区分 基盤教養科目
ディプロマ・ポリシーとの関係
SDGs力 科学コミュニケーション力 研究力
カリキュラム・ポリシーとの関係
教養 応用力 実践力
科目間連携 総合心理力
カリキュラム全体の中でのこの科目の位置づけ

科目の目的
本授業は、総合心理学科において専門科目を学び、さらにスキル科目を通して自ら研究を行うための基礎を築くことを目的とする。本授業では、人間の「心」がどのように比較され、観察され、測定され、実験の対象として扱われるようになっていったのかをたどることを通して、心理学という学問がいかにして科学として成立してきたのかを理解することを目指す。心はもともと、哲学や文学の中で、内面、主体、思考、生命といった観点から論じられてきたが、近代以降、それはしだいに身体や感覚との関係の中で捉え直され、自然科学的に接近される対象となっていく。本授業では、カントにおける経験の条件の分析、『フランケンシュタイン』に示される生命と人間理解の揺らぎ、ダーウィンによる感情表現の比較、生理学による感覚と神経の研究、フェヒナーの精神物理学、ヴントの実験心理学を手がかりとして、心がどのようにして数値化・法則化・制度化の対象となっていったのかを学ぶ。これにより、心理学とは単に心について語る学問ではなく、心をどのように捉え、どのような方法で研究しうるかを問い続ける中で形成されてきた学問であることを理解し、現代心理学の方法的基盤を学ぶための土台を形成する。
到達目標
① 近代における経験・生命・人間理解の再編を理解し、カントを手がかりとして、心が経験の条件としてどのように捉え直されたのかを把握し、後半の心理学成立史へ接続する問題設定を理解できる。また、『フランケンシュタイン』のような文学作品において、生命と人間がどのような問題として描かれ、その中で心がどのような存在として表現されたのかを識別できる。
② 心が比較・観察・測定・数値化の対象として捉えられていく過程を理解し、生理学、フェヒナー、エビングハウスの議論を通して、科学的心理学成立のための方法的条件とその意義を把握できる。
③ ヴントを中心とする実験心理学の成立とその制度化・拡張を理解し、実験室、内観法、研究所、民族心理学などの観点から、心理学が独自の学問として形成されていく過程を把握できる。

科目の概要
本授業では、人間の「心」がどのように比較され、観察され、測定され、実験の対象として扱われるようになっていったのかを、近代以降の代表的な思想・文学・科学研究を通して学ぶ。授業の中心となるのは、「心は数値化できるのか」という問いである。心は、感情、感覚、思考、主体、経験といった多面的なはたらきを含むものであり、直接に目に見える対象ではない。そのため、心を科学的に扱うことは容易ではない。しかし近代以降、この問題は、心をそのまま捉えようとするのではなく、経験の条件、身体のはたらき、感覚差、行動の比較、実験的観察といった観点から少しずつ捉え直されるようになる。
本授業では、まずカントを通して、心が世界をそのまま映すものではなく、経験そのものを成り立たせる条件として考えられたことを学ぶ。続いて『フランケンシュタイン』を通して、生命や人間が作りうるものとして想像される時代において、身体と心の関係がどのように揺らいだのかを考察する。さらにダーウィンにおいては、感情表現が人間だけに固有のものではなく、動物との比較の中で身体的行動として捉え直される。十九世紀生理学では、感覚が神経や刺激との関係の中で研究され、ヴェーバーやフェヒナーにおいては、感覚差や刺激との対応を通して、心的現象に数量的に接近する道が開かれる。最後にヴントにおいて、心は実験室、内観法、研究所、学問共同体の中で継続的に研究される対象となり、心理学は独自の方法と制度を備えた学問として成立していく。
このように本授業では、心を単に内面の問題としてではなく、身体、比較、測定、実験、文化の問題として捉え、その変化をたどることによって、心理学がどのように科学として成立したのかを理解する。これにより、心理学とは、心を単に語る学問ではなく、心をどのような方法で研究しうるかを問い続けながら形づくられてきた学問であることを理解する。

科目のキーワード
心、心身関係、内面、記憶、主体、経験、生命、感情表現、生理学、精神物理学、実験心理学、民族心理学
授業の展開方法
本授業は、各回で指定する原典教材を受講者が読み、それをもとに講義によって内容の理解を深める方法で展開する。教材は、心理学成立以前の心の哲学と科学の歴史をたどるための重要な原典を中心とする。講義では、各テキストの背景、主要概念、歴史的意義を整理し、心理学という学問の成立へどのようにつながるかを明らかにする。また、本授業は、講義で扱った箇所をさらに深く読解する「心理学講読」と連動しているため、原典に直接触れながら学ぶことを重視する。各コマの最後には10問の小テストを実施し、7問を必ず理解し記憶すべき基本事項、2問を中程度の応用問題、1問を高度な理解を前提とする難問として構成する。
オフィス・アワー
高野裕治:前期:火曜1~5限
後期:火曜1~5限
伊藤義徳:※できるだけアポイントを取ってください
前期:火曜3限・4限
木曜1限・2限
後期:火曜3限・4限
木曜1限・2限
武田知也:前期:火曜1限
後期:火曜1限
横光健吾:前期:金曜4限
後期:金曜4限

科目コード RB1030
学年・期 1年・前期
科目名 こころは数値化できるか
単位数 2
授業形態 講義
必修・選択 必修
学習時間 【授業】90分×15 【予習】90分以上×15 【復習】90分以上×15
前提とする科目 なし
展開科目
関連資格
担当教員名 高野裕治・伊藤義徳・武田知也・横光健吾
主題コマシラバス項目内容教材・教具
1 空間から認識へ迫る(カント1) 科目の中での位置付け 本科目は、心理学概論において「心とは何か」という問いが古代から近代にかけてどのように立てられ、変化してきたのかをたどり、その問いが「心は数値化できるか」という問いへと展開し、心理学という学問が成立していく過程を学ぶ構成をとる。本コマは、その後半の出発点として位置づけられる。第15回までに、心は生命の原理、内面、葛藤する主体、思考の確実性として多様に捉えられてきた。本コマでは、その流れを受けて、カントにおいて心が世界をそのまま受け取るものではなく、経験そのものを成り立たせる条件としてどのように考えられるのかを学ぶ。とくに、感性が対象によって触発される受容能力であると同時に、経験を可能にする形式を備えていることに注目する。これにより、心は単なる内面や主体としてだけでなく、世界が経験として成立するための条件として理解されるようになる。本コマは、本科目全体の中で、「心とは何か」という問いが「私たちはどのように世界を受け取っているのか」という認識条件の問いへ移り、後半の科学的展開へ入るための理論的導入として位置づけられる。
コマ主題細目 ① 認識はどこから始まるのか ② 空間とは何か―外的なものが外的に現れる条件 ③ 主観の条件としての空間
細目レベル ① 本細目では、カントにおいて認識がどのように始まるのかを考察する。カントは、認識が経験から始まることを認める。私たちは、何の経験もなしに世界について知ることはできない。しかし同時に、認識のすべてが経験から生じるわけではないとも述べる。外から何かが与えられただけでは、それはまだまとまった経験にはならない。それが経験として成り立つためには、受け取る側にも一定の条件がなければならない。ここで重要になるのが感性である。感性とは、対象によって触発され、それを受け取る能力である。したがって私たちは、最初から世界そのものをそのまま手にしているのではなく、感性の働きを通して何かを受け取っている。本細目では、認識が外界から一方的に与えられるものではなく、与えられるものと受け取る側の条件との両方によって成立していることを理解することを目標とする。
② 本細目では、感性の形式としての空間を考察する。ふつう私たちは、空間を外の世界にある入れ物のように考え、その中に机や椅子や身体が置かれていると理解している。しかしカントは、空間をそのような外的対象の性質としてではなく、外的なものを経験するために私たちの感性に備わっている形式として考える。物が「ここにある」「あそこにある」「近くにある」「遠くにある」と経験されるためには、すでに空間という枠組みが働いていなければならない。空間は、赤い、冷たい、硬いといった感覚内容ではなく、そうした内容が外的対象として現れるための形式である。本細目では、空間を世界そのものの属性としてではなく、外的なものを経験するためのアプリオリな形式として理解することを目標とする。
③ 本細目では、空間が主観的な条件であるとはどういうことかを考える。ここでいう主観的とは、各人が好き勝手に作り出しているという意味ではない。むしろ、人間が外的な対象を経験するためには、誰にとっても空間という形式が必要であるという意味である。私たちは、外的な対象を経験してから空間を後で学ぶのではない。外的な対象を経験するために、すでに空間の形式が働いていなければならないのである。この点でカントは、経験が世界の直接の写しではなく、人間の感性の形式のもとで成り立つ現象であることを示す。本細目では、空間が物そのものにそのまま属する性質ではなく、人間にとって外的対象が現れるための条件であることを理解することを目標とする。
キーワード
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 予習においては、各回のコマシラバスを通読し、当該回の主題、細目、キーワードを確認しておく。授業前の段階では、細部の完全な理解よりも、その回で何について、どのような用語で語られ、何が論点となるのかを把握しておくことが重要である。復習においては、授業後に教材の該当箇所を読み返し、授業で扱った時代、概念、人物、議論の要点を整理するとともに、関心を持った原典については周辺箇所も参照して理解を深めることが望ましい。加えて、小テストで誤答した問題を確認し、理解が不十分であった箇所を補い直すことが必要である。さらに、Google NotebookLM などを活用して教材解説を聴取したり、ChatGPT などを用いて小テストの類題を作成し反復練習したりすることで、知識の定着を図ることができる。
2 時間から認識へ迫る(カント2) 科目の中での位置付け 本科目は、心理学概論において「心とは何か」という問いが古代から近代にかけてどのように立てられ、変化してきたのかをたどり、その問いが「心は数値化できるか」という問いへと展開し、心理学という学問が成立していく過程を学ぶ構成をとる。本コマは、その導入部において、第16回で扱ったカントの感性論をさらに進め、私たちが経験している世界がどのような条件のもとで共有されているのかを考察する回に位置づけられる。前回は、感性が経験を受け取る能力であり、空間が外的対象の経験を可能にする形式であることを学んだ。本コマでは、それを受けて、時間があらゆる経験に共通する形式であること、そして、私たちが知るのは物自体ではなく現象であること、さらにそれにもかかわらず人間どうしが世界を共有し理解し合えるのはなぜかを考察するための土台作りをする。これにより、心は単なる個人的内面ではなく、人間に共通する経験条件を備えたものとして理解されるようになる。本コマは、本科目全体の中で、後に感覚、比較、測定の問題へ進む前提として、「経験される世界」がどのように成り立っているのかを明らかにする回として位置づけられる。
