区分 基盤教養科目
ディプロマ・ポリシーとの関係
SDGs力 科学コミュニケーション力 研究力
カリキュラム・ポリシーとの関係
教養 応用力 実践力
科目間連携 総合心理力
カリキュラム全体の中でのこの科目の位置づけ
この科目は「基盤教養科目」に位置づけられる選択科目である。

科目の目的
本授業は、心理学で学ぶ専門知識を、心理学の内部だけに閉じず、実社会の課題を理解し、分析し、対応するための普遍的な見方・方法として実践的に活用できるようにすることを目的とする。傾聴、錯覚、視線、選択盲、測定、標準偏差、相関、統制、個人差、社会的促進、長期記憶、論駁、強化スケジュールを題材に、各テーマを「考え方」「活かし方」「伝え方」の三方向から学ぶ。心理学の知識を正確に理解した上で、自分が進む業界や職種の課題に結びつけ、専門外の人にも意味や根拠を失わずに、自分のことばで具体的に説明できる力を養う。
到達目標
心理学の主要な概念や研究方法について、その定義、理論的背景、代表的な研究を正確に説明できることを第一の到達目標とする。さらに、臨床・実験・データという三つの観点から、人の経験、行動、個人差、環境、数値の関係を捉え、具体的な仕事上の課題に適切な心理学的視点を選んで適用できることを目指す。加えて、自分が進みたい業界や職種を想定し、専門用語を単純化しすぎることなく、心理学を学んでいない相手にも、その考え方、根拠、活かし方を具体例とともに、自分のことばで筋道立てて説明できることを到達目標とする。
科目の概要
本授業では、心理学で学ぶ知識を実社会へどのように持ち出し、仕事の中でどう活用し、専門外の人へどう伝えるかを学ぶ。前半では、傾聴、錯覚、視線、選択盲を通して人の心を理解する方法を考え、測定、標準偏差、相関を通して心や行動を数値として扱う方法を学ぶ。第8回では、これらを臨床・実験・データの三つの観点から整理する。後半では、統制、特性と個人差、社会的促進、長期記憶、論駁、VRスケジュールを扱い、人の行動を発達、状況、考え方、環境との関係から捉える。最終回では後半を同じ三つの観点から整理する。各回では、学問的背景と専門用語を正確に学び、人事、教育、金融、営業、製造、IT、行政など多様な仕事への活かし方と、専門外の人への伝え方を考える。心理学を単なる知識ではなく、現実の問題を考えるための方法として身につける。
科目のキーワード
心理学実験、心理統計、調査法、カウンセリング、臨床
授業の展開方法
各回では、事前・授業内で教材を読み、専門用語や研究の内容を正確に理解した上で、ペアで互いに説明し、相手に伝わる言葉へ言い換える練習を行う。さらに、自分の経験や関心のある業界・職種と結びつけて各回のテーマを具体化する。授業後には、その内容を心理学を専門としない人にも説明できる文章にまとめて提出し、次回の学習へつなげる。読む・説明する・書く・振り返るという課題を毎回反復し、知識の理解と活用、表現までを継続的に求める。
オフィス・アワー
前期:火曜1~5限
後期:火曜1~5限

科目コード RB4060
学年・期 2年・後期
科目名 心理学とキャリア
単位数 2
授業形態 講義
必修・選択 選択
学習時間 【授業】90分×15 【予習】90分以上×15 【復習】90分以上×15
前提とする科目
展開科目
関連資格
担当教員名 高野裕治
回主題コマシラバス項目内容教材・教具
1 傾聴:話を聞くだけではない 科目の中での位置付け 本科目は、心理学で学ぶ専門知識を、心理学の内部だけに閉じず、実社会の課題を考えるための見方・方法として活用し、専門外の人にも正確に伝えられるようにすることを目的とする。第1回から第7回では、人の心や行動を理解し、観察し、測定し、データとして扱うための基本的な考え方を学び、第8回で臨床・実験・データの三つの観点から整理する。第9回から第14回では、それらを仕事や生活の具体的な場面へ展開し、第15回で再び三つの観点から総括する。第1回は全15回の出発点として傾聴を扱う。ロジャーズの考え方を通して、心理学の知識は相手を分類したり答えを与えたりするためだけのものではなく、相手の経験を理解し、本人がよりよい意思決定を行えるよう支える方法にもなることを学ぶ。さらに、教育・福祉・医療だけでなく、人事、営業、金融などにも傾聴をどう活かし、その意味を専門外の人へどう説明するかを考える。この回で、各回を「考え方・活かし方・伝え方」の三方向から学ぶ本科目全体の進め方も示す。
オリジナルの教材
コマ主題細目 ① 考え方:なぜ「聴くこと」が援助になるのか ② 活かし方:答えを出す前に、相手の考えを引き出す ③ 伝え方:「よく聞くこと」と「傾聴」を区別して説明する
細目レベル ① カール・ロジャーズは、援助者が相手を診断し、解釈し、正しい方向を指示するのではなく、本人が自分の経験を理解し、自分で方向を選んでいく力を重視した。そのために重要なのが、「共感的理解」「無条件の肯定的関心」「自己一致」である。共感的理解とは、相手が経験している世界を相手の立場から理解しようとすること、無条件の肯定的関心とは、評価や条件をつけずに相手を一人の人間として尊重すること、自己一致とは、援助者自身が自分の感じていることを認識し、役割を演じるのではなく誠実に相手と関わることである。こうした態度があることで、相手は安心して自分の経験を言葉にし、考えを整理しやすくなる。傾聴とは、単に話を聞く技法ではなく、相手自身が考えを深め、自ら選択できるように関わる方法である。
② 傾聴はカウンセリングだけで用いられるものではない。企業の1対1面談、人事面接、管理職による部下との面談、営業や顧客調査、医療・福祉、教育など、相手の考えや希望を理解する必要がある場面で活用できる。仕事では、相談を受けるとすぐに助言や解決策を示したくなるが、本人が持っている情報や考えを十分に引き出さないままでは、適切な判断にならないこともある。相手の話を整理し、問い返し、理解した内容を確かめることで、本人も自分が何を望み、何を問題と感じているのかを整理できる。そのうえで選択肢を比較すれば、聞き手が一方的に答えを与えるよりも、納得した意思決定につながりやすい。傾聴は「優しく話をきく方法」ではなく、相手が持つ情報と考えを引き出し、人と一緒によりよい判断をつくるための実践的な方法である。
③ 心理学を専門に学んでいない人に傾聴を説明するときは、「相手の話を最後まで聞くこと」とだけ説明しないことが重要である。傾聴では、話を遮らないことに加えて、相手が何を経験し、どう感じ、何を考えているのかを理解しようとする。そのために、言葉を言い換えて確かめたり、感情を反映したり、必要に応じて質問したりする。大切なのは、聞き手が正解を示すことではなく、対話を通して相手が自分の考えを整理できるようにすることである。そして最終的には、相手がどうしたいのかを自分で決められるようになってもらう。その決定が、あなたと話したからこそ、一人で考えた場合よりも多くのことに気づき、その人自身にとって納得できるものになったと思ってもらえることが、傾聴を実践する一つの目標である。


キーワード ① カール・ロジャーズ ② カウンセリング心理学 ③ 傾聴 ④ 共感 ⑤ 意思決定
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:本日扱った傾聴について、ロジャーズの「共感的理解」「無条件の肯定的関心」「自己一致」の三原則を復習し、傾聴が単に相手の話を最後まで聞くことではなく、相手自身が考えを整理し意思決定できるよう支える方法であることを、自分のことばで説明できるようにする。その際、自分が進みたい業界を一つ想定し、面談、接客、営業、教育、金融などのどの場面で傾聴が役立つか具体例を考える。社会の中で「傾聴ができる」とは具体的にどのような態度や応答を指すのか、活かし方まで説明できるようにしておく。
予習:次回の錯覚に備え、知覚心理学における錯覚、錯視、錯聴、恒常性という用語を確認する。また、同じ物理的刺激でも周囲の条件によって見え方や聞こえ方が変わる例を一つ探し、なぜそのような違いが生じるのかを自分なりに考えておく。

