応する刑罰を定めた法律のことである。また刑事訴訟法は刑事手続きを定めた法律であり、犯罪捜査から刑の執行に至る過程に関する法律である。以上の理解を深め、心理学が法的世界にできる貢献の可能性も探る。
科目の概要
1)刑事法とは何か、2)刑法とその解釈、3)刑法各論のあらまし、4)犯罪論の基礎:構成要件、5)犯罪論の基礎:違法性、6)犯罪論の基礎:責任、7)故意と過失、8)未遂犯と共犯、9)量刑、10)刑事訴訟法の基礎、11)捜査と公判、以上について学ぶことになる
科目のキーワード
刑法、総論 各論 刑事訴訟法、犯罪者処遇法、犯罪理論、構成要件、責任論、捜査 
授業の展開方法
この授業ではパワーポーイントを使用した授業を展開するが、その内容に対応した資料も配布する。学生諸君は授業でパワーポイントや資料にはない話も展開するので、それらの内容についてノートをとるなり、配布資料に記入なりして、学習内容の効率的理解をするように。また疑問点やわかりにくい箇所を明確にしておくことも重要であるので、そういうメモも残しておくこと。
オフィス・アワー
【月曜日】4時限目(後期のみ)、【火曜日】3時限目(前期のみ)・4時限目(後期のみ)、【水曜日】2・3時限目(前期のみ)
科目コード PSC601
学年・期 2年・前期
科目名 刑事法
単位数 2
授業形態 講義
必修・選択 必修
学習時間 【授業】90分×15 【予習】90分以上×15 【復習】90分以上×15
前提とする科目 刑事政策論
展開科目 総合演習Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ
関連資格 なし
担当教員名 厳島行雄
主題コマシラバス項目内容教材・教具
1 刑事法とは何か 科目の中での位置付け まず、授業の進め方と成績評価の方法に関して説明する。次に、本講義である刑事法において学習する刑法、刑事訴訟法について概観する。刑法学者の井出氏は氏が著した刑事法学の著作の冒頭で、刑法の講義を聞いたり、本を読んでもなかなか理解できなかったという。彼ほどの学者をしても、刑法もしくは刑事法の体系的理解はなかなか困難であったというのである。それは法的世界の専門用語の理解、理論の理解が必要不可欠なのであるが、普段の日常生活ではなかなか接することがない知識の体系を学習しなくてはならないからである。しかし、学生諸君においては地道な努力を傾注することで、次第に法的世界の思考法を身につけていくことができるであろう。この授業はその最初の入り口である。
コマ主題細目①
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第1章 刑事法とは何か。
2〜4頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、はじめて刑法を学ぶ人たちへ1〜9頁。

コマ主題細目②
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第1章 刑事法とは何か。5〜6頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、はじめて刑法を学ぶ人たちへ1〜9頁。

コマ主題細目③
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第1章 刑事法とは何か。5〜10頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、はじめて刑法を学ぶ人たちへ1〜9頁。
コマ主題細目 ① 刑事法とは何か ② 狭義の刑事法学 ③ 広義の刑事法学 ④ ⑤
細目レベル ① 刑事法とは何か:刑事法とは、ドストエフスキーではないけれど、「罪と罰」に関する法の体系である。日常生活において、学生諸君はSNS、ニュース番組などで、さまざまな犯罪を目にし、耳にしているだろう。店に押し入って金品を盗んだり、取りがかりの人を殴って怪我をさせたり、・・・。こういう行為は犯罪として国から刑事責任を追及される。そして刑罰という制裁が課せられる。国(国家)は犯罪者を処罰する刑罰権を有している。この刑罰権が濫用されては困る。そこで、事前にルールを決めて、国家機関がそのルールを超えないようにする(コントロールする)必要がある。犯罪と刑罰とに関わる法的な規則の体系を刑事法と呼んでいる。その目的は国家の刑罰権の発動や実現を規律し、コントロールすることにある。そのための法規範が刑事法である。
② 狭義の刑事法学:法の適用と解釈の必要性。刑法や刑事訴訟法の規定を現実の事件に適用するためには、事前に法の規定の持つ意味を明らかにしておく必要がある。ここで言葉や文章の意味をはっきりさせることを「解釈」と呼んでいる。つまり、法を適用するためには法解釈が必要なのである。つまり、他の法体系(憲法、民法、・・)と同様に、刑法も刑事訴訟法も法の解釈が中心である。狭義の意味での刑事法学は法解釈学なのである。
③ 広義の刑事法学:犯罪と刑罰という学問分野は、刑法と刑事訴訟法だけに収まらない。例えば、犯罪現象とその原因を科学的に探るには犯罪学、犯罪対策には刑事政策学がある。ここで犯罪学とは犯罪原因や犯罪が起こる背景に関する科学的仮説や実態の把握に努める。また刑事政策では、犯罪学の研究成果を受けて、犯罪の増加を抑制できるような対策を提案し、実現する。また犯罪者に対してどのような処遇を行うのが望ましいのか(再犯を防げるのかなど)等の研究を行う。


キーワード ① 刑事法 ② 狭義の刑事法 ③ 広義の刑事法 ④ ⑤
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 今回は初回の授業なので予習はなしである。復習は必須である。心理学では事前の学習材料(先行オーガナイザーとも)を与えて学習を進めると、後の学習成績がよくなるということがわっている。しかし、学習内容を理解して記憶に留める(エピソード記憶から意味記憶へ)ためには、反復学習が重要である。今回は上に掲げた、刑事法とは何か、狭義の刑事法学、広義の刑事法学の3つのテーマについて、復習しておくこと。次回に以上の学習内容に関する簡単なクイズを実施し、評価のための参考にするのでそのことも記憶しておくこと。
2 刑法とその解釈 科目の中での位置付け 刑法とはどのような行為が犯罪となり、それに対してどのような刑罰が科されるのかを定めた法律のことである。刑法には特別刑法の存在がある。また刑法の根幹には罪刑法定主義という考えがある。そして刑法は総論と各論に分かれている。さらに刑法は解釈される法律であるということを理解する。今回の授業では以上の刑法の基本的概略を理解する。
コマ主題細目①
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第7章 刑法とその解釈。
86〜100頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第1章「刑法の歴史と基本原則」40〜56頁。

コマ主題細目②
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第7章 刑法とその解釈86〜100頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第1章「刑法の歴史と基本原則」40〜56頁。


コマ主題細目③
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、71章 刑法とその解釈86〜100頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第1章「刑法の歴史と基本原則」40〜56頁。

コマ主題細目④
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第1章 刑法とその解釈86〜100頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第1章「刑法の歴史と基本原則」40〜56頁。
コマ主題細目 ① 刑法とは ② 罪刑法定主義について ③ 刑法の解釈 ④ 刑法学(総論と各論) ⑤
細目レベル ① 刑法とは:刑法とはどのような行為が犯罪となり、それに対してどのような刑罰が科されるのかを定めた法律のことである。ただ、六法の「刑法」(刑法典)だけが刑法ではない。犯罪と刑罰に関する法規範はそれ以外にも存在するのである。特別刑法と呼ばれる法規範である。例えば、皆さんにもよく知られている「道路交通法」(行政刑法)、芸能人でとかくクローズアップされる「覚醒剤取締法」、「銃砲刀剣類所持等取締法」、「軽犯罪法」・・など、多くの特別刑法が存在する。形式的意義の刑法と実質的意義の刑法の区分。
② 罪刑法定主義について:これは刑罰に関する極めて重要な原則である。それは「法律なければ刑罰なし」という表現に如実に現れている。それは「いかなる行為が犯罪となり、これにどのような刑罰が科されるかは、あらかじめ法律によって定められていなければならない」という原則である。これは国民の自由を保障するための重要な、必要不可欠な原則とされる。人がどのような行動を取ったら犯罪になり、ならないのかが事前にわかっていなければ、行動するたびに犯罪の可能性を考慮しなくてはならず、全く自由が保証されなくなってしまう。またこの法律も国民の手によって(国会で)決定されなくてはならない。 
③ 刑法の解釈:立法論と解釈論。立法とは法を作ることであるが、これは国会の役割であり、裁判所、警察、検察などの司法機関は、刑法を前提としてこれを解釈し、適応するという仕事をしていることになる。人々が処罰されて当然と思われるような行為でも、その処罰が予定されている法の規定がなければ、解釈として処罰が行われても、それは「新たな立法」とみなされ、罪刑法定主義に反することになる。裁判所の役割はあくまで法の解釈であり、立法は国会の役割である。
では、解釈にはどのような種類があるだろうか。刑法の解釈というのは、事件に刑罰規定を適用する前提として、法規の持つ意味を理解し、明確にすることである。このような解釈には1)文理解釈(国語辞典に載っているような文字通りの意味解釈)、2)拡張解釈(日常的な意味よりも少し広げて解釈するもの、3)縮小解釈(日常の意味よりも狭く解釈するもの)がある。また、4)類推解釈と言って、規定のものを拡張解釈しても解釈できないような場合には、類似の事例に適用されている解釈を借用する場合もある。さらに、5)反対解釈というものもあり得る。また解釈の基準をどのように設定するのかによる解釈の区分も可能である。それには1)文理解釈、2)歴史的解釈、3)理論的・体系的解釈、4)目的論的解釈がある。

