区分
基盤教養科目
ディプロマ・ポリシーとの関係
SDGs力
科学コミュニケーション力
研究力
カリキュラム・ポリシーとの関係
教養
応用力
実践力
科目間連携
総合心理力
カリキュラム全体の中でのこの科目の位置づけ
心理学は高校では全く学ばない学問である.全ての学生にとって,初めて学ぶ学問である.そうした心理学を学び始めるにあたって,本科目は、心とは何か,心理学とは何かということの概略を学び,心を科学として扱う方法に触れることを目指す.心理学には実験心理学を主体とした基礎的な分野,発達心理学,教育心理学,社会心理学などの応用的分野,さらには臨床的な分野などの様々な分野があるが,全ての分野に通じる心理学の基本的な考え方,根本思想が存在する.本科目では,心とはどういうものかを考え,心とは何かを問う学問である心理学とはどういう学問であるか,その基本的な考え方,方法論に触れ,また心理学が,そのもととなる哲学とどう関連し,歴史的にどのような発展過程をたどったのかの概略に触れる.この概論の基盤となる担当者(佐藤)の考えは,心理学は,さらに広げれば各時代の心理学における心の理解は,各時代の(主観的/客観的な)こころの記述法,測定法に基づくというものである.したがって,本概論の要諦は,心理的測定法として最も確立していると考えられる19世紀ドイツで成立した知覚研究の測定法,精神物理学的測定法を学ぶとともに,19世紀における,そうした手法の出現を支えた哲学の流れを理解するとともに,その後の心理学の考え方の発展(行動主義の心理学から認知的考え方,生理還元主義的な考え方)を理解することにある.具体的には,第1回,第2回では,心とは何か,心理学とは何かを論じ,第3回から第7回では心を科学的に,数量的に扱う手法(測定法)について学び,第8回から第12回で,そうした測定法の出現に至る心理学の歴史的な発展過程,哲学との関係,さらに,その後の行動主義,生理還元主義的な心理学の姿を学ぶ.その上で,13回,14回で,そうした原理,手法,測定法,さらに,その後出現した,脳波,単一細胞記録法から,現在のスタートも言える機能的核磁気共鳴法(fMRI)に至る生理学的な方法等,具体的な視覚心理学の場にどのように適用され,また心理学の基本的な考え方との関連でどのような意味を持つかを学ぶ.
科目の目的
先に述べたように,心理学には実に多様な分野があるが,それらに共通した,心理学の基本的な考え方,根本思想を理解することが本講義のもっとも中核的な目的である.そうしたものは,実は,個々の分野を学んでいくことを通じて知らぬ間に身につくものであると言えるし,また研究や実践活動を重ねることで身につく面も大きい.しかしその前に,まず心理学とはどういう学問であるか,その基本的な考え方に触れ,また心理学が,そのもととなる哲学とどう関連し,歴史的にどのような発展過程をたどったのかの概略に触れることも意義あることである.具体的には,「記述・測定」の問題が心理学の基盤をなす技術であり,そうした技術の変化につれ,心の理解がどう変化して来たか,またそうした変化の背景にある哲学の流れを理解することを目的とする.
到達目標
1.心理学の全ての分野に通じる心理学の基本的な考え方,根本思想に触れ,心理学とはどういう学問であるか,その基本的な考え方を身につける,2.心理学が,そのもととなる哲学とどう関連し,歴史的にどのような発展過程をたどったのかの概略を学ぶ,3.心の数量化の基礎,および,心とそれを支える脳や生理学的な実体との関係を学ぶ。以上のことを通して、科学としての心理学とは何かについて学ぶ。
科目の概要
すべての受講生にとって新しい学問である心理学について,4年間を通して学ぶ深めるための入り口として,この科目を通じて心理学とはなにか,何をめざす学問であるかという点をしっかりと理解してほしい.また,科学としての心理学の基本的な発想を理解することも重要である.特に,「心」という一見とらえどころの無いものを,客観的な評価,測定の対象としていき,科学の対象としていくのか,さらには個人の主観的な印象をも客観化する手段の概略を身につけるとともに,心理学が,そのもととなる哲学とどう関連し,歴史的にどのような発展過程をたどったのか,さらに,そうした考え方の変化が現代の具体的な研究とどう結びついていくのかを考え,これから学ぶ個別の心理学的科目の学習に役立つ基礎を身につけることが本科目の意味である.そのために,第1回,第2回では,心とは何か,心理学とは何かを論じ,第3回から第7回では心を科学的に,数量的に扱う手法について学び,第8回から第12回で,心理学の歴史的な発展過程,哲学との関係を学び,最後に第13から15回で,視覚系の構造,それに基づいた生理学,心理学の具体的な研究方法の実例を通じて,心理学的な研究と生理的な実体であると脳との関係を学ぶ.
科目のキーワード
心とはなにか、心理学とはなにか、心の数量化、精神物理学的測定法、定数測定法、尺度構成法、閾値、個体発生、系統発生、進化,理性主義,経験主義,ヴント,ヘルムホルツ,ゲシュタルト心理学,機能主義,行動主義,認知心理学,生理心理学,視覚系の構造
授業の展開方法
この科目は、教科書は使わないが,参考書や論文等,学習の助けになる物がある場合には,その都度、講義内でその旨をアナウンスする.イラスト,写真,ビデオ(動画)を併用し,パワーポイントを用いる。
オフィス・アワー
前期:火曜5限
後期:火曜4限
科目コード
RB1020
学年・期
1年・前期
科目名
心理学概論
単位数
2
授業形態
講義
必修・選択
必修
学習時間
【授業】90分×15 【予習】90分以上×15 【復習】90分以上×15
前提とする科目
なし
展開科目
関連資格
公認心理師
担当教員名
佐藤隆夫・松山道後キャンパス教務課
回
主題
コマシラバス項目
内容
教材・教具
1
心理学とは何か(導入)
科目の中での位置付け
本科目は、心とは何か,心理学とは何かということ概略を学び,心を科学として扱う方法に触れることを目指す.心理学には実験心理学を主体とした基礎的な分野,発達心理学,教育心理学,社会心理学などの応用的分野,さらには臨床的な分野などの様々な分野があるが,全ての分野に通じる心理学の基本的な考え方,根本思想が存在する.本科目では,心とはどういうものかを考え,心とは何かを問う学問である心理学とはどういう学問であるか,その基本的な考え方,方法論に触れ,また心理学が,そのもととなる哲学とどう関連し,歴史的にどのような発展過程をたどったのかの概略に触れる.
そのために,第1回,第2回では,心とは何か,心理学とは何かを論じ,第3回から第7回では心を科学的に,数量的に扱う手法について学び,第8回から第12回で,心理学の歴史的な発展過程,哲学との関係を学び,最後に第13から15回で,視覚系の構造,それに基づいた生理学,心理学の具体的な研究方法の実例を通じて,心理学的な研究と生理的な実体であると脳との関係を学ぶ.
こうした講義の中で,第1回の講義では,まず始めにオリエンテーションを行い,本講義の受講の仕方を確認し,本講義全般に対する展望を持ってもらう.その上で,心理学のはじめの一歩として,心とは何かという問題について考えて行きたい.この問題は,心理学を学ぶ上では,初めの一歩であり,また,最後まで残る問題であると言える.今回は,多様な視覚教材にも触れながら,心理学の楽しさを感じてもらいたい.
ヴィジョン(マー,乾・安藤訳,産業図書,1987)
独自教材
コマ主題細目
① オリエンテーション ② 心とは何か ③ ものを見る仕組み ④ 大きさを見る仕組み
細目レベル
① 初回講義であるため、講義の進め方の説明を行う。具体的には、出席要件、講義の進め方、質問の仕方、成績評価の仕方について説明する。出席要件としては、本学のルールに則り、出席を管理する。講義の進め方として、まず冒頭に前回の講義終了後に回収した質問に対する回答を行う。次にコマシラバスを確認し、当該講義がカリキュラム全体、もしくはこの講義の中でどのような位置づけとなっているのか、そして当該講義回の目標を確認し、その目標を意識して講義に臨む。講義の最後には、小テストを実施する。各講義回で生じた質問はmanabaを経由して行う。なお、質問への回答を準備する時間を確保するため、質問は、原則講義実施日中に行うこととする。次に成績評価であるが、この講義の成績評価は期末試験100%とする。つまり、期末試験の成績がそのまま本講義の成績となる。各回で実施する小テストは、その講義の目標がどの程度確認できたかの指標として用いる。小テストの結果を参照し、各講義で配布される教材を用いて各自が復習を行う。
② 本講義は,目的でも述べたように心理学を初めて学ぶ学生諸君に,心とはいったいどのようなものと考えれば良いのか,また,心理学とはどのような学問であり,心理学はどのようにして心を攻めるのかという点を考えて貰うことを目的とする.まづ第1に,現在の心理学は,少なくとも佐藤の考えとしては心的な機能のかたまりとしてとらえることが出来る.心を全体的として,科学的に捉えていくことは難しいが,心を構成する個々の機能は,基本的には情報処理であり,科学的に捉えることが出来る.そうした個々の機能を科学的に押さえようというのが,過去50年強の心理学の流れである.
③ 前項で述べたような心のとらえ方の一例として,佐藤がこれまで行って来た研究の一部である,物体の認識に関わる話をする.目の前にある「りんご」を認識する過程を考える.これは,一般に知覚と言われる視覚情報処理は,目から入ってくる情報を網膜の段階である程度の処理(符号化,情報圧縮)を施し,視神経を通じて脳まで送り,脳でさらに高度の処理を行い,目の前のリンゴが認識される,つまり,リンゴがリンゴだと判る.こうした働きは,目からの情報が順次処理された結果(こうした処理をボトムアップ処理と呼ぶ)成立すると考えられるが,実は,リンゴとはどんな物かという概念,情報が脳内に存在することによって,そうした情報を活用した処理(トップダウン処理)も必要となる.
④ 物の大きさを知るという課題は,物を認識するという課題よりも,はるかに単純に感じられる.従って,物の大きさを知るという過程は,物を認識するという過程よりも,はるかに単純,かつ,おそらくはボトムアップの情報処理だけで解決可能と考えられるかも知れない.しかし,実は,かなり複雑であり,その上,本質的には入力(ボトムアップ)情報だけでは大きさは判らない.つまり,我々が目の前の物の大きさを知覚できるのは,本来,判らないことを「見て」いるのである.こうした,解決不能な知覚は,不良設定問題と呼ばれ,我々の知覚にはよく存在する.それを解くには,脳内に様々な前提条件(制約条件と呼ぶ)が蓄えられており,我々は,眼から入ってくる情報と内部に蓄えられている制約条件を使ってそうした知覚,例えば大きさ知覚を成立させている.
キーワード
① こころ ② 心理学 ③ 心的機能 ④ 物体認識 ⑤ 大きさ知覚
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
[復習]
今回の講義で扱った内容に関する知識定着の確認は小テストを用いて行う。小テストは、提出時に採点結果が提示されるため,各自で小テストの結果を参照し,誤答した問題に関しては,授業開始時に配布される教材を用いて正答とその背景について確認しておくこと。また,誤答した問題以外にも再確認したい内容があれば,講義開始時に配布される教材の該当する箇所を用いて復習を行う。
[予習]
次回の講義開始までに,コマシラバスの「科目の中での位置づけ」,「コマ主題細目」,「細目レベル」に目を通し,講義内容について確認する。講義内容を確認する中で,わからない単語や説明があれば,その部分をチェックし,自分で調べておく。能動的な姿勢で講義に臨むことが求められる。
2
氏か育ちか ー生得説と獲得説ー
科目の中での位置付け
本科目は、心とは何か,心理学とは何かということ概略を学び,心を科学として扱う方法に触れることを目指す.心理学には実験心理学を主体とした基礎的な分野,発達心理学,教育心理学,社会心理学などの応用的分野,さらには臨床的な分野などの様々な分野があるが,全ての分野に通じる心理学の基本的な考え方,根本思想が存在する.本科目では,心とはどういうものかを考え,心とは何かを問う学問である心理学とはどういう学問であるか,その基本的な考え方,方法論に触れ,また心理学が,そのもととなる哲学とどう関連し,歴史的にどのような発展過程をたどったのかの概略に触れる.第1回,第2回では,心とは何か,心理学とは何かを論じ,第3回から第7回では心を科学的に,数量的に扱う手法について学び,第8回から第12回で,心理学の歴史的な発展過程,哲学との関係を学び,最後に第13から15回で,視覚系の構造,それに基づいた生理学,心理学の具体的な研究方法の実例を通じて,心理学的な研究と生理的な実体であると脳との関係を学ぶ.
