区分 高度専門科目
ディプロマ・ポリシーとの関係
SDGs力 科学コミュニケーション力 研究力
カリキュラム・ポリシーとの関係
教養 応用力 実践力
科目間連携 総合心理力
カリキュラム全体の中でのこの科目の位置づけ

科目の目的
本科目は、高度専門科目のひとつであり、公認心理師カリキュラムにおける必修25科目には該当しないものの、現代的な臨床課題である「依存症」に焦点を当て、公認心理師にとって実践上不可欠な知識と理解を深めるための重要な科目である。公認心理師は、保健医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働の5領域で活動が期待されており、各領域において依存症や嗜癖性行動に関連する問題を抱える対象者と関わる機会が多い。近年では、ICD-11やDSM-5における診断分類の変化、行動嗜癖(ゲーム障害、ギャンブル障害等)への注目、治療ギャップの存在といった社会的・制度的背景が指摘されており、公認心理師に求められる対応力も高度化している。

このような背景をふまえ、当科目では「依存症」に関する以下の主題を設定する:①依存症の成因(神経生物学的・心理社会的要因)、②診断基準と分類、③主な症状と経過、④治療・回復における心理支援のあり方、⑤本人および家族へのアセスメントと支援、⑥多職種連携・地域支援との関係性である。これらを体系的に学ぶことで、学生は依存症の問題を単なる個人の嗜好や自己責任としてではなく、心理社会的問題として理解し、公認心理師としての専門的支援の視点を獲得することができる。これらを体系的に学ぶことで、学生は依存症の問題を単なる個人の嗜好や自己責任としてではなく、心理社会的問題として理解し、公認心理師としての専門的支援の視点を獲得することができる。これら6つの主題は、公認心理師が現場で直面する支援課題の中心であり、制度的変化や治療動向に即した実践的知識を修得するために不可欠である。

また、本科目は公認心理師を目指す学生に限らず、現代社会の精神健康課題に関心をもつ全ての学生に開かれており、将来の職業選択においても広く応用可能な視点と知識を提供するものである。


到達目標
本講義では、依存症の成因、診断法、症状、経過、本人および家族に対するアセスメントや心理的支援に関する知識を体系的に修得することで、依存症に関連する多様な臨床課題に対応できる基礎力を養う。これにより、受講生は「嗜癖行動の心理学的理解」「依存症支援における多職種連携の課題」「家族関係や社会的孤立との関連」など、依存症をめぐる現代的テーマについて、専門用語を用いて論理的に説明・考察できる力を身につける。また、修得した知識は公認心理師国家試験をはじめとして、心理学検定試験における依存症関連の出題(例:物質使用障害、ギャンブル障害、回復支援、心理教育など)への対応力にも直結し、過去問題を根拠をもって解答できる水準の実力を目指す。さらに、依存症が個人の問題として矮小化されがちな現状に対し、心理職としての社会的責務を理解し、回復を支える視点から啓発や支援に貢献できる人材としての素地を養うことも、本講義の重要な成果の一つである。

また、講義内では、自由課題として、レポート課題を実施する。この課題に取り組む学生においては、自身の関心に基づいた依存症関連トピックを論理的に構成・発信する力を養うことができる。こうしたアウトプットは、後の学会発表や卒業論文の執筆力の向上につながり、また就職活動におけるエントリーシート作成のための文章力の向上にもつながるなど、様々な応用力につながる。

科目の概要
この科目は、基盤専門科目「臨床心理学概論」を踏まえ、現代社会における多様な依存症(アルコール、薬物、ギャンブル、ゲームなど)について、その診断基準、疫学、病理、治療の実際を体系的に学ぶことを目的とする。依存症は単なる嗜好の延長ではなく、心理的・社会的要因と密接に関係したこころの病であることを理解し、当事者のみならず、家族や周囲の人々、社会全体との関係性にも目を向けていく。全15回の講義は、基礎概念の理解から支援技法の修得、支援の現実的課題への応用という流れで段階的に構成されており、それぞれが後続の理解に接続する構造となっている。

★授業の前半(第1〜4回)では、「嗜好」「嗜癖」「依存」の概念的違いや、「ハマる」心理の理解を深め、依存症の多様性と影響を整理する。この段階では、依存の仕組みを理論的に把握し、個別ケースの理解に向けた基盤を形成する。

★中盤(第5〜8回)では、依存症が治療可能な病であるという理解とともに、「なぜ依存症者は治療を受けにくいのか」「治療者は依存症者に対して何を感じるのか」といった対人援助における現実的な困難に着目する。ここでは支援現場の実態をケースや統計から学び、支援者の視点を獲得する。

★後半(第9〜14回)では、行動変容の理論(例:動機づけ面接)、心理療法の実践、回復の意味や限界について学び、支援に必要な視点を多角的に養う。最終段階では、概念・支援・技法の統合的理解をめざし、依存症支援の実践的基盤を確立する。

★第15回では全体の内容を総括し、依存症に関する知識を統合的に捉える力を育てる。

また、日常生活における嗜好品や娯楽(ギャンブル・ゲーム等)との関係を扱うことで、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」という視点から、なぜ人は楽しみを手放せなくなるのかという心理を理解する。学習成果は「アドバンスト心理療法Ⅰ・Ⅱ」「ギャンブルの心理学」などの応用的科目においても活用できる内容であり、心理支援に携わる者としての理解をより実践的に深める基盤を提供する。

科目のキーワード
依存症(物質使用障害、行動嗜癖、嗜癖性障害)
「依存症」は1800年代後半から1900年代はじめの「アディクション(addiction)」が広く使われはじめたことに由来し、現在では物質(アルコール・薬物)への依存と、ギャンブル・ゲーム等の行動嗜癖を含む広義の概念として用いられる。近年ではギャンブル・ゲームなどの行動嗜癖も含まれ、DSM-5やICD-11でも注目されている。

精神疾患(精神症状、慢性経過、寛解、ラプス、リラプス)
精神疾患は、個人の感情・思考・行動に持続的な機能障害をもたらす状態を指し、うつ病・統合失調症などと並び、依存症も含まれる。精神症状(例:渇望、否認、感情調整困難)を理解することが支援の出発点となる。治療・支援ではその慢性性と寛解のサイクル(ラプスとリラプス)への理解が求められる。

診断分類(DSM、ICD)
DSM(米国精神医学会:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)およびICD(世界保健機関:International Classification of Diseases)は、依存症を含む精神疾患の診断基準として国際的に用いられている。DSM-5では「ギャンブル障害」、ICD-11では「ゲーム障害」も正式に位置づけられ、診断実務に影響を与えている。

アセスメント(スクリーニング、動機の評価、家族関係)
依存症の臨床的理解に不可欠な初期評価。質問紙や面接技法を用いて、症状の深刻度や背景要因を把握する。臨床支援の出発点として、AUDIT、PGSI等の標準化された質問紙や半構造化面接を通じ、依存の深刻度・動機・家族との相互関係などを多面的に評価する。

治療(医療、認知行動療法、集団療法、自助グループ)
心理療法は治療的関わりによって変化を促す枠組み。とくに依存症治療では、認知行動療法が中心的技法として用いられる。マーラットが診療の中で、ラプスとリラプスについて分類する必要があるとしたその時点から、認知行動療法は依存症治療の中核的な存在となった。他にも自助グループが国際的には用いられている。自助グループの起源は、諸説あるが、ウィルソンとボブの5時間の話し合いがアルコホーリクスアノニマスの始まりと言われる。それ以外にも、同じような大酒のみが集まって話し合うワシントニアン運動は1840年代にはじまる。

動機づけ面接(チェンジトーク、OARS、両価性)
1990年代にミラーらにより提唱された面接法。クライエントの「変わりたい」と「変わりたくない」気持ち(両価性)に焦点を当て、内発的動機づけを高める。

再発予防モデル(リラプスプリベンションモデル、行動療法、マーラット)
マーラットによって提案された、再発(リラプス)を「脱線ではなくプロセス」として捉え、再発要因を分析し対応する枠組み。CBTと併用される。

学習理論(オペラント条件づけ、古典的条件づけ)
依存症行動の理解には、行動が報酬によって強化されるオペラント条件づけ(言葉はスキナーに由来するが、ワトソンの時代から習慣と呼ばれていた)、刺激と反応の連合によって習得される古典的条件づけ(パブロフに由来すると言われている)の両視点が重要である。

授業の展開方法
本科目は、講義形式を基本としつつも、各回の学びが深まるように、適宜双方向的なやり取りや事例を取り入れて進行する。各回ごとに教員が指定する教材をもとに講義を行い、理解を補助するためにパワーポイント(PPT)や図表、写真、動画などの視覚教材を積極的に活用する。抽象的な心理学概念も視覚的に把握できるよう工夫する。

授業の基本的な90分構成は以下の通りである:

冒頭5〜10分程度:前回内容の振り返りと今回のねらい・問いの提示
中盤60分程度:教材に基づく講義および適宜質疑応答。講義中には学生に対して関連する問いを投げかけ、学びを深める双方向的な対話を用いることもある。
終盤15分程度:小テスト(10分以内)を実施し、当日の講義内容を整理・定着させるとともに、次回授業への橋渡しを行う。