2 錯覚:世界は感じたままではない 科目の中での位置付け 本科目は、心理学で学ぶ専門知識を、実社会の課題を考えるための見方・方法として活用し、専門外の人にも正確に伝える力を養うことを目的とする。第1回から第7回では、心や行動をどのように理解し、観察し、測定し、データとして扱うかを学び、第8回で臨床・実験・データの観点から整理する。第9回から第14回では、人や環境を考える具体的な心理学的視点へ展開し、第15回で総括する。第2回は、第1回で扱った「相手の経験を理解する」という問題を、知覚の側から考え直す位置にある。錯覚を通して、私たちが経験する世界は外界をそのまま写したものではなく、脳が情報を補い、比較し、解釈した結果であることを学ぶ。その上で、広告、商品デザイン、Web、映像、建築、交通安全、バリアフリーなど、人が実際に「どう見えるか」を考える仕事へつなげる。心理学を面白い錯視の知識にとどめず、知覚の仕組みを理解して設計へ活かす視点を身につける回である。第3回の視線研究への前提ともなる。
オリジナル教材
コマ主題細目 ① 考え方:知覚は世界をそのまま写しているわけではない ② 活かし方:人が「どう見るか」まで考えて設計する ③ 伝え方:「目はだまされる」だけで説明しない
細目レベル ① 私たちは、目や耳などの感覚器に入った情報をそのまま経験しているわけではない。脳は限られた感覚情報を、周囲の状況や過去の経験などを手がかりに整理し、外の世界を知覚している。そのため、物理的には同じ大きさや明るさであっても、背景や配置、周囲との関係によって異なって見えることがある。これが錯覚である。錯覚は、知覚が失敗した特殊な現象というより、脳が普段から情報を補い、比較し、解釈しながら世界を理解していることを明らかにする現象である。たとえば、網膜に映る像の大きさだけでは物体の実際の大きさは決まらず、距離などの情報も利用して判断している。心理学では、このように物理的な刺激と、人が実際に経験した知覚とを区別し、その間にどのような情報処理があるのかを丁寧に考える。
② 錯覚や知覚の研究は、広告や商品デザイン、Web・アプリの画面設計、映像体験の臨場感、建築、交通安全など、人が「どう見るか」を考える仕事に活用されている。文字や商品の大きさ、色、明るさ、背景、配置、周囲との対比によって、同じ情報でも目立ち方や読み取りやすさは変化する。道路標識や駅の案内表示では、短時間でも必要な情報を見つけ、正確に認識できることが重要になる。また、バリアフリーやユニバーサルデザインでは、視力や色覚、加齢などによって見え方が異なることを前提に、色だけに頼らない表示や、十分な明暗差、文字の大きさなどを工夫する必要がある。物理的に同じ情報を置けばよいのではなく、実際に利用する人にどう見え、どう理解されるのかまで確かめながら設計することが重要である。
③ 錯覚を説明するとき、「人間の目は簡単にだまされる」とだけ伝えると、知覚の仕組みを単なる欠点として捉えてしまう。実際には、外界から得られる感覚情報は常に不完全であり、脳は周囲の状況や過去の経験を利用して不足する情報を補うことで、変化する環境の中でも物体や空間を素早く安定して認識している。暗い場所でも同じ物体だと分かったり、見る角度が変わっても同じ形だと判断できたりするのも、この働きがあるからである。つまり、錯覚を生み出す仕組みは、日常生活ではむしろ適応的に働いている。程度の差こそあれ、私たちが経験する世界は、外界を五感がそのまま写し取ったものではない。錯覚とは、知覚と外界との間に普段から生じうるずれが、特定の条件によって大きく現れた現象として説明することが大切である。
キーワード ① 感覚 ② 知覚 ③ 錯覚 ④ 錯聴 ⑤ デザイン
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:本日扱った錯覚について、私たちの知覚は外界をそのまま写し取るのではなく、感覚情報を脳が補い、比較し、解釈することで成立することを復習する。錯覚を「目や耳がだまされる現象」とだけ説明せず、普段は環境を素早く安定して認識するために役立つ仕組みが、特定の条件で大きなずれとして現れる現象であることを説明できるようにする。広告、Web、建築、交通安全、バリアフリーなどから一つ選び、知覚研究がどのように活かせるか具体例を考える。
予習:次回の視線研究に備え、視線計測、注視、選好、アイ・トラッキングという用語を確認する。人は「好きだから見る」のか、それとも「見ることが好きになる過程に影響する」のかについて、自分なりの予想を立てておく。

3 視線:こころを読むとはいかなることか 科目の中での位置付け 本科目は、心理学の専門知識を、実社会で人の心や行動を理解するための方法として使い、その意味を専門外の人に説明できるようにすることを目指す。第1回から第7回では、心を理解し、観察し、測定し、データとして扱う方法を段階的に学び、第8回で臨床・実験・データの三つの観点から整理する。第9回以降は、これらの考え方を仕事や生活の具体的な課題へ広げる。第3回は、第2回で学んだ「知覚された世界は外界そのものではない」という理解を踏まえ、直接見ることのできない心を、観察可能な行動からどのように捉えるかを考える回である。Shimojo et al. (2003)のgaze cascade effectを中心に、「好き」という感情が意識的な選択の前から視線との相互作用の中で形成される可能性を学ぶ。さらに、視線計測が広告、商品配置、Web、ネット通販、サービス設計などでどのように用いられるかを考え、「心を読む」とは何を実証的に確かめることなのかを理解する。
オリジナルの教材
コマ主題細目 ① 考え方:「好き」はいつ決まるのか ② 活かし方:消費者が「何を見るか」から商品やサービスを考える ③ 伝え方:「視線を測れば本心がわかる」と説明しない
細目レベル ① 私たちは、まず心の中で「こちらが好きだ」と決め、その結果として好きなものを長く見ると考えがちである。Shimojo et al., (2003)では、二つの顔から魅力的な方を選ぶ課題で、最初はほぼ均等だった視線が、選択が近づくにつれて最終的に選ばれる顔へ徐々に偏っていくgaze cascade effect (視線カスケード効果)を示した。さらに、一方を長く見るように提示時間を操作すると、その対象が選ばれやすくなった。重要なのは、「好き」という感情が最初から完成していて視線に表れるだけではなく、本人が意識的に選択を確定する前から、見ることと選好とが互いに影響しながら形成されていく可能性を示した点である。「好き」という判断は、最後の選択の瞬間に突然生まれるのではない。視線は、すでに決まった心を読む手がかりだけでなく、心が決まっていく過程そのものに関わる行動なのである。
② 視線計測は、広告、商品パッケージ、店舗の商品配置、Webサイト、ネット通販サイト、アプリなど、消費者が多数の情報の中から何を見て、何を選ぶのかを考える場面で活用できる。アンケートでは「何が気になったか」を本人に尋ねるが、視線を測れば、どこを最初に見たか、どの順序で見たか、どこに長くとどまったかを行動として記録できる。さらにゲーズ・カスケード効果が重要なのは、注視が単に興味や好みの結果ではなく、選好の形成にも関わりうることを示した点である。商品をどこに置くか、広告のどこへ注意を導くか、画面上で何を目立たせるかは、情報を見つけやすくするだけでなく、その後の選択にも関係する可能性がある。人の限られた注意をどのように得るかは、現代のマーケティングや情報設計における重要な課題である。
③ 視線研究を心理学を専門としない人に説明するとき、「目を見れば、その人の本心が分かる」と単純化しないことが重要である。心理学が直接測っているのは、「好き」「欲しい」「興味がある」といった心そのものではなく、どこを、いつ、どのくらい見たかという観察可能な行動である。研究では、その行動と選択や評価との関係を、多くの人のデータや実験条件を用いて確かめることで、見えない心の過程を推測する。さらにゲーズ・カスケード効果が示すように、視線はすでにある選好を映すだけでなく、その選好が形成される過程にも関わりうる。したがって「心を読む」とは、相手の内面を言い当てることではない。観察できる行動から心について仮説を立て、その関係を実証的に確かめていくことだと説明することが大切である。
キーワード ① 視線 ② 無意識 ③ バイアス ④ マーケティング ⑤ 実験心理
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:本日扱った視線研究について、Shimojo et al. (2003)のgaze cascade effectを復習し、好きだから見るだけではなく、見ること自体が選好の形成に関わりうるという研究の意味を説明できるようにする。また、視線計測で直接測っているのは「好み」や「本心」そのものではなく、どこを、いつ、どのくらい見たかという観察可能な行動であることを確認する。自分が関心を持つ商品、広告、Webサービスなどを一つ選び、視線を測ることで何を知ることができるか考える。
予習:次回の選択盲に備え、choice blindness(選択盲)、自己報告、内省、意思決定という用語を確認する。「自分が選んだ理由は、自分なら正確に説明できるのか」という問いについて、自分の考えを整理しておく。

4 選択盲:選んだ理由はあとからつくられるのか 科目の中での位置付け 本科目は、心理学で得た専門知識を、実社会の課題に応用し、専門外の人にも正確に説明できる形へ変換することを目的とする。第1回から第7回では、人の心や行動を理解するために、経験、行動、測定、データをどのように扱うかを学び、第8回で臨床・実験・データの三方向から整理する。第9回から第14回では、その考え方を個人差、社会的状況、記憶、心の健康、行動と環境の問題へ展開する。第4回は、第3回の視線研究に続き、本人が自分の心を説明すれば、その過程をそのまま知ることができるのかを問い直す位置にある。Johansson et al. (2005)のchoice blindness(選択盲)を通して、「自分で選んだ」という事実を受け入れると、その選択に整合する理由をあとから構成できることを学ぶ。本人の言葉を軽視するのではなく、自己報告だけでは捉えきれない心を、巧みな実験手続きによって検証する心理学の方法論を理解し、第5回の測定の問題へつなげる。
オリジナルの資料
コマ主題細目 ① 考え方:「自分で選んだ」という事実から理由が生まれる ② 活かし方:「なぜ選んだのか」という答えだけに頼らない ③ 伝え方:「人は自分のことを分かっていない」で終わらせない
細目レベル ① 私たちは、自分が何を選び、なぜそれを選んだのかを自分自身がよく知っていると考えがちである。Johansson et al. (2005)では、二つの顔から魅力的な方を選ばせた後、手品のような仕掛けによって、実際には選ばなかった顔を「あなたが選んだ顔」として提示した。参加者の多くは入れ替えに気づかず、その顔を自分が選んだものとして受け入れ、なぜ選んだのかについて理由まで説明した。Johanssonらはこの現象をchoice blindness(選択盲)と呼んだ。重要なのは、人が最初から明確な理由を持ち、その理由に基づいて選択しているとは限らない点である。「自分でこれを選んだ」という事実を自分のものとして受け入れると、その選択に整合する理由をあとからつくることができる。私たちの自己理解は、過去の心をそのまま読み出したものとは限らない。
② choice blindness(選択盲)は、消費者調査、人事面接、顧客アンケート、商品開発など、「なぜそれを選んだのですか」と理由を尋ねる仕事を考え直す手がかりになる。たとえば、ある商品を買った理由を尋ねれば、本人は価格、デザイン、機能などを挙げて説明できる。しかし、その説明が実際に購入を決めた原因をそのまま再現しているとは限らない。だからといって本人の説明が無意味なのではない。本人がどのように自分の選択を理解し、意味づけているかを示す重要な情報である。実務では、自己報告だけに頼らず、実際の選択行動、視線、提示順序、価格や配置を変えたときの変化なども組み合わせて考える必要がある。心理学では、語られた理由と実際の行動の両方をデータとして扱い、そのずれも含めて人の意思決定を理解する。
③ choice blindness(選択盲)を「人は自分のことを分かっていない」とだけ説明すると、この研究の大切な点を見失う。Johansson et al. (2005)の巧みさは、本人に「本当の理由」を尋ね続けるのではなく、選択した結果を密かに入れ替えるという実験手続きをつくったことにある。もし人が選択理由を正確に知っているなら、選んでいないものを提示された時点で矛盾に気づくはずである。しかし、気づかない場合には、その結果を自分の選択として受け入れ、理由まで説明できた。心理学は、本人の言葉を疑って捨てる学問ではない。言葉が何を表しているのかを確かめるために、条件を操作し、行動と比較しながら検証する学問である。選択盲は、人の心について新しい発見をしただけでなく、その発見を可能にした心理学の方法の工夫そのものが重要な研究である。
キーワード ① 選択盲 ② 好選 ③ バイアス ④ 意思決定 ⑤ 無意識
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:本日扱ったchoice blindness(選択盲)について、Johansson et al. (2005)の実験手続きを復習し、実際には選んでいない対象を自分が選んだものとして受け入れたとき、その選択に整合する理由を説明できることの意味を整理する。「人は自分のことを分かっていない」と単純化せず、本人の説明だけでは意思決定の過程を十分に捉えられないため、心理学が実験手続きを工夫して確かめることを説明できるようにする。
予習:次回の測定に備え、操作的定義、質問紙、反応時間、行動指標、妥当性という用語を確認する。「やる気」「満足」「好み」のうち一つを選び、それを測る方法を二つ以上考え、それぞれが何を捉え、何を捉えにくいかを考えておく。