コマ主題細目 ① 時間とは何か――内的経験の形式 ② 時間はなぜあらゆる経験に関わるのか ③ それでも、なぜ私たちは理解し合えるのか
細目レベル ① 本細目では、感性のもう一つの形式である時間を考察する。カントにとって時間は、経験のあとで作られる概念ではなく、私たちが何かを経験するときにすでに働いている条件である。とくに時間は、感じること、思い出すこと、考えること、欲することといった内的状態のすべてに関わっている。私たちは、自分の心の状態を、前にあったこと、今起きていること、これから起こることとして経験している。したがって時間は、心の中の出来事を並べるために後から付け加えられるものではなく、内的経験そのものを可能にする形式である。本細目では、時間を外に流れている独立したものとしてではなく、内的経験が成立するための感性の形式として理解することを目標とする。
② 本細目では、時間が内的経験だけでなく、外的対象の経験にも関わることを考える。空間は外的対象を経験するための形式であるが、外的対象もまた、変化し、持続し、前後関係をもつものとして経験される。たとえば、机がそこにあり続ける、音が鳴り始めて消える、人が近づいて離れる、といった経験は、いずれも時間の中で成り立っている。つまり、私たちが経験するものは、外的なものであっても内的なものであっても、何らかの時間的秩序のもとに現れている。ここで重要なのは、時間が出来事から取り出された一般概念ではなく、出来事が出来事として経験されるための条件だという点である。本細目では、時間が内的感覚の形式であると同時に、経験一般に関わる形式であることを理解することを目標とする。
③ 本細目では、空間と時間の関係を整理する。空間は、外的なものが位置や広がりをもって現れるための形式である。時間は、内的状態や出来事が順序や持続をもって現れるための形式である。私たちは、対象をただばらばらの感覚内容として受け取っているのではなく、空間と時間の形式のもとで、外にあり、変化し、続き、前後関係をもつものとして経験している。したがって、空間と時間は、経験される世界の基本的な枠組みである。ここから、私たちが知っている世界は、物そのものが人間の条件から離れて存在している姿ではなく、人間の感性の形式のもとで現れた世界であるという問題が生じる。本細目では、空間と時間が経験の基本形式であり、それが次回扱う「物自体は認識できない」という結論へつながることを理解することを目標とする。
キーワード
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 予習においては、各回のコマシラバスを通読し、当該回の主題、細目、キーワードを確認しておく。授業前の段階では、細部の完全な理解よりも、その回で何について、どのような用語で語られ、何が論点となるのかを把握しておくことが重要である。復習においては、授業後に教材の該当箇所を読み返し、授業で扱った時代、概念、人物、議論の要点を整理するとともに、関心を持った原典については周辺箇所も参照して理解を深めることが望ましい。加えて、小テストで誤答した問題を確認し、理解が不十分であった箇所を補い直すことが必要である。さらに、Google NotebookLM などを活用して教材解説を聴取したり、ChatGPT などを用いて小テストの類題を作成し反復練習したりすることで、知識の定着を図ることができる。
3 現象としての世界――物自体は認識できない(カント3) 科目の中での位置付け 本科目は、心理学概論において「心とは何か」という問いが古代から近代にかけてどのように立てられ、変化してきたのかをたどり、その問いが「心は数値化できるか」という問いへと展開し、心理学という学問が成立していく過程を学ぶ構成をとる。本コマは、その導入部において、第16回で扱ったカントの感性論をさらに進め、私たちが経験している世界がどのような条件のもとで共有されているのかを考察する回に位置づけられる。前回までに、感性が経験を受け取る能力であり、空間と時間とが外的対象の経験を可能にする形式であることを学んだ。本コマでは、それを受けて、私たちが知るのは物自体ではなく現象であること、さらにそれにもかかわらず人間どうしが世界を共有し理解し合えるのはなぜかを考察する。これにより、心は単なる個人的内面ではなく、人間に共通する経験条件を備えたものとして理解されるようになる。本コマは、本科目全体の中で、後に感覚、比較、測定の問題へ進む前提として、「経験される世界」がどのように成り立っているのかを明らかにする回として位置づけられる。
コマ主題細目 ① 物自体と現象 ② 「認識できない」とはどういうことか ③ それでも、なぜ私たちは同じ世界について語れるのか
細目レベル ① 本細目では、カントにおける物自体と現象の区別を考察する。物自体とは、人間の感性の形式から独立した対象そのものを指す。しかし私たちは、対象を空間と時間の形式から離れて経験することはできない。私たちが机や椅子や教室を経験するとき、それらは位置や広がりをもち、前後左右や遠近の関係の中に現れ、また時間の中で持続したり変化したりするものとして現れている。したがって、私たちが知っている対象は、物自体そのものではなく、人間の感性の形式のもとで現れた対象である。これが現象である。本細目では、物自体と現象の区別を通して、私たちの認識が世界そのものを直接つかむのではなく、人間にとって現れた世界を対象としていることを理解することを目標とする。
② 本細目では、「物自体は認識できない」という命題の意味を考える。ここで注意すべきなのは、この命題が、世界について何も分からないという絶望的な主張ではないことである。カントは、私たちが経験している世界を否定しているわけではない。目の前の机は、私たちの経験の中では確かに机として現れている。しかしそれは、人間の感性の形式を通して現れた机であって、人間の感性から完全に独立した物自体としての机ではない。したがって、認識の限界とは、知識の失敗を示すだけのものではなく、認識がどのような条件のもとで可能になるのかを示すものである。本細目では、「物自体は認識できない」という考えを、世界を否定する主張としてではなく、認識の成立条件と限界を明らかにする考え方として理解することを目標とする。
③ 本細目では、物自体そのものを認識できないにもかかわらず、なぜ私たちがなお同じ世界について語り合うことができるのかを考える。ここで重要なのは、カントにおける主観性が、各人がばらばらの世界を作っているという意味ではないことである。私たちは、同じ教室を見て「机が前にある」「窓が右側にある」と確認し合うことができる。それは、人間が空間と時間という共通の感性の形式のもとで世界を経験しているからである。見え方の細部には違いがありうるとしても、経験の基本的な枠組みは共有されている。したがって、物自体を直接には認識できないということは、私たちが孤立した世界に閉じ込められていることを意味しない。本細目では、カントにおける主観性を、孤立した個人の感じ方ではなく、人間どうしが世界を共有する条件として理解することを目標とする。
キーワード
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 予習においては、各回のコマシラバスを通読し、当該回の主題、細目、キーワードを確認しておく。授業前の段階では、細部の完全な理解よりも、その回で何について、どのような用語で語られ、何が論点となるのかを把握しておくことが重要である。復習においては、授業後に教材の該当箇所を読み返し、授業で扱った時代、概念、人物、議論の要点を整理するとともに、関心を持った原典については周辺箇所も参照して理解を深めることが望ましい。加えて、小テストで誤答した問題を確認し、理解が不十分であった箇所を補い直すことが必要である。さらに、Google NotebookLM などを活用して教材解説を聴取したり、ChatGPT などを用いて小テストの類題を作成し反復練習したりすることで、知識の定着を図ることができる。
4 作られた生命――『フランケンシュタイン』を読む1 科目の中での位置付け 本科目は、心理学概論において「心とは何か」という問いが古代から近代にかけてどのように立てられ、変化してきたのかをたどり、その問いが「心は数値化できるか」という問いへと展開し、心理学という学問が成立していく過程を学ぶ構成をとる。本コマは、その後半の中で、カントによって経験の条件として捉えられた心の問題を受けつつ、近代において生命そのものが作りうるものとして想像されはじめた時代の人間観と生命観の揺らぎを文学作品を通して学ぶ回に位置づけられる。『フランケンシュタイン』は、科学の進展によって生命を自然法則のもとで捉えようとする時代に書かれた作品であり、生命を作り出すことへの希望と不安とを同時に描いている。本コマでは、ヴィクター・フランケンシュタインによる創造の企てを通して、生命を知ること、作ること、そして作られた生命を引き受けることのあいだにどのような緊張があるのかを考察する。これにより、心や生命の機械論的な理解が進む中で、近代科学の進展とともに新たなかたちで問題化されていくことが理解される。本コマは、本科目全体の中で、心が身体と生命の問題の中でどう扱われうるかを文学的に照らし出し、ダーウィンや生理学へ進む前の重要な橋渡しとして位置づけられる。
コマ主題細目 ① 1831年という時代――なぜこの物語が書かれたのか ② 創造の場面――生命が入った瞬間、何が起きたのか ③ 作った者が逃げる――なぜ耐えられなかったのか
細目レベル ① 十八世紀から十九世紀にかけて、ヨーロッパでは自然科学が大きく発展し、生命や身体もまた神秘ではなく法則として理解されるべきものと考えられ始めていた。電気、生理学、生命の起源をめぐる議論は、生命とは何か、死とは何か、生命を人工的に生み出すことはできるのかという問いに現実味を与えることになる。ここで重要なのは、人間が単に自然を観察するだけでなく、それを操作し、再現し、作り出そうとし始めていたという点である。したがってこの作品は、単なる怪奇小説ではなく、近代科学の希望と不安とを引き受ける文学として読む必要がある。本細目では、『フランケンシュタイン』を生命観と人間観の揺らぎを映し出す近代の物語として理解することを目標とする。
② 次に、ヴィクター・フランケンシュタインが死んだ身体の断片から一つの生命を作り出す場面を考える。彼は長い研究の末に、死んだ身体の断片から一つの存在を作り上げる。ここで重要なのは、彼が死を越え、朽ちるはずのものに生命を与えようとする点において、破壊ではなく創造を目指していることである。しかし、決定的なのは、その願いが実現した瞬間に達成感ではなく強い嫌悪と恐怖が訪れることである。目が開き、胸が動き、四肢が動き始めたとき、彼は成功を喜ぶのではなく、自分の前に現れた存在に耐えられなくなる。つまり、頭の中で思い描いていた「生命を作る」という理想と、現実に目の前に立ち現れた生きた身体とのあいだに、大きな落差があったのである。本細目では、この創造の場面を科学的成功の場面としてではなく、作ることと、その存在を引き受けることとの違いが露わになる瞬間として理解することを目標とする。
