区分 基盤専門科目
ディプロマ・ポリシーとの関係
SDGs力 科学コミュニケーション力 研究力
カリキュラム・ポリシーとの関係
教養 応用力 実践力
科目間連携 総合心理力
カリキュラム全体の中でのこの科目の位置づけ

科目の目的
 感情・人格心理学は主に「こころの仕組み」を明らかにすることを目的とした領域である基礎心理学に含まれる。しかし,これまでの基礎心理学において中心的な役割を果たしてきたのは,比較的早期の段階において,ある程度,科学的な測定手法が生み出された学習心理学,知覚心理学,認知心理学などであり,感情・人格心理学は基礎心理学全体の中では周辺的な存在であった。しかし,近年の脳神経科学や分子遺伝学,情報工学などの新たな知見・手法の出現に伴って今後,最も発展が期待される分野でもある。
 「人格心理学(以下、パーソナリティ心理学と呼ぶ)」と「感情心理学」は相互に深く関連し合ってはいるが、本来、異なる歴史的経緯を経て成立し、依って立つ理論的基盤も異なる別々の学問領域である。従って、第1回において「パーソナリティ心理学」と「感情心理学」の心理学における位置づけや扱うものの違い(定義や研究手法)について説明した上で、前半の講義(第2回~第8回)はパーソナリティ心理学を中心として、後半(第9回~第15回)は感情心理学を中心として講義を行う。
 上記を踏まえ、本講義では,以下の2点を目的とする。
①パーソナリティ心理学(知能を含む)における考え方や先行研究から分かっていることについて理解することを目的とする。また、様々な人格の測定方法について学び、各測定方法の利点と欠点について理解することを目的とする。人格心理学は「こころの個人差」をいかにして測定するかを目的としており,「心理プロセスの一般化」を目指している他の基礎心理学分野とは一線を画す分野である。しかし,誰もが「ある」と信じている(古代ギリシア人ですら気付いていた)個人差を客観的に取り出す試みは容易ではなく,これまで苦難の連続であった。受講者がそうしたパーソナリティ心理学における苦難の歴史を噛みしめ,人格・知能についての理解を深めるとともに,測定することの困難さについて体得することを目指したい。
②感情心理学における感情の定義や,感情を構成するパーツ,感情が生起する仕組みについて理解することを目的とする。ただし,感情心理学は,目に見える行動や学習成績として測定がしやすい学習心理学や知覚・認知心理学とは異なり,実体として捉える(測定する)ことが非常に困難であり,現在でも様々な視座から論争が続いている。本講義でも多様な観点から説明・考察を加えることで,受講者の「感情」に対する理解の幅を広げたいと考えている。


到達目標
 ⽇常⽣活において,パーソナリティおよび感情は私たちの認知や⾏動様式に強く影響を与えている。パーソナリティの定義の変遷,パーソナリティが関わる⼼理的不適応やその援助,アセスメントについて理解を深める。また,感情の定義,種類,プロセス,記憶や認知との関連,⾏動への影響などについて幅広く概観し,感情と認知,および⾏動の関連について理解を深める。
1.パーソナリティの概念及び形成過程について理解し,説明できること
2.パーソナリティの類型,特性等について理解し,説明できること
3.感情にかんする理論及び感情喚起の機序について理解し,説明できること
4.感情が⾏動に及ぼす影響について理解し,説明できること

科目の概要
この講義では,個々の⼈間を特徴付けるパーソナリティの⼼理学的な定義の変遷や,遺伝との関連,パーソナリティの障害やアセスメント⼿法について概説します。また,⼈間の⾏動および認知に強く影響を与える感情の定義,働き,および主要理論について概説します。
前半の講義では,類型論,特性論などパーソナリティの捉え⽅についての変遷,パーソナリティの形成における遺伝と環境の影響,パーソナリティ障害とそのアセスメントなどについて説明します。後半の講義では,中世以来の理性と感情の対⽴から現在⾄るまでの感情理論の変遷,感情が⽣じる仕組み,感情が認知や⾏動に与える影響,および感情と表出の関連性などについて説明します。

科目のキーワード
人格、知能、類型論と特性論、遺伝と環境、パーソナリティの一貫性、パーソナリティ障害、感情の要素、感情の仕組み、感情研究の視座、感情の普遍性と文化差
授業の展開方法
 この科目は1回につき2コマ連続の講義を行います。各回(2コマ)は1つのテーマに則って展開されます。1コマ目(前半)の講義では、当該テーマを学んでいく上でベースとなる知識について学びます。2コマ目(後半)の講義では、1コマ目の講義で学んだ知識について補足するとともに、学んだ知識を基にしてそのテーマについてより深く学んでいきます。
この科目では、各回で教材を準備し、その教材を使用しながら講義を進めます。また、パーソナリティ心理学や感情心理学の研究について「実感」を持って理解するために、授業内において、実際に使用されている簡便なパーソナリティ検査や、表情判断などの課題について体験学習してもらいます。加えて,各回の授業において当該回の内容を理解する上で重要な事項(現象、考え方など)についての発問を行い、学生自身に考えてもらうことで、理解の深化を図ります。

オフィス・アワー
前期:月曜お昼、火曜3限、金曜お昼・4限
後期:月曜お昼、火曜お昼、木曜お昼・3限、金曜お昼・3限

科目コード RD2030
学年・期 1年・後期
科目名 感情・人格心理学
単位数 4
授業形態 講義
必修・選択 必修
学習時間 【授業】90分×30 【予習】60分以上×15 【復習】60分以上×15
前提とする科目 なし
展開科目
関連資格 公認心理師
担当教員名 中嶋智史・松山道後キャンパス教務課
主題コマシラバス項目内容教材・教具
1 人格(パーソナリティ)と感情の心理学における位置づけ 科目の中での位置付け  この科目では、これまでの心理学研究によって明らかにされてきた人格心理学(以下,パーソナリティ心理学と呼ぶ)および感情心理学の知見や、それぞれの心理学領域における基本的な考え方について理解することを目的とする。「科目の目的」にも記載したとおり、パーソナリティ心理学と感情心理学は、近接領域ではあるが、それぞれ異なる歴史的背景およびから生じた別々の学問領域である。従って、科目の前半(第2回~第8回)ではパーソナリティ心理学について、後半(第9回~第15回)では感情心理学についてそれぞれ講義を行う。
 講義の前半では、この科目におけるガイダンスを行い、講義の進め方について説明を行うとともに、心理学の諸分野におけるパーソナリティ心理学と感情心理学のそれぞれの位置づけと研究の意義について説明を行う。特に、心理学の諸分野について大まかに把握し、それら諸分野の備えた性質・特徴と比較を行うことにより、パーソナリティ心理学および感情心理学のそれぞれが備えた性質・特徴や差異について理解する。
 講義の後半では、心理学的な構成概念であるパーソナリティについて理解するために、構成概念とは何かを説明した上で、パーソナリティに関連する用語の定義について説明を行うことを通じて、第2回以降の講義における考え方の基盤を形成する。

細目②
兵藤 宗吉・緑川 晶(編)(2010). 心理学の主な分野と隣接科学, 10-11, 心の科学―理論から現実社会へ ナカニシヤ出版

細目③
鈴木 公啓(編)(2012). 心理学における「性格」の位置づけ, 3, パーソナリティ心理学概論 ナカニシヤ出版

細目④
濱 治世・鈴木直人・濱 保久 (2001). 感情と情緒(情動), 2-3, 感情心理学への招待―感情・情緒へのアプローチ― サイエンス社
コマ主題細目 ① ガイダンス ② 心理学の諸分野 ③ 心理学におけるパーソナリティ心理学の位置づけ ④ 心理学における感情心理学の位置づけ ⑤ 構成概念としてのパーソナリティの定義
細目レベル ① 初回の講義であることから、講義を受ける際の諸注意、出欠の確認方法、成績評価の方法、および講義の進め方についてのガイダンスを行う。まず、講義を受ける際の諸注意(必ずPCを持参すること、講義中の私語の禁止等)、出席の確認方法や、授業後の毎回の小テストおよびアンケート(質問および感想)の実施方法、成績の評価方法について説明をする。出席は本学のルールに従って管理を行うこととする。また、他の講義科目同様、毎回の授業後にmanabaを利用したオンラインでの小テストを行い、各学生の授業への理解度を把握する。加えて、本科目では、毎回、各学生からの疑問点や発見(気付き)を把握するために、manabaを通じたオンラインでのアンケートを実施する。成績評価については、期末テストの成績(100%)により評価される。
次に、講義の進め方については、次のとおりである。まず、講義の最初に前回の講義についての復習を行うとともに、毎回のアンケートを通じて学生から示された質問や発見(気付き)について回答することを通じて、講義内容の理解の定着および深化を図る。次に、該当回の講義内容について説明を行う。講義内容の説明が終わった後、小テストを実施し、全員が回答を終えた後に小テストの問題についての解説を行い、学生が躓いている部分のあぶり出しを行う。最後にアンケートへの回答を求める。

② 心理学におけるパーソナリティ心理学と感情心理学の心理学の位置づけについて学習するのに先立ち、心理学の諸分野について概観する。心理学概論(第8回、9回)において説明がなされたとおり、心理学は哲学の中から生じ、生物学や生理学、精神医学などの様々な分野からの影響を受けつつ徐々に独立した科学的な学問として発展してきた。そして現在、「心理学」の中には、多種多様な領域が存在する。そうした領域の違いは、「こころ」に対する考え方や、アプローチの違い、「こころ」の測定方法の違い、対象とする「こころ」の違いなどによって生じたものである。しかし、そうした多様な領域は大まかに「基礎心理学」と「応用心理学」に分けることができる。心理学におけるパーソナリティ心理学と感情心理学の位置づけについて理解するためには、基礎心理学と応用心理学の持つ性質と目的、および互いの関係性について知る必要がある。
③ 心理学全体の中でのパーソナリティ心理学の位置づけについて学ぶ。心理学概論において説明がなされたように、これまでの歴史上、心理学の中心を担ってきたのは精神物理学(知覚心理学)、行動主義(学習心理学)、認知心理学などであった。これらの心理学領域における最終目標は、いずれも「こころ」の科学的な一般法則を見出すことである。一方で、パーソナリティ心理学は上記の心理学分野と同様、基礎心理学の中に含まれるものの、個人差を対象としていることから、上記の心理学領域とは異なる性質を持っている。ここでは、他の領域との比較を行いつつ、基礎心理学としてのパーソナリティ心理学が持つ特徴について把握すること、そして、心理学においてパーソナリティを研究することの意義について理解することを目的とする。