5 測定:見えない心を数値化する 科目の中での位置付け 本科目は、心理学の専門知識を、実社会で人を理解し判断するための方法として活用し、その考え方を専門外の人へ正確に伝えることを目的とする。第1回から第4回では、傾聴、錯覚、視線、選択盲を通して、本人の経験や言葉を大切にしながらも、心は直接には見えず、行動や実験から確かめる必要があることを学んできた。第5回から第7回では、この問題を測定とデータの扱いへ進め、第8回で前半を総括する。第5回は、その転換点として「見えない心を数値化する」とは何をすることなのかを扱う。不安、記憶、好み、やる気などの心理的概念を、質問紙得点、反応時間、視線、行動など観察可能な指標へ置き換える操作的定義を学ぶ。同時に、数値が得られればよいのではなく、その指標が本当に測りたいものを捉えているのかという妥当性を考える。人事評価、教育、マーケティング、医療、KPIなど、社会で使われる「数字」をよりよく設計し読むための基礎となる回である。第6回・第7回のデータ理解の前提にもなる。
オリジナルの資料
コマ主題細目 ① 考え方:見えない心をどうやって測るのか ② 活かし方:数字を出す前に、何を測りたいのかを考える ③ 伝え方:「数字になったから客観的」と説明しない
細目レベル ① 心理学が扱う「不安」「記憶」「好み」「やる気」などは、そのまま目で見たり、物差しで測ったりすることができない。そこで心理学では、質問への回答、反応時間、正答率、視線、行動回数など、観察できるものに置き換えて心を測ろうとする。このように、抽象的な概念を具体的な測定手続きとして定めることを操作的定義という。しかし、数値が得られれば測定が成功したことにはならない。たとえば「やる気」を発言回数で測ったとしても、発言が多い人ほど本当にやる気が高いとは限らない。そこで、その指標が本当に測りたいものを捉えているかという妥当性を考える必要がある。尺度得点や行動指標は、測りたい心を表すための代理なのである。心理学の測定とは、心を直接数字に変えることではなく、見えない心と観察可能な指標との対応関係を慎重につくり、確かめていくことである。
② 心理学的な測定の考え方は、人事、教育、マーケティング、商品開発、医療・福祉など、目に見えないものを判断する仕事で役立つ。たとえば企業が「社員の満足度」を調べるとき、単に「満足していますか」と一問だけ尋ねるのか、仕事の内容、人間関係、待遇、成長実感など複数の側面から測るのかで、得られる結果は変わる。また、広告の効果をクリック数だけで判断してよいのか、研修の成果を受講直後のテストだけで測ってよいのかも同じ問題である。重要なのは、数字を出すことではなく、その数字が何を表し、何を表していないのかを考えることである。仕事でKPIやアンケート結果を見るときにも、「測れているから正しい」と考えず、目的と指標の対応を問い直し、必要なら測り方そのものを変えることが、心理学で学ぶ測定の姿勢である。
③ 心理学を専門に学んでいない人に測定を説明するとき、「心を数値化すれば客観的に分かる」と言い切らないことが大切である。心理学で得られる得点や反応時間は、心そのものではなく、心について考えるために選んだ指標である。たとえば不安尺度の得点が高いからといって、その人の不安のすべてを一つの数字が表しているわけではない。だから心理学では、どのように測ったのか、その方法で本当に目的のものを測れているのかという妥当性を繰り返し検討する。数字にすることの利点は、人と人、条件と条件、時間の変化を比較できることにある。しかし、数値化した瞬間に対象の意味を忘れてはいけない。「何点だったか」と同時に「その点数は何を意味するのか」を考えることまで含めて、心理学における測定である。数値を信じる前に、その数字がどのようにつくられたのかを見る姿勢が必要になる。
キーワード ① 実験法 ② 反応 ③ 刺激 ④ 尺度 ⑤ 数値化
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:本日扱った測定について、心理学では見えない心をそのまま測るのではなく、質問への回答、反応時間、視線、行動など観察可能な指標に置き換えて測定することを復習する。特に操作的定義と妥当性の関係を整理し、「数値が得られたこと」と「本当に測りたいものを適切に測れたこと」は同じではないと説明できるようにする。自分が関心を持つ業界で使われる満足度、評価、KPIなどを一つ取り上げ、その数字が何を表し、何を表していないのか考える。
予習:次回の標準偏差に備え、平均、偏差、分散、標準偏差という用語を確認する。平均が同じでもデータの散らばり方が異なる二つの集団を、自分で簡単な数値例として作り、平均だけでは何が分からないのかを考えておく。

6 標準偏差:平均だけでは人は見えない 科目の中での位置付け 本科目は、心理学の専門知識を、実社会の問題を考えるための見方・方法として活用し、それを専門外の人にも説明できる力へつなげることを目的とする。第1回から第4回では心を理解する方法を、第5回から第7回では心や行動を測定しデータとして読む方法を扱い、第8回で臨床・実験・データの観点から整理する。第6回は、第5回で学んだ「測る」という行為から一歩進み、得られた数値の集団的な特徴をどう読むかを学ぶ位置にある。平均だけでは集団の姿は分からないため、ひとつひとつのデータが平均からどの程度離れているのかを表す標準偏差を、その式の意味まで含めて理解する。また、天文学で同じ星を繰り返し観測しても値が一致しないという問題から、ばらつきを数量化する必要が生じ、やがて人間や生物の個人差を表す指標へ発展した歴史も扱う。平均とばらつきを組み合わせて人を見ることを学び、第7回の相関へつなげる。数値を計算するだけでなく、式が何を表しているのかを言葉で説明できることを目指す。
オリジナルの資料
コマ主題細目 ① 考え方:平均からどのくらい離れているのかを見る ② 活かし方:平均の後ろに隠れた違いを見る ③ 伝え方:なぜ標準偏差が必要になったのか
細目レベル ① 標準偏差とは、ひとつひとつのデータが平均点からどのくらい離れているのかの平均を表す指標である。平均はデータの中心を示すが、平均だけでは、その周りに値が集まっているのか、広く散らばっているのかは分からない。そこで、一人ひとりの値が平均からどれだけ離れているかを考える。実際の計算では、平均との差を二乗し、その平均を求めたものを分散とし、さらに平方根をとって元の得点と同じ単位に戻したものを標準偏差とする。二乗を用いるのは、平均という中心と組み合わせてばらつきを扱うためであり、平均から遠く離れた値ほど強く反映される。標準偏差が小さければ値は平均の近くに集まり、大きければ広く散らばる。平均と標準偏差は、「中心」と「その周りの広がり」を一組で表す指標なのである。同じ平均値でも、標準偏差が違えば集団の姿は異なる。
② 標準偏差の考え方は、人事、教育、マーケティング、品質管理など、集団のデータを扱う仕事で役立つ。たとえば二つの研修で平均点が同じでも、一方は全員が似た成果を出し、もう一方は大きく伸びた人とほとんど変わらない人に分かれているかもしれない。顧客満足度でも、平均が高いからといって全員が満足しているとは限らず、一部に強い不満を持つ人がいる可能性がある。平均だけを見ると、こうした違いは見えにくい。標準偏差や分布を確認すれば、「平均的にはどうか」だけでなく、「人によってどのくらい違うのか」まで考えられる。施策の効果が全員に同じように現れたのか、一部の人だけに強く現れたのかを考える手がかりにもなる。仕事で平均値を見るとき、その周りにどのような人がいるのかまで想像することが、標準偏差を活かす第一歩である。
③ 標準偏差を専門外の人に伝えるときは、公式から始めるだけでなく、「なぜこの数字が必要になったのか」を説明すると意味が分かりやすい。天文学では、同じ星の位置を何度観測しても、毎回まったく同じ値にはならなかった。観測する時刻、器械の精度、大気の状態、観測者の違いなどによって、測定値には必ずばらつきが生じる。そこで、複数の観測値からもっとも確からしい位置を求めるだけでなく、その観測がどの程度安定していたのか、つまり値が中心の周りにどのくらい散らばっていたのかも数量化する必要が生まれた。19世紀にはGaussらによって、観測値と推定値のずれを二乗して扱う最小二乗法や誤差論が発展した。その後、Galtonらが人間や動植物の身長や形態など、多数の個体を測るようになると、ばらつきは単なる「測定の誤差」ではなく、個体どうしが本当に異なるという「個人差・個体差」そのものを表す重要な情報になった。Pearsonは1893年にstandard deviation(標準偏差)という名称を導入した。心理学でも、人の得点が平均からどのくらい散らばるかは、誤差として消すべきものではなく、人の違いを理解するための研究対象になる。標準偏差は、同じものを測っても値が揺れるという問題から生まれ、やがて「人はどのくらい違うのか」を表すための基本的な道具になったのである。
キーワード ① 標準偏差 ② 平均値 ③ 代表値 ④ 分布 ⑤ 中央値
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:本日扱った標準偏差について、平均がデータの中心を示し、標準偏差がその中心からの広がりを示すという関係を復習する。ひとつひとつのデータが平均からどのくらい離れているのかを全体として表す指標であることを理解し、平均との差を二乗し、その平均を分散とし、平方根をとることで標準偏差になるという式の流れを説明できるようにする。また、天文学の観測誤差からばらつきを数量化する必要が生まれ、のちに個人差を表す指標へ発展した歴史的背景も確認する。
予習:次回の相関に備え、散布図、正の相関、負の相関、無相関、Pearsonの相関係数rを確認する。相関が強い散布図と弱い散布図がどのような形になるかを予想し、二つの変数の「ばらつきが一緒に動く」とは何を意味するのか考えておく。