③ 最後に、生命を与えた直後にヴィクターが自分の創造物から逃げ出す場面を考える。ここで重要なのは、その存在がすぐに攻撃してきたからではなく、まだ何もしていないにもかかわらず、彼がその現実性そのものに耐えられなくなるという点である。ヴィクターは、死体を部品として扱い、身体を仕組みとして理解し、生命を与えることには成功した。しかし、そうして出来上がったものを前にすると、それはもはや部品の集合ではなく、一つの生きた全体として立ち現れている。その全体性を彼は引き受けることができないのである。ここには、部分を操作することと、全体としての生命を受け止めることとの決定的な違いがある。したがって悲劇は、怪物が復讐を始める以前に、すでに創造者が創造物を引き受けないところから始まっている。本細目では、この場面を単なる恐怖の場面ではなく、責任の放棄の場面として理解することを目標とする。
キーワード
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 予習においては、各回のコマシラバスを通読し、当該回の主題、細目、キーワードを確認しておく。授業前の段階では、細部の完全な理解よりも、その回で何について、どのような用語で語られ、何が論点となるのかを把握しておくことが重要である。復習においては、授業後に教材の該当箇所を読み返し、授業で扱った時代、概念、人物、議論の要点を整理するとともに、関心を持った原典については周辺箇所も参照して理解を深めることが望ましい。加えて、小テストで誤答した問題を確認し、理解が不十分であった箇所を補い直すことが必要である。さらに、Google NotebookLM などを活用して教材解説を聴取したり、ChatGPT などを用いて小テストの類題を作成し反復練習したりすることで、知識の定着を図ることができる。
5 怪物の心――『フランケンシュタイン』を読む2 科目の中での位置付け 本科目は、心理学概論において「心とは何か」という問いが古代から近代にかけてどのように立てられ、変化してきたのかをたどり、その問いが「心は数値化できるか」という問いへと展開し、心理学という学問が成立していく過程を学ぶ構成をとる。本コマは、その後半の中で、第18回で扱った創造の問題をさらに進め、作られた生命がどのように世界を経験し、他者との関係の中でどのように変化していくのかを考察する回に位置づけられる。前回は、生命を作り出す企てと、それを引き受けることの困難をヴィクターの側から見た。本コマでは、それに対して怪物の側から物語を読み直し、心が最初から完成したものとしてあるのではなく、感覚、学習、他者との関係、そして拒絶の経験の中で形成され、歪められていくことに注目する。これにより、心は作られた身体の中にただ宿るものではなく、世界との関わりの中で生成し、変形していくものとして理解される。本コマは、本科目全体の中で、心を身体・承認・関係性の問題として捉え直し、心や身体の機械論的な理解からダーウィン以降の比較的・自然科学的視点へ接続する回として位置づけられる。
コマ主題細目 ① 怪物はどのように世界を知るのか ② 拒絶と復讐――怪物はなぜ怪物になるのか ③ 機械論と二元論――この物語は何を問い直しているのか
細目レベル ① 本細目では、怪物がどのように世界を経験し始めるのかを考察する。ここで重要なのは、怪物が最初から悪意ある存在として現れるのではなく、まず感覚する存在として現れるという点である。彼は光や闇、寒さや飢え、音や手触りといったものを受け取りながら、少しずつ世界を知っていく。やがて人間たちを観察し、ことばを覚え、関係の仕方を学ぶようになる。この過程が示しているのは、心があらかじめ完成したものとしてあるのではなく、経験の中で形成されるということである。しかもその形成は、孤立した内面の中で起こるのではなく、他者を見、他者を通して自分を知るという関係性の中で進む。本細目では、怪物を恐怖の対象としてではなく、まず世界に入っていこうとする経験主体として理解することを目標とする。
② 次に、怪物がどのようにして復讐へ向かうのかを考える。ここで重要なのは、彼が最初から悪であったのではなく、人間に近づこうとし、理解されたいと願いながら、その願いがことごとく拒まれるという点である。彼は外見の醜さゆえに恐れられ、追い払われ、敵意を向けられる。その結果、彼は自分の姿が他者にとって耐えがたいものであることを知り、自分自身をもまたそのように見るようになる。ここで問われているのは、怪物性が身体そのものにあるのか、それとも他者のまなざしと拒絶の経験の中で形成されるのかという問題である。この意味で、怪物は作られた瞬間に怪物だったのではなく、世界の中で拒絶され続けることによって怪物になっていくのである。本細目では、怪物の復讐を単なる悪意としてではなく、承認されない心が変形していく過程として理解することを目標とする。
③ 最後に、『フランケンシュタイン』が思想史の中で何を問い直しているのかを整理する。デカルト以来、身体は機械のように考えることができるものとされ、その働きは自然法則のもとで分析可能なものと見なされてきた。ヴィクターの企ては、この身体機械論の延長にある。死体を部品として集め、組み立て、そこに生命を与えるという発想は、身体を操作可能なものとして扱う態度に立っている。しかし他方で、この物語は、身体だけではまだ人間にならず、そこに生命や心の原理が加わることで初めて人間になるのではないかという二元論的発想の上にも立っている。さらに、人間を機械とみなす立場に進めば、作られた身体がそのまま人間であってもよいはずなのに、作品はまさにその地点で強い不安を生み出している。したがってこの物語が問い直しているのは、身体が作れるかどうかではなく、身体が作れたとき、それで人間は成り立つのかという問題である。本細目では、『フランケンシュタイン』を、作られた生命の怪奇譚としてではなく、人間の条件そのものを問い直す文学として理解することを目標とする。
キーワード
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 予習においては、各回のコマシラバスを通読し、当該回の主題、細目、キーワードを確認しておく。授業前の段階では、細部の完全な理解よりも、その回で何について、どのような用語で語られ、何が論点となるのかを把握しておくことが重要である。復習においては、授業後に教材の該当箇所を読み返し、授業で扱った時代、概念、人物、議論の要点を整理するとともに、関心を持った原典については周辺箇所も参照して理解を深めることが望ましい。加えて、小テストで誤答した問題を確認し、理解が不十分であった箇所を補い直すことが必要である。さらに、Google NotebookLM などを活用して教材解説を聴取したり、ChatGPT などを用いて小テストの類題を作成し反復練習したりすることで、知識の定着を図ることができる。
6 生理学から心理学への道のり(ヴント1) 科目の中での位置付け 本科目は、心理学概論において「心とは何か」という問いが古代から近代にかけてどのように立てられ、変化してきたのかをたどり、その問いが「心は数値化できるか」という問いへと展開し、心理学という学問が成立していく過程を学ぶ構成をとる。本コマはその後半の中で、カントによる経験条件の分析と、『フランケンシュタイン』が描いた生命・身体・心の問題を受けて、十九世紀の生理学がどのように心理学の成立へつながっていったのかを学ぶ回に位置づけられる。前回までに、生命を作ること、身体を操作すること、作られた存在に心が形成されることの問題を見てきた。本コマでは、その文学的問題を受けて、実際の十九世紀生理学において、神経、筋肉、電気刺激、感覚がどのように研究されていたのかを考察する。とくに、ヴントが最初から心理学者として出発したのではなく、医学と生理学の訓練の中から心の問題へ向かったことに注目する。これにより、心理学は突然生まれた学問ではなく、生命と身体を測定しようとする生理学の発展の中から、感覚や経験をどう扱うかという問いとして現れてきたことを理解する。本コマは、ヴントを通して、心が身体と切り離された哲学的対象から、神経、刺激、反応、感覚の問題と結びついた科学的対象へ移っていく入り口として位置づけられる。
コマ主題細目 ① 『フランケンシュタイン』のあとで――生命・電気・身体への不安 ② 新しい研究計画――医学生ヴントはなぜ生理学を選んだのか ③ ベルリンの精密生理学――ミュラー、デュ・ボア=レーモン、そして感覚の不思議
細目レベル ① 本細目では、『フランケンシュタイン』で扱った作られた生命の問題を受けて、十九世紀初頭の生命観と身体観を確認する。作品の中では、死んだ身体に生命を与えること、身体を部品のように集めて組み立てること、そこに心が宿るのかという問いが文学的に描かれていた。しかし、これは単なる想像の問題ではなかった。当時の生理学では、カエルの脚、神経、筋肉、電気刺激が実際に重要な研究対象となり、生命は神秘的な力なのか、それとも電気や神経の働きとして説明できるのかが問われていた。ここで重要なのは、生命や身体への関心が、怪奇小説の題材にとどまらず、科学の実験室の中でも切実な問題となっていたことである。本細目では、『フランケンシュタイン』の生命創造の不安と、十九世紀生理学における神経・筋肉・電気刺激の研究とを接続し、心理学の誕生が生命と身体を測ろうとする時代の中から準備されたことを理解することを目標とする。
② 本細目では、若きヴントがどのように医学から生理学へ進み、そこから心理学へ向かっていったのかを考察する。ヴントは最初から「心理学者」として出発した人物ではなかった。彼は医学を学びながらも、臨床医として個々の患者を診る道よりも、生命や身体の働きを根本から理解する生理学へ強く惹かれていった。ここで重要なのは、ヴントにとって生理学が、単に身体を扱う学問ではなく、心の問題へ近づくための準備でもあったという点である。身体の状態が変われば、感覚や欲求や注意も変わる。神経や筋肉の働きを調べれば、ただ身体が動くというだけでなく、「感じる」「反応する」「意識する」という問題にも近づくことができる。したがってヴントの歩みは、医学から生理学へ、さらに生理学から心理学へと進む一つの道筋を示している。本細目では、ヴントの経歴を伝記的事実として覚えるのではなく、心を科学的に扱うために、まず身体と生命の研究が必要であったことを理解することを目標とする。
③ 本細目では、ヴントが触れたベルリンの精密生理学を通して、心理学誕生の直前にどのような問題が準備されていたのかを考察する。ミュラーは、感覚が外界の刺激をそのまま写すものではなく、どの感覚神経が刺激されるかによって、光、音、触覚といった経験の質が変わることを示した。これは、感覚を外界だけから説明するのではなく、身体と神経の仕組みから理解する重要な視点であった。さらにデュ・ボア=レーモンは、神経や筋肉の活動を電気的変化として測定しようとし、生命活動を神秘ではなく自然現象として扱う道を切り開いた。ここで重要なのは、生理学が進めば進むほど、なお残る問いが明確になったという点である。神経の興奮や筋肉の収縮は測定できる。しかし、「光が見える」「音が聞こえる」「触れられたと感じる」という主観的経験は、どのように説明されるのか。本細目では、ベルリンの生理学が身体を測定可能な対象にした一方で、その先に感覚と経験を扱う心理学の必要性を生み出したことを理解することを目標とする。