④ 刑法典は、第1編の「総則」と各則編である第2編の「罪」(77条以降)という二つから構成されている。ここで総則とは、各則において個別的に問題とされることに共通する普遍的なものをまとめて、一般的に扱った部分のことであり、例えば、「故意」という概念はそれが窃盗罪であろうと、傷害罪であろうと、収賄罪であろうと、全ての犯罪に共通して扱うことができる。故に、刑法では第38条で、一般的に故意を規定しているのである。以上の総則と各則に対応させて、刑法学は刑法総論と刑法各論とに区分される。

キーワード ① 刑法総論 ② 刑法各論 ③ 罪刑法定主義 ④ ⑤
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習としては、細目レベルにて提示し、授業で展開した「刑法」と「特別刑法」について知識を整理しておくこと。次に、刑法の最も基本的原則である罪刑法定主義について、自分の言葉でその意味をきちんと説明できるようにまとめておくこと。次に、刑法における立法と解釈の違いについて、そして解釈の種類について整理しておくこと。最後に、刑法における各論と総論の意味、その関係についてまとめておくこと。
予習としては、配布資料に基づいて、刑法の各論について目を通しておくこと。各論は総論に対して具体的である。その内容の比較を考えておくこと。

3 刑法各論について(1) 科目の中での位置付け 法益の種類と刑法各論の体系について学ぶ。特にここでは刑法各論のうち、個人的法益に対する罪(生命身体に対する罪、自由に対する罪、私的領域に対する罪、財産犯)について学ぶ。また、個人的法益の保護と自己決定権についても学ぶ。
コマ主題細目①
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第7章 刑法とその解釈。
86〜100頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第3章「個人に対する罪」155〜228頁。

コマ主題細目②
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第7章 刑法とその解釈。
86〜100頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第3章「個人に対する罪」155〜228頁。

コマ主題細目③
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第7章 刑法とその解釈。
86〜100頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第3章「個人に対する罪」155〜228頁。
コマ主題細目 ① 刑罰法規の解釈と法益の重要性 ② 個人的法益に対する罪 ③ 個人的法益の保護と自己決定権 ④ ⑤
細目レベル ① 刑罰法規の解釈と法益の重要性:刑法各論は個別の犯罪累計を定めた刑罰法規の解釈によって、各犯罪の具体的な内容と成立要件や、犯罪類型の相互関係をあきらかにしようとしている。この刑法各論の研究対象には、特別刑法の規定も含まれていて、極めて広範囲の領域を形成していると言える。特に、特別刑法は社会の複雑化に伴い、また私たちの生活に直結するものが多く、その重要性は増すばかりである。
犯罪のグループ分け:それぞれの犯罪累計の保護法益を明らかにすることが解釈のために必須であるので、犯罪類型の体系化も保護法益を基準として行われるのが一般的である。法益はその利益の主体が個人であるか、社会であるか、国家であるかによって、個人的法益、社会的法益、国家的法益に分類される。

② 個人的法益に対する罪:①生命身体に対する罪:刑法は生命や身体への侵害の行為に対して、処罰の対象としてきた。これは考えてみれば極めて当然の考え方であり、最も基本的な保護といえよう。具体的には、生命や身体に対する侵害行為は、殺人罪(199条)であれ、傷害罪(204条)であれ、厳しい処理が予定されている。そして、これは故意によってではなくても、過失傷害罪や過失致死罪(209条〜211条))という、過失によっても犯罪になる。さらに遺棄罪(217条)のように、生命や身体の危険に晒すだけでも、処罰の対象になる。また故意による殺害を計画するような行為は、結果が生じなくても(未遂でも)、処罰される。さらに殺人を準備する行為に対しても、処罰が用意されているのである(殺人予備罪、201条)。
②自由に対する罪:刑法が保護の対象としている個人的法益は222条、223条に示されている。自由を保護法益とする犯罪には以下のものがある。脅迫罪・強要罪(222条、223条)、逮捕罪・監禁罪(220条)、略取誘拐罪・人身売買罪(224条以下)、強制性行等罪・強制わいせつ罪(176条以下)などがる。
③私的領域に対する罪としては、住居侵入罪(130条前段)、不退去罪(130条後段)、個人の秘密を侵す罪としての信書開封罪(133条)、名誉に対する罪としては名誉毀損罪(230条)、侮辱罪(231条)などがある。またプラバシーは守られるべきであるが、これに対する特化した罪は存在しない。
④財産犯:財産罪には窃盗罪(235条)、強盗罪(236条)がある。また他人からの預かり物を処分してしまうと横領罪(252条以下)、放置された乗り物を自分のものとしてしまうと遺失物等横領罪(254条)になる。

③ 個人的法益の保護と自己決定権:個人的法益に関しては、原則としてその法益の持ち主が、自由に持ち物を放棄したり、処分したりすることができる。他人がもったいないとか思って、その処分を阻止することはできない。個人の意思決定が尊重される個人主義的色彩の強い社会においては、自己決定権が極めて大きく尊重される。自己決定権が尊重されると、当然のことながら、他者がその決定権を無視して行う行為も問題となる。例えば、本人の意思を確認せずに行った治療が成功したとしても、それは専断的治療行為と呼ばれて、治療が成功して病から回復しても、傷害罪が適用されるというのが通説である。ただし、この自己決定権にも限界がある。


キーワード ① 犯罪類型 ② 保護法益 ③ 個人法益 ④ 自己決定権 ⑤
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:刑法とは何かを簡潔に説明できるようにしておくこと。罪刑法定主義についてその意味について理解しておくこと。この原則が無い世界がどのような世界かを想像してみるとよい。刑罰法規の解釈と法益の重要性をまとめておくこと。また法益の種類についても整理しておくこと。予習:次回は刑法各論の第2回目として、社会的法益について、公共の安全など社会生活に欠かせない法益の保護について見ておくこと。
4 刑法各論について(2)社会的法益の保護と国家的法益の保護 科目の中での位置付け 前回の授業が刑法各論の個人の法益に対する罪を説明したが、今回の授業は広く公の、社会における法益の保護について学ぶ。それらsの具体的項目は、1)社会的法益の保護、2)公共の安全に対する罪、3)取引手段の信用性に対する罪、4)公衆の健康に対する罪、5)風俗ないし公の秩序に対する罪であり、私たちの日常の生活に直結した問題を扱っている。実際に法律によって法益がどのように守られているかを学ぼう。
コマ主題細目①②③④⑤
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第9章 「刑法各論のあらまし(2)」。116〜125頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第4章「公共に対する罪」229〜278頁。
コマ主題細目 ① 社会的法益の保護 ② 公共の安全に対する罪 ③ 取引手段の信用性に対する罪 ④ 公衆の健康に対する罪 ⑤ 風俗ないし公の秩序に対する罪
細目レベル ① 社会的法益の保護:①個人的法益に還元できない、公共的法益として社会的法益と国家的法益がある。ここで社会的法益とは、統治組織としての国、国の機関の存立と作用を除いて考えることのできる社会の法益のことである(引き算的発想)。社会的法益に対する罪の中心は法益侵害の危険があることを理由に処罰する危険犯ということになる。つまり、予防的な意味合いが強いといえよう。この社会的法益に対する罪はさらに、公共の安全に対する罪、取引手段の信用性に対する罪、公衆の健康に対する罪、風俗ないし公の秩序に対する罪の4つに分けられる。
② 公共の安全に対する罪:これには集団による暴行や脅迫によって一地方の平穏を乱す騒乱罪(刑106条)、放火罪(108条以下)、出水罪(119条)、往来を妨害する罪(124条以下)などがある。いずれも複数の住民や人を危険に晒すような罪である。以上のうち、最後の3つの罪は、公共危険犯(公共危険罪)と呼ばれるが、それは不特定の、もしくは多数の人の生命、身体、財産に対して危険を生じさせるためである。
③ 取引手段の信用性に対する罪:この罪としては、通貨偽造の罪(148条以下)、文書偽造及び電磁的記録不正作出の罪(154条以下)、有価証券偽造の罪(162条以下)、支払い用カード電位的記録に関する罪(163条の2以下)、印章偽造の罪(164上位か)の5つがある。これらの偽造は社会生活条必要な経済取引を中心として、人間関係をスムーズに進めるために利用される技術手段であるとことの利用物の公共的信用性を害する罪である。
④ 公衆の健康に対する罪:この罪としては公衆の飲料用の浄水やその水源を汚染すること(毒物の混入等も含む)、水道を破壊することなどが対象となる(刑142条以下)。さらに、薬物犯罪も考慮されなくてはならないが、こちらは特別法の「麻薬および向精神薬取締法」「大麻取締法」「毒物及び劇物取締法」などがある。これらはいずれも規制薬物の製造、輸出入、譲渡、使用、所持等については免許を与え、それを受けずにお今割れる行為を禁止している。
⑤ 風俗ないし公の秩序に対する罪(風俗犯):ここで分類されるのは、①わいせつ及び重婚の罪、②賭博及び富くじに関する罪、③礼拝所及び墳墓に関する罪の3種である。それぞれ、風俗の性的、経済的、宗教的側面に関わる罪とされる。

国家的法益の保護には、①国家の存在に対する罪、②国家の作用に対する罪、③国交に対する罪の3種がある。①には内乱罪(77条以下)、外患罪(81条以下)がある。②には、公務執行妨害罪(95条)、逃走罪(97条以下)、犯人蔵匿・証拠隠滅罪(103条以下)、偽証罪(169条)、虚偽告訴等罪(172条)がある。

キーワード ① 社会的法益の保護 ② 公共の安全に対する罪 ③ 取引手段の信用性に対する罪 ④ 公衆の健康に対する罪 ⑤ 風俗ないし公の秩序に対する罪
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:今回の授業は刑法のうち、公の、社会における法益の保護について学習した。それらの法益の種類とその内容について、整理して理解しておくこと。予習:次回授業は犯罪論の基礎として、犯罪とは一体何なのかを考える授業である。刑法における総論、各論の理解、犯罪の3要素である「構成要件該当性」、「違法性」、「有責性」について見ておくこと。