④ 心理学全体の中での感情心理学の位置づけについて学ぶ。おそらく、一般的に「こころ」といってイメージされる心的機能は感情であろう。感情については、古代ギリシアから現代に至るまで多くの先人が思索してきた。しかし、感情心理学は、パーソナリティ心理学と同様、長い間、基礎心理学の中で周辺的な分野に過ぎなかった。感情心理学にもやはり、知覚心理学や学習心理学などとは異なる性質があり、様々な理由で発展が妨げられてきた現状がある。ここでは、パーソナリティ心理学を含む他の心理学領域との比較を行いつつ、基礎心理学としての感情心理学が持つ特徴について把握すること、そして心理学において感情心理学を研究することの意義について理解することを目的とする。
⑤ ここでは、パーソナリティがどのように定義されているかを学ぶ。それに先立ち、パーソナリティを理解する上で重要な「構成概念」について説明する。直接的に観察することができないが、理論的背景や、これまでの研究から「ある」と仮定される概念を「構成概念」と呼ぶ。心理学の多くの分野においては、ごく少数の例外を除き、構成概念を扱う。構成概念は直接的に観察できないものであることから、研究者間で共通した定義が必要となる。個人差には、身長や体重など直接観察可能なものもあるが、不安、外向性、知能などを含むパーソナリティはいずれも心理的特性であり、構成概念である。パーソナリティは構成概念であり、直接観察不可能なものである。従って、用語の定義についてしっかり認識しておく必要がある。特にパーソナリティに関しては、英語(例:personality, character)でも日本語(例;人格、性格、気質)でも様々な類似した用語が存在するため、ここでは、それぞれの用語がどのような意味を持つのか、またどのような場面で用いられるのか、そのニュアンスの違いについて把握する。
キーワード ① オリエンテーション ② 心理学の諸分野 ③ パーソナリティ心理学 ④ 感情心理学 ⑤ パーソナリティの定義
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】
基礎心理学で目指しているものが何であるのか、その中にあって人格心理学がどのような位置づけにあるのか、また、感情心理学がどのような位置づけにあるのか、について講義資料を読み返し、しっかり理解する。
【予習】
第2回のコマシラバスを読み、概要を頭に入れておく。また、「人格」、「性格」、「気質」とはどのようなものであるのか、またそれらの言葉の違いを心理学の書籍等で調べて、分からない部分についてメモをしておく。

2 パーソナリティ研究の歴史①(類型論) 科目の中での位置付け  この科目の前半(第2回~第8回)では、心理学におけるパーソナリティの定義やパーソナリティの捉え方、研究手法の歴史的な変遷および現在に至るまでの発展の過程および、パーソナリティの異常とアセスメントおよび支援について学ぶ。第2回におけるパーソナリティの定義および捉え方についての講義を受けて、今回は、類型論の考え方を軸として、これまでのパーソナリティ研究の歴史について学ぶ。
 講義の前半では、特に、個々人のパーソナリティの違いについての記述や考え方(四体液説と四気質説)が最初に生まれた古代ギリシア、ローマの時代から、中世・近世(観相学、骨相学)に至るまでを概観する。また、四気質説の流れを受け継いでいるものとして、現代日本においても多くの人々にとっての興味・関心の的である血液型とパーソナリティの関係についての研究史についても説明する。
 講義の後半では、類型論の考え方を軸にして、近代におけるパーソナリティ研究の歴史(中盤)について学ぶ。特に、類型論の中でも有名なクレッチマーの体型類型論についての研究や、クレッチマーの体型類型論の抱えた問題点に取り組んだシェルドンの研究、およびユングの向性類型論などについて説明した後、これまで説明してきた類型論の考え方の問題点や限界について解説する。
これらの内容の講義を通じて、これまでのパーソナリティ研究の発展に重要な役割を果たしてきた理論的枠組みの一つである類型論について理解することを目的とする。

細目①、③、④、⑤
小塩 真司 (2010). はじめて学ぶパーソナリティ心理学―個性をめぐる冒険― ミネルヴァ書房

細目②
アレクサンダー・トドロフ(著)中里京子(訳)(2019).第一印象の科学―なぜヒトは顔に惑わされてしまうのか?― みすず書房
浜本 隆志・柏木 治・森 貴史(編著)(2008)ヨーロッパ人相学―顔が語る西洋文化史― 白水社
コマ主題細目 ① 四体液説と四気質説 ② 観相学 ③ 骨相学 ④ 体型類型論 ⑤ ユングの向性類型論
細目レベル ① 古代ギリシア・ローマ時代におけるパーソナリティについての理論である、四体液説および四気質説について学ぶ。まず、古代ギリシアの哲学者テオプラストスによる民衆のパーソナリティについての記述から、非常に古い時代から研究者が人のパーソナリティに興味・関心を抱いていたことについて説明する。次に、古代ギリシアにおいて世界を構成するとされた四大元素についての考え方を基にヒポクラテスによって提唱された四体液説について説明する。さらに、ローマ時代にこの四体液説を発展させ、体液とパーソナリティの関連について結びつけたガレノスの四気質説について説明する。また、この四気質説が現在日本における血液型による性格類型論に繋がる源流となっていることについていくつかの研究を取り上げて説明する。
② 中世ヨーロッパにおいて人のパーソナリティの分類手法として興隆した観相学について学ぶ。観相学は、人のパーソナリティはその顔貌(人相)に表れるとする考え方であり、古代ギリシア時代のアリストテレスの文書にもその痕跡が見られる。ここでは、デッラ・ポルタ、ル・ブラン、ラバターなど主要な観相学者を取り上げ、「特定の動物に似ている人間はその動物のパーソナリティを備えている」という観相学の考え方とその問題点について説明する。この観相学の影響は現在の欧米においても残っており、偏見・ステレオタイプが生じる源泉となっている。観相学については、「顔認知とコミュニケーション」の講義においても解説される。
③ 近世ヨーロッパにおけるパーソナリティの理論であるガルの骨相学について学ぶ。まず、骨相学という考え方が生まれてきた背景として、脳の全体論と機能局在論の違いについて説明する。近世以前は様々な身体・心理機能は脳全体の働きによって生じていると考えられていた(全体論)。一方で、ガルは、脳には部分によって異なる機能が備わっている(機能局在論)と考えていた。この機能局在論的な考え方をベースにして、頭蓋の大きさとパーソナリティの関連について結びつけたのが骨相学である。ここでは、骨相学が抱えていた問題点と、骨相学がベースにしていた機能局在の考え方が後世に与えた影響について学ぶ。
④ 心理学史上において最も有名な類型論であるクレッチマーおよびシェルドンの体型類型論について学ぶ。ドイツの精神科医であったクレッチマーは精神病院での自身の臨床体験から精神病質と体型の関係に気付き、体型と精神疾患の種類およびパーソナリティの分類を行った。クレッチマーは人物の体格と関連するパーソナリティ(気質)について3つの類型(分裂気質、循環気質、粘着気質)を行っている。しかし、クレッチマーは精神科の患者のデータを基にして構築された彼の理論を一般の人々のパーソナリティにも当てはまるものであるとしていた。アメリカの心理学者シェルドンはこの点を批判し、体型類型論が健常者にも当てはまるものであるかを検討している。ここでは、クレッチマーおよびシェルドンの体型類型論の特徴と、その問題点について理解することを目指す。
⑤ フロイトの弟子で、分析心理学の祖であるユングの類型論(向性論とタイプ論)について学ぶ。ユングは、人の心の無意識的な部分の役割を重視する精神力動的な考え方に基づいて独自の類型論を提唱している。彼は、無意識の中にある心的エネルギーが向かう方向性によってパーソナリティを外向型と内向型に分類している。加えて、パーソナリティを思考、感情、感覚、直観の4つのタイプに分類し、向性と4つのタイプを組み合わせた8つの分類によって人間のパーソナリティを捉えようとした。ここでは、ユングの向性論の特徴およびその問題点と、その後のパーソナリティ研究に与えた影響について理解することを目指す。
キーワード ① 四体液質と四気質説 ② 観相学 ③ 骨相学 ④ 体型類型論 ⑤ ユングの向性類型論
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】
心理学において、個人差や感情がどのように扱われてきたかについて配布資料を再度読み返し、理解しておく。また、「人格」、「性格」、「気質」、「感情」、「情動」といった概念の示す意味(定義)の違いについて、英語での表記と対応付けつつ頭に入れておく。

【予習】
第3回のコマシラバスを読み、概要を頭に入れておく。また、「性格」、「人格」という言葉からイメージされる事物について、自分なりにまとめておく。

3 パーソナリティ研究の歴史②(特性論) 科目の中での位置付け  この科目の前半(第2回~第8回)では、心理学におけるパーソナリティの定義やパーソナリティの捉え方、研究手法の歴史的な変遷および現在に至るまでの発展の過程および、パーソナリティの異常とアセスメントおよび支援について学ぶ。第2回においては、古代ギリシア・ローマ時代におけるパーソナリティ研究の始まりから近代までの発展について説明を行った。これを受けて、第3回は、類型論の問題点から次第に心理学者のパーソナリティ研究の中心となった特性論の初期研究から現在までの発展について学ぶ。
 講義の前半では、次第に心理学者が類型論的アプローチから離れ、現在のパーソナリティ研究の理論的基盤となっている特性論的アプローチに向かっていった歴史的経緯について説明する。特に、特性論の創始者であるゴールトンおよびオールポートに着目し、特性論の最初期の手法である心理辞書的研究について取り上げて説明する。また、オールポートの心理辞書的研究が抱えていた問題点を踏まえ、キャッテルを中心として創始された、統計的手法を用いてパーソナリティをいくつかの次元で表現する因子分析的アプローチについて説明する。本講義は統計の講義ではないため、因子分析的アプローチについて概念的に把握することを目的とする。統計手法としての因子分析がどのような手法であるかについては、心理学統計法Ⅰ、Ⅱなどの講義で詳細な説明がなされる。
 講義の後半では、因子分析的アプローチに、生物学的な知見を取り入れたハンス・アイゼンクによる3因子モデルについて説明する。最後に、現在でもパーソナリティ研究において中心的な役割を果たしている理論である5因子モデルについて説明する。
今回の講義を通じて、現在のパーソナリティ研究の理論的支柱となっている特性論について理解することを目指す。