講義は全15回で構成され、各回が段階的に連関しながら、「概念の理解」から「臨床的・社会的応用」へと学びを発展させていく。

★前半(第1〜4回)では、概念理解を中心としたインプット型の講義形式を基本とし、文字教材やPPTを多用して基礎用語を整理する。
★中盤(第5〜8回)では、依存症が治療可能な病であるという理解とともに、「なぜ依存症者は治療を受けにくいのか」「治療者は依存症者に対して何を感じるのか」について、文章教材や過去の統計を用いて、その現象を理解する。理解を深めるための対話事例を増やし、疑似的に双方向的なコミュニケーションがイメージできるよう講義を展開する。さらに、実際の臨床的課題に即した模擬事例を紹介しながら、個別対応や支援の視点を検討する。
★後半(第9〜14回)では、行動変容の理論(例:動機づけ面接)、心理療法の実践、回復の意味や限界について、心理療法や支援技法を扱うため、ワークシートを用いた技法の整理や、OARSなどの実践的な要素について、具体的に理解する。
★第15回では、全体を通して得られた知識を統合し、個人の理解を確認する振り返りのワークを行う。

また、講義内で紹介する教材は、事前・事後学修にも活用できるよう設計されており、必要に応じて授業内でその旨を明示する。学生には受動的な聴講にとどまらず、「なぜ変われないのか」「支援者はどう関わるべきか」など、問いを持って主体的に学ぶ姿勢が求められる。

さらに、模擬面接事例を通して、依存症支援におけるコミュニケーションの実践的理解を可能にする。

補講措置:7月8日は担当教員が学会参加のため休講とし、補講は7月30日に実施予定である。

オフィス・アワー
前期:金曜4限
後期:金曜4限

科目コード RE3060
学年・期 2年・前期
科目名 依存症の心理学
単位数 2
授業形態 講義
必修・選択 選択
学習時間 【授業】90分×15 【予習】90分以上×15 【復習】90分以上×15
前提とする科目
展開科目
関連資格
担当教員名 横光健吾
主題コマシラバス項目内容教材・教具
1 嗜好、嗜癖、依存症とは 科目の中での位置付け 本科目は、依存症の成因、診断法、症状、経過、本人および家族に対するアセスメントや支援に関する知識を修得し、依存症と関連する問題への支援についての理解を深めることを目的とする。また、関連文献の講読を通じて、依存症を心理学的に捉える視点を養うことを目指す。

■ 全15回の構成(※全コマ共通で記載)
1:嗜好、嗜癖、依存症とは
2:ハマるとは何か
3:ハマるとは何か②
4:これまでのまとめ
5:依存症はこころの病気であるのか
6:依存症は治療・支援できるのか
7:依存症者は治療に行くのか
8:これまでのまとめ/治療者は依存症者に何を思うのか
9:どのように行動を変容させるのか
10:治療者は依存症者の何を理解する必要があるのか
11:これまでのまとめ/依存症の心理療法では何をするのか
12:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか
13:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか②
14:依存症は治るのか
15:まとめ

■ この回(第1回)の位置づけと内容
本回は、全15回で構成される講義の導入回にあたり、授業全体の進め方や学修目標を明確に共有することを目的とする。また、依存症という主題を心理学的に取り扱うための出発点として、基礎的な概念の理解を深める。

具体的には、「嗜好」「嗜癖」「依存症」といった関連する用語の定義と、それらが連続的に推移していく過程について学ぶ。また、依存症に至らずに対象と適切に関わっている状態を「ほどほど」と呼び、この「ほどほど」に関する近年の研究動向についても紹介する。

本回の内容は、次回以降(第2回・第3回「ハマるとは何か」)において、依存傾向の心理的プロセスを掘り下げていくための思考の土台を形成し、受講者が講義全体を見通しながら主体的に取り組めるように構成されている。

コマ主題細目 ① オリエンテーション  ② 嗜好、嗜癖、依存症の言葉の意味とその推移 ③ ほどほどの現在地
細目レベル ① 初回では、講義全体の進め方について説明をする。具体的には、出席要件、講義の進め方、manabaを使った質問の仕方、成績評価について説明をする。出席要件としては、本学の履修要綱に基づいて出席を管理する。講義の進め方について、冒頭に前回の講義終了後に回収した授業内容や文字教材等に関する質問に対する回答を行う。次に、コマシラバスを確認しながら、当該講義が科目全体、及びカリキュラム全体においてどのように位置づけられるか、そして当該講義の目標を確認したうえで、授業を開始する。講義の最後には、小テストを実施し、当該講義の理解度を確認する。なお、質問への回答に時間を要するため、学生は、原則講義実施日中に質問を行うこととする。成績評価について、この講義の成績評価は期末試験100%とする。つまり、期末試験の成績が本講義の成績となり、各回で実施する小テストについては、その講義の目標がどの程度確認できたかの指標として用いる。予習/復習については、小テストの結果を参照しながら、各講義で事前に配布される文字教材/パワーポイント教材を用いて行う。
② お酒、ギャンブル、ゲーム、セックスをはじめとして様々な対象に対して、依存症ということばが用いられ、その状態像は、依存対象へのコントロールを欠き、問題に直面しているにもかかわらずその行為を続ける事を特徴とする。しかしながら、すべての依存症者は、人生で初めてお酒を飲んだ瞬間に、ギャンブルを始めた瞬間に、依存症になるわけではない。多くの依存症者が、その対象を好み、その対象があるからこそ人生を続けられる経験をし、いつしかその対象が習慣化していくなかで、コントロールが難しくなり、そして問題が生じるという経過を辿る。ここでは、依存症者が依存症になるまでに、どのような状態を経て依存症に至るのかをゲーム依存症を具体例に用いながら理解する。
③ お酒は好きであるが、依存症ほどではない。ゲーム/ギャンブルはするが、問題なく日常生活を送ることができている。このように、依存症に至らずに「ほどほど」にその対象を上手く扱える人が存在する。むしろ、依存症者は全体の数パーセントであることを踏まえると、ほとんどの人々が「ほどほど」にお酒を飲み、ゲーム/ギャンブルをしている。依存症に関する研究では、「ほどほど」の定義は存在しないが、講義の中では「Just Adaptive Level」という言葉を用いて、「ほどほど」を「お酒やギャンブル、ゲームをはじめとする「嗜癖行動」を日常生活に支障のない範囲でおこなう」と定義し、お酒を例に、節度ある飲酒などの具体例をふまえて、「ほどほど」を理解する。

キーワード ① 嗜好 ② 嗜癖 ③ 依存症 ④ Just Adaptive Level
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 [復習]
 「ほどほど」について、授業ではお酒を例に節度ある飲酒について説明が行われたが、ゲームやギャンブルをはじめとして、お酒以外の嗜癖対象を例とした場合の「ほどほど」とは何かについて、具体例を用いて説明ができるようになる。依存症の状態像に関するさらなる理解を深めるために、「依存学ことはじめ(晃洋書房)」の第三章「熱中と依存の境界線」を読む。

[予習]
 依存症とは何か、依存症者はどのような経過を経て依存症となったのか、について検索エンジンを用いて、調べ、自分なりの理解をしておく。また、1年次後期の「精神疾患とその治療」の「物質関連障害、および嗜癖性障害」の授業使用を事前に読んでおく。

2 依存症の診断基準 科目の中での位置付け 本科目は、依存症の成因、診断法、症状、経過、本人および家族に対するアセスメントや支援に関する知識を修得し、依存症と関連する問題に対する支援についての理解を深めることを目的とする。また、関連文献の講読を通じて、依存症を心理学的に捉える視点を養うことを目指す。

■ 全15回の構成(※共通で記載)
1:嗜好、嗜癖、依存症とは
2:依存症の診断基準
3:ハマるとは何か
4:これまでのまとめ
5:依存症はこころの病気であるのか
6:依存症は治療・支援できるのか
7:依存症者は治療に行くのか
8:これまでのまとめ/治療者は依存症者に何を思うのか
9:どのように行動を変容させるのか
10:治療者は依存症者の何を理解する必要があるのか
11:これまでのまとめ/依存症の心理療法では何をするのか
12:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか
13:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか②
14:依存症は治るのか
15:まとめ

■ 第2回「依存症の診断基準」の位置づけ
第2回「依存症の診断基準」は、全15回の講義構成の中で、依存症という現象を臨床的・制度的にどのように把握しているのかを理解するための最初の基盤形成を担う回である。第1回で扱った「嗜好」「嗜癖」「依存症」という日常語から臨床語への橋渡しを受けて、本回では、依存症が医学的・社会的に「診断可能な状態」とされる際の基準(DSM・ICD等)とその構造的特徴を明らかにする。とくに、DSM-5やICD-11で採用される症候群モデル(一定数以上の症状の組み合わせ)や「耐性」「離脱」「再発」といった診断項目の意味を確認し、依存症が定義によって“病気化”されていく過程を理解する。この回での理解が、第3回以降で扱う「ハマるとは何か」「治療とは何か」といった主題において、概念的な足場となるため、本講義全体の中で極めて基礎的かつ重要な位置づけを担っている。

