区分 基盤専門科目
ディプロマ・ポリシーとの関係
SDGs力 科学コミュニケーション力 研究力
カリキュラム・ポリシーとの関係
教養 応用力 実践力
科目間連携 総合心理力
カリキュラム全体の中でのこの科目の位置づけ

科目の目的
 心とは何か?と問えば、素朴には、「一人一人に確かにある主観的な体験である」と言えるだろうか。しかしながら、私たち人間はこの主観的な体験というものを正確に語ることが困難な存在でもある。この問いと向かい合ったのが、学習・言語心理学で読解してきた「スキナーの徹底的行動主義」である。スキナーは著者「行動主義について」にて、行動主義において、どのように主観的な体験を扱うかを議論していくが、最終的には「皮膚の内側の世界」の解明が進むことで、理解が深まるという結論へと至っている化のように読める。この科目の目的は、まさに私たちが感じている主観的な体験と共に、「皮膚の内側の世界」、主として「脳」において、実際に何が生じているのかについて、現在までに解明されていることについて学ぶことである。具体的には、脳損傷例、動物実験、神経活動記録、脳画像、神経心理学的検査などを手がかりに、知覚、運動、注意、記憶、情動、意思決定、社会的認知、精神疾患がどのような神経機構によって支えられているかを学ぶ。これにより、心を脳の一部位へ単純に還元せず、神経細胞から広いネットワーク、身体、環境、他者との相互作用までを含む現象として理解する土台を形成する。
到達目標
① 脳機能局在の考え方、神経系の基本構造、神経細胞の活動電位・シナプス伝達・可塑性を理解し、心と行動を細胞、回路、脳領域、ネットワークという複数の水準から説明できる。また、脳損傷、電気生理、脳画像、薬理操作などの証拠が、それぞれ何を明らかにできるかを区別して把握できる。
② 視覚、聴覚、体性感覚、身体所有感、運動、注意、実行機能について、主要な神経経路と代表的研究法を理解し、知覚と行動が脳によって構成される過程を識別できる。さらに、感覚入力がそのまま経験になるのではなく、予測、記憶、身体状態、複数感覚の統合によって選択・補完されることを説明できる。
③ 海馬シータ波、認知地図、場所細胞、グリッド細胞、LTP、記憶固定化、加齢を関連づけ、時間・空間・可塑性の観点から記憶の神経基盤を説明できる。また、単一細胞活動、局所フィールド電位、行動成績、MRI体積など、異なる尺度の指標を混同せず、一つの記憶現象へ統合して考えることができる。
④ 扁桃体、報酬系、ドパミン、前頭前野、前部帯状皮質、島皮質などの働きを、恐怖、依存、不合理な意思決定、共感、心の理論、自閉スペクトラム症と対応づけて理解できる。そのうえで、情動と社会的行動を単一の中枢へ還元せず、身体反応、学習、文脈、他者との関係、発達過程を含むネットワークとして把握できる。
⑤ うつ病・統合失調症の症状と神経科学的仮説、動物モデル、神経心理・生理指標の意義と限界を理解し、行動指標から心や疾患を推論するときに必要な批判的視点を身につける。特に、モデルで測定された行動を人間の主観的苦痛と同一視せず、診断、原因、治療効果を異なる水準の問題として区別できる。

科目の概要
本授業は、人間や動物の行動を観察することから出発し、その背後にある脳・神経系の働きへ段階的に接近する。前半では、生理心理学の歴史と方法、脳損傷例が示す機能局在、神経系の構造、活動電位、シナプス伝達、可塑性、神経活動の数理的表現を扱う。続いて、網膜と色覚、一次視覚野、聴覚、体性感覚、身体所有感、運動、注意、実行機能を通して、外界や身体の経験が神経系によって選択・統合・構成されることを学ぶ。後半では、海馬シータ波、認知地図、場所細胞・方位細胞・グリッド細胞、LTP、睡眠中のリプレイ、加齢と認知症を扱い、記憶が時間・空間・経験によって形成され変化する過程を考える。さらに、扁桃体と恐怖、報酬系とドパミン、依存、意思決定、道徳判断、援助行動、社会的排除、共感、心の理論、自閉スペクトラム症へと進み、他者を含む心の神経基盤を検討する。最後に、うつ病と統合失調症を例として、精神疾患を症状、脳回路、発達、環境、動物モデルの複数水準から理解し、生理心理学が心を科学する方法と、その方法がもつ限界を総括する。 本科目を通して、受講者は、脳部位や神経伝達物質の名称を個別に暗記するだけでなく、「どの問いに対して、どの対象へ、どのような操作を行い、何を測定し、どこまで結論できるのか」という研究の論理を学ぶ。細胞から社会的関係までの尺度を往復しながら、心を脳へ単純に還元するのではなく、身体と環境の中で成立する多層的な現象として理解することを目指す。
科目のキーワード
生理心理学、脳機能局在、神経細胞、活動電位、シナプス、可塑性、感覚、運動、注意、実行機能、海馬、記憶、情動、報酬系、ドパミン、意思決定、共感、心の理論、自閉スペクトラム症、精神疾患、動物モデル
授業の展開方法
本授業は、各回の講義教材を受講者が事前に読み、講義では図、脳画像、行動課題、神経活動記録、原著論文の実験手続きと結果を確認しながら理解を深める方法で展開する。単に脳部位名を暗記するのではなく、どの刺激や操作を行い、何を測定し、どの結果から脳機能を推論したのかを重視する。また、ヒト研究と動物研究、相関研究と介入研究、局在論とネットワーク論を比較し、各方法が明らかにできることと限界を検討する。各コマの最後には10問の小テストを実施し、7問を必ず理解し記憶すべき基本事項、2問を中程度の応用問題、1問を高度な理解を前提とする難問として構成する。

オフィス・アワー
前期:火曜1~5限
後期:火曜1~5限

科目コード RD5080
学年・期 3年・前期
科目名 神経・生理心理学
単位数 4
授業形態 講義
必修・選択 必修
学習時間 【授業】90分×30 【予習】60分以上×15 【復習】60分以上×15
前提とする科目
展開科目
関連資格 公認心理師
担当教員名 高野裕治
主題コマシラバス項目内容教材・教具
1 行動から認知、そして脳へ――生理心理学とはどのような学問か 科目の中での位置付け 本科目は、心と行動を脳・神経系の働きから理解するために、細胞、回路、脳領域、身体、環境を段階的に学ぶ構成をとる。本コマは、その全体の出発点として、生理心理学が何を対象とし、心理学の歴史の中でどのように成立してきたのかを確認する回に位置づけられる。まず、行動を客観的に記述し操作しようとした行動主義とスキナーの行動分析を取り上げ、心を直接語らずに心理学を科学化しようとした意義を学ぶ。次に、同じ行動でもその背後に記憶、期待、判断などの認知過程を仮定する必要が生じ、さらに脳活動を測定する現代の生理心理学へ展開した流れをたどる。これにより、行動、認知、脳は互いに排他的な説明ではなく、異なる水準から一つの現象へ接近する方法であることを理解する。本コマは、以後の脳損傷例、神経系の構造、神経細胞、知覚、記憶、情動の学習に先立ち、本科目全体を貫く「行動から心を推論し、脳からその仕組みを検討する」という基本姿勢を形成する導入回である。これにより、受講者は、各概念を孤立した用語として暗記するのではなく、前後の講義内容と結びつけ、心的現象をどの水準の証拠から説明しているのかを自覚的に整理できるようになる。
オリジナル教材
コマ主題細目 ① 生理心理学の対象――脳・神経細胞・行動 ② 行動主義と行動分析――観察可能なものから始める ③ 認知と脳――行動の内側を科学する
細目レベル ① 本細目では、生理心理学が、脳だけを学ぶ解剖学でも、行動だけを数える学問でもないことを確認する。私たちが経験する記憶、感情、判断は直接には見えないため、行動、身体反応、神経活動を手がかりに推論する必要がある。神経細胞の発火や脳波は心そのものではないが、行動と時間的に対応づけることで、心が生まれる過程へ接近できる。本細目では、脳・神経細胞・行動という三つの水準を区別しつつ関連づけ、生理心理学の研究対象と基本的な問いを理解することを目標とする。この知見が明らかにした範囲と、そこからはまだ結論できない範囲も区別する必要がある。実験課題、症例、動物モデルは複雑な心的現象の一部を切り出したものであり、日常場面や人間全体へ一般化するときには条件と限界を確認する。前後の講義内容と結びつけ、同じ現象を複数水準から説明できることを目標とする。
② 本細目では、心理学を客観的な科学にするため、観察可能な刺激と反応を重視した行動主義を学ぶ。スキナーの行動分析では、行動の後に生じる結果を操作し、行動頻度がどのように変化するかを測定する。ここで重要なのは、心を否定することよりも、再現可能な条件と測定指標を作った点である。一方、行動の記述だけでは、同じ反応に至る異なる記憶や予測を区別しにくい。本細目では、行動主義が心理学の科学化に果たした役割と、内的過程を扱いにくい限界をともに理解する。本細目の内容は、研究史上の一つの発見としてだけでなく、後の理論や方法を準備した段階として位置づける。初期の説明は現在から見れば単純化を含む場合があるが、その方法によって、それまで主観的に語られていた現象が比較・反復可能な問題となった。歴史的意義と現代的な修正を同時に理解することが重要である。
③ 最後に、認知心理学と神経科学の成立によって、行動の背後にある情報処理が再び研究対象となったことを考える。認知とは、刺激を受け取ってから反応するまでに働く知覚、注意、記憶、判断、予測などの過程である。現代の生理心理学では、課題中の行動と脳活動を同時に測定し、損傷や刺激による変化も調べることで、認知過程を神経機構と結びつける。本細目では、行動主義から認知、さらに脳へという展開を、古い理論が単純に否定された歴史ではなく、研究できる水準が拡張された過程として理解することを目標とする。最終的には、この概念を新しい事例へ適用できることが重要である。刺激、行動、脳活動のいずれかが変化した場面を与えられたとき、考えられる説明を複数挙げ、必要な統制条件や追加測定を提案する。既知の用語へ事例を当てはめるだけでなく、別の解釈の可能性を残しながら、最も妥当な推論を組み立てられることを目標とする。
キーワード
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 教材を読み返して、小テストの問題を多少違った出題のされ方になったとしてもできるようにすること
2 脳損傷が教える心のかたち――ゲージ、ブローカ、H.M.の症例 科目の中での位置付け 本科目は、心的機能を神経系の構造と活動から理解するため、まずどのような証拠によって脳と心が結びつけられてきたのかを学ぶ構成をとる。本コマは、第1回で確認した行動・認知・脳という三つの水準を、歴史的な脳損傷症例によって具体化する回に位置づけられる。フィニアス・ゲージでは、前頭部の損傷後に人格や社会的行動が変化したことから、判断と行動調整に前頭前野が関わることを考える。ブローカの症例では、言語を理解する力と発話する力が分かれうることから、複雑な心的機能にも部分的な局在があることを学ぶ。H.M.の症例では、海馬を含む内側側頭葉の切除後、新しいエピソード記憶の形成が著しく困難になった一方、技能学習が保たれたことから、記憶が単一ではないことを理解する。同時に、一症例から脳機能を推論する限界や、機能が一部位だけで完結せずネットワークに支えられる点も確認する。本コマは、次回の神経系全体の構造を学ぶ前に、脳の違いが心の違いとして現れるという生理心理学の中心的推論を理解する回である。また、名称と代表機能の対応だけでなく、どの観察や実験結果からその対応が推論されたのかを確認し、局在的説明とネットワーク的説明を両立させる視点を養う。
オリジナル教材
コマ主題細目 ① フィニアス・ゲージ――前頭前野と行動の変容 ② ブローカ失語――言語機能の分解と局在 ③ H.M.――海馬と記憶の多重性
細目レベル ① 本細目では、鉄棒が頭部を貫通する事故後も基本的な知覚や運動を保ちながら、計画性、感情調整、対人行動が変化したとされるゲージの症例を扱う。重要なのは、生命維持や単純運動が保たれていても、社会の中で一貫して行動する力が損なわれうる点である。この症例は、前頭前野を「知能の場所」と単純化するのではなく、目標、規則、将来の結果を踏まえて行動を調整するネットワークの重要部位として考える出発点となる。本細目では、症例記述と後世の解釈を区別しながら、脳損傷研究の意義を理解する。また、この主題を理解するためには、時間の尺度を意識することが重要である。ミリ秒単位の神経活動、数秒から数分の課題遂行、日や年をかけた学習・発達は、同じ「変化」であっても意味が異なる。それぞれの測定単位と分析方法を確認し、短い生理過程が長期的な行動や経験へどのように接続されるのかを考える。
② 本細目では、言葉を理解する能力が比較的保たれているにもかかわらず、流暢に発話することが難しくなった患者の観察から、左前頭葉下部と言語産出が結びつけられた過程を学ぶ。言語は一つの能力に見えるが、発話、理解、復唱、読み書きなどの部分過程から成る。損傷によってその一部が選択的に障害されることは、心的機能を構成要素へ分けて考える手がかりになる。本細目では、ブローカ野を言語の単独中枢と暗記するのではなく、症状から機能局在を推論する論理と、その後の言語ネットワーク研究への広がりを理解する。この内容は、脳内の一方向的な因果列としてではなく、身体からの入力、脳内処理、行動出力、その結果として返る感覚フィードバックの循環として捉える必要がある。上位領域が下位領域を一方的に支配するのではなく、複数領域が双方向に調整し合う。どの領域が結節点となり、どの経路を介して情報が統合されるのかを説明できるようにする。
③ 最後に、てんかん治療のため両側内側側頭葉を切除されたH.M.の症例を学ぶ。手術後、短時間の情報保持や過去の知識の一部は保たれたが、新しい出来事を長期記憶として形成することが著しく困難になった。一方、鏡映描写などの技能は練習によって向上した。これは、記憶が一つの貯蔵庫ではなく、エピソード記憶、意味記憶、手続き記憶など異なる仕組みを含むことを示す。本細目では、海馬を記憶そのものの保存場所とせず、新しい出来事を結びつける過程に重要な構造として理解し、局在論の有効性と限界を把握する。ここで重要なのは、関連する概念を別々に暗記するのではなく、一方の変化が他方へどのような影響を与えるかという情報の流れとして捉えることである。また、相関が示された場合と、損傷・刺激・薬理操作などによって因果的関与が示唆された場合を区別し、単一部位だけで複雑な機能全体を説明しないことが求められる。
キーワード
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 教材を読み返して、小テストの問題を多少違った出題のされ方になったとしてもできるようにすること
3 脳の構造と機能――心を生み出す器官の全体像 科目の中での位置付け 本科目は、脳損傷例から個別機能の局在を考えたあと、神経系全体の構造を学び、以後の各論を位置づける構成をとる。本コマは、第2回で登場した前頭前野、言語関連領域、海馬が脳全体のどこにあり、末梢からの情報や身体への出力とどのようにつながっているのかを整理する基礎回に位置づけられる。まず、神経系を中枢神経系と末梢神経系に分け、感覚入力と運動出力、自律神経系による身体調節の基本を学ぶ。次に、脳幹、小脳、間脳、基底核、大脳辺縁系、大脳皮質を、進化的な積み重なりと機能的なネットワークの両面から捉える。さらに、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉という四葉の機能分化を確認し、皮質下構造との連携によって知覚、運動、記憶、情動、動機づけが成立することを理解する。マクリーンの三位一体脳理論は歴史的な整理として紹介しつつ、現代的には各層が独立して働くのではなく相互接続されたネットワークとして理解すべきことを学ぶ。本コマは、第4回以降の神経細胞とシナプス、さらに感覚・運動・記憶・情動の各領域を、脳全体の地図の中に置くための土台となる。本コマで得られる知識は、後続回の実験図や症例を読む際の共通言語となる。現象、測定指標、神経機構を区別しながら、それらの関係を順序立てて説明することが求められる。
オリジナル教材
スキナー「About Behaviorism」
コマ主題細目 ① 中枢神経系と末梢神経系――情報の入口と出口 ② 脳の主要構造――皮質と皮質下の分業 ③ 大脳皮質の四葉――局在からネットワークへ
細目レベル ① 本細目では、脳と脊髄からなる中枢神経系と、身体各部を結ぶ末梢神経系を区別する。感覚受容器で生じた信号は求心性経路を通って中枢へ入り、中枢で作られた運動指令は遠心性経路を通って筋肉や内臓へ送られる。末梢神経系には随意運動に関わる体性神経系と、心拍、消化、発汗などを調節する自律神経系がある。本細目では、心的経験が脳内だけで閉じるのではなく、身体からの入力と身体への出力の循環によって成立していることを理解し、以後の感覚経路と運動経路を学ぶ基本枠組みを身につける。授業では、条件間・群間・時点間の比較を丁寧に読む。ある条件だけで変化が起こったことに加え、対照条件では何が起こらなかったのかが、解釈を支える重要な証拠となる。平均値だけでなく個人差や試行差にも注意し、統計的な差が直ちに一人ひとりの状態や能力を決定するものではないことを理解する。
② 本細目では、脳幹、視床、視床下部、小脳、基底核、海馬、扁桃体などの皮質下構造を概観する。脳幹は覚醒や呼吸など生命維持、小脳は運動調整、視床は感覚情報の中継、視床下部は恒常性と内分泌、基底核は行動選択、海馬は記憶、扁桃体は脅威や情動学習に重要である。ただし、一つの構造に一つの心が入っているわけではない。本細目では、各部位の代表機能を識別するとともに、皮質と皮質下構造が循環的な回路を作り、身体状態と高次認知を結びつけていることを理解する。授業では、この主題を、対象となる現象、研究で加えられた操作、測定された指標、得られた結果、そこから可能となる解釈の順に整理する。名称だけを再生するのではなく、どの証拠がどの結論を支えるのかを説明し、細胞・回路・脳領域・個体行動という説明水準を混同しないことを到達点とする。
③ 最後に、大脳皮質を前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉に分け、それぞれの代表的機能を学ぶ。後頭葉は視覚、側頭葉は聴覚・物体認識・記憶、頭頂葉は体性感覚・空間・注意、前頭葉は運動・計画・抑制に深く関わる。しかし、見る、話す、決めるといった行為は複数の葉をまたぐ。本細目では、四葉の位置と基本機能を脳地図として把握しつつ、複雑な心的機能は領域間の情報伝達によって成立することを理解する。これにより、局在名の暗記から、機能的ネットワークを考える段階へ進む。学習に際しては、日常語で似て見える現象と、研究上の操作的定義とを区別する。研究では、観察可能な行動や生理反応を指標として、直接には見えない心的過程を間接的に推論している。したがって、測定値そのものを心と同一視せず、指標が何を反映すると仮定され、どの統制条件によって別の説明が除かれたのかを説明できるようにする。
キーワード
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 教材を読み返して、小テストの問題を多少違った出題のされ方になったとしてもできるようにすること