第2回の講義では,心とは何かについて考える前提として,生命と心の誕生にかかわる諸理論を確認する.進化論や発達心理学で扱われる生命の誕生の神秘から,個体の発生と発達の過程でどうしても背負わざるを得ない人としての制約について論じる.
ヴィジョン(マー,乾・安藤訳,産業図書,1987)
心理学史への招待(梅本,大山,サイエンス社,1994)p 95 - 98
コマ主題細目
① 個体発生と系統発生 ② 生得行動と学習行動と本能 ③ 言語学習と臨界期 ④ インプリンティングと臨界期
細目レベル
① 本細目では初めに前回の続きとして,陰影からの奥行き知覚について説明する.我々は,対象物上の陰影の分布から対象物の奥行き,凹凸構造を知覚することができる.この,陰影からの奥行き知覚も,前回の大きさ知覚と同様に不良設定問題である.通常,光が上から来るという制約条件(仮定)が働く.多くの場合は,光は上から来るので,多くの視覚入力に対して(多くの場合に)正しい知覚が成立する.この仮定は,いわば世界の構造であり,我々がアメーバだった時にも成り立っていたのであるから,進化の結果であると考えることも出来るし,また我々は生まれた時から基本的には上から光が来る世界で生きてきたのであるから,生後の環境から学んだものと見ることもできる.ここでは,この例を元に,どのような研究を実施すれば,この対立仮説を解決できるのかを学ぶ.また,同様の研究の例をいくつか紹介する.特に,ギブソン夫妻の研究史を取り上げる.
② 知覚などの知的機能だけではなく,物理的運動など,全ての行動は,生得的に決定されているものと,生後の学習によって発現する獲得行動に分類される.魚は孵化すれば直ちに泳ぐし,鳥は孵化すればすぐに飛ぶ生得的な行動であっても,生後すぐに飛ぶ.また,馬は生まれたら1時間後には立って歩いている.しかし,人間は歩き始めるまで1年近くを要する.しかし,人間の直立歩行は学習によって成立するとはいえず,生得的な行動でも様々な成熟が必要になる.ここでは,動物・人間の行動について生得,獲得行動をどのように区別できるかを検討する.さらに,我々の行動における観察学習の働きも学ぶ.また,行動の進化がどのような原理で進んで行くのかをドーキンスの利己的遺伝子論を参考に検討する.
③ 我々の心的機能の基本は生得的なものから成り立っていると考えられる.学習によって発現すると思われる心的機能でも,実は,ヒトや動物(有機体)の側の内部構造,成熟との交互作用によってなり立つものが多い.代表的な例は言語の学習である.我々は,第1言語は特に学習することも無く,単にその言語にさらされているだけで身につけることができる.赤ん坊は,毎日,親や家族の話す言葉にさらされて育つ.また,一日中,親と同じ言葉のテレビの音を聞いているかも知れない.こうした環境で育てば,赤ん坊はその言語を身につけることができる.しかし,こうした学習は3才ごろからせいぜい10才までの期間に成立する.この期間の上限を臨界期と呼ぶ.臨界期を過ぎると,意識的に学習する必要が生じる.また,動物の講堂の中に,インプリンティングと呼ばれるものがある.生後の一定時期までに,ある特定の刺激にさらされると,特定の学習が成立する,例えば水鳥は生まれて直ぐに見た動くもの(普通は親鳥)に泳げるようになってからも付いて泳ぐという行動である.こうした,後天的にスイッチの入る先天的な行動にも,言語と同じような臨界期が存在する.
キーワード
① 個体発生と系統発生 ② 進化 ③ 言語学習と臨界期 ④ インプリンティングと臨界期
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
[復習]
前回同様,今回の講義で扱った内容に関する知識定着の確認は小テストを用いて行う。小テストは、提出時に採点結果が提示されるため,各自で小テストの結果を参照し、誤答した問題を中心に,テキスト教材等を参照して確認をしておくこと。また,誤答した問題以外にも再確認したい内容があれば、講義開始時に配布される教材の該当する箇所を用いて復習を行う。特に,個体発生と系統発生の違い,進化論の主要理論であるドーキンスの利己的遺伝子論,言語学習における臨界期がもたらす役割等について理解を深めておくこと.
[予習]
次回の講義開始までに,コマシラバスの「科目の中での位置づけ」,「コマ主題細目」,「細目レベル」に目を通し,講義内容について確認し,次回のテーマである「心理学的測定法 (1) 独立変数,従属変数,相関」に興味を持っておく.わからない単語や説明があればその部分をチェックし,自分で調べておく。能動的な姿勢で講義に臨んでほしい.
3
心理学的測定法 (1) 独立変数,従属変数,相関
科目の中での位置付け
本科目は、心とは何か,心理学とは何かということ概略を学び,心を科学として扱う方法に触れることを目指す.心理学には実験心理学を主体とした基礎的な分野,発達心理学,教育心理学,社会心理学などの応用的分野,さらには臨床的な分野などの様々な分野があるが,全ての分野に通じる心理学の基本的な考え方,根本思想が存在する.本科目では,心とはどういうものかを考え,心とは何かを問う学問である心理学とはどういう学問であるか,その基本的な考え方,方法論に触れ,また心理学が,そのもととなる哲学とどう関連し,歴史的にどのような発展過程をたどったのかの概略に触れる.第1回,第2回では,心とは何か,心理学とは何かを論じ,第3回から第7回では心を科学的に,数量的に扱う手法について学び,第8回から第12回で,心理学の歴史的な発展過程,哲学との関係を学び,最後に第13から15回で,視覚系の構造,それに基づいた生理学,心理学の具体的な研究方法の実例を通じて,心理学的な研究と生理的な実体であると脳との関係を学ぶ
第3回の講義は,心理学的測定法の第1回として,心理学における根本的な概念,支えとなる概念である独立変数と従属変数とは何か,また両者の相関が何を意味しており,どのような注意を払って見ていかなければならないかを学ぶ.その上で,さらに難しい相関とも言える,意識(心)と,物理的実体である脳との関係を,意識,クオリアの最近の研究動向を交えて学ぶ.
独自教材を配布する.
コマ主題細目
① 独立変数と従属変数 ② 相関の考え方 ③ 心と脳とクオリア
細目レベル
① 科学は,全て,ある量(要因)とある量(要因)の関係を探ることから始まる.例えば,餌を食べる量と体重の関係といった関係である.つまり,餌を沢山食べるネズミは体重が多いか?といった問題である.こうした問題を設定した場合,多くの場合,一方の要因は操作が容易であり,他方は難しい.上の例では,餌をやる量は簡単に操作できるが,体重は操作しにくい.実験を行うとすれば,餌の量を変えて,体重に影響がでるかという実験を実施するだろう.このような場合,操作する側を独立変数,操作の結果,変化し,それを評価したい側を従属変数と呼ぶ.我々が見聞きする実験の大部分はこのように,独立変数の操作の結果,従属変数がどう変わるかを調べる.実際に,研究の話を読んだり聞いたりするときには,何が独立変数で,何が従属変数であるかをはっきりと意識する必要がある.
② 良い問題設定をして,上手な実験を行うと,両変数の間に,綺麗な相関関係,例えば,餌をいっぱい食べさせたネズミは体重が多いといった関係が認められることが多い.この場合,相関は因果関係,つまり餌を沢山食べた結果,体重が多くなったことを表すと思われるが,単に相関があるだけで,因果関係は無い場合もある.こうした場合,両者の関係は単なる随伴関係であると言う.例えば,1,2才までの乳幼児の足の大きさと知能を測定したら,強い相関が認められたとする.しかし,この場合,足の大きさと知能との間に真の相関がある訳では無い.肉体的な発達(足の大きさ)と知的な発達(知能)を結ぶ要因として,一般的な発達レベルがあり,一般的に発達の良い子は肉体的にも,精神的にも発達が良いと考えるのが適切である.
③ 心の働きとしての意識と,脳活動の間に相関関係や,因果関係はあるのだろうか?「意識」という言葉は,常に心理学の中心的な位置にある言葉であると同時に,やっかいな存在でもある.だれもが自分は意識を持ち,意識に従って生きていると感じている.しかし,それを直説操作することは難しいし(意識を独立変数として扱うことは難しい),意識を直説測定することも難しい(意識を従属変数として扱うことは難しい).近年,意識の一部,もしくは等価物としてクオリアという概念が持ち出されることが多い.クオリアとは,今,僕が見ている「赤」,この「赤という感覚」それがクオリアであり,そのくらいなら論じられるだろうという安直な考えである.この,クオリアを含む意識の問題を扱う態度として,イージープロブレムと呼ばれるものと,ハードプロブレムと呼ばれるものの二つのスタンスがある.イージープロブレムと呼ばれる立場は意識とは何かと,クオリアとは何かと直説は問わずに脳内の情報処理を攻めていこうという立場,つまり現在の心理学,脳科学の基本的なスタンスである.一方,ハードプロブレムと呼ばれる立場は,意識とは何か,クオリアとは何かと本質論を追い求める立場である.
キーワード
① 独立変数と従属変数 ② 相関と因果と随伴 ③ 意識とクオリア
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
[復習]
今回の講義で扱った内容に関する知識定着の確認は小テストを用いて行う。小テストは,提出時に採点結果が提示されるように行う。各自で小テストの結果を参照し,誤答した問題に関しては,授業開始時に配布される教材を用いて復習を行う。また,誤答した問題以外にも再確認したい内容があれば、講義開始時に配布される教材の該当する箇所を用いて復習を行う。特に,独立変数と従属変数の意味と役割,相関関係と因果関係の違い等について説明できるかどうか自身で確認しておいてほしい.これらは,今後の統計にかかわる授業等でさらに詳しく勉強していくことになるため,今の段階でしっかり理解しておいたほうがよいだろう.理解していないと感じる場合には,ぜひ質問をしてほしい.
[予習]
次回の講義開始までに,コマシラバスの「科目の中での位置づけ」,「コマ主題細目」,「細目レベル」に目を通し,講義内容について確認する。次回のテーマは「心理学的測定法(2) 定数測定法(閾値測定)」であり,心を測定する方法についての講義であるため,心を測定する,ということがどういうことなのか,想像を膨らませておいてほしい.
4
心理学的測定法 (2) 定数測定法(閾値測定)
科目の中での位置付け
全ての学生にとって,心理学は初めて学ぶ学問である.そうした心理学を学び始めるにあたって,本科目は、心とは何か,心理学とは何かということ概略を学び,心を科学として扱う方法に触れることを目指す.心理学には実験心理学を主体とした基礎的な分野,発達心理学,教育心理学,社会心理学などの応用的分野,さらには臨床的な分野などの様々な分野があるが,全ての分野に通じる心理学の基本的な考え方,根本思想が存在する.本科目では,心とはどういうものかを考え,心とは何かを問う学問である心理学とはどういう学問であるか,その基本的な考え方,方法論に触れ,また心理学が,そのもととなる哲学とどう関連し,歴史的にどのような発展過程をたどったのかの概略に触れる.第1回,第2回では,心とは何か,心理学とは何かを論じ,第3回から第7回では心を科学的に,数量的に扱う手法について学び,第8回から第12回で,心理学の歴史的な発展過程,哲学との関係を学び,最後に第13から15回で,視覚系の構造,それに基づいた生理学,心理学の具体的な研究方法の実例を通じて,心理学的な研究と生理的な実体であると脳との関係を学ぶ.
第4回の講義は,心理学的測定法の第2回として,精神物理学的測定法の基本,定数測定法を学ぶ.測定される定数としては絶対閾,弁別閾,主観的等価点を取り上げ,測定法としては,調整法,極限法,恒常法,階段法等を取り上げる.信号検出理論については,別項で取り上げる.
心理学史への招待,p55-67.
流れを読む 心理学史(サトウタツヤ,高砂美樹,有斐閣,2002)p10-34
コマ主題細目
① 閾値の測定の基礎 ② 定数測定の方法 ③ ウェーバー・フェヒナーの法則
細目レベル
① 19世紀半ばにドイツの心理学者,G.T.フェヒナーは物理世界の量(例えば光の強さ)「φ」と,心理世界の量(例えば感じる明るさ)「ψ」の関係を明らかにするために,精神物理学と呼ばれる学問分野をうちたてた.彼が主に用いたのは,閾値測定である.その当時用いられた閾値は,絶対閾と弁別閾である.絶対閾とは,明るさで言えば見えるか見えないかの境の明るさ,つまり我々の光知覚の下限である.弁別閾とは,二つの刺激の強さの違いが分かる限界である.さらに二つの刺激が等しく感じられる主観的等価点(PSE)の測定も重要である.こうした閾値を測定する手法として,調整法(method of adjustment ),極限法(method of limits),恒常法(method of constant stimuli)などの手法を提唱した.こうした方法は,現在でも用いられているが,その後,階段法(staircase method),信号検出理論(signal detection theory)等の手法も用いられるようになっている.