5 犯罪論の基礎(1) 科目の中での位置付け 犯罪とは何かを問うことが刑法総論の中核を成している。それを「犯罪論」呼んでいる。刑法総論では各論で扱うような個別の罪の関係やどのような区べつがなされるかが問題となる。しかるに総論では、犯罪が成立するとはどのような条件のもとで可能なのかというように、犯罪の構成要素ないし犯罪の成立要件を一般的、抽象的に論ずる。これが犯罪論であるが、議論は当然のことながら抽象的になる。それゆえ、理解の方も各論から比べると難しくなるが、これを理解することで犯罪とは何かの理論がわかってくる。


コマ主題細目①②③
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第10章 「犯罪論の基礎」。
126〜138頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第2章「犯罪の一般的な成立要件」57〜97頁。
コマ主題細目 ① 刑法の中核としての犯罪論 ② 犯罪の3要素 ③ 犯罪論の体系的特徴 ④ ⑤
細目レベル ① 刑法の中核としての犯罪論:刑法総論はまさに犯罪とは何かという、最も中心的なテーマを扱う。つまり、総論はできる限り普遍的な犯罪論を目指していると言っても過言ではないであろう。それに対して、各論は個別事象の解釈に必要な体系である。つまり、個別の事件がどのカテゴリに入るのかの解釈が行われるレベルということになる。総論はそういうレベルに足を踏み入れない。ある意味、犯罪の哲学と言っても良いかもしれない。
② 犯罪の3要素:現在の犯罪の成立に関する通説は、人間の行為が「構成要件該当性」、「違法性」、「有責性」の3つを順次備えるときに犯罪になるという。行為が①構成要件にあたり、②違法で、かつ③責任があるときに犯罪になるという。この3つの要素はそれぞれがラベルのように働き、そのラベルのもとに分類された諸概念や理論が用意されていると考えるとわかりやすい。つまり、①構成要件というラベルのもとには「実行行為」「作為犯と不作為犯」「因果関係」という概念や理論がある。②違法性のラベルのもとには「正当防衛」「緊急避難」が、③有責性のラベルのもとには「責任能力」「違法性の意識」「期待可能性」などの概念や理論がある。これらの概念や理論は特定の犯罪のみに関わるものではなく、全ての犯罪に共通して問題となるものである。
③ 犯罪論の体系的特徴:犯罪論は高い「抽象性」と「体系性」を兼ね備えている。ここで体系とは個々の異なった要素が相互に関連して、一つにまとまっているということを意味している。犯罪論が体系性を備えているというのは、先ほどの3要素のラベルのもとにある各概念や理論が、それぞれ異なった意味を持つものの、お互いが関係しあって、一つのまとまったシステムとして機能するというように言い換えることができよう。故に、ある一つの概念の解釈を変更すると、他の関連する異なる概念にまで影響が及ぶことがあるのは、まさに概念間に関連があることを示している。
ただ法律は現実の問題を扱う。そこで、体系的守備一貫性があっても、問題解決の妥当性という側面が損なわれては意味がない。つまり、両者の要請が調和されるようにするのが理想となる。



キーワード ① 刑法総論 ② 刑法各論 ③ 構成要件該当性 ④ 違法性 ⑤ 有責性
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:今回授業は犯罪論の基礎として、犯罪とは一体何なのかを考える授業であった。刑法における総論、各論の理解、犯罪の3要素である「構成要件該当性」、「違法性」、「有責性」について内容をまとめておこう。また刑法における総論と各論の違いについても整理しておこう。予習:犯罪論の体系と犯罪の本質について学習するので、シラバスをよく読んでおくこと。犯罪を構成する3要素の個々の内容と、それら3要素間の関係について見ておくこと。


6 犯罪論の基礎(2)犯罪論の体系と犯罪の本質 科目の中での位置付け 犯罪論を構成する3つの要素である、構成要件妥当性、違法性、有責性の諸概念について理解する。この3者は概念であると同時に、それぞれの中に更なる概念や理論を内包していて、その3者のそれぞれが他のものと有機的に結びついて体系を成しているという性質を持つ。このことが、犯罪論を扱うさいの刑事総論の理解を難しくしている。ここではそれぞれの3要素の関係を理解するように試みよう。ある程度の難しさは覚悟しなくてはならない。


コマ主題細目①
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第10章「犯罪論の基礎」刑事法126〜138頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第2章第1節「犯罪論の仕組み」57〜63頁。

コマ主題細目②③
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第10章「犯罪論の基礎」刑事法126〜138頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第2章第4節「犯罪は構成要件に該当する違法で「有責」な行為である」98〜118頁。
コマ主題細目 ① 構成要件妥当性、違法性、有責性 ② 構成要件と違法性の関係 ③ 違法性と有責性の関係 ④ ⑤
細目レベル ① 犯罪論を構成する3つの要素である、構成要件妥当性、違法性、有責性の諸概念について理解する。この3者は概念であると同時に、それぞれの中に更なる概念や理論を内包していて、その3者のそれぞれが他のものと有機的に結びついて体系を成しているという性質を持つ。このことが、犯罪論を扱うさいの刑事総論の理解を難しくしている。ここではそれぞれの3要素の関係を理解するように試みよう。ある程度の難しさは覚悟しなくてはならない。
② 構成要件と違法性の関係:構成要件は違法な行為を類型化した違法類型と言われる。構成要件に該当する行為は普通、法益の侵害である。道を歩いたり、公園で遊ぶことは法益侵害に当たらないが、法益を犯したときには、その行為が法秩序に合致するものとして正当化されるためには、違法性阻却事由を必要とする。構成要件該当行為はそのままでは違法行為とされる行為である。この意味において構成要件に該当するときには、行為の違法性が推定されるといわれる。
③ 違法性と有責性の関係:違法性を否定されたり、違法だが有責性を否定される行為は犯罪とならず、処罰の対象にならない。しかしこの両者の間には大きな違いがある。つまり、前者は法に反する違法行為ではなく、法が許容している、やって良いことであるのに対して、後者は違法だけれど責任が否定される行為である。このように違法性と有責性は全く異なる概念である。


キーワード ① 構成要件妥当性  ② 違法性  ③ 有責性  ④ 違法性阻却事由 ⑤
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:犯罪論を構成する3つの要素である、構成要件妥当性、違法性、有責性の諸概念について理解し、それぞれの要素間の関係を理解すること。予習:次回授業は刑法の基礎理論として、犯罪の本質について学ぶ。そこでは、刑罰に関する歴史的展開がある。そこで展開された理論について見ておくこと。


7 犯罪の本質を学ぶ:刑罰の基礎理論 科目の中での位置付け 刑罰の基礎理論に関しては、歴史的な展開において19世紀後半から20世紀の前半にかけてヨーロッパで激しい論争が行われた。それは、応報刑論を主張する旧派(古典学派)と呼ばれる理論と目的刑論を主張する新派(近代学派)との対立であった。ここではそれぞれの主張の内容と、現在までに展開された理論について理解する。合わせて、結果無価値論と行為無価値論についても理解する。
コマ主題細目①
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第10章 刑事法とは何か。
2〜4頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第1章2節「近代刑法から現代刑法へ」22〜35頁。

コマ主題細目②④
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第15章「未遂犯と共犯」189〜195頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、はじめて刑法を学ぶ人たちへ1〜9頁。

コマ主題細目③
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第10章「犯罪論の基礎」。特に135頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第2章3節83〜84頁。
コマ主題細目 ① 客観主義と主観主義 ② 未遂犯 ③ 結果無価値論と行為無価値論 ④ 未遂犯か不能犯か ⑤
細目レベル ① 客観主義と主観主義:この二つの主義は歴史的な展開で行われた旧派と新派の議論に基づいた主義主張である。旧派と呼ばれる立場では、犯罪の客観的側面が重要であり、どのような実害達成されたかが重要なポイントとなる。つまり、実害が発生したのであるから、それに対して刑罰を課すことになるという発想である。つまり、犯罪の客観的側面を重視するので、客観主義の犯罪理論と呼ばれる。これに対して新派の立場は、行為者がなしたことよりも、犯罪の行為者が将来に犯罪を繰り返す危険性に着目する。つまり、犯罪が行為者の内面が表に現れたと考えるのである。これが主観主義(主観的なものが表に現れる)の発想である。
そして、客観主義の立場からは、例えば殺人という行為は生命を侵害するという“悪い”行為であるために、それに対する応報としての刑が科されるべきであると考える。主観主義では、殺人を平気で犯すような犯人の“悪い”性格が、そこに現れているという解釈である。