コマ主題細目 ① 診断基準 ② 依存症の診断基準 ③ 有病率
細目レベル ① この講義では「診断基準」そのものを単なる症状の羅列としてではなく、歴史的・科学的背景をもつ“運用可能な判断枠組み”として理解することを目的とする。特にDSM-III以降に導入されたoperationalな診断基準の意義、すなわち「誰が判断しても同じ結論に至るための基準」としての役割に焦点を当てる。さらに、診断とは「ラベルを貼る行為」ではなく、「治療や支援方針を構築する出発点」であるという観点を明確にし、心理支援職としては診断行為を直接行わない立場にあるものの、診断基準を理解しておくことが、現場におけるアセスメントや他職種連携においていかに実践的価値をもつかを学ぶ。この回では、診断基準の構造・目的・法的位置づけを運用上の視点から理解することが到達目標である。


② この回では、DSM-5およびICD-11におけるアルコール、ギャンブル、ゲーム依存症の診断基準を紹介しつつ、それらに共通する症候群的構造(複数の症状の組み合わせによって成り立つ)の理解を目的とする。とくに、ギャンブル障害を中心に、「耐性」「再発(制御困難)」「深追い」などのキーワードを具体的に取り上げ、診断基準が表す行動特徴とその心理学的・生物学的背景を解説する。また、「concerned」「addictive」といった段階的理解を補助線とし、ギャンブル行動がどのように“病的な状態”に移行していくのかを捉える視点を育てる。この講では、依存症診断基準を単なる暗記項目ではなく、臨床的意味を伴う行動理解の枠組みとして把握することを重視する。

③ この講義では、「有病率(prevalence)」を単なる数値情報としてではなく、調査法・診断基準・文化・社会構造との関係から読み解く統計的概念として理解することを目標とする。とりわけ、同じ依存症であっても国や地域によって大きく有病率が異なる背景に注目し、①診断基準の違い(DSM vs ICD)、②評価手法の違い(自己報告 vs 面接法)、③法制度・文化的価値観、④ライフスタイル(ゲーム・飲酒・ギャンブルの接触頻度)などの複数要因が絡み合うことを理解する。学生には、「有病率とは“ある病気の重さ”ではなく、“測られ方と定義のされ方に左右される相対的な割合”である」という認識を持たせることを目的とし、統計数値の背後にある構造的要因に目を向ける視点を養う。
キーワード ① 診断基準 ② DSM ③ ICD ④ 診断 ⑤ 有病率
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 [復習]
第2回の復習においては、講義で扱ったDSMやICDの診断基準に関する理解を深めるために、ChatGPTを活用して自分で選択式の確認テストを作成させることが有効である。たとえば「DSM-5のギャンブル障害の診断基準について4択問題を作って」と指示し、その正答や解説も生成させることで、自らの理解の浅い点を自覚することができる。作成した問題を他の学生と共有することも、学びを深める上で有意義である。ChatGPTは再出題や用語の再説明にも対応しており、反復学習に適している。

[予習]
1年次後期の「精神疾患とその治療」の「物質関連障害、および嗜癖性障害」の授業資料、及び1年次後期の「臨床心理学概論」の「行動主義心理学」の授業資料を事前に読んでおく。また、DSMとICDの診断基準の差異について、検索エンジンを用いて調べておく。

3 ハマるとは何か 科目の中での位置付け 本科目は、依存症の成因、診断法、症状、経過、本人および家族に対するアセスメントや支援に関する知識を修得し、依存症と関連する問題に対する支援についての理解を深めることを目的とする。また、関連文献の講読を通じて、依存症を心理学的に捉える視点を養うことを目指す。

■ 全15回の構成(※共通で記載)
1:嗜好、嗜癖、依存症とは
2:依存症の診断基準
3:ハマるとは何か
4:これまでのまとめ
5:依存症はこころの病気であるのか
6:依存症は治療・支援できるのか
7:依存症者は治療に行くのか
8:これまでのまとめ/治療者は依存症者に何を思うのか
9:どのように行動を変容させるのか
10:治療者は依存症者の何を理解する必要があるのか
11:これまでのまとめ/依存症の心理療法では何をするのか
12:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか
13:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか②
14:依存症は治るのか
15:まとめ

■ この回(第3回)の位置づけと内容
本回は、全15回で構成される講義の第3回目にあたり、前回に引き続き「ハマるとは何か」というテーマを掘り下げ、依存行動がどのように成立し、維持されるのかを多角的に理解することを目的とする。

具体的には、依存行動の形成プロセスについて、今回は学習理論の中でも古典的条件づけの視点から考察する。特定の刺激と快・不快の感情が結びつくことで、どのようにして行動が条件づけられていくのかを整理する。

また、古典的条件づけによって生じる「刺激制御」という概念にも焦点を当て、依存症者が日常生活の中でどのような刺激に影響を受けながら行動しているのかを理解する。

本回の学びは、依存症者の生活環境や行動様式への理解を深めるものであり、今後の講義における「行動変容」「心理療法的支援」などのテーマへとつながる土台を形成する。

コマ主題細目 ① 古典的条件づけ ② 古典的条件づけ(レスポンデント条件づけ)に基づく依存症の生起メカニズム ③ 古典的条件づけが引き起こす刺激制御とそれによる生活の難しさ
細目レベル ① 古典的条件づけ(レスポンデント条件づけ)では、意志的な行動ではなく、刺激に対して自動的に生じる「反応」が学習される。依存症の文脈では、欲求、期待、感情、身体反応、衝動などがこれに含まれ、日常でいう「条件反射」として理解できる。また、反応を引き起こす先行刺激は「きっかけ」「引き金」「トリガー」となる。本講では、飲酒・ギャンブル・自傷行為などの具体例を通して、古典的条件づけの基本原理を学ぶ。さらに、刺激と反応が連続して展開する「行動連鎖」に着目し、問題行動がどのように形成・維持されるかを理解する。臨床場面では、この連鎖を丁寧に把握することで、当事者の感じ方や考え方、生き方のパターンを理解し、支援や介入の手がかりを得ることの重要性を学ぶ。
② 嗜癖行動の生起メカニズムを、古典的条件づけと刺激制御の観点から理解することを目的とする。対象とする嗜癖行動は、飲酒行動とギャンブル行動に限定する。以下の2点が本細目の明確な学習目標・理解の到達点である。1つは、古典的条件づけの観点から、「なぜ飲みたくなるのか」「なぜギャンブルしたくなるのか」といった欲求や思考の生起メカニズムを説明できるようになる。具体的には、古典的条件づけによって、特定の刺激(例:パチンコ屋を見る、疲労感を覚える)が嗜癖行動への誘発的な反応(例:ギャンブルしたくなる、飲酒したくなる)を引き起こす仕組みを理解する。この学習では、「嗜癖行動そのもの」よりも、「嗜癖行動に先行する刺激-反応パターンの形成」に焦点を当てる。2つ目は、刺激制御(stimulus control)の観点から、「なぜ依存症者が行動をコントロールしにくいのか」を説明できるようになる。刺激制御とは、特定の状況下での行動を支配する環境的刺激(discriminative stimuli)を学習することを意味する。依存症者は、ある刺激(例:自宅でひとりになる、給料日、週末など)によって、無意識のうちに嗜癖行動を選択しやすくなるという特徴がある。以上により、本授業では、嗜癖行動を引き起こす「前兆(cue)」に人がどのように反応し、なぜそれが抑制困難なのかについて、古典的条件づけと刺激制御という学習理論に基づいて説明・理解できるようになることをゴールとする。
③  ここでは、「なぜ依存症者は嗜癖行動をコントロールすることが難しいのか」という問いに対して、古典的条件づけによって生起する欲求や思考が行動に与える悪影響に焦点をあてて説明を行う。嗜癖行動が「意志の弱さ」ではなく、「環境刺激に対する条件づけられた反応」として生起することを、古典的条件づけ・刺激制御の用語と具体例を用いて説明できる。依存症者が、健常者と比べて日常生活の中でどれほど多くの「危険刺激」に囲まれており、それが自動的に行動を誘発するリスク要因となっているかを、具体的・実感的に理解できる。
キーワード ① 古典的条件づけ ② 刺激制御 ③ レスポンデント条件づけ
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 [復習]
 依存症の生起メカニズムについて、授業では依存症者のギャンブルやゲームの例をもとに説明が行われたが、自分自身の行動に鑑みた場合、どのようなメカニズムで自分自身の反応が生起しているかについて、具体例を用いて説明ができるようになる。嗜癖行動のメカニズム、及び古典的条件づけに関するさらなる理解を深めるために、「ドムヤンの学習と行動の原理107頁」を読む。