② フェヒナーは,前節で述べた各種の閾値を測定する手法として,調整法(method of adjustment ),極限法(method of limits),恒常法(method of constant stimuli)などの手法を提唱した.こうした方法は,現在でも用いられているが,その後,階段法(別名上下法,staircase method),信号検出理論(signal detection theory)等の手法も用いられるようになっている.現在では,精度が必要な場合には恒常法が用いられることが多いが,試行回数が多くなる難点がある.試行回数が少なくなり,精度も高い階段法が用いられることも多い.こうした手法を用いた測定では,多くの試行回数が必要になることが多いので,どのように,誤差を各条件で均等に維持するか,様々な要因をどのようにカウンターバランスさせるかが重要となる.
③ 10kgの薪を背負った二宮金次郎が歩いていた。いじめっ子が,そっと100gの薪を1本乗っけても金次郎にはバレなかった.2本のせてもばれなかった.3本乗せたら,さすがにばれてしまった.次の日,金次郎は20kgの薪を背負って歩いていた.いじめっ子が,昨日と同じ事をやってみたところ,100gの薪,5本まではバレなかっが,6本乗せたら,さすがにばれてしまった.この話は,ウェーバー法則の基本を語っている.ウェーバー(1795-1878)は、重さの弁別の研究において、2刺激の重さの弁別閾は一定ではなく、標準刺激の重さに比例することを見いだし、さらに同様の関係が線分の長さや、音の高さの弁別においても成立つことを見いだした。この関係は一般には、標準刺激をR、弁別閾をΔRとすればΔR / R = C(Cは定数)であらわされる。これをウェーバーの法則といい、この比をウェーバー比.その後,これは,フェヒナーによって改良され,ウェーバー・フェヒナーの法則と呼ばれるようになるが,基本的には大差は無い.ウェーバーの卓見は,ΔRの値がRに依存して変化しても,「違いがわかる!」という意味では,心理的には等価であるということを思いついたことである.
キーワード
① 精神物理学 ② 絶対閾と弁別閾 ③ 精神物理学的測定法 ④ サイコメトリック関数 ⑤ 刺激連続体
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
[復習]
今回の講義で扱った内容に関する知識定着の確認は小テストを用いて行う。小テストは,提出時に採点結果が提示されるため,誤答した問題に関しては,授業開始時に配布される教材を用いて復習を行う。また,誤答した問題以外にも再確認したい内容があれば,講義開始時に配布される教材の該当する箇所を用いて復習を行う。特に今回は,精神物理学における多様な測定法の名称,それらの意義と違いを説明できることが重要な目的となる.また,人の感覚の弁別閾におけるウェーバーの法則について説明できることも求められる.このことについて自問自答し,十分に説明できない場合には,繰り返し文字教材を参照し,必要に応じて教員に質問をすること.
[予習]
次回の講義開始までに、コマシラバスの「科目の中での位置づけ」、「コマ主題細目」、「細目レベル」に目を通し、講義内容について確認する。講義内容を確認する中で、わからない単語や説明があれば、その部分をチェックし、自分で調べておく。次回のテーマは「心理学的測定法 (3) 尺度構成・マグニチュード推定」である.感覚に基づく測定から,尺度を使用した測定法へと発展を見る.引き続き,「こころを測る」ことへの関心を高めてほしい.
5
心理学的測定法 (3) 尺度構成・マグニチュード推定
科目の中での位置付け
全ての学生にとって,心理学は初めて学ぶ学問である.そうした心理学を学び始めるにあたって,本科目は、心とは何か,心理学とは何かということ概略を学び,心を科学として扱う方法に触れることを目指す.心理学には実験心理学を主体とした基礎的な分野,発達心理学,教育心理学,社会心理学などの応用的分野,さらには臨床的な分野などの様々な分野があるが,全ての分野に通じる心理学の基本的な考え方,根本思想が存在する.本科目では,心とはどういうものかを考え,心とは何かを問う学問である心理学とはどういう学問であるか,その基本的な考え方,方法論に触れ,また心理学が,そのもととなる哲学とどう関連し,歴史的にどのような発展過程をたどったのかの概略に触れる.第1回,第2回では,心とは何か,心理学とは何かを論じ,第3回から第7回では心を科学的に,数量的に扱う手法について学び,第8回から第12回で,心理学の歴史的な発展過程,哲学との関係を学び,最後に第13から15回で,視覚系の構造,それに基づいた生理学,心理学の具体的な研究方法の実例を通じて,心理学的な研究と生理的な実体であると脳との関係を学ぶ
第5回の講義は,心理学的測定法の第3回として,尺度とはなにか,尺度の種類,尺度の作り方を学ぶと共に,尺度構成法で比例尺度を直説構成できるマグニチュード測定法について詳しく学ぶ.
心理学史への招待,p55-67.
心理学史p10-34
コマ主題細目
① 尺度の種類 ② JND尺度 ③ 比例尺度 ④ マグニチュード推定 ⑤ フェヒナー法則
細目レベル
① 心理尺度とは,目に見えない心理現象を把握するための「心の物差し」です.ここでは,最も理解しやすい,感覚量の尺度について学びます.尺度には,いくつかの種類があり,それぞれの尺度が表せる情報の質,量が異なります.具体的な尺度の作り方を学ぶ前に,尺度の水準とも呼ばれる尺度の種類を見てみます.
尺度水準(Level of Measurement / Scale=データが表現する情報の性質に基づき,分類する基準.
1.名義尺度 (Nominal Scale) 単なる名前,カテゴリー
血液型,出身高校...
数字を割り振ることはできるが入れ替え可能.
平均などを求めても意味はない.
棒グラフ.折れ線はだめ!
2.順序尺度 (Ordinal Scale) 順番をつけることが出来るもの
順位.50番は100番よりも倍できる訳ではない.数字は順序だけ
3.間隔尺度 (Interval Scale, Distance Scale)
ゼロ点が無い. 間隔は定義できるが,比は求められない.
差には意味がある.
温度. 折れ線グラフはOK.
4.比例尺度 (Ratio Scale) ゼロ点があり,比が求められる.
これだと何でもできる.
長さ,重量,年齢,収入
② フェヒナーは感覚量を直接測定することはできないと考え,ある強度における丁度可知差異(弁別閾の別名,jndと略される,just noticeable difference)を感覚の基本単位として,間接的に感覚量を尺度化しようと試みた.もとになる刺激強度が異なれば,弁別閾の値は異なるが(弁別閾はもとの強度の一定比率になる=ウェーバーの法則),その点で差が判るという意味では感覚的には等価である(違いを判らせる差分)と考えることができる(内部の生理的な表現としては同じ差分をもつ可能性もある).つまり,感覚量の物差しを,各点における局所的な弁別閾を用いて正規化し,強度の異なる二つの刺激の間の強度差を,いくつものjndを積算することによって正規化し間接的に尺度化しようとしたのである。このことから,こうした尺度はJND尺度とも呼ばれる.
③ 比例尺度とは,ゼロ点が定義されており,二つの値の比を計算できる尺度である.温度(摂氏)は,ゼロ点が恣意的なものであり,比を語ることはできない.長さや重さはゼロ点がはっきり定義されているので,20kmは10kmの2倍であると言うことができる.フェヒナーの法則による尺度は感覚尺度であり,心理量に対して比例尺度を構成するのは,けっこう難しい.良くでてくるのは,S. S. Stevensが提唱した,音の大きさに関するson尺度を作るのに用いた比算出法(ratio production).この手法では,ある強度の刺激を提示し,そのN倍,もしくは1/Nの刺激を作らせる(調整法を用いる).
1son = 絶対閾の上40dBの1000Hzの音の大きさ と定義した上で,
この音を提示し,ちょうど2倍の音を作らせる(ボリュームつまみを回して調整)
2倍の音は47dBだった. → 47dBを2sonとする.
47dB(2son)の2倍の音を作らせる.
2倍の音は55dBだった. → 55dBを4sonとする.これを順次くりかえして尺度を作っていく.
逆に比産出法の逆を行って,二つの刺激を提示し,その比率を(倍率)を答えさせる比推定法(ratio estimation)という方法もあるが,単独で使われることは少なく,比産出法の結果の検証に使われることが多い.
もっとも多用されるのはマグニチュード推定法(次項).
④ マグニチュード推定法とは,S. S. Stevensが提案した直接的な感覚尺度構成法である.の一つ。感覚量の最小単位である弁別閾(ΔR)を積み上げて,間接的に感覚量を表現したが,Stevensの方法は,直接観察者に感覚の大きさを数量的に推定させ,感覚量を表現する.この方法では,初めに基準となる強さの刺激を提示し,それをある数字,例えば100として覚えて貰う,その後,ランダム化した順番で数種類の強さの刺激を提示し,各刺激についてその感覚的大きさを,基準刺激と比較した数字によって直接的に答えさせる.推定に際して,基準となる刺激の評価をもとに,観察刺激の主観的な強さを比率として評価させるので,結果は比例尺度を構成する。逆に言えば観察者が比率判断ができ,数として表現可能であることを前提としている。
この研究から,かれはウェーバー比に対立する概念として,べき乗則を提案したが,両者は現実的にはそれほど大きく異なる訳では無い.
キーワード
① ウェーバー法則 ② JND尺度 ③ 比例尺度 ④ マグニチュード推定
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
[復習]
今回の講義で扱った内容に関する知識定着の確認は小テストを用いて行う。小テストは提出時に採点結果が提示されるため,誤答した問題に関しては,授業開始時に配布される教材を用いて復習を行う。また,誤答した問題以外にも再確認したい内容があれば,講義開始時に配布される教材の該当する箇所を用いて復習を行う。特に今回は,心を測定するためになぜ尺構成が必要となったのか,またその方法としてjnd法やマグニチュード推定法について説明できるかどうかを自問し,それが十分ではない場合には文字教材を参照したり,適宜教員に質問をしてほしい.
[予習]
次回の講義開始までに,コマシラバスの「科目の中での位置づけ」,「コマ主題細目」,「細目レベル」に目を通し,講義内容について確認する。講義内容を確認する中で,わからない単語や説明があれば,その部分をチェックし、自分で調べておく。次回のテーマは測定法のさらに発展版である「信号検出理論・多次元尺度」となる.第3回から第5回にかけての展開から推察して,次回はどのような測定法の発展があるのか,予想して講義に臨んでみるとよいだろう.
6
心理学的測定法 (4) 信号検出理論・多次元尺度
科目の中での位置付け
心理学を学び始めるにあたって,本科目は、心とは何か,心理学とは何かということ概略を学び,心を科学として扱う方法に触れることを目指す.心理学には実験心理学を主体とした基礎的な分野,発達心理学,教育心理学,社会心理学などの応用的分野,さらには臨床的な分野などの様々な分野があるが,全ての分野に通じる心理学の基本的な考え方,根本思想が存在する.本科目では,心とはどういうものかを考え,心とは何かを問う学問である心理学とはどういう学問であるか,その基本的な考え方,方法論に触れ,また心理学が,そのもととなる哲学とどう関連し,歴史的にどのような発展過程をたどったのかの概略に触れる.第1回,第2回では,心とは何か,心理学とは何かを論じ,第3回から第7回では心を科学的に,数量的に扱う手法について学び,第8回から第12回で,心理学の歴史的な発展過程,哲学との関係を学び,最後に第13から15回で,視覚系の構造,それに基づいた生理学,心理学の具体的な研究方法の実例を通じて,心理学的な研究と生理的な実体であると脳との関係を学ぶ.
第6回の講義は,心理学的測定法の第4回として,精神物理学的測定法の基本とも言える閾値概念(第4回)に信号検出の観点から疑問を提出し,閾値概念に変わる新たな理論として注目されるに至った,信号検出理論の考え方を紹介する.また,前回(第5回)で学んだ尺度(1次元尺度)を拡張した多次元尺度について,その基礎を学ぶ.