② 未遂犯:それでは未遂犯はどのように解釈されるのであろうか。客観主義と主観主義の違いがはっきり現れるのは、未遂という状況である。つまり、法益の侵害が起こらなかった場合である。客観主義からすれば、未遂というのは実際に犯行があったものの、法益は犯されなかったということであるから(つまり殺人を試みても、相手がその場にいなかった)、応報は必要ないか、減殺されるべきということになる、しかし主観主義では、犯罪という行為はあったのであるから、つまり“悪い”性格は表に出たのであるから、それを産んだ性格は改善する必要があるということになる。つまり、この両者の違いは犯罪という行為よってもたらされた結果を重視するのか、それとも結果よりも行為そのものの犯罪性を認めるのかどうかという解釈の問題であることがわかる。しかし、解釈と言っても、この両者によって犯罪という概念に異なった解釈がなされるとうことに注意が必要である。その例を4)で見ていくことにしよう。
③ 結果無価値論と行為無価値論:
現在の方向性は客観主義の犯罪論が一般的である。ただ、その内容にはいくつかの議論がある。古典的な客観主義の立場はすでに見たように、何らかの行為が実害を生じさせ、法益を犯すという結果を重視して、生じた結果が否定的な評価を受けるという意味で、結果無価値が認められるということが本質と考える。つまり、結果無価値論である。これに対して、新しい客観主義では、行為そのものの法違反性、反規範性が重要であると考える。これが行為無価値論である。
この両者の考え方の違いは犯罪とは何かという本質的な問いに対して、異なった解釈を生む極めて重要な論点を含んでいる。すでに2)で同様の問題を指摘しておいたが、この二つの立場は刑法の解釈において重要な差異をもたらすので、両者の立場の違いを明確に説明できるように理解しておくことが必要である。

④ 未遂犯か不能犯か:では、3)の二つの立場の違いが極端に現れる場合を考えてみよう。
典型的な例は、行為そのものは規則違反であるが、法益の侵害がないかまたは現実的な危険も存在しなかったという場合である。この場合、未遂犯になるか不能犯になるのかとういう問題が生じる。ここで未遂というのは、その行為が危険であるからこそ処罰されるのであるが、不能犯とは、行為が危険でなくて犯罪実現の可能性がないなら、未遂犯として処罰する合理性がないということである。行為が危険でないために、未遂として処罰する理由がない行為を不能犯という。客観主義を採用するのか、主観主義を採用するのかで、法廷な判断が全く異なるということが、同じ事実に対して起こるという、興味深い事例である。どのような理論を採用するかで結果が異なるということである。


キーワード ① 客観主義  ② 主観主義  ③ 結果無価値論  ④ 行為無価値論  ⑤ 未遂犯
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:授業では刑法の基礎理論として、犯罪の本質について学んだ。そこでは、刑罰に関する歴史的展開があった。そこで展開された諸理論について理解をしておくこと。予習:犯罪の認定において重要な役割を果たす、構成要件という概念について学ぶので、その意味と機能、そしてその要素について見ておこう。また作為と不作為という人の行為の意味を考えておこう。
8 犯罪論(1)構成要件 科目の中での位置付け 犯罪とは、まず、構成要件に該当する行為であると言われる。その意味するところは、構成要件というのが、個々の刑罰法規において犯罪として規定される行為の類型のこと、ということである。例えば、殺人罪の構成要件は「人を殺す」ということであり(刑199条)、窃盗罪の構成要件は「他人の財産を窃取する」ということである。では刑法における条文と構成要件とはどういう関係にあるのだろうか。構成要件は条文を解釈し、その意味を確定した上でイメージされるような、個々の犯罪行為の類型ないしはイメージである。つまり、条文はフランス語でのシニファン(指し示すもの)で、構成要件はシニフェ(指し示されるもの)として理解できる。「りんご」という言葉はシニファン、その言葉から連想される真っ赤なリンゴのイメージはシニフェである。今回の授業では、犯罪論におけるこの構成要件について学ぶ。
コマ主題細目①
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第11章「犯罪論(1)構成要件」139〜140頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第2章3節80〜97頁。

コマ主題細目②
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第11章「犯罪論(1)構成要件」141〜143頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第2章3節80〜97頁。

コマ主題細目③
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第11章「犯罪論(1)構成要件」144〜146頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第2章3節80〜97頁。
コマ主題細目 ① 構成要件の意味と働き ② 構成要件の要素 ③ 作為犯と不作為犯 ④ ⑤
細目レベル ① 1) 構成要件の意味と働き
なぜ構成要件が重要なのであろうか。それは個々の刑罰法規に示された犯罪行為のタイプに当たらない行為の処罰を防いで、国民の自由と権利を保証する機能が期待されているからである。つまり、成文化されていない、つまり、刑法に明記されていない行為に対する処罰を防ぎ、罪刑法定主義に対する違反が起こらないようにするためである。これを構成要件の保証機能(もしくは罪刑法定主義的機能とも)と呼んでいる。
さらに構成要件は、犯罪論の体系において様々な機能を果たしている。それらは、次の機能である。①構成要件は犯罪論全体の中心に位置し、次の段階の違法性や有責性判断の内容を制約する働きがある。違法性や有責性の判断では、当該の行為が違法かどうか、有責かどうかが問われるのではなく、例えば強盗としての行為が違法性を備えているかどうか、また何らかの犯罪行為の責任が肯定されるのかどうかが問われるのである。つまり、違法性も有責性もいずれの評価も、当該行為の構成要件に照らしてみてなされる価値判断なのである。
②当該行為が構成要件に該当するとき、行為を特別に正当化する根拠がない限り、その行為は違法となる。つまり、構成要件該当性は行為の違法性を推定させるという(違法性推定機能と呼ばれる)。③犯罪成立のためには故意が要求されるが(刑38条1項)、故意の存在することを主張するためには、構成要件の該当する客観的事実の存在が要求される(当該行為が何らかの法益を奪うということの認識)。具体的は、強盗罪の故意が存在するというためには、他人の所有物を奪うということが認識されていなければならない。また殺人罪の故意が存在するためには、自身の行為が他人を死亡させるという認識が前提となるのである。

② 構成要件の要素
構成要件に該当する行為のことを実行行為と呼んでいる。それぞれの構成要件は特定の種類・様態の行為を予想しているが、それに当てはまる行為が実行行為と呼ばれる。この実行行為の認識には、次の要素が具備されている必要がある。
① 当該の行為が「人の意思によって支配・統制可能な身体的態度である」ということ。
② 行為者が特定の身分・地位にないと成立しない(要件とする)ものがある。収賄罪(公務員の場合)、業務上横領罪(業務者)などである。
③ 実行行為と判断できるためには、行為そのものに実害を及ぼす一定程度の危険性が備わっていなければならない。ここで一定程度の危険に関してはその水準が幅広く考えられていること(つまり犯罪の種類応じて)に注意が必要である。
通説では、その他の構成要件として、客観的な構成要件の他に主観的・心理的側面に関する構成要件を認めている。これを主観的構成要件と呼んでいるが、これには故意もしくは過失がある。

③ 作為と不作為:人の行為を作為と不作為とに区分して考えることができる。作為とは何らかの動作をすることであり、不作為とはそのような動作をしないことである。不作為というのは行為をしないということではなく、特定の条件のもとで対象となる行為が存在し、その対象以外の行為をしても不作為ということになる。退去命令が出ていて「退去という行為がない」というのが不作為であり、その場で逆立ちしても、ダンスをしても退去しない以上は不作為になる。
作為が犯罪となるときに、それは作為犯と呼ばれる。そして不作為が犯罪となるときに不作違反と呼ばれる。一般的な犯罪は作為犯である。ただし、不退去罪のように「退去しない」ことが犯罪になるような場合には、法文そのものが処罰の対象として不作為を記述しているものもある。さらに保護責任者遺棄罪は、「人が助けを必要としているのに、その人の生存に必要な保護をしないこと」を処罰の対象とする。つまり、不作為犯となる。



キーワード ① 構成要件  ② 構成要件の要素  ③ 作為犯  ④ 不作為犯 ⑤
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:犯罪の認定において重要な役割を果たす、構成要件という概念について学んだ。その意味と機能、そしてその要素について、それらの内容をまとめておこう。また作為と不作為という人の行為の意味についてもまとめておこう。予習:次回授業は違法性という考え方について学ぶ。犯罪認定の二つのプロセスについて、つまり、行為の違法性判断のための構成要件の判断、そして阻却理由の存在可能性のチェックである。また法令行為・正当業務行為、正当防衛と緊急避難についても学ぶので、そちらも見ておくこと。
9 犯罪論(2)違法性 科目の中での位置付け 犯罪とは違法でしかも有責な行為である。それはただ違法な行為というだけでなく、処罰に値するほどの(質と量を兼ねた)違法性を備えている行為ということになる(これを可罰的違法行為という)。刑法学においては、行為が違法であるかどうかを判断するのであるが、その判断の過程を二つに分けている。まずは、①当該の行為が、すでに学んだ構成要件に該当するかどうかを判断し、もしその行為が肯定されると次に、②違法性阻却理由が存在しないかどうかを検討し、行為が具体的に違法かどうかを判断する。今回の授業ではそのような判断過程に関わる要因について学習する。つまり、違法性の阻却理由、法令行為・正当業務行為、正当防衛と緊急避難である。
コマ主題細目①②③
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第11章「犯罪論(2)違法性」153〜165頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第2章1節57〜84頁。
コマ主題細目 ① 違法性の阻却理由 ② 法令行為・正当業務行為 ③ 正当防衛と緊急避難 ④ ⑤
細目レベル ① 違法性の阻却理由
科目内での位置付けですでに記したように、刑法的評価の第二段階としての違法性の判断は、構成要件該当行為を前提として、次にこれに対して違法性阻却自由が存在するかどうかの判断が行われる。この違法性阻却事由については刑法35条以下の3か条に規定が示されている。それは、35条の正当行為、36条の正当防衛、37条の緊急避難である。35条の正当行為では「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」とし、36条の正当防衛では「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」としている。またその第2項では「防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。」としている。37条の緊急避難は「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。」としている。以上の阻却事由にある根本的な思考は、「行為によって法益Aが侵害され、又は危険に晒されるが、別の利益Bが実現ないし確保されるとき、Aとの関係でBにより大きな価値を認め、Bの追及を法的に優先させる」というものである。