7 相関:「関係がある」を慎重に考える 科目の中での位置付け 本科目は、心理学の専門知識を、実社会で人やデータを理解するための方法として使い、その根拠を専門外の人にも説明できるようにすることを目的とする。第1回から第4回では心を理解する方法を、第5回から第7回では測定されたデータをどのように読むかを学び、第8回で臨床・実験・データの三つの観点から前半を整理する。第7回は、第5回の測定、第6回の標準偏差を受け、二つの変数のばらつきがどの程度一緒に動くのかを相関として捉える、前半のデータ学習の到達点に位置する。心理学論文に示された多様な散布図と相関係数を数多く見比べることで、同じような相関係数でも点の分布、外れ値、データ数によって意味が異なることを学ぶ。相関を「相関がある・ない」という一言で処理せず、「関係がある」と言うために心理学がどれほど慎重にデータを検討するのかを理解する。人事、教育、マーケティング、医療などで関係性を読むための基礎となる回である。この回までの理解を、第8回の前半総括で統合する。
オリジナルの資料
コマ主題細目 ① 考え方:二つのばらつきが一緒にどう動くかを見る ② 活かし方:一つの数字だけで関係を決めない ③ 伝え方:「関係がある」という言葉の裏を見る
細目レベル ① 相関とは、二つの変数がどの程度一緒に変化するかを表す考え方である。たとえば、勉強時間が長い人ほど試験得点も高いのか、身長が高い人ほど体重も重いのか、といった関係を調べる。まず重要なのは散布図で、一人ひとりの二つの値を点として描くと、右上がりなら正の相関、右下がりなら負の相関、一定の傾向がなければ相関は弱い。Pearsonの積率相関係数rは、この関係を-1から+1までの一つの数で表す。前回学んだ標準偏差が、一つの変数について平均からどのくらい離れているかを表すのに対し、相関は、二つの変数について、それぞれが平均からどちらの方向へどのくらい離れるかが一緒に動く程度を表している。したがって、相関係数を理解するには、まず散布図の点の広がりを見て、二つのばらつきがどのように重なっているのかを考えることが大切である。
② 相関は、人事、教育、マーケティング、医療、商品開発など、二つの事柄の関係を知りたい場面で幅広く使われる。たとえば、広告への接触回数と購買額、研修時間と業績、睡眠時間と仕事の能率などを調べれば、どの程度一緒に変化しているかを数量化できる。しかし、実務で大切なのは相関係数だけを見ることではない。同じrでも散布図の形は異なることがあり、少数の外れ値が一つ加わるだけで係数が大きく変わることもある。また、人数が少ない標本では、たまたま強い相関や弱い相関が得られることもある。そこで、相関係数とともに散布図、データ数、外れ値の有無を確認する。仕事で「二つには関係がありそうだ」と判断するとき、一つの数字で即断せず、どのようなデータからその関係が見えているのかまで確認することが、相関を活かす基本になる。
③ 相関を専門外の人に伝えるときは、「r=.50だから関係がある」と一つの数字だけを示して終わらせないことが重要である。相関係数は、複雑な散布図を一つの値に要約した便利な指標だが、要約することで失われる情報もある。たとえば、一点の外れ値を含む場合と含まない場合、人数が少ない場合と多い場合では、同じような相関係数でも受け取る意味が異なることがある。心理学科では、実際の研究論文に掲載された多様な散布図や相関係数を繰り返し見ることで、「関係がある」という言葉の背後に、どのような点の集まり方やデータ数があるのかを具体的に学ぶことができる。心理学が相関を使う意味は、関係を簡単に決めつけることではなく、さまざまな実例を通して、関係の強さや安定性を慎重に読み取り、説明できるようになることにある。
キーワード ① 相関 ② 散布図 ③ ピアソン ④ 正の相関 ⑤ 負の相関
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:本日扱った相関について、Pearsonの相関係数rが二つの変数の関係を-1から+1までの一つの数で表す指標であることを復習し、必ず散布図とあわせて読む理由を説明できるようにする。特に、外れ値の有無、データ数、点の集まり方によって、同じ程度の相関係数でも受け取る意味が変わることを確認する。「関係がある」という言葉を一つの数字だけで即断せず、どのようなデータからその関係が見えているのかまで確認する姿勢を整理する。
予習:次回は第1回から第7回のまとめを行うため、傾聴、錯覚、視線、選択盲、測定、標準偏差、相関の要点を確認する。それぞれを「臨床」「実験」「データ」のどの観点から説明できるか整理し、自分が進みたい業界で活かせそうな内容を一つ以上選んでおく。

8 心理学の見方を社会で使う 科目の中での位置付け 本科目は、心理学の専門知識を、実社会の課題を考えるための方法として活用し、専門外の人にもその意味と使い方を正確に伝えられるようにすることを目的とする。第1回から第7回では、傾聴、錯覚、視線、選択盲、測定、標準偏差、相関を扱い、人の心や行動を理解し、確かめ、データとして読むための基礎を学んできた。第8回は、この前半七回の内容を個別の知識として復習するだけでなく、「臨床」「実験」「データ」という心理学の三つの観点から再配置し、それぞれが社会のどのような仕事へつながるのかを整理する中間のまとめ回である。臨床的な見方は教育・福祉・医療に加えて金融、人事、営業などの意思決定支援へ、実験的な見方は製造、IT、広告、行政などの設計と検証へ、データの見方は人事、金融、医療、企画などの判断へつながることを確認する。第9回以降に進む前に、心理学の専門知識が特定の心理職だけでなく、多様な仕事の中で使える方法として展開できることを整理する。
オリジナルの教材
コマ主題細目 ① 臨床:人を理解し、支えるということ ② 実験:見えない心をどうやって確かめるのか ③ データ:数字から人の違いや関係を読む
細目レベル ① 前半の臨床的な内容では、傾聴を中心に、人を理解し支えるときに何が必要かを振り返る。相手の話を聞くことは、ただ情報を集めることではなく、その人自身が経験や考えを整理し、自分で選択できるように関わることである。この考え方は、教育、福祉、医療のように対人援助を直接行う仕事ではもちろん重要であるが、それだけではない。たとえば金融では、資産運用や保険について専門家が一方的に答えを示すのではなく、顧客が何を大切にし、どの程度のリスクを受け入れ、どのような将来を望んでいるのかを聞き取る必要がある。人事、営業、コンサルティング、住宅や自動車の販売でも同様である。管理職が部下と面談し、本人の考えを引き出しながら仕事の方向を決める場面にも活かせる。臨床心理学で学ぶ傾聴は「悩んでいる人への対応」だけではなく、相手が持つ情報や価値観を引き出し、本人がより納得できる判断を行えるようにする技術として説明できる。心理学の知識を、対人援助職だけでなく、人の意思決定を支える幅広い仕事へ結びつけて考える。
② 前半の実験的な内容では、錯覚、視線、選択盲、測定を通して、直接見ることのできない心をどのように確かめるのかを振り返る。心理学では、本人に尋ねるだけでなく、何を見たか、どちらを選んだか、条件を変えると行動がどう変化するかを観察し、心の働きを検証する。この発想は、製造業で製品の使いやすさや安全性を評価するときには分かりやすく活用できるが、それだけではない。ITやWebサービスでは画面の配置や操作方法を比較し、小売や広告では商品配置や視線を調べ、金融では情報の提示方法によって投資判断やリスク理解がどう変わるかを検討できる。行政でも、案内文や申請画面を変えたときに利用者の行動がどう変化するかを確かめられる。心理学の実験とは、研究室だけで行う特殊な作業ではなく、「本当にこの方法が人にとって分かりやすいのか、使いやすいのか、選ばれやすいのか」を比較できる形にして試す方法である。実験的な考え方を、商品開発、サービス設計、制度設計へ広げて伝える。
③ 前半のデータに関する内容では、測定、標準偏差、相関をつなげて、心理学が人の違いや関係を数値からどのように捉えるのかを整理する。この考え方は、調査会社やマーケティング部門だけのものではない。人事では、平均的な社員像だけでなく、評価や適性のばらつきを見る必要がある。金融や保険では、平均的な収益だけでなく変動の大きさや複数の指標の関係を読むことが重要になる。医療では治療効果の平均だけでなく、どの患者に効果が大きいかを見る。小売やサービス業でも、顧客満足度の平均だけでは、一部の強い不満や顧客層による違いを見落とす可能性がある。心理学でデータを学ぶ強みは、数字を計算できることだけではなく、その数字が何を測り、どのくらいばらつき、ほかの変数とどのような関係にあるのかを読めることにある。データ分析を専門職だけの技能と考えず、人や顧客に関する判断を行うあらゆる仕事で、数字の意味を慎重に説明できる力として位置づける。
キーワード ① 傾聴 ② 錯覚 ③ 視線 ④ 選択盲 ⑤ 測定、標準偏差、相関
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:本日行った第1回から第7回のまとめについて、傾聴、錯覚、視線、選択盲、測定、標準偏差、相関を「臨床」「実験」「データ」の三つの観点からもう一度整理する。それぞれの内容を単独の知識として覚えるだけでなく、人の経験を聞くこと、観察可能な行動を測ること、条件を工夫して確かめること、数字からばらつきや関係を読むことがどのようにつながっているかを説明できるようにする。自分が進みたい業界を一つ選び、前半で学んだ知識を二つ以上組み合わせて、その業界の課題をどう考えられるか整理する。
予習:次回の統制に備え、独立変数、従属変数、統制、統制群、無作為割付という用語を確認する。新しい広告、研修、商品などの効果を調べるなら、何を同じにし、何を変える必要があるか、自分で一例を考えておく。