独自教材
コマ主題細目
① 閾値の概念 ② 信号検出理論 ③ 多次元尺度
細目レベル
① 第4回の講義(心理学測定法(2))で,閾値を取り上げた.閾値にはいくつかの種類があるが,ここで論じるのは絶対閾である.絶対閾とは,例えば,明るさで言えば見えるか見えないかの境の明るさ,つまり我々の光知覚の下限である.その背後にある考え方は,眼によって受容された明るさの情報が,何段階かの神経系における処理を通じて伝えられ,最終的にある段階で光の有無が判断される.その段階でのどの程度,神経細胞が強い情報を持っているか(神経細胞のスパイク頻度),その段階で,どういう基準,つまりスパイク頻度に関する閾値が設定されているのかという考え方である.しかし,実際の検出課題,特に戦争中のレーダーを用いた敵機の検出課題の状況から,そのような固定された閾値が存在するのかどうかという疑問が呈された.実際には,様々な要因,刺激の出現頻度,正しく検出したときの利益,見落としたときの損失など,様々な要因に依存した決定過程であると言う考えから,信号検出理論が誕生してきた.
② 信号検出理論 (signal detection theory ; SDT) とは,そもそも,雑音のなかから信号を検出する事態を検討するための工学的な決定理論であるが,心理学では感覚の強度の測定手段として使用される。 ある信号を雑音のなかから検出する事態を考えると,信号の有無,答えの正否の組み合わせから4通りの場合が考えられる.(A)ヒット:信号が存在,答えが正(正解),(B)コレクト・リジェクション(正棄却):信号は不存在,答えは不存在(正解)。(C)ミス:信号は存在,答えは不存在=見落とし。(D)フォールス・アラーム(誤警報):信号は不存在,答えは存在=。この理論が敵機をレーダーで発見することを想定していることを考えれば(一般に警戒業務ではすべてそうだが),ヒットと正棄却を増やし,ミスとフォールスアラームを減らすことが望ましい.通常だと,上司が,根性!とか,ガンバレ!とか言うのだが,それだけでは実はうまくいかない.ヒットを増やそうとすると誤警報が増える(コレクトリジェクションが減る).誤警報を減らそうとするとヒットが減ってしまう(ミスが増える).この関係は,火災の見落としを減らそうと,火災検知器の感度を上げすぎると,誤動作が増える.誤動作を防ごうと感度を下げると見落としが増えてしまうことを考えればわかるだろう.このように,実は固定された感度は無く,状況に応じて(火災感知器であれば,火事の起こる確率,守るべき建物の価値 etc)感度は変化するという考えが信号検出理論の最も重要なポイントである.
③ 前回の講義(第5回)で,心理尺度について学んだ.前回取り上げた尺度は,物理的な刺激の強さ(物理量)を,感覚の主観的な強さ(心理量)に結びつけるものであり,各点における刺激の弁別閾の変化(ウェーバー法則に従う)を用いて,刺激の正規化を行い,物理量を心理量に繋げていこうというものである.この場合,グラフの縦軸は感覚の強さ(心理量)であり,横軸は刺激の強さ(物理量である).つまり,この場合,刺激の物理的な強さ(物理量)と,刺激の主観的な強さ(心理量)の関係を,1次関数で記述しようとする.しかし,主観的な強さを規定する要因(独立変数)は刺激の物理的な強度だけではないかもしれない.例えば,観察者の精神状態(けっこう関係がありそう),部屋の温度(あまりありそうではないが)等の様々な要因が影響する可能性がある.こうした尺度構成を多次元尺度構成と呼ぶ.感覚よりも,もっと複雑な社会的な要因も含む場合,例えばある商品の好感度に対する評価者の学歴と家族構成の効果を考える場合には,独立変数がカテゴリカル(名義尺度的)なものになる事が多いので,物理量のように距離・比例尺度的なものとは処理法が大きく異なる
キーワード
① 閾値 ② 信号検出理論 ③ 多次元尺度
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
[復習]
今回の講義で扱った内容に関する知識定着の確認は小テストを用いて行う。小テストは,提出時に採点結果が提示されるように行う。各自で小テストの結果を参照し,誤答した問題に関しては,授業開始時に配布される教材を用いて復習を行う。また,誤答した問題以外にも再確認したい内容があれば、講義開始時に配布される教材の該当する箇所を用いて復習を行う。特に,絶対閾に対する疑問から信号検出理論が誕生するプロセスと,信号検出理論について説明できるかどうか,ぜひ自問してほしい.また,多次元尺度を構成する意義についても今一度振り返ってみて,十分理解していないと感じる場合には,ぜひ質問をしてほしい.
[予習]
次回の講義はここまでのまとめであるため,具体的に予習すべき事項はない.これまでの講義を総括的に振り返って起き,自分が何を理解して何を理解していないのかを確認することが,次回に向けての予習といえるだろう.
7
まとめ
科目の中での位置付け
全ての学生にとって,心理学は初めて学ぶ学問である.そうした心理学を学び始めるにあたって,本科目は、心とは何か,心理学とは何かということ概略を学び,心を科学として扱う方法に触れることを目指す.心理学には実験心理学を主体とした基礎的な分野,発達心理学,教育心理学,社会心理学などの応用的分野,さらには臨床的な分野などの様々な分野があるが,全ての分野に通じる心理学の基本的な考え方,根本思想が存在する.本科目では,心とはどういうものかを考え,心とは何かを問う学問である心理学とはどういう学問であるか,その基本的な考え方,方法論に触れ,また心理学が,そのもととなる哲学とどう関連し,歴史的にどのような発展過程をたどったのかの概略に触れる.第1回,第2回では,心とは何か,心理学とは何かを論じ,第3回から第7回では心を科学的に,数量的に扱う手法について学び,第8回から第12回で,心理学の歴史的な発展過程,哲学との関係を学び,最後に第13から15回で,視覚系の構造,それに基づいた生理学,心理学の具体的な研究方法の実例を通じて,心理学的な研究と生理的な実体であると脳との関係を学ぶ
本講義(第7回)は,第1回から6回までの,心とは何か,心理学とは何か,心理学的測定法=心を量化し,科学の手法に乗せていく方法に関する復習回である.これまでの授業回の内容の理解を確認し、第7回以降の学習へスムーズに移行することが可能になることを目的とする。
コマ主題細目
① こころとは何か ② 氏か育ちか ③ 心理学的測定
細目レベル
① ここでは,第1回から第2回までの内容が理解できているか確認すると共に,授業で扱いきれなかった問題についての議論を行う.第8回以降の,心理学の哲学的基礎の部に進むにあたって,心というものが,本来どういうものであるのか,また,現在の心理学における心の理解がどのようなものであるかという点をしっかり抑えておくことは重要である.さらに,第1回で論じた,物を見る仕組み,大きさを見る仕組みについての議論から,視覚の不良設定性という,人間の知覚,外界理解が,入力だけに依存するのでは無く,観察者の内部状態,知識,それの元となる世界の構造といった要因にも依存することを理解して欲しい.また大きさの問題からは,「大きさ」といった単純な問題も,実は複雑な課題であり,いくつかの要素を組み合わせ無いと解けない課題であることを理解して欲しい.
② 第2回の「氏か育ちか」の部分で述べた生得,獲得行動,また発達の系統発達的側面,個体発達的側面の関係,さらに本能的な行動とは何かという問題,また,そうした異なった種類の行動をどのように区別し,評価していくかという問題は心理学全体の最重要課題と言っても言いすぎでは無い重要問題である.また,一見,学習された,獲得的な行動と見えるものでも,有機体内部に準備されたプロセスが外部からの刺激からのトリガーによって起動されるものもある.インプリンティングや言語学習がこうしたものの例となる.こうした行動には臨界期が存在することもある.以上述べたような問題の理解は,人間理解の哲学的側面と心理学を繋げていくキーともなる概念であると言える.
③ 第3回から第6回までの,心理学的測定法に関する議論は,心理学の「科学」としての側面を正しく理解する上で欠かせない要素である.第3回では,科学的心理学の基礎の基礎とも言える独立変数と従属変数とは何か,それらの関係について論じ,さらに両者の相関からなにが読み取れるのか,因果性と随伴性についても学んだ.第4回では,ヘルムホルツの精神物理学的測定法の基本である定数測定,閾値測定,特に絶対閾,弁別閾について学んだ.また,弁別閾の興味深く,重要な性質であるウェーバーの法則,さらにはウェーバーフェヒナーの法則についても議論した.第5回では,ウェーバー比に基づいたJNDスケーリングと共に,比例尺度の構成法を学んだ.その上で第6回で信号検出理論,多次元尺度についても触れた.
キーワード
① 心 ② 心理学 ③ 生得・獲得 ④ 個体発生・系統発生 ⑤ 心理学的測定法
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
[復習]
今回の講義で扱った内容に関する知識定着の確認は小テストを用いて行う。小テストは、提出時に採点結果が提示されるように行う。各自で小テストの結果を参照し、誤答した問題に関しては、授業開始時に配布される教材を用いて復習を行う。また、誤答した問題以外にも再確認したい内容があれば、講義開始時に配布される教材の該当する箇所を用いて復習を行う。第1回から第6回にかけて,心理学のベースとなる人の発生,心の発達,そして心の測定とそこから見える心の機能について学んできた.これらを振り返って,自分自身は心理学をどのようなものと認識しているだろうか.このことについて自分なりにまとめておくとよいだろう.その上で,理解が十分でない点やわからない点があれば,各界の資料を参照したり,教員に尋ねてみてほしい.
[予習]
次回の講義開始までに、コマシラバスの「科目の中での位置づけ」、「コマ主題細目」、「細目レベル」に目を通し、講義内容について確認する。次回第8回からは,これまでとは様相を変え,心理学という学問の歴史的変遷を追う.第8回は心理学の源流としての哲学に触れる.難しそうと感じる人は,デカルト,ロックという人物について事前に調べておくとよいだろう.また,哲学に関する講義を受講している人でこうした名前を聞いたことがある人は,そうした講義の資料を復習しておくことも本講義の予習となるであろう.
8
哲学から心理学へ 理性説と経験説
科目の中での位置付け
心理学を学び始めるにあたって,本科目は、心とは何か,心理学とは何かということ概略を学び,心を科学として扱う方法に触れることを目指す.心理学には実験心理学を主体とした基礎的な分野,発達心理学,教育心理学,社会心理学などの応用的分野,さらには臨床的な分野などの様々な分野があるが,全ての分野に通じる心理学の基本的な考え方,根本思想が存在する.本科目では,心とはどういうものかを考え,心とは何かを問う学問である心理学とはどういう学問であるか,その基本的な考え方,方法論に触れ,また心理学が,そのもととなる哲学とどう関連し,歴史的にどのような発展過程をたどったのかの概略に触れる.第1回,第2回では,心とは何か,心理学とは何かを論じ,第3回から第7回では心を科学的に,数量的に扱う手法について学び,第8回から第12回で,心理学の歴史的な発展過程,哲学との関係を学び,最後に第13から15回で,視覚系の構造,それに基づいた生理学,心理学の具体的な研究方法の実例を通じて,心理学的な研究と生理的な実体であると脳との関係を学ぶ.
この中で,第8回の講義では,心理学の歴史的発展過程を語る端緒として,心理学に結びつくヨーロッパ哲学の二大源流である,デカルトに代表される理性論と,ロックに代表される経験論,両者の関係,現在の心理学との関係について学んでいく.
心理学史 p10-19
心理学史への招待 p18-41
コマ主題細目
① 哲学から心理学へ 次回の講義(第9回)で,学ぶ19世紀ドイツに於ける心理学の成立以前には,「心理学」という学問分野は正式には存在しない.それまでは心理学の主題の多くが哲学,物理学,生物学の中で論じられてきた(その頃は,物理学,生物学も哲学の一部であったが).科学的な心理学に繋がる「科学的」な発想は,レオナルド・ダ・ヴィンチあたりが起源かも知れない.彼は画家であると同時に,科学的な発想を持ち,ルネサンスを代表する教養人である.日本では室町時代に相当する.その後,江戸初期のハーべーの血液循環説,ニュートンの物 ② 理性主義 ③ 経験主義 ④ 高次脳機能障害の支援
細目レベル
① 哲学から心理学へ 次回の講義(第9回)で,学ぶ19世紀ドイツに於ける心理学の成立以前には,「心理学」という学問分野は正式には存在しない.それまでは心理学の主題の多くが哲学,物理学,生物学の中で論じられてきた(その頃は,物理学,生物学も哲学の一部であったが).科学的な心理学に繋がる「科学的」な発想は,レオナルド・ダ・ヴィンチあたりが起源かも知れない.彼は画家であると同時に,科学的な発想を持ち,ルネサンスを代表する教養人である.日本では室町時代に相当する.その後,江戸初期のハーべーの血液循環説,ニュートンの物理学(ニュートンの色覚理論は心理学・生理学の理論とも見なせる,さらにドールトン,トーマス・ヤングに進み,ゲーテが乱入,最終的にはヘルムホルツに行く),江戸末期のダーウィンの進化論の提唱を経て,最終的に,次回で詳しく述べる19世紀,つまり明治から大正時代のドイツにおける心理学の成立へと繋がっていく.