② 法令行為・正当業務行為
35条の正当行為では「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」としているが、法令行為についてみると、法令が一定の法益侵害を許容しているときには、刑法上もその行為が違法でないことは当然である。死刑を例に考えてみよう。刑法11条、刑事訴訟法475条以下、などの規定に基づいて死刑が執行されるときには、殺人罪の構成要件に該当する行為は存在するが(死刑確定犯でも人であるので、その命を奪うのは殺人である)、行為の違法性が阻却されるのである。同様に警察官が被疑者を逮捕するときにも、それは刑事訴訟法の規定によって行われるが、その逮捕の行為は逮捕・監禁罪の構成要件に該当するものの、違法性が阻却される。
このような法律(刑35条)の適用範囲は、日常でもよくみられるところである。業務として行われるものに医師としての業務、プロスポーツにおける業務などがあげられるが、それらの業務に置いて法益が損なわれても、刑35条故に罪に問われないのである。


③ 正当防衛と緊急避難
多くの法治国家は、正当な権利保護のために私人による実力行為は禁止している。個人が勝手に実力行使することは、社会的秩序の維持において見逃すことのできない問題を生じさせるからである。そこで国家機関にその実力行使の役割を持たせて、正当性を担保するということが行われてきた。ではこのような国家機関への実行の行使の譲渡の例外はないのかというと、私人による実力行使が認められる場合もある。それが正当防衛(刑36条)と緊急避難(刑37条)である。この両者の共通しているのは、次の2点である。まず、①国家機関による救済の可能性がない、緊急事態であること、②保全すべき正当な個人利益がそこに存在することである。刑35条に比較して、刑36条と刑37条の条文が長いのは、私的な実力行使が行き過ぎにならないように、細かい条件をもうけているからである。これは私的な実力行使が例外的であり、行き過ぎが起こらないようにブレーキをかける意味があるためである。



キーワード ① 違法性の阻却理由 ② 法令行為  ③ 正当業務行為 ④ 正当防衛  ⑤ 緊急避難
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:今回の授業では違法性という考え方について学んだ。犯罪認定の二つのプロセスについて、つまり、行為の違法性判断のための構成要件の判断、そして阻却理由の存在可能性のチェックである。また法令行為・正当業務行為、正当防衛と緊急避難についても学んだので、そちらも整理して理解しておくこと。予習:犯罪論における責任の役割をいくつかの角度から検討するので、そちらを見ておくこと。


10 犯罪論(3)責任 科目の中での位置付け 犯罪成立の第3の要件は有責性である。責任が存在しなければ、犯罪は成立しない。では責任とはいったい何か、本講義はこのテーマについて学ぶ。例えば、極めて重大な犯罪的結果が生じるような行為があったとしよう。しかし、その行為者が意思決定を思いとどまることで回避が不可能な出来事であった場合、その行為に刑を科すことはできない。具体的に、精神障害によって意思決定をコントロールできない場合には、その行為者を罰することはできない(刑39条1項)。違法行為への非難が可能でない限り、犯罪の成立を認めないという原則である。これを責任主義と呼んでいる。責任が肯定されないと犯罪が成立しないという考え方であり、これが犯罪成立の第3の要件なのである。
コマ主題細目①
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第13章「犯罪論(3)責任」166〜1174頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第2章4節98〜118頁。

コマ主題細目②
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第1章 刑事法とは何か。5〜6頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、はじめて刑法を学ぶ人たちへ1〜9頁。

コマ主題細目③
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第1章 刑事法とは何か。5〜6頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、はじめて刑法を学ぶ人たちへ1〜9頁。
コマ主題細目 ① 違法性と有責性 ② 責任の本質 ③ 責任の要素 ④ ⑤
細目レベル ① 違法性と有責性を分離させる理由を知るためには、次の点を考える必要がある。
a.法益は侵害したが、違法性が阻却される場合
b.違法であるが責任が否定される行為
の2点である。ここで、
aの行為は法が許容する、「やってよい」ことである(例:死刑の執行)
bの行為は法に反する、「やってはならない」ことである(例:精神障害による行為)が、仕方がないことで、刑を科すことが正当化できずに、犯罪にならない場合である。
さらに、aの場合には適法行為であり、正当防衛によって防衛することができないが、bの場合には、責任を問えない行為であって、違法行為である以上(精神障害者が突然殴ってきて、相対してしまったような場合)これに対して身を守ることは正当防衛となり得る。
このように、違法性の判断と有責性の判断を独立して考えることは法の正義を実現するために、理論的にも実際にも重要なポイントなのである。

② 責任の本質を考える場合、以前に学習した刑罰に関する立場の違いをみておくと役に立つ。旧派の応報刑論では、違法行為を思いとどまることができたにもかかわらず、違法行為に出ると当然のことながら、批判の対象になる。つまり同義的な批判を受けることになる。これが責任の本質であると考える(道義的責任論と呼ばれる)。この論によれば、精神病や薬物などの影響を受けて、正常でない(病的な)精神・心理状態で行われた行為は(刑39条1項)非難できないとされる。また14歳以下の場合でも非難ができないので、責任を問われない(刑41条)。つまり、旧派の同義的責任論では、行為に対する責任が問われることになるので、行為責任論が採用されていることになる。
これに対して、新派の目的刑論の立場では、行為者の犯罪を思いとどまれないという(危険な)性格が表に出て行為に至ると考えるので、そういう性格を持つ者が刑を科されるべきとする。つまり、社会的に危険な犯人が再犯防止のための刑を受けるべき義務があると考える。このような考えを社会的責任論という。そして社会的責任論では責任が問われる根拠が行為者の危険な性格ということになるので、これを性格責任論と言ってもよい。
現在は、応報刑論がメインであり、社会的責任論、性格責任論はほとんど支持されていない。ただ、道義的責任論、行為責任論にも批判される要素が残っていて、それが解決されてはいない。
道義的責任には自由意志の存在が前提とされるが、果たしてそのことは可能なことなのであろうかという点を考えると、道義的責任論の問題が見えてくる。

③ 心理的責任論と規範的責任論:責任の要素を考える場合、二つの論を考える必要がある。それが心理的責任論と規範的責任論である。心理的責任論は20世紀の初頭まで支配的であった考え方で、責任判断が、行為者の心にある心理的事実の確認であるとして、2種類の責任の種類があるとしていた。一つは悪い意志としての故意であり、もう一つは注意を欠いた過失である。責任能力は責任そのものでなくて、責任の前提であるとの考え方である。
この理論は次第に克服されていき、責任の本質が非難可能性という否定的な価値判断であるという考え方になり、故意又は過失という心理状態でも責任を問えない場合があることに気付かされたためである。
現在における責任論は規範的責任論が中心であり、責任の本質を意思決定に対する非難可能性に求めている。そして責任の要素として、「責任能力」、「故意と過失」、「違法性の意識の可能性」「適法行為の期待可能性」を必要としている。    



キーワード ① 応報刑論  ② 道義的責任論  ③ 目的刑論  ④ 行為責任論 ⑤
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:犯罪成立のためには責任の存在が必要である。授業では規範論的責任論が現行の責任論として一般的になっていること、その責任の本質、責任を構成する4つの要素について触れた。ただ責任論の歴史的展開にも触れたので、そちらの理解を基礎に現行の責任論も整理しておきたい。予習:次回授業は故意と過失について学ぶので、シラバスを読んでおくこと。そして両者の概念について、その内容の理解を試みること。
11 故意と過失 科目の中での位置付け 前回の授業で責任論について学んだ。そこでは、規範論的責任論が現行の責任論として一般的になっていること、その責任の本質、責任を構成する4つの要素について触れた。今回授業では、故意と過失という法的概念について学ぶ。犯罪は故意又は少なくとも過失がなければ成立しない。故意と過失は犯罪が成立するための、必要不可欠な主観的要素である。刑法38条1項には、「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」と書かれている。これは、原則として故意ある場合のみを処罰の対象とすることを述べている(故意犯処罰の原則)。故意とは、犯罪となる事実を認識しつつ、あえてその当該の行為に出るという心理状態をいう。であるから逆に犯罪事実を認識せずに行為したときには、故意が否定される。例えば、自分の靴だと思って履き間違えて帰宅しても、それが故意によって行われたわけではないので、窃盗罪の刑事責任は免れる。


コマ主題細目①
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第14章「故意と過失」。
173〜188頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第2章4節「故意とは」105〜112頁。

コマ主題細目②
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第1章 刑事法とは何か。5〜6頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第2章4節「故意とは」105〜112頁。