4 神経細胞のはたらき――活動電位とシナプス伝達のしくみ 科目の中での位置付け 本科目は、脳全体の構造を概観したあと、その働きを担う最小の機能単位へ進む構成をとる。本コマは、第3回で学んだ脳領域や神経経路が、実際には神経細胞の電気的活動と細胞間の化学的伝達によって作動していることを理解する回に位置づけられる。まず、樹状突起、細胞体、軸索、髄鞘、軸索終末という神経細胞の基本構造を確認し、入力の受容、統合、出力という情報処理の流れを学ぶ。次に、細胞膜を隔てたイオン濃度差、静止膜電位、脱分極、閾値、活動電位、再分極、不応期を通して、神経信号が全か無かの法則に従って軸索を伝導する仕組みを理解する。さらに、軸索終末から放出される神経伝達物質が受容体へ結合し、次の細胞に興奮性または抑制性の影響を与えるシナプス伝達を扱う。ここで重要なのは、個々の活動電位は単純なパルスであっても、発火頻度、タイミング、回路内の結合によって複雑な情報が表現される点である。本コマは、第5回のシナプス可塑性と第6回の数理モデルへ進むために、神経情報処理の基本語彙と因果的な流れを確立する基礎回である。この段階で、心の説明を一つの脳部位や一つの物質へ直結させないことも重要である。複数の構造と時間過程が協働するという本科目の基本的な見方を確立する。
オリジナル教材
スキナー「About Behaviorism」
コマ主題細目 ① 神経細胞とシナプス――入力・統合・出力 ② 活動電位――膜電位が信号になる ③ 神経伝達物質――細胞から細胞へ意味を渡す
細目レベル ① 本細目では、神経細胞の形態を情報処理の役割と対応づける。樹状突起は多数の細胞から入力を受け、細胞体はそれらを統合し、軸索は活動電位を遠くへ伝え、軸索終末は次の細胞へ信号を渡す。細胞同士は直接連続しているのではなく、シナプス間隙を隔てて接続している。ここで重要なのは、脳が均質な組織ではなく、膨大な細胞が選択的につながった回路であることだ。本細目では、神経細胞の各部位の名称を、入力から出力までの一方向的な流れと結びつけて理解する。最終的には、この概念を新しい事例へ適用できることが重要である。刺激、行動、脳活動のいずれかが変化した場面を与えられたとき、考えられる説明を複数挙げ、必要な統制条件や追加測定を提案する。既知の用語へ事例を当てはめるだけでなく、別の解釈の可能性を残しながら、最も妥当な推論を組み立てられることを目標とする。
② 本細目では、細胞膜内外のイオン分布によって生じる静止膜電位と、入力が閾値を超えたときに起こる活動電位を学ぶ。ナトリウムイオンの流入による脱分極と、カリウムイオンの流出による再分極が短時間に進み、信号は軸索上を伝わる。活動電位の大きさは刺激の強さに比例せず、起こるか起こらないかの全か無かに従う。刺激の強さは主に発火頻度として表される。本細目では、電気信号の発生と伝導を順序立てて説明し、不応期や髄鞘が信号方向と速度に与える意味を理解する。この知見が明らかにした範囲と、そこからはまだ結論できない範囲も区別する必要がある。実験課題、症例、動物モデルは複雑な心的現象の一部を切り出したものであり、日常場面や人間全体へ一般化するときには条件と限界を確認する。前後の講義内容と結びつけ、同じ現象を複数水準から説明できることを目標とする。
③ 最後に、活動電位が軸索終末へ到達した後の化学的シナプス伝達を扱う。カルシウム流入によって小胞から神経伝達物質が放出され、受容体へ結合すると、次の細胞の膜電位が変化する。グルタミン酸、GABA、ドパミン、セロトニン、アセチルコリンなどは、受容体と回路によって異なる作用を示す。神経伝達物質を一対一で「快楽」や「不安」と対応させるのは不正確である。本細目では、伝達物質の作用を、放出、受容体結合、再取り込み・分解という過程として理解し、薬物がこの過程へ介入する基本原理を学ぶ。本細目の内容は、研究史上の一つの発見としてだけでなく、後の理論や方法を準備した段階として位置づける。初期の説明は現在から見れば単純化を含む場合があるが、その方法によって、それまで主観的に語られていた現象が比較・反復可能な問題となった。歴史的意義と現代的な修正を同時に理解することが重要である。
キーワード
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 教材を読み返して、小テストの問題を多少違った出題のされ方になったとしてもできるようにすること
5 変化する脳――シナプス可塑性が生み出す柔軟な情報処理 科目の中での位置付け 本科目は、神経細胞が信号を伝える仕組みを学んだあと、その伝わり方が経験によって変化することを扱う構成をとる。本コマは、第4回で確認した活動電位とシナプス伝達を静的な配線図として終わらせず、学習や記憶によって結合強度と細胞形態が変わる可塑的なネットワークとして理解する回に位置づけられる。まず、シナプス可塑性を、同じ入力に対する応答の大きさが過去の活動履歴によって変化する性質として定義する。次に、ヘブの法則を手がかりに、同時に活動する神経細胞間の結合が強まりやすいという考えを学び、経験の共起が回路へ刻まれる仕組みを考える。さらに、海馬で研究されてきた長期増強LTPを通して、高頻度刺激後にシナプス応答が長時間増強する現象と、NMDA受容体、カルシウム、AMPA受容体の関係を理解する。最後に、樹状突起スパインの形成・拡大・消失という構造的可塑性を扱い、脳の変化が機能だけでなく形にも現れることを学ぶ。本コマは、第6回の数理的な結合強度表現と、後半の記憶形成・依存・ストレス研究を理解するための基礎となる。さらに、研究によって明らかになった範囲と、なお推測にとどまる範囲を区別し、科学的知見を日常的な心の説明へ適用するときの慎重さを身につける。
オリジナル教材
コマ主題細目 ① シナプス可塑性とヘブの法則 ② 長期増強LTP――伝わりやすさが長く変わる ③ スパインと構造的可塑性――脳の形が変わる
細目レベル ① 本細目では、シナプスの伝達効率が固定されず、活動履歴に応じて強くも弱くもなることを学ぶ。ヘブの法則は、ある細胞Aの活動が細胞Bの活動に繰り返し寄与すると、AからBへの結合が強化されるという考えである。これにより、同時に経験された刺激や行動の組み合わせが、次回には再び一緒に活動しやすくなる。本細目では、「一緒に発火する細胞は一緒につながる」という標語を、単なる暗記ではなく、共起経験を回路へ保存する学習原理として理解する。ここで重要なのは、関連する概念を別々に暗記するのではなく、一方の変化が他方へどのような影響を与えるかという情報の流れとして捉えることである。また、相関が示された場合と、損傷・刺激・薬理操作などによって因果的関与が示唆された場合を区別し、単一部位だけで複雑な機能全体を説明しないことが求められる。
② 本細目では、強いまたは高頻度の入力の後、同じ弱い入力に対するシナプス応答が長時間増大するLTPを扱う。NMDA受容体は、前シナプスからのグルタミン酸放出と後シナプスの十分な脱分極が重なったときにカルシウムを流入させる。この一致検出によってAMPA受容体が増え、次の入力が伝わりやすくなる。ここで重要なのは、LTPが記憶そのものではなく、経験による結合変化を実験的に測る代表的モデルだという点である。本細目では、現象、誘導条件、分子過程を区別して理解する。また、この主題を理解するためには、時間の尺度を意識することが重要である。ミリ秒単位の神経活動、数秒から数分の課題遂行、日や年をかけた学習・発達は、同じ「変化」であっても意味が異なる。それぞれの測定単位と分析方法を確認し、短い生理過程が長期的な行動や経験へどのように接続されるのかを考える。
③ 最後に、樹状突起上の小さな突起であるスパインを取り上げる。多くの興奮性シナプスはスパイン上に形成され、学習や反復活動によってスパインの大きさ、数、安定性が変化する。伝達効率の変化は一時的な化学反応だけでなく、受容体配置や細胞骨格、シナプス構造の再編成として持続しうる。一方、すべての変化が有益とは限らず、依存や慢性ストレスでも回路は可塑的に変化する。本細目では、可塑性を「脳がよくなること」と同一視せず、経験に応じて回路が変わる一般原理として理解する。この内容は、脳内の一方向的な因果列としてではなく、身体からの入力、脳内処理、行動出力、その結果として返る感覚フィードバックの循環として捉える必要がある。上位領域が下位領域を一方的に支配するのではなく、複数領域が双方向に調整し合う。どの領域が結節点となり、どの経路を介して情報が統合されるのかを説明できるようにする。
キーワード
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 教材を読み返して、小テストの問題を多少違った出題のされ方になったとしてもできるようにすること
6 神経細胞活動の数理モデル――ベクトルと行列で考える脳のはたらき 科目の中での位置付け 本科目は、神経細胞の電気活動とシナプス可塑性を学んだあと、それらを多数の細胞からなるネットワークとして表現する構成をとる。本コマは、第4回・第5回で扱った入力、発火、結合強度、可塑性を、ベクトルと行列という数理的な言語に置き換え、脳の情報処理を構造的に考える回に位置づけられる。まず、一つの時点における複数神経細胞の活動を、各要素が発火の大きさを表すベクトルとして表現する。次に、細胞Aから細胞Bへの結合の強さを行列の要素として並べることで、ネットワーク全体の配線と重みを一つの表に表せることを学ぶ。入力ベクトルに結合行列を作用させると次の活動が生じるという考えにより、個々の細胞の説明から集団の変換へ進む。さらに、ヘブ則を結合行列の更新として表し、経験のたびに重みが変化することが学習に対応することを理解する。高度な計算を目的とするのではなく、神経活動を数字の列として表すことが、記録データの分析、人工ニューラルネットワーク、記憶表現へつながる点を重視する。本コマは、第7回・第8回の基礎総括と、後半の脳波・単一細胞記録を理解するための橋渡しとなる。これにより、受講者は、各概念を孤立した用語として暗記するのではなく、前後の講義内容と結びつけ、心的現象をどの水準の証拠から説明しているのかを自覚的に整理できるようになる。
オリジナル教材
コマ主題細目 ① 神経活動をベクトルで表す ② シナプス結合を行列で表す ③ 行列が変わることとしての学習と記憶
細目レベル ① 本細目では、複数の神経細胞が同時にどの程度活動しているかを、数字を縦または横に並べたベクトルとして表す。ある細胞が強く発火し、別の細胞がほとんど発火しない状態は、各要素の違いとして記述できる。重要なのは、心の内容を一つの「記憶細胞」に入れるのではなく、細胞集団の活動パターンとして考えられる点である。本細目では、ベクトルを難しい数学記号としてではなく、ある瞬間のネットワーク状態を簡潔に保存・比較する表現として理解する。学習に際しては、日常語で似て見える現象と、研究上の操作的定義とを区別する。研究では、観察可能な行動や生理反応を指標として、直接には見えない心的過程を間接的に推論している。したがって、測定値そのものを心と同一視せず、指標が何を反映すると仮定され、どの統制条件によって別の説明が除かれたのかを説明できるようにする。
② 本細目では、送り手となる神経細胞と受け手となる神経細胞の組み合わせごとに結合強度を並べたものが行列であることを学ぶ。正の値は興奮性、負の値は抑制性、ゼロは直接結合がないことを表すことができる。入力活動と結合行列を組み合わせれば、各細胞が受け取る総入力を計算できる。ここで重要なのは、脳の働きが細胞の性質だけでなく、誰が誰につながり、どの結合が強いかによって決まる点である。本細目では、ネットワークを配線図と重みの体系として理解する。授業では、条件間・群間・時点間の比較を丁寧に読む。ある条件だけで変化が起こったことに加え、対照条件では何が起こらなかったのかが、解釈を支える重要な証拠となる。平均値だけでなく個人差や試行差にも注意し、統計的な差が直ちに一人ひとりの状態や能力を決定するものではないことを理解する。
③ 最後に、可塑性を結合行列の更新として捉える。二つの細胞が繰り返し同時に活動すれば、その組み合わせに対応する行列要素を大きくすることができる。すると同じ入力が来たとき、以前とは異なる活動パターンが生じる。つまり、学習とは情報を別の箱へ保存することではなく、ネットワークの変換規則そのものが変わることだと表現できる。本細目では、ヘブ則、結合強度、活動パターンを一つの枠組みで結びつけ、数理モデルが実際の脳を単純化しつつ本質的関係を見えやすくする道具であることを理解する。授業では、この主題を、対象となる現象、研究で加えられた操作、測定された指標、得られた結果、そこから可能となる解釈の順に整理する。名称だけを再生するのではなく、どの証拠がどの結論を支えるのかを説明し、細胞・回路・脳領域・個体行動という説明水準を混同しないことを到達点とする。
キーワード
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 教材を読み返して、小テストの問題を多少違った出題のされ方になったとしてもできるようにすること
7 脳構造のまとめ――局在とネットワークを結び直す 科目の中での位置付け 本科目は、第1回から第6回までに、生理心理学の方法、脳損傷例、神経系の構造、神経細胞の活動、可塑性、数理的ネットワーク表現を学んできた。本コマは、そのうち主として脳構造と機能局在を総括し、次の知覚・運動各論へ進むために脳全体の見取り図を再構成する回に位置づけられる。まず、脳幹、間脳、基底核、大脳辺縁系、大脳皮質という進化的・解剖学的な階層を整理し、生命維持、身体調節、情動、記憶、高次認知が重なり合っていることを確認する。次に、大脳皮質の四葉と皮質下構造の代表機能を、入力から処理、行動出力までの流れの中で結びつける。さらに、ゲージ、ブローカ、H.M.の症例に戻り、損傷部位と症状の対応が機能局在を示す一方、一つの機能が一つの場所だけで完結するわけではないことを考える。脳機能局在論とネットワーク論は対立するのではなく、特定領域がネットワーク内で異なる役割を担うという形で統合される。本コマは、脳部位名を孤立して暗記するのではなく、構造間の位置関係、情報の方向、機能的連携を説明できる状態にするための節目である。また、名称と代表機能の対応だけでなく、どの観察や実験結果からその対応が推論されたのかを確認し、局在的説明とネットワーク的説明を両立させる視点を養う。
オリジナル教材
コマ主題細目 ① 脳の進化的階層と基本構造 ② 大脳皮質と皮質下構造の連携 ③ 脳損傷から考える局在とネットワーク
細目レベル ① 本細目では、脳幹から大脳皮質へ至る構造を、単純な「古い脳・新しい脳」の積み重ねとしてではなく、進化の中で既存回路に新しい回路が加わり相互作用する体系として整理する。脳幹の生命維持機能、視床下部の恒常性、辺縁系の記憶・情動、大脳皮質の知覚・認知は、日常行動では同時に働く。本細目では、三位一体脳理論を歴史的モデルとして理解しつつ、現代的には階層間の双方向的な結合が重要であることを説明できるようにする。本細目の内容は、研究史上の一つの発見としてだけでなく、後の理論や方法を準備した段階として位置づける。初期の説明は現在から見れば単純化を含む場合があるが、その方法によって、それまで主観的に語られていた現象が比較・反復可能な問題となった。歴史的意義と現代的な修正を同時に理解することが重要である。
② 本細目では、皮質が情報処理の最上位にあり皮質下を一方的に支配するという単純な図を見直す。視床は皮質入力を調整し、基底核は皮質からの情報を受けて行動選択へ返し、小脳は運動誤差を皮質へ戻し、海馬や扁桃体は記憶と情動によって知覚や判断を変える。前頭前野も身体状態や報酬情報なしには適切に判断できない。本細目では、知覚、行動、感情が皮質と皮質下の循環回路によって成立することを、代表的経路とともに理解する。最終的には、この概念を新しい事例へ適用できることが重要である。刺激、行動、脳活動のいずれかが変化した場面を与えられたとき、考えられる説明を複数挙げ、必要な統制条件や追加測定を提案する。既知の用語へ事例を当てはめるだけでなく、別の解釈の可能性を残しながら、最も妥当な推論を組み立てられることを目標とする。
③ 最後に、損傷研究の推論を再確認する。特定部位が壊れたときに特定機能が障害されれば、その部位はその機能に必要だと考えられる。しかし、損傷は周辺組織、白質路、遠隔領域の活動にも影響する。また、同じ症状が異なる病巣で生じることもある。したがって、ゲージ、ブローカ、H.M.を「性格の場所」「言語の場所」「記憶の場所」とだけ理解するのは不十分である。本細目では、局在をネットワーク内の重要な結節点として捉え、損傷法が示す必要性と限界を説明できるようにする。この知見が明らかにした範囲と、そこからはまだ結論できない範囲も区別する必要がある。実験課題、症例、動物モデルは複雑な心的現象の一部を切り出したものであり、日常場面や人間全体へ一般化するときには条件と限界を確認する。前後の講義内容と結びつけ、同じ現象を複数水準から説明できることを目標とする。
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コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
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小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 教材を読み返して、小テストの問題を多少違った出題のされ方になったとしてもできるようにすること
8 神経細胞の情報処理のまとめ――心の単位からネットワークへ 科目の中での位置付け 本科目は、脳構造の総括に続いて、神経細胞レベルの情報処理をまとめ、感覚系の具体的研究へ進む構成をとる。本コマは、第4回から第6回で学んだ神経細胞、活動電位、神経伝達物質、可塑性、結合行列を結び直し、「心の単位」として神経細胞を考えるときに何が言え、何が言えないのかを整理する回に位置づけられる。まず、樹状突起からの多数の入力が細胞体で統合され、閾値を超えると活動電位が軸索を伝わり、シナプスを介して次の細胞へ影響するという基本系列を復習する。次に、興奮性入力と抑制性入力、発火頻度、タイミング、受容体の違いによって、同じ神経伝達物質でも回路の効果が変わることを確認する。さらに、結合強度とスパイン構造が経験によって変化し、ネットワークの活動パターンが更新されることを学ぶ。ここで重要なのは、一個の細胞が一つの思考を持つのではなく、多数の細胞が時間的・空間的なパターンとして働くことで心的機能が現れる点である。本コマは、網膜や視覚野の神経細胞が刺激の特徴をどのように分担して表現するかを学ぶ第9回・第10回への直接的な準備となる。本コマで得られる知識は、後続回の実験図や症例を読む際の共通言語となる。現象、測定指標、神経機構を区別しながら、それらの関係を順序立てて説明することが求められる。
オリジナル教材