② 理性主義 心理学以前の哲学の中で,現在の心理学にもつながる,最も重要な流れは,理性主義と経験主義の関係であろう.それに繋がる(同じ物と考えることもできるが),重要な事項は,生得行動と獲得行動の関係である.生得行動とは,生後学習することが必要では無く,生まれながらに出来てしまう行動とは,生後学習して,つまり訓練を受けて初めてできるようになる行動である.しかし,生得行動と言っても,ある程度の成熟があって初めて遂行可能になる行動も多い.生得,獲得(さらに本能的)行動の区別は簡単では無い.理性主義と喧々主義という言葉は,意識や,知能などの知的機能について,生まれながらにそなわっているのか,生後の経験によって成立するかという議論に関して使われる.理性主義とは,人間には生得的に様々な観念(自分と外界の違い,数の概念など)が備わっているという考えで,代表選手としてはデカルトが上げられる.
③ 経験主義 前項で述べた理性主義に対する流れとして経験主義がある.前項で述べた理性主義は,人間には生まれた時からある種の観念,理性が備わっていたと考えるが,経験主義の考え方では,人間は生まれた時には完全に白紙の状態であり,経験によって白紙(タブロラサ)の上に様々な観念が描かれていくという考え方である.こうした経験主義の考え方は,17世紀のイギリスで発展し,代表選手はロックである.理性主義のもとでは,どのように我々は神の存在を認めるに至るのかというような問題や,絶対的な心理というような観念的な問題が語られていたが,経験論は,我々が見たり聞いたりすることが基本となり,また個人間の差異も生じてくるなど,具体的な知識が問題になり,最終的には,経験を通じて作られた個別的な観念(知識)の間に,さらに経験を通じて,「連合」が生じ,複合的な世界,知識が形作られるという考えになる.次回で扱う19世紀における心理学の確立以前には,心理学的問題は主要には哲学で扱われてきた.特に17世紀前後の,様々な観念,理性は人間に生得的に備わっているとする理性主義哲学の流れと,人間は生まれた時は白紙状態であり,あらゆる観念,理性は生後の経験によって形作られるとする経験論の二つの立場があり,どちらかというと経験論優位の状態で心理学の成立に流れ込んでいく.
キーワード
① 哲学 ② 合理主義 ③ 経験主義 ④ デカルト ⑤ ロック
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
[復習]
今回の講義で扱った内容に関する知識定着の確認は小テストを用いて行う。小テストは提出時に採点結果が提示されるため,誤答した問題に関しては,授業開始時に配布される教材を用いて復習を行う。また,誤答した問題以外にも再確認したい内容があれば,講義開始時に配布される教材の該当する箇所を用いて復習を行う。特に今回は,理性主義を代表するデカルトと,経験主義を代表するロックの考え方を理解し,その違いを少しでも説明できるかどうかを自問してほしい.それが十分ではない場合には文字教材を参照したり,適宜教員に質問をしてほしい.
[予習]
次回の講義開始までに,コマシラバスの「科目の中での位置づけ」,「コマ主題細目」,「細目レベル」に目を通し,講義内容について確認する。講義内容を確認する中で,わからない単語や説明があれば,その部分をチェックし、自分で調べておく。次回のテーマは,「心理学」という学問が成立する過程に関するものであり,第4回「心理学的測定法(2) 定数測定法(閾値測定)」で登場した人物や理論も再び登場することとなる.そのため,第4回の資料を振り返っておくことも,次回に向けての予習となるであろう.
9
19世紀ドイツの心理学
科目の中での位置付け
心理学を学び始めるにあたって,本科目は、心とは何か,心理学とは何かということ概略を学び,心を科学として扱う方法に触れることを目指す.心理学には実験心理学を主体とした基礎的な分野,発達心理学,教育心理学,社会心理学などの応用的分野,さらには臨床的な分野などの様々な分野があるが,全ての分野に通じる心理学の基本的な考え方,根本思想が存在する.本科目では,心とはどういうものかを考え,心とは何かを問う学問である心理学とはどういう学問であるか,その基本的な考え方,方法論に触れ,また心理学が,そのもととなる哲学とどう関連し,歴史的にどのような発展過程をたどったのかの概略に触れる.第1回,第2回では,心とは何か,心理学とは何かを論じ,第3回から第7回では心を科学的に,数量的に扱う手法について学び,第8回から第12回で,心理学の歴史的な発展過程,哲学との関係を学び,最後に第13から15回で,視覚系の構造,それに基づいた生理学,心理学の具体的な研究方法の実例を通じて,心理学的な研究と生理的な実体であると脳との関係を学ぶ.
前回は,心理学成立以前に心の問題をあつかった哲学について,特に合理論と経験論との関連で学んだが,今回,第9回の講義では,そうした哲学から心理学が独立する過程で,特に19世紀のドイツで起こったことを,ヘルムホルツ,ウェーバー,フェヒナー,ヴントらの仕事を通じて考えて行く.
心理学史への招待,p55-67, p92-111
心理学史p10-34
コマ主題細目
① 生理学と心理学 ② ウェーバーとフェヒナー ③ ヴントの心理学
細目レベル
① 生理学と心理学 心理学は19世紀のドイツで飛躍的な発展を遂げた。ドイツにおける哲学の発展の影響も受けたが、生物学、生理学の発展の影響が強かった。この頃までは、生物学、生理学の一部であったが、はっきりとは区別されていなかった生理学と心理学が共に進歩し、生理学と心理学の区分にまで突き進んだと見ることもできよう。この頃の、最重要概念はヨハネス・ミューラーの特殊神経エネルギー説である。この考え方は、五感それぞれに、別々のエネルギーが存在するというものであり、それぞれに異なる処理システムが存在するという機能局在論的な考えに繋がっていく。また、局在論の基礎として、生気論に対抗する機械論的な考え方がある。この時期の生理学と心理学を結びつける上で最も重要な人物はヘルムホルツである.
② ウェーバーとフェヒナー ウェーバーは重量や温度などの感覚を実験的に研究し、刺激強度と感覚の増分の関係を発見した.彼は弟子であるフェヒナーと共に,精神物理学的測定法の基本を提案した.現在主要に用いられている調整法,極限法,恒常法等の測定手法(第4章)は,彼らによって提案され,定着した物である.ウェーバーは,閾値,特に弁別閾(丁度可知差異,JND)の実験的,かつ詳細な研究を行い,弁別閾は,絶対的な者では無く基準となる刺激の強度に従う相対的な物であるとした(ウェーバーの法則).この考えは弟子のフェヒナーによって継承され,より精密な,法則,つまり,刺激量の強度R が変化する時、これに対応する感覚量E は刺激量の対数に従うというウェーバ・フェヒナーの法則を提案した.つまり,ウェーバ・フェヒナーの法則は,心理的な感覚量は、刺激の強度ではなく、その対数に比例して知覚されるとする.
③ ブントの心理学 学問のある分野が独立した学問分野として成立するためには、大学でその分野に関する独立した講義が存在し、大学で学部や学科といった組織が存在し、物理的な存在としての実験室等が存在し、教科書学が出版されており、独立した学術雑誌が出版されていることなどが要件となるだろう。ブントはーこうしたことのほぼ全て,独立した学問としての心理学の最終的な仕上げをひとりで成し遂げたと言える.ヴントの心理学は,研究者本人が,自分の精神の内面を観察(内観)し,記述するという物であった.内観により,意識を観察・分析し、意識の要素と構成法則を明らかにしようとするものであるので,要素主義と呼ばれる.要素は統覚と言われる機能によって統合される.
具体的な研究として特筆すべき物として,減算法を用いた反応時間の研究を上げることができる.減算法では,反応時間全体を,認知,弁別,反応などの要素的なプロセスに分割し,検討すると言うものであり,画期的な方法であった.
キーワード
① 生理学的心理学 ② ウェーバーの法則丁度可知差異(JND) ③ ウェーバー・フェヒナーの法則 ④ ヴント ⑤ 精神物理学的測定法
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
[復習]
今回の講義で扱った内容に関する知識定着の確認は小テストを用いて行う。小テストは提出時に採点結果が提示されるため,誤答した問題に関しては,授業開始時に配布される教材を用いて復習を行う。また,誤答した問題以外にも再確認したい内容があれば,講義開始時に配布される教材の該当する箇所を用いて復習を行う。特に今回は,ウェーバー・フェヒナーの法則,ブントの要素主義等,心理学の原点ともいえる人と理論について説明できるか否か,自問自答してみてほしい.それが十分ではない場合には文字教材を参照したり,適宜教員に質問をしてほしい.
[予習]
次回の講義開始までに,コマシラバスの「科目の中での位置づけ」,「コマ主題細目」,「細目レベル」に目を通し,講義内容について確認する。講義内容を確認する中で,わからない単語や説明があれば,その部分をチェックし、自分で調べておく。次回のテーマは,ゲシュタルト心理学である.聞きなれない言葉だと思うので,インターネット等でこの単語を入力してどんなものか調べてみるとよいだろう.
10
ゲシュタルト心理学
科目の中での位置付け
心理学を学び始めるにあたって,本科目は、心とは何か,心理学とは何かということ概略を学び,心を科学として扱う方法に触れることを目指す.心理学には実験心理学を主体とした基礎的な分野,発達心理学,教育心理学,社会心理学などの応用的分野,さらには臨床的な分野などの様々な分野があるが,全ての分野に通じる心理学の基本的な考え方,根本思想が存在する.本科目では,心とはどういうものかを考え,心とは何かを問う学問である心理学とはどういう学問であるか,その基本的な考え方,方法論に触れ,また心理学が,そのもととなる哲学とどう関連し,歴史的にどのような発展過程をたどったのかの概略に触れる.第1回,第2回では,心とは何か,心理学とは何かを論じ,第3回から第7回では心を科学的に,数量的に扱う手法について学び,第8回から第12回で,心理学の歴史的な発展過程,哲学との関係を学び,最後に第13から15回で,視覚系の構造,それに基づいた生理学,心理学の具体的な研究方法の実例を通じて,心理学的な研究と生理的な実体であると脳との関係を学ぶ.
第10回の講義で学ぶゲシュタルト心理学は,要素主義,構成主義的な心理学と,より全体的な概念であるゲシュタルト性に基づくゲシュタルト心理学との関係を理解するとともに,ゲシュタルト概念の危うさから,それが実は脳の機能に結びつき,その後,発展したマーの視覚理論に結びつくことを学び取って欲しい.
心理学史への招待,p204-219
心理学史p51-57
ヴィジョン(マー,乾・安藤訳,産業図書,1987)
コマ主題細目
① ゲシュタルト心理学の成立 ② ゲシュタルト法則 ③ マーの制約条件
細目レベル
① ゲシュタルト心理学の成立 前回述べたように,ヴントの心理学は,構成主義・要素主義と呼ばれることも多いが,(ヴントの考え自体,変化していくのだが)基本的には,目の前にある「全体」は,それぞれの性質(意味)を持つ構成要素である「部分」が組み合わさって,足し算的(加算的)に全体の性質が決まるという考えである.それに反し,エーレンフェルスは,1880年代後半頃,部分が組み合わさって全体になった時に,全体としての新しい性質である「ゲシュタルト質」を持つと主張した.エーレンフェルスが用いた例は,音楽のメロディーである.メロディーは,個々の音の組み合わせとして成立するが,転調して,個々の音の高さが変わっても,全体としてのメロディーの性質は保存される.このことが,全体としてのゲシュタルト質の好例であるとエー連フェストは主張した.
② ゲシュタルト法則 どのような部分の組み合わせから構成される全体がゲシュタルト質を持つかについては,ゲシュタルト法則に従うという考え方が,ゲシュタルト心理学の基本である.ゲシュタルト法則は,部分がどのように「群化」されるかを示すと言うことから,群化の法則,また,体制化の法則と呼ばれることもある.ゲシュタルト法則は,様々なバージョンがあるが,ウェルトハイマーによって提唱された.以下の5つの要因が代表的なものである.(1)近接の要因,(2)類同の要因,(3)よい連続の要因,(4)閉合の要因,(5)共通運命の要因. また,個々の要因を法則と呼ぶ場合もあるが(例えば,「近接の法則」)単に,言葉使いの違いという程度に認識して欲しい.
(このシラバスには図が入れられないので,判りやすい図の載っているURLを示しておく
https://studyhacker.net/gestalt-law
上記,URL所載の図をみれば,ゲシュタルト法則が予言する群化が生じやすい,安定した体制を作りやすいことはわかるが,この言い方だと,ゲシュタルト法則は図形(もしくは図形の部分)が持つ性質のように受け取られやすい.しかし,実は,ゲシュタルト法則が示しているのは,我々の視覚系の持つ性質であることを理解する必要がある.