細目①、②、③、④、⑤
小塩 真司 (2010). はじめて学ぶパーソナリティ心理学―個性をめぐる冒険― ミネルヴァ書房
コマ主題細目 ① 心理辞書的研究 ② 因子分析的アプローチ ③ アイゼンクの3因子モデル ④ 5因子モデル
細目レベル ① 類型論が抱えていた問題から,パーソナリティ研究が特性論へと移っていったプロセスについて学ぶ。特に、「心理測定の父」と呼ばれ、パーソナリティの心理学的な測定方法について初めて考案したゴールトンおよび、パーソナリティ研究の主流を類型論から特性論へと転換させたオールポートの研究および考え方について説明する。進化論で有名なダーウィンの従兄にあたるゴールトンは歴史上、初めて遺伝について統計学的手法を用いて研究した人物である。彼はまた、直接観察できない「こころ」を扱う心理学において、様々な測定方法を考案した点で、最も重要な貢献をした人物の一人と言ってよい。特に、パーソナリティを測定する方法としては、類語辞典(シーソラス)を用いて、人々のパーソナリティを記述する用語を集計する心理辞書的研究を考案している。アメリカの心理学者オールポートは、この心理辞書的研究に着目し、人々のパーソナリティに関連する特性がどのくらいあるのかを体系的に研究した。ここでは、ゴールトンおよびオールポートの用いた心理辞書的研究の特徴と意義、およびその限界について理解することを目指す。
② 客観的なパーソナリティ特性の分類法としての因子分析的アプローチについて学ぶ。オールポートはゴールトンの開発したパーソナリティ研究手法を受け継ぎ発展させる形で心理辞書的研究を行った。しかし、心理辞書的研究は、パーソナリティ特性の分類の際に研究者の主観的な評価に影響を受けやすいという問題があった。キャッテルは、こうした心理辞書的の問題を解消するために、統計学的な手法を取り入れた。具体的には、第8回においても説明するが、既に知能研究において用いられていた因子分析を導入することにより客観的な形でパーソナリティ特性を分類した。彼は、因子分析を用いることで、膨大な数にわたるパーソナリティ用語の背景となる12の根源特性と呼ばれる因子を見出した。さらに、その後の研究から、16個のパーソナリティから構成される「16PF人格検査」を開発している。ここでは、キャッテルによる根源特性についての研究を軸に、因子分析的アプローチの特徴について理解することを目的とする。
③ 生物学的な視点を取り入れたパーソナリティ特性の理論であるアイゼンクによる3因子モデルについて学ぶ。イギリスの心理学者であるアイゼンクは、「外向性」、「神経症傾向」、「精神病傾向」の3因子により人間のパーソナリティが表現できると考えた。このアイゼンクの3因子モデルの特徴は、因子分析的アプローチを用いて抽出されたこれらの特性について、単に理論的・概念的なものとして存在するというだけでなく、生物学的な基盤が備わっていると考えた点にある。また、このモデルは、パーソナリティを階層構造で捉えた点でこれまでのパーソナリティ理論とは異なるものであった。ここでは、その後のパーソナリティ特性理論にも多くの影響を与えたアイゼンクの3因子モデルの特徴について理解することを目的とする。
④ 現在のパーソナリティ研究において理論的支柱となっているパーソナリティの5因子モデルについて学ぶ。キャッテルやアイゼンクらによるパーソナリティ特性についての先駆的な研究を経て、多くのパーソナリティ心理学者により「人間のパーソナリティ特性がいくつあるか」についての膨大な研究が行われた。その結果、現在に至るまで支持されているのが、5つの主要なパーソナリティ特性によって人間を記述できるという5因子モデル(ビックファイブとも呼ばれる)である。この5因子は「神経症傾向」、「外向性」、「開放性」、「協調性」、「誠実性」で構成される。この5因子モデルに基づくパーソナリティ検査は複数の研究者によって開発されて現在でも用いられている。ここでは、パーソナリティの特性論における集大成ともいえる5因子モデルの特徴について理解することを目的とする。
キーワード ① 心理辞書的研究 ② 因子分析的アプローチ ③ キャッテルの根源特性 ④ アイゼンクの3因子モデル ⑤ 5因子モデル
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】
配布資料を再度読み返し、理解しておく。

【予習】
次回のコマシラバスを読み、概要を頭に入れておく。また、コマシラバスに記載のキーワードについて書籍等を用いて調べた上で、分からない箇所をメモしておく。

4 人のパーソナリティは変わるのか?(パーソナリティの一貫性) 科目の中での位置付け  この科目の前半(第2回~第8回)では、心理学におけるパーソナリティの定義やパーソナリティの捉え方、研究手法の歴史的な変遷および現在に至るまでの発展の過程および、パーソナリティの異常とアセスメントおよび支援について学ぶ。第3回においては、類型論の問題点から次第に心理学者の研究の中心となった特性論について、ゴールトンやオールポートなどによる初期研究から現在のパーソナリティ研究の中心的な理論となっている5因子モデルまでの発展の歴史について説明した。第4回では、これまでの講義で説明してきた全てのパーソナリティに関わる理論が依って立つ前提である「個人のパーソナリティは一貫している」ということについて、批判的な観点も含めてどのように考えるべきかを学ぶ。
 講義の前半では、私たちが思っているほど、「同じ人物は一貫した行動パターンを示すわけではなく、状況が重要である」とするミシェルの指摘を受けて生じた、人の行動の原因において、「行為者の内的性質」と「行為者の置かれた状況」のどちらがより重要であるかについての論争(人間ー状況論争)を踏まえて、「パーソナリティの一貫性」とは何かということを説明する。具体的には、「パーソナリティの一貫性」にも捉え方による違いがあることについて説明する。まず、時間軸による変化についての一貫性である「経時的安定性」と、状況による変化についての一貫性である「通状況的一貫性」の違いについて説明する。
 講義の後半では、人間―状況論争においても問題となった一貫性の中でも重要な「通状況的一貫性」の考え方について、「絶対的一貫性」、「相対的一貫性」、「首尾一貫性」の3つの観点から説明する。最後に、これらの通状況的一貫性の中でも多くの研究者に指示されている「首尾一貫性」に基づき、パーソナリティを個人と状況の相互作用によって捉えようとする研究方法である相互作用論的アプローチについて説明する。
 今回の講義を通して、パーソナリティの一貫性について、複数の視点があることについて知り、個人のパーソナリティと状況の相互作用について理解することを目指す。

細目①、②、③、④
鈴木 公啓(編)(2012). 心理学における「性格」の位置づけ, 3, パーソナリティ心理学概論 ナカニシヤ出版
コマ主題細目 ① 人間ー状況論争 ② 継時的安定性と通状況的一貫性 ③ 首尾一貫性 ④ 相互作用論的アプローチ
細目レベル ① 人の行動の原因において、「行為者の内的性質」と「行為者の置かれた状況」のどちらがより重要であるかについての論争(人間―状況論争)を題材として、我々人間が、他者の行動をどのように帰属しがちなのかについて学ぶ。従来、パーソナリティ研究においては、「個人のパーソナリティはある程度変化せず一貫している」という前提の基に研究が行われてきた。これについて、ミシェル(1968)は、我々が思っているほど、同一人物が同じ一貫した行動を取るわけではなく、おかれた状況によって行動は変化すると批判した。一方で、人間には、他者の行動の原因を、その人の置かれた状況ではなく、その人の内的性質に求める(帰属する)傾向があることが知られている(基本的帰属のエラー)。これらの研究を基に、1960年代~1980年代には人の行動の原因として、「個人のパーソナリティ」が重要か、それとも「個人がおかれた状況」が重要かという人間―状況論争が生じた。ここでは、他者の行動の一貫性に対する我々の直感と、研究結果に食い違いがあることと、我々が他者の行動を個人の内的な性質に帰属しがちであることを学ぶ。
② パーソナリティの「一貫性」とは何かについて学ぶ。我々は日常においてあまり意識することが無いが、「パーソナリティが一貫している」という言葉の中には複数の意味が含まれている。具体的には、「一貫性」は2つの異なる軸に分けることができる。1つは、ある時点で見られた行動が、その後のある時点でも同じように安定してみられるかという時間的な一貫性、すなわち「継時的安定性」である。もう1つは、ある場面で見られた行動が、別の場面においても安定してみられるかという空間的な一貫性、すなわち「通状況的一貫性」である。ここでは、パーソナリティの「一貫性」について理解する上でベースとなる「継時的安定性」と「通状況的一貫性」の2つの考え方について学ぶ。
③ 「通状況的一貫性」を軸にしてパーソナリティの「一貫性」とは何かについてより深く学ぶ。「一貫性」についての視点のうち、時間的な一貫性である「継時的安定性」の存在については、多くの研究から支持されており、人間―状況論争においても主要な論点ではなかった。一方で、空間的な一貫性である「通状況的一貫性」はより多義的な概念であり、研究者によって捉え方が異なっている。ここでは、「通状況的一貫性」について、3つの概念に分けて整理する。具体的には、個人の状況によってパーソナリティは常に一貫しているとする「絶対的一貫性」、個人の行動はある程度変化するが、個人間での相対的位置づけは変わらないとする「相対的一貫性」、そして、ある状況と行動の間には安定したパターンが見られ、状況によって行動が変化しても全体としてパターンは一貫しているとする「首尾一貫性」についてそれぞれ説明する。これらの考え方を学ぶことを通じて、パーソナリティの一貫性とは何かについて多面的な視点から理解することを目指す。
④ 「首尾一貫性」を基にした研究のアプローチである、「相互作用論的アプローチ」について学ぶ。首尾一貫性とは、「ある状況と行動の間には安定したパターンが見られ、状況の違いによって行動が異なるとしても全体的なパターンが安定しているならば、一貫性がある」とする考え方である。この首尾一貫性の考え方を導入することにより、我々の他者の行動の一貫性に対する直感と研究結果のズレを説明することが可能となる。この首尾一貫性を理論的背景として、個人と状況の相互作用によってパーソナリティを捉えようとするアプローチを相互作用論的アプローチとよぶ。相互作用論アプローチの主要な手法として、「調整変数モデル」と「If-thenパターン」の2つが挙げられる。ここでは、相互作用論的アプローチに基づき、個人の内的性質と状況の相互作用によって他者の行動の一貫性のあり方について理解することを目指す。
キーワード ① 人間ー状況論争 ② 継時的安定性 ③ 通状況的一貫性 ④ 首尾一貫性 ⑤ 相互作用論的アプローチ
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】
配布資料を再度読み返し、理解しておく。