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小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 予習においては、各回のコマシラバスを通読し、当該回の主題、細目、キーワードを確認しておく。授業前の段階では、細部の完全な理解よりも、その回で何について、どのような用語で語られ、何が論点となるのかを把握しておくことが重要である。復習においては、授業後に教材の該当箇所を読み返し、授業で扱った時代、概念、人物、議論の要点を整理するとともに、関心を持った原典については周辺箇所も参照して理解を深めることが望ましい。加えて、小テストで誤答した問題を確認し、理解が不十分であった箇所を補い直すことが必要である。さらに、Google NotebookLM などを活用して教材解説を聴取したり、ChatGPT などを用いて小テストの類題を作成し反復練習したりすることで、知識の定着を図ることができる。
7 心理学前夜――ヘルムホルツ、ヴェーバー、フェヒナーとの交流(ヴント2) 科目の中での位置付け 本科目は、心理学概論において「心とは何か」という問いが古代から近代にかけてどのように立てられ、変化してきたのかをたどり、その問いが「心は数値化できるか」という問いへと展開し、心理学という学問が成立していく過程を学ぶ構成をとる。本コマはその後半の中で、第6回において確認した生理学から心理学への道筋をさらに具体化し、ヘルムホルツ、ヴェーバー、フェヒナーの研究を通して、心が測定と数値化の対象へ近づいていく過程を学ぶ回に位置づけられる。前回は、ミュラーやデュ・ボア=レーモンの生理学を通して、神経や筋肉が刺激、電気、時間として研究されるようになったことを学んだ。本コマでは、その流れを受けて、神経伝導速度、無意識的推論、感覚差、精神物理学といった問題を扱う。ヘルムホルツは、神経の働きには時間があり、知覚は外界の単純な反映ではなく解釈を含むことを示した。ヴェーバーは、感覚には「違いとして感じられる境目」があることを示した。フェヒナーは、その境目を手がかりに、物理的刺激と心的感覚との関係を数量的に表そうとした。これにより、心は曖昧な内面としてではなく、刺激、感覚差、測定、法則の関係の中で扱いうる対象として現れ始める。本コマは、ヴントの実験心理学がどのような先行研究の上に成立したのかを理解するための、心理学前夜の重要な回として位置づけられる。
コマ主題細目 ① ヘルムホルツ:神経には時間があり、知覚には解釈がある ② ヴェーバー:感覚には境目がある ③ フェヒナー:心は数値化できるか
細目レベル ① 本細目では、ヘルムホルツの研究を通して、身体を測定することがどのように心理学の問題へつながったのかを考察する。ヘルムホルツの重要な仕事の一つは、神経の伝導に時間がかかることを示した点である。これは、神経の働きを神秘的な生命力としてではなく、測定可能な時間的過程として扱うことを意味していた。さらにヘルムホルツは、知覚を外界の単純な写しとは考えなかった。私たちがものを見るとき、網膜に刺激が入るだけで対象がそのまま理解されるのではなく、過去の経験にもとづく推論や解釈が関わっている。この考えは、知覚が受動的な感覚の集まりではなく、心の働きによって構成される過程であることを示す。ここで重要なのは、神経の時間を測る生理学と、知覚の成立を考える心理学とが、ヘルムホルツにおいて深く結びついていたことである。本細目では、ヘルムホルツを単なる生理学者としてではなく、神経の測定と知覚の解釈を通して、心理学の成立に重要な前提を与えた人物として理解することを目標とする。
② 本細目では、ヴェーバーの感覚研究を通して、主観的な感覚がどのように測定可能な問題になったのかを考察する。私たちは、重い、軽い、冷たい、熱い、触れられたといった感覚を日常的に経験している。しかし、その感覚をそのまま物差しで測ることはできない。ヴェーバーが注目したのは、感覚そのものの大きさではなく、二つの刺激が「違う」と感じられる境目であった。たとえば、二点が皮膚に触れたとき、それが一つの点として感じられるのか、二つの点として感じられるのか。また、重さを比べたとき、どの程度増えれば違いとして感じられるのか。ここで重要なのは、感覚が気まぐれな主観ではなく、条件を整えて調べれば一定の規則性をもつことが示された点である。感覚差に規則性があるならば、心的経験も比較と測定の対象になりうる。本細目では、ヴェーバーの研究を、感覚の内容を直接測る試みとしてではなく、感覚差という境目を通して心を数量的に扱う道を開いた研究として理解することを目標とする。
③ 本細目では、フェヒナーの精神物理学を通して、心と身体、刺激と感覚との関係を数量的に捉えようとする試みを考察する。フェヒナーにとって重要だったのは、心を直接に測ることはできないが、だからといって心を科学の外に置く必要はないという点であった。物理的刺激の大きさは測ることができる。そして、刺激がどれだけ変化すれば感覚の違いとして感じられるのかも、実験によって調べることができる。フェヒナーは、この刺激と感覚差の関係を手がかりにして、心的感覚の尺度を構成しようとした。ここで重要なのは、精神物理学が単なる測定技術ではなく、物理的世界と心的世界との対応関係を法則として捉えようとする大きな構想だったということである。心は見えない。しかし、刺激との関係を通せば、心的現象にも数量的な秩序を見いだせる。本細目では、フェヒナーの精神物理学を、心を数値化するための最初の本格的な試みとして理解し、ヴントの実験心理学がこの成果を受け継いで成立したことを把握することを目標とする。
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小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 予習においては、各回のコマシラバスを通読し、当該回の主題、細目、キーワードを確認しておく。授業前の段階では、細部の完全な理解よりも、その回で何について、どのような用語で語られ、何が論点となるのかを把握しておくことが重要である。復習においては、授業後に教材の該当箇所を読み返し、授業で扱った時代、概念、人物、議論の要点を整理するとともに、関心を持った原典については周辺箇所も参照して理解を深めることが望ましい。加えて、小テストで誤答した問題を確認し、理解が不十分であった箇所を補い直すことが必要である。さらに、Google NotebookLM などを活用して教材解説を聴取したり、ChatGPT などを用いて小テストの類題を作成し反復練習したりすることで、知識の定着を図ることができる。
8 心理学誕生(ヴント3) 科目の中での位置付け 本科目は、心理学概論において「心とは何か」という問いが古代から近代にかけてどのように立てられ、変化してきたのかをたどり、その問いが「心は数値化できるか」という問いへと展開し、心理学という学問が成立していく過程を学ぶ構成をとる。本コマは、第6回・第7回において扱った生理学、感覚研究、精神物理学の成果を受けて、心理学が独自の学問として成立していく過程を、ヴントの実験心理学とライプチヒの研究所を中心に学ぶ回に位置づけられる。前回までは、神経には時間があり、感覚には境目があり、刺激と感覚の関係には数式化可能な秩序があることを学んだ。本コマでは、そのような準備の上に、心理学がどのように大学の中に場所をもち、器具、実験手続き、観察訓練、研究発表を備えた学問へ変わっていったのかを考察する。ここで重要なのは、心理学という言葉や心についての思索は古くから存在していたが、実験心理学としての心理学は新しい制度的・方法的な形をとって成立したという点である。ヴントは、心を魂の実体として論じるのではなく、直接経験に現れる感覚、知覚、注意、反応、意志といった過程として研究しようとした。本コマは、心理学が単なる哲学的考察から、実験室をもつ近代的な学問へ移行した決定的な段階として位置づけられる。
コマ主題細目 ① 心理学という名の古さと、実験心理学の新しさ ② 実験室の前にあった設計図――能力心理学から実験心理学へ ③ 心理学研究所の拡充――心理学が大学の中に部屋をもつ
細目レベル ① 本細目では、心理学という学問の「古さ」と「新しさ」を区別して考える。心について考える営みは、アリストテレス以来、長い歴史をもっていた。心は生命の原理として、内面として、記憶として、思考する主体として、すでに多くの仕方で問われてきた。しかし、十九世紀後半にヴントが切り開いた心理学は、それ以前の心の哲学と同じものではなかった。ここで新しかったのは、心を実験と測定の対象として扱い、大学の中で継続的に研究される学問として制度化しようとした点である。したがって、心理学は突然何もないところから生まれたのではなく、古い問いを新しい方法で扱い直すことによって成立したと言える。ここで重要なのは、「心理学は古くからあった」と「心理学は十九世紀に誕生した」という二つの言い方が矛盾しないことである。本細目では、心についての問いの長い歴史と、実験心理学としての短い歴史を区別し、ヴントの位置を心理学成立史の中で理解することを目標とする。
② 本細目では、ヴントの実験心理学が、単に実験室を作ったことだけで成立したのではなく、その前に心理学の対象をどのように考えるかという設計図を必要としていたことを考察する。従来の能力心理学では、記憶、想像、判断、意志などの心の働きを能力名として分類することが多かった。しかし、能力名を並べるだけでは、それらがどのように働き、どのように結びつき、時間の中でどのように変化するのかは分からない。ヴントが目指したのは、心を固定した能力の一覧としてではなく、直接経験の中で生じる過程として研究することであった。感覚が生じ、注意が向けられ、知覚がまとまり、判断が行われ、反応が起こる。こうした一連の過程を、条件を整えた実験のもとで調べることが、実験心理学の課題となる。ここで重要なのは、心理学が魂の分類表ではなく、心的過程の発生と結合を扱う学問へ変わったことである。本細目では、ヴントの実験心理学を、能力名を整理する心理学から、心的過程を実験的に研究する心理学への転換として理解することを目標とする。
③ 本細目では、ライプチヒ大学における心理学研究所の成立と拡充が、心理学史において何を意味したのかを考察する。心理学研究所の成立は、単に有名な場所ができたという出来事ではない。そこには、実験器具を置く部屋があり、実験手続きを学ぶ学生があり、結果を記録し、比較し、論文として発表する仕組みがあった。つまり、心の研究が、一人の思想家の書斎の中で行われるものから、共同で継続される学問的営みへ変わったのである。ここで重要なのは、心理学がいきなり完成した制度として現れたのではなく、小さな部屋、限られた器具、学生たちの訓練から少しずつ形を整えていったことである。実験室をもつということは、心を測定し、記録し、反復し、他者と比較できるものとして扱うことを意味する。本細目では、心理学研究所の成立を、心理学が大学の中に居場所をもち、制度的に継続される学問となった出来事として理解することを目標とする。
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小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 予習においては、各回のコマシラバスを通読し、当該回の主題、細目、キーワードを確認しておく。授業前の段階では、細部の完全な理解よりも、その回で何について、どのような用語で語られ、何が論点となるのかを把握しておくことが重要である。復習においては、授業後に教材の該当箇所を読み返し、授業で扱った時代、概念、人物、議論の要点を整理するとともに、関心を持った原典については周辺箇所も参照して理解を深めることが望ましい。加えて、小テストで誤答した問題を確認し、理解が不十分であった箇所を補い直すことが必要である。さらに、Google NotebookLM などを活用して教材解説を聴取したり、ChatGPT などを用いて小テストの類題を作成し反復練習したりすることで、知識の定着を図ることができる。