③ マーの制約条件 1980年,アメリカのマサチューセッツ工科大学で理論的な生理学,その人工知能,特に視覚に関わる応用にまで研究を進めていたデイヴィッド・マーが,我々の視覚の機能の多くは,入力からは計算不可能であるということを主張した.つまり,眼からの入力を単純に処理しても,目の前の物体の例えば3次元的な構造は認識できないことを示した.このことをマーは,「視覚は不良設定問題である」と述べた.入力からは到達できない解に到達するために,視覚系の内部,つまり脳内に,様々な仮定が準備されている.その結果,視覚系は不良設定問題を解くことができるようになるとした.この仮定を,マーは,制約条件と呼んだ.マーの制約条件は,ゲシュタルト法則とほぼ同一のものであり,「もの」が「もの」としてこの世に存在しているために満たすべき条件である.
キーワード
① ゲシュタルト心理学 ② ゲシュタルト法則 ③ 制約条件 ④ 仮現運動
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
[復習]
今回の講義で扱った内容に関する知識定着の確認は小テストを用いて行う。小テストは提出時に採点結果が提示されるため,誤答した問題に関しては,授業開始時に配布される教材を用いて復習を行う。また,誤答した問題以外にも再確認したい内容があれば,講義開始時に配布される教材の該当する箇所を用いて復習を行う。特に今回は,ブントの要素主義では扱いえないエーレンフェルスのゲシュタルト質とはどのようなものだったか,ゲシュタルト法則にはどのようなものがあったか,そしてこれらとマーの制約条件はどのような点で関連するのかなどについて説明できるか自問自答してみてほしい.そして,十分でないと感じる場合には,資料を参照したり,必要に応じて教員に尋ねてみてほしい.
[予習]
次回の講義開始までに,コマシラバスの「科目の中での位置づけ」,「コマ主題細目」,「細目レベル」に目を通し,講義内容について確認する。次回のテーマは,「機能主義から行動主義へ」である.心理学史に残る巨匠として,ウィリアム・ジェームズ,J.B.ワトソン,B.F.スキナーの功績は非常に大きい.どんな人物か,事前に調べておくとよいだろう.
11
機能主義から行動主義へ
科目の中での位置付け
心理学を学び始めるにあたって,本科目は、心とは何か,心理学とは何かということ概略を学び,心を科学として扱う方法に触れることを目指す.心理学には実験心理学を主体とした基礎的な分野,発達心理学,教育心理学,社会心理学などの応用的分野,さらには臨床的な分野などの様々な分野があるが,全ての分野に通じる心理学の基本的な考え方,根本思想が存在する.本科目では,心とはどういうものかを考え,心とは何かを問う学問である心理学とはどういう学問であるか,その基本的な考え方,方法論に触れ,また心理学が,そのもととなる哲学とどう関連し,歴史的にどのような発展過程をたどったのかの概略に触れる.第1回,第2回では,心とは何か,心理学とは何かを論じ,第3回から第7回では心を科学的に,数量的に扱う手法について学び,第8回から第12回で,心理学の歴史的な発展過程,哲学との関係を学び,最後に第13から15回で,視覚系の構造,それに基づいた生理学,心理学の具体的な研究方法の実例を通じて,心理学的な研究と生理的な実体であると脳との関係を学ぶ.今回の「機能主義から行動主義へ」の回では,古典的な心理学の最終幕とも言える,ドイツの古典的な心理学から,現代の心理学の直接的な源流である機能主義,行動主義の心理学への流れを把握して,来週あつかう,より,現代に直結する認知心理学,生理学的心理学へと繋いでいく.
心理学史への招待,p220-235
心理学史p35-50
コマ主題細目
① 機能主義の心理学 ② 行動主義の心理学 ③ レスポンデント学習とオペラント学習
細目レベル
① 機能主義心理学 それまでの構成主義的な心理学は,「心の本質は何か」,「心はどのように出来ているか」,というような問いに答えようとしたが,機能主義心理学は「心とは何のためにあるのか」、「心とはどのように働くのか」という問いに応えようとする。 心理学の父とも呼ばれるアメリカのウィリアム・ジェームズが機能主義の代表的人物で、彼はプラグマティズムと呼ばれる哲学の代表選手とも考えられている.プラグマティズムは,実用主義とも訳され,「経験不可能な事柄の真理を考えることはできない」という点でイギリス経験論を引き継ぎ、概念や認識をそれがもたらす客観的な結果によって科学的に記述しようとする志向を持つ点で従来のヨーロッパの観念論的哲学と一線を画するアメリカ合衆国の哲学である。このように,機能主義は,心の実用的な機能に注目する為に,心の機能全体を,多くの機能の集まりと捉え,機能ごとに分割して考えようとすると言う点で,現在の心理学の始まりと見ることも出来る.さらに,心とは何か?という本質的な問いを放棄してしまった敗北の始まりとみることおできる.
② 行動主義 行動主義は内的・心的状態に依拠せずとも外に現れる行動だけに着目すれば心理学の目的に達することができると考える。唯物論/機械論の一形態である.基本的には,心を入力/刺激(S)と出力/反応(R)との対応関係として捉える.行動のみが心理学の研究対象であり,行動の観察が心的過程を研究する唯一の方法であると考える.つまり,心には内部状態は無いと考える.従って,意識,信念というような,それまで心理学の主要な研究対象と考える媒介変数は,無用なものと考える.そうした心理学の研究を進める上で,完全に客観的に定義された(操作的定義)手法に基づき,媒介的な仮定を持ち込むこと無く行動を観察する手法は,ワトソンによって提案され,方法論的行動主義と呼ばれる.その考えは,さらに,スキナーによって,徹底的行動主義へと深化されて行く.
③ レスポンデント学習とオペラント学習 レスポンデント条件付けとは古典的条件付けとも呼ばれ,パブロフの条件反射と同じ概念である.最も広く知られている逸話的な事例は,犬に餌を与えるときに常にベルをならすと,ベルを鳴らしただけで犬が唾液を分泌するようになるというものである.これは,餌を見る(無条件刺激)と唾液を分泌する(無条件反応)の関係,もともと備わっている関係が,ベルの音(無条件刺激)という,もともと唾液分泌とは関係なかった刺激と結合され,無条件刺激に対して,条件反応としての唾液分泌が生じるという物である.オペラント条件付けとは,ある刺激(たとえば赤ランプの点灯)を提示した際に,ある頻度で偶然生じる行動(たとえばレバー押し)が生じたら,餌(強化子)を与える.そうすると,その刺激と,その行動が結合され,その刺激が提示された際のその行動の出現頻度が高くなるという現象である.パブロフによるレスポンデント学習は、遺伝的に組み込まれた反応と、無関係な反応とを結びつけることであるが,オペラント学習は,もともと関係なかった刺激と反応が,強化によって結合されるというものである.
キーワード
① 機能主義 ② 行動主義 ③ レスポンデント学習とオペラント学習
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
[復習]
今回の講義で扱った内容に関する知識定着の確認は小テストを用いて行う。小テストは、提出時に採点結果が提示されるように行う。各自で小テストの結果を参照し、誤答した問題に関しては、授業開始時に配布される教材を用いて復習を行う。また、誤答した問題以外にも再確認したい内容があれば、講義開始時に配布される教材の該当する箇所を用いて復習を行う。
[予習]
次回の講義開始までに、コマシラバスの「科目の中での位置づけ」、「コマ主題細目」、「細目レベル」に目を通し、講義内容について確認する。講義内容を確認する中で、わからない単語や説明があれば、その部分をチェックし、自分で調べておく。能動的な姿勢で講義に臨むことが求められる。
12
認知主義・生理還元主義
科目の中での位置付け
全ての学生にとって,心理学は初めて学ぶ学問である.そうした心理学を学び始めるにあたって,本科目は、心とは何か,心理学とは何かということ概略を学び,心を科学として扱う方法に触れることを目指す.心理学には実験心理学を主体とした基礎的な分野,発達心理学,教育心理学,社会心理学などの応用的分野,さらには臨床的な分野などの様々な分野があるが,全ての分野に通じる心理学の基本的な考え方,根本思想が存在する.本科目では,心とはどういうものかを考え,心とは何かを問う学問である心理学とはどういう学問であるか,その基本的な考え方,方法論に触れ,また心理学が,そのもととなる哲学とどう関連し,歴史的にどのような発展過程をたどったのかの概略に触れる.第1回,第2回では,心とは何か,心理学とは何かを論じ,第3回から第7回では心を科学的に,数量的に扱う手法について学び,第8回から第12回で,心理学の歴史的な発展過程,哲学との関係を学び,最後に第13から15回で,視覚系の構造,それに基づいた生理学,心理学の具体的な研究方法の実例を通じて,心理学的な研究と生理的な実体であると脳との関係を学ぶ.
第12回の講義では,行動主義に対する反動として生まれた,新行動主義から認知主義,生理還元主義に至る歴史について紹介する.認知心理学や生理心理学がどのようなプロセスを経て誕生したのか,心理学界における1960年前後の目まぐるしい変遷について概説する.
心理学史への招待,p 228-269
心理学史p 65-69
コマ主題細目
① 新行動主義 ② 認知心理学 ③ 生理学的心理学
細目レベル
① 新行動主義 クラーク・ハルは行動主義の刺激・反応(SR)結合のSとRの間に,媒介変数を措定することにより,ワトソン以来の古典的行動主義の限界を打破しようとした.つまり,赤ランプの点灯(S)とレバー押し(S)の間に,古典的行動主義では内部状態=媒介変数=有機体の内部状態(O)を考えることは許されなかったが,新行動主義では,その中間に内部状態,例えば記憶(そういえばこの間,赤ランプが点くいたときにボタンを押したら餌が出てきたというような記憶)を措定することができる(S-O-Rモデル).そうした内部状態を措定することにより,刺激受容から反応産出までのプロセスの理論家が容易かつ精密にすることができる.しかし,Oが神秘的なブラックボックスになってしまうという問題があるが,その点は,認知心理学の発展によるモデルの精緻化,生理的心理学の発展による内部過程の実体の解明によって克服されていった.
② 認知心理学 新行動主義の項で述べたように,新行動主義による内部状態=媒介変数=有機体の内部状態(O)の措定には,Oが神秘的なブラックボックスになってしまうという問題が存在した.次項で述べる生理学的心理学=生理還元主義的な考え方では,そうしたプロセスを実体的な,神経細胞や脳の活動として理解しようとする.一方で,新行動主義のS-O-Rモデルを精緻化し,感覚,記憶,認識,記憶,判断,行動指令発出などの初段階を心理実験により詳しく分析し,詳細なモデルを立てていけば,前項で述べたOが神秘的なブラックボックスになってしまうという問題を回避することが出来る.そうした目的で,いわゆる認知心理学が1960年代から発展し,現在も発展しつつある.さらに,生理学的な成果と組み合わせて,認知過程に対するより深い理解が得られつつある.
③ 生理学的心理学 新行動主義の項で述べたように,新行動主義による内部状態=媒介変数=有機体の内部状態(O)の措定には,Oが神秘的なブラックボックスになってしまうという問題が存在した.この問題は,前項で述べたように認知心理学的な研究によってモデルを精緻化することによって回避することもできるが,刺激を受容する眼球内の網膜による光信号から電気信号への変換,その電気信号の脳への伝達,脳内での何段階にも渡る処理を経た後の赤い光信号の認識.さらに,それが記憶と照合され,ボタン押しの必要性の認識から,運動指令の発出.運動信号の脳から腕,手への伝達,最終的なボタン押しと言う過程がすべて解明されれば,解決する.現状の生理学の到達段階として,こうした過程がすべて解明されているわけではないが,単一神経からの記録,MRIなどによる脳活動の記録などによって,こうしたプロセスの解明は進んでいる.このように,心理的なプロセスを,生理的なプロセス,末端からの神経活動と脳の活動の総和として理解するアプローチを生理還元主義と呼ぶ.
キーワード
① 新行動主義 ② 洞察学習 ③ 媒介変数 ④ 認知心理学 ⑤ 生理学的心理学
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
[復習]
今回の講義で扱った内容に関する知識定着の確認は小テストを用いて行う。小テストは提出時に採点結果が提示されるため,誤答した問題に関しては,授業開始時に配布される教材を用いて復習を行う。また,誤答した問題以外にも再確認したい内容があれば,講義開始時に配布される教材の該当する箇所を用いて復習を行う。特に今回は,反行動主義的な一貫した流れを理解しつつ,行動主義と新行動主義の違い,新行動主義と認知心理学の違い,認知心理学と生理心理学の違いについて説明できることを目指してほしい.これが十分説明できない場合には,資料を参照したり,適宜教員に質問をしてほしい.