【予習】
次回のコマシラバスを読み、概要を頭に入れておく。また、コマシラバスに記載のキーワードについて書籍等を用いて調べた上で、分からない箇所をメモしておく。

5 知能の定義、構成要素の変遷とアセスメント 科目の中での位置付け  この科目の前半(第2回~第8回)では、心理学におけるパーソナリティの定義やパーソナリティの捉え方、研究手法の歴史的な変遷および現在に至るまでの発展の過程および、パーソナリティの異常とアセスメントおよび支援について学ぶ。第4回においては、これまでの講義で説明してきた全てのパーソナリティに関わる理論が依って立つ前提である「個人のパーソナリティは一貫している」ということについて、批判的な観点も含めてどのように考えるべきかについて説明した。第5回ではパーソナリティの中に含まれる「知能」に焦点を絞って説明する。
人のパーソナリティの構成要素として「知」・「情」・「意」に分ける考え方がある。第4回までの講義においては、外向性、神経質傾向、不安など、パーソナリティの中でも「情」もしくは「意」に当てはまると考えられる要素を扱ってきた。しかし、「知」も我々人間において個々人の性質を表現するものである。実際、心理学の個人差研究において知能研究が果たしてきた役割は非常に大きいと言える。また、知能研究は、現在、臨床心理学において利用されている知能検査の発展に大きく貢献した。
 講義の前半では、知能の定義について説明をした後、知能検査の開発の歴史とその発展について学ぶ。知能は様々な能力の複合体であり、現在においても研究者間で完全に一致した定義が定まっているわけではない。しかし、一般的に、心理学においては、「環境への適応能力」、「学習能力」、「抽象的思考力」の3つを知能とする考え方がある。まずこれらの定義について説明する。次に、現在でも使用されている知能検査が何故開発されたのか、またどのように発展してきたのかについての経緯を学ぶ。加えて、知能検査の特徴について学ぶ。特に標準化の作業に着目し、通常の学校の試験とどのように異なるのかを学ぶ。
 講義の後半では、再度、「知能」とは何なのかという原点に立ち返り、「知能がどのような構成要素によって成り立っているのか」について学ぶ。知能についての研究は、前半の講義で説明した知能検査を開発する研究から、徐々に知能がどのような構成要素から成り立っているかの研究に移っていった。この背景には、心理学において統計学的手法が確立されてきたことにより、知能研究において第3回で説明した因子分析的アプローチが導入できるようになったことがある。ここでは、知能研究における因子分析的アプローチの導入から、近年の発展に至るまでの経緯について学ぶ。

細目①、②、③
小塩 真司 (2010). はじめて学ぶパーソナリティ心理学―個性をめぐる冒険― ミネルヴァ書房

細目④
京都大学心理学連合(編)(2011). 心理学概論 ナカニシヤ出版
ハワード・ガードナー(著)松村暢隆(訳)(2001).MI:個性を生かす多重知能の理論 新曜社
コマ主題細目 ① 知能の定義 ② 知能検査の開発 ③ 知能の2因子説と多因子説 ④ 多重知能理論
細目レベル ① 知能の定義について学ぶ。「知能」という用語を始めて使用したのは19世紀のイギリスの哲学者ハーバード・スペンサーであると言われる。しかし、その後、現在に至るまで知能がどのようなものであるかについては、研究者間で完全に一致しているわけではない。従来の心理学では、知能について3つの視点からの定義が存在する。1つ目は、「反射」や「本能行動」など、全ての動物が持つ「環境への適応能力」である。2つ目は、「試行錯誤学習」や「洞察学習」など経験により身に付けることができる「学習能力」である。3つ目は、人間に固有と考えられている論理操作など抽象的思考力である。これらの知能に対する捉え方は、心理学概論の講義の第11回において説明された行動主義(学習心理学)や、第12回において説明された認知主義(認知心理学)から生まれたものである。ここでは、これらの「知能」の捉え方と、その限界について理解することを目指す。
② 知能検査の開発の歴史について学ぶ。知能について科学的な研究を始めたのは、ダーウィンの従兄であり、「心理測定の父」と呼ばれるゴールトンであった。ゴールトンは遺伝に着目し、知的能力が親から子へと遺伝すると考え、身体能力や作業能力など様々な測定を行った。しかし、現在の心理学における知能検査はフランスの心理学者ビネーと精神科医シモンによって開発された「ビネー式知能検査」の開発によって始まった。この知能検査には、「標準化」という作業を組み入れることで、ある子どもの知能が同じ年齢の集団内においてどの程度の位置にあるかを測定することができるという特徴がある。この知能検査の特徴について、通常の学校の試験と比較しながら説明する。また、ビネーは知能検査に精神年齢という概念を取り入れたが、これには様々な問題点があった。そのため、イギリスの心理学者シュテルンによって提唱された知能指数(Intelligent Quotient: IQ)が導入された。また、ビネー式知能検査が子どもの知能を測ることを目的としていたのに対し、アメリカの心理学者ウェクスラーは、大人の知能を測定するための検査を開発している。ここでは、知能検査の開発の歴史を学び、知能の測定について理解することを目指す。
③ 知能の構成要素についての研究の歴史について学ぶ。統計学的手法の発展と共に、第3回において説明したパーソナリティの特性論についての研究同様、知能の研究においても、知能検査開発の研究から「知能がどのような要素によって構成されているか」、すなわち知能の構成要素についての研究へと主軸が移っていった。具体的には、知能検査のデータを基に、因子分析を用いて、知能検査に含まれる下位検査(算数、知識など)をいくつかの要素に分類する試みである。特に、初期の研究において重要なのが、スピアマンの2因子説とサーストンの多因子説である。スピアマンは知能検査の下位検査のデータを因子分析することにより、知能を一般因子gと特殊因子gに分けることができることを示した。これは、複数の検査項目に共通する知能の要素があることを示している。一方で、サーストンは、同様に知能検査のデータを因子分析することで、56の検査項目から7つの知能因子が抽出できることを示しており、スピアマンの一般因子gは見いだせなかったことを示している。知能には一般因子gが存在するのか、それとも複数の因子の組み合わせなのかについての議論はその後も「g因子説」対「モジュール説」という形で継続していくことになる。ここでは、知能における因子分析的アプローチについて理解するとともに、2因子説と多因子説の違いについて理解することを目指す。
④ ガードナーによる多重知能モデルについて学ぶ。従来の知能研究は、知能検査で測定されたデータを基に因子分析を適用することで知能の要素を抽出するという形で行われてきた。一方で、「従来の知能検査では、人間の知能のあらゆる側面が測定できていない」とする考え方も現れてきた。例えば、学校の成績はトップクラスであっても、就職の面接で落ちてしまうこともある。実際、複数の研究により知能指数が高い人が必ずしも社会的に成功するわけではないことが示されている。こうした経緯を踏まえ、アメリカの心理学者ガードナーは神経心理学や発達心理学の知見を踏まえて、知能を7つに分類する多重知能理論を提唱している。この多重知能理論では、従来の知能とは異なり、音楽的知能、空間的知能、対人的知能などより多面的な形で知能を捉えるところが特徴といえる。ここでは、従来の知能理論の問題点を理解し、多重知能理論が示す新たな知能観の意義について理解することを目指す。
キーワード ① 知能検査 ② 精神年齢 ③ 知能指数 ④ 2因子説と多因子説 ⑤ 多重知能理論
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】
配布資料を再度読み返し、理解しておく。

【予習】
次回のコマシラバスを読み、概要を頭に入れておく。また、コマシラバスに記載のキーワードについて書籍等を用いて調べた上で、分からない箇所をメモしておく。

6 生まれか育ちか?(遺伝と環境がパーソナリティに与える影響) 科目の中での位置付け  この科目の前半(第2回~第8回)では、心理学におけるパーソナリティの定義やパーソナリティの捉え方、研究手法の歴史的な変遷および現在に至るまでの発展の過程および、パーソナリティの異常とアセスメントおよび支援について学ぶ。第5回においては、知能の定義と知能検査の開発の歴史、および知能の構成要素についての研究の展開について説明した。第6回では、遺伝と環境がパーソナリティにどのように影響を与えるかを学ぶ。この「遺伝か環境か」という問題は、これまでのパーソナリティ研究史上における中心的な問いの一つであった。
 講義の前半では、パーソナリティの形成に重要なのは「遺伝か環境か」ということについて、中世ヨーロッパにおけるデカルトの生得説とロックの経験説の対立を軸にして学ぶ。この中世における生得説と経験説の対立は近代の心理学にも引き継がれており、ゲゼルの成熟優位説や、ワトソンによる行動主義にも影響を与えたことについても説明する。
 講義の後半では、心理学者がそれまでの「遺伝か環境か」という二者択一的な考え方から、徐々に「遺伝も環境も」という考え方に変化していた経緯について学ぶ。具体的には、黎明期の理論であるドイツの心理学者シュテルンの「輻輳説」から、アメリカの心理学者ジェンセンの「環境閾値説」などを紹介し、発達における遺伝と環境の相互作用についての研究の歴史について学ぶ。

細目①、②
小塩 真司 (2010). はじめて学ぶパーソナリティ心理学―個性をめぐる冒険― ミネルヴァ書房

細目③、④
鈴木 公啓(編)(2012). 心理学における「性格」の位置づけ, 3, パーソナリティ心理学概論 ナカニシヤ出版
コマ主題細目 ① 生得説と経験説 ② 行動主義と成熟優位説 ③ 輻輳説と環境閾値説 ④ 遺伝と環境の相互作用
細目レベル ① 「遺伝か環境か」論争の始まりとなった中世ヨーロッパにおける生得説と経験説の対立について学ぶ。中世ヨーロッパにおいてフランスの哲学者デカルトは、人間の「こころ」の働きは生まれつき備わっていると考えた(生得説)。一方で、イギリスの哲学者ロックは、人間の「こころ」は生まれたときは白紙(タブララサ)のようなものであると考えた。この生得説と経験説の考え方は、その後の心理学の歴史において大きく影響を与えた。ここでは、生得説と経験説の考え方について理解することを目指す。
② 生得説と経験説の対立は、心理学の黎明期から成長期にも大きく影響した。そこで、近・現代心理学における「遺伝か環境か」の対立の歴史について学ぶ。まず、心理学の黎明期の研究として、人のあり方が遺伝によるものとするゴールトンの家系調査について学ぶ。第5回においても述べたとおり、ゴールトンは人の個人差における遺伝の役割を重視していた。しかし、ゴールトンは遺伝の役割について極端な立場を取ったため、人種改良などを目指す優生学の成立に繋がった。これに対して、経験を重視する立場としてワトソンの行動主義がある。ワトソンは優生学への反発から、動物や人間の行動は反射などを除いて全て学習によって成立するとした(経験主義)。このような極端な経験主義に対する批判として、ゲゼルの成熟優位説がある。
このように、近・現代心理学の歴史上においても「遺伝か環境か」は中心的な論点であった。ここでは、ゴールトンから始まる近現代心理学における「遺伝か環境か」論争について知り、その問題点について理解することを目指す。