9 ヴントの心理学構想(ヴント4) 科目の中での位置付け 本科目は、心理学概論において「心とは何か」という問いが古代から近代にかけてどのように立てられ、変化してきたのかをたどり、その問いが「心は数値化できるか」という問いへと展開し、心理学という学問が成立していく過程を学ぶ構成をとる。本コマはその後半の中で、ヴントを単なる「実験心理学の父」としてではなく、心を実験室の中だけに閉じ込めなかった心理学者として理解する回に位置づけられる。前回は、心理学研究所の成立を通して、心が器具、測定、訓練、記録、発表を備えた学問的対象になっていく過程を見た。しかしヴント自身の心理学構想は、感覚や反応時間を測る実験心理学だけで終わるものではなかった。実験心理学は、感覚、知覚、注意、反応といった比較的単純な心的過程を扱ううえで不可欠である。しかし、人間の精神生活はそれだけでは尽くされない。人間は言語を用い、神話を語り、風習や法の中で生き、芸術や宗教的表象を作り出す。また、人間の心を理解するためには、動物の行動や学習との連続性も考えなければならない。本コマでは、動物心理学、民族心理学、言語、文様、神話、宗教的表象を通して、ヴントの心理学が、個人の実験室内経験から共同体の歴史的・文化的精神生活へ広がる構想であったことを理解する。本コマは、ヴント心理学の広さを確認し、次回から扱うエビングハウスの記憶実験へ接続する回として位置づけられる。
コマ主題細目 ① 動物心理学――心を人間だけに閉じない ② 民族心理学――心を一人の内面に閉じない ③ 絵と文様、神話と宗教的表象――共同生活に現れる心
細目レベル ① 本細目では、ヴントの心理学構想において、心が人間だけに閉じたものではなかったことを考察する。十九世紀後半には、ダーウィンの進化論によって、人間を生物の連続の中で理解する視点が広がっていた。もし人間の身体が動物の身体と連続しているならば、感覚、欲求、恐れ、快・不快、学習、記憶、社会的行動といった心の働きも、人間だけに突然現れたものとしてではなく、動物の行動との連続の中で考える必要がある。ここで重要なのは、動物心理学が、人間を低く見るためのものではなく、人間の心をより広い生命の歴史の中に位置づけるためのものであったという点である。動物にも、威嚇、接近、回避、安心、不安、学習のような行動が見られる。そこから、人間の心の特徴も、動物との共通性と差異の両方を通して明らかになる。本細目では、ヴントの心理学が人間の内面だけに閉じず、動物の行動を含む広い心理学的視野をもっていたことを理解することを目標とする。
② 本細目では、ヴントがなぜ民族心理学を必要としたのかを考察する。実験心理学は、感覚、単純な知覚、注意、反応時間のような比較的単純な心的過程を研究するうえでは有効である。条件を統制し、刺激を与え、反応を測定し、観察を訓練することで、心的過程を精密に調べることができる。しかし、人間の精神生活には、実験室の中でそのまま再現できないものがある。言語、神話、宗教、習俗、法、芸術のような現象は、長い歴史の中で形成され、多くの人々によって共有され、受け継がれていく。これらは、一人の個人の一瞬の経験だけからは説明できない。ここで重要なのは、ヴントが実験心理学を捨てたのではなく、実験心理学が扱える対象と、別の方法を必要とする対象とを区別したことである。本細目では、民族心理学を実験心理学への後退としてではなく、心を共同体、歴史、文化の中で捉えるために必要な心理学の拡張として理解することを目標とする。
③ 本細目では、ヴントが考えた高次の精神的過程を、絵、文様、神話、宗教的表象などを手がかりに考察する。人間は、単に刺激に反応するだけの存在ではない。人間は線を引き、模様を作り、左右対称や反復を好み、世界を物語として語り、死や自然や共同体について神話や宗教的表象を作り出す。ここで重要なのは、これらが個人の趣味や装飾にとどまらず、人間が世界をどのように意味づけ、どのように共有し、どのように共同生活を作ってきたのかを示しているという点である。言語は心を外に表すだけでなく、経験を整理し、他者と共有可能にする。文様や神話もまた、世界の秩序や不安や願いを形にする働きをもつ。したがって、心は実験室で測定される感覚や反応の中にだけあるのではなく、人間が共同で生き、世界に意味を与え、形を作り、物語を語るところにも現れる。本細目では、ヴント心理学の広さを、単純な心的現象から高次の精神的過程へ広がる構想として理解することを目標とする。
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小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 予習においては、各回のコマシラバスを通読し、当該回の主題、細目、キーワードを確認しておく。授業前の段階では、細部の完全な理解よりも、その回で何について、どのような用語で語られ、何が論点となるのかを把握しておくことが重要である。復習においては、授業後に教材の該当箇所を読み返し、授業で扱った時代、概念、人物、議論の要点を整理するとともに、関心を持った原典については周辺箇所も参照して理解を深めることが望ましい。加えて、小テストで誤答した問題を確認し、理解が不十分であった箇所を補い直すことが必要である。さらに、Google NotebookLM などを活用して教材解説を聴取したり、ChatGPT などを用いて小テストの類題を作成し反復練習したりすることで、知識の定着を図ることができる。
10 心理学は過去は長いが、歴史は短い(エビングハウス1) 科目の中での位置付け 本科目は、心理学概論において「心とは何か」という問いが古代から近代にかけてどのように立てられ、変化してきたのかをたどり、その問いが「心は数値化できるか」という問いへと展開し、心理学という学問が成立していく過程を学ぶ構成をとる。本コマはその後半の中で、ヴントによって心理学が実験室、器具、測定、訓練、制度を備えた学問として成立したことを受けて、エビングハウスによる記憶研究へ入る導入回として位置づけられる。冒頭では、エビングハウスの「心理学は過去は長いが、歴史は短い」という言葉を手がかりに、心についての問いの古さと、科学的心理学としての歴史の短さを確認する。心理学概論でに見たように、心はアリストテレスにおいて生命の原理として、アウグスティヌスにおいて記憶と内面として、デカルトにおいて考える私として問われてきた。その意味で心理学の過去は長い。しかし、心を実験し、測定し、数値化し、法則として扱う学問の歴史は十九世紀に本格化したばかりである。本コマでは、そうした長い過去と短い歴史の接点に、記憶を実験的に測定しようとしたエビングハウスを位置づける。これにより、記憶が哲学的・内省的に語られる対象から、反復、時間、保持、忘却として測定される対象へ変わっていく意味を理解する。本コマは、アウグスティヌスの記憶論と近代実験心理学とを結び、記憶の数値化へ進むための導入回として位置づけられる。
コマ主題細目 ① 「心理学は過去は長いが、歴史は短い」 ② 記憶はなぜ古くから問われてきたのか ③ 記憶を実験するという転換
細目レベル ① 本細目では、エビングハウスの「心理学は過去は長いが、歴史は短い」という言葉を手がかりに、心理学という学問の二重性を考察する。心について考えることは、古代から続く長い営みである。アリストテレスは心を生命の原理として定義し、アウグスティヌスは記憶の広がりと自己の内面を探究し、デカルトは疑ってもなお残る考える私を見いだした。この意味で、心理学の過去は非常に長い。しかし、心を実験室で扱い、条件を統制し、測定し、結果を数値として表し、反復可能な研究として蓄積する心理学の歴史は、それほど長くない。ここで重要なのは、エビングハウスの言葉が、心理学の古さを否定するものではなく、むしろ古くから問われてきた心の問題が、新しい科学的方法を得たことを示している点である。本細目では、心理学の「過去」と「歴史」を区別し、エビングハウスをその短い科学的歴史の中で重要な役割を果たした人物として理解することを目標とする。
② 本細目では、エビングハウスの記憶研究に入る前に、記憶という問題がなぜ古くから心の中心問題であったのかを確認する。アウグスティヌスにおいて、記憶は単に過去の出来事を保存しておく場所ではなかった。記憶は、自己が自分自身を探る場であり、忘れているものを探し、幸福を求め、自分の中にありながらすぐにはつかめないものへ向かう内面の広がりであった。日常的にも、記憶は私たちの自己理解と深く関わっている。自分が何を経験し、何を学び、誰と出会い、何を忘れてしまったのかは、自分がどのような存在であるかに関わる。ここで重要なのは、記憶がもともと非常に豊かな哲学的・内面的問題であったという点である。エビングハウスの革新は、その豊かな記憶をそのまま全体として扱ったことではなく、まず条件を限定し、測定可能な形に切り出したことにある。本細目では、古くから問われてきた記憶の問題が、エビングハウスによってどのように実験の対象へ移されていくのかを理解することを目標とする。
③ 本細目では、記憶を実験するとはどういうことかを考察する。ふつう記憶は、思い出、経験、意味、感情、自己との関係の中で語られる。ある出来事を覚えているというとき、そこには場所、人、気分、言葉、意味が結びついている。しかし、そのような日常的記憶をそのまま扱うと、何が記憶を支えているのかを正確に測ることは難しい。エビングハウスが行った転換は、記憶をできるだけ単純な条件のもとに置き、何を覚え、どれだけ時間が経つとどれだけ失われ、再び覚えるときにどれだけ早くなるのかを測ろうとした点にある。ここで重要なのは、記憶を実験するためには、まず記憶の豊かさの一部をあえて切り落とさなければならないということである。意味や感情を含む記憶を直接扱うのではなく、刺激、反復、時間、再学習という測定可能な要素に分解する。本細目では、記憶を実験するということが、記憶を単純化することであり、同時に記憶を科学的に扱うための新しい方法を開くことであったことを理解することを目標とする。
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復習・予習課題 予習においては、各回のコマシラバスを通読し、当該回の主題、細目、キーワードを確認しておく。授業前の段階では、細部の完全な理解よりも、その回で何について、どのような用語で語られ、何が論点となるのかを把握しておくことが重要である。復習においては、授業後に教材の該当箇所を読み返し、授業で扱った時代、概念、人物、議論の要点を整理するとともに、関心を持った原典については周辺箇所も参照して理解を深めることが望ましい。加えて、小テストで誤答した問題を確認し、理解が不十分であった箇所を補い直すことが必要である。さらに、Google NotebookLM などを活用して教材解説を聴取したり、ChatGPT などを用いて小テストの類題を作成し反復練習したりすることで、知識の定着を図ることができる。