[予習]
次回の講義開始までに,コマシラバスの「科目の中での位置づけ」,「コマ主題細目」,「細目レベル」に目を通し,講義内容について確認する。講義内容を確認する中で,わからない単語や説明があれば,その部分をチェックし、自分で調べておく。次回のテーマは「視覚の構造」である.指導教員の専門分野にかかわる話であり,講義にもより熱が入ることが予想される.ものる,とを見る,いうことは普段当たり前にやっているが,それが成立するには実に複雑な仕組みと「こころ」の存在が不可欠となる.普段我々はどのようにものを見ているのかに興味を持って生活をしてみることで,見ることに興味を持って本講義に臨んでほしい.
13
視覚系の構造
科目の中での位置付け
全ての学生にとって,心理学は初めて学ぶ学問である.そうした心理学を学び始めるにあたって,本科目は、心とは何か,心理学とは何かということ概略を学び,心を科学として扱う方法に触れることを目指す.心理学には実験心理学を主体とした基礎的な分野,発達心理学,教育心理学,社会心理学などの応用的分野,さらには臨床的な分野などの様々な分野があるが,全ての分野に通じる心理学の基本的な考え方,根本思想が存在する.本科目では,心とはどういうものかを考え,心とは何かを問う学問である心理学とはどういう学問であるか,その基本的な考え方,方法論に触れ,また心理学が,そのもととなる哲学とどう関連し,歴史的にどのような発展過程をたどったのかの概略に触れる.第1回,第2回では,心とは何か,心理学とは何かを論じ,第3回から第7回では心を科学的に,数量的に扱う手法について学び,第8回から第12回で,心理学の歴史的な発展過程,哲学との関係を学び,最後に第13から15回で,視覚系の構造,それに基づいた生理学,心理学の具体的な研究方法の実例を通じて,心理学的な研究と生理的な実体であると脳との関係を学ぶ.
今回は,現在の心理学に於ける心身問題を考える基礎として,人間の視覚系の生理的な構造について学ぶ.
独自教材
コマ主題細目
① 視覚系の全体構造 ② 眼球の構造 ③ 脳の構造
細目レベル
① 視覚系の全体構造
視覚の入り口は二つの眼球である.眼球の詳細は次項に譲る.ヒトの顔面は比較的平たく二つの眼球は前を向いている.こうした構造は,動物の間では珍しく,両眼が全面を向いている動物は霊長類,ネコ,フクロウの仲間ぐらいのものかもしれない.こうした動物では両眼の視野はかなりの部分が重なっている.他の多くの動物,例えばタイのような魚,ウマやヒツジの両眼は頭の両側面に付いており,両眼視野はあまり重なっていない.両眼から出た視神経は視交差という部分で交叉し,外側膝状体という部位で中継され脳へ向かう.つまり,多くの動物では両眼からの情報は反対側の脳へと送られる.しかし,両眼からの信号は,大脳のある段階で再度,統合される.
② ヒトの眼球は直径約32ミリほどの球形をしている.眼球は前面以外は遮蔽された暗箱となっている.基本的な構造はカメラとほぼ同じである.前面に穴があり,そこに水晶体(レンズ)が備えられ,瞳孔と呼ばれる可変径の穴が,光の入る量を調節している.カメラとの最大の違いは,カメラにはシャッターがあるが眼球には無いことである.眼球の内部は硝子体と呼ばれるジェリー状の物質で満たされており,反対側の内壁には,カメラのフィルムに相当する,光に対する感受性を有する網膜と呼ばれる部位が存在する.入ってきた光信号は網膜で神経系の電気信号に変換される.網膜は3層の神経ネットワークなっており,一番外側の光受容器細胞が光信号を電気信号に変換する.その信号は,双極細胞の層を経て,最内層の網膜神経節細胞から眼球の外に出て,視床部の外側膝状体を経て脳へと伝えられる.眼球から外側膝状体に走る視神経は網膜神経節細胞の軸索である.
③ 脳は,右と左の半球に分かれる.基本的には,人間の左半身に関わることは右半球が,右半身に関わることは左半球が司る.高度の処理に関しては両半身の情報が統合されるが,入出力付近ではこうした交叉が保たれる.ウマやタイのようについたてのような頭部で左右の世界が切り分けられ両眼の情報が完全に分離されている場合にはそうした情報の交叉構造で構わないが,ヒトやサルのように平面的な頭部を持ち,左右眼の視野が重なっている場合には,左右眼からの情報が交叉するのでは無く,左右視野の情報が交叉する,複雑な交叉構造を持っている.眼からの情報は,大脳の最後部(後頭葉)にある視覚領と呼ばれる部位に送られ,何段階もの処理を受けながら大脳の前部(前頭葉)へと送られる.その流れには二つのルートがあり,頭頂付近を経て前部へ進む処理(頭頂葉系)と,脳の側部(側頭葉)を経て前部へ進む処理(側頭葉系)の二つがある.頭頂葉系は空間的な情報を,側頭葉系は物体認識などの情報を担っている.
キーワード
① 視覚系の全体構造 ② 眼球の構造 ③ 脳の構造
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
[復習]
今回の講義で扱った内容に関する知識定着の確認は小テストを用いて行う。小テストは、提出時に採点結果が提示されるように行う。各自で小テストの結果を参照し、誤答した問題に関しては、授業開始時に配布される教材を用いて復習を行う。また、誤答した問題以外にも再確認したい内容があれば、講義開始時に配布される教材の該当する箇所を用いて復習を行う。
[予習]
次回の講義開始までに、コマシラバスの「科目の中での位置づけ」、「コマ主題細目」、「細目レベル」に目を通し、講義内容について確認する。講義内容を確認する中で、わからない単語や説明があれば、その部分をチェックし、自分で調べておく。能動的な姿勢で講義に臨むことが求められる。
14
視覚の心理物理学
科目の中での位置付け
心理学を学び始めるにあたって,本科目は、心とは何か,心理学とは何かということ概略を学び,心を科学として扱う方法に触れることを目指す.心理学には実験心理学を主体とした基礎的な分野,発達心理学,教育心理学,社会心理学などの応用的分野,さらには臨床的な分野などの様々な分野があるが,全ての分野に通じる心理学の基本的な考え方,根本思想が存在する.本科目では,心とはどういうものかを考え,心とは何かを問う学問である心理学とはどういう学問であるか,その基本的な考え方,方法論に触れ,また心理学が,そのもととなる哲学とどう関連し,歴史的にどのような発展過程をたどったのかの概略に触れる.第1回,第2回では,心とは何か,心理学とは何かを論じ,第3回から第7回では心を科学的に,数量的に扱う手法について学び,第8回から第12回で,心理学の歴史的な発展過程,哲学との関係を学び,最後に第13から15回で,視覚系の構造,それに基づいた生理学,心理学の具体的な研究方法の実例を通じて,心理学的な研究と生理的な実体であると脳との関係を学ぶ.
第14回の講義では,具体的な視覚研究で用いられる閾値測定,順応,選択的順応などの実験技術の概要を学び,こうした技術を用いて,主観的な体験である知覚が,どのように数量化され,どのような形でそれぞれの知覚を支えるメカニズムを分析し,メカニズムの全体像に迫ることができるかを学ぶ.
独自教材
コマ主題細目
① 定数測定 明暗順応と閾値 ② 色残効 選択的順応(1) ③ 方位残効,運動残効 選択的残効'2)(3) ④ 桿体と錐体
細目レベル
① 閾値測定.低次視覚の精神物理学的な研究法の基本は閾値測定である.前にも述べたように,代表的な閾値は,絶対閾と弁別閾である.こうした閾値の測定を巧みに使用することによって,視覚のメカニズムの様々な側面を解明していくことができる.閾値測定の際に,順応が組み合わされることが多い.順応とは,ある刺激に感覚・知覚のメカニズムが曝されることにより,感度の変化(通常,感度の低下)が生じることを言う.最も判りやすい例としてこの細目では明暗順応を取り上げる.明順応は,明るい刺激に曝されることにより眼の感度が低下する,光に感じ難くなるという現象である.暗順応は,逆に暗黒の環境に滞在することにより,眼の感度が上昇することを言う.それぞれの状況において,第4回に説明した絶対閾を測定することにより,下の(4)項で説明する網膜上の2種の光受容器細胞,桿体と錐体の働きを明らかにすることができる.
② 色順応―色に対する選択的順応.色覚,つまり色の知覚は光の波長で決まる.長い波長から短い波長に向かって,赤,オレンジ,黄,緑,青,藍,すみれ色と感じる色は変化する.下の(4)で説明するように,我々は錐体が機能する明るい環境,つまり明順応下でしか色を見ることが出来ない.我々の網膜には,赤錐体,緑錐体,青錐体の3種類の錐体が存在する.各波長の吸収効率が錐体のタイプによって異なる.我々の色知覚は特定の入力に対する3つの錐体タイプの反応の比率によって決定されている.この様子は色順応の現象により体感することが出来る.色順応とは,例えば,白紙の上に貼り付けられた赤の直径5センチの円形の色紙を1分ほどじっと見つめた後で,白い紙を見ると,緑の円形が見えてくる.逆に,緑の円形の色紙を見つめた後だと赤の円形が見えてくる.青と黄色でも同じようなことが起こる.これは,赤の紙を見つめると網膜上の赤錐体が活発に活動し,結果として感度の低下が生じる.その後に,白紙を見たときのバランスが崩れることによって色順応の効果としての色残効が生じる.じっと見つめたことによる赤錐体の感度の低下が順応.その結果,緑の円がみえる現象が色残効と呼ばれる.
③ 色順応の結果としての色残効と同様な現象は視覚のさまざまな側面に関して生じる.ここでは,方位(傾き)残効と,運動残効を紹介したい.方位残効は,数の左端のような,ある特定の方位,図の場合では左に傾いた(視覚研究では傾きのことを方位と呼ぶ)斜め縞を1分ほどじっと見つめた後で中央にある垂直の縞を見ると右の図の様に,右に傾いて見える.これも,色順応と似た,一種の選択的順応であり,左への傾きを検出するメカニズムが順応し,その結果,感度が低下し,全体のバランスが崩れ,垂直の縞が順応した縞とは逆の方向へ傾いて知覚される.また,運動残効は,例えば図の中央の垂直縞を右に向かって動かし(静止した円の中で縞が動く),それを1分ほどじっと観察した後で縞が停止すると,静止しているはずの縞がこれまでとは逆の方向に動いて知覚される.この場合も,右方向への運動を検出するメカニズムが順応した結果,感度の低下が生じ,各方向への検出メカニズムの間のバランスが崩れ,静止した縞が順応とは逆の方向へ運動して知覚される.こうした,選択的順応を上手に使い,視覚の基本的な検出メカニズムの仕組み,組み合わされ方を調べていける.
④ 桿体と錐体.網膜上で直接光に感じる細胞,光の信号を神経系の電気信号に変換する細胞は光受容器細胞と呼ばれる.この光受容器細胞には桿体(rod)と錐体(cone)の二つのタイプが存在する.桿体は,暗いところで機能する光受容器細胞であり,錐体は明るい所で機能する光受容器細胞である.我々はいきなり暗い部屋,例えば真っ暗な映画館に入ると,何も見えないが,数分待っているとぼんやりと通路や椅子が見えてくる.さらに,しばらく待っていると,もっと色々なものが見えて来て,隣に立っている人の表情すら弁別できるようになる.これは, (1)で説明した暗順応が起こることにより,視覚の感度が上昇することから起こる現象である.逆に,映画館から外に出ると,まぶしく感じるがすぐに馴れてしまう.この現象を明順応と呼ぶ.暗順応は,明るい所で機能していた錐体から,桿体へ,視覚の機能の主体が交代することで生じる.明順応は逆に,桿体から錐体への交代である.完全な暗順応が生じるには30分以上必要だが,明順応は数分で完了する.
キーワード
① 閾値測定 ② 色順応 ③ 選択的順応 ④ 桿体と錐体
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
[復習]
今回の講義で扱った内容に関する知識定着の確認は小テストを用いて行う。小テストは提出時に採点結果が提示されるため,誤答した問題に関しては,授業開始時に配布される教材を用いて復習を行う。また,誤答した問題以外にも再確認したい内容があれば,講義開始時に配布される教材の該当する箇所を用いて復習を行う。特に今回は,網膜上の2種の光受容器細胞,桿体と錐体の働きといった視覚の構造と,色順応や明順応-暗順応といった現象について説明できるか自問してみること.それが十分ではない場合には文字教材を参照したり,適宜教員に質問をしてほしい.