コマ主題細目 ① 神経細胞とシナプスの構造を情報の流れとして捉える ② 活動電位と神経伝達物質――電気と化学の連続 ③ 可塑性――経験がネットワークの変換規則を変える
細目レベル ① 本細目では、神経細胞の各部位を名称だけでなく情報処理の流れとして復習する。複数の樹状突起入力は時間的・空間的に加算され、軸索起始部で発火するかどうかが決まり、軸索終末から次の細胞へ信号が渡る。シナプスの位置や数、興奮性・抑制性の組み合わせによって、同じ入力でも出力は変わる。本細目では、一個の神経細胞が単純な電線ではなく、多数の入力を選択・統合する小さな情報処理装置であることを理解する。この内容は、脳内の一方向的な因果列としてではなく、身体からの入力、脳内処理、行動出力、その結果として返る感覚フィードバックの循環として捉える必要がある。上位領域が下位領域を一方的に支配するのではなく、複数領域が双方向に調整し合う。どの領域が結節点となり、どの経路を介して情報が統合されるのかを説明できるようにする。
② 本細目では、神経情報が細胞内では主として電気信号、細胞間では主として化学信号として伝わることを整理する。活動電位は全か無かであるが、発火頻度とタイミングは連続的な情報を含む。神経伝達物質の効果は物質名だけで決まらず、受容体、細胞種、回路の位置によって異なる。薬物は合成、放出、受容体、再取り込み、分解のいずれかへ作用する。本細目では、電気と化学を別の仕組みとして暗記せず、一つの情報伝達系列として説明できることを目標とする。ここで重要なのは、関連する概念を別々に暗記するのではなく、一方の変化が他方へどのような影響を与えるかという情報の流れとして捉えることである。また、相関が示された場合と、損傷・刺激・薬理操作などによって因果的関与が示唆された場合を区別し、単一部位だけで複雑な機能全体を説明しないことが求められる。
③ 最後に、活動するたびに脳が同じ状態へ戻るのではなく、過去の活動によって次の反応が変わることを確認する。短期的な伝達変化、LTPやLTD、受容体数、スパイン構造、結合行列の更新は、異なる時間尺度でネットワークを変える。記憶、技能、依存、ストレスはいずれも可塑性を伴うため、可塑性は良い学習だけを意味しない。本細目では、神経細胞の活動と結合変化を区別し、経験が回路の将来の反応可能性を変えることとして学習を理解する。また、この主題を理解するためには、時間の尺度を意識することが重要である。ミリ秒単位の神経活動、数秒から数分の課題遂行、日や年をかけた学習・発達は、同じ「変化」であっても意味が異なる。それぞれの測定単位と分析方法を確認し、短い生理過程が長期的な行動や経験へどのように接続されるのかを考える。
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小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 神経伝達物質を受け取る場所であり、受容体の種類は神経伝達物質ごとに異なる。
9 網膜と色覚――見ることは出発点から個人差を含む 科目の中での位置付け 本科目は、脳と神経細胞の基礎を踏まえて、具体的な感覚系へ進む構成をとる。本コマは、その最初に視覚を取り上げ、外界の光がどのように神経信号へ変換され、私たちにとって意味ある「見える世界」となるのかを考える回に位置づけられる。まず、ユクスキュルの環世界という考えを手がかりに、生物は物理世界のすべてを受け取るのではなく、感覚器と行動に応じた世界を経験することを学ぶ。次に、角膜、水晶体、網膜を通る光の経路と、桿体・錐体細胞による光受容、双極細胞・神経節細胞を経た視神経への変換を理解する。錐体細胞の種類と反応範囲から色覚が成立するが、色は波長そのものではなく、複数受容器の活動比較と脳内処理によって構成される。さらに、ユニークグリーンの判断に個人差がある研究を通して、同じ刺激を見ても全員がまったく同じ経験をしているとは限らないことを考える。本コマは、第10回の一次視覚野と高次視覚処理に先立ち、視覚が網膜の段階ですでに選択、変換、比較を含み、主観的経験の個人差が生じうることを理解する導入回である。この段階で、心の説明を一つの脳部位や一つの物質へ直結させないことも重要である。複数の構造と時間過程が協働するという本科目の基本的な見方を確立する。
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コマ主題細目 ① 環世界としての視覚――見える世界は生物ごとに異なる ② 網膜で光が神経信号になる――桿体・錐体・色覚 ③ ユニークグリーン――同じ刺激と同じ経験は同義ではない
細目レベル ① 本細目では、物理的に存在する刺激と、生物が知覚し行動に利用できる刺激を区別する。人間には可視光として見える範囲があるが、紫外線を見る動物や、視覚より嗅覚を主要手がかりとする動物もいる。感覚器は世界を完全に写す窓ではなく、生存と行動に必要な情報を選び取る装置である。本細目では、視覚経験を外界のコピーとしてではなく、身体・感覚器・行動可能性によって成立する環世界として理解し、知覚の構成性を学ぶ。授業では、この主題を、対象となる現象、研究で加えられた操作、測定された指標、得られた結果、そこから可能となる解釈の順に整理する。名称だけを再生するのではなく、どの証拠がどの結論を支えるのかを説明し、細胞・回路・脳領域・個体行動という説明水準を混同しないことを到達点とする。
② 本細目では、光が網膜の視細胞に吸収され、膜電位変化へ変換される過程を学ぶ。桿体は暗所で感度が高く、錐体は明所で色と細部の識別に関わる。三種類の錐体は特定の一波長だけに反応するのではなく、重なり合う感度曲線を持ち、その相対的活動から色が推定される。網膜では側方抑制によって明暗境界も強調される。本細目では、網膜をカメラの受光板とせず、光情報を圧縮・比較・強調して脳へ送る最初の神経回路として理解する。学習に際しては、日常語で似て見える現象と、研究上の操作的定義とを区別する。研究では、観察可能な行動や生理反応を指標として、直接には見えない心的過程を間接的に推論している。したがって、測定値そのものを心と同一視せず、指標が何を反映すると仮定され、どの統制条件によって別の説明が除かれたのかを説明できるようにする。
③ 最後に、黄色にも青にも偏らない「純粋な緑」と感じる波長を参加者が調整する研究を取り上げる。判断される波長には個人差があり、網膜受容器の感度、遺伝的差異、経験、判断基準などが関与しうる。重要なのは、個人差が誤答を意味するのではなく、同じ物理刺激と主観的経験の対応が人によって少し異なることを示す点である。本細目では、心理物理学的測定によって主観経験を比較する方法を理解し、「色は外界にそのまま存在する」という直感を再検討する。授業では、条件間・群間・時点間の比較を丁寧に読む。ある条件だけで変化が起こったことに加え、対照条件では何が起こらなかったのかが、解釈を支える重要な証拠となる。平均値だけでなく個人差や試行差にも注意し、統計的な差が直ちに一人ひとりの状態や能力を決定するものではないことを理解する。
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コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
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小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 教材を読み返して、小テストの問題を多少違った出題のされ方になったとしてもできるようにすること
10 脳はどのように一つのまとまった視覚体験を生むのか 科目の中での位置付け 本科目は、第9回で網膜における光の神経信号化を学んだあと、視覚情報が大脳皮質でどのように分解・統合されるのかを扱う構成をとる。本コマは、網膜から外側膝状体を経て一次視覚野V1へ届いた情報が、線、傾き、輪郭、動き、色、物体、空間として段階的に処理されることを理解する回に位置づけられる。まず、HubelとWieselの単一ニューロン記録を通して、V1細胞が視野内の特定位置と特定方位の線に選択的に反応し、方位カラムとして組織化されていることを学ぶ。次に、背側経路が位置・運動・行為、腹側経路が形・色・物体認識を主に担う二重経路モデルを、患者DFや視覚失認の症例から理解する。錯視、ゲシュタルト原理、顔認識、バインディング問題を通して、分業された処理が一つの視覚世界へ統合される問題を考える。さらに、小川誠二らのBOLD信号研究を取り上げ、神経活動に伴う血液酸素化変化を利用して、ヒトの「見ている脳」を非侵襲的に測定できるようになったことを学ぶ。本コマは、知覚内容、神経細胞活動、脳画像という異なる水準を結びつけ、次の聴覚と多感覚統合へ進む基盤となる。さらに、研究によって明らかになった範囲と、なお推測にとどまる範囲を区別し、科学的知見を日常的な心の説明へ適用するときの慎重さを身につける。
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コマ主題細目 ① 一次視覚野V1――特徴を分解する神経細胞 ② 背側経路と腹側経路――行動の視覚と認識の視覚 ③ fMRIの誕生――BOLD信号で見ている脳を測る
細目レベル ① 本細目では、V1が網膜の位置関係を保つ網膜地図を持ち、各細胞が受容野内の特定方位、位置、動きに選択的に反応することを学ぶ。単純細胞、複雑細胞、端点に選択性を示す細胞の違いから、視覚対象が最初から「顔」や「机」として表現されるのではなく、局所的特徴へ分解されることを理解する。さらに、同じ方位を好む細胞が皮質の深さ方向にまとまる方位カラムを扱い、単一細胞の選択性と皮質組織の規則性を結びつける。この知見が明らかにした範囲と、そこからはまだ結論できない範囲も区別する必要がある。実験課題、症例、動物モデルは複雑な心的現象の一部を切り出したものであり、日常場面や人間全体へ一般化するときには条件と限界を確認する。前後の講義内容と結びつけ、同じ現象を複数水準から説明できることを目標とする。
② 本細目では、V1以降の情報が、頭頂葉へ向かう背側経路と側頭葉へ向かう腹側経路に分かれることを学ぶ。背側経路は位置、運動、到達・把握などの視覚運動変換、腹側経路は形、色、カテゴリー、顔などの物体認識に重要である。患者DFがスリットの向きを言語的に合わせられない一方、カードを正確に差し込めた症例は、知覚のための視覚と行為のための視覚の解離を示す。本細目では、二経路を完全に独立した系とせず、日常行動では統合される分業系として理解する。本細目の内容は、研究史上の一つの発見としてだけでなく、後の理論や方法を準備した段階として位置づける。初期の説明は現在から見れば単純化を含む場合があるが、その方法によって、それまで主観的に語られていた現象が比較・反復可能な問題となった。歴史的意義と現代的な修正を同時に理解することが重要である。
③ 最後に、小川誠二らが示したBOLD信号の原理と初期視覚刺激実験を学ぶ。神経活動が高まると局所の血流と酸素化状態が変化し、酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの磁気的性質の差がMRI信号に反映される。光刺激中に後頭葉の特定領域で信号が上昇したことは、活動するヒト脳を非侵襲的に画像化する道を開いた。ただしfMRIは活動電位を直接測るのではなく、数秒遅れる血行動態を通して推定する。本細目では、測定対象と推論の距離を正確に理解する。最終的には、この概念を新しい事例へ適用できることが重要である。刺激、行動、脳活動のいずれかが変化した場面を与えられたとき、考えられる説明を複数挙げ、必要な統制条件や追加測定を提案する。既知の用語へ事例を当てはめるだけでなく、別の解釈の可能性を残しながら、最も妥当な推論を組み立てられることを目標とする。
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11 聴覚とマルチモーダル知覚――音を聞き、音に意味を与える 科目の中での位置付け 本科目は、視覚に続いて聴覚を取り上げ、感覚入力が神経系によって意味ある経験へ再構成されることを学ぶ構成をとる。本コマは、第9回・第10回で確認した「知覚は外界の写しではない」という考えを、時間的に展開する音の処理と、多感覚統合へ広げる回に位置づけられる。まず、外耳、中耳、蝸牛、有毛細胞から聴神経、脳幹、視床、一次聴覚野へ至る経路を学び、周波数に応じたトノトピーと、左右耳の時間差・強度差による音源定位を理解する。次に、連続聴効果、既知旋律の補完、ミスマッチ陰性電位を通して、脳が過去の知識と時間的規則から次の音を予測し、欠けた入力を補うことを考える。さらに、マガーク効果、音誘発フラッシュ錯視、遅延聴覚フィードバック、落下音による身体高知覚の変化を扱い、聴覚が視覚、運動、触覚、身体感覚と統合されることを学ぶ。ここで重要なのは、どの感覚が常に優位なのではなく、時間的一致と信頼性に応じて知覚が組み立てられる点である。本コマは、次回の体性感覚と身体所有感に向けて、知覚が複数の感覚を因果的に結びつける過程であることを理解する橋渡しとなる。これにより、受講者は、各概念を孤立した用語として暗記するのではなく、前後の講義内容と結びつけ、心的現象をどの水準の証拠から説明しているのかを自覚的に整理できるようになる。
オリジナル教材
コマ主題細目 ① 耳から一次聴覚野へ――周波数と方向を分析する経路 ② 時間的予測と聴覚錯覚――聞こえなかった音を補う脳 ③ マルチモーダル統合――見ること、聞くこと、身体を感じること
細目レベル ① 本細目では、空気振動が鼓膜と耳小骨を介して蝸牛へ伝わり、基底膜上の有毛細胞によって電気信号へ変換される過程を学ぶ。高周波は蝸牛基底部、低周波は頂部に対応し、このトノトピーは一次聴覚野まで保たれる。さらに、蝸牛神経核、上オリーブ核、下丘、内側膝状体を経てA1へ至る経路を整理し、上オリーブ核が左右耳への到達時間差と強度差を比較して音源定位に関わることを理解する。本細目では、耳を入口、脳を分析と再構成の場として捉える。また、この主題を理解するためには、時間の尺度を意識することが重要である。ミリ秒単位の神経活動、数秒から数分の課題遂行、日や年をかけた学習・発達は、同じ「変化」であっても意味が異なる。それぞれの測定単位と分析方法を確認し、短い生理過程が長期的な行動や経験へどのように接続されるのかを考える。
② 本細目では、途切れた旋律の間にノイズを入れると音が続いていたように聞こえる連続聴効果を扱う。既知のメロディーほど補完されやすいことは、現在の入力が記憶された時間的パターンと照合されることを示す。また、規則的な音列に異なる音が入ると、注意を向けていなくてもミスマッチ陰性電位が生じる。脳は受動的に音を待つのではなく、次の音を予測し、予測誤差を検出している。本細目では、聴覚を時間的規則の予測と更新として理解する。この内容は、脳内の一方向的な因果列としてではなく、身体からの入力、脳内処理、行動出力、その結果として返る感覚フィードバックの循環として捉える必要がある。上位領域が下位領域を一方的に支配するのではなく、複数領域が双方向に調整し合う。どの領域が結節点となり、どの経路を介して情報が統合されるのかを説明できるようにする。
③ 最後に、視覚的な口の動きが音声の聞こえ方を変えるマガーク効果と、二回の音によって一回の光が二回に見える錯視を学ぶ。さらに、自分の声が遅れて返ると発話が乱れる遅延聴覚フィードバックや、落下音の遅れで自分の身体が高く感じられる研究を扱う。これらは、感覚が別々に完成してから足し合わされるのではなく、時間的同期と因果関係を手がかりに一つの出来事と身体へまとめられることを示す。本細目では、多感覚統合が知覚と自己感を支えることを理解する。ここで重要なのは、関連する概念を別々に暗記するのではなく、一方の変化が他方へどのような影響を与えるかという情報の流れとして捉えることである。また、相関が示された場合と、損傷・刺激・薬理操作などによって因果的関与が示唆された場合を区別し、単一部位だけで複雑な機能全体を説明しないことが求められる。
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コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
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12 体性感覚と感覚マッピング――身体を感じる脳のしくみ 科目の中での位置付け 本科目は、外界を知る視覚・聴覚から、自分の身体を知る体性感覚へ進む構成をとる。本コマは、皮膚、筋肉、関節、内臓からの情報が、どの経路を通って大脳へ届き、身体の地図と所有感を形成するのかを学ぶ回に位置づけられる。まず、触覚、圧覚、振動、温度、痛覚、固有感覚、内受容感覚を区別し、マイスナー小体、メルケル細胞、ルフィニ終末、パチニ小体などの受容器と、Aβ、Aδ、C線維の伝導特性を理解する。次に、細かな触覚・振動・固有感覚を伝える後索―内側毛帯路と、痛み・温度を伝える脊髄視床路について、交叉する位置と視床VPL、一次体性感覚野S1への投射を比較する。さらに、S1の体部位局在と感覚ホムンクルスを通して、皮質面積が身体の大きさではなく感覚解像度を反映することを学ぶ。最後に、痛みの感覚的・情動的側面、幻肢痛、鏡療法、ラバーハンド・イリュージョンを扱い、身体像が視覚、触覚、固有感覚によって更新される可塑的な構成物であることを考える。本コマは、次回の全身自己位置と運動制御へ進む前提として、「感じられる身体」の神経基盤を確立する。また、名称と代表機能の対応だけでなく、どの観察や実験結果からその対応が推論されたのかを確認し、局在的説明とネットワーク的説明を両立させる視点を養う。
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コマ主題細目 ① 体性感覚の受容器と二つの上行路 ② 一次体性感覚野と感覚ホムンクルス ③ 痛みと身体像のゆらぎ――幻肢痛とラバーハンド
細目レベル ① 本細目では、皮膚や深部の受容器が機械的変形や温度を神経信号へ変換し、一次求心性ニューロンを通って脊髄へ入る過程を学ぶ。後索―内側毛帯路は細かな触覚、振動、固有感覚を同側の脊髄後索で上行し、延髄で交叉する。脊髄視床路は痛み、温度、粗大触覚を脊髄に入った早期に交叉する。本細目では、伝える感覚、線維速度、交叉位置、視床からS1への流れを比較し、身体の異常部位を神経経路から考える基礎を身につける。授業では、条件間・群間・時点間の比較を丁寧に読む。ある条件だけで変化が起こったことに加え、対照条件では何が起こらなかったのかが、解釈を支える重要な証拠となる。平均値だけでなく個人差や試行差にも注意し、統計的な差が直ちに一人ひとりの状態や能力を決定するものではないことを理解する。