[予習]
 オペラント条件づけに関する前回の授業資料を事前に読んでおく。オペラント条件づけと古典的条件づけの差異について、検索エンジンを用いて調べておく。

4 これまでのまとめ/様々な問題に関連する依存症の悪影響 科目の中での位置付け 本科目は、依存症の成因、診断法、症状、経過、本人および家族に対するアセスメントや支援に関する知識を修得し、依存症と関連する問題に対する支援についての理解を深めることを目的とする。また、関連文献の講読を通じて、依存症を心理学的に捉える視点を養うことを目指す。

■ 全15回の構成(※共通で記載)
1:嗜好、嗜癖、依存症とは
2:依存症の診断基準
3:ハマるとは何か
4:これまでのまとめ
5:依存症はこころの病気であるのか
6:依存症は治療・支援できるのか
7:依存症者は治療に行くのか
8:これまでのまとめ/治療者は依存症者に何を思うのか
9:どのように行動を変容させるのか
10:治療者は依存症者の何を理解する必要があるのか
11:これまでのまとめ/依存症の心理療法では何をするのか
12:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか
13:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか②
14:依存症は治るのか
15:まとめ

■ この回(第4回)の位置づけと内容
本回は、全15回で構成される講義の第4回目にあたり、これまでに扱ってきた依存症の概念や形成プロセスに関する理解を整理・定着させるとともに、依存症がもたらす多様な悪影響についての知識を深めることを目的とする。

具体的には、行動嗜癖(例:ゲーム依存症、ギャンブル依存症)、物質嗜癖(例:アルコール依存症、薬物依存症)、さらには性に関連する依存症など、さまざまなタイプの依存症が個人や社会に及ぼす影響について整理する。

また、講師の臨床経験や、書籍・学術論文に記された具体的な事例を参照しながら、依存症当事者の生活実態や周囲との関係性に関する理解を深めていく。

本回の学びは、今後の講義における「依存症をこころの病ととらえる視点」や、「治療・支援の実際」を考えていくうえでの現実的な基盤となる。

Rohsenow DJ, Marlatt GA. The balanced placebo design: methodological considerations. Addict Behav. 1981;6(2):107-22. doi: 10.1016/0306-4603(81)90003-4. PMID: 7023202.
コマ主題細目 ① 依存症とは ② ハマるとは何か(嗜癖対象への期待) ③ 様々な問題に関連する依存症の悪影響
細目レベル ① 講義では、第1回で取り上げた「嗜好」「嗜癖」「依存症」という用語の意味と、それらの歴史的・概念的推移を整理する。特に、「依存症」という言葉がどのような対象(例:お酒、ギャンブル、ゲーム、セックスなど)に用いられ、その状態像が「対象に対するコントロール喪失」と「問題が生じているにもかかわらず行為が持続すること」によって定義される点に着目する。本講義では、以下の2点に理解を限定して進める:1) 「嗜好」→「嗜癖」→「依存症」への変化がどのように生じるのかを、行動の習慣化、快の経験、コントロールの喪失という視点から段階的に理解する。2) その過程において、依存症は突発的に発症するものではなく、「好ましい経験」が「繰り返される行動」となり、「制御困難な習慣」として固定化されていくプロセスを踏むものであることを把握する。本講義の理解の終点は、以下の通りである:「嗜好」から「依存症」への変化は、単なる回数や量の問題ではなく、本人の意思による行動制御が困難になる過程の理解に基づいて説明できること。例えば、ゲーム依存症を例に、「どのような行動パターンや心理的状態が依存へとつながるか」を自身の言葉で整理・説明できること。
② 本講義では、「ハマるとは何か」について、第2回および第3回講義で扱った内容を踏まえて整理する。特に、本講義では「嗜癖対象を利用することによって生じる報酬の期待」に焦点を当て、そのうちゲーム使用における報酬期待の心理的・薬理学的メカニズムの理解を中心に扱う。たとえば、ゲームによって気分が軽くなるといった変化がどのようにオペラント条件づけにおける提示型の強化または除去型の強化として機能するのかを理解する。そして、以下を理解の目標とする:嗜癖対象の使用に対して依存症者が抱く「報酬の期待」が、自己治療仮説に基づく除去型の強化、およびそれに類する提示型の強化的側面のいずれか、あるいは両方を含む可能性があることを具体例を挙げて説明できること。本回での理解の終点は、上記を踏まえて「嗜癖行動の維持における主観的報酬期待の役割」について、自身の言葉で要約できるようになることである。
③  本講義では、行動嗜癖および物質嗜癖が生活に及ぼす悪影響について、各嗜癖の診断基準に基づく症状と、それに起因する悪影響のメカニズムを理解することを目的とする。特に以下の4領域に限定して取り扱う:1) ゲーム依存症およびギャンブル依存症などの行動嗜癖における悪影響:診断基準(例:ICD-11、DSM-5)を確認し、それぞれの症状(コントロール喪失、持続的使用、問題の持続など)に由来する悪影響が、どのように個人の生活、家族関係、社会的機能(仕事、学校、金銭管理など)に広がるのかを具体的事例を通じて説明できるようにする。2) アルコール依存症および薬物依存症などの物質嗜癖における悪影響:行動嗜癖と同様に、診断基準の症状から、身体的健康、対人関係、職業的機能などに波及する悪影響を系統的に理解する。3) 処方薬および市販薬依存の特徴と現状:特に中枢神経抑制薬(睡眠薬、抗不安薬など)や市販薬の乱用がどのように依存へとつながり、生活にどのような問題を引き起こすのかについて、入手のしやすさや服薬習慣といった構造的要因とともに説明する。4) 性に関連する依存症:これまでの講義では扱いが少なかったため、診断基準の確認に時間をかけ、その症状が個人の自己統制、対人関係、法的・倫理的問題にどう影響するかを詳細に学ぶ。ここでも、問題が個人の主観的自覚だけでなく、第三者からの報告や社会的な問題として明確化されることで、依存症として捉えられるという判断基準を確認する。本講義の理解の終点は、以下の2点である:① 各嗜癖における診断基準の症状と、それに基づいて派生する生活上の悪影響との因果関係を具体的に説明できること。
② 悪影響が本人の主観だけでなく、他者の視点(家族、学校、職場、社会)からも認識されるという視点が、依存症の本質的特徴であることを理解し、自分の言葉で説明できること。

キーワード ① 行動嗜癖 ② 物質嗜癖 ③ 依存症
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 [復習]
 各種依存症の悪影響について、授業ではギャンブル依存症やアルコール依存症の例をもとに説明が行われたが、自分自身の行動に鑑みた場合、どのような悪影響が生起しているかについて、具体例を用いて説明ができるようになる。さらなる理解を深めるために、「どうしても「あれ」がやめられないあなたへ」を読む。

[予習]
 依存症のなかに、どのような種類の依存症があるかについて、検索エンジンを用いて調べておく。

5 依存症はこころの病気であるのか 科目の中での位置付け 本科目は、依存症の成因、診断法、症状、経過、本人および家族に対するアセスメントや支援に関する知識を修得し、依存症と関連する問題に対する支援についての理解を深めることを目的とする。また、関連文献の講読を通じて、依存症を心理学的に捉える視点を養うことを目指す。

■ 全15回の構成(※全コマ共通で記載)
1:嗜好、嗜癖、依存症とは
2:ハマるとは何か
3:ハマるとは何か②
4:これまでのまとめ
5:依存症はこころの病気であるのか
6:依存症は治療・支援できるのか
7:依存症者は治療に行くのか
8:これまでのまとめ/治療者は依存症者に何を思うのか
9:どのように行動を変容させるのか
10:治療者は依存症者の何を理解する必要があるのか
11:これまでのまとめ/依存症の心理療法では何をするのか
12:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか
13:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか②
14:依存症は治るのか
15:まとめ

■ この回(第5回)の位置づけと内容
本回は、全15回で構成される講義の第5回目にあたり、「依存症はこころの病気であるのか」というテーマを通して、依存症の生物学的側面への理解を深めることを目的とする。

具体的には、健康な人と依存症者の脳に見られる違いに注目し、とくに報酬系の異常や脳の萎縮といった「器質的変化」と呼ばれる脳内の変化について学ぶ。また、近年注目されているドーパミン報酬系の理論に関連して、「報酬予測誤差」という概念を取り上げ、予想外の報酬がどのように依存行動を強化していくかについても考察する。

本回の学びは、依存症を「こころの問題」としてのみならず、「脳の変化を伴う病態」として理解する視点を提供し、今後の講義における治療や支援のあり方をより多面的に捉えるための基盤を形成するものである。