[予習]
次回の講義開始までに,コマシラバスの「科目の中での位置づけ」,「コマ主題細目」,「細目レベル」に目を通し,講義内容について確認する。講義内容を確認する中で,わからない単語や説明があれば,その部分をチェックし、自分で調べておく。次回は最後のまとめの回となる.これまで14回の講義を振り返り,自身が心理学について何を学んだのか総括をしてくことが,最終回に向けての予習となるであろう.
15
まとめ
科目の中での位置付け
全ての学生にとって,心理学は初めて学ぶ学問である.そうした心理学を学び始めるにあたって,本科目は、心とは何か,心理学とは何かということ概略を学び,心を科学として扱う方法に触れることを目指す.心理学には実験心理学を主体とした基礎的な分野,発達心理学,教育心理学,社会心理学などの応用的分野,さらには臨床的な分野などの様々な分野があるが,全ての分野に通じる心理学の基本的な考え方,根本思想が存在する.本科目では,心とはどういうものかを考え,心とは何かを問う学問である心理学とはどういう学問であるか,その基本的な考え方,方法論に触れ,また心理学が,そのもととなる哲学とどう関連し,歴史的にどのような発展過程をたどったのかの概略に触れる.第1回,第2回では,心とは何か,心理学とは何かを論じ,第3回から第7回では心を科学的に,数量的に扱う手法について学び,第8回から第12回で,心理学の歴史的な発展過程,哲学との関係を学び,最後に第13から15回で,視覚系の構造,それに基づいた生理学,心理学の具体的な研究方法の実例を通じて,心理学的な研究と生理的な実体であると脳との関係を学ぶ
本講義(第15回)は,心理学史,心理学と哲学の関係を扱った第8回の「経験説・理性主義 デカルト・ロック」,第9回の「心理学直前 → ヘルムホルツ ヴント」,第10回の「ゲシュタルト心理学,第11回の「機能主義→行動主義」,第12回の「認知主義・生理還元主義」,さらに,現代心理学の具体的な進み方を扱った第13回の「視覚系の構造」,第14回の「視覚の心理物理学」に関する復習回である.これまでの授業回の内容の理解を確認することを目的とする.
コマ主題細目
① 心理学史・哲学との関連 ② 視覚系の構造 ③ 視覚の心理物理学
細目レベル
① 心理学がいかに進歩してきたかを心理学史として学ぶとともに,・哲学との関連に始まり,精神物理学,ゲシュタルト心理学,機能主義,行動主義,認知主義といった心理学を代表する考え方について学んできた.これらについて概括し整理して議論ができるかどうかを確認する.
② 視覚系の構造 第13回の視覚系の構造では現在の心理学に於ける心身問題を考える基礎として,人間の視覚系の生理的な構造について学んだ.眼球の構造はカメラとほぼ同じであり,暗箱としての眼球の底面の網膜上に,外界の世界が結像され,光受容器細胞によって神経系の電気信号に変換され,大脳へと伝達される.眼球からの信号は,外側膝状体で中継され,後頭部にある大脳視覚領に至る.その後,頭頂系(空間情報),側頭系(物体認識等に関する情報)の二つの経路に分かれ,多くの段階の処理を経て前頭葉に達する.魚類や多くの脊椎動物で,左右眼の視野の重なりが少ない種では,右眼からの情報は左目へ,左目からの情報は右眼へと入る.しかし,人間のように,視野の重なりが大きい種では,右眼,左目と脳半球の交叉関係では無く,左視野,右視野と脳半球の交叉関係が成立している.こうした構造的仕組みについて理解し,他人に概要でも説明できるかどうか確認する.
③ 視覚の心理物理学 第14回の視覚の心理物理学では具体的な視覚研究で用いられる閾値測定,順応,選択的順応などの実験技術の概要を学び,こうした技術を用いて,主観的な体験である知覚が,どのように数量化され,どのような形でそれぞれの知覚を支えるメカニズムを分析し,メカニズムの全体像に迫ることができるかを学んだ.具体的には,網膜に於ける2種の光受容器細胞,桿体,錐体と暗順応,明順応の関係を学んだ.さらに,選択的順応の基本を,色残効,方位順応残効,運動残効を通じて学んだ.こうした選択的順応は,あるタイプの知覚,例えば色知覚を支え検出器・検出メカニズムが複数あり,ある特定の検出器が順応され,感度の低下が生じると,入力が無い時の,各検出器間のバランスが崩れることによって生じる.こうした視覚の特徴について他者に説明できるかどうかを確認する.
キーワード
① 心理学史 ② 哲学 ③ 視覚系 ④ 心理物理学
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
[復習]
今回の講義で扱った内容に関する知識定着の確認は小テストを用いて行う。小テストは提出時に採点結果が提示されるため,誤答した問題に関しては,授業開始時に配布される教材を用いて復習を行う。また,誤答した問題以外にも再確認したい内容があれば,講義開始時に配布される教材の該当する箇所を用いて復習を行う。特に今回は,第8回以降の後半に学んだ心理学の歴史と視覚の心理学についての整理を行った.今一度各段階で学んだことを再想起し,記憶の定着を図って,テストに臨んでほしい.
[予習]
次回の講義開始までに,コマシラバスの「科目の中での位置づけ」,「コマ主題細目」,「細目レベル」に目を通し,講義内容について確認する。講義内容を確認する中で,わからない単語や説明があれば,その部分をチェックし、自分で調べておく。全15回の講義の内容について,その回で何が面白かったかについて思い出しておくことをお勧めする.「面白い」ということは,重要な記憶の検索手掛かりとなる.こうしたことをきっかけに各回で学んだことを再整理しておくことが,テストに向けての予習となるであろう.
履修判定指標
履修指標
履修指標の水準
キーワード
配点
関連回
心理学とは何か
心理学とはどのような学問であり,心とはいったいどのようなものと考えればよいかという問いについて,心理学が心の科学として,心を全体として取り扱うのではなく,心的な機能のかたまりとして捉えなおし,機能ごとに研究を進めてきたという歴史的背景をふまえて理解し,説明ができるようになること。
具体的には,
1)心を構成する個々の機能は基本的には情報処理であり科学的に捉えることができることの意味や意義を,哲学および心の数量化と結びつけて説明できること。
2)さらに,心理学の心に対するアプローチの歴史的展開を,そのアプローチの一環として心的機能における物体認識や大きさ知覚などの例をふまえて説明できること。
こころ,心理学,心的機能,物体認識,大きさ知覚
10
1
哲学と心理学
心理学が「心とは何のためにあるのか?」,「心はどのように働くのか?」という問いに機能主義的なアプローチで攻めるに至った流れについて理解し,説明ができるようになること。
具体的には,
1)生得的行動,獲得的(学習)行動の違いや,それらにおける本能,成熟の意味,また,インプリンティングの理論的な意味を説明することができること。
加えて,16世紀以降の哲学の流れと心理学の関係,特に理性説と経験説の関係,それらとの心理学と心理学との関係について理解し,説明ができるようになること。
具体的には,
1)ヘルムホルツ,ウェーバー,フェヒナー,ゲシュタルト心理学がやろうとしたこと,なしとげたこと,その限界および,それらと現代心理学の関係と,機能主義の心理学がなぜ出てきたのか(構成主義,要素主義との関係)について説明ができること。
個体発生と系統発生,進化,言語学習,臨界期,インプリンティング,哲学,合理主義,経験主義,インプリンティング,デカルト,ロック,生理学的心理学,ウェーバーの法則,ウェーバー・フェヒナーの法則,ヴント,精神物理学的測定法,ゲシュタルト心理学,ゲシュタルト法則,制約条件,仮現運動,機能主義
20
2,8,9,10
行動主義から,認知心理学および生理還元主義的心理学への流れ
現在の心理学では,「心とは何か?」というような,心の全体性を問うことはできなくなっているという点を抑えた上で,新行動主義,認知心理学,生理還元主義的心理学によって,心的機能の理解とメカニズムの解明が進められていることを理解し,説明できるようになること。
具体的には,
1)機能主義から行動主義への発展の経緯,また,機能主義,行動主義の心理学について,それぞれの具体的な内容,それぞれがなしとげようとしたこと,その限界を説明できること。
2)さらに,新行動主義を経て,現在の認知心理学,生理還元主義的な心理学への流れ,また,現代の心理学の愚弟的な問題意識,方法論,その目指すものを明確に説明できること。
3)加えて,レスポンデント学習(パブロフの条件反射),オペラント学習(スキナー箱の学習)の違いを説明できること。
行動主義,レスポンデント行動,オペラント行動新行動主義,洞察学習,媒介変数,認知心理学,生理学的心理学
20
11, 12
相関と因果
独立変数,従属変数の意味,また相関の意味を理解し,科学としての心理学研究の構造,設計法を説明することができるようになること。
具体的には,
1)変数の意味(例えば,独立変数とは何か,従属変数とは何か)を先に述べ,変数間の関係性(相関関係,因果関係)について,事象を説明することができること。
2)さらに,相関と因果の差異について,独立変数と従属変数の時間的な関係性,随伴関係から説明をすることができること。
3)さらに難しい相関関係とも言える意識(心)と物理的実体である脳との関係について,意識やクオリアの最近の研究動向から説明することができること。
独立変数,従属変数,相関,因果,随伴,意識,クオリア
15
3
心理学的測定法
こころを科学的,数量的に扱う手法について,精神物理学的測定法や尺度をはじめとして,その閾値の概念に対する疑問から生じた信号検出理論について,説明することができること。
具体的には,
1)ウェーバー,フェヒナー等によって提案された精神物理学測定法(調整法,極限法,恒常法)の概要,それぞれの特徴,用途,実施方法を説明できること。
2)ウェーバー・フェヒナーの法則の意味,スケーリングの概念を理解した上で,ウェーバーフェヒナーの法則の発展としてのJNDに基づくスケーリングの説明ができること。
3)名義尺度,間隔尺度,比例尺度の意味,関係,スティーブンスのマグニチュード推定法の意味,用例,用途,実施方法を説明できること。
4)信号検出理論,多次元尺度法の意味,用例,用途,実施方法を説明することができること。
閾値,絶対閾,弁別閾,精神物理学的測定法,サイコメトリック関数,刺激連続体,ウェーバーの法則,JND尺度,名義尺度,間隔尺度,比例尺度,マグニチュード推定法,信号検出理論,多次元尺度
15
4,5,6,7
視覚系の機能と構造
視覚系の構造,特に眼球の構造と機能,網膜の構造と機能,眼球から脳への伝達の特徴,脳の大まかな構造と機能について,説明ができるようになること。
具体的には,
1)眼でモノを見る仕組みについて,各組織(例えば,眼球,水晶体など))の名称と各組織が有する役割を理解したうえで,その仕組みを説明することができること。
また,網膜の受容器細胞である桿体と錐体の機能,差異について,説明ができるようになること。
具体的には,
1)桿体と錐体とがどのようなところでモノを見る際に働いているのかを説明できること。
2)動物による視細胞の分布の違い,ヒトにおける視細胞の分布について説明できること。
視覚系の全体構造,眼球の構造,桿体と錐体
10
13,14
脳の神経学的実体との関係
現在の知覚,認知の研究と眼球,脳の実体としての構造がどのように関係しているかを説明することができるようになること。
具体的には,
1)脳,後頭葉,頭頂,側部のそれぞれが果たす役割を通じて,どのように知覚されるかを説明することができること。
また,そうした関係と明暗順応,色順応,選択的順応を説明することができるようになること。
具体的には,
1)明暗順応とは何か,色順応がどのような状況下(どのような組織が働く環境)で起きるか,順応の結果として生じる方位残効と運動残効の現象を具体例をもって説明することができること。
さらに,視覚系の神経的な基礎(生理学)の基本的な研究手法について,説明をすることができるようになること。
具体的には,
1)生理学的な基礎と関係づけて心理学的手法による視覚系の構造,機能の研究方法,特に順応,選択的順応に関して説明できること。
視覚系の全体構造,眼球の構造,脳の構造,色順応,選択的順応
10
13,14
評価方法
期末試験(100%)によって評価する。
評価基準
評語
学習目標をほぼ完全に達成している・・・・・・・・・・・・・
S (100~90点)
学習目標を相応に達成している・・・・・・・・・・・・・・・
A (89~80点)
学習目標を相応に達成しているが不十分な点がある・・・・・・
B (79~70点)
学習目標の最低限は満たしている・・・・・・・・・・・・・・
C (69~60点)
学習目標の最低限を満たしていない・・・・・・・・・・・・・
D (60点未満)
教科書
参考文献
実験・実習・教材費