② 本細目では、中心溝後方のS1に身体各部が秩序立って表現される体部位局在を学ぶ。足は大脳半球内側、体幹、腕、手、顔、唇、舌は外側へ並ぶ。手指や唇がホムンクルスで大きいのは、身体部位が物理的に大きいからではなく、受容器密度が高く細かな識別に広い皮質資源を必要とするからである。動物ではヒゲ、鼻先、前足など生活上重要な部位が大きく表現される。本細目では、身体地図を感覚解像度と行動適応の地図として理解する。授業では、この主題を、対象となる現象、研究で加えられた操作、測定された指標、得られた結果、そこから可能となる解釈の順に整理する。名称だけを再生するのではなく、どの証拠がどの結論を支えるのかを説明し、細胞・回路・脳領域・個体行動という説明水準を混同しないことを到達点とする。
③ 最後に、痛みがS1による位置、島皮質による強度・身体内部感覚、前部帯状皮質による不快さ・回避という複数側面から構成されることを学ぶ。切断後も存在しない手足が痛む幻肢痛は、脳内身体地図が末梢の身体と一致しない状態を示す。鏡療法では健常肢の視覚が幻肢の運動感を更新し、痛みを変える場合がある。ラバーハンド錯覚では同期した視覚と触覚により偽物の手が自分の手として感じられる。本細目では、身体所有感を固定した事実ではなく感覚統合による仮説として理解する。学習に際しては、日常語で似て見える現象と、研究上の操作的定義とを区別する。研究では、観察可能な行動や生理反応を指標として、直接には見えない心的過程を間接的に推論している。したがって、測定値そのものを心と同一視せず、指標が何を反映すると仮定され、どの統制条件によって別の説明が除かれたのかを説明できるようにする。
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13 運動の生成と制御――身体を動かす意志としくみ 科目の中での位置付け 本科目は、第12回で「感じられる身体」が体性感覚と多感覚統合によって作られることを学んだあと、その身体をどのように動かすのかを扱う構成をとる。本コマは、自己位置と身体所有感が全身レベルでも変化しうることを確認し、一次運動野の身体地図と皮質脊髄路による随意運動の出力へ進む回に位置づけられる。まず、ヘッドマウントディスプレイを用いた幽体離脱錯覚とボディスワップ錯覚を通して、視点と触覚の同期が「私はどこにいるか」「どの身体が私か」を変えることを学ぶ。側頭頭頂接合部が視覚、体性感覚、前庭感覚を統合し、自己位置に関わることも理解する。次に、中心溝前方の一次運動野M1と運動ホムンクルスを取り上げ、手指、顔、舌など精密制御を要する部位に広い皮質面積が割り当てられることを学ぶ。tDCSによって足領域の興奮性を変えると足の筋力に選択的な変化が生じる研究から、運動地図の機能性と可塑性を考える。最後に、M1から内包、延髄錐体、脊髄の下位運動ニューロン、筋肉へ至る皮質脊髄路を整理し、小脳、基底核、体性感覚フィードバックとの連携を理解する。本コマは、次回の運動準備、自由意志、他者行為理解へ進む基盤となる。
オリジナル教材
コマ主題細目 ① 幽体離脱錯覚とボディスワップ――自己位置は作られる ② 一次運動野と運動ホムンクルス――動かす身体の地図 ③ 皮質脊髄路とフィードバック制御
細目レベル ① 本細目では、後方カメラの映像と胸への触覚を同期させると、自分の位置が身体の外へ移ったように感じる実験を学ぶ。側頭頭頂接合部への電気刺激でも類似した体験が報告されている。また、他者視点の映像と自分への触覚を同期させると、他者の身体を自分の身体のように感じることがある。映像上の身体が脅かされると皮膚電気反応が高まることは、錯覚が生理的意味を持つことを示す。本細目では、自己位置と身体所有感を感覚の整合性から構成されるものとして理解する。最終的には、この概念を新しい事例へ適用できることが重要である。刺激、行動、脳活動のいずれかが変化した場面を与えられたとき、考えられる説明を複数挙げ、必要な統制条件や追加測定を提案する。既知の用語へ事例を当てはめるだけでなく、別の解釈の可能性を残しながら、最も妥当な推論を組み立てられることを目標とする。
② 本細目では、M1が中心溝前方に位置し、身体部位ごとの体部位局在を持つことを学ぶ。足は内側、手と顔は外側に表現され、手指、唇、舌など細かな運動を要する部位が大きく描かれる。感覚ホムンクルスが感じる精度を表すのに対し、運動ホムンクルスは制御の精度と必要な神経資源を表す。足領域へのtDCSで下肢のピンチ力が変化した研究から、地図が解剖学的図にとどまらず機能的であることを理解する。この知見が明らかにした範囲と、そこからはまだ結論できない範囲も区別する必要がある。実験課題、症例、動物モデルは複雑な心的現象の一部を切り出したものであり、日常場面や人間全体へ一般化するときには条件と限界を確認する。前後の講義内容と結びつけ、同じ現象を複数水準から説明できることを目標とする。
③ 最後に、一次運動野から出た上位運動ニューロンの軸索が内包と脳幹を通り、多くが延髄で交叉し、脊髄の下位運動ニューロンを介して筋肉を動かす皮質脊髄路を学ぶ。運動は単なる命令の下行ではなく、小脳による誤差修正、基底核による開始と選択、視覚・体性感覚による結果確認を伴う。手を伸ばす方向、速度、力、タイミングも神経活動パターンとして調整される。本細目では、随意運動を身体地図、下行路、感覚フィードバックの循環として説明できるようにする。本細目の内容は、研究史上の一つの発見としてだけでなく、後の理論や方法を準備した段階として位置づける。初期の説明は現在から見れば単純化を含む場合があるが、その方法によって、それまで主観的に語られていた現象が比較・反復可能な問題となった。歴史的意義と現代的な修正を同時に理解することが重要である。
キーワード
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 教材を読み返して、小テストの問題を多少違った出題のされ方になったとしてもできるようにすること
14 運動による意志表現と運動観察による意図理解 科目の中での位置付け 本科目は、第13回で一次運動野と皮質脊髄路による運動出力を学んだあと、その運動がどのように準備され、自己の意志として経験され、他者の意図理解へ利用されるのかを扱う構成をとる。本コマは、身体を動かす神経機構から、主体感と社会的認知へ橋渡しする回に位置づけられる。まず、補足運動野SMAと準備電位を取り上げ、随意運動の数百ミリ秒前から脳活動が変化することを学ぶ。Libetの実験では、準備電位、主観的な意図時刻、筋電図による運動開始を比較し、意識的意図に先行する神経準備と、実行を中止するvetoの可能性を考える。次に、新生児模倣や表情筋EMG研究を通して、他者の動きを見ると自分の運動系にも対応する反応が生じる視覚―運動変換を学ぶ。さらに、サル前運動野F5で発見されたミラーニューロンと、ヒトの前運動野・下前頭回・下頭頂小葉からなる観察実行ネットワークを扱う。同じ把握動作でも文脈によって「飲む」「片づける」という意図が異なり、行為観察と文脈の統合が必要である。本コマは、自己の運動準備と他者の行為理解が部分的に共通する運動系を利用することを理解し、第15回の注意、第26回以降の共感・心の理論へつながる回となる。
オリジナル教材
コマ主題細目 ① 補足運動野、準備電位、Libet実験――意志の時間 ② 模倣と視覚―運動変換――他者の動きが身体に写る ③ ミラーニューロンと意図理解――行為の目的を読む
細目レベル ① 本細目では、SMAが運動系列の計画、自発的開始、順序づけに関わり、運動前に頭皮EEGでゆっくりした準備電位が現れることを学ぶ。Libetは高速時計を用いて「動こうと思った時刻」を報告させ、EEGの準備電位とEMGの運動開始を比較した。準備電位が主観的意図より先行した結果は自由意志をめぐる議論を生んだが、単純な指運動、試行平均、内観報告という限界がある。本細目では、実験結果と哲学的結論を区別し、主体感と行為中止の可能性を考える。ここで重要なのは、関連する概念を別々に暗記するのではなく、一方の変化が他方へどのような影響を与えるかという情報の流れとして捉えることである。また、相関が示された場合と、損傷・刺激・薬理操作などによって因果的関与が示唆された場合を区別し、単一部位だけで複雑な機能全体を説明しないことが求められる。
② 本細目では、他者の表情や動作を見た情報が、自分の運動出力へ変換される仕組みを学ぶ。新生児模倣研究は解釈に議論があるものの、視覚と自己運動の対応を考える契機となった。成人では笑顔を見ると頬の筋、怒り顔を見ると眉周辺の筋が短時間に反応することがEMGで示される。模倣は意識的なまねだけでなく、観察した動きを自分の身体の可能性として弱く再現する過程である。本細目では、技能学習、表情同調、社会的共鳴を視覚―運動変換として理解する。また、この主題を理解するためには、時間の尺度を意識することが重要である。ミリ秒単位の神経活動、数秒から数分の課題遂行、日や年をかけた学習・発達は、同じ「変化」であっても意味が異なる。それぞれの測定単位と分析方法を確認し、短い生理過程が長期的な行動や経験へどのように接続されるのかを考える。
③ 最後に、自分が物をつかむときと、他者がつかむのを見るときの両方で活動するミラーニューロンを学ぶ。単なる手の移動より、目的を持った把握行為に反応しやすい点が重要である。ヒトでは行為観察中に前運動野、下前頭回、下頭頂小葉が活動し、ミュー波も抑制される。食事前と食事後の文脈で同じコップ把握を見るIacoboniらの研究は、動作だけでなく意図を読む際に活動が変化することを示す。本細目では、ミラー系を他者理解の全てとせず、身体的な行為理解の重要な基盤として位置づける。この内容は、脳内の一方向的な因果列としてではなく、身体からの入力、脳内処理、行動出力、その結果として返る感覚フィードバックの循環として捉える必要がある。上位領域が下位領域を一方的に支配するのではなく、複数領域が双方向に調整し合う。どの領域が結節点となり、どの経路を介して情報が統合されるのかを説明できるようにする。
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復習・予習課題 教材を読み返して、小テストの問題を多少違った出題のされ方になったとしてもできるようにすること
15 注意の神経心理学――集中・選択・転換を支える脳のしくみ 科目の中での位置付け 本科目は、感覚・運動が神経系によって処理される過程を学んだあと、その膨大な情報の中から何を優先し、何を抑えるのかを扱う構成をとる。本コマは、知覚と行動の間を調整する注意を、心理課題、脳ネットワーク、脳損傷症例の三つから理解する回に位置づけられる。まず、選択的注意、持続的注意、注意転換、干渉抑制、自己生成を区別し、Posnerの手がかり課題とStroop課題から、刺激が現れる前に処理を準備し、自動反応を抑える働きを学ぶ。次に、目標に基づいて注意を向ける背側注意ネットワークの前頭眼野FEF・頭頂間溝IPSと、予期しないが重要な刺激へ注意を再定位する腹側注意ネットワークの腹側前頭皮質VFC・側頭頭頂接合部TPJを理解する。さらに、右半球損傷後の左半側空間無視を扱い、視覚入力が存在しても注意に選ばれなければ経験世界へ入りにくいことを学ぶ。不注意盲と変化盲は、健康な人にも同じ制約があることを示す。本コマは、注意を単なる集中力ではなく、知覚、記憶、運動、目標を結ぶ動的な編集機構として理解し、次回の前頭前野と実行機能へ進むための基盤となる。さらに、研究によって明らかになった範囲と、なお推測にとどまる範囲を区別し、科学的知見を日常的な心の説明へ適用するときの慎重さを身につける。
オリジナル教材
コマ主題細目 ① 注意の種類と実験課題――選ぶ、保つ、切り替える、抑える ② 背側・腹側注意ネットワーク――集中と再定位の協働 ③ 半側空間無視と注意の限界――見えていても経験されない
細目レベル ① 本細目では、複数刺激から目的に必要な情報を選ぶ選択的注意、単調な課題で覚醒を保つ持続的注意、課題や対象を変える転換、優勢反応を止める干渉抑制を区別する。Posner課題で有効手がかり後の反応が速くなることは、視線を動かさなくても注意を予測位置へ向けられることを示す。Stroop課題では自動的な文字読みを抑え、インク色に反応する必要がある。本細目では、注意を情報の増強だけでなく、不要情報と反応の抑制を含む制御として理解する。学習に際しては、日常語で似て見える現象と、研究上の操作的定義とを区別する。研究では、観察可能な行動や生理反応を指標として、直接には見えない心的過程を間接的に推論している。したがって、測定値そのものを心と同一視せず、指標が何を反映すると仮定され、どの統制条件によって別の説明が除かれたのかを説明できるようにする。
② 本細目では、FEFとIPSを中核とする背側系が、現在の目標に基づいて空間と特徴へトップダウンに注意を配分することを学ぶ。一方、右半球に強いVFCとTPJを中核とする腹側系は、予期しないが行動上重要な刺激を検出し、進行中の注意を中断して再定位させる。両系は独立した二つのスイッチではなく、腹側系の検出を背側系が新しい目標配分へ反映する。本細目では、注意を集中し続ける力と、必要時に中断して組み直す力のバランスとして理解する。授業では、条件間・群間・時点間の比較を丁寧に読む。ある条件だけで変化が起こったことに加え、対照条件では何が起こらなかったのかが、解釈を支える重要な証拠となる。平均値だけでなく個人差や試行差にも注意し、統計的な差が直ちに一人ひとりの状態や能力を決定するものではないことを理解する。
③ 最後に、右半球の広い注意ネットワーク損傷で、左空間や左身体へ注意を向けにくくなる半側空間無視を学ぶ。線分抹消、時計描画、食事場面だけでなく、想像した広場の左側も報告されにくいことは、注意が記憶内空間にも働くことを示す。また、パスを数える課題でゴリラを見落とす不注意盲や、場面変化に気づかない変化盲は、健康な人の処理資源も有限であることを示す。本細目では、注意が世界を豊かにすると同時に、見落としを必然的に生む選択機構であることを理解する。授業では、この主題を、対象となる現象、研究で加えられた操作、測定された指標、得られた結果、そこから可能となる解釈の順に整理する。名称だけを再生するのではなく、どの証拠がどの結論を支えるのかを説明し、細胞・回路・脳領域・個体行動という説明水準を混同しないことを到達点とする。
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コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
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16 前頭前野を「測る」――実行機能・ワーキングメモリ・FAB 科目の中での位置付け 本科目は、第15回で注意の選択、維持、転換、抑制を学んだあと、それらを用いて目標に沿った行動全体を組み立てる前頭前野機能へ進む構成をとる。本コマは、実行機能とワーキングメモリを理解し、神経心理学的検査FABを実際の行動場面として読み解く回に位置づけられる。まず、情報を一時的に保持しながら操作するワーキングメモリと、目標設定、開始、更新、切り替え、抑制、自己モニタリングを含む実行機能を学ぶ。背外側前頭前野は重要な結節点だが、頭頂葉、基底核、視床、小脳を含むネットワークが関与することを確認する。次に、FABの類似課題、語想起、運動系列、葛藤指示、Go/No-Go、把握行動という六課題を体験し、それぞれが概念化、自己生成、系列構成、干渉制御、反応抑制、環境刺激からの自律性をどのように引き出すかを学ぶ。最後に、合計点だけでなく、遅れ、反復、模倣、規則喪失、自己修正といった反応の質を観察する重要性と、年齢、教育、失語、運動障害、疲労などの影響を理解する。本コマは、画像で脳を見る方法とは異なり、行動から機能を推論する神経心理学の考え方を身につけ、後半の記憶・意思決定・精神疾患評価へつなげる回である。
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コマ主題細目 ① 実行機能とワーキングメモリ――目標に沿って行動を構成する ② FAB六課題――単純な行動に現れる前頭葉機能 ③ 行動から脳機能を推論する――得点と解釈の限界
細目レベル ① 本細目では、単なる短期保持と、保持した情報を使って処理するワーキングメモリを区別する。Baddeleyのモデルでは、音韻ループ、視空間スケッチパッド、エピソードバッファを中央実行系が調整する。実行機能には、Miyakeらの更新、切り替え、抑制に加え、計画、開始、誤り検出が含まれる。前頭葉損傷では知識があっても適切な場面で使えないことがある。本細目では、前頭前野を「賢さの場所」とせず、複数機能を目標へ統合する制御ネットワークとして理解する。本細目の内容は、研究史上の一つの発見としてだけでなく、後の理論や方法を準備した段階として位置づける。初期の説明は現在から見れば単純化を含む場合があるが、その方法によって、それまで主観的に語られていた現象が比較・反復可能な問題となった。歴史的意義と現代的な修正を同時に理解することが重要である。
② 本細目では、FABの六課題を、正答を覚えるためではなく、課題がどの制御を必要とするかという観点から学ぶ。類似課題は具体物から上位概念を作る。語想起は外的手がかりなしに反応を生成し続ける。拳―手刀―掌は運動系列を内在化する。葛藤指示は相手と同じ反応を抑えて反対規則へ変換する。Go/No-Goは出かかった反応を止める。把握行動は触れられた手を自動的に握らず、文脈に従う。本細目では、六課題と主要機能を対応づける。最終的には、この概念を新しい事例へ適用できることが重要である。刺激、行動、脳活動のいずれかが変化した場面を与えられたとき、考えられる説明を複数挙げ、必要な統制条件や追加測定を提案する。既知の用語へ事例を当てはめるだけでなく、別の解釈の可能性を残しながら、最も妥当な推論を組み立てられることを目標とする。
③ 最後に、FABが前頭葉を直接撮影する検査ではなく、検査者が作る小さな制御状況で行動がどう崩れるかを見る方法であることを学ぶ。同じ低得点でも、失語、聴覚理解、麻痺、疲労、不安、教育歴によって原因は異なる。各課題も純粋な一機能だけを測らず、注意、記憶、言語、運動が重なる。したがって、FAB単独で診断や病巣を決めることはできない。本細目では、量的得点と質的観察を組み合わせ、行動指標から脳機能を慎重に推論する神経心理学的態度を理解する。この知見が明らかにした範囲と、そこからはまだ結論できない範囲も区別する必要がある。実験課題、症例、動物モデルは複雑な心的現象の一部を切り出したものであり、日常場面や人間全体へ一般化するときには条件と限界を確認する。前後の講義内容と結びつけ、同じ現象を複数水準から説明できることを目標とする。
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復習・予習課題 教材を読み返して、小テストの問題を多少違った出題のされ方になったとしてもできるようにすること