コマ主題細目 ① 脳内の変化からみる依存症のメカニズム ② 依存症とドーパミン ③ ドーパミン放出と関連する要因
細目レベル ① ここでは、「依存症は意志の弱さによって生じるもの」というスティグマ的理解を問い直すことを目的とし、依存症の神経生物学的基盤、とくに「脳の量的変化」に着目して理解を深める。一般に、「依存症患者は意志が弱い」という社会的通念が存在するが、これは事実に基づかない偏見である。実際には、強い意志を持ち、成功を収めた人物であっても依存症を発症することがある(例:薬物依存症を経験した元プロ野球選手・清原和博氏)。ここから、依存症は「意志の強弱」とは無関係に生じうる「脳の変化に起因する病態」であるという理解へと転換を促す。ここでは以下の点に学習範囲を限定する:依存症における脳の「量的変化」とは何か:特に、報酬系(腹側被蓋野から扁桃体などに至るドーパミン系)の構造的変化や神経活動量の変化に注目する。また、その変化がどのように「やめたくてもやめられない」状態を引き起こすのかを、神経科学的観点から理解する。こうした理解を通して、自分自身が持っている依存症へのスティグマ(偏見)をどのように捉え直すことができるかを考察する。なお、質的変化(神経伝達の異常や回路の再編成)については、後の講義(細目レベル2および3)で扱うため、ここでは扱わない。理解の終点は以下の2点である:依存症は意志の弱さではなく、脳の報酬系における量的変化に起因するという観点から説明できること。この科学的理解を通して、依存症に対する自身のスティグマ的認識を相対化・再評価できること。


② ここでは、脳の報酬系と依存症の関係性を、主に神経伝達物質ドーパミン系を中心に理解することを目的とする。特に、「依存症に特有の物質」という誤解を避け、ドーパミンやその他の神経伝達物質は本来日常的な快の経験に関与していることから学びを始める。以下の3点に学習範囲を限定する:ドーパミンは依存状態に限らず、美味しい食事、音楽、運動、達成感などによっても放出されるという、報酬系の基本的役割について理解する。報酬系にはドーパミン以外にも、オピオイド系・グルタミン酸・セロトニン・ノルアドレナリン・GABAなど、複数の神経伝達物質が関与していることを概観する。理解の終点は以下の通り:ドーパミンをはじめとする報酬系神経伝達物質が、依存症だけでなく健常な快の体験にも関与していることを説明できること。

③ ここでは、依存症に関連する神経科学的メカニズムとして「報酬予測誤差(reward prediction error)」の概念を取り上げる。特に、ドーパミンの放出がどのような場面で起こり、それが快感や動機づけとどう関係するのかについて、脳の報酬系の働きとともに理解を深める。以下の3点に学習の焦点を限定する:ドーパミンは、「報酬が得られたとき」だけでなく、「報酬を予測・期待しているとき」にも放出されるという、依存症の理解にとって重要な事実を確認する。「予想外の報酬(例:思いがけない当たり)」は、予測通りの報酬よりもドーパミン放出を大きく引き起こすという特徴を学ぶ。これは「報酬予測誤差(prediction error)」として知られ、強化学習の観点からも依存形成に関与する。これらのメカニズムが、なぜギャンブルやゲームといった行動が「予測できない快」の源として依存性を持つのかに関連しているかを、日常的な例(旅行、音楽、エンタメ体験)やギャンブル・ゲームでの体験を通して理解する。理解の終点は以下のとおり:ドーパミン放出が「報酬の実現」だけでなく「報酬の予測・誤差」にも関係すること、特に予期せぬ報酬がより強い快感や行動強化を引き起こすことを説明できること。ギャンブルやゲームにおいて、「予測できない成功体験」が、ドーパミン系を通じて依存形成にどう寄与するのかを、自身の言葉で整理できること。
   

キーワード ① 報酬系 ② ドーパミン ③ 神経伝達物質 ④ 構造的変化 ⑤ 機能的変化
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 [復習]
 ここまでの授業で説明が行われてきた各種依存症について、授業では脳のなかで、身体の中で何が起きているかを中心に説明が行われた。さらなる理解を深めるために、「人はなぜハマるのか」を読み、身体の中での変化等について学習を進める。

[予習]
 ドーパミンについて、検索エンジンを用いて調べ、ドーパミンが依存症の問題に直面している人だけが経験するのか、について理解しておく。

6 依存症は治療・支援できるのか 科目の中での位置付け 本科目は、依存症の成因、診断法、症状、経過、本人および家族に対するアセスメントや支援に関する知識を修得し、依存症と関連する問題に対する支援についての理解を深めることを目的とする。また、関連文献の講読を通じて、依存症を心理学的に捉える視点を養うことを目指す。

■ 全15回の構成(※全コマ共通で記載)
1:嗜好、嗜癖、依存症とは
2:ハマるとは何か
3:ハマるとは何か②
4:これまでのまとめ
5:依存症はこころの病気であるのか
6:依存症は治療・支援できるのか
7:依存症者は治療に行くのか
8:これまでのまとめ/治療者は依存症者に何を思うのか
9:どのように行動を変容させるのか
10:治療者は依存症者の何を理解する必要があるのか
11:これまでのまとめ/依存症の心理療法では何をするのか
12:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか
13:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか②
14:依存症は治るのか
15:まとめ

■ この回(第6回)の位置づけと内容
本回は、全15回で構成される講義の第6回目にあたり、「依存症は治療・支援できるのか」という問いを通じて、依存症への介入の全体像を把握することを目的とする。

具体的には、依存症に対する治療や支援がどのような場所(医療機関、精神保健機関、地域資源など)で行われ、どのような方法(医療的介入、心理社会的支援、ピアサポートなど)によって実践されているのかについて学ぶ。あわせて、当事者や家族、地域コミュニティとの連携が果たす役割についても整理し、依存症支援のネットワーク的な側面を理解する。

本回の学びは、次回(第7回:「依存症者は治療に行くのか」)で扱う“実際に人は支援を受けに行くのか”という現実的な問いを考えるための土台を提供する。

コマ主題細目 ① 医療の現状 ② 精神保健の現状 ③ その他の治療の現状
細目レベル ① ここでは、依存症に対する医療的支援の基本的枠組みと、具体的な介入手段の特徴について学ぶ。依存症は心理社会的側面に加え、医学的なアプローチによる支援が不可欠であり、医療の役割を正しく理解することが、支援の全体像を把握する上で重要である。
以下の3点に学習範囲を限定する:1)制度的枠組みとしての依存症対策総合支援事業の基本構造を理解する。これは、都道府県および政令指定都市が実施するアルコール・薬物・ギャンブル等依存症への対応を定めたものであり、相談拠点での相談・指導、そして民間団体との連携強化が主要な柱となっている。2)医療機関で実施されている主な介入手法の理解:依存症治療では、個別の精神療法、認知行動療法的アプローチに基づく集団精神療法、さらに自助グループ(例:AA、GAなど)への参加が推奨されており、これらは心理社会的支援と医療の橋渡しを担っている。3)薬物療法の例としてのアルコール依存症への対応:抗酒薬(飲酒を防ぐ薬)や、飲酒量低減薬(完全断酒ではなく減酒を目指す治療)といった具体的な薬物療法について、その目的と使用条件を把握する。理解の終点は以下のとおり:1)依存症対策総合支援事業の制度的構造(誰が・どこで・何を行うか)を説明できること、2)医療における依存症治療(精神療法・自助グループ・薬物療法)に関して、それぞれのアプローチの目的と役割を区別して説明できること。


② 精神保健とは、人々の精神的健康を対象とする学問と実践活動を指し、精神的健康の保持・増進を図り、精神健康障害の予防と健康回復、精神障害の治療およびリハビリテーションを目的とするものを指している。地域の精神保健を担う場所は、主に精神保健福祉センター(名称は各地域で異なる)であり、各都道府県に1つずつ(東京都は3つ)ある。ここでは、精神的健康、精神科医療、社会復帰に関する相談、アルコール・薬物・ギャンブル依存症の家族の相談、ひきこもりなど思春期・青年期問題の相談、認知症高齢者相談などをはじめとして、精神保健福祉全般にわたる相談を電話や面接により行っている。依存症に対する相談支援の充実を図るために、依存症相談員を各都道府県の精神保健センターに設置できるよう進められている。保健所や保険センターも精神保健福祉センターと同様に精神的健康の相談をうけることができるが、保健所は中核市や特別区、市町村保健センターは多くの市町村に設置されている。精神保健福祉センターはこのなかでも特に専門性のあるスタッフがそろっているのが特徴である。
③ 日本における現存のギャンブル等依存症者の支援には、さまざまなものがある。NPO法人が運営しているものであったり、相互援助(自助)グループ(以下、自助グループ)、回復施設、行政相談窓口、医療機関、消費生活相談センター、司法書士・弁護士・法テラス等がある。このうち、当事者の自助グループは、AA(Alcoholocs Anonymous)、GA(Gamblers Anonymous)と呼ばれ、友人等のグループはアラノン(Al-Anon)、ギャマノン(GAM-anon)が活動している。いずれのグループも、参加者が匿名を前提として集まるアノニマス・グループ(anonymous group)である。