③ 「遺伝か環境か」の対立を経て、心理学者がこころの形成において「遺伝も環境も」重要であるという考え方に至った経緯と、遺伝と環境の相互作用についての理論について学ぶ。まず、黎明期の研究として、ドイツの心理学者シュテルンの輻輳説について学ぶ。これは、「すべての特性は遺伝と環境の総和で決まる」とする説である。この説は遺伝と環境のいずれもがパーソナリティ形成に影響すると考えた点で革新的であった。ただし、遺伝と環境を完全に独立した存在として捉えており、遺伝と環境の相互作用については考慮していなかった。それに対して、アメリカの心理学者ジェンセンは、「遺伝の影響が発現するために必要な環境的要因の程度(閾値)が存在する」という環境閾値説を提唱した。この説は遺伝的要因の影響が環境要因によって左右されるとする点で、遺伝と環境の相互作用を考慮した説と言える。ここでは、パーソナリティ形成における「遺伝と環境」の影響についての研究の歴史上において重要な役割を果たした輻輳説と環境閾値説の考え方について理解することを目指す。

④ サメロフとチャンドラーの相乗的相互作用モデルについて学ぶ。ジェンセンの環境閾値説はパーソナリティ形成における遺伝と環境の相互作用を考慮した初めての理論であった。ただし、この環境閾値説は遺伝と環境のうち、遺伝的要因をより重視したモデルであった。これに対して、アメリカの心理学者サメロフとチャンドラーは「相乗的相互作用説」を提唱している。この説は、母子間の相互作用に着目したものである。具体的には、生まれつき備わった「こどもの気質」と「養育者の態度や関わり方」が時間経過の中で、絶え間なく相互に作用しあい、後のパーソナリティが形成されていくとするモデルである。このモデルは、遺伝と環境の相互作用について発展させ、かつ時間軸の概念を取り入れた点で特筆すべきモデルといえる。ここでは、相乗的相互作用モデルの考え方について理解するとともに、それぞれのモデルにおける「遺伝と環境の相互作用」についての考え方を整理することを目指す。
キーワード ① 生得説 ② 経験説 ③ 輻輳説 ④ 環境閾値説 ⑤ 相乗的相互作用説
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】
配布資料を再度読み返し、理解しておく。

【予習】
次回のコマシラバスを読み、概要を頭に入れておく。また、コマシラバスに記載のキーワードについて書籍等を用いて調べた上で、分からない箇所をメモしておく。

7 行動遺伝学と遺伝率 科目の中での位置付け  この科目の前半(第2回~第8回)では、心理学におけるパーソナリティの定義やパーソナリティの捉え方、研究手法の歴史的な変遷および現在に至るまでの発展の過程および、パーソナリティの異常とアセスメントおよび支援について学ぶ。第6回においては、遺伝と環境がパーソナリティにどのように影響を与えるかを学んだ。特に、「遺伝か環境か」という対立から、遺伝と環境の相互作用へと考え方が変化していった経緯と、主要な理論の内容について学んだ。
第7回では、パーソナリティの形成における遺伝と環境の相互作用について、現代の研究において中心的な役割を果たしている行動遺伝学の手法と考え方について学ぶ。
講義の前半では、行動遺伝学の手法の中でも最もよく使われる手法である双生児法について学ぶ。双生児法では、一卵性双生児と二卵性双生児を比較することで、個人差に及ぼす遺伝の影響を調べる。この双生児法における遺伝と環境の影響の考え方について説明する。また、双生児法を用いた研究によって明らかになってきたパーソナリティ特性における遺伝率と、発達過程における遺伝率の変化について学ぶ。双生児研究では、身体的特徴はほとんど遺伝によって決まること、5因子などのパーソナリティ特性には遺伝と環境がおよそ半々で影響することが示されている。加えて、第6回で説明したように、遺伝と環境は独立にパーソナリティに影響するわけではない。実際には、遺伝の発現の仕方は環境によって異なることが示されている。ここでは、遺伝の発現が環境によってどのように調整されるかについて学ぶ。
講義の後半では、双生児法の限界について説明するとともに、新たな手法である分子遺伝学的アプローチについて学ぶ。双生児法を用いた研究によって、パーソナリティ形成における遺伝と環境の影響について様々な知見が蓄積されてきた。ただし、双生児法では「どのような遺伝子がパーソナリティに影響しているか」を明らかにすることはできない。そこで、近年、急速に発展を遂げた学問分野である分子遺伝学の手法がパーソナリティ研究にも導入されつつある。最後に、現在進行形で行われている分子遺伝学的アプローチを用いたパーソナリティ研究について紹介する。ここでは、パーソナリティの形成における遺伝と環境の相互作用についての研究分野である行動遺伝学の考え方とその主要な手法である双生児法について学ぶ。また、双生児法の限界と新たな手法である分子遺伝学的アプローチの台頭について学ぶ。

細目①、②
鈴木 公啓(編)(2012). パーソナリティ心理学概論 ナカニシヤ出版

細目③
中間 玲子 (2020). 感情・人格心理学―「その人らしさ」をかたちづくるもの― ミネルヴァ書房
杉浦 義典(編)(2020). 公認心理師の基礎と実践9 感情・人格心理学 遠見書房
エレーヌ・フォックス(著)森内 薫(訳)(2014).脳科学は人格を変えられるか? 文藝春秋
コマ主題細目 ① 行動遺伝学と双生児法 ② 遺伝と環境の相互作用 ③ 分子遺伝学
細目レベル ① パーソナリティ形成における遺伝と環境の影響について調べる学問である行動遺伝学について学ぶ。行動遺伝学の中心的な手法として、双生児法について学ぶ。双生児法とは、遺伝子を100%共有している一卵性双生児と50%共有している二卵性双生児を比較することにより、遺伝の影響と環境の影響について明らかにする手法である。行動遺伝学では、ふたごに与える遺伝と環境の影響を3つに分けて考える。すなわち、遺伝の影響と、ふたごが共有している家庭環境(共有環境)の影響、ふたごがそれぞれに経験した固有環境(非共有環境)の影響である。また、これらのうち、遺伝によって説明される個人差の割合を「遺伝率」と呼ぶ。ここでは、行動遺伝学の考え方および、双生児法における遺伝と環境の影響についての考え方を理解することを目指す。
② 行動遺伝学的アプローチによるパーソナリティ形成における遺伝と環境の相互作用について学ぶ。双生児法を用いた研究では、基本的に遺伝と環境のそれぞれの効果を独立したものとして扱う。しかし、第6回において説明した通り、実際のパーソナリティ形成においては、遺伝と環境は完全に独立に影響するわけではなく、遺伝と環境は相互作用的に影響することが明らかになっている。例えば、ある特定の遺伝子を持った人が特定の環境を経験しやすくなること(遺伝環境相関)や、異なる遺伝子型を持った人が、同じ環境に対して異なる反応をすること(遺伝環境交互作用)などが示されている。ここでは、パーソナリティにおける遺伝と環境の相互作用についての考え方について理解することを目指す。
③ 双生児法の限界について知るとともに,パーソナリティ研究における分子遺伝学的アプローチについて学ぶ。これまでの双生児法を用いた研究によって、パーソナリティ形成における遺伝と環境の影響について様々なことが明らかになってきた。しかし、双生児法では遺伝と環境がどの程度パーソナリティに影響するかは分かっても、「どの遺伝情報がパーソナリティに影響するか」については分からないという問題点がある。そこで、近年、生物学の分野で急速に発展を遂げた分子遺伝学の手法をパーソナリティ研究に導入する試みが始まっている。分子遺伝学とは、生物の遺伝現象を分子レベルで解明する学問分野である。この分子遺伝学による研究手法としては、関連しそうな遺伝子に絞って遺伝子の影響について検討する「候補遺伝子アプローチ」と、全ての遺伝情報の影響を網羅的に検討する「ゲノムワイド解析」の2つが挙げられる。現状では、人のパーソナリティ形成に大きく影響する遺伝子が見付かっているわけではないが、これらの手法により、少しずつ知見が蓄積されつつある。ここでは、現在進行形で発展しているパーソナリティ研究における分子遺伝学的アプローチについて主要な研究を紹介しつつ、概要を理解することを目指す。
キーワード ① 行動遺伝学 ② 双生児法 ③ 遺伝率 ④ 遺伝と環境の相互作用 ⑤ 分子遺伝学
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】
配布資料を再度読み返し、理解しておく。

【予習】
次回のコマシラバスを読み、概要を頭に入れておく。また、コマシラバスに記載のキーワードについて書籍等を用いて調べた上で、分からない箇所をメモしておく。

8 パーソナリティの正常・異常の基準とパーソナリティ障害 科目の中での位置付け  この科目の前半(第2回~第8回)では、心理学におけるパーソナリティの定義やパーソナリティの捉え方、研究手法の歴史的な変遷および現在に至るまでの発展の過程および、パーソナリティの異常とアセスメントおよび支援について学ぶ。第7回においては、パーソナリティ形成における遺伝と環境の相互作用についての研究分野である行動遺伝学の考え方について学んだ。特に、行動遺伝学の主要な手法である双生児法を取り上げ、その特徴と限界について学んだ。第8回では、パーソナリティの異常、すなわちパーソナリティ障害の定義と分類、およびパーソナリティ障害の原因について学ぶ。パーソナリティ障害について知ることは、正常なパーソナリティについて理解を深める上で重要である。
 講義の前半では、「正常なパーソナリティとは何か」、「パーソナリティの正常と異常を区別する基準とは何なのか」について、精神医学的基準と臨床心理学的基準から説明する。また、パーソナリティ障害の定義および分類についての歴史について説明する。具体的には、最初期のクレペリンによる定義および分類から、現代の米国精神医学会の診断基準であるDSM-5による定義および分類まで説明する。
 講義の後半では、パーソナリティ障害の連続性についての考え方と、原因モデルについて学ぶ。従来のパーソナリティ障害の分類では、パーソナリティ障害を類型論的に分類することで健常者とは質的に異なるものとして捉えてきたが、現在では、正常なパーソナリティと異常なパーソナリティの間の連続性を仮定する考え方も取り入れられている。こうした連続性を仮定した場合の研究について説明する。また、パーソナリティ障害の原因については未だ明らかになっているわけではないが、現在、パーソナリティ形成における遺伝と環境の相互作用についての考え方を取り入れた原因モデルが提案されている。そこで、いくつかのパーソナリティ障害の原因モデルについて説明する。