11 無意味綴りと自己実験(エビングハウス2) 科目の中での位置付け 本科目は、心理学概論において「心とは何か」という問いが古代から近代にかけてどのように立てられ、変化してきたのかをたどり、その問いが「心は数値化できるか」という問いへと展開し、心理学という学問が成立していく過程を学ぶ構成をとる。本コマは、第10回において導入したエビングハウスの記憶研究をさらに具体化し、記憶を実験的に測定するためにどのような方法的工夫が必要だったのかを学ぶ回に位置づけられる。前回は、心理学には古い過去と短い科学的歴史があり、記憶という古くからの問題がエビングハウスによって実験対象へ変えられていくことを確認した。本コマでは、その転換を可能にした具体的手続きとして、無意味綴り、自己実験、系列学習、反復、時間間隔の統制を扱う。記憶は、意味、関心、感情、既有知識に強く左右される。そのため、日常的な単語や文章を用いるだけでは、記憶そのものの時間変化を測ることが難しい。エビングハウスは、意味をできるだけ切り離した刺激を作り、自分自身を被験者として、一定条件のもとで記銘と再学習を繰り返した。これにより、記憶は個人的な思い出ではなく、統制された材料、手続き、時間、反復の中で測定される対象となった。本コマは、記憶研究において「何を測るか」だけでなく、「測るために何を排除し、何を一定に保つか」を理解する回として位置づけられる。
コマ主題細目 ① 記憶を測るために何を捨てるのか ② 無意味綴り――意味を切り離す刺激 ③ 自己実験と反復――記憶を測る手続き
細目レベル ① 本細目では、記憶を測定するために、エビングハウスが何を問題とし、何をあえて取り除こうとしたのかを考察する。日常の記憶は、意味、感情、関心、経験、既有知識と深く結びついている。たとえば、自分に関係のある言葉、好きな人の名前、強い感情を伴う出来事は覚えやすい。一方で、関心のない情報や意味の分からない内容は覚えにくい。このような違いは、日常生活では自然なことである。しかし、記憶の基本的な時間変化を測ろうとするときには、こうした意味や関心の違いが大きな妨げになる。ここで重要なのは、記憶を科学的に測るためには、記憶の豊かな文脈をいったん捨てる必要があったという点である。エビングハウスは、記憶を貧しくしたのではなく、測定可能にするために条件を絞ったのである。本細目では、記憶の実験的研究が、日常的記憶の豊かさを否定するものではなく、まず測定可能な最小単位を作るための方法的操作であったことを理解することを目標とする。
② 本細目では、エビングハウスが用いた無意味綴りの意義を考察する。無意味綴りとは、既存の単語のような意味を持たない音節であり、一般に子音・母音・子音のような形で作られる。たとえば、意味のある単語を材料にすると、その単語への親しみ、連想、知識、感情によって覚えやすさが変わってしまう。それに対して無意味綴りは、できるだけ意味を持たない材料として作られ、記憶の実験における条件をそろえるために用いられた。ここで重要なのは、無意味綴りが「つまらない材料」だったから使われたのではなく、意味の影響をできるだけ少なくし、反復や時間の効果を見えやすくするために使われたという点である。もちろん、完全に意味や連想を排除することは難しい。しかし、無意味綴りを用いることで、日常語よりもはるかに統制された記憶材料を作ることができた。本細目では、無意味綴りを、記憶を数値化するための人工的な刺激として理解し、心理学実験における材料統制の重要性を把握することを目標とする。
③ 本細目では、エビングハウスの自己実験と反復手続きの意味を考察する。エビングハウスは、多くの場合、自分自身を被験者として、無意味綴りの系列を覚え、一定時間後に再び学習し、そのときに必要な時間や反復回数を測定した。ここで重要なのは、彼が単に自分の記憶を主観的に報告したのではなく、同じような材料、同じような手続き、一定の時間間隔を用いて、記憶の変化をできるだけ客観的に測ろうとしたことである。自己実験には限界もある。一人の被験者だけでは個人差を扱えず、結果をそのまま一般化することはできない。しかし、当時の心理学において、記憶を実験的に測定する方法を切り開いた意義は大きい。反復して覚え、時間を置き、再び覚え直すという手続きによって、記憶は目に見えない内面ではなく、学習時間、反復回数、再学習の短縮として表されるようになった。本細目では、エビングハウスの自己実験を、近代心理学における記憶測定の出発点として理解することを目標とする。
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小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 予習においては、各回のコマシラバスを通読し、当該回の主題、細目、キーワードを確認しておく。授業前の段階では、細部の完全な理解よりも、その回で何について、どのような用語で語られ、何が論点となるのかを把握しておくことが重要である。復習においては、授業後に教材の該当箇所を読み返し、授業で扱った時代、概念、人物、議論の要点を整理するとともに、関心を持った原典については周辺箇所も参照して理解を深めることが望ましい。加えて、小テストで誤答した問題を確認し、理解が不十分であった箇所を補い直すことが必要である。さらに、Google NotebookLM などを活用して教材解説を聴取したり、ChatGPT などを用いて小テストの類題を作成し反復練習したりすることで、知識の定着を図ることができる。
12 忘却曲線――記憶は時間の中でどう変わるのか(エビングハウス3) 科目の中での位置付け 本科目は、心理学概論において「心とは何か」という問いが古代から近代にかけてどのように立てられ、変化してきたのかをたどり、その問いが「心は数値化できるか」という問いへと展開し、心理学という学問が成立していく過程を学ぶ構成をとる。本コマはその後半の中で、第11回において確認した無意味綴りと自己実験の方法を受けて、エビングハウスの中心的成果である忘却曲線を学ぶ回に位置づけられる。前回は、記憶を測るためには、意味や感情や既有知識の影響をできるだけ抑え、材料、反復、時間間隔を統制する必要があることを学んだ。本コマでは、そのように統制された条件のもとで、記憶が時間とともにどのように失われていくのかを考察する。忘却は、単に「覚えていたものが消える」というだけの現象ではない。エビングハウスは、学習直後には急速に忘却が進み、その後はゆるやかに低下していくという特徴的な時間変化を示した。さらに、思い出せなくても、再学習が早くなるならば、記憶は何らかの形で残っていると考えられる。この点で、記憶は「ある/ない」の二分法ではなく、保持量や節約率として数量的に扱われる対象となった。本コマは、記憶が時間、保持、忘却、再学習量として測定されるようになったことを理解し、心的過程の数値化が感覚から記憶へ広がったことを確認する回として位置づけられる。
コマ主題細目 ① 保持と忘却をどう測るのか ② 節約法――思い出せなくても残っている記憶 ③ 忘却曲線――時間と記憶量の関係
細目レベル ① 本細目では、記憶の保持と忘却をどのように測ることができるのかを考察する。日常的には、私たちは記憶を「覚えている」か「忘れた」かで考えがちである。しかし、実際には記憶はそれほど単純ではない。ある内容を完全に思い出せる場合もあれば、少し手がかりがあれば思い出せる場合もあり、思い出せないが見れば分かる場合もある。エビングハウスの重要な点は、記憶をこのような曖昧な印象としてではなく、時間の経過に伴ってどの程度保持されるのかという量の問題として扱ったことである。ここで重要なのは、忘却を単なる失敗としてではなく、時間とともに変化する測定可能な過程として捉えた点である。学習からどれだけ時間が経ったかによって、保持の程度は変わる。したがって、記憶研究では、刺激を覚えたかどうかだけでなく、時間間隔を統制し、その後の再学習や再生の成績を比較する必要がある。本細目では、保持と忘却を時間に沿って測定する視点を理解することを目標とする。
② 本細目では、エビングハウスの節約法を通して、記憶が「思い出せるかどうか」だけでは測れないことを考察する。ある系列を学習したあと、時間が経つと、それを完全には再生できなくなることがある。しかし、同じ系列をもう一度覚え直すと、最初に覚えたときよりも少ない反復や短い時間で覚えられる場合がある。このとき、たとえ内容をはっきり思い出せなくても、以前の学習の効果は残っていたと考えられる。これが節約法の基本的な発想である。ここで重要なのは、記憶が意識に明確に再生されるものだけではないという点である。思い出せないからといって、記憶が完全に消えたとは限らない。再学習が早くなるという形で、過去の学習は行動に影響を残している。本細目では、節約法を通して、記憶を再生の有無ではなく、再学習に必要な労力の減少として数量化する考え方を理解することを目標とする。
③ 本細目では、エビングハウスの忘却曲線が何を示しているのかを考察する。忘却曲線が重要なのは、記憶が時間とともにただ一定の速さで直線的に消えていくのではないことを示した点である。学習直後には忘却が急速に進むが、その後は低下の速度がゆるやかになる。つまり、記憶は最初に大きく失われ、その後に残ったものは比較的ゆっくりと失われる。この形を曲線として示したことによって、忘却は単なる日常的印象ではなく、測定され、図に描かれ、比較される現象となった。ここで重要なのは、忘却曲線が、記憶を時間の関数として扱う見方を開いたことである。記憶は静止した貯蔵物ではなく、時間の中で変化する過程である。さらに、この曲線は、学習直後の復習がなぜ重要なのか、反復や時間間隔が記憶にどう影響するのかを考える基礎にもなる。本細目では、忘却曲線を、記憶を数量的・時間的に理解するための中心的成果として把握することを目標とする。
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コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 予習においては、各回のコマシラバスを通読し、当該回の主題、細目、キーワードを確認しておく。授業前の段階では、細部の完全な理解よりも、その回で何について、どのような用語で語られ、何が論点となるのかを把握しておくことが重要である。復習においては、授業後に教材の該当箇所を読み返し、授業で扱った時代、概念、人物、議論の要点を整理するとともに、関心を持った原典については周辺箇所も参照して理解を深めることが望ましい。加えて、小テストで誤答した問題を確認し、理解が不十分であった箇所を補い直すことが必要である。さらに、Google NotebookLM などを活用して教材解説を聴取したり、ChatGPT などを用いて小テストの類題を作成し反復練習したりすることで、知識の定着を図ることができる。
13 記憶研究の成立と限界(エビングハウス4) 科目の中での位置付け 本科目は、心理学概論において「心とは何か」という問いが古代から近代にかけてどのように立てられ、変化してきたのかをたどり、その問いが「心は数値化できるか」という問いへと展開し、心理学という学問が成立していく過程を学ぶ構成をとる。本コマはその後半の中で、第25回から第27回までに扱ったエビングハウスの記憶研究を総括し、その意義と限界を考察する回に位置づけられる。前回までに、無意味綴り、自己実験、再学習、節約法、忘却曲線を通して、記憶が時間、反復、保持量、再学習量として測定される対象になったことを学んだ。本コマでは、それを受けて、エビングハウスの研究が心理学史において何を可能にしたのかを整理する。記憶は、アウグスティヌスにおいては自己の内面を探る広大な場として語られていた。しかしエビングハウスにおいては、その記憶が実験材料と手続きの中で切り出され、数値化される。ここで重要なのは、数値化によって記憶研究が大きく前進した一方で、意味、文脈、感情、自己との関係といった日常的記憶の豊かさは、いったん研究の外に置かれたという点である。したがって、エビングハウスの意義は、記憶のすべてを解明したことではなく、記憶を実験心理学の対象として成立させたことにある。本コマは、記憶を数値化することの成果と、そのために残された課題を理解する回として位置づけられる。