自助グループのはじまりは、アルコホーリクス・アノニマス(AA)であり、アメリカ合衆国オハイオ州のニューヨークに住んでいたビル・ウィルソン(Bill Wilson)と、アクロンに住んでいたドクター・ボブ・スミス(Dr. Bob Smith)によって創設された。AAの始まりは、ビル・ウィルソンがアルコール依存症に苦しんでいたとき、他のアルコール依存症者との交流が役立つと感じ、同じような問題を抱える人々が集まる自助グループをつくることを考えた。1935年6月10日、ビル・ウィルソンはアクロンの病院で、ドクター・ボブ・スミスと出会い、自分のアルコール依存症を打ち明けた。二人は話し合いを重ね、お互いに支え合いながら回復を目指すグループを作ることを決めたのである。ウィルソンとスミスは、自分たちが経験した回復の方法を、同じような問題を抱える人々に伝えることを目的に、AAを創設したのである。AAは、世界中に広がり、現在では多くの国で活動しており、アルルコール依存症以外の依存症や精神障害の治療にも応用されている。

キーワード ① 集団療法 ② 精神保健福祉センター ③ 自助グループ
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 [復習]
 第6回では、依存症は治療・支援できるのか、という問いに答えるために、医療・精神保健・その他の治療について、整理した。さらなる理解を深めるために、各種ホームページ等を検索して、自身の生活圏内でどのような治療リソースがあるかについて、理解を進める。

[予習]
 依存症は治療できるのかについて、自分自身のイメージをしっかりと持って授業に臨むとともに、検索エンジンを用いて、どのような場所で、どのような形で治療を受けることができるのかについて、調べておく。

7 依存症者は治療に行くのか 科目の中での位置付け 本科目は、依存症の成因、診断法、症状、経過、本人および家族に対するアセスメントや支援に関する知識を修得し、依存症と関連する問題に対する支援についての理解を深めることを目的とする。また、関連文献の講読を通じて、依存症を心理学的に捉える視点を養うことを目指す。

■ 全15回の構成(※全コマ共通で記載)
1:嗜好、嗜癖、依存症とは
2:ハマるとは何か
3:ハマるとは何か②
4:これまでのまとめ
5:依存症はこころの病気であるのか
6:依存症は治療・支援できるのか
7:依存症者は治療に行くのか
8:これまでのまとめ/治療者は依存症者に何を思うのか
9:どのように行動を変容させるのか
10:治療者は依存症者の何を理解する必要があるのか
11:これまでのまとめ/依存症の心理療法では何をするのか
12:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか
13:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか②
14:依存症は治るのか
15:まとめ

■ この回(第7回)の位置づけと内容
本回は、全15回で構成される講義の第7回目にあたり、「依存症者は治療に行くのか」という問いを通して、依存症に対する支援の現実的な課題に焦点を当てる回である。

具体的には、第6回で学んだ依存症治療・支援の提供体制を踏まえた上で、依存症当事者が実際にはそうした支援機関を利用しないことが多いという現状を整理する。そのうえで、なぜ人は治療に至らないのか、そこに存在する心理的・社会的・制度的な要因について考察する。

さらに、依存症の治療機会を広げる実践として、内科や一般診療科など、必ずしも専門機関ではない医療現場で行われている取り組みについても紹介し、支援の多様な在り方について理解を深める。

本回の学びは、依存症支援において「専門機関に来ることが前提ではない支援」の可能性を考えるうえで重要な視点を提供するものであり、次回(第8回)以降の「治療者の視点」や「支援者と当事者の関係性」についての理解にもつながっていく。

コマ主題細目 ① 治療ギャップの現状 ② 治療ギャップが生起する要因 ③ 治療に行かない依存症者のための政策
細目レベル ①  ここでは、依存症における「治療ギャップ(treatment gap)」の概念と、それがもたらす社会的・医療的な課題について学ぶ。治療ギャップとは、治療を必要としている人の数と、実際に治療を受けている人の数との間に生じる乖離を指し、依存症対策において極めて深刻な問題とされている。学習の焦点は以下の2点に限定する:治療ギャップの概念整理と統計的実態の把握(第6回講義で扱ったように、日本国内では国・地方公共団体・各種民間団体による依存症支援が実施されているにもかかわらず、実際の治療利用率は低い。たとえば、アルコール依存症者の約80%、ギャンブル依存症者の約99%が専門的な治療を受けていないというデータがある。このように、支援制度の存在と支援の利用との間に大きな乖離が存在することを事実として理解する)、治療ギャップが生じる背景と影響の検討(治療ギャップの背景には、スティグマ、認識不足、支援制度のアクセス困難さ、自己否認(病識の欠如)などが複雑に絡んでいる。こうしたギャップが存在することで、治療や支援が届かないまま問題が深刻化し、本人だけでなく家族や社会に対する影響が拡大する構造が生まれている。また、この問題は日本特有のものではなく、国際的にも共通する課題であることにも触れる)。理解の終点は以下のとおり:治療ギャップとは何かを明確な定義と事例を用いて説明できること。治療ギャップがなぜ依存症領域で大きな問題となるのか、その要因と影響を整理して述べることができること。


② ここでは、依存症をはじめとする精神的健康問題において「治療ギャップ」が生じる背景要因を整理し、治療につながりにくい現実的な困難を多面的に理解することを目的とする。
学習の焦点は以下の2点に限定する:治療提供体制におけるリソース不足という構造的要因の理解(入院や長期滞在型施設での依存症支援には、多くの専門職(精神科医、看護師、作業療法士など)と人的リソースが必要である一方で、実際にそれらを提供できる医療機関は限られている。外来精神科医療やコミュニティケア、セルフケアは比較的人的コストが低いが、十分に活用されていない現状がある。専門家の数や配置の偏在が、治療機会の地域間格差や提供の遅延につながっていることを理解する)、個人側における治療へのアクセス障壁の理解(費用や時間的制約、精神科受診に対する抵抗感、社会的スティグマ(例:「精神科にかかると他人からどう見られるか」)といった、治療を避けたり遅らせたりする心理的・社会的要因についても学ぶ。これらは、治療が必要であっても受診や支援に結びつかない「治療ギャップ」の大きな要因となっている)。理解の終点は以下のとおり:治療ギャップが生じる背景には、医療資源の限界と個人側のアクセス障壁の両方があることを具体的に説明できること。こうした要因を通して、依存症や精神的健康問題の治療に結びつく難しさを、自分自身の言葉で整理し、理解できること。


③  ここでは、依存症の早期発見・早期介入の枠組みとして注目されているSBIRTS(Screening, Brief Intervention, Refer to Treatment, Self-help)の実践的意義と課題、さらに近年注目されるセルフケアツール(治療アプリ)の可能性について学ぶ。2点に学習の焦点を限定して扱う:SBIRTSの構成要素と臨床での実践についての理解(SBIRTSは、①スクリーニングによる早期発見、②簡易な介入(Brief Intervention)、③専門治療への紹介(Refer to Treatment)、④自助グループなどへの接続(Self-help)という4段階からなるアプローチである。現在では、特にアルコール依存症の予備群を対象に、内科診療などの一般医療の場面でも導入されており、早期治療と予防的対応を両立するモデルとして評価されている。)、医療資源の制約と、低コストのセルフケアツールの可能性(SBIRTSのような包括的な対応が重要である一方、依存症患者の増加により医療現場の負担が増大する可能性も懸念されている。そうした背景から、スマートフォンなどを活用した「治療アプリ」に代表されるセルフケアツールが、治療補助や軽症者への支援として有望視されている。このようなツールは、コストを抑えつつ、患者の自己管理や支援機関との接続支援に資する可能性がある)。理解の終点は以下のとおり:SBIRTSの4つの構成要素とその臨床的意義(早期発見から自助グループ紹介までの流れ)を具体的に説明できること。
セルフケアツール(治療アプリなど)の役割や利点・限界について、自分の言葉で整理し、医療資源との関係の中で位置づけられること。


キーワード ① 治療ギャップ ② 治療予備軍 ③ 閾値化 ④ SBIRTS
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 [復習]
 第7回では、依存症の治療ギャップ、なぜ依存症者は治療に向かわないのか、という問いに答えるために、治療ギャップの現状、そのための施策等について、整理した。さらなる理解を深めるために、閾値化、治療予備軍、といったキーワードを用いて、各種ホームページ等を検索して、治療を受けない人々のこころについて、理解を進める。

[予習]
 なぜ依存症は治療に向かわないのかについて、自分自身のイメージをしっかりと持って授業に臨むとともに、検索エンジンを用いて、治療に向かわせない要因について、調べておく。

8 これまでのまとめ/治療者は依存症者に何を思うのか 科目の中での位置付け 本科目は、依存症の成因、診断法、症状、経過、本人および家族に対するアセスメントや支援に関する知識を修得し、依存症と関連する問題に対する支援についての理解を深めることを目的とする。また、関連文献の講読を通じて、依存症を心理学的に捉える視点を養うことを目指す。

■ 全15回の構成(※全コマ共通で記載)
1:嗜好、嗜癖、依存症とは
2:ハマるとは何か
3:ハマるとは何か②
4:これまでのまとめ
5:依存症はこころの病気であるのか
6:依存症は治療・支援できるのか
7:依存症者は治療に行くのか
8:これまでのまとめ/治療者は依存症者に何を思うのか
9:どのように行動を変容させるのか
10:治療者は依存症者の何を理解する必要があるのか
11:これまでのまとめ/依存症の心理療法では何をするのか
12:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか
13:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか②
14:依存症は治るのか
15:まとめ