細目①、②
杉浦 義典(編)(2020). 公認心理師の基礎と実践9 感情・人格心理学 遠見書房

細目③、④、⑤
中間 玲子 (2020). 感情・人格心理学―「その人らしさ」をかたちづくるもの― ミネルヴァ書房
コマ主題細目 ① パーソナリティの正常と異常 ② パーソナリティ障害の定義 ③ 医学モデルと連続モデル ④ パーソナリティ障害の原因モデル
細目レベル ① パーソナリティを正常と異常に分ける基準について学ぶ。正常なパーソナリティとはどのようなものかについて、Smith et al. (2003) のパーソナリティ正常性の基準にもとづいて説明を行う。また、医学モデルに基づく精神医学的基準と、個人や周囲が問題を抱えているか否かで判断する臨床心理学的基準でも正常と異常の判断は異なることを説明する。とりわけ、臨床心理学的なアセスメントを実施する際においては、臨床心理学的基準についてしっかり理解しておくことが求められる。ここでは、パーソナリティの正常と異常がどのように分けられるのか、その判断の基準について、医学モデルと臨床心理学モデルの両面から理解することを目指す。
② パーソナリティ障害の定義について学ぶ。パーソナリティ障害の捉え方や分類方法は、時代や研究者によって様々であった。例えば、最初期にパーソナリティ障害(従来は精神病質人格と呼ばれていた)を定義、分類したクレペリンは、パーソナリティ障害を正常と精神病の中間に位置すると考えていた。一方で、シュナイダーはパーソナリティ障害を正常からの逸脱として捉えていた。このような考え方の変遷を経て、現在では、米国精神医学会の作成している「精神障害の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual for Mental Disorders: DSM)」や、世界保健機関による国際疾病分類(ICD)によって、国際的に統一された分類および診断の基準が作成されている。ここでは、パーソナリティ障害の定義および分類の歴史的変遷と、現在の医療・臨床場面で用いられている診断基準について理解することを目指す。
③ 従来の医学モデルによってパーソナリティ障害を捉えることの問題点と、パーソナリティ障害を正常と病理の連続性の中で捉える近年の考え方について学ぶ。DSMを含めた従来の医学モデルではパーソナリティ障害をカテゴリによって分類することで捉えてきた。この医学モデルでは、第2回の講義で説明したパーソナリティの類型論と同様、類型に基づいてパーソナリティ障害を分類するという点で様々な問題があった。こうした従来の医学モデルに対して、近年、正常と異常は連続的に変化するとする連続モデルの考え方も取り入れられつつある。特に、正常と異常の間に連続性が仮定される場合の研究手法としてアナログ研究を紹介する。ここでは、従来の医学モデルの問題点を抑えつつ、パーソナリティと病理の連続性についての近年の考え方と研究手法について理解することを目指す。
④ パーソナリティ障害の原因モデルとして,脆弱性ストレスモデルおよび被影響性モデルについて学ぶ。第6、7回の講義において、現在のパーソナリティ研究では、パーソナリティの形成において遺伝と環境の相互作用が重視されていることを学んだ。現状において、パーソナリティ障害の原因についてはほとんど解明されていないが、やはり遺伝と環境の相互作用によって生じるとする考え方が中心となりつつある。例えば、個人が持つ脆弱性(素因)の違いにより、ストレスから受ける影響の大きさが異なり、病理の発症しやすさが異なるとする脆弱性ストレスモデルなどが挙げられる。ここでは、パーソナリティ障害を生じる原因モデルとして脆弱性ストレスモデルと被影響性モデルについて学び、パーソナリティ障害の原因について理解を深めることを目指す。
キーワード ① パーソナリティの正常と異常 ② 医学モデルと連続モデル ③ アナログ研究 ④ 脆弱性ストレスモデル ⑤ 被影響性モデル
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】
配布資料を再度読み返し、理解しておく。

【予習】
次回のコマシラバスを読み、概要を頭に入れておく。また、コマシラバスに記載のキーワードについて書籍等を用いて調べた上で、分からない箇所をメモしておく。

9 感情の定義と位相、および感情と理性の関係 科目の中での位置付け  第8回においては、パーソナリティの異常、すなわちパーソナリティ障害の定義と分類、およびパーソナリティ障害の原因について学んだ。第9回の講義の前半では、感情心理学の講義内容に入る前に、第2回~第8回までで学んできたパーソナリティ心理学について全体的な復習を行い、知識の定着を図る。特に、類型論と特性論の違いや、パーソナリティの一貫性についての考え方、パーソナリティ形成における遺伝と環境の相互作用などパーソナリティ研究における主要なトピックを中心として振り返りを行う。
 この科目の後半(第9回~第15回)では、心理学における感情の定義や感情の位相、感情研究における主要な理論の現在に至るまでの発展の過程および、感情の仕組みについて学ぶ。
 第9回の講義の後半では、心理学における感情の定義と感情の位相、および古代から中世ヨーロッパを経て現代に至るまでの感情観について学ぶ。まず、感情の定義について、関連する用語の示す意味と相違について説明する。次に、感情を構成する位相(要素)について、細かく分解することを通じて感情の仕組みについて概説する。最後に、「感情とは何か」を考える上で重要なテーマである「感情と理性」の関係について、これまでどのように捉えられてきたか,古代ギリシア~現代に至るまでの歴史を学ぶ。

細目②
濱 治世・鈴木直人・濱 保久 (2001). 感情心理学への招待―感情・情緒へのアプローチ― サイエンス社

細目③
梅本 尭夫・大山 正(編著)(1994). 心理学史への招待―現代心理学の背景― サイエンス社
アリストテレス(著)桑子 敏雄(訳)(1999).心とは何か 講談社学術文庫
デカルト(著)井上 庄七・森 啓・野田 又夫(訳)(2002). 省察/ 情念論 中公クラシックス

細目④
アントニオ・R・ダマシオ(著)田中 三彦(訳)(2010). デカルトの誤り―情動、理性、人間の脳― ちくま学芸文庫
コマ主題細目 ① 前半の復習 ② 感情の定義と感情の位相 ③ 古代・中世ヨーロッパにおける感情観 ④ ソマティックマーカー仮説
細目レベル ① 知識の定着を図るため、前半の復習を行う。前半の講義において説明したパーソナリティ研究の内容を取り上げて、しっかりと理解できているか確認作業を行う。具体的には、「パーソナリティ研究における類型論と特性論の違い」、「パーソナリティの一貫性とは何か」、「パーソナリティ形成における遺伝と環境の影響についての考え方にはどのようなものがあるか」、「パーソナリティの正常と異常を分ける基準にはどのようなものがあるか」など、パーソナリティ研究において重要なトピックについて受講者に対して発問を行い解答を求める。受講者の理解が不十分な点については補足説明を行う。
② 感情の定義および位相について学ぶ。パーソナリティ同様、感情もまた直接観察することのできない心理学的構成概念であり、用語に対する定義が重要となる。感情に関連する用語にも、「情動」、「情緒」、「気分」など様々なものがあるため、それぞれの用語の持つニュアンスの違いについて説明する。また、これらの用語は英語にルーツがあることから、英語の用語との対応についても説明する。次に、感情の位相(構成パーツ)について学ぶ。感情は直接観察できない構成概念であり、そのままでは捉えどころのない曖昧なものである。しかし、感情が生起する過程をいくつかの位相に分けることにより、「感情がどのようなものであるか」を把握することができる。感情の位相は、大きく「認知的評価」、「感情状態」、「感情体験」、「感情表出」の4つに分けることができる。これらの感情の位相について説明する。感情の位相の分類を知ることによって、感情の仕組みについて理解を深めることができる。ここでは、第10回以降の講義の内容を深く理解する上での基盤となる感情の定義および位相について理解することを目指す。
③ 古代ギリシア・ローマ時代から中世ヨーロッパにおける感情および理性についての捉え方について学ぶ。古代ギリシアから西欧哲学においては感情と理性は対立するものであるとする考え方が主流であった。まず、古代ギリシアの感情観として、プラトンの「魂の三分説」について説明する。古代ギリシア時代の哲学者プラトンは魂(こころ)を理性、気概、欲望の3つに分けている。また、馬車の比喩により、感情(気概と欲望)は理知によって操縦されるものであると考えていた。この考え方はローマ時代を経て中世にも受け継がれた。次に、中世ヨーロッパにおける感情観として、フランスの哲学者デカルトによる「情念論」について説明する。デカルトは、精神(こころ)を能動的な働きである「意志」と受動的な働きである「情念(感情)」に分けている。デカルトは情念(感情)が生きるために必要なさまざまな機能を持っていると考えていたが、同時に、欠陥を持ったものであり、理性と経験によってコントロールする必要があると考えていた。ここでは、古代ギリシアから中世ヨーロッパにおける感情観を学び、理性と感情の捉え方について理解することを目指す。
④ フィネアス・ゲージの事例を基に,感情が理性を支えるとする考え方であるソマティックマーカー仮説について学ぶ。まず19世紀の炭鉱夫であったPhineas gageの例を挙げて、前頭葉の損傷による感情の消失が理性的判断を損ねることを説明する。次に、神経科学者であるダマシオの研究を紹介し、感情が理性的判断において重要な役割を果たしていることを説明する。ダマシオらが開発したアイオワ・ギャンブリング課題による実験では、健常者において生じる損失回避傾向が前頭葉損傷患者では生じないことが報告されている。また、健常者が危険な賭けをする際に生じる生理的反応が前頭葉損傷患者では生じないことも示されている。ここでは、Phineas gageの症例やアイオワ・ギャンブリング課題などの研究を通じて明らかになってきた、感情が理性的判断を支える役割を果たしているという考え方について理解することを目指す。
キーワード ① 感情の定義 ② 感情の位相 ③ 魂の三分説 ④ 情念論 ⑤ ソマティックマーカー仮説
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】
配布資料を再度読み返し、理解しておく。