コマ主題細目③
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第14章「故意と過失」。
173〜188頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第2章4節「故意とは」105〜112頁。
コマ主題細目 ① 故意犯と過失犯 ② 構成要件要素か責任要素か ③ 故意 ④ ⑤
細目レベル ① 故意犯と過失犯の中間的な存在として結果的加重犯がある。その代表例とされるのは、例えば、障害致死罪である。故意犯としての傷害罪の実行行為から、行為者が意図しない死亡という結果がもたらされるときに傷害致死罪となり、基本となる傷害罪よりも刑が加重される。傷害罪の刑の上限は15年であるが、傷害致死罪の上限は20年の懲役となる。これは故意の基本犯と意図しない結果が惹起されたための過失からできているので、結果加重犯といわれる。ただ、このような加重に対して、例えば、その結果が予測できないような場合(喧嘩して相手の顔を殴ったら、そのことが原因で従来から被害者にあったくも膜下の出血が増加して、死にいたらしめたという場合、加害者はその脳内の事象を知り得ないから、本来なら責任を問われることないと考えられるが、最高裁は類似の事件で傷害致死罪を適応している。この場合には、学説に従えば、落ち度のない結果の発生を理由に刑を重くするということになるのであるから、最高裁の責任主義違反となる。
② 構成要件要素か責任要素か
今日の支配的な犯罪論体系は、構成要件妥当性、違法性、有責性という3段階からなるとされる。問題となるのは、この3段階のいずれに故意と過失を位置付けるのかということである。最も一般的な説に従えば、故意と過失は、構成要件の段階と責任の段階の二つの段階に配置されるとしている。そしてそれぞれを「構成要件的故意」「責任要素としての故意」「構成要件的過失」「責任要素としての過失」としている。それぞれの故意とそれぞれの過失は機能と内容において、少しずつ異なっている。例えば、「構成要件的故意」は認められても「責任要素としての故意」は却下されるという具合である。

③ 故意
今まで見てきたように、故意犯と過失犯ではずいぶん刑の扱いが異なることが、刑法という体系の理論的側面からも理解できたことであろう。刑法は、故意犯の処罰を原則として予想していて、過失犯の処罰には刑は軽く規定している。それ故、故意と過失の区分は理論上も実際上も重要な区分となる。構成要件の要素としての故意があるといえるのは、構成要件に該当する事実が実現するとの認識が前提として存在しなくはならない。つまり当該の行為を行なって、その結果として相手が死亡するという認識が予定されなければ、故意は認められない。言い換えれば、予定されれば故意が認められることになる。
そのような故意の成立の場合を確認しておこう。
① 行為者が構成要件実現ないし結果発生を目的として行為をなしたとき(意志)
② 構成要件の実現を目的として追及はしていないものの、その事実の発生を確実なものとして認識していたとき(認識)
③ 行為者が構成要件の実現が確実と思ってはいないし、それが目的で行為したのではない

故意を考える場合、「意志」と「認識」の要素が必要であることが、上の説明から理解できるであろう。しかし③の場合に故意は求められるのであろうか。「結果が発生する可能性はあるけれど、まずは起こらない」との判断による行為は、過失しか認められないであろう。しかし、そのような事態が招来されたときに「やむをえない」「仕方がない」「かまわない」という是認の心理が関与していれば、故意は認められることになるだろう。この容認があるかどうかはなかなか微妙な問題であるが、この有無によって故意と過失が区別される。



キーワード ① 故意犯 ② 過失犯 ③ 構成要件要素 ④ 責任要素 ⑤ 故意
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:故意と過失は犯罪の成立を考える上で、重要な概念である。故意を考える場合、「意志」と「認識」の要素が必要であることを理解する。犯罪論体型における故意と過失の位置付けについてまとめておくこと。予習:次回授業は未遂犯と共犯について学ぶので、シラバスをきちんと読んでおくように。そのときに、犯罪が実現されるまでの過程について理解し、それぞれの過程と犯罪成立との関係を理解するようにしよう。
12 未遂犯と共犯 科目の中での位置付け 犯罪が完全に実現された場合のことを既遂といい、実行行為を開始したものの、結局犯罪を成し遂げられなかった(完成に至らなかった)場合を未遂という。犯罪が実現されるまでの過程を考えてみよう。つまり犯罪の計画から実現までの過程を考えると次のようになるだろう。
① 行為者が犯行を決意して計画をたてる
② 犯行の準備段階(犯行の道具を揃えたり、下見をしたりなど)
③ 犯罪の開始
④ 実行行為の終了
⑤ 犯罪の最終的実現
犯罪において、単独犯で既遂の場合が基本形と考えれば、未遂犯と共犯は犯罪のバリエーションと考えることができる。そしてこの未遂と共犯に関しては様々な問題が起こってくる。今回の講義では、この犯罪の成立に関わる未遂と共犯について学ぶ。

コマ主題細目①②
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第5章「未遂犯と共犯」189〜194頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、はじめて刑法を学ぶ人たちへ1〜9頁。

コマ主題細目③④
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第5章「未遂犯と共犯」第3節「正犯と共犯」。195〜202頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第2章第5節「犯罪は段階的に行われる」119〜131。

コマ主題細目 ① 未遂犯の処罰根拠 ② 実行の着手 ③ 正犯と共犯 ④ 共同正犯 ⑤
細目レベル ① 未遂犯の処罰根拠
現行刑法では、「位置付け」に示した①の犯行の計画段階では処罰対象としてはいない(例外もある。二人以上が犯罪の実行に合意したとき:刑78条、88条、93条。破壊活動防止法39条、40条)。②の段階になると、これを「予備」として、刑法は「予備罪」を用意している。刑法が本格的に関与するのは③の段階からである。
では、なぜ未遂犯まで処罰の対象にするのであろうか。未遂の場合、実行の意図はされていたものの、完成には至っていない。この処罰を考えるとき、以前にも出てきた犯罪の主観面と客観面のいずれを重視するのかという立場性が、処罰の範囲と刑の重さに影響する。まず、主観主義の犯罪理論では、犯人の所有する危険な意志が表に現れたならば、それが結果の発生や不発生にかかわらず、即、処罰されるべきということになる。これに対して、客観主義の立場にたつ犯罪論では、未遂は客観的には未完成な犯罪であり、既遂よりも軽い評価が与えられることになる。


② 2) 実行の着手
犯罪は既遂に達していなければ処罰の対象とはならない(例外規定あり)。しかし、現実には未遂も処罰されているという現状がある。しかし未遂となる以前の段階である予備行為は、殺人や放火という重大な犯罪についてのみ処罰されるのが現実である。このことから、「未遂処罰の開始時点こそが国の刑罰権の発動の本格的開始時点」と言える。予備か未遂かは大きな分かれ道ということになる。現行刑法は、実行の着手の時点、つまり、実行行為の開始の時点が未遂処罰の開始時点であり、予備と未遂の境目であるとしているのである。
日常の具体的生活を考えれば、この予備と未遂の区分を考えることが極めて重要であることがわかる。予備行為そのものは日常に溢れている(私たちは台所に必要なナイフや包丁を買うし、人の家を訪れる)。そのような行為が犯罪として認知されることはない。しかし、その後の実行の段階になれば、事態は全く異なった様相を帯びる。つまり、購入した包丁で他人に斬りつけるなどは、まさに実行行為であり、犯罪行為として判断されるのである。

③ 正犯と共犯
犯罪が複数の成員によって行われる場合がある。しかし刑法は特定の場合を除いて(刑77条、106条、208条の2)、単独犯を仮定している。では、複数人の実行犯が犯罪に関与している場合にはどのように判断がなされるのであろうか。
刑法は、犯罪の正犯と共犯とを区別している。正犯とは刑60条で「2人以上共同して犯罪を実行した者」であり、刑61条1項で「人を教唆して犯罪を実行させた者」を共犯としての幇助犯としている。このことから、犯罪を実行したものが正犯であり、自らは実行しないものの、実行行為を唆(そそのか)したり手助けしたものを共犯としているのである。
要約すれば、「正犯とは実行行為をおこなった者のことであり、共犯者とは実行行為以外の行為によって犯罪に関与したもの」ということになる。

④ 共同正犯とは「2人以上の者が合意のうえ共同して犯罪を実行する場合のことをいう」(刑60条)。この共同正犯が成り立つ場合には、実行行為の一部のみを分担していただけであっても、共同した各自が実現された全体の責任を問われることになる。ただし、共同正犯の成立のための要件に関しては、見解の対立がある。従来の通説では、刑法60条が、共同者全員が実行行為を直接に分担することを要求していると解釈して、犯行の現場にいなかった者は、実行行為を共同していないので、教唆犯もしくは幇助犯に過ぎないとして解釈していた。しかし、確立した判例は、学説とは真っ向から対立して、いわゆる凶暴共同正犯を認め、実行行為を分担していなくても、共同正犯となり得るとしてきている。つまり、実行に直接かかわらなくても、背後にいる黒幕的な者が犯罪の実現により大きな影響力を持っているということを認めている事になる。現在の学説もこの後者の判例を受け入れるような見解になっていると言えよう。
注)厳島が鑑定人として目撃者の信用性を鑑定し、法廷証言もした自民党本部放火事件ではこの共謀共同正犯も争われた。それは複数の者が関与した事件であったからである。


キーワード ① 未遂犯の処罰根拠  ② 実行の着手  ③ 正犯 ④ 共犯 ⑤ 共同正犯
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小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:今回授業では未遂犯と共犯について学んだ。授業では、犯罪が実現されるまでの過程について理解し、それぞれの過程と犯罪成立との関係について学んだ。そのポイント要約しておこう。また、共同正犯についても学んだのでその特徴について理解しておこう。
予習:次回の授業では量刑という法的機能について学ぶ。つまり、犯罪に対してどのような刑を科すべきかという問題である。刑事裁判における量刑のシステムについて、シラバスを読んで問題意識を持っておこう。