9 統制:ひとつずつ条件を変えて考える 科目の中での位置付け 本科目は、心理学で学ぶ専門知識を、実社会の課題を分析し、よりよい判断や行動につなげるための方法として活用することを目的とする。第1回から第7回では心や行動を理解しデータとして扱う基礎を学び、第8回で臨床・実験・データの三つの観点から整理した。第9回から第14回では、その基礎を用いて、人の個人差、社会的状況、記憶、考え方、行動を支える環境など、仕事や生活に現れる具体的な問題へ心理学を展開し、第15回で再び三つの観点から総括する。第9回は後半の出発点として、何か新しい方法に「効果がある」と判断するための統制を扱う。結果に意図せず影響しそうな条件をできるだけ同じにし、確かめたい条件だけを変えて比較するという実験の基本を学ぶ。商品開発、広告、教育、人事、医療、業務改善などで、何を変え、何を同じにしたのかを明確にし、試行錯誤を次の判断に使える知識へ変える方法として位置づける。前半で学んだ測定やデータの読み方を、効果検証のための実験設計へつなぐ役割も持つ。
オリジナルの資料
コマ主題細目 ① 考え方:何が結果を変えたのかを切り分ける ② 活かし方:一度に全部を変えない ③ 伝え方:何を同じにし、何を変えるのかを説明する
細目レベル ① 心理学では、ある出来事の原因を知りたいとき、関係しそうな条件をできるだけそろえ、注目する条件だけを変えて比較する。この考え方を統制という。たとえば、学習方法AとBの効果を比べるのに、Aは午前、Bは夜に実施したのでは、成績の違いが学習方法によるのか時間帯によるのか分からない。そこで、時間、課題、参加者の条件などをそろえたり、無作為に割り当てたりして、別の要因が結果に入り込む可能性を小さくする。また、何も行わない統制群や従来の方法を用いる比較群を置くこともある。このように、結果に影響しそうな別の要因を意識して取り除くことで、変えた条件と結果との関係をより明確にできる。統制とは、現実を単純化することではなく、複数の要因が同時に働く現実の中で、何が結果に影響したのかをできるだけ切り分けて考えるための方法である。
② 統制の考え方は、商品開発、広告、教育、人事、医療、業務改善など、何かを変えて効果を確かめたい場面で役立つ。たとえばWebサイトの新しい画面が使いやすいかを調べるとき、色、文章、配置、価格表示を一度に変えてしまうと、利用者の反応が変わっても何が効いたのか分からない。そこで、一つの要素だけを変えた案を比較するA/Bテストのような方法が使われる。研修でも、新しい教材、講師、時間、評価方法を同時に変えるより、何を変えたのかを明確にして結果を見る方が次の改善につながる。また、導入前後だけを比べるのではなく、同じ時期に従来の方法を続けた集団と比較すれば、季節や景気など別の影響も考えやすい。仕事では速く変えることが求められる場面も多いが、「何を変え、何を同じにしたか」を意識することが、試行錯誤を経験ではなく学習に変える。
③ 統制を心理学を専門に学んでいない人に説明するときは、「実験では条件を同じにする」とだけ言うのではなく、なぜ同じにする必要があるのかまで伝えることが重要である。ある新しい方法に効果があるかを確かめたいとき、その結果に意図せず影響を与えそうな条件まで一緒に変わってしまうと、何が効いたのか判断できない。そこで、たとえば広告の効果を調べるなら、価格、掲載時期、商品の条件などをできるだけ同じにし、確かめたい広告の違いだけを変えて比較する。統制とは、現実のすべてを同じにすることではなく、結果に影響しそうな別の要因を意識し、それらをできるだけそろえたうえで、いま試したいことだけを変える考え方である。仕事でも、新しい研修、商品、サービス、制度などが本当に効果的なのかを確かめるために実験を組むとき、この統制の考え方が役立つ。


キーワード ① 実験 ② 統制 ③ 要因 ④ 条件 ⑤ 無作為
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コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:本日扱った統制について、何かの効果を確かめるときには、結果に意図せず影響しそうな条件をできるだけそろえ、確かめたい条件だけを変えて比較することを復習する。独立変数、従属変数、統制群、無作為割付などの用語を、単なる定義としてではなく「何のために必要なのか」と結びつけて説明できるようにする。自分が関心を持つ商品、研修、広告、制度などを一つ選び、その効果を確かめる実験を組むなら、何を同じにし、何を変えるかを考える。
予習:次回の特性と個人差に備え、類型論、特性論、Big Five、発達段階、ASD、ADHDという用語を確認する。「人を一つの型で説明すること」の分かりやすさと限界をそれぞれ考え、同じ人でも年齢や環境によって行動の現れ方が変わる例を一つ考えておく。

10 特性と個人差:人を固定した見方でとらえない 科目の中での位置付け 本科目は、心理学の専門知識を、実社会で人や行動を理解するための見方として活用し、専門外の人にも固定観念に陥らず説明できるようにすることを目的とする。第1回から第8回で、心を理解し、実験し、測定し、データとして読む基礎を整理した。第9回から第14回では、その方法を個人差、社会的状況、記憶、心の健康、行動と環境の問題へ展開し、第15回で後半を総括する。第10回は、第9回の「条件を切り分ける」という視点を、人そのものの理解へ移す回である。性格について類型論と特性論を比較し、人を一つの型で決めるのではなく、複数の特性の程度と組み合わせとして捉える。また、子どもから高齢期までの発達段階、ASDやADHDを含む発達の違い、経験や環境による現れ方の変化も扱う。人事、教育、医療・福祉、営業、接客、管理職などで、「この人はこういう人」と固定せず、安定した面と変化する面の両方から役割や支援を考える基礎となる回である。次回の社会的促進への橋渡しにもなる。
オリジナルの資料
コマ主題細目 ① 考え方:人は一つの型では捉えられない ② 活かし方:人に合わせて役割や環境を考える ③ 伝え方:「この人はこういう人」と決めつけない
細目レベル ① 性格を理解するとき、人をいくつかの型に分ける類型論は分かりやすいが、一人の人を一つの型だけで捉えると、その人の多様な面を見落としやすい。これに対して特性論では、外向性や誠実性など複数の特性を、それぞれ程度の違いとして捉える。さらに、人の特徴は生涯を通じてまったく同じように現れるわけではない。子ども、青年、成人、高齢者では発達段階が異なり、同じ特性でも現れ方や求められる行動は変化する。また、ASDやADHDなどにみられる発達の仕方にも個人差がある。心理学では、性格や発達を「この人はこういう人」と固定して見るのではなく、複数の特性の組み合わせ、発達の経過、現在の環境をあわせて理解する。個人差とは、人を分類して終わるための考え方ではなく、一人ひとりがどのように異なり、どのように変化するのかを捉えるための考え方である。
② 特性と個人差の考え方は、人事、教育、医療・福祉、営業、接客、チームマネジメントなど、人を理解して役割や支援を考える仕事で役立つ。採用で「内向的だから営業には向かない」、教育で「この学生はやる気がない」と決めつけると、その人が別の状況で示す力や、環境を変えたときの変化を見落とす可能性がある。特性にはある程度の安定性があっても、それがどのような行動として現れるかは、仕事内容、周囲の人、経験、発達段階などによって変わる。発達特性についても、診断名だけから能力や将来を決めることはできない。実務では、人を一つのラベルで判断するのではなく、どの場面で何が得意で、何が難しく、どのような条件なら力を発揮できるのかを見る。個人差を理解することは、人を区別するためではなく、その人に合った役割、環境、関わり方を考えることにつながる。
③ 特性や個人差を専門外の人に伝えるときは、「性格は人それぞれです」と一般論だけで終わらせず、心理学が人の違いをどのように捉えてきたのかを説明する。類型論は人をいくつかの型に分けるため理解しやすいが、特性論では一人の人が複数の特性をそれぞれ異なる程度で持つと考える。さらに、同じ人でも年齢や発達段階、経験、環境によって行動の現れ方は変わる。したがって、「この人はこういう性格だから、いつもこう行動する」と説明するのではなく、「この人にはこうした特性があり、この状況ではこのように現れている」と表現する方が正確である。発達の違いについても、現在の特徴を将来まで固定されたものとして扱わないことが重要である。心理学で個人差を学ぶ意味は、人を型にはめるためではなく、人には安定した面と変化する面の両方があることを理解し、より柔軟に人を見ることにある。
キーワード ① 発達課題 ② 発達障がい ③ 性格特性 ④ ASD ⑤ ADHD
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
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小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:本日扱った特性と個人差について、類型論と特性論の違いを復習し、人を一つの型に当てはめるのではなく、複数の特性の程度と組み合わせとして捉える考え方を説明できるようにする。また、性格や行動にはある程度安定した面がある一方、発達段階、経験、環境によって現れ方が変わること、ASDやADHDなどの発達の違いも診断名だけで能力や将来を固定できないことを確認する。自分が進みたい業界で、人を固定的な見方で判断すると何を見落とす可能性があるか考える。
予習:次回の社会的促進に備え、社会的促進、社会的抑制、優勢反応、覚醒、観察効果という用語を確認する。人がいることで成績が上がる場合と下がる場合があるのはなぜか、課題への慣れという観点から予想を立てておく。