■ この回(第8回)の位置づけと内容
本回は、全15回で構成される講義の第8回目にあたり、第7回で取り上げた「依存症者は治療に行くのか」という現実的な課題を踏まえ、治療の現場における“治療者側の視点”に焦点を当てる回である。

具体的には、依存症者が自発的に治療を受けに来ることが少ない現状を確認したうえで、実際に支援機関へと連れてこられた依存症者と向き合う場面において、治療者がどのような認知や感情、行動を示しやすいのかを整理する。

また、こうした治療者側の認知的・行動的特徴が治療関係の形成や介入の成否に大きく影響を与えることを理解し、公認心理師を目指す者として、自身の態度やかかわり方を省察する視点を養う。

本回の学びは、依存症支援における“治療者—当事者関係”の重要性を理解し、今後の講義で扱う「行動変容」や「心理療法的介入」の実践的理解へとつながる基盤となる。

1)J Gen Intern Med.2019[PMID:29968051]
2)J Subst Abuse Treat.2016[PMID:26547412]
3)ウイリアム・R・ミラー,他,原井宏明(監訳)動機づけ面接上巻.第3版.星和書店;2019.
コマ主題細目 ① これまでのまとめ ② 治療者が陥りがちな罠 ③ 行動変容につながらない関わり方・行動変容につながる関わり方
細目レベル ①  ここでは、第5回〜第7回の内容を振り返りながら、依存症の医学的・社会的理解を深め、治療と支援の実践的課題を総合的に整理することを目的とする。特に、依存症に対するスティグマの再検討、支援構造の把握、治療アクセスの阻害要因と介入手法の理解という3点に焦点を限定して学ぶ。学習の範囲は以下の3点に限定する:依存症における脳の量的・質的変化の理解とスティグマの見直し(依存症は単なる「意志の弱さ」ではなく、脳の構造的・機能的変化(例:報酬系の過活動や前頭前野の機能低下)に起因する病態であることを理解する。これを通じて、依存症者への否定的なまなざし(スティグマ)を再検討する視点を獲得する)、医療・精神保健・地域支援の多層的構造とその役割・限界の把握(依存症支援は、医療機関、精神保健福祉機関、地域の自助グループや家族支援団体など、複数の機関によって構成される支援ネットワークで提供されている。各支援主体の役割と連携の重要性、または制度的・人的制約といった限界について整理する)、治療ギャップの要因整理と早期介入モデルの理解(治療の必要性があるにもかかわらず、多くの依存症者が治療につながらない「治療ギャップ」の要因として、否認・スティグマ・アクセス障壁などの心理的・社会的要因を整理する。また、早期発見と介入のモデルとしてのSBIRTS(Screening, Brief Intervention, Refer to Treatment, Self-help)の構成と活用可能性を学ぶ)。理解の終点は以下のとおり:依存症が脳の変化に基づく病態であることを説明でき、意志の問題という誤解を科学的に捉え直せること。支援体制の構造(医療・保健・地域)とその役割・限界を具体的に説明できること。治療ギャップの要因を挙げたうえで、SBIRTSを用いた早期介入の枠組みを理解し、その目的と手順を説明できること。
②  ここでは、依存症の治療における治療者―患者関係の初期形成の重要性と、関係悪化を招く代表的なコミュニケーション上の問題点について学ぶ。依存症治療では、信頼関係(治療同盟)が治療の効果を大きく左右するため、治療者による関わり方の質が極めて重要となる。
ここでは以下の2点に学習の焦点を限定する:治療者–患者関係の基礎的理解と関係構築の重要性(依存症患者はしばしば他者への警戒心や羞恥感、否認を伴うため、治療の初期段階で信頼関係を築くことが特に重要である。この関係性が確立されることで、患者が治療に積極的に参加しやすくなり、介入の効果も高まる)、治療関係を損なう典型的な不適切コミュニケーションの理解(関係性を損ねる治療者の行動として、以下のようなものがある:患者の語りを十分に聴かずに、早急に解決策を提示しようとする態度、「依存症の人は〇〇だ」といったレッテル貼り、情報収集を目的とした一方的な「閉ざされた質問」の多用)。これらは、患者の語りや主体性を阻害し、治療的関係の構築を妨げる要因となる。理解の終点は以下の通り:治療初期における治療者と患者の関係性の重要性を説明できること。関係を悪化させうる具体的なコミュニケーションパターン(例:傾聴の欠如、レッテル貼り、閉ざされた質問)を挙げ、それがなぜ問題となるのかを自分の言葉で説明できること。

③  ここでは、依存症の治療やカウンセリングにおける「行動変容」のプロセスに関与する心理的要因と、変容を促進または阻害する関わり方について学ぶ。とくに、両価性(アンビバレンス)と否認の理解、そしてチェンジトークと維持トークの概念を通して、治療的コミュニケーションの質の重要性を考察する。以下の2点に学習の範囲を限定する:行動変容に関連する心理的要因の理解:アンビバレンスと両価的語り(依存症者を含む多くの人は、変わるべき理由を感じている一方で、変わりたくない気持ちも同時に抱えている。これが両価性(アンビバレンス)であり、カウンセリングでは「変わりたい」というチェンジトークと、「今のままでいたい」という維持トークという形で表出される。治療者は、こうした両価的語りを認識し、変化に向かう語りを丁寧に見極める姿勢が求められる)、行動変容を支える関わり方と「否認」の再解釈(依存症治療において、「否認」という現象はしばしば問題視されるが、それを患者側の抵抗と捉えるだけでなく、治療者の関わり方が否認を強化してしまう可能性にも目を向ける必要がある。たとえば、治療者が維持トークを強調するようなコミュニケーション(説得、押しつけ、正論の連発など)をとることで、患者の「変わらない理由」を引き出してしまう可能性がある)。本講義では、こうした「コミュニケーションの罠」をどのように予防するかを中心に、治療者としての姿勢や対話の工夫を検討する。理解の終点は以下のとおり:行動変容の過程で生じるアンビバレンスの概念を説明し、チェンジトークと維持トークを区別して理解できること。「否認」への対応として、治療者のコミュニケーションが行動変容を妨げる要因にもなりうることを理解し、予防の視点から説明できること。
キーワード ① 害のある関わり ② 両価性 ③ 行動変容 ④ チェンジトーク ⑤ 維持トーク
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 [復習]
 第8回では、依存症の治療において、治療者は依存症者に何を思うのか、という問いに答えるために、治療者が陥りやすい罠や害のあるかかわり方について、整理した。そして、依存症治療の目的でもある行動変容につながる関わり方について、整理した。さらなる理解を深めるために、教材で提示した文献を読み、理解を進める。

[予習]
 依存症者に対して自分自身が抱いているスティグマを振り返ったうえで授業に臨むとともに、検索エンジンを用いて、精神疾患全般に対するスティグマについて、調べておく。

9 どのように行動を変容させるのか 科目の中での位置付け 本科目は、依存症の成因、診断法、症状、経過、本人および家族に対するアセスメントや支援に関する知識を修得し、依存症と関連する問題に対する支援についての理解を深めることを目的とする。また、関連文献の講読を通じて、依存症を心理学的に捉える視点を養うことを目指す。

■ 全15回の構成(※全コマ共通で記載)
1:嗜好、嗜癖、依存症とは
2:ハマるとは何か
3:ハマるとは何か②
4:これまでのまとめ
5:依存症はこころの病気であるのか
6:依存症は治療・支援できるのか
7:依存症者は治療に行くのか
8:これまでのまとめ/治療者は依存症者に何を思うのか
9:どのように行動を変容させるのか
10:治療者は依存症者の何を理解する必要があるのか
11:これまでのまとめ/依存症の心理療法では何をするのか
12:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか
13:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか②
14:依存症は治るのか
15:まとめ

■ この回(第9回)の位置づけと内容
本回は、全15回で構成される講義の第9回目にあたり、依存症からの回復において中心的な課題である「行動変容」に焦点を当て、その支援方法を理解することを目的とする。

具体的には、依存症の治療において広く活用されている「動機づけ面接法(Motivational Interviewing)」を取り上げ、その基本的な理論背景、実践上の技法、治療効果について整理する。

また、この技法が依存症だけでなく、広く精神疾患や健康行動全般における行動変容支援にも有効であることを学び、公認心理師として必要とされる支援技術の基礎を身につける契機とする。