【予習】
次回のコマシラバスを読み、概要を頭に入れておく。また、コマシラバスに記載のキーワードについて書籍等を用いて調べた上で、分からない箇所をメモしておく。

10 「怖いから逃げる?」それとも「逃げるから怖い?」―ジェームズ説とその限界 科目の中での位置付け  この科目の後半(第9回~第15回)では、心理学における感情の定義や感情の位相、感情研究における主要な理論の現在に至るまでの発展の過程および、感情の仕組みについて学ぶ。第9回の講義では、心理学における感情の定義と感情の位相、および古代から中世ヨーロッパを経て現代に至るまでの感情観について学んだ。第10回の講義では、心理学において最も古典的かつ有名な感情理論の一つであるジェームズ・ランゲ説を中心として、その理論の特徴と、限界について学ぶ。
 講義の前半では、デンマークの生理学者ランゲによる研究の知見を基に、アメリカの心理学者ジェームズによって提唱された「ジェームズ・ランゲ説」について学ぶ。ジェームズ・ランゲ説は、「環境に対する身体的な反応が情動経験を引き起こす」とする考え方であり、「末梢起源説」とも呼ばれる。このジェームズ・ランゲ説を引き継ぐ形で発展した理論として、顔面フィードバック仮説および感情血流理論がある。一方で、ジェームズの弟子であったキャノンは、「身体反応ではなく、脳の中にある視床が情動を引き起こす上で重要な役割を果たす」という批判を行っている。ここでは、ジェームズ・ランゲ説の特徴とその問題点について説明する。
 講義の後半では、シャクターによる「情動二要因理論」について学ぶ。アメリカの心理学者シャクターは、ジェームズ・ランゲ説やキャノン・バード説などに基づき、「生理的覚醒」と「状況の認知」が情動経験を引き起こすという情動二要因理論を提唱した。ここでは、情動の二要因理論に基づいて,どのように感情経験が生じるかを学ぶ。

細目①、③
梅田 聡・小嶋 祥三(監修)(2020). 感情―ジェームズ/ キャノン/ ダマシオ 岩波書店

細目②
ランドルフ・R・コーネリアス(著)齋藤 勇(監訳)(1999).感情の科学―心理学は感情をどこまで理解できたか― 誠信書房
吉川 左紀子・益谷 真・中村 真(編)(1993).顔と心―顔の心理学入門― サイエンス社

細目④
下條 信輔 (1996). サブリミナル・マインド―潜在的人間観のゆくえ― 中公新書
ランドルフ・R・コーネリアス(著)齋藤 勇(監訳)(1999).感情の科学―心理学は感情をどこまで理解できたか― 誠信書房
コマ主題細目 ① ジュームズ・ランゲ説 ② 顔面フィードバック仮説 ③ キャノン・バード説 ④ 情動二要因理論
細目レベル ① 心理学の黎明期におけるアメリカの哲学者・心理学者ジェームズによって提唱されたジェームズ・ランゲ説について学ぶ。ジェームズは、同時代の生理学者であるランゲの研究に基づいて、「身体変化が感情経験を引き起こす」という考えを提唱した。彼は、日常生活において常識として考えられている「まず感情を誘発する刺激(例えばヘビ)を知覚した後に感情(例えば恐怖)を経験し、反応を表出する(例えば逃げる)」という感情経験の順序は誤りであると考えた。ジェームズの感情理論においては、「身体変化」が中心的な役割を果たしている。ここでは、後世の感情理論に強く影響を与えたジェームズ・ランゲ説について学び、身体的変化と感情経験の関係について理解することを目指す。
② ジェームズ・ランゲ説の派生形である顔面フィードバック仮説と顔面血流理論について学ぶ。ジェームズは感情経験の生起において、「身体的変化」が重要であると述べた。一方で、ジェームズは「身体的変化が何であるか」について具体的には示さなかった。実際、このジェームズ・ランゲ説を検証するために末梢神経系や内臓の働きに着目した研究が数多く行われた。一方で、感情表出において重要な役割を果たしている顔面筋に着目したのがトムキンスの「顔面フィードバック仮説」である。この説は、「顔の動きを知覚することによって感情経験が生じる」とする考え方である。また、これに類似した説として、ザイアンスは「顔面筋の動きにより顔面の血流が制御され、脳の血流調整として機能する」とする「感情血流理論」を示している。ここでは、顔面フィードバック仮説および顔面血流理論を紹介し、表情が感情経験に及ぼす影響について理解することを目指す。
③ 感情経験についてのキャノン・バード説を学ぶ。ジェームズの弟子であったキャノンは、様々な感情状態における交感神経の活動や、内臓の活動の変化についての研究の知見などを基に、ジェームズ・ランゲ説を批判した。特に、身体的変化では感情経験の違いを区別できないとした。そして、感情経験は身体的変化ではなく、「脳の中の働き、特に視床と呼ばれる領域の活動によって生じる」とするキャノン・バード説を示した。ここでは、キャノンによる批判に基づきジェームズ・ランゲ説の問題点について理解するとともに、キャノン・バード説の特徴について理解することを目指す。
④ シャクターによる情動二要因理論について学ぶ。ジェームズ・ランゲ説は感情経験における「身体的変化」の重要性を強調した理論であった。しかし、アメリカの心理学者シャクターは、感情経験を生じるには身体的変化だけでは不十分であるとした。シャクターは生理的な覚醒を高める薬物であるエピネフリンを用いた実験(エピネフリン実験)を行い、同じ生理的覚醒が生じた状態の参加者であっても、その参加者が状況をどのように捉えているか(認知しているか)によって感情の生起の仕方は変化することを示した。このことから、感情経験の生起において、生理的覚醒と状況の認知の二つの要因が必要であるとする「情動二要因理論」を示している。ここでは、情動二要因理論を通じて感情経験の仕組みについて理解することを目指す。
キーワード ① ジュームズ・ランゲ説 ② 顔面フィードバック仮説 ③ 感情血流理論 ④ キャノン・バード説 ⑤ 情動二要因理論
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】
配布資料を再度読み返し、理解しておく。

【予習】
次回のコマシラバスを読み、概要を頭に入れておく。また、コマシラバスに記載のキーワードについて書籍等を用いて調べた上で、分からない箇所をメモしておく。

11 感情経験における認知説と無意識の役割 科目の中での位置付け 感情経験において,状況の認知がどのように影響するかを学ぶ。
感情の2重経路説について学ぶ。
感情,特に恐怖の喚起における扁桃体の役割について学ぶ。

細目①、②
ランドルフ・R・コーネリアス(著)齋藤勇(監訳)(1999). 感情の科学―心理学は感情をどこまで理解できたか― 誠信書房

細目③、④
ジョセフ・ルドゥー(著)松本 元・川村 光毅他(訳) (2003). エモーショナル・ブレイン―情動の脳科学― 東京大学出版会
コマ主題細目 ① 認知説 ② 統制的処理と自動的処理 ③ 2重経路説 ④ 扁桃体の役割
細目レベル ① 感情経験における認知説について学ぶ。認知説はアーノルドによって提唱されたものである。ラザルスは主にストレスに対する対処(コーピング)について理論を発展させ,認知-動機づけ関係理論を提唱した。

② ザイアンスによる閾下プライミングの実験をとおして,状況の意識的な認知が感情経験を生じる上で必要条件ではない可能性について学ぶ。認知には,無意識的に行われる情報処理過程である自動処理と,意識的に行われる情報処理である統制的処理がある。

③ 感情の2重経路説について学ぶ。感情の2重経路説とは,情動が生じる脳の過程には,素早く無意識的に処理される経路(視床-扁桃体経路)と,比較的ゆっくり意識的に処理される経路(皮質経路)があるという考え方である。
④ 感情の2重経路説における扁桃体の役割について学ぶ。扁桃体損傷ラットでは恐怖条件づけが生じないこと,また,扁桃体を損傷したヒトでは恐怖表情を認識できず,顔の眼の部分を観ることができないことを学ぶ。これらのことから,視床-扁桃体経路が自動的処理にかかわっていることを理解する。
キーワード ① 認知説 ② 統制的処理 ③ 自動的処理 ④ 2重経路説 ⑤ 扁桃体
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】
配布資料を再度読み返し、理解しておく。

【予習】
次回のコマシラバスを読み、概要を頭に入れておく。また、コマシラバスに記載のキーワードについて書籍等を用いて調べた上で、分からない箇所をメモしておく。

12 楽しい時には楽しい出来事を思い出しやすい?(感情が認知に与える影響) 科目の中での位置付け 感情が注意に与える影響を学ぶ。
感情が記憶や意思決定に及ぼす影響を学ぶ。

細目①、④
中間 玲子 (2020). 感情・人格心理学―「その人らしさ」をかたちづくるもの― ミネルヴァ書房

細目②、③
高橋 雅延・谷口 高士(編著) (2002). 感情と心理学―発達・生理・認知・社会・臨床の接点と新展開― 北大路書房
コマ主題細目 ① 不安障害と注意バイアス ② 気分状態依存効果 ③ 気分一致効果 ④ 気分障害と時間割引率
細目レベル ① 感情が注意に及ぼす影響について学ぶ。まず、選択的注意について学ぶ。選択的注意を測定する課題であるドットプローブ課題について学ぶ。この課題は,特に感情と注意の関係について調べる際によく用いられる。不安障害について学ぶ。不安障害の患者や不安特性の高い人では,外界の脅威情報に対して過度に注意が向きやすいバイアスを持っている。このような不快情報への過剰な処理が不安な障害の精神的健康低下につながる可能性が指摘されている。
② 気分状態依存効果について学ぶ。気分状態依存効果とは,ある気分のときに経験した出来事が,再び同じ気分になった時に想起されやすくなる現象のことを指す。気分と感情の違いについても説明する。
③ 気分一致効果について学ぶ。気分状態依存効果は,ある感情状態で経験したことを同じ感情状態のときに思い出しやすいという現象であるが,気分一致効果とは,特定の気分のときに,その気分と一致する感情価(快-不快)をもつ内容の処理が促進されることである。記憶プロセスにおける符号化-貯蔵-検索システムについても解説を行う。
④ 時間割引率について学ぶ。また,感情とかかわる精神疾患において,時間割引率との関連が示されていることを学ぶ。


キーワード ① 選択的注意 ② 注意バイアス ③ 気分状態依存効果 ④ 気分一致効果 ⑤ 時間割引率
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】
配布資料を再度読み返し、理解しておく。