11 社会的促進:人がいるだけで行動は変わる 科目の中での位置付け 本科目は、心理学の専門知識を、実社会で人の行動を理解し、仕事の場をよりよく設計するための方法として活用することを目的とする。第1回から第8回では心を理解し、測り、データとして読む基礎を学び、第9回以降はその考え方を現実の行動場面へ展開している。第10回では個人差を固定的に捉えず、特性、発達、環境の関係から人を見ることを学んだ。第11回はその理解をさらに進め、同じ人でも「他者がそこにいる」という条件だけで行動が変わることを社会的促進から考える回である。Zajoncの動因説をもとに、他者の存在が優勢反応を強めるため、慣れた課題では成績が向上し、不慣れな課題では社会的抑制が起こりうることを学ぶ。共同作業だけでなく、観察されていること自体の効果も扱い、職場、教育、スポーツ、接客、研修などで、人を配置することが行動にどのような意味を持つのかを考える。第12回の記憶へ向け、人の行動は本人の能力だけでは説明できないという視点を深める。
オリジナルの資料
コマ主題細目 ① 考え方:人がいると、なぜ成績が上がったり下がったりするのか ② 活かし方:人前で力を出せる条件を考える ③ 「人がいると頑張れる」だけで説明しない
細目レベル ① 社会的促進とは、他者がいることで課題遂行が変化する現象である。Zajonc (1965)は、他者の存在によって覚醒水準が高まり、その場で最も出やすい「優勢反応」が強まると説明した。十分に練習した課題や単純な課題では、優勢反応が正答になりやすいため、他者がいると成績が向上する。これが社会的促進である。一方、まだ慣れていない課題や複雑な課題では、出やすい反応が誤りであることも多く、他者の存在によってかえって成績が低下する。これを社会的抑制という。重要なのは、「人がいると能力が上がる」のではなく、その人にとって課題がどの程度習熟しているかによって、他者の存在の効果が逆転することである。心理学では、人の能力を本人だけの属性として考えず、同じ人でも誰かがいるかどうかによって行動が変わることを実験的に捉える。
② 社会的促進と社会的抑制の考え方は、職場、教育、スポーツ、接客、研修など、人が他者の前で課題を行う場面に活かせる。たとえば、経験豊富な社員が慣れた作業を人前で行うときには、同僚や上司の存在が集中や遂行を高める可能性がある。一方、新人がまだ十分に習得していない仕事を監督者の前で行えば、普段ならできることまでうまくできなくなることがある。プレゼンテーション、実技試験、スポーツでも同様である。したがって、練習段階では失敗してもよい環境をつくり、十分に習熟してから人前で成果を求めるなど、課題の習熟度と他者の存在を組み合わせて考える必要がある。「見られている方が頑張れる人」「本番に弱い人」と性格だけで説明せず、その人がその課題にどの程度慣れているかを見ることが、実務で社会的促進を活かすポイントになる。
③ 社会的促進を説明するときは、「仲間と一緒にやるとやる気が出る」という話だけにしないことが重要である。他者の影響は、同じ課題を隣で行う人がいる共同作業だけでなく、自分の行動を見ている人がいる観察場面でも生じる。誰かがそこにいるというだけで、私たちの覚醒や行動は変化しうる。ただし、その変化が良い方向に出るとは限らない。慣れた行動なら促進され、不慣れな行動なら社会的抑制が起こる可能性がある。したがって、「人前なら集中できる」「見られると失敗する」という違いを、本人の性格だけで説明するのではなく、その人と課題との関係から考える必要がある。職場や教室で人を配置するときにも、単に人を増やせばよいのではなく、「その人がそこにいることで、誰のどの行動がどう変わるのか」を考えることが、社会心理学的な見方である。
キーワード ① 社会的促進 ② 社会的抑制 ③ ザイアンスの動因論 ④ 覚醒度 ⑤ 習熟度
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:本日扱った社会的促進について、Zajonc (1965)の動因説をもとに、他者の存在によって覚醒が高まり、優勢反応が強まることを復習する。慣れた課題や単純な課題では社会的促進が起こりやすい一方、不慣れな課題や複雑な課題では社会的抑制が起こりうることを、具体例を用いて説明できるようにする。共同で課題を行う場面だけでなく、誰かに見られているという観察場面でも他者の影響が生じることを確認し、職場や教育で「人がそこにいること」の意味を考える。
予習:次回の長期記憶に備え、感覚記憶、短期記憶、長期記憶、エピソード記憶、意味記憶、手続き記憶という用語を確認する。長く残る記憶が、必ずしも内容が変化しない記憶ではない理由を、自分なりに考えておく。

12 長期記憶:伝えたことは、どこまで残るのか 科目の中での位置付け 本科目は、心理学の専門知識を、実社会で人の学習や行動を理解し、情報の伝え方や環境を設計するために活用することを目的とする。第1回から第8回で心を理解し測定する基礎を整理し、第9回以降は統制、個人差、社会的状況など、現実の仕事や生活へつながる心理学的な見方を展開している。第12回は、人が経験した情報が時間を越えてどのように残るかを扱い、「伝えたこと」と「残ったこと」を区別する位置にある。記憶を保持期間から感覚記憶、短期記憶、長期記憶に分け、長期記憶についてはエピソード記憶、意味記憶、手続き記憶など内容による区分を学ぶ。また、長期記憶は実用上きわめて大きな容量を持つ一方、固定された記録ではなく、想起や新しい経験によって変容・更新される柔らかさを持つことを理解する。教育、研修、広告、営業、医療、組織内の情報共有など、人に何かを長く残したい仕事で、記憶の性質を前提に「伝え方」を設計する視点へつなげる。第13回の論駁にもつながる。
オリジナルの資料
コマ主題細目 ① 考え方:長期記憶は大きく、そして柔らかい ② 活かし方:「伝えた」と「残った」を区別する ③ 伝え方:「記憶は保存された記録」と説明しない
細目レベル ① 記憶は、情報をどのくらいの時間保持するかによって、感覚記憶、短期記憶、長期記憶に分けて考えられる。短期記憶は保持できる時間も容量も限られるが、長期記憶は非常に長い期間にわたり、実用上ほぼ無限と考えられるほど多くの情報を保持できる。さらに長期記憶は内容によって、出来事に関するエピソード記憶、知識に関する意味記憶、技能や習慣に関する手続き記憶などに分けられる。ただし、長期記憶は一度保存された内容がそのまま残る倉庫ではない。思い出すたびに現在の知識や経験の影響を受け、内容が組み替えられたり、意味づけが変わったりすることがある。この柔らかさがあるからこそ、新しい経験を過去の知識に結びつけ、理解を更新できる。長期記憶の特徴は、大容量で長く残ることと、変化し続けられることの両方にある。
② 長期記憶の特徴は、教育、研修、広告、営業、医療、組織内の情報共有など、人に何かを伝えて後まで残したい仕事で重要になる。説明した直後に理解できたからといって、その内容が長期記憶として残るとは限らない。反復して思い出すこと、既に持っている知識と関連づけること、自分の経験と結びつけることなどによって、記憶は残りやすくなる。一方で、時間がたつほど、後から得た情報や現在の理解によって記憶の内容が変わることもある。したがって、研修や授業では「伝えたか」ではなく「後から思い出せるか」を確認し、重要な情報は一度だけ伝えて終わらせず、後から取り出す機会を設ける必要がある。人に伝える仕事では、記憶は保存するだけでなく、思い出すことで育て直されるものだと考えることが役立つ。
③ 長期記憶を専門外の人に説明するときは、「人間の記憶容量は大きいから、覚えればずっと残る」と説明しないことが重要である。長期記憶は非常に多くの情報を保持できるが、その内容は録画した映像のように固定されているわけではない。私たちは過去の出来事を思い出すとき、保存された情報をそのまま再生するのではなく、現在の知識や状況を使いながら再構成している。そのため、忘れるだけでなく、思い出すたびに内容が少し変化することもある。この柔らかさは記憶の欠点だけではない。新しい経験を過去の知識と結びつけ、理解を更新できるという利点でもある。「記憶が残る」とは、同じ内容が永久に固定されることではなく、過去の経験を現在の自分が使える形で保持し、必要に応じて作り変えながら利用することだと説明する。
キーワード ① 記憶 ② 長期記憶 ③ 短期記憶 ④ ワーキングメモリー ⑤ 容量
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:本日扱った長期記憶について、記憶を保持期間から感覚記憶、短期記憶、長期記憶に分ける考え方と、長期記憶をエピソード記憶、意味記憶、手続き記憶など内容から分ける考え方を復習する。長期記憶は実用上きわめて大きな容量を持つ一方、一度保存された内容が固定されたまま残るのではなく、想起や新しい経験によって再構成・変容される柔らかさを持つことを説明できるようにする。教育、研修、広告、営業などから一つ選び、「伝えた」ことを「後で思い出せる」状態にする工夫を考える。
予習:次回の論駁に備え、Ellis、論理療法、ABCモデル、信念、論駁という用語を確認する。出来事そのものと、それについて自分が加えている考えや判断を区別できる例を一つ考えておく。