17 Theta rhythm ①――脳幹から海馬へ、リズムが記憶を駆動する 科目の中での位置付け 本科目は、前半で大脳皮質を中心とする知覚、運動、注意、実行機能を学んだあと、後半では海馬、扁桃体、報酬系など脳深部構造へ進む構成をとる。本コマは、その最初に海馬シータ波を取り上げ、記憶が神経細胞の発火だけでなく、活動のタイミングをそろえるリズムに支えられることを学ぶ回に位置づけられる。まず、海馬が出来事を時間、場所、文脈の中で結びつける構造であり、シータ波が4~10Hzの規則的な局所フィールド電位として探索、注意、浅い睡眠などに現れることを理解する。Type 1とType 2の周波数、行動状態、アトロピン感受性の違いも学ぶ。次に、単一神経細胞を20kHz、海馬LFPを2kHzで記録する実験を通して、神経活動が膨大な数字の列として得られ、波形、発火頻度、周波数へ解析される過程を知る。さらに、海馬シータの出現・消失と脳幹PnO、PPT、DpMeの発火変化を同時記録した研究から、PnOの活動変化がシータ開始に先行し、脳幹から内側中隔を経て海馬へリズムが駆動される可能性を考える。本コマは、研究者自身の実験過程を通して、生理心理学が問い、記録、解析、統計、解剖確認を結ぶ営みであることを理解し、次回のシータ波の機能へ進む基礎となる。
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コマ主題細目 ① 海馬シータ波――記憶に時間の足場を与えるリズム ② 神経活動を記録する――単一細胞、LFP、数字の列 ③ 脳幹から海馬へ――シータ波の駆動部位を探る
細目レベル ① 本細目では、海馬シータ波を4~10Hzの律動的LFPとして定義し、探索行動や注意、REM睡眠などとの関係を学ぶ。7~10Hzで運動時に現れやすくアトロピン抵抗性のType 1と、4~7Hzで静止・警戒時に現れやすくアトロピン感受性のType 2を区別する。重要なのは、シータ波が一個の神経細胞の発火ではなく、多数細胞の膜電流が作る集団活動であり、細胞群が同じ時間枠で情報をやり取りする拍子となる点である。本細目では、記憶の内容と時間構造を結びつけるリズムとして理解する。この内容は、脳内の一方向的な因果列としてではなく、身体からの入力、脳内処理、行動出力、その結果として返る感覚フィードバックの循環として捉える必要がある。上位領域が下位領域を一方的に支配するのではなく、複数領域が双方向に調整し合う。どの領域が結節点となり、どの経路を介して情報が統合されるのかを説明できるようにする。
② 本細目では、微小電極で単一神経細胞の活動電位を高いサンプリング周波数で記録し、別の電極で海馬LFPを同時記録する方法を学ぶ。20kHzのスパイク記録では0.05ミリ秒ごと、2kHzのLFPでは0.5ミリ秒ごとに電圧が数値化される。生データは意味あるグラフではなく膨大な数字の列であり、スパイク分離、フィルタ、周波数解析、事象に合わせた平均化を経て初めて問いに答えられる。本細目では、脳を測ることが装置を置くだけでなく、測定尺度と解析手続きの選択を含むことを理解する。ここで重要なのは、関連する概念を別々に暗記するのではなく、一方の変化が他方へどのような影響を与えるかという情報の流れとして捉えることである。また、相関が示された場合と、損傷・刺激・薬理操作などによって因果的関与が示唆された場合を区別し、単一部位だけで複雑な機能全体を説明しないことが求められる。
③ 最後に、海馬で記録されるリズムが海馬だけで生まれるとは限らないことを学ぶ。海馬LFPが非シータからシータへ移る時点を基準に、PnO、PPT、DpMe細胞の発火変化潜時を比較すると、PnOで最も早い変化が見られた。これはPnOが内側中隔などを介して海馬リズムの開始を駆動する上行性回路の早い段階にある可能性を示す。ただし麻酔下記録であり、自然行動中の因果関係を直接証明するものではない。本細目では、同時記録と時間順序から回路機能を推論する論理を理解する。また、この主題を理解するためには、時間の尺度を意識することが重要である。ミリ秒単位の神経活動、数秒から数分の課題遂行、日や年をかけた学習・発達は、同じ「変化」であっても意味が異なる。それぞれの測定単位と分析方法を確認し、短い生理過程が長期的な行動や経験へどのように接続されるのかを考える。
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復習・予習課題 教材を読み返して、小テストの問題を多少違った出題のされ方になったとしてもできるようにすること
18 Theta rhythm ②――海馬シータ波の機能的意義 科目の中での位置付け 本科目は、第17回で海馬シータ波の発生機構と脳幹からの駆動を学んだあと、そのリズムが学習、記憶、予測、行動選択に何をもたらすのかを扱う構成をとる。本コマは、「どこから生じるか」という解剖・生理的問いから、「何をしているか」という機能的問いへ進む回に位置づけられる。まず、内側中隔損傷でシータ波と空間学習が妨げられる研究、条件づけ前のシータ出現率が学習速度を予測する研究、シータ中に刺激を提示すると老齢動物の学習が改善する研究を通して、シータが学習しやすい脳状態と関係することを学ぶ。次に、コカイン条件づけ場所選好CPP中の海馬LFPを記録した研究を扱い、薬物関連区画へ入る約400ミリ秒前からシータパワーが上昇し、入室時に消失することから、記憶に基づく報酬予期と行動開始の時間構造を考える。さらに、シータの位相に応じて場所細胞の発火時刻が変わる位相歳差を取り上げ、一周期内に過去・現在・未来の位置が圧縮される可能性を学ぶ。ここで重要なのは、シータ波が単に強いか弱いかだけでなく、どの位相でどの細胞が発火するかが情報を持つ点である。本コマは、次回の認知地図と場所細胞へ進むために、海馬が時間的リズムを用いて記憶を未来の行動へ変換するという視点を確立する。
オリジナル教材
コマ主題細目 ① シータ波と学習――学びやすい脳状態 ② 報酬を予測する海馬――CPPと入室直前のシータ ③ 位相が運ぶ情報――一周期の中に順序を組み込む
細目レベル ① 本細目では、シータ波と学習成績の関係を複数の実験から考える。内側中隔を損傷してシータを弱めると空間学習が妨げられる。ウサギの瞬膜条件づけでは、訓練前にシータが多い個体ほど早く学習し、老齢ウサギでもシータが出ている時点に刺激を提示すると成績が改善した。これらはシータが学習に伴う単なる結果ではなく、入力と可塑性が整いやすい状態を示す可能性を持つ。一方、相関と必要性、刺激タイミングによる介入は証拠の強さが異なる。本細目では、研究デザインを比較しながら機能的意義を理解する。授業では、この主題を、対象となる現象、研究で加えられた操作、測定された指標、得られた結果、そこから可能となる解釈の順に整理する。名称だけを再生するのではなく、どの証拠がどの結論を支えるのかを説明し、細胞・回路・脳領域・個体行動という説明水準を混同しないことを到達点とする。
② 本細目では、薬物を経験した部屋を後に好むCPP課題を、場所記憶に基づく報酬予期として理解する。自由行動ラットの前肢が部屋境界を越えた時点を0としてLFPをそろえると、条件づけ後のコカイン側入室前にシータパワーが一過性に上昇し、入室時に低下した。長く滞在した試行ほど変化が明瞭だったことは、単なる歩行速度や境界通過ではなく、選択の確信や報酬期待との関係を示唆する。本細目では、行動をミリ秒単位の脳波変化と同期させる解析の意義を理解する。学習に際しては、日常語で似て見える現象と、研究上の操作的定義とを区別する。研究では、観察可能な行動や生理反応を指標として、直接には見えない心的過程を間接的に推論している。したがって、測定値そのものを心と同一視せず、指標が何を反映すると仮定され、どの統制条件によって別の説明が除かれたのかを説明できるようにする。
③ 最後に、シータの振幅や出現率だけでなく位相に注目する。動物が場所細胞の発火領域を通過すると、発火はシータ周期の遅い位相から早い位相へ少しずつ前進する。位相歳差によって、連続する場所細胞の順序が一周期内に圧縮され、移動経路や出来事の前後関係が可塑性を起こしやすい時間幅へ収められる可能性がある。本細目では、周波数、パワー、位相を区別し、脳波の「波のどこで発火するか」が記憶の順序と予測を表現しうることを理解する。授業では、条件間・群間・時点間の比較を丁寧に読む。ある条件だけで変化が起こったことに加え、対照条件では何が起こらなかったのかが、解釈を支える重要な証拠となる。平均値だけでなく個人差や試行差にも注意し、統計的な差が直ちに一人ひとりの状態や能力を決定するものではないことを理解する。
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復習・予習課題 教材を読み返して、小テストの問題を多少違った出題のされ方になったとしてもできるようにすること
19 空間を表象する海馬 ①――認知地図と場所細胞 科目の中での位置付け 本科目は、第17回・第18回で海馬が経験を時間的に組織するリズムを学んだあと、同じ海馬が空間をどのように表現するのかを扱う構成をとる。本コマは、哲学的な空間概念、行動実験による認知地図、単一細胞記録による場所細胞を一つの流れとして理解する回に位置づけられる。まず、カントの空間形式を手がかりに、空間が物を入れる外的容器ではなく、対象間の位置関係を経験する枠組みであることを考える。次に、トールマンの潜在学習とサンバースト迷路を扱い、ラットが報酬のない探索中にも迷路構造を学び、既知の経路が塞がれてもゴール方向へ新しい道を選ぶことから、刺激―反応系列を超えた認知地図を仮定した論理を学ぶ。ストリップ・マップと包括的マップの違いは、一本の道順と環境全体の関係表象の違いとして理解する。さらに、O’KeefeとDostrovskyが自由行動ラットの海馬から、特定場所にいるとき選択的に発火する場所細胞を記録した研究を学ぶ。環境手がかりの回転や変更に応じて場所場が変化することは、単一刺激ではなく環境全体の構造に基づく表象を示す。本コマは、行動から推論された地図が神経細胞活動として見いだされた過程を理解し、次回の方位・距離・境界細胞へ進む基礎となる。
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コマ主題細目 ① 空間とは何か――関係を経験する心の枠組み ② トールマンの認知地図――潜在学習と柔軟な経路選択 ③ 場所細胞の発見――「ここ」を発火で表す
細目レベル ① 本細目では、「いまどこにいるか」が視覚、前庭感覚、固有感覚、記憶を統合して成立することを考える。カントは空間を、外的対象を位置と広がりの関係で経験するための形式とした。神経科学はこの哲学的結論を直接証明するものではないが、脳が感覚断片から位置関係の枠組みを作るという問いを実験可能にする。本細目では、空間を物理的な三次元容器と心的表象の両面から区別し、自己位置、目標、経路の関係が行動を導くことを理解する。この知見が明らかにした範囲と、そこからはまだ結論できない範囲も区別する必要がある。実験課題、症例、動物モデルは複雑な心的現象の一部を切り出したものであり、日常場面や人間全体へ一般化するときには条件と限界を確認する。前後の講義内容と結びつけ、同じ現象を複数水準から説明できることを目標とする。
② 本細目では、報酬なしで迷路を探索したラットが、後に報酬を導入されると急速に成績を改善する潜在学習を学ぶ。成績が低い間にも環境構造が学習されていたことは、外に現れた遂行と内的学習が同じではないことを示す。サンバースト迷路で、訓練した道が塞がれても餌の方角へ向かう新しい経路を選んだ結果は、単なる左右反応の系列では説明しにくい。本細目では、ストリップ・マップと包括的マップを区別し、認知地図を行動を柔軟にする関係表象として理解する。本細目の内容は、研究史上の一つの発見としてだけでなく、後の理論や方法を準備した段階として位置づける。初期の説明は現在から見れば単純化を含む場合があるが、その方法によって、それまで主観的に語られていた現象が比較・反復可能な問題となった。歴史的意義と現代的な修正を同時に理解することが重要である。
③ 最後に、自由に動くラットの海馬神経細胞を記録し、特定領域にいるときだけ発火する場所細胞を学ぶ。動物の軌跡上にスパイク位置を重ねると、細胞ごとに場所場が現れ、細胞集団全体で環境を覆う。壁の手がかりを回転すると場所場も回転し、環境が変わると再配置されることがある。これは場所細胞が単純な視覚刺激に反応するのではなく、自己運動と環境手がかりを統合した空間文脈を表すことを示す。本細目では、場所を神経活動として測る方法と認知地図仮説との接続を理解する。最終的には、この概念を新しい事例へ適用できることが重要である。刺激、行動、脳活動のいずれかが変化した場面を与えられたとき、考えられる説明を複数挙げ、必要な統制条件や追加測定を提案する。既知の用語へ事例を当てはめるだけでなく、別の解釈の可能性を残しながら、最も妥当な推論を組み立てられることを目標とする。
キーワード
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
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復習・予習課題 教材を読み返して、小テストの問題を多少違った出題のされ方になったとしてもできるようにすること
20 空間を表象する海馬 ②――場所・方位・距離・境界 科目の中での位置付け 本科目は、第19回でトールマンの認知地図と海馬の場所細胞を学んだあと、空間表象が位置だけでは成立しないことを扱う構成をとる。本コマは、方向、距離、境界を表す細胞を加え、脳内の空間地図を複数の神経コードの統合として理解する回に位置づけられる。まず、頭部が特定の絶対方位を向くと発火するヘッドディレクション細胞を学ぶ。視床前核、乳頭体、後海馬台、嗅内皮質などに分布し、視覚手がかりと前庭・自己運動情報を統合して内的コンパスを維持する。次に、内側嗅内皮質のグリッド細胞を取り上げ、発火位置が正六角形格子を形成し、背側から腹側へ格子間隔が広がることから、距離と空間スケールを測る神経的メートルとして働く可能性を学ぶ。さらに、環境の壁や端に沿って発火する境界細胞を扱い、空間に「ここまで」という枠を与え、場所場とグリッドを安定化する役割を考える。場所細胞が位置、HD細胞が方位、グリッド細胞が移動距離、境界細胞が空間の輪郭を提供し、これらが相互作用することで自己位置の更新とナビゲーションが成立する。本コマは、認知地図を一種類の細胞の働きに還元せず、分散したコードの統合として理解し、次回の経験による海馬回路の変化へつなぐ回である。
オリジナル教材
コマ主題細目 ① ヘッドディレクション細胞――内的コンパス ② グリッド細胞――距離と空間スケールを測る格子 ③ 境界細胞と統合――空間に枠を与える
細目レベル ① 本細目では、動物が環境内の特定方位を向いたときに選択的に発火するHD細胞を学ぶ。発火は場所や速度より頭の向きに依存し、細胞ごとに好みの方位がある。視覚的な手がかりを90度回転すると好みの方位も回転するが、暗闇でも前庭感覚と自己運動から方向をある程度維持できる。HD細胞は視床前核など複数領域に分布し、海馬系へ方向情報を供給する。本細目では、地図を使うためには現在位置だけでなく座標軸としての方位が必要であることを理解する。また、この主題を理解するためには、時間の尺度を意識することが重要である。ミリ秒単位の神経活動、数秒から数分の課題遂行、日や年をかけた学習・発達は、同じ「変化」であっても意味が異なる。それぞれの測定単位と分析方法を確認し、短い生理過程が長期的な行動や経験へどのように接続されるのかを考える。
② 本細目では、ラットが内側嗅内皮質のグリッド細胞の発火点を通るたびにスパイクが生じ、環境全体に正六角形の格子が現れることを学ぶ。一つの場所だけを表すのではなく、一定間隔で反復するため、移動距離と自己位置更新の目盛として機能すると考えられる。背側の細かな格子と腹側の粗い格子を重ねることで、局所と広域のスケールを扱える。本細目では、グリッドを視覚的模様への反応とせず、自己運動に基づく経路積分を支える周期的な内部座標として理解する。この内容は、脳内の一方向的な因果列としてではなく、身体からの入力、脳内処理、行動出力、その結果として返る感覚フィードバックの循環として捉える必要がある。上位領域が下位領域を一方的に支配するのではなく、複数領域が双方向に調整し合う。どの領域が結節点となり、どの経路を介して情報が統合されるのかを説明できるようにする。
③ 最後に、動物が壁や端の特定側に近づくと発火する境界細胞を学ぶ。箱の形や大きさが変わっても対応する境界との関係が保たれることから、単なる壁の見た目ではなく空間の輪郭を表すと考えられる。場所、方位、距離があっても、境界がなければ地図は無限に広がり、環境の同一性を定めにくい。境界入力は場所場とグリッドのずれを修正する手がかりにもなる。本細目では、四種類の細胞を競合する説明ではなく、相補的に空間表象を作るネットワークとして統合する。ここで重要なのは、関連する概念を別々に暗記するのではなく、一方の変化が他方へどのような影響を与えるかという情報の流れとして捉えることである。また、相関が示された場合と、損傷・刺激・薬理操作などによって因果的関与が示唆された場合を区別し、単一部位だけで複雑な機能全体を説明しないことが求められる。
キーワード
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト
復習・予習課題 教材を読み返して、小テストの問題を多少違った出題のされ方になったとしてもできるようにすること
21 変化する海馬 ①――経験はどのように記憶として残るのか 科目の中での位置付け 本科目は、第17回から第20回までに、海馬がシータ波によって経験を時間的に組織し、場所・方位・距離・境界を用いて空間を表象することを学んだ。本コマは、その時間と空間の中で生じた経験が、どのように神経回路の持続的な変化となり、記憶として残るのかを扱う回に位置づけられる。まず、ヘブの法則と長期増強LTPを再び取り上げ、共に活動した神経細胞間の結合が強くなるという可塑性が、記憶痕跡の候補となることを学ぶ。次に、NMDA受容体拮抗薬AP5によって海馬LTPを妨げたラットがモリス水迷路の隠れた足場を学習しにくくなる研究を通して、細胞レベルの可塑性と行動レベルの空間記憶を結びつける。さらに、学習直後の記憶は不安定であり、時間と睡眠を経て固定化されることを扱う。REM睡眠剥奪研究の単純でない結果を踏まえたうえで、徐波睡眠中の海馬シャープウェーブ・リップルと場所細胞系列のリプレイを学び、覚醒中の経路が睡眠中に圧縮され再生されることを理解する。最後に、記憶は写真のような保存ではなく、再生のたびに再構成されることを確認する。本コマは、記憶を活動電位、シナプス、細胞集団、睡眠、行動の複数尺度から説明する中心回であり、次回の生涯にわたる海馬変化へつながる。
オリジナル教材
コマ主題細目 ① LTPと記憶痕跡――経験でつながりが強くなる ② LTPを止めると空間記憶も止まるのか――AP5と水迷路 ③ 固定化とリプレイ――睡眠中に経験が再生される