【予習】
次回のコマシラバスを読み、概要を頭に入れておく。また、コマシラバスに記載のキーワードについて書籍等を用いて調べた上で、分からない箇所をメモしておく。

13 基本情動理論と表情認知 科目の中での位置付け 感情は経験されるだけではなく,表情やボディランゲージという形で表出される。われわれは,他者の感情表出を認知し,理解することができる。
基本情動理論を提唱したエクマンらは,解剖学的知見を踏まえていくつかの表情筋の組み合わせであるアクション・ユニットを用いることで,多種多様な表情が表出できることを示している。またアクション・ユニットを利用することで顔写真からその人物の表情筋の動きをコード化するシステムであるFacial Action Coding System(FACS)を開発している。

細目①
ランドルフ・R・コーネリアス(著)齋藤勇(監訳)(1999). 感情の科学―心理学は感情をどこまで理解できたか― 誠信書房

細目②
ポール・エクマン(著)菅 靖彦(訳) (2006). 顔は口ほどに嘘をつく 河出書房新社

細目③、④
ジャン・デセティ・ウィリアム・アイクス(編著)岡田 顕宏(訳)(2016). 共感の社会神経科学 勁草書房
串崎 真志 (2013). 共感する心の科学 風間書房
コマ主題細目 ① 基本情動理論 ② 表情筋の働きとFACS ③ 表情模倣とその障害 ④ 共感の仕組み
細目レベル ① ダーウィンによる著作『人間と動物の表情について』に記述されている内容を学ぶ。新ダーウィン主義の感情研究者であるエクマンによる比較文化研究を通じて,文化に依らない普遍的な表情の認知と表出についての考え方を学ぶ。エクマンらによって提唱された基本情動理論について学ぶ。

② 表情における筋肉の動きについて学ぶ。ドュシェンヌスマイルについて学ぶ。意図的に動かせる筋肉と意図的に動かせない筋肉があること,また我々が他者の筋肉運動のうち,意図的な筋肉運動と非意図的な筋肉運動を識別し,真の表情と偽の表情を区別していることを学ぶ。微表情について学ぶ。ドュシェンヌスマイルと併せ,表情の意識的統制の限界について理解する。

③ 他者の表情を見ることで、観察者の表情も動く現象である表情模倣が知られている。表情模倣は、観察者が気付かない僅かな時間であっても生じることが知られており、自動的・無意識的な仕組みであると考えられている。また、表情模倣は、発達の早期(乳幼児期)に獲得される機能であることが示されている。一方で、他者のこころの理解に問題を生じる自閉スペクトラム症などでは自動的な表情模倣が生じないなどの報告がなされている。
④ 共感には、他者のこころの状態を理解するシステムである「認知的共感」と、他者の感情と同じ感情が喚起されるシステムである「情動的共感」があるとされる。
健常者では、これらのシステムが相互作用的に働くことで、他者へ共感することが可能となっていると考えられる。一方で、自閉スペクトラム症では、他者のこころの状態の認知的理解が困難であることから、「認知的共感」のシステムが、サイコパシーでは、他者への情動喚起が生じにくいことから、「情動的共感」のシステムに問題があると考えられる。

キーワード ① 基本情動理論 ② FACS ③ ドゥシェンヌ・スマイル ④ 表情模倣 ⑤ 共感
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】
配布資料を再度読み返し、理解しておく。

【予習】
次回のコマシラバスを読み、概要を頭に入れておく。また、コマシラバスに記載のキーワードについて書籍等を用いて調べた上で、分からない箇所をメモしておく。

14 普遍的な基本情動はあるのか?―基本情動説への批判― 科目の中での位置付け 基本情動理論への批判についてとりあげ,基本情動理論の限界について理解を深める。

細目①、②、③
ランドルフ・R・コーネリアス(著)齋藤勇(監訳)(1999). 感情の科学―心理学は感情をどこまで理解できたか― 誠信書房

細目③
日本感情心理学会(企画)内山 伊知郎(監修) (2019). 感情心理学ハンドブック 北大路書房
コマ主題細目 ① 離散的感情の問題点 ② 感情の次元説による批判 ③ 文化心理学による批判 ④ 社会構成主義による批判
細目レベル ① 基本情動説への批判のうち,感情を離散的に捉えようとする点(カテゴリ説)への批判について取り上げる。
② 感情の次元説について取り上げる。

③ 基本情動説への批判のうち,文化的背景による表情認知の差異の指摘について取り上げる。
④ 感情の社会構成主義について取り上げる。社会構成主義はエイブリルによって提唱されたものであり,基本情動理論を痛烈に批判するものであった。
キーワード ① カテゴリ説 ② 次元説 ③ 文化心理学 ④ 社会構成主義
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】
配布資料を再度読み返し、理解しておく。

【予習】
次回のコマシラバスを読み、概要を頭に入れておく。また、コマシラバスに記載のキーワードについて書籍等を用いて調べた上で、分からない箇所をメモしておく。

15 感情は表情以外からも読み取られる?―感情評価に与える文脈情報の影響― 科目の中での位置付け 感情評価には,ジェスチャーなど表情以外の身体情報,声などの異なるモダリティ情報,表情が表出される前後の文脈,背景情報などの様々な周辺情報が影響する。

細目①、②、③
兵藤 宗吉・野内 類(編著) (2013). 認知心理学の冒険―認知心理学の視点から日常生活を捉える― ナカニシヤ出版
リサ・フェルドマン・バレット(著)高橋 洋(訳)(2019). 情動はこうしてつくられる―脳の隠れた働きと構成主義的情動理論― 紀伊国屋書店
コマ主題細目 ① 顔以外の身体による影響 ② 異なるモダリティ情報による影響 ③ 前後の文脈や背景による影響 ④ 後半の復習
細目レベル ① 表情そのものだけではなく,ジェスチャーによっても表情の解釈が異なることを学ぶ。

② 感情的な発声など,視覚以外の感情情報が表情の解釈に影響することを学ぶ。

③ 前後の文脈や背景となる情報によって表情の解釈が変化することを学ぶ。

④ 後半の復習を行う。
キーワード ① ジェスチャー ② 感情的な発声 ③ 臭気 ④ 文脈 ⑤ クレショフ効果
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】
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【予習】
次回のコマシラバスを読み、概要を頭に入れておく。また、コマシラバスに記載のキーワードについて書籍等を用いて調べた上で、分からない箇所をメモしておく。

16 科目の中での位置付け
コマ主題細目
細目レベル
キーワード
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト
復習・予習課題
17 科目の中での位置付け
コマ主題細目
細目レベル
キーワード
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト
復習・予習課題
18 科目の中での位置付け
コマ主題細目
細目レベル
キーワード
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト
復習・予習課題
履修判定指標
履修指標履修指標の水準キーワード配点関連回
心理学における人格と感情の位置づけと定義 心理学における人格心理学および感情心理学の位置づけについて理解しており、人格心理学および感情心理学における用語の定義やそれぞれの差異について理解している。 人格、性格、気質、感情、情動、情緒、気分 10 1,2,9
パーソナリティ研究の歴史 人格(パーソナリティ)の心理学的研究がどのような経緯で開始されたか、その流れについて理解している。また、中世から近代までの間に興った様々な類型論について理解し、それぞれの特徴や差異について説明することができる。類型論の限界と、その後の特性論の研究が発展していった経緯について理解している。 四気質説、骨相学、気質類型論、心理辞書的研究、因子分析的アプローチ、5因子モデル 10 2,3
パーソナリティの一貫性 ミシェルによって示されたパーソナリティの一貫性についての疑念と一連の論争について踏まえ、パーソナリティの一貫性についての多様な視点について理解している。 基本的帰属のエラー、人間ー状況論争、性格のパラドックス、継時的安定性、絶対的安定性、相対的一貫性、首尾一貫性、調整変数モデル 10 4
知能の定義と歴史 知能の定義について理解している。また、知能研究の歴史的経緯について理解している。 知能、試行錯誤、洞察学習、抽象的思考、優生学、知能検査、知能指数、因子説、多重知能理論 10 5
遺伝と環境 パーソナリティ研究における「遺伝か環境か」の論争の歴史について理解している。個人差についての研究分野である行動遺伝学について理解している。 生得説、経験説、輻輳説、環境閾値説、相互作用説、行動遺伝学、双生児法、遺伝率、分子遺伝学 10 6,7
パーソナリティの正常と異常 これまでのパーソナリティの正常と異常の差異についての様々な考え方について理解している。 正常と異常、パーソナリティ障害、DSM-5、医学モデル、連続モデル、アナログ研究 10 8
感情観の変遷と感情の位相 中世キリスト教的な人間観に基づく感情への捉え方から、ダマシオのソマティックマーカー仮説に至るまでの感情の捉え方の変遷について理解している。また、感情の位相(パーツ)がどのように構成されているか理解している。 魂の三分説、心身二元論、ソマティックマーカー仮説、感情の位相 10 9
感情研究の視座と感情の仕組み 感情研究における四つの視座について理解している。また、ジェームズ・ランゲ説から、ルドゥーの感情の二重経路説に至るまでの歴史的経緯について把握している。 ジェームズ・ランゲ説、キャノン・バード説、情動二要因理論、認知説、閾下プライミング、二重経路説、扁桃体 10 10,11
感情と認知 感情が注意、記憶、思考などの様々な行動に与える影響について理解している。 注意バイアス、気分状態依存効果、気分一致効果 10 12
基本情動理論とその限界 ダーウィンに端を発する基本情動理論の考え方について理解している。また、近年の基本情動理論に対する様々な方面からの批判についてポイントを押さえて理解している。 進化、基本情動理論、普遍性、FACS、次元説、文化差、社会構成主義、文脈効果、共感、情動伝染、表情模倣 10 13,14,15
評価方法 期末試験(100%)によって評価する。
評価基準 評語
    学習目標をほぼ完全に達成している・・・・・・・・・・・・・ S (100~90点)
    学習目標を相応に達成している・・・・・・・・・・・・・・・ A (89~80点)
    学習目標を相応に達成しているが不十分な点がある・・・・・・ B (79~70点)
    学習目標の最低限は満たしている・・・・・・・・・・・・・・ C (69~60点)
    学習目標の最低限を満たしていない・・・・・・・・・・・・・ D (60点未満)
教科書 使用しない。毎回資料を配布する。
参考文献 ①鈴木 公啓(編)(2012). パーソナリティ心理学概論 ナカニシヤ出版 ②ランドルフ・R・コーネリアス(著)齋藤勇(監訳)(1999)「感情の科学―心理学は感情をどこまで理解できるか―」誠信書房
実験・実習・教材費 該当なし