13 刑の決め方:量刑について 科目の中での位置付け 犯罪が成立すれば、その犯罪に対してどのような刑を科すべきかが問題となる。刑事裁判の判決では、審理を終えれば、判決が言い渡される。その判決の主文(結論部分にあたる)は、「被告人を懲役10年に処する・・・。押収している出刃包丁一丁はこれを没収する・・」というようになる。これが宣告刑と呼ばれ、「有罪であることが確認された被告人に対し、法律上認められた範囲で、言い渡すべき刑を確定する裁判所の作用のことを刑の量定ないし量刑と呼ぶ」ということである。ここでは、このような犯罪に対する量刑の決定がどのように決まるのか、刑の加重や軽減、量刑の前提、複数の犯罪が競合する場合についての仕組みを考察し、量刑の理解を深めることを狙う。
コマ主題細目①②③
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第16章「どのようにして刑を決めるのか」刑事法とは何か。203〜212頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第6章「刑罰と刑の量定」301〜314頁。
コマ主題細目 ① 刑の加重・軽減 ② 量刑の前提1:犯罪の個数 ③ 量刑の前提2:法条競合と包括一罪 ④ ⑤
細目レベル ① 刑の加重・軽減
刑法では、法定刑から直接に刑を決めて裁判で言い渡すということはしない。実際に行われるのは、法定刑に加重・軽減を行なって処断刑を形成し、その範囲内で宣告刑を決めているのである。この加重や軽減にはいくつかの種類が予定されている。刑の加重事由としては、併合罪加重(45条以下)、再犯加重(56条以下)があり、刑の軽減事由としては、過剰防衛(36条2項)、過剰避難(37条1項但し書き)、法の不知(38条3項ただし書)、自主・首服(42条)、未遂犯(43条本文)などの任意的軽減事由と、必要的軽減事由と呼ばれる、次の種類がある。それらは心神衰弱(39条2項)、中止犯(43条ただし書)、幇助犯(63条)などである。任意的軽減事由は裁判所の自由裁量であり、必要的軽減事由は刑を軽減しなくてはならない事由である。さらに裁判所には酌量軽減があり、これは裁判官の裁量に任されている(66条・67条)。

② 量刑の前提1:犯罪の個数
量刑の判断に関しては、法定刑が量刑の前提になっている。何らかの事件で一つの公法規定だけが適用される場合に、そこにある法定刑が処断刑となり、その範囲内で被告人に対する宣告刑が決定される。もし事件で複数の刑罰法規(住居侵入と強盗など)が適用されるような場合はどうか。このような場合には、それぞれの法定刑を前提に、その前提からどのように処断刑と宣告刑が決められるかを明らかにしなくてはならない。これはその当該事件における罪数問題と言われる。この場合、複数の犯罪が競合するわけで、どのように刑を決めるのかという犯罪競合の問題となる。この解決のための標準となるのが、すでに学んだ構成要件である。この構成要件の数によって罪数が決定される。例えばある事件で、2人が殺害されたという場合、各個人の法益が独立して損なわれたのであるから、2個の殺人の構成要件が評価され、2個の殺人罪が成立することになる。

③ 3) 量刑の前提2:法条競合と包括一罪
法条競合と包括一罪というのは、構成要件の文言では複数の刑罰法規の適用が問題となるが、最終的にいは1個の規定のみが適用されるような場合に出てくる法的な概念である。
法条競合とは、複数の刑罰法規に触れるように見える事実があるが、それらに対応する刑罰法規相互の関係から、結局は一つのみが適用されるような場合をいう。刑法の背任罪(刑247条)と特別背任罪(会社法960条)の両者にあたる事実があるとき、特別法である後者が優先されるという場合がそれにあたる。また包括一罪とは、異なった構成要件に該当するような事実があったとして、それにもかかわらず、一つの刑罰法規によって一回的に包括的に評価する場合のことである。例えば、常習賭博を考えてみよう。この構成要件は同種の行為の反復を予定していて、賭博行為者が何回賭博しても、同罪の構成要件によって包括的に解釈され、1罪となる。



キーワード ① 量刑  ② 刑の加重・軽減  ③ 犯罪の個数 ④ ⑤
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小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:次回の授業では量刑という法的機能について学んだ。つまり、犯罪に対してどのような刑を科すべきかという問題である。刑事裁判における量刑のシステムについて、学習した内容をまとめておこう。特に刑の加重・軽減がどのように行われるのかについて理解を深めておくこと。また犯罪の個数についても学んだので、どのように犯罪がカウントされるのかを整理しよう。予習:刑法はあくまで罪と罰の関係を示した法律であり、犯罪が起こったときに、どのように捜査や、起訴、裁判が行われるのかを規定していない。この実際の刑事司法は、刑事訴訟法という大きな法体系によって行われる。この刑事訴訟法の基礎を理解しよう。そこで、シラバスをきちんと読んでおくこと。
14 刑事訴訟法の基礎 科目の中での位置付け 刑法は236条で、「暴行または脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、10年以下の懲役に処する」と規定している。しかし、Aが本当にBの所有物を強取したのかどうかを、どのように確認するのか、それを確認するために国家機関がどのような方法で確認できるのか、そういう内容に関する規定は刑法には何も書かれていない。刑法はただ、「裁判でX
Xという事実が確認されると、その人物は▲▲という刑を受ける可能性がある」と述べているに過ぎない。
実は刑法に書かれていない、実際にどのような方法によって犯罪が確認され、容疑者が見つけられ、裁判にかけられるのかという部分に関しては、刑事訴訟法という法律に任されている。テレビのドラマに刑事物の番組が多いが、それらの多くは刑事訴訟法が扱うような内容になっている。庶民の関心事は実はこの部分なのである。

コマ主題細目①②③
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第17章「刑事訴訟法の基礎」214〜227頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、第1章「刑法の歴史と基本原則」11〜56頁。

コマ主題細目②
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第1章 刑事法とは何か。5〜6頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、はじめて刑法を学ぶ人たちへ1〜9頁。

コマ主題細目③
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第1章 刑事法とは何か。5〜10頁。浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明(著)『現代刑法学入門第4版』有斐閣2020、はじめて刑法を学ぶ人たちへ1〜9頁。
コマ主題細目 ① 裁判・訴訟 ② 刑事訴訟と民事訴訟 ③ 刑事訴訟法とは ④ ⑤
細目レベル ① 裁判・訴訟
「裁判」とは、対立する当事者が争っているときに、法を適用することで裁定を行い、争いを法的に解決する、国の作用のことをいう。これに対して「訴訟」というのは裁判を行うための手続きのことをいう。「訴訟」は対立する原告と被告が、対等の立場で向かい合い、そこへ公平な立場を維持する裁判所という第3者が加わり、法的解決を図るという手続きである。ここで民事訴訟は原則的に当事者主義を採用しているが、この当事者主義という言葉には、いくつかの異なった意味がある。①当事者の間に意見の食い違いがある限りにおいて訴訟が行われ、例え個人の権利の実現が妨げられていても、その当該の個人が訴え出なければ、訴訟は行われない。②当事者は自らの事件の解決を図り、訴訟を自由に処分できる。どちらかがどちらかの主張を認めれば、そこで裁判は終了する(①と②を合わせて処分権主義という)。③裁判所は当事者が争っている事象にのみ、提出された証拠に基づいて判断を下す(これを弁論主義という)。

② 刑事訴訟と民事訴訟
刑事訴訟は、これを民事訴訟と同一とする意見と、本質的に両者は異なるものとする意見がある。これは第二次世界大戦後に日本がアメリカ合衆国の法制度の影響を強く受けたために起こったことで、アメリカ合衆国では、民事訴訟も刑事訴訟も基本的に同じであるとする考えが採用されている。原告である検察官が犯人と思しき人物を訴追するが、犯罪の事由は検察官に一任される。訴えがなければ裁判にならないし、また検察官と被告人の間に意見の相違がある限りで裁判が行われる。事実の認定は当事者が提出した証拠のみによって行われる。被告人が自分の罪を認めれば、裁判所は証拠を調べることなく、直ちに有罪の判決を行う。このような裁判の背景には、公正な手続きの結果としての真実という考えがある。判決が正しいのは客観的真実に合致しているからではなく、公正な手続きの結果としてそれが出されるからであるとする。合意、則、真実であるならば、合意形成こそが裁判の目的になる。
これに対して、日本の戦前までの刑事裁判はヨーロッパ(特にドイツ)の影響が強く、刑事事件と民事事件は本質的に異なるものとの考えがあった。裁判所の責任において真実の発見が行われることを目的としていたのである。

③ 刑事訴訟法とは
刑事訴訟法の意義について見ていこう。刑事訴訟法は大きく、3つのカテゴリーからできていると考えてよい。それは、①事件の捜査と公訴に関わるところ、②裁判所の法廷における手続きに関わるところ、③刑の執行に関わるところである。そして刑事手続きに関わる規則の主要な法が「刑事訴訟法」と呼ばれる大きな法典である。さらには憲法が定める規定もあり、「刑事訴訟規則」と呼ばれている。さらに関連する法律としては「裁判所法」、20歳未満の少年事件に関しては「少年法」が用意されている。さらに「裁判人の参加する刑事裁判に関する法律」や「刑事補償法」などもある。