細目レベル ① 本細目では、記憶を脳内に置かれた物ではなく、神経細胞間の結合しやすさと再活動可能性の変化として考える。BlissとLømoが海馬歯状回で示したLTPでは、高頻度刺激後に同じ弱い入力への応答が長く増強した。これはヘブの「同時活動した細胞が結びつく」という考えに対応する。ただし、人工刺激で生じるLTPと日常記憶は同一ではなく、LTPは可塑性の代表的な実験モデルである。本細目では、記憶痕跡を単一場所でなく、結合強度が変化した細胞集団として理解する。授業では、条件間・群間・時点間の比較を丁寧に読む。ある条件だけで変化が起こったことに加え、対照条件では何が起こらなかったのかが、解釈を支える重要な証拠となる。平均値だけでなく個人差や試行差にも注意し、統計的な差が直ちに一人ひとりの状態や能力を決定するものではないことを理解する。
② 本細目では、NMDA受容体を阻害するDL-AP5を投与したラットで、海馬LTPとモリス水迷路学習がともに妨げられた研究を学ぶ。対照群とほとんど作用しないL-AP5群は訓練に伴い足場到達時間が短縮し、転移テストで旧足場位置を集中的に探索した。DL-AP5群では改善が乏しく、LTP誘導も確認できなかった。ここで重要なのは、同じ操作が生理指標と行動指標を変えた点である。一方、運動や知覚への非特異的影響も検討する必要がある。本細目では、因果推論の強さと慎重さを理解する。授業では、この主題を、対象となる現象、研究で加えられた操作、測定された指標、得られた結果、そこから可能となる解釈の順に整理する。名称だけを再生するのではなく、どの証拠がどの結論を支えるのかを説明し、細胞・回路・脳領域・個体行動という説明水準を混同しないことを到達点とする。
③ 最後に、学習直後の記憶が時間の中で安定化する固定化を扱う。睡眠段階を単純に一つの記憶機能へ対応させることはできないが、徐波睡眠中のシャープウェーブ・リップルでは、場所細胞が覚醒中に通った順序を短時間に再生するリプレイが生じる。これは海馬の経験表象を大脳皮質へ再提示し、長期的なネットワークへ統合する過程と考えられる。ただし再生は完全な複写ではなく、選択と圧縮を含む。本細目では、記憶が覚えた瞬間に完成せず、睡眠と再構成を通して変化し続けることを理解する。学習に際しては、日常語で似て見える現象と、研究上の操作的定義とを区別する。研究では、観察可能な行動や生理反応を指標として、直接には見えない心的過程を間接的に推論している。したがって、測定値そのものを心と同一視せず、指標が何を反映すると仮定され、どの統制条件によって別の説明が除かれたのかを説明できるようにする。
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復習・予習課題 教材を読み返して、小テストの問題を多少違った出題のされ方になったとしてもできるようにすること
22 変化する海馬 ②――経験、加齢、認知症の中で変わる海馬 科目の中での位置付け 本科目は、第21回で経験によるシナプス可塑性と記憶固定化を学んだあと、より長い時間尺度で海馬がどのように変化するのかを扱う構成をとる。本コマは、職業経験による可塑性、正常加齢、認知症を比較し、「海馬が変わる」ことの多様な意味を理解する回に位置づけられる。まず、ロンドンのタクシードライバーでは対照群やバス運転手より後部海馬灰白質が大きく、経験年数と右後部海馬の大きさが関連した研究を取り上げる。複雑な都市の認知地図を長年使用する経験と脳構造の関係を示す一方、断面研究では因果方向を確定できないことを学ぶ。次に、大規模MRIデータと縦断研究から、健康な加齢でも海馬体積が緩やかに変化し、新しいエピソード記憶の記銘や自由再生が影響を受けやすいことを理解する。ただし、語彙・意味記憶が保たれる場合や、手がかりで再認できる場合も多く、加齢を一様な低下として捉えない。さらに、正常なもの忘れとアルツハイマー型認知症を区別し、アウグステDの症例、認知症の主な型、薬物療法、HDS-Rを扱う。本コマは、脳構造の数字や検査得点を個人の生活と同一視せず、経験、年齢、病理、日常機能を統合して解釈する態度を形成する。
オリジナル教材
コマ主題細目 ① ロンドンのタクシードライバー――経験と海馬構造 ② 正常加齢と海馬体積――変化には個人差がある ③ 認知症と神経心理評価――記憶が崩れることをどう捉えるか
細目レベル ① 本細目では、複雑な道路とランドマークを覚え、目的地ごとに経路を組み替えるタクシードライバーの海馬を学ぶ。MRI研究では後部海馬が大きく、経験年数との相関も示された。固定路線のバス運転手との比較は、単なる運転時間より柔軟な空間ナビゲーションが関係する可能性を高める。一方、もともとの適性が職業選択に影響した可能性や、前部海馬とのトレードオフもある。本細目では、可塑性を「使えば全体が大きくなり能力が上がる」という単純な図ではなく、経験に応じた部位別の再編成として理解する。最終的には、この概念を新しい事例へ適用できることが重要である。刺激、行動、脳活動のいずれかが変化した場面を与えられたとき、考えられる説明を複数挙げ、必要な統制条件や追加測定を提案する。既知の用語へ事例を当てはめるだけでなく、別の解釈の可能性を残しながら、最も妥当な推論を組み立てられることを目標とする。
② 本細目では、加齢によって新しい出来事を結びつけるエピソード記憶や自発的再生が低下しやすい一方、意味記憶、語彙、手がかり再認は比較的保たれうることを学ぶ。MRIの横断データでは年齢が高い群ほど平均海馬体積が小さい傾向が見えるが、異なる世代の比較であり、一人の変化を直接示さない。縦断研究は個人内変化を追えるが、脱落や測定間隔の問題がある。本細目では、平均的傾向と個人差、横断と縦断を区別し、正常加齢を直ちに病的状態とみなさない。この知見が明らかにした範囲と、そこからはまだ結論できない範囲も区別する必要がある。実験課題、症例、動物モデルは複雑な心的現象の一部を切り出したものであり、日常場面や人間全体へ一般化するときには条件と限界を確認する。前後の講義内容と結びつけ、同じ現象を複数水準から説明できることを目標とする。
③ 最後に、検索に時間がかかる正常加齢と、新しい出来事自体が保持されにくく生活機能が低下する認知症を区別する。アウグステDの会話記録は、名前、場所、時間、意味、計算、自己文脈がまとまりを失う様子を示す。アルツハイマー型、血管性、レビー小体型、前頭側頭型では症状と病理が異なる。HDS-Rは記憶、見当識、語想起などを短時間に評価するが、単独で診断を決めず、教育歴、感覚障害、気分、日常生活情報と合わせる必要がある。本細目では、検査の数値と人の全体像を区別する。本細目の内容は、研究史上の一つの発見としてだけでなく、後の理論や方法を準備した段階として位置づける。初期の説明は現在から見れば単純化を含む場合があるが、その方法によって、それまで主観的に語られていた現象が比較・反復可能な問題となった。歴史的意義と現代的な修正を同時に理解することが重要である。
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23 情動と報酬系 ①――快・不快を生み出す脳のしくみ 科目の中での位置付け 本科目は、海馬による記憶の時間・空間・可塑性を学んだあと、その経験に危険や価値の重みを与え、身体と行動を変える情動系へ進む構成をとる。本コマは、恐怖を中心に、情動を主観的な気分だけでなく、防御行動、自律神経、内分泌、記憶を組織する神経システムとして理解する回に位置づけられる。まず、ジェームズ=ランゲ説とキャノン=バード説を通して、身体変化と情動経験の関係を考え、現代的には脳と身体の相互作用として捉える。次に、音とフットショックを対呈示する恐怖条件づけを扱い、外側・基底外側扁桃体で連合が形成され、中枢扁桃体から視床下部・脳幹へ出力されてフリーズ、心拍、ホルモン反応が生じることを学ぶ。感覚視床から扁桃体へ素早く粗い情報を送る短い道と、感覚皮質で詳しく分析する長い道も理解する。さらに、フットショック、実際の捕食者、捕食者臭では、扁桃体、腹内側視床下部、PAG、内側扁桃体、BNSTなど異なる防御回路が重視されることを学ぶ。最後に、音恐怖と文脈恐怖を比較し、場所全体の恐怖記憶には海馬が必要であり、HPA軸が身体に長いストレス反応を残すことを考える。本コマは、恐怖を一つの中枢へ還元せず、脅威の性質と文脈に応じて組み替わる防御システムとして理解し、次回の接近行動を作る報酬系へつなぐ。
オリジナル教材
コマ主題細目 ① 情動と身体――ジェームズ=ランゲから現代神経科学へ ② 扁桃体と恐怖条件づけ――短い道と長い道 ③ 恐怖は一種類ではない――捕食者、臭い、文脈、HPA軸
細目レベル ① 本細目では、一般的な「怖いから震える」という順序に対し、身体が震え、その変化を感じることが恐怖経験になると考えたジェームズ=ランゲ説を学ぶ。キャノン=バード説は、身体反応が情動間で似ることや遅さを批判し、脳で感情経験と身体反応が並行して起こるとした。現代ではどちらか一方ではなく、刺激評価、記憶、身体内部信号、行動準備が循環して情動を作ると考える。本細目では、情動を内面だけでなく身体・行動・認知の統合として理解する。ここで重要なのは、関連する概念を別々に暗記するのではなく、一方の変化が他方へどのような影響を与えるかという情報の流れとして捉えることである。また、相関が示された場合と、損傷・刺激・薬理操作などによって因果的関与が示唆された場合を区別し、単一部位だけで複雑な機能全体を説明しないことが求められる。
② 本細目では、中性的な音と電気ショックを繰り返すと、音だけでフリーズが生じる恐怖条件づけを学ぶ。外側扁桃体は聴覚と痛覚の入力を受けて連合を形成し、中枢扁桃体は視床下部と脳幹へ出力する。視床から扁桃体へ直接向かう短い道は速いが粗く、皮質を経る長い道は遅いが詳しい。枝を蛇と誤認して先に身を止めるように、防御系は多少の誤報を許して見逃しを減らす。本細目では、扁桃体を主観的恐怖の唯一の場所とせず、防御反応を準備する結節点として理解する。また、この主題を理解するためには、時間の尺度を意識することが重要である。ミリ秒単位の神経活動、数秒から数分の課題遂行、日や年をかけた学習・発達は、同じ「変化」であっても意味が異なる。それぞれの測定単位と分析方法を確認し、短い生理過程が長期的な行動や経験へどのように接続されるのかを考える。
③ 最後に、痛み条件づけ、実際の捕食者、捕食者臭を比較する。ヘビとの対峙では距離、逃走方向、警戒姿勢が重要となり、視床下部―PAG回路が強く働く。フェレット臭では姿がなくても生得的防御が生じ、内側扁桃体やBNSTが関与する。さらに、特定音への恐怖は海馬損傷後も保たれやすいが、部屋全体への文脈恐怖は低下する。恐怖はHPA軸を通じてコルチコステロン分泌と長い身体変化を生む。本細目では、脅威対象・感覚様式・空間文脈に応じた複数回路を理解する。この内容は、脳内の一方向的な因果列としてではなく、身体からの入力、脳内処理、行動出力、その結果として返る感覚フィードバックの循環として捉える必要がある。上位領域が下位領域を一方的に支配するのではなく、複数領域が双方向に調整し合う。どの領域が結節点となり、どの経路を介して情報が統合されるのかを説明できるようにする。
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24 情動と報酬系 ②――ドパミンと報酬予測 科目の中での位置付け 本科目は、第23回で危険を避ける防御系を学んだあと、価値ある対象へ接近し行動を繰り返させる報酬系を扱う構成をとる。本コマは、報酬を快感だけでなく、「好き」「欲しい」「学習」という異なる側面から捉え、ドパミンが予測と結果のずれを用いて行動価値を更新する仕組みを理解する回に位置づけられる。まず、腹側被蓋野VTAから側坐核、前頭前野、扁桃体、海馬へ投射する中脳辺縁ドパミン系を学び、側坐核が接近行動と動機づけに関わることを理解する。次に、OldsとMilnerの脳内自己刺激、薬物自己投与、条件づけ場所選好を取り上げ、脳内報酬系の刺激や薬物関連文脈が強く行動を反復させることを学ぶ。コカインは再取り込みを阻害し、自然報酬では生じにくい強く長いドパミン信号を作る。さらに、Rescorla-Wagnerモデルの予測誤差とSchultzらのドパミン神経記録を扱い、学習初期には報酬に、学習後には予告刺激に発火し、予測した報酬がないと活動が低下することを理解する。最後に、依存では快感が低下しても手がかりへの「欲しい」が残ること、変動比率スケジュールが予測不能性によって反応を維持することを考える。本コマは、報酬系を意思の弱さではなく、予測、学習、環境手がかりによって行動選択を狭めるシステムとして理解し、第25回の不合理な意思決定へつなぐ。
オリジナル教材
コマ主題細目 ① 報酬系――「好き」「欲しい」「学習」を分ける ② 自己刺激・自己投与・場所選好――脳内報酬が行動を支配する ③ 報酬予測誤差とドパミン――ズレが学習を更新する
細目レベル ① 本細目では、報酬を単に快い刺激とせず、接近行動を引き起こし、将来その行動を増やすものとして定義する。快い経験を表すliking、獲得へ向かわせるwanting、合図と結果を結ぶlearningは関連するが同一ではない。VTAのドパミン神経と側坐核は特に動機づけと学習に重要であり、ドパミンを「快感物質」とだけ呼ぶのは不十分である。本細目では、依存で快感が薄れても欲求と探索が続く理由を、報酬の三側面の解離から理解する。学習に際しては、日常語で似て見える現象と、研究上の操作的定義とを区別する。研究では、観察可能な行動や生理反応を指標として、直接には見えない心的過程を間接的に推論している。したがって、測定値そのものを心と同一視せず、指標が何を反映すると仮定され、どの統制条件によって別の説明が除かれたのかを説明できるようにする。
② 本細目では、レバー押しで内側前脳束付近を刺激できるラットが反応を繰り返す脳内自己刺激を学ぶ。薬物自己投与では、コカインなどを自分の行動で得ることが強い強化子となり、探索や毛づくろいなどの行動レパートリーが狭まる。CPPでは薬物を経験した部屋へ薬物なしでも長く滞在し、場所記憶が将来の行動を動かす。本細目では、薬物そのものだけでなく、ライト、部屋、仲間、時間帯が報酬予測手がかりとなり、再発を引き起こすことを理解する。授業では、条件間・群間・時点間の比較を丁寧に読む。ある条件だけで変化が起こったことに加え、対照条件では何が起こらなかったのかが、解釈を支える重要な証拠となる。平均値だけでなく個人差や試行差にも注意し、統計的な差が直ちに一人ひとりの状態や能力を決定するものではないことを理解する。
③ 最後に、実際の報酬λと予測Vの差が学習変化を決める報酬予測誤差を学ぶ。予想外の報酬では正の誤差、予告どおりでは誤差が小さく、期待した報酬がないと負の誤差になる。サルのドパミン神経は学習前には果汁に、学習後には合図に反応し、報酬欠如時には一時低下した。これはドパミンが「うれしさ」より価値更新信号であることを示す。変動比率強化やSNSの不規則な反応は誤差を維持し、行動をやめにくくする。本細目では、個人の意志だけでなく環境設計を考える。授業では、この主題を、対象となる現象、研究で加えられた操作、測定された指標、得られた結果、そこから可能となる解釈の順に整理する。名称だけを再生するのではなく、どの証拠がどの結論を支えるのかを説明し、細胞・回路・脳領域・個体行動という説明水準を混同しないことを到達点とする。
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25 不合理な意思決定――大損失はなぜ人を引き戻すのか 科目の中での位置付け 本科目は、第24回で報酬予測誤差が行動価値を更新することを学んだあと、悪い結果を経験しても危険な選択から離れられない場合を扱う構成をとる。本コマは、アイオワ・ギャンブル課題IGTと自身の大損失研究を通して、身体反応、意識的判断、熟慮性、実際の選択が一致しない意思決定の複雑さを理解する回に位置づけられる。まず、四つのカード山から選択し、目先の高報酬だが長期的に損をする山と、低報酬だが長期的に得をする山を経験から学ぶIGTを理解する。腹内側前頭前野損傷患者では、危険性を言語的に知っていても不利な山から離れにくいことがある。次に、ソマティック・マーカー仮説を扱い、健康者では危険な山を選ぶ前に皮膚電気反応が高まり、身体からの予期的警告が選択を支える可能性を学ぶ。さらに、頻繁な小損失を持つDeck Aと、まれな大損失を持つDeck Bを分け、Deck Bで10万円を超える大損失を経験した後に再選択するまでの間隔を分析した研究を扱う。大損失回数が増えるほど一部参加者は早くDeck Bへ戻り、罰が単純に行動を減らさないことが示された。自己報告では熟慮的と捉える人ほど行動では短期間に戻る可能性もあり、意識された自己像と行動のずれを考える。本コマは、平均値に隠れる個人差と、考えることが合理性を保証しない点を理解し、社会的意思決定へ進む。
オリジナル教材
コマ主題細目 ① アイオワ・ギャンブル課題とソマティック・マーカー ② Deck B問題と大損失分析――平均に隠れた個人差 ③ 熟慮的なのに衝動的――自己理解と行動のずれ
細目レベル ① 本細目では、どの山が有利かを知らされず、報酬と損失を経験しながら選択方略を学ぶIGTを理解する。健康者は次第に長期的に有利な山へ移るが、腹内側前頭前野損傷患者は将来の損失を行動へ反映しにくい。危険な山を選ぶ前の皮膚電気反応は、明確な言語知識に先立つ身体的警告と解釈された。ただし、後の研究では参加者が早い段階から部分的知識を持つ可能性も示される。本細目では、無意識か意識かの二分法を避け、身体、知識、選択の時間関係を慎重に捉える。本細目の内容は、研究史上の一つの発見としてだけでなく、後の理論や方法を準備した段階として位置づける。初期の説明は現在から見れば単純化を含む場合があるが、その方法によって、それまで主観的に語られていた現象が比較・反復可能な問題となった。歴史的意義と現代的な修正を同時に理解することが重要である。
② 本細目では、同じ長期的不利な山でも、Deck Aは損失頻度が高く、Deck Bは損失頻度が低い代わりにまれな大損失を含むことを学ぶ。AとBをまとめる平均解析では危険選択が減るが、分けるとDeck Bを選び続ける人が見える。大損失後に何試行でBへ戻るかを測ると、複数回の大損失を経験した人ほど再選択間隔が短くなった。本細目では、罰の大きさだけでなく頻度、取り返し期待、選択履歴を分析し、平均値が異なる行動型を覆い隠す可能性を理解する。最終的には、この概念を新しい事例へ適用できることが重要である。刺激、行動、脳活動のいずれかが変化した場面を与えられたとき、考えられる説明を複数挙げ、必要な統制条件や追加測定を提案する。既知の用語へ事例を当てはめるだけでなく、別の解釈の可能性を残しながら、最も妥当な推論を組み立てられることを目標とする。
③ 最後に、大損失へ早く戻る行動を単純な衝動性だけで説明しない。大きく負けたため次は戻る、ここでやめると損が確定する、山の法則を見抜けるはずだと考える熟慮が、かえって危険選択を支えることがある。質問紙上で自分を慎重に考える人と捉えていても、課題行動では短い間隔で戻る可能性がある。自己報告は本人の意識的自己像を、課題は特定状況での行動を測るため、矛盾ではなく異なる水準である。本細目では、合理性を思考量だけで判断せず、結果に応じて方略を更新できるかで考える。この知見が明らかにした範囲と、そこからはまだ結論できない範囲も区別する必要がある。実験課題、症例、動物モデルは複雑な心的現象の一部を切り出したものであり、日常場面や人間全体へ一般化するときには条件と限界を確認する。前後の講義内容と結びつけ、同じ現象を複数水準から説明できることを目標とする。