コマ主題細目 ① 反復・過剰学習・分散――学習量を操作する ② 記憶を数値化したことの意義 ③ 無意味綴りの限界とその後の記憶研究
細目レベル ① 本細目では、エビングハウスの記憶研究において、学習量を操作することがどのような意味をもったのかを考察する。記憶は、一度見たり聞いたりしただけで同じように残るわけではない。反復すれば覚えやすくなり、いったん覚えたあとにさらに学習を続ければ、保持は強くなる。また、同じ回数の学習であっても、一度にまとめて学習するのか、時間を空けて分散して学習するのかによって、記憶の残り方は変わる。ここで重要なのは、記憶が単なる才能や気分ではなく、学習条件によって変化する過程として扱われるようになったことである。反復回数、学習時間、間隔、再学習に必要な時間を操作し測定することで、記憶は実験的に分析できる対象になる。本細目では、エビングハウスの研究を、忘却だけでなく、学習量や反復の効果を数量的に捉える研究として理解し、記憶が条件操作によって変化する心的過程であることを把握することを目標とする。
② 本細目では、エビングハウスが記憶を数値化したことの学問的意義を考察する。記憶は、もともと非常に内面的で、個人的で、意味に満ちた経験である。だからこそ、長いあいだ哲学や文学や日常経験の中で語られてきた。しかし、エビングハウスは、記憶をただ語るのではなく、実験材料を作り、覚える時間を測り、時間間隔を設定し、再学習に必要な労力を比較することで、記憶を数値として扱う道を開いた。ここで重要なのは、数値化とは、記憶を完全に見えるものにすることではないという点である。記憶そのものは依然として直接には見えない。しかし、学習回数、保持時間、再学習時間、節約率といった指標を通して、記憶の変化を間接的に捉えることができるようになった。本細目では、エビングハウスの意義を、記憶の内容を豊かに記述したことではなく、記憶を測定、比較、反復、法則化の対象にしたことに見いだし、心理学の科学化における位置づけを理解することを目標とする。
③ 本細目では、エビングハウスの記憶研究の限界を考察する。無意味綴りを用いることによって、意味や既有知識の影響を抑え、記憶の基本的な時間変化を測ることが可能になった。しかし、そのことは同時に、日常の記憶がもつ豊かさをいったん切り落とすことでもあった。私たちが実際に覚えているのは、無意味な音節だけではない。人の名前、授業の内容、失敗した経験、楽しかった出来事、場所の印象、自分にとって大切な言葉などである。そこには意味、感情、文脈、自己との関係が深く関わっている。ここで重要なのは、エビングハウスの方法が間違っていたのではなく、その方法によって見える記憶と、見えにくくなる記憶があるという点である。本細目では、エビングハウスの記憶研究を、記憶を科学にした画期的成果として理解するとともに、意味ある記憶、日常記憶、自伝的記憶、社会的記憶へと研究を広げていく必要を残したものとして理解することを目標とする。
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小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 予習においては、各回のコマシラバスを通読し、当該回の主題、細目、キーワードを確認しておく。授業前の段階では、細部の完全な理解よりも、その回で何について、どのような用語で語られ、何が論点となるのかを把握しておくことが重要である。復習においては、授業後に教材の該当箇所を読み返し、授業で扱った時代、概念、人物、議論の要点を整理するとともに、関心を持った原典については周辺箇所も参照して理解を深めることが望ましい。加えて、小テストで誤答した問題を確認し、理解が不十分であった箇所を補い直すことが必要である。さらに、Google NotebookLM などを活用して教材解説を聴取したり、ChatGPT などを用いて小テストの類題を作成し反復練習したりすることで、知識の定着を図ることができる。
14 カントからエビングハウスまで―心が数値化される流れ 科目の中での位置付け 本科目は、心理学概論において「心とは何か」という問いが古代から近代にかけてどのように立てられ、変化してきたのかをたどり、その問いが「心は数値化できるか」という問いへと展開し、心理学という学問が成立していく過程を学ぶ構成をとる。本コマは、第1回から第13回までの流れを、心がどのように数値化されていったのかという観点から整理する回として位置づけられる。第1回から第3回では、カントを通して、私たちが世界をそのまま受け取るのではなく、空間と時間という形式のもとで経験していることを学んだ。第4回・第5回では、『フランケンシュタイン』を通して、生命、身体、心が近代科学の中でどのように揺らぎ始めたのかを見た。第6回から第9回では、ヴントを中心に、生理学、感覚研究、精神物理学、実験心理学、民族心理学の流れをたどり、心が実験室と制度の中で研究される対象になると同時に、文化や共同生活の中にも広がることを確認した。第10回から第13回では、エビングハウスを通して、記憶が無意味綴り、反復、時間、節約率、忘却曲線として数値化される過程を学んだ。本コマでは、これらを単に人物ごとに復習するのではなく、経験条件、身体、感覚、実験、記憶という流れの中で、心がどのように測定可能な対象へ変化していったのかを整理する。本コマの主題である「心は数値化できるか」を総括する回として位置づけられる。
コマ主題細目 ① 経験の条件から測定可能な現象へ――カントからヴントへ ② 感覚から記憶へ――測定対象の拡大 ③ 本細目では、心の数値化が、感覚の測定から記憶の測定へ広がっていく過程を整理する。ヴェーバーは、どれだけ違えば違いとして感じられるのかという感覚差に注目し、主観的な感覚にも規則性があることを示した。フェヒナーは、その感覚差を手がかりに、物理的刺激と心的感覚との対応関係を数式で表そうとした。ここでは、心は直接には測れないが、刺激との関係を通して数量的に接近できるものとして現れた。エビングハウスは、この数値化の方向を記憶へ広げた。記憶もまた直接には見えない。しかし、無意味綴りを覚える時間、反復回数、再学習に必要な労力、節約率、忘却曲線を通して、記憶の変化を数量的に捉えることができる。ここで重要なのは、数値化の対象が、感覚の強さや差異から、時間の中で変化する記憶へ拡張されたことである。本細目では、十九世紀心理学において、心的現象の測定対象が感覚から記憶へ広がっていったことを理解することを目標とする。
細目レベル ① 本細目では、カントからヴントまでの流れを、心が経験の条件から測定可能な現象へ移っていく過程として整理する。カントにおいて、心は外界をそのまま写す鏡ではなく、空間と時間という形式のもとで世界を経験する条件として捉えられた。これは、私たちが経験している世界が、単に外から与えられるものではなく、受け取る側の条件によって成り立っていることを示していた。その後、『フランケンシュタイン』では、生命や身体を自然法則のもとで操作しようとする近代的視線が問題化された。さらにヴントへ至ると、心は経験の条件として考えられるだけではなく、感覚、知覚、注意、反応時間として実験的に研究される対象になっていく。ここで重要なのは、カントとヴントが断絶しているのではなく、経験がどのように成り立つのかという問いが、やがて経験をどのように測定するのかという問いへ展開している点である。本細目では、心が経験を可能にする条件として問われた段階から、実験室で分析される心的過程へ移行していく流れを理解することを目標とする。
② 本細目では、心の数値化が、感覚の測定から記憶の測定へ広がっていく過程を整理する。ヴェーバーは、どれだけ違えば違いとして感じられるのかという感覚差に注目し、主観的な感覚にも規則性があることを示した。フェヒナーは、その感覚差を手がかりに、物理的刺激と心的感覚との対応関係を数式で表そうとした。ここでは、心は直接には測れないが、刺激との関係を通して数量的に接近できるものとして現れた。エビングハウスは、この数値化の方向を記憶へ広げた。記憶もまた直接には見えない。しかし、無意味綴りを覚える時間、反復回数、再学習に必要な労力、節約率、忘却曲線を通して、記憶の変化を数量的に捉えることができる。ここで重要なのは、数値化の対象が、感覚の強さや差異から、時間の中で変化する記憶へ拡張されたことである。本細目では、十九世紀心理学において、心的現象の測定対象が感覚から記憶へ広がっていったことを理解することを目標とする。
③ 本細目では、心を数値化することの意義と限界を総括する。数値化によって、心的現象は比較し、反復し、記録し、他者と共有し、法則を探ることができる対象になった。感覚差を測ることで、主観的経験にも規則性があることが分かる。反応時間を測ることで、刺激の受容から判断や運動までに時間的過程があることが分かる。忘却曲線を描くことで、記憶が時間とともにどのように変化するのかを示すことができる。ここで重要なのは、数値化が心を消すのではなく、心に科学的に近づく方法を与えたという点である。しかし同時に、数値化には限界もある。意味、感情、文化、言語、共同生活、自分にとって大切な記憶のようなものは、単純な数値だけでは十分に捉えられない。ヴントが民族心理学を必要としたことも、エビングハウスの無意味綴りに限界があったことも、この問題を示している。本細目では、数値化を心理学成立の大きな成果として理解するとともに、心の研究には数値化だけでは尽くせない領域が残ることを理解することを目標とする。
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コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 予習においては、各回のコマシラバスを通読し、当該回の主題、細目、キーワードを確認しておく。授業前の段階では、細部の完全な理解よりも、その回で何について、どのような用語で語られ、何が論点となるのかを把握しておくことが重要である。復習においては、授業後に教材の該当箇所を読み返し、授業で扱った時代、概念、人物、議論の要点を整理するとともに、関心を持った原典については周辺箇所も参照して理解を深めることが望ましい。加えて、小テストで誤答した問題を確認し、理解が不十分であった箇所を補い直すことが必要である。さらに、Google NotebookLM などを活用して教材解説を聴取したり、ChatGPT などを用いて小テストの類題を作成し反復練習したりすることで、知識の定着を図ることができる。