キーワード ① 刑事訴訟法  ② 民事訴訟  ③ 当事者主義  ④ 刑事訴訟規則  ⑤ 少年法
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小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:刑法はあくまで罪と罰の関係を示した法律であり、犯罪が起こったときに、どのように捜査や、起訴、裁判が行われるのかを規定していない。この実際の刑事司法は、刑事訴訟法という大きな法体系によって行われる。この刑事訴訟法の基礎をまとめておくこと。予習:次回の授業は、犯罪における捜査を担う警察の機能について学ぶので、その内容をシラバスから理解するように試みよう。刑事手続きの出発点である捜査は犯罪解明に極めて重要な意味を持つ。そこでは私たちの権利との関係が極めて重要である。そういうところをきちんと理解しよう。
15 刑事手続き:捜査 科目の中での位置付け 刑事手続きは、①捜査、②公訴の提起、③第一審の公判、④上訴、⑤刑の執行という5段階から基本的には構成されている。これらの段階のそれぞれに国が用意する複数の機関が関与している。そしてそれらは各段階ごとに、当該機関が交代してその任に当たっている。なぜか。それは国家権力が一つの機関に集中することで、権力の濫用が行われ、国民の権利と事由が奪われる(侵害される)可能性があるからである。そこで、権力の分散が行われているのである。この分散によって、権力の相互抑制を予定し、その運営がなされている。今回の講義では、刑事訴訟法の基礎を学ぶが、以上の段階ごとに何が行われているのか、その内容と機能、それぞれの活動を支配する原理原則について見ていくことにする。
コマ主題細目①
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第17章「刑事訴訟法の基礎」
213〜227頁。
コマ主題細目②③
井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第18章「刑事手続の流れ(1)」228〜258頁。

井田良著『基礎から学ぶ刑事法 第6版』有斐閣2020、第18章「刑事手続の流れ(2)」259頁〜266。
コマ主題細目 ① 被疑者・被告人の権利保障 ② 捜査のあらまし ③ 逮捕・勾留 ④ ⑤
細目レベル ① 被疑者・被告人の権利保障
刑事手続きにのせられ、訴追の対象となる人のことを、公訴の提起以前は「被疑者」とよび、公訴後は「被告人」と呼ばれる。被疑者・被告人には様々な権利が与えられている。これは無実の者を真犯人と間違えることのないようにという配慮によるものである。そしてたとえ、真犯人であっても、不当な扱いを受けないようにするためである。公訴提起後の被告人はまさに「訴訟の主体」であり、検察官と対峙して、対等の立場で対論を行うことによってはじめて真実が明らかになるという基本的考え方に基づく配慮である。
被疑者・被告人には様々な権利が与えられていると書いたが、そのうち重要なものがいくつかあげられる。一つは「黙秘権」である。黙秘権は、犯罪者として訴追される可能性のあることに関わる供述を強制されない権利である(憲38条1項、刑訴198条2項、291条2項、311条1項など)。またもう一つの重要な権利として、弁護人の援助を受ける権利がある。被疑者・被告人は弁護人をいつでも選任できる(刑訴30条1項)。

② 捜査のあらまし
捜査機関が、犯罪が発生したと考えるときに、捜査が開始される(刑訴189条2項)。そして将来の公訴の提起と遂行のために、犯人を発見し、出頭を確保し、証拠を収集、保全する活動を捜査という。捜査の流れは以下の通り。
① 何らかの情報(被害者からの告訴や被害届、目撃者からの通報、犯人の自主など)があって警察が捜査を開始する
② 警察が証拠を収集し、被疑者を特定する
③ 事件を検察官に送る
④ 検察官は公訴を提起するかどうかを判断する
となる。
被疑者の逮捕・勾留に関しては、勾留期間が定められている(最長23日間)。検察官はこの期間内に起訴するかしないかの判断をしなくてはならない。

捜査とその構造:ア)弾劾的捜査観とイ)糾問的捜査観
ア) 弾劾的捜査とは、当事者主義の考え方を捜査にも導入し、捜査機関と被疑者が対等な立場で公判の準備を行う手続き手段ととらえるもの  
イ) 糾問的捜査とは、真実解明の責任を担うのは捜査機関であり、被疑者をも捜査の対象として、一方的に事件の解明を進める過程を捜査として捉える

現実には、学説としてア)が主張されているものの、実務ではイ)が行われているといえよう。法に関する理想的学説と実務のギャップは大きい。

③ 逮捕・勾留
逮捕と勾留が対人的強制処分の代表である(物に対しては対物的強制処分があり、捜査、差し押さえ、検証、領置、鑑定処分、電気通信の傍受がある)。逮捕も勾留も被疑者の身柄を拘束する強制処分である。逮捕は最長72時間の自由拘束で、留置は最長20日間の高速である。警察による通常逮捕の場合、警察の留置場に身柄を拘束されて48時間以内に検察官に送致される。検察官はさらに高速の必要があると判断する場合には、24時間以内に裁判官に勾留を請求し、裁判官が勾留状を出すと、最長20日間の勾留が可能となる。在宅事件の場合はこの限りにあらず。逮捕・勾留の目的は容疑者の逃亡や証拠の隠滅を防ぎ、出頭を確保するたである。ただ実務的には被疑者の取り調べを行い、自白を得ることで、更なる物的証拠を見いだすことが行われている。逮捕の種類には通常逮捕、現行犯逮捕、緊急逮捕がある。



キーワード ① 権利保証 ② 捜査 ③ 逮捕 ④ 勾留 ⑤
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:今回の授業は、犯罪における捜査を担う警察の機能について学んだ。刑事手続きの出発点である捜査は犯罪解明に極めて重要な意味を持つ。そこでは私たちの権利との関係が極めて重要である(被告人の権利保証)。そういうところをきちんと理解しよう。また逮捕、勾留について、弾劾的捜査観と糾問的捜査観の違いについても理解しておこう。


履修判定指標
履修指標履修指標の水準キーワード配点関連回
刑事法の基礎、狭義・広義の刑事法、罪刑法定主義、刑法の総論と各論、法益の意味を理解する。 罪と罰とはどのような関係にあるのか。犯罪と刑罰とに関わる法的な規則の体系を刑事法と呼んでいるが、この刑事法における狭義の意味・広義の意味を理解する。さらに刑罰の基本的原則である罪刑法定主義について理解する。さらに刑法は解釈されるものであること、そして刑法に総論と各論があることを理解し、刑法による個人的法益という概念を理解し、その法益に対する罪、法益の保護、そして自己決定権が意味するところの理解を目指す。 刑事法、狭義・広義の刑事法、罪刑法定主義、個人的法益、自己決定権 20 1,2,3
社会的法益の保護と国家的法益の保護、犯罪論、犯罪の構成要件妥当性、違法性、有責性の理解を目指す。 社会における法益の保護、公共の安全に対する罪、取引手段の信用性に対する罪、公衆の健康に対する罪、風俗ないし公の秩序に対する罪など私たちの社会生活に欠かせない法益に対する罪を理解する。次に、刑法総論において中核をなす犯罪論、犯罪の3要素、犯罪論の体系的特徴の基礎について理解する。次に、すでに挙げた犯罪論を構成する3つの極めて重要な構成要素である、構成要件妥当性、違法性、有責性の諸概念とそれらの関係について理解する。 社会的法益、国家的法益、犯罪論、構成要件妥当性、違法性、有責性 20 4,5,6
応報刑論、目的刑論、結果無価値論と行為無価値論を理解する。犯罪として規定される行為の類型である構成要件の意味、要素、作為と不作為を理解し、さらに違法性の概念を理解する。 犯罪とは何かを歴史的な諸学説より理解する。具体的には応報刑論と目的刑論、結果無価値論と行為無価値論という概念を理解する。その理解を基礎に、犯罪論の中核をなす構成要件について、その意味と要素、そして機能について理解する。また作為と不作為という法廷概念を理解する。また違法性という概念と違法性阻却理由について理解していること。さらに
法令行為、正当業務行為、正当防衛、緊急避難についても説明できる程度に理解すること。
応報刑論、目的刑論、結果無価値論、行為無価値論、構成要件、作為、不作為、違法性阻却理由、法令行為、正当業務行為、正当防衛、緊急避難 20 7,8,9
違法性、有責性、責任の本質、責任の要素、故意、過失、未遂犯と共犯などの刑法の概念を理解する。 犯罪の違法性、有責性、責任の本質は犯罪の成立を考える際に、極めて重要な犯罪の構成要素である。行為として同じ行為でも、違法性の判断と有責性の判断という異なる機能を独立して考えることが法の正義の実現に重要であることを理解する。さらに故意と過失は犯罪が成立するための必要不可欠な主観的要素である。条文にもそのことが述べられている。この両概念を理解する。さらに未遂犯と共犯という犯罪のバリエーションについて理解する。 違法性、有責性、責任の本質、責任の要素、故意、過失、未遂犯、共犯 20 10,11,12
量刑、刑の加重や軽減、量刑の前提、複数の犯罪が競合する場合について理解する。また刑事訴訟法の基礎と警察の捜査に関する法的知識を理解する。 犯罪が成立すれば、その犯罪に対してどのような罰があるのだろうか、そしてそれはどのように決定されるのであろうか。量刑について理解する。そして、刑は加重や軽減が行われるということを理解する。また犯罪の個数はどのようにして決定されるのか、その仕組みを理解する。次に、犯罪捜査から裁判、刑の執行に至るまでの手続きを示す刑事訴訟法の概略を理解し、実際の捜査を担当する警察の機能、そして逮捕・勾留について理解する。 刑の加重と軽減、法条競合、包括一罪、刑事訴訟法、犯罪数、刑事訴訟、民事訴訟 20 13,14,15
評価方法 成績評価は期末試験による。
評価基準 評語
    学習目標をほぼ完全に達成している・・・・・・・・・・・・・ S (100~90点)
    学習目標を相応に達成している・・・・・・・・・・・・・・・ A (89~80点)
    学習目標を相応に達成しているが不十分な点がある・・・・・・ B (79~70点)
    学習目標の最低限は満たしている・・・・・・・・・・・・・・ C (69~60点)
    学習目標の最低限を満たしていない・・・・・・・・・・・・・ D (60点未満)
教科書 なし
参考文献 授業内で紹介する
実験・実習・教材費