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コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
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26 社会的意思決定と共感――他者の存在はなぜ判断と身体を変えるのか 科目の中での位置付け 本科目は、第25回まで自分の報酬と損失を中心に意思決定を学んだあと、他者の利益、苦痛、排除が自分の判断と身体へ入り込む社会的状況を扱う構成をとる。本コマは、道徳判断、援助行動、社会的排除、痛み共感を、人間と動物の研究から理解する回に位置づけられる。まず、トロッコのレバー条件と橋から人を突き落とす条件を比較し、一人を犠牲にして五人を助けるという結果が同じでも、直接的な身体介入では強い抵抗が生じることを学ぶ。外側前頭前野による結果比較、内側・腹内側前頭前野による情動的価値、前部帯状皮質による葛藤が関与するが、脳活動は道徳的正解を決めるものではない。次に、閉じ込められた同居ラットの拘束器を開ける援助行動研究を扱い、空の拘束器、同居個体が近くにいる2+empty条件、チョコレート条件を比較して、他個体の拘束状態が行動を変えることを理解する。さらに、サイバーボール課題で排除されると前部帯状皮質や島皮質が活動し、社会的苦痛が身体的痛みの情動成分と一部重なることを学ぶ。最後に、他個体の痛み観察で観察者の前部帯状皮質が反応する情動伝染と、援助行動を起こす側坐核系を区別する。本コマは、共感を単なる優しさではなく、他者状態の感知、身体的共鳴、動機づけ、行動選択の結合として理解し、次回のASDと心の理論へつなぐ。
オリジナル教材
コマ主題細目 ① 道徳判断――結果の計算と直接傷つける抵抗 ② ラットの援助行動――苦痛の感知と接近動機 ③ 社会的排除と痛み共感――前部帯状皮質・島皮質
細目レベル ① 本細目では、レバーを切り替えるトロッコ問題と、橋上の一人を押して止める問題を比較する。犠牲者数は一対五で同じでも、後者では他者の身体を手段として直接使うため許容率が下がる。功利主義的な結果比較と、してはいけない行為を重視する義務論的直感が葛藤する。fMRI研究は計算、情動、葛藤に関わる領域の違いを示すが、活動部位から倫理的正しさは導けない。本細目では、社会的意思決定に結果、行為方法、身体的近さ、情動が同時に関わることを理解する。この内容は、脳内の一方向的な因果列としてではなく、身体からの入力、脳内処理、行動出力、その結果として返る感覚フィードバックの循環として捉える必要がある。上位領域が下位領域を一方的に支配するのではなく、複数領域が双方向に調整し合う。どの領域が結節点となり、どの経路を介して情報が統合されるのかを説明できるようにする。
② 本細目では、自由なラットが試行を重ねると、拘束器の扉を開けて同居個体を解放する研究を学ぶ。空の拘束器や物体条件では開放が少なく、同居個体が拘束されず近くにいる2+empty条件との比較から、単なる社会的興奮だけでは説明しにくい。チョコレートと同居個体の両方を開け、共有する場合もある。c-Fos研究では前頭皮質・島皮質に加え、側坐核を含む接近動機系が活動した。本細目では、人間と同じ道徳を仮定せず、他個体状態の感知と援助行動の動機づけを区別する。ここで重要なのは、関連する概念を別々に暗記するのではなく、一方の変化が他方へどのような影響を与えるかという情報の流れとして捉えることである。また、相関が示された場合と、損傷・刺激・薬理操作などによって因果的関与が示唆された場合を区別し、単一部位だけで複雑な機能全体を説明しないことが求められる。
③ 最後に、サイバーボールで自分にだけボールが回らなくなると、苦痛報告と前部帯状皮質活動が高まる研究を学ぶ。これは心の痛みと身体の痛みが同一という意味ではなく、不快さ、危険性、行動変更の必要という情動成分が一部重なる可能性を示す。また、他者や同種個体の痛みを見ると、自分が痛いときにも活動する前部帯状皮質や島皮質が反応する。これを情動伝染と捉え、相手の信念を推論する心の理論とは区別する。本細目では、共感の身体的基盤とその限界を理解する。また、この主題を理解するためには、時間の尺度を意識することが重要である。ミリ秒単位の神経活動、数秒から数分の課題遂行、日や年をかけた学習・発達は、同じ「変化」であっても意味が異なる。それぞれの測定単位と分析方法を確認し、短い生理過程が長期的な行動や経験へどのように接続されるのかを考える。
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27 自閉スペクトラム症の発見――カナー、アスペルガー、スペクトラム 科目の中での位置付け 本科目は、第26回で他者の苦痛が身体と行動を変える共感を学んだあと、社会的コミュニケーションと反復的行動の発達上の多様性を扱う構成をとる。本コマは、自閉スペクトラム症ASDを、単純な「共感の欠如」や一つの固定した型としてではなく、歴史的症例記述と現在の診断概念の変化から理解する回に位置づけられる。まず、現在のDSM-5-TRとICD-11で、ASDが社会的コミュニケーション・相互作用の持続的困難と、限定・反復的な行動、興味、感覚特性の二領域から捉えられることを学ぶ。スペクトラムは重症度一本の直線ではなく、言語、知的能力、感覚、生活技能、支援必要度の異なる組み合わせを意味する。次に、Kannerが1943年に11名の子どもを記述し、ドナルドの優れた記憶や言語の反復と、極端な孤立、同一性保持への強い欲求を取り出した過程を学ぶ。親の養育を原因とする誤った歴史にも注意する。さらに、Aspergerの1944年報告、Wingによる1981年の紹介、Frithによる翻訳と生活事例を通して、言語や知的能力が高くても、暗黙の規則、雑談、予定変更、対人関係に困難が生じうることを理解する。本コマは、診断名の歴史を人を分類するためではなく、多様な発達像を適切に記述し支援へつなげる枠組みの変化として学び、次回の心の理論と発達メカニズムへ進む基盤となる。
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コマ主題細目 ① 現在のASD――二つの中核領域と多次元のスペクトラム ② カナーの11症例――孤立と同一性を保つ欲求 ③ アスペルガー、ウィング、フリス――生活の中に現れる困難
細目レベル ① 本細目では、社会的・情動的相互性、非言語コミュニケーション、関係形成の困難と、常同行動、同一性への固執、限定された関心、感覚過敏・鈍麻を学ぶ。特徴は発達早期から存在するが、社会的要求が高まって後に目立つ場合もある。知的障害や言語遅滞の有無、支援必要度は人によって異なる。スペクトラムを「軽いから重い」の一本道とせず、複数特性の組み合わせとして理解する。また、診断は特徴の有無だけでなく生活上の困難を含む。本細目では、ASDを人格や思いやりの欠如と同一視しない。授業では、この主題を、対象となる現象、研究で加えられた操作、測定された指標、得られた結果、そこから可能となる解釈の順に整理する。名称だけを再生するのではなく、どの証拠がどの結論を支えるのかを説明し、細胞・回路・脳領域・個体行動という説明水準を混同しないことを到達点とする。
② 本細目では、Kannerの第一例ドナルドを中心に、早期から旋律、文字、数字を正確に記憶する一方、人との相互的関係より物の反復操作を好んだ様子を学ぶ。反響言語や代名詞逆転は、語彙がないのではなく、聞いた表現を話者と聞き手の立場に合わせて変換しにくいことを示す。Kannerは極端な自閉的孤立と、不安を伴う同一性保持への欲求を共通特徴とした。本細目では、症例間に大きな個人差があったこと、親の冷たさを原因とする後世の説が不適切であることを理解する。学習に際しては、日常語で似て見える現象と、研究上の操作的定義とを区別する。研究では、観察可能な行動や生理反応を指標として、直接には見えない心的過程を間接的に推論している。したがって、測定値そのものを心と同一視せず、指標が何を反映すると仮定され、どの統制条件によって別の説明が除かれたのかを説明できるようにする。
③ 最後に、Aspergerが言語を用い特定分野に豊かな知識を持ちながら、会話の相互性、友人関係、集団の暗黙規則に困難を示す子どもを記述したことを学ぶ。Wingは英語圏へ紹介し、より広い連続体として捉えた。Frithが収録した生活事例では、学業能力と日常生活適応が一致せず、字義どおりの規則理解や状況変更の難しさが現れる。これらはKanner型と完全に別の疾患ではなく、重なりと多様性を持つ。本細目では、診断概念が症例と社会生活の観察から更新された歴史を理解する。授業では、条件間・群間・時点間の比較を丁寧に読む。ある条件だけで変化が起こったことに加え、対照条件では何が起こらなかったのかが、解釈を支える重要な証拠となる。平均値だけでなく個人差や試行差にも注意し、統計的な差が直ちに一人ひとりの状態や能力を決定するものではないことを理解する。
キーワード
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト
復習・予習課題 教材を読み返して、小テストの問題を多少違った出題のされ方になったとしてもできるようにすること
28 自閉スペクトラム症のメカニズムを探る――心の理論からアニマルモデルまで 科目の中での位置付け 科目の中での位置付け 本科目は、第27回でASDの歴史と多様な臨床像を学んだあと、その社会的困難を説明する認知機能、脳ネットワーク、発達要因へ進む構成をとる。本コマは、サリー=アン課題から心の理論研究を理解し、単一認知説の限界を踏まえて、多因子性、DOHaD、VPA動物モデルへ展開する回に位置づけられる。まず、他者が現実とは異なる誤った信念を持つことを理解するサリー=アン課題を学ぶ。1985年研究では、現実位置と初期位置を答えられるASD児の多くが、サリーの信念ではなく現実の箱を選び、一般知能や記憶とは区別される他者信念表象の困難が示唆された。ただし全員が失敗するわけではなく、診断検査ではない。次に、心的状態を推論する物語中のfMRI研究を扱い、内側前頭前野、後部帯状皮質、側頭頭頂接合部、側頭極からなるネットワークを学ぶ。ASD群が定型群より強い活動を示す場合は、能力が高いというより明示的・努力的な補償を示す可能性がある。さらに、ASDを一遺伝子、一脳部位、一養育経験で説明せず、遺伝的脆弱性と胎児期を含む環境が発達時間の中で相互作用する多因子性神経発達症として理解する。VPAモデルでは胎生期曝露後の心拍変動と社会行動を追跡し、発達早期の身体調節と後の社会的注意の関係を調べる。本コマは、動物モデルがASD全体を再現するのではなく、構成要素と発達過程を実験的に検討する方法であることを学ぶ回である。
オリジナル教材
コマ主題細目 ① サリー=アン課題と心の理論――他者の誤信念を表象する ② 心の理論ネットワークと補償――正答と処理方法は同じではない ③ 多因子性・DOHaD・VPAモデル――発達過程を実験する
細目レベル ① 本細目では、サリーがビー玉を籠に入れて退室し、不在中にアンが箱へ移す物語を学ぶ。正答には現実の箱を知りながら、サリーは移動を見ておらず籠にあると信じることを区別する必要がある。現実質問と記憶質問に正答しても信念質問を誤る場合、物語理解ではなく他者の知識状態の表象が問題となる。ASD児群で誤答が多かったが、正答者もおり、発達、言語、課題形式の影響がある。本細目では、心の理論を他者に心があると知ることではなく、信念から行動を予測する機能として理解する。この知見が明らかにした範囲と、そこからはまだ結論できない範囲も区別する必要がある。実験課題、症例、動物モデルは複雑な心的現象の一部を切り出したものであり、日常場面や人間全体へ一般化するときには条件と限界を確認する。前後の講義内容と結びつけ、同じ現象を複数水準から説明できることを目標とする。
② 本細目では、心的状態物語と物理的原因物語を比較したfMRI研究を学ぶ。内側前頭前野、後部帯状皮質・楔前部、左右の側頭頭頂接合部・側頭極が心の理論ネットワークとして活動する。幼少期のToM成績で分けたASD青年では、ToM−群も後に課題成績が改善したが、ToM+群とともに定型群より強い活動を示した。これは明示的に一つずつ考える補償的方略を反映する可能性がある。本細目では、行動上の正答と自動的・直感的処理を区別し、脳活動の強弱を優劣へ直結させない。本細目の内容は、研究史上の一つの発見としてだけでなく、後の理論や方法を準備した段階として位置づける。初期の説明は現在から見れば単純化を含む場合があるが、その方法によって、それまで主観的に語られていた現象が比較・反復可能な問題となった。歴史的意義と現代的な修正を同時に理解することが重要である。
③ 最後に、ASDが多数の遺伝要因と環境要因の相互作用から生じる多因子性神経発達症であり、親の育て方が原因ではないことを確認する。DOHaDは胎児期や出生早期の環境が発達経路へ影響するという考えである。妊娠12.5日目にVPAを投与するマウス研究では、胎生期から成体まで心拍変動を追い、週齢に応じた自律神経発達の違いと社会的接触を測る。動物は言語的心の理論を持つか検査できない。本細目では、モデルを疾患の複製ではなく、身体調節・社会的注意など一部機能の因果過程を調べる道具として理解する。最終的には、この概念を新しい事例へ適用できることが重要である。刺激、行動、脳活動のいずれかが変化した場面を与えられたとき、考えられる説明を複数挙げ、必要な統制条件や追加測定を提案する。既知の用語へ事例を当てはめるだけでなく、別の解釈の可能性を残しながら、最も妥当な推論を組み立てられることを目標とする。
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29 精神疾患と脳機能 ①――うつ病の神経科学と動物モデル 科目の中での位置付け 本科目は、知覚、記憶、情動、報酬、社会的認知の神経基盤を学んだあと、それらの働きが長期的な苦痛と生活機能の低下の中でどのように変化するのかを精神疾患から考える構成をとる。本コマは、うつ病を単なる気分の落ち込みや一つの伝達物質の不足としてではなく、主観的経験、行動、ストレス、報酬系、可塑性、治療の複数水準から理解する回に位置づけられる。まず、大うつ病性障害の診断が、抑うつ気分または興味・喜びの減退を含む症状の持続、生活機能、鑑別を総合して行われることを学ぶ。「何も感じられない」「未来がない」という時間感覚・意味感覚の変容や反芻にも注目する。次に、抗うつ薬スクリーニングに広く用いられた強制水泳試験を扱い、不動時間を「絶望」と解釈する妥当性、手続き条件、循環論的な薬理妥当性を批判的に検討する。さらに、長期の対人的ストレスを模した社会的敗北モデルを学び、同じ経験後に社会的回避を示す脆弱個体と保つレジリエント個体が分かれること、VTA―側坐核、前頭前野―扁桃体、BDNFなどの可塑性の違いを理解する。最後に、MAO阻害薬、三環系、SSRI、SNRI、ケタミンへ至る抗うつ薬開発史を通して、モノアミン仮説から可塑性・グルタミン酸・炎症・HPA軸を含む多層モデルへの展開を学ぶ。本コマは、動物行動を人間の苦しみと同一視せず、モデルが何を測り、何を測れないかを考える回である。
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コマ主題細目 ① うつ病の症状と経験――「悲しい」だけではない苦しみ ② 強制水泳試験と社会的敗北――動物モデルの妥当性 ③ 抗うつ薬開発――モノアミンから可塑性へ
細目レベル ① 本細目では、抑うつ気分、興味・喜びの減退、睡眠・食欲変化、疲労、罪責感、集中困難、死に関する思考などが、一定期間持続し生活機能を損なうときに診断が検討されることを学ぶ。身体疾患、薬剤、双極性障害、悲嘆との鑑別が必要である。うつ状態では、悲しさより感情の麻痺、未来の消失、自己価値の低下、反芻として経験される場合がある。本細目では、診断項目をチェックリストとして暗記するのではなく、主観、観察、時間経過、生活背景を統合する臨床判断として理解する。また、この主題を理解するためには、時間の尺度を意識することが重要である。ミリ秒単位の神経活動、数秒から数分の課題遂行、日や年をかけた学習・発達は、同じ「変化」であっても意味が異なる。それぞれの測定単位と分析方法を確認し、短い生理過程が長期的な行動や経験へどのように接続されるのかを考える。
② 本細目では、水槽内の不動時間が抗うつ薬で短縮する強制水泳試験を学び、不動を絶望と呼ぶことの問題を検討する。不動はエネルギー節約という適応戦略かもしれず、既存薬に反応するから「うつ」と定義する循環性がある。社会的敗北モデルは攻撃的個体との反復遭遇と感覚的同居により、社会的回避や快感喪失様行動を生む。全個体が同じ反応をせず、脆弱性とレジリエンスを比較できる。本細目では、表面的類似、発生原因、薬理反応というモデル妥当性の異なる側面を理解する。この内容は、脳内の一方向的な因果列としてではなく、身体からの入力、脳内処理、行動出力、その結果として返る感覚フィードバックの循環として捉える必要がある。上位領域が下位領域を一方的に支配するのではなく、複数領域が双方向に調整し合う。どの領域が結節点となり、どの経路を介して情報が統合されるのかを説明できるようにする。
③ 最後に、抗結核薬イプロニアジドと三環系薬の偶然の発見からモノアミン仮説が形成され、SSRI・SNRI・NaSSAへ発展した歴史を学ぶ。これらは多くの人に有効だが、効果発現に時間がかかり治療抵抗性もある。低用量ケタミンの速効性はNMDA受容体、BDNF、シナプス形成への注目を高め、うつ病を可塑性障害として捉える視点を広げた。一方、薬剤選択は個人差と副作用を含む臨床判断である。本細目では、動物モデルが創薬に寄与した意義と、治療効果から病因全体を逆算できない限界を理解する。ここで重要なのは、関連する概念を別々に暗記するのではなく、一方の変化が他方へどのような影響を与えるかという情報の流れとして捉えることである。また、相関が示された場合と、損傷・刺激・薬理操作などによって因果的関与が示唆された場合を区別し、単一部位だけで複雑な機能全体を説明しないことが求められる。
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復習・予習課題 教材を読み返して、小テストの問題を多少違った出題のされ方になったとしてもできるようにすること