15 心とは何か、心は測れるのか 科目の中での位置付け 本科目は、心理学概論において「心とは何か」という問いが古代から近代にかけてどのように立てられ、変化してきたのかをたどり、その問いが「心は数値化できるか」という問いへと展開し、心理学という学問が成立していく過程を学ぶ構成をとる。本コマは、心は数値化できるかの最終回として、心理学概論も含めて、第1回から第29回までの内容を総括し、二つの大きな問いを結び直す回に位置づけられる。心理学概論の15回までは、数値化以前の心理学として、心が生命の原理、記憶と内面、思い悩み揺れる主体、心身関係の問題として問われてきたことを学んだ。その後の、「心は数値化できるか」では、心が経験の条件として捉え直され、生命と身体の近代的問題を経て、実験、測定、記録、反復、数値化の対象へと変化していく過程をたどった。本コマでは、これらを単なる人物名や概念の暗記として復習するのではなく、数値化以前の豊かな心の理解と、数値化へ向かう科学的心理学の歩みとを結びつけて整理する。これにより、受講者は、心理学が最初から完成していた学問ではなく、生命、内面、物語、葛藤、心身関係、経験、身体、測定、記憶という長い問いの積み重ねの中で成立した学問であることを理解する。本コマは、心理学誕生までの歴史全体を見渡し、後期以降に学ぶ近代以降の心理学へ接続するための最終的な節目として位置づけられる。
コマ主題細目 ① 数値化以前の心理学――心はどのように考えられてきたのか ② 数値化への歩み――心はどのように測定可能な対象になったのか ③ 心理学はどのように成立したのか
細目レベル ① 本細目では、数値化以前の心理学として整理する。ここで重要なのは、心がまだ実験や測定の対象として確立される以前にも、心についての深い理解がすでに存在していたという点である。アリストテレスにおいて、心は生きている身体を成り立たせる原理であり、栄養、感覚、思考といった能力の秩序をもつものとして考えられた。ここには、心が単なる気まぐれではなく、一定の構造と法則を有するという見方がある。アウグスティヌスにおいては、心は記憶の広がりをもち、自分の過去や忘却や幸福を求める運動の中で現れるものとして捉えられた。ここでは、心は一般法則だけでは尽くせない、個別の物語性をもつものとして理解される。さらにシェイクスピアの『ハムレット』では、心は思い悩み、揺れ、考えすぎることで行為できなくなる主体として描かれた。そしてデカルトは、心と身体を区別することによって、心の確実性を取り出すと同時に、身体を自然法則のもとで研究する道を照らした。本細目では、数値化以前の心理学を、未熟な前段階としてではなく、心の法則性、物語性、揺れ、心身関係をめぐる豊かな問いの蓄積として理解することを目標とする。
② 本細目では、心が数値化され、研究対象となるまでの歩みを整理する。カントにおいて、心は世界をそのまま写す鏡ではなく、空間と時間という形式のもとで経験を成り立たせる条件として捉えられた。この段階では、心はまだ直接に測定される対象ではないが、経験がどのような条件のもとで成立するのかという問いが明確になる。『フランケンシュタイン』では、生命と身体を自然法則のもとで操作しようとする近代科学の希望と不安が描かれ、心と身体の関係が改めて問題となった。ヴントにおいては、感覚、知覚、注意、反応時間が実験室で研究される対象となり、心理学は器具、手続き、訓練、記録、研究所をもつ学問として制度化された。さらにエビングハウスにおいては、記憶が無意味綴り、反復、再学習、節約率、忘却曲線として測定され、数値化される対象となった。ここで重要なのは、心が完全に見えるものになったのではなく、条件を整え、比較し、反復し、数量的指標を作ることによって、科学的に接近可能な対象になったという点である。本細目では、心が経験条件から実験対象へ、さらに記憶の数値化へと進んでいく流れを理解することを目標とする。
③ 本細目では、心理学という学問がどのように成立したのかを総括する。心理学は、最初から現在のような形で存在していた学問ではない。古代には心は生命の原理として問われ、中世には内面と記憶として深められ、近代には思い悩む主体や考える私として描かれ、さらに十九世紀には身体、感覚、神経、実験、測定、記憶の問題として再編成された。ここで重要なのは、心理学の成立が、数値化以前の心の理解を捨てることによって実現したのではないという点である。心には法則があり、物語があり、揺れがあり、身体との関係がある。その豊かな問いを引き受けたまま、心理学は実験と数値化の方法を獲得していったのである。したがって、心理学を学ぶとは、用語を覚えることだけではなく、心についての古い問いがどのように新しい方法を得て、科学的心理学へと組み直されていったのかを理解することである。本細目では、本科目全体を通して、心理学が「心とは何か」と「心は測れるのか」という二つの問いの交差点に成立した学問であることを理解することを目標とする。
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コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 予習においては、各回のコマシラバスを通読し、当該回の主題、細目、キーワードを確認しておく。授業前の段階では、細部の完全な理解よりも、その回で何について、どのような用語で語られ、何が論点となるのかを把握しておくことが重要である。復習においては、授業後に教材の該当箇所を読み返し、授業で扱った時代、概念、人物、議論の要点を整理するとともに、関心を持った原典については周辺箇所も参照して理解を深めることが望ましい。加えて、小テストで誤答した問題を確認し、理解が不十分であった箇所を補い直すことが必要である。さらに、Google NotebookLM などを活用して教材解説を聴取したり、ChatGPT などを用いて小テストの類題を作成し反復練習したりすることで、知識の定着を図ることができる。
履修判定指標
履修指標履修指標の水準キーワード配点関連回
1. カントにおける経験条件としての心を正しく識別できる 受講者は、カントにおいて心が世界をそのまま写すものではなく、経験を成り立たせる条件として捉えられたことを正しく識別できなければならない。具体的には、認識は経験から始まるが、認識のすべてが経験から生じるわけではないという考えを理解し、感性、空間、時間、現象、物自体といった概念を正しく対応づける必要がある。
また、空間が外的対象を経験するための形式であり、時間が内的経験および経験一般の形式であることを把握している必要がある。さらに、私たちが知るのは物自体そのものではなく、空間と時間の形式のもとで現れた現象であることを説明できなければならない。ここでいう主観性は、各人がばらばらの世界を作るという意味ではなく、人間どうしが同じ世界について語り合うための共通条件でもある。カントの議論を、後の実験・測定・数値化へ向かう前に、心が経験条件として位置づけ直された重要な段階として理解できることを到達水準とする。
カント、感性、空間、時間、現象、物自体、経験条件、主観性、共有される世界 20点 1-3回
2. メアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」における生命・身体・心の問題を正しく識別できる 受講者は、メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』において、生命、身体、心がどのような問題として描かれているのかを正しく識別できなければならない。具体的には、生命を作ることと、作られた生命を引き受けることとの違いを理解し、ヴィクターが創造に成功した瞬間に、達成感ではなく嫌悪と恐怖を抱いて逃げ出すことの意味を説明できる必要がある。
また、怪物が最初から悪であったのではなく、感覚し、学習し、人間を観察し、ことばを覚え、他者との関係を求める存在として描かれていることを理解する必要がある。そのうえで、怪物が拒絶と承認の欠如を経験する中で、自分自身を怪物として見るようになり、復讐へ向かう過程を説明できなければならない。『フランケンシュタイン』を単なる怪奇小説ではなく、身体機械論、心身関係、生命創造、人間の条件を問い直す文学作品として理解できることを到達水準とする。
メアリー・シェリー、フランケンシュタイン、生命創造、身体、怪物、感覚、学習、承認、拒絶、身体機械論、心身関係 20点 4-5回
3. ヴントにおける実験心理学の成立の経緯 受講者は、ヴントを通して、心理学がどのように独自の学問として成立したかを理解しななければならない。具体的には、ヴントが最初から心理学者として出発したのではなく、医学と生理学の訓練の中から心の問題へ向かったことを理解し、十九世紀生理学、ヘルムホルツ、ヴェーバー、フェヒナーらの研究が、実験心理学成立の前提となったことを把握している必要がある。また、心理学という名は古くから存在したが、ヴントによって実験室、器具、測定、訓練、記録、研究発表を備えた実験心理学として新しい形を得たことを説明できなければならない。 ヴント、生理学、ヘルムホルツ、ヴェーバー、フェヒナー、実験心理学、心理学研究所、直接経験、心的過程、反応時間 15点 6-7回
4. ヴントにおける心理学構想の広さについて ヴントの心理学が、まずは心を魂の実体としてではなく、直接経験の中で生じる感覚、知覚、注意、反応、意志などの心的過程として扱ったことを理解する必要がある。そのうえで、ヴントが心を実験室内の単純な過程だけに閉じ込めず、動物心理学や民族心理学を通して、動物行動、言語、神話、習俗、芸術、宗教的表象といった共同生活に現れる心にも関心を向けたことを理解していることを到達水準とする。 動物心理学、民族心理学、言語、神話、文化 15点 8-9回
5. エビングハウスにおける記憶の実験化・数値化を正しく対応づけられる 受講者は、エビングハウスの記憶研究が、心理学史においてどのような意味をもつのかを正しく対応づけられなければならない。具体的には、「心理学は過去は長いが、歴史は短い」という言葉の意味を理解し、心や記憶についての問いは古代から存在したが、実験・測定・数値化を備えた心理学の歴史は新しいことを説明できる必要がある。
また、エビングハウスが、記憶を測るために無意味綴りを用い、意味や既有知識の影響をできるだけ抑えたこと、自己実験によって反復、時間間隔、再学習を統制したことを理解している必要がある。さらに、節約法によって「思い出せなくても残っている記憶」を数量化したこと、忘却曲線によって記憶が時間の中で変化する過程であることを示したことを説明できなければならない。
そのうえで、エビングハウスの研究が記憶を科学的心理学の対象にした一方で、意味、感情、物語、文化、自伝的記憶といった日常的記憶の豊かさをなお課題として残したことを理解する必要がある。カントにおける経験条件、ヴントにおける実験心理学、エビングハウスにおける記憶の数値化を、数値化への歩みとして整理できることを到達水準とする。
エビングハウス、心理学は過去は長いが歴史は短い、記憶について、無意味綴り、自己実験、反復、再学習、節約法、忘却曲線、保持、忘却、記憶の数値化、数値化への歩み 30点 10-13回
評価方法 期末試験(100%)によって評価する。
評価基準 評語
    学習目標をほぼ完全に達成している・・・・・・・・・・・・・ S (100~90点)
    学習目標を相応に達成している・・・・・・・・・・・・・・・ A (89~80点)
    学習目標を相応に達成しているが不十分な点がある・・・・・・ B (79~70点)
    学習目標の最低限は満たしている・・・・・・・・・・・・・・ C (69~60点)
    学習目標の最低限を満たしていない・・・・・・・・・・・・・ D (60点未満)
教科書 使用しない
参考文献
実験・実習・教材費