13 論駁:考えたことを事実と思わない 科目の中での位置付け 本科目は、心理学の専門知識を、実社会で人を理解するだけでなく、自分自身の生活や心の健康にも活用し、その意味を専門外の人へ正確に伝えることを目的とする。第1回から第8回では心理学の臨床・実験・データの基礎を整理し、第9回以降は統制、個人差、社会的状況、記憶などを通して、人の行動が本人の性格だけで決まらないことを学んできた。第13回は、この流れを自分自身の考え方へ向ける回である。Ellisの論理療法とABCモデルをもとに、出来事そのものと、それについて自分が加えている信念や判断を分け、論駁によって考え方を検討する方法を学ぶ。論理療法そのものは援助者との対話で行われるが、そこで身につけた問いかけを自分の中で用い、「失敗したから自分には価値がない」など自分を必要以上に苦しめる考え方の癖を見直すことができる。心の健康を守りながら現実的な次の行動を考えるための心理学として位置づける。次回は視点を環境側へ移す。
オリジナル資料
コマ主題細目 ① 考え方:出来事と考え方を分けてみる ② 活かし方:自分の考え方の癖を見つけて、生きやすくする ③ 伝え方:「考えたこと」と「起きたこと」を分けて説明する
細目レベル ① Albert Ellisは、出来事そのものが感情を直接生み出すのではなく、その出来事をどう受け止めたかが感情や行動に大きく影響すると考え、論理療法を発展させた。ABCモデルでは、Aは出来事、Bはその出来事についての信念や考え方、Cはその結果として生じる感情や行動を表す。たとえば失敗というAに対して、「失敗してはいけない」「失敗した自分には価値がない」と考えれば、強い落ち込みにつながりやすい。論理療法では、援助者とのやりとりの中で、このBが本当に妥当なのかを問い直す。これがdisputation(論駁)である。出来事を変えられなくても、その出来事について自分がどのような考えを加えているのかを見つけ、それを検討することで、感情や行動の変化につなげていく。このやりとりを通して、自分の考え方を自分で検討する方法を身につけていく。
② 論理療法で行われる論駁は、カウンセリングの場だけで終わるものではない。そこで学んだ問いかけを、自分自身の考え方に向けられるようになることが大切である。たとえば「一度失敗したから自分はだめだ」「嫌われたら終わりだ」「完璧にできなければ意味がない」といった考えが浮かんだとき、それを事実として受け取らず、「本当にいつもそうなのか」「その根拠は何か」「別の見方はできないか」と自分で検討する。目的は、何でも楽観的に考えることではなく、自分を必要以上に苦しめる考え方の癖に気づき、より現実に合った柔軟な考え方へ修正していくことである。こうした習慣は、失敗や評価、人間関係のストレスに直面したとき、自分の心を守りながら次の行動を考える助けになる。やがて、その問いかけを自分自身に向けられるようになることが重要である。
③ 論駁を専門外の人に伝えるときは、「考え方を変えれば悩みはなくなる」と単純化しないことが重要である。論理療法が扱うのは、出来事そのものと、その出来事について自分が加えている判断や信念を区別することである。つらい出来事があれば、悲しみや不安を感じること自体は自然であり、それを消すことが目的ではない。そのうえで、「絶対に失敗してはいけない」「みんなに認められなければならない」といった考えが、事実なのか、自分が作った決まりなのかを検討する。論駁は、相手を言い負かすための技法ではなく、もともとは援助者との対話の中で考え方を点検する方法であり、その問いかけを自分でも使えるようにしていく。心理学は、感情を否定するのではなく、自分の考え方との付き合い方を学ぶことで、生きやすさにつなげる方法も提供している。
キーワード ① 論理療法 ② エリス ③ 論駁 ④ ABCモデル ⑤ カウンセリング
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:本日扱った論駁について、Ellisの論理療法とABCモデルを復習し、Aの出来事そのものと、Bの信念や考え方、Cの感情や行動を区別して説明できるようにする。論理療法における論駁は、相手を言い負かす方法ではなく、援助者とのやりとりの中で、自分を必要以上に苦しめる考え方が本当に妥当かを検討する方法であることを確認する。さらに、その問いかけを自分自身にも向け、失敗や評価、人間関係に関する考え方の癖を見直す方法を整理する。
予習:次回のVRスケジュールに備え、Skinner、オペラント条件づけ、強化、強化スケジュール、VR(variable ratio:変動比率)を確認する。なぜ予測できないタイミングで得られる報酬が、行動を長く続けさせやすいのかを考えておく。

14 VRスケジュール:あともう一回を考える 科目の中での位置付け 本科目は、心理学の専門知識を、個人の内面だけでなく、人の行動を生み出す環境や制度まで含めて考えるために活用することを目的とする。第1回から第8回で心理学の臨床・実験・データの基礎を整理し、第9回から第13回では統制、個人差、社会的状況、記憶、考え方を通して、人の行動を複数の水準から理解してきた。第14回はその最終的な応用として、Skinnerのオペラント条件づけとVR(variable ratio:変動比率)スケジュールを扱い、「止められない」行動を本人の意志だけで説明せず、強化を与える環境の側から考える。ギャンブルやゲームに加え、SNSで更新やスクロールを繰り返すたび、興味を引く情報や反応が予測できない形で提示される仕組みも検討する。さらに、利用を長時間化させるデジタル設計を、企業の設計責任、消費者保護、行政のルール設計という観点から考え、心理学がサービス設計や社会制度にも関わることを学ぶ。この視点を第15回の総括へつなげる。
オリジナル資料
コマ主題細目 ① 報酬の与えられ方が行動を変える ② 活かし方:「止められない」を環境の側から考える ③ 伝え方:意志の問題だけにしない
細目レベル ① B. F. Skinnerは、行動の後にどのような結果が続くかによって、その後の行動の起こりやすさが変わることをオペラント条件づけとして研究した。VR(variable ratio:変動比率)スケジュールでは、何回行動すれば報酬が得られるかが一定ではなく、平均何回という具合に報酬があらわれるため、結果として予測できないタイミングで強化が与えられることになる。そのため、「次は得られるかもしれない」という状況が続き、反応は高い頻度で持続しやすく、強化がしばらく得られなくても止まりにくい。重要なのは、同じ人でも報酬の与えられ方によって行動の続き方が変わることである。行動を理解するとき、本人の意志だけでなく、行動を支えている強化の仕組みを見るのが行動分析の考え方である。
② VRスケジュールの考え方は、ギャンブルやゲームだけでなく、SNSや動画サービスなど、人が「あともう一回」「あと少しだけ」と利用を続ける環境を考える手がかりになる。近年は、無限スクロール、オートプレイ、プッシュ通知、個人化された推薦など、利用を反復・長時間化させる設計そのものが社会的な問題として扱われている。SNSでは、更新やスクロールのたびに何が提示されるか予測できず、ときに強い関心を引く情報や反応が現れる。このような不規則な強化は、VRスケジュールの考え方から理解できる。実際、EUではDigital Services ActのもとでSNSの「addictive design」が問題とされ、米国カリフォルニア州でも未成年者に対するaddictive feedや一部の依存的機能を制限する法律が整備されている。行動を理解する知識は、サービスを作る企業だけでなく、消費者保護や子どもの安全を考える行政にも必要になっている。
③ VRスケジュールを専門外の人に伝えるときは、「意志が弱いからやめられない」と個人の側だけで説明しないことが重要である。Skinnerの行動分析が示したのは、同じ人でも、報酬がいつ、どのように与えられるかによって行動の続き方が変わるということである。現在のデジタルサービスでも、利用者が繰り返し画面を開いたり、次の内容を見続けたりするような設計が問題となり、国や地域によっては規制の対象になり始めている。ここで重要なのは、SNSの機能をすべてVRスケジュールと呼ぶことではなく、「止めにくい行動を生み出している環境は何か」と問うことである。心理学の知識は、本人に自制を求めるだけでなく、企業がどのような設計を行うべきか、行政がどこまで介入すべきか、利用者をどう守るかを考える材料にもなる。
キーワード ① スキナー ② 強化 ③ 強化スケジュール ④ VR ⑤ 報酬
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:本日扱ったVRスケジュールについて、Skinnerのオペラント条件づけを復習し、行動の後に与えられる結果と、その与えられ方によって行動の頻度や持続性が変わることを説明できるようにする。VR(variable ratio:変動比率)では、平均何回という形で予測できないタイミングに強化が現れるため、「次は得られるかもしれない」と反応が続きやすいことを確認する。ギャンブル、ゲーム、SNSなどを例に、止めにくさを本人の意志だけで説明せず、更新、提示、通知など環境の設計から考える。企業のサービス設計、消費者保護、行政による規制のそれぞれで心理学の知識がどう役立つかも整理する。
予習:次回のまとめに備え、第9回から第14回の内容を「臨床」「実験」「データ」の三つの観点から分類し、それぞれの回で学んだ考え方がどの業界や職種に活かせるか一例ずつ考えておく。