30 生理心理学とは何だったのか――行動・身体・脳から心を考える 科目の中での位置付け 本科目は、第1回から第29回までに、生理心理学の方法、脳損傷と機能局在、神経細胞とシナプス、感覚、運動、注意、記憶、情動、報酬、意思決定、社会的認知、発達、精神疾患を学んできた。本コマは、新しい個別領域を追加するのではなく、これまで扱った知識と研究を結び直し、「生理心理学とは何を、どのような証拠によって明らかにする学問であったのか」を総括する最終回に位置づけられる。まず、直接見ることのできない心を、観察可能な行動、言語報告、身体反応、神経活動から推論するという生理心理学の基本構造を確認する。次に、脳機能を一つの部位へ対応させる機能局在論から、情報が通る経路、複数領域のネットワーク、経験によって変化する神経可塑性へと理解を広げる。さらに、ラバーハンド錯覚、Libet実験、FAB、恐怖条件づけ、アイオワ・ギャンブル課題、サリー=アン課題、動物モデルなどを振り返り、実験で操作された条件、測定された指標、観察された結果、それに対する解釈を区別する。最後に、脳科学の知識を人間の行動の単純な説明に用いるのではなく、その人がどのような条件で困り、どのような環境や支援があれば行動しやすくなるかを考える視点へ戻す。本コマは、心を脳の一点や一つの物質へ還元せず、神経細胞、身体、環境、他者、過去の経験、未来の予測が相互に作用する過程として理解するという、本科目全体の到達点を確認する回である。
オリジナル教材
コマ主題細目 ① 行動・認知・脳――見えない心へどのように近づくのか ② 局在・経路・ネットワーク・可塑性――脳の知識を結び直す ③ 操作・測定・結果・解釈――実験は心の何を示したのか ④ 脳科学を人間の理解と支援へ戻す
細目レベル ① 本細目では、生理心理学が、観察可能な行動から直接見ることのできない心理過程を推論し、さらにそれを身体反応や脳活動と結びつける学問であることを再確認する。同じ「発言しない」「行動を始めない」「覚えられない」という行動でも、注意、記憶、言語、不安、抑うつ、実行機能、薬の副作用など、異なる原因が考えられる。したがって、行動だけから原因を一つに決めず、課題条件、反応時間、誤り方、別の場面での遂行を比較する必要がある。また、脳波測定、機能的磁気共鳴画像法、神経心理学的検査、脳損傷研究、単一神経細胞記録、薬理学的操作では、測定している対象と時間・空間の尺度が異なる。本細目では、脳活動が心そのものではなく、課題と行動を通して心理的意味が推論される指標であることを理解する。研究を読む際には、「何を変えたか」「何を測ったか」「どの条件と比較したか」「何が観察されたか」「そこからどこまで結論できるか」を順序立てて説明できることを目標とする。
② 本細目では、フィニアス・ゲージ(1823–1860)、ポール・ブローカ(1824–1880)、ヘンリー・モレゾン(H.M.、1926–2008)の症例から学んだ機能局在を出発点として、心的機能が経路、ネットワーク、神経可塑性によって成立することを総括する。特定部位の損傷によって特定の行動が困難になることは、その領域の重要性を示すが、言語、記憶、注意、運動などの機能全体が一つの部位だけで完結するわけではない。視覚、聴覚、体性感覚、運動では、末梢から複数の中継点を経て大脳皮質へ至る経路を学んだ。注意では背側・腹側注意ネットワーク、記憶では海馬、内側中隔、脳幹、大脳皮質を結ぶ回路を扱った。また、長期増強、樹状突起スパイン、結合行列の変化、海馬シータ波、場所細胞、グリッド細胞、睡眠中のリプレイを通して、脳の働きが経験と時間によって変化することを学んだ。本細目では、脳部位名を個別に再生するだけでなく、入力、処理、出力、フィードバック、結合変化という情報の流れとして説明し、細胞、回路、脳領域、行動という異なる説明水準を統合できることを目標とする。
③ 本細目では、これまで扱った代表的な実験を、結論だけでなく研究手続きから読み直す。ラバーハンド錯覚では視覚と触覚の同期を操作し、身体所有感の報告や手の位置判断を測定した。Libet実験では、自発運動に先立つ準備電位、主観的な意図時刻、筋電図による運動開始を比較した。FABでは、課題得点だけでなく、規則の保持、反応抑制、模倣、自己修正などの失敗の仕方を観察した。恐怖条件づけでは、音と電気刺激の関係を操作し、フリーズ時間を測定した。アイオワ・ギャンブル課題では、報酬と損失の経験に応じた選択変化と個人差を調べた。サリー=アン課題、VPAモデル、強制水泳試験、社会的敗北ストレスモデルでは、人間の複雑な心や疾患の一部分を、測定可能な課題や行動へ置き換えていた。本細目では、「不動時間が増えた」「特定領域の活動が高まった」という観察結果と、「絶望した」「恐怖を感じた」という心理的解釈を区別する。実験課題や動物モデルが明らかにした範囲と、日常生活や人間の主観へそのまま一般化できない範囲を説明できることを目標とする。
④ 最後に、生理心理学の知識を、現実の人の理解と支援へどのように用いるかを考える。行動を「前頭葉が弱い」「ドパミンが出た」「扁桃体が反応した」と一つの脳部位や神経伝達物質だけで説明すると、その人の身体状態、生活環境、過去の経験、対人関係が見えなくなる。課題を開始できない人には、意志の弱さを指摘するのではなく、手順を小さく分ける、外的な合図を置く、最初の行動を一緒に行うなどの支援が考えられる。認知症では、繰り返される質問を性格の問題とせず、新しい出来事が記憶として残りにくい可能性を理解する必要がある。自閉スペクトラム症では、心の理論課題の成績を共感や思いやりの有無と同一視せず、具体的な説明、予定の明示、環境調整によって困難を減らすことを考える。うつ病では、症状だけでなく、睡眠、生活、服薬、副作用、治療段階を確認し、医師や薬剤師を含む関係職種へ情報をつなぐ必要がある。本細目では、脳科学を責任の否定や人間の分類に用いるのではなく、「なぜできないのか」と責めることから、「どのような条件ならできるのか」を考える支援へ結びつける。心を神経細胞、身体、環境、他者、経験が相互作用する過程として捉えることを、本科目全体の最終的な到達点とする。
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小テスト
復習・予習課題 教材を読み返して、小テストの問題を多少違った出題のされ方になったとしてもできるようにすること
履修判定指標
履修指標履修指標の水準キーワード配点関連回
生理心理学の方法と、神経系の基本構造を説明できる 受講者は、生理心理学が、人間や動物の行動、そこから考えられる心理機能、脳や身体の活動を関連づけて研究する学問であることを理解しなければならない。
また、フィニアス・ゲージ、ブローカの患者、H.M.の症例について、それぞれが前頭葉機能、言語、記憶と脳との関係を示した事例であることを説明できる必要がある。
さらに、中枢神経系と末梢神経系を区別し、大脳皮質の前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉、および脳幹、視床、視床下部、基底核、海馬、扁桃体の位置と代表的な機能を、基本的に対応づけられることを求める。
ただし、複雑な心理機能は一つの部位だけで生じるのではなく、複数の領域からなる神経ネットワークによって支えられることを説明できることを到達水準とする。
生理心理学、行動、認知、脳活動、脳損傷、機能局在、ゲージ、ブローカ、H.M.、中枢神経系、末梢神経系、大脳皮質、皮質下構造、神経ネットワーク 15 1~3回、7回
神経細胞の情報伝達と、経験による変化を説明できる 受講者は、神経細胞の樹状突起、細胞体、軸索、軸索終末の役割を説明できなければならない。また、静止膜電位から脱分極、活動電位、再分極、不応期へ至る基本的な流れと、活動電位の全か無かの法則を理解する必要がある。
さらに、神経伝達物質がシナプスへ放出され、受容体へ結合した後、再取り込みまたは分解されることを説明できなければならない。ドパミンやセロトニンなどの神経伝達物質を、一つの心的機能だけに単純に対応づけないことも必要である。
ヘブ則、長期増強(LTP)、樹状突起スパインの変化を関連づけ、経験によって神経細胞間の結合の強さが変化し、その後の情報の伝わり方が変わることを理解することを求める。
また、神経細胞の活動をベクトル、細胞間の結合を行列として表すことで、経験による結合の変化を簡単な数理モデルとして表現できることを理解する。複雑な計算ではなく、学習によって結合の強さが変わると、同じ入力から異なる出力が生じることを説明できることを到達水準とする。
神経細胞、樹状突起、軸索、膜電位、活動電位、シナプス、神経伝達物質、ヘブ則、LTP、スパイン、ベクトル、行列 15 4~6回、8回
感覚、身体表象、運動の基本的な仕組みを説明できる 受講者は、網膜の桿体と錐体、一次視覚野、背側視覚経路、腹側視覚経路の代表的な働きを説明できなければならない。また、聴覚情報が蝸牛から脳幹、視床を経て聴覚野へ送られることを理解する必要がある。
体性感覚については、細かな触覚、振動、固有感覚を伝える後索―内側毛帯路と、痛覚、温度感覚を伝える脊髄視床路を区別できなければならない。
さらに、感覚ホムンクルス、ラバーハンド錯覚、幻肢、幽体離脱錯覚などを通して、身体所有感が視覚、触覚、固有感覚の統合によって構成されることを理解する必要がある。
運動については、一次運動野、運動ホムンクルス、皮質脊髄路、補足運動野、準備電位の基本的な役割を説明できなければならない。また、他者の運動を見ることが自分の運動系にも影響することを、模倣やミラーニューロンの研究から説明できることを求める。
感覚器官に刺激が入ったことと、その刺激が主観的な経験として知覚されたことは同じではなく、知覚は脳による情報の選択と統合によって作られることを説明できることを到達水準とする。実験手続きの細部を暗記するのではなく、教材を読んで、何を調べた実験なのかを理解できていること。
網膜、桿体、錐体、一次視覚野、背側経路、腹側経路、聴覚、体性感覚、後索―内側毛帯路、脊髄視床路、ホムンクルス、身体所有感、一次運動野、皮質脊髄路、補足運動野、準備電位、ミラーニューロン 15 9~14回
注意と実行機能、および神経心理学的検査の意味を説明できる 受講者は、選択的注意、持続的注意、注意の転換、反応の抑制を区別できなければならない。また、Posner課題が空間的注意を、Stroop課題が自動的な反応への干渉を調べる課題であることを説明できる必要がある。
背側注意ネットワークが、現在の目標に基づいて注意を向ける働きに関係し、腹側注意ネットワークが、予期していなかった重要な刺激へ注意を向け直す働きに関係することを理解することを求める。
さらに、半側空間無視、不注意盲、変化盲を通して、視覚刺激が存在していても、注意が向けられなければ意識されないことがあると説明できなければならない。
前頭葉機能検査(FAB)については、類似課題、語想起、運動系列、葛藤指示、Go/No-Go、把握行動の六つの課題が、抽象化、自己生成、行動の系列化、干渉への抵抗、反応抑制、環境刺激への自律性を調べるものであることを理解する必要がある。
検査得点だけから診断や損傷部位を決めることはできず、課題の理解、言語、運動、疲労などの影響も考慮する必要があることを説明できることを到達水準とする。
実験手続きの細部を暗記するのではなく、教材を読んで、何を調べた実験なのかを理解できていること。
注意、選択的注意、持続的注意、Posner課題、Stroop課題、背側注意ネットワーク、腹側注意ネットワーク、半側空間無視、不注意盲、変化盲、実行機能、ワーキングメモリ、FAB、反応抑制 10 15~16回
海馬が空間と経験を記憶として組織する仕組みを説明できる 受講者は、海馬が新しい出来事や場所の記憶を形成するうえで重要な役割を持つことを理解しなければならない。また、動物が周囲を探索しているときには海馬にシータ波が現れ、神経細胞の活動を時間的にまとめることで、経験の記憶形成に関わることを説明できる必要がある。シータ波は海馬だけで作られるのではなく、脳幹部を含む広い神経細胞ネットワークの働きによって生じることを理解することを求める。
空間表象については、エドワード・トールマン(1886–1959)の潜在学習と認知地図を理解し、場所細胞、ヘッドディレクション細胞、グリッド細胞、境界細胞が、それぞれ場所、方向、距離や空間の目盛、空間の境界を表すことを説明できなければならない。これらの細胞が連携することで、動物が現在位置を知り、目的地まで移動できることを理解する必要がある。
また、**長期増強(long-term potentiation:LTP)**が、経験によってシナプス結合が長期的に強化される現象であることを理解しなければならない。LTPを妨げる操作によって、モリス水迷路における空間学習も妨げられることから、細胞レベルのシナプス変化が、行動レベルの記憶形成に関係することを説明できる必要がある。
さらに、探索中に活動した神経細胞の組み合わせが、睡眠中に再び活動するリプレイと、経験が時間の経過とともに長期記憶として安定する記憶の固定化を関連づけて理解することを求める。
ロンドンのタクシードライバーの研究、正常加齢、認知症の例から、海馬の構造と働きが、長期間の経験や加齢によって変化することも理解しなければならない。ただし、海馬の体積が大きいこと、課題成績が高いこと、神経細胞が強く活動することは、それぞれ異なる測定結果であり、一つの指標だけで記憶全体の良し悪しを判断できないことを説明できることを到達水準とする。
実験手続きの細部を暗記するのではなく、教材を読んで、何を調べた実験なのかを理解できていること。
海馬、シータ波、神経ネットワーク、認知地図、場所細胞、ヘッドディレクション細胞、グリッド細胞、境界細胞、LTP、モリス水迷路、固定化、リプレイ、加齢、認知症 20 17~22回
情動、報酬、意思決定が行動を変える仕組みを説明できる 受講者は、情動が主観的な気分だけでなく、身体反応と行動の準備を伴うことを理解しなければならない。また、ジェームズ=ランゲ説とキャノン=バード説の基本的な違いを説明できる必要がある。
恐怖条件づけでは、音とショックの経験によって音だけでフリーズ反応が生じること、扁桃体が危険を予告する刺激と身体反応を結びつけるうえで重要であることを理解することを求める。さらに、フットショック、実際の捕食者、捕食者臭では、関係する防御回路や行動が同一ではないことを説明できなければならない。
報酬については、腹側被蓋野から側坐核へ至るドパミン系、脳内自己刺激、薬物自己投与、条件性場所選好を理解し、ドパミンが単なる快感ではなく、報酬予測と行動学習に関係することを説明できる必要がある。
報酬予測誤差について、予想外の報酬、予想どおりの報酬、期待した報酬が得られなかった場合で、ドパミン神経の反応が異なることを理解することを求める。
また、アイオワ・ギャンブル課題、ソマティック・マーカー仮説、Deck B問題、大損失後の再選択を通して、損失を経験しても、必ず危険な選択を避けるとは限らないことを説明できなければならない。報酬や罰の意味は、過去の経験、予測、文脈によって変化することを理解することを到達水準とする。
実験手続きの細部を暗記するのではなく、教材を読んで、何を調べた実験なのかを理解できていること。
情動、ジェームズ=ランゲ説、キャノン=バード説、扁桃体、恐怖条件づけ、捕食者恐怖、報酬系、腹側被蓋野、側坐核、ドパミン、脳内自己刺激、自己投与、条件性場所選好、報酬予測誤差、アイオワ・ギャンブル課題、ソマティック・マーカー、Deck B 10 23~25回
他者との関係、共感、心の理論、自閉スペクトラム症を説明できる 受講者は、トロッコ問題において、助かる人数を重視する判断と、人を直接傷つけることへの抵抗が対立することを理解しなければならない。
また、閉じ込められた同居個体を解放するラットの援助行動、サイバーボール課題による社会的排除、他者の痛みを見たときの情動伝染を通して、他者の状態が自分の身体反応や行動に影響することを説明できる必要がある。
共感の身体的・情動的な側面と、他者の信念や意図を推論する心の理論を区別できることを求める。
自閉スペクトラム症については、カナーとアスペルガーの症例記述、現在の診断における社会的コミュニケーションの困難と限定された反復的行動という二つの領域を理解しなければならない。また、言語、知的能力、感覚、必要な支援の程度などが人によって異なるため、単純に軽い・重いという一本の直線では表せないことを説明できる必要がある。
サリー=アン課題が他者の誤信念を理解する課題であること、課題に正答できることと、日常場面で自然に他者を理解できることは同じではないことを理解することを求める。
さらに、バルプロ酸モデルは、人間の自閉スペクトラム症全体を再現するものではなく、胎児期の環境が、その後の自律神経や社会行動の発達へ与える影響の一部を調べるモデルであることを説明できることを到達水準とする。
実験手続きの細部を暗記するのではなく、教材を読んで、何を調べた実験なのかを理解できていること。
道徳判断、トロッコ問題、援助行動、社会的排除、情動伝染、共感、前部帯状皮質、島皮質、カナー、アスペルガー、自閉スペクトラム症、サリー=アン課題、心の理論、DOHaD、バルプロ酸モデル 10 26~28回
うつ病の症状、動物モデル、治療支援の基本を説明できる 受講者は、うつ病が一時的な気分の落ち込みとは異なり、抑うつ気分、興味や喜びの低下、意欲低下、睡眠や食欲の変化、集中困難などが持続し、学業、仕事、家庭生活、対人関係に支障を生じる状態であることを理解しなければならない。
診断は、症状の数だけで決まるのではなく、持続期間、生活機能、経過、身体疾患や双極症との区別を含めて行われることを説明できる必要がある。
また、学習性無力感、強制水泳試験、社会的敗北ストレスモデルが、それぞれ制御不能な経験、不動行動、社会的回避や個体差を調べる研究であることを理解しなければならない。動物の不動や社会的回避を、人間の絶望、罪責感、反芻、希死念慮と同じものと考えず、動物モデルは人間のうつ病に関係する一部の機能を調べるものであることを説明できることを求める。
さらに、抗うつ薬は調子の悪い日にだけ飲む薬ではなく、継続して服用し、効果と副作用を一定期間観察しながら調整されることを理解する必要がある。
心理職は薬を処方・変更する職種ではないが、実際の服薬状況、自己中止、副作用への不安、残薬や重複処方などを把握し、必要な情報を医師や薬剤師へつなぐ役割を持つことを説明できることを到達水準とする。
実験手続きの細部を暗記するのではなく、教材を読んで、何を調べた実験なのかを理解できていること。
うつ病、抑うつ気分、快感喪失、生活機能、学習性無力感、強制水泳試験、社会的敗北ストレス、動物モデル、抗うつ薬、服薬行動、服薬支援、多職種連携 5 29回
評価方法 試験
評価基準 評語
    学習目標をほぼ完全に達成している・・・・・・・・・・・・・ S (100~90点)
    学習目標を相応に達成している・・・・・・・・・・・・・・・ A (89~80点)
    学習目標を相応に達成しているが不十分な点がある・・・・・・ B (79~70点)
    学習目標の最低限は満たしている・・・・・・・・・・・・・・ C (69~60点)
    学習目標の最低限を満たしていない・・・・・・・・・・・・・ D (60点未満)
教科書
参考文献
実験・実習・教材費