15 まとめ②:心理学を仕事につなげる 科目の中での位置付け 本科目は、心理学で学ぶ専門知識を、実社会の課題を考えるための見方・方法として活用し、専門外の人にも正確に伝えられるようにすることを目的としてきた。第1回から第7回では心や行動を理解し、測定し、データとして読む基礎を学び、第8回で臨床・実験・データの三つの観点から前半を整理した。第9回から第14回では、統制、特性と個人差、社会的促進、長期記憶、論駁、VRスケジュールを通して、心理学を仕事や生活の具体的な問題へ展開してきた。第15回は、第9回から第14回の内容を再び「臨床」「実験」「データ」の三つの観点から整理する最終のまとめ回である。臨床では人を固定せず特性・発達・考え方・環境の関係から理解すること、実験では条件を変えて行動を確かめること、データでは人の違いや変化を観察可能な指標で比較することを確認する。個々の心理学用語や理論を正確に理解したうえで、それぞれの知識をどの業界・職種のどの課題に結びつけ、相手に応じた言葉で説明できるかを本科目全体の到達点として確認する。
オリジナルの資料
コマ主題細目 ① 臨床:人を固定した見方で捉えない ② 実験:人の行動を条件を変えて確かめる ③ データ:人の違いや変化を数字で確かめる
細目レベル ① 第9回から第14回のうち、特性と個人差、論駁、VRスケジュールを中心に、人を固定した見方で捉えないことを振り返る。特性と個人差では、性格を一つの型に当てはめるのではなく、複数の特性の組み合わせや発達段階、経験、環境によって、その人の行動の現れ方が変わることを学んだ。論理療法では、出来事そのものと、それについて自分が加えている考え方を分け、必要以上に自分を苦しめる信念を論駁によって見直す方法を学んだ。さらにVRスケジュールでは、止めにくい行動を本人の意志や性格だけで説明せず、行動を持続させる環境にも目を向ける必要があることを確認した。第9回から第14回に共通するのは、「この人はこういう人だから」と決めつけず、特性、発達、考え方、環境の関係から人を理解する姿勢である。医療・福祉だけでなく、人事、教育、管理職、営業、行政など、人の行動や意思決定に関わる仕事で活かせる視点として整理する。

② 第9回から第14回のうち、統制、社会的促進、長期記憶、VRスケジュールを通して、人の行動をどのように確かめるのかを振り返る。統制では、結果に意図せず影響しそうな条件をできるだけそろえ、いま確かめたい条件だけを変えることで、何が結果を変えたのかを切り分ける方法を学んだ。社会的促進では、他者がいるだけで成績が上がったり下がったりし、その効果が課題への習熟度によって逆転することを実験から捉えた。長期記憶では、覚えた内容がどの程度残り、どのように変容するのかを、再生や再認などの行動から調べる。VRスケジュールでは、報酬の与え方を変えると行動の持続性が変わることを学んだ。第9回から第14回で扱った実験的な考え方は、人について思いついた説明をそのまま信じるのではなく、条件を変え、行動を測り、説明が成り立つかを確かめる方法である。商品開発、研修、サービス設計、教育、行政などで「本当に効果があるのか」を試す考え方として整理する。
③ 第9回から第14回をデータの視点から振り返ると、人の違いや変化を印象だけで判断せず、観察できる指標にして比較することの重要性が見えてくる。特性と個人差では、性格や発達の違いを一つの型ではなく、複数の特性の程度や組み合わせとして捉える。社会的促進では、他者がいる条件といない条件で遂行成績を比較し、長期記憶では、どれだけ思い出せたか、どのくらいの期間残ったかを測る。VRスケジュールでは、強化の仕方によって反応率や行動の持続がどう変わるかを記録する。こうしたデータがあることで、「人前だと頑張れる」「記憶は残る」「報酬があると行動が続く」といった印象的な説明を、条件や程度を含めて具体的に検討できる。第9回から第14回で学んだ知識を、観察とデータによって支えられたものとして捉え直し、人事、教育、医療、行政、企画などで人について説明するときに、何をどう測り、どの条件と比較した結果なのかを示す姿勢につなげる。
キーワード
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
復習:本日行った第9回から第14回のまとめを振り返り、統制、特性と個人差、社会的促進、長期記憶、論駁、VRスケジュールを「臨床」「実験」「データ」の三つの観点から説明できるようにする。各テーマについて、専門用語の定義だけでなく、「どのような問題を考えるために必要な知識なのか」「仕事や生活のどの場面で活かせるのか」「専門外の人にどう説明するのか」を整理する。さらに全15回を振り返り、自分が進みたい業界や職種を一つ想定して、この科目で学んだ心理学の考え方を三つ選び、その業界の課題にどう結びつけられるかを文章でまとめる。

履修判定指標
履修指標履修指標の水準キーワード配点関連回
傾聴によって相手の意思決定を支える ロジャーズの考え方と傾聴について、「共感的理解」「無条件の肯定的関心」「自己一致」の三原則を専門的に理解し、それぞれが傾聴においてどのような意味を持つのかを説明できる。傾聴を単に相手の話を最後まで聞くことや、優しく接することとして捉えるのではなく、相手の経験や考えを理解し、本人が自分の考えを整理し、自ら意思決定できるように支える方法として説明できる。さらに、教育・福祉・医療だけでなく、人事、営業、金融、管理職による面談など、実社会のさまざまな場面に傾聴の考え方を関連づけ、その意義を心理学を専門としない人にも具体例を用いて適切に説明できる。 傾聴、共感的理解、無条件の肯定的関心、自己一致、自己決定、ロジャーズ 10 1
人を固定せず、考え方の癖を見直す 特性と個人差、Ellisの論理療法について、人を性格や診断名、現在の状態だけで固定して捉えず、発達段階、経験、環境による変化と、自分自身の考え方との両面から理解する視点を専門的に説明できる。類型論と特性論の違い、複数の特性を程度と組合せとして捉える考え方、子ども・青年・成人・高齢期など発達段階によって行動や課題の現れ方が異なること、ASD・ADHDを含む発達の個人差について理解する。また、EllisのABCモデルとdi論駁について、出来事そのものと、それについて自分が加えている信念や判断を区別し、自分を必要以上に苦しめる考え方を見直す方法として説明できる。さらに、人事、教育、支援、自分自身の心の健康などと関連づけ、その意義を専門外の人にも具体例を用いて適切に説明できる。 類型論、特性論、個人差、発達段階、ASD・ADHD、ABCモデル、論駁、エリス 10 10,13
見えない心を行動から確かめて,考える 錯覚、視線、選択盲、測定について、直接見ることのできない心を、観察可能な行動や実験手続きからどのように検証するのかを専門的に説明できる。知覚が外界をそのまま写すものではないこと、Shimojo et al. (2003)のgaze cascade effectから視線と選好形成の関係を理解すること、Johansson et al. (2005)のchoice blindness(選択盲)が巧みな実験操作によって示されたこと、心理的概念を操作的に定義して測定することを理解する。さらに、広告、商品設計、Web、マーケティング、顧客調査などの社会的場面に関連づけ、心理学が見えない心をどのような方法で確かめる学問なのかを、専門外の人にも具体例を用いて適切に説明できる。 錯覚、gaze cascade effect、choice blindness、操作的定義、視線計測 20 2,3,4,5
条件を変えて行動を分析する 統制、社会的促進、長期記憶、VRスケジュールについて、条件を設定・変更し、行動の変化を比較することで心理学的な説明を検証する方法を専門的に理解できる。統制では、結果に影響しそうな条件のうち何を同じにし、何を変える必要があるのかを説明できる。社会的促進では、他者の存在による覚醒と優勢反応、課題への習熟度によって社会的促進と社会的抑制が生じることを理解する。長期記憶では保持と変容、VRスケジュールでは強化条件と行動の持続との関係を説明できる。さらに、商品開発、研修、サービス設計、教育、行政などに関連づけ、条件を変えて行動を確かめるという実験的な考え方を専門外の人にも説明できる。 統制、社会的促進、社会的抑制、長期記憶、VRスケジュール 20 9,11,12,14
心を数値化し、ばらつきと関係を読む 測定、標準偏差、相関について、心理的概念をどのように数値化し、得られた数値から人や集団の特徴をどのように読み取るのかを専門的に説明できる。操作的定義と妥当性の関係を理解し、数値が得られたことと、目的とする心理的概念を適切に測定できたことを区別できる。平均と標準偏差については、「中心」と「広がり」という関係と標準偏差の式の意味を理解する。相関については、散布図とPearsonの相関係数rとの関係を理解し、外れ値、データ数、点の分布にも注意して関係を慎重に読むことができる。さらに、人事、教育、マーケティング、医療、金融などで用いられる数値に関連づけ、その意味を専門外の人にも適切に説明できる。 操作的定義、妥当性、標準偏差、散布図、相関係数 20 5,6,7
人の違いと変化をデータで捉える 特性と個人差、社会的促進、長期記憶、VRスケジュールについて、人に関する印象や一般論だけで判断せず、観察可能な指標や比較可能なデータを用いて捉える考え方を理解できる。性格や発達の違いを複数の特性の程度や組合せとして表すこと、社会的促進を他者の有無や課題への習熟度と遂行成績の関係として検討すること、長期記憶を再生・再認や保持期間などから測定すること、強化スケジュールによる行動の違いを反応率や持続性から捉えることを説明できる。さらに、人事、教育、医療、行政、企画などで人に関するデータを扱う際、何を測り、何と比較し、その結果からどこまで説明できるのかを判断し、専門外の人にも適切に説明できる。 個人差、特性、条件比較、遂行成績、再生・再認、反応率 20 10,11,12,14
評価方法 期末試験において100%評価する。
評価基準 評語
    学習目標をほぼ完全に達成している・・・・・・・・・・・・・ S (100~90点)
    学習目標を相応に達成している・・・・・・・・・・・・・・・ A (89~80点)
    学習目標を相応に達成しているが不十分な点がある・・・・・・ B (79~70点)
    学習目標の最低限は満たしている・・・・・・・・・・・・・・ C (69~60点)
    学習目標の最低限を満たしていない・・・・・・・・・・・・・ D (60点未満)
教科書 オリジナル教材
参考文献
実験・実習・教材費