本回の学びは、次回(第10回:「治療者は依存症者の何を理解する必要があるのか」)で扱う、より個別具体的な関わりや理解の深まりへとつながる実践的な足がかりとなる。

1)ウイリアム・R・ミラー,他,原井宏明(監訳)動機づけ面接上巻.第3版.星和書店;2019.
2) デイビット・B・ローゼングレン 原井宏明(訳)動機づけ面接を身につける.改定第2版.星和書店;2023.
コマ主題細目 ① コミュニケーションスタイル ② 動機づけ面接とは何か ③ 動機づけ面接の実際
細目レベル ① 治療者にとって、患者との関係性は治療をすすめていくうえで可能な限り良好にしておくべきものである。しかしながら、初期の段階で患者との関係を悪化させるコミュニケーションパターンが存在する。例えば、患者の話を聞かずに、解決を図ろうとしたり、治療者が話したい内容を話したりしてしまうこと、「依存症の人は〇〇」のように患者にレッテルを貼った状態で関わってしまうこと、患者との面接を情報収集の場と考え、閉じた質問ばかりしてしまうこと、などがある。コミュニケーションスタイルには、3つのスタイルがあり、それらは連続線上にあると言われている。この連続線上の両端には、指示スタイルと追従スタイルがある。指示スタイルと追従スタイルの間に位置するのが「ガイドスタイル」である。腕の良いガイドは聞き上手であり、必要なところで専門的な知識を提供する。また、患者を適切な方向へと導く。
② 動機づけ面接とは、「協同的なスタイルの会話によって、その人自身が変わるための動機づけとコミットメントを強める方法」である。何よりも変化に関する会話を重視していることから、動機づけ会話法とも呼ばれる。それは決して説教や独白ではない。その主な目的は、本人自身の変化への動機を強化することである。動機づけ面接は、ガイドであり、これは指示スタイル(支援者は情報や指導、助言を与える)と追従スタイル(相手が言わんとしていることに関心を持ち、理解に努め、自身の言葉を差しはさむことを差し控える)の中間にあり双方の要素を取り込んでいる。また、動機づけ面接では、両価性をもっている、つまり変わるたくもあると同時に、今のままでいたいというように変化について両価的である。この両価性は変化への準備として正常なことであり、両価的な人を相手に指示スタイルで変化に対して肩入れするような会話をしてしまうと、相手の反論を引き出す可能性が高い。ここでは、動機づけ面接における会話やスピリット(パートナーシップ、受容、思いやり、引き出す)を学ぶ。前提として、パーソン・センタードなカウンセリングスタイルであることを学ぶ。
③ 動機づけ面接におけ両価性には、さまざまな種類がある、患者の発言では、両価性に関する会話の中で、いかにしてチェンジトーク(本人自身が表明する変化に賛成するすべての言語)をはぐくむかが重要となる。チェンジトークには、準備チェンジトークから実行チェンジトーク、そしてコミットメントに関する関する言語があり、それらを支援者は引き出すことが大切である。一方で、維持トークを引き出すような会話は気を付けなければならない。例えば、「なぜ今までそうしてこなかったのか」「それを続けてしまうのはどうしてか」といった質問は結果として維持トークを生起させてしまうことになる。このチェンジトークと維持トークとのバランスに気を付けてながら面接を行っていく必要がある。そしてチェンジトークが生起した際には適切なフィードバックが重要であることは言うまでもない。一方、維持トークに対しても、強化するのではなく、聞き返し、リフレーミング等を用いながら、患者の中で不協和を引き出すように留意する。ここまで動機づけ面接において実際使用される会話を整理してきたが、支援者にとって大切なことは、小賢しいテクニックを患者に使うことではなく、患者に内在する変化への動機づけやチェンジトーク、コミットメントに関心をもつことである、ことを学ぶ。動機づけ面接は、いまや認知行動療法、随伴性マネジメントに次いで、依存症に対する心理療法としては有効性の示された治療法としてエビデンスが蓄積されつつある。
キーワード ① 動機づけ面接 ② チェンジトーク ③ 維持トーク
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 [復習]
 第9回では、依存症や行動変容の治療において有効性が認められている動機づけ面接法について、重要となる概念、治療の実際、及びそのエビデンスについて整理した。整理した。さらなる理解を深めるために、教材で提示した文献を読み、理解を進める。

[予習]
 動機づけ面接とは何かについて、検索エンジンを用いて調べておく。


10 治療者は依存症者の何を理解する必要があるのか 科目の中での位置付け 本科目は、依存症の成因、診断法、症状、経過、本人および家族に対するアセスメントや支援に関する知識を修得し、依存症と関連する問題に対する支援についての理解を深めることを目的とする。また、関連文献の講読を通じて、依存症を心理学的に捉える視点を養うことを目指す。

■ 全15回の構成(※全コマ共通で記載)
1:嗜好、嗜癖、依存症とは
2:ハマるとは何か
3:ハマるとは何か②
4:これまでのまとめ
5:依存症はこころの病気であるのか
6:依存症は治療・支援できるのか
7:依存症者は治療に行くのか
8:これまでのまとめ/治療者は依存症者に何を思うのか
9:どのように行動を変容させるのか
10:治療者は依存症者の何を理解する必要があるのか
11:これまでのまとめ/依存症の心理療法では何をするのか
12:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか
13:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか②
14:依存症は治るのか
15:まとめ

■ この回(第10回)の位置づけと内容
本回は、全15回で構成される講義の第10回目にあたり、「治療者は依存症者の何を理解する必要があるのか」という問いを通して、支援者としての姿勢とアセスメントの実践的理解を深めることを目的とする。

具体的には、治療者がどこまで支援できるのかという「支援の効用と限界」について自覚的であることの重要性を確認したうえで、依存症者に対する支援を行うために必要な「包括的アセスメント」の考え方を学ぶ。

さらに、包括的な視点を踏まえた上で、個々の問題に焦点を当てた「特化型アセスメント」への展開のあり方や、その階層的構造について理解を深める。

本回の学びは、依存症支援における「治療者の理解力」と「評価の精度」の重要性を再認識するものであり、次回(第11回:「依存症の心理療法では何をするのか」)で扱う具体的な心理的介入の前提となる知識と視点を提供する。

1) 今村他、医療機関における公認心理師の雇用と業務の実態:心理支援の拡充と制度の見直しに向けて.精神神経学雑誌、125(2), 116-128, 2023.
コマ主題細目 ① 治療者は患者に何ができるのか ② さまざまな支援を見据えた包括的なアセスメント ③ 心理的な問題や嗜癖行動の問題への支援が必要な時とは
細目レベル ① ここでは、依存症に関連する問題を抱えた患者に対して、治療者(特に公認心理師などの心理専門職)がどのような役割を果たすべきかを整理し、医療の中で心理師が担う実践的支援の範囲と限界について理解を深めることを目的とする。以下の2点に学習の範囲を限定する:依存症患者が抱える多面的な問題の理解(依存症患者は、アルコールやギャンブル、ゲームといった依存行動それ自体に加えて、身体的疾患、借金などの経済問題、家族関係の悪化、生活基盤の不安、併存する精神疾患や発達特性など、多岐にわたる課題を併せ持つことが多い。心理師は、これらの問題の全体像を把握したうえで、支援の優先順位や緊急性を見極める力が求められる)、心理師に求められる役割の明確化と連携の重要性の理解(心理師が担うべきことは、自身の専門性(心理アセスメント、動機づけ支援、心理教育、面接技法など)を発揮することに加え、支援の限界を自覚し、必要に応じて他職種や外部機関にリファー(紹介)する判断力を持つことである。したがって、心理師にとって重要なのは、「自分に何ができるか」に加えて、「他職種とどう連携し、適切に引き渡すか」を判断する視点である。本講義では、治療チームの一員としての心理師の立ち位置と、心理支援が有効に機能する場面を整理する)。理解の終点は以下のとおりである:依存症患者が抱える多面的な問題と、それに対して心理師がどのように関与できるか(あるいは関与すべきでないか)を判断できること。心理師として、自身の専門性の効用と限界を理解し、必要に応じて適切なリファーや連携を行うための基本的な姿勢を説明できること。

② ここでは、公認心理師として心理支援を行う際の初期対応としてのアセスメントの重要性と、その情報収集における留意点について学ぶ。心理的支援を行う前提として、多面的かつ包括的な情報を適切に収集・整理することが必要であり、それによって初めて適切な判断と支援が可能となる。学習範囲は、以下の2点に限定する:アセスメントの第一段階としての「心理的問題以前の課題」の把握(心理的支援を担う心理師は、まずクライエントが抱える「こころの問題」に直接介入するのではなく、その前提として必要な情報のアセスメントを行う責任がある。特に、以下のような情報は、心理的支援の可否判断や支援の方向性を決めるうえで極めて重要である:①身体症状や精神症状(不眠、食欲低下、既往歴、精神疾患・身体疾患の有無)、カルテ情報や他職種からの情報提供による医療的背景、必要に応じた心理検査による補助的評価)。これらの情報を把握せずに心理的問題のみを扱うことは、支援のミスマッチやリスクを招く可能性があるため、注意を要する)、②社会的背景や生活状況の情報収集と支援の統合(心理師は、クライエントの経済状況、就労・学業の状況、家族・親族との関係、介護の有無といった社会的・環境的要因も同時に評価し、必要に応じて関係機関と連携し、情報提供を行う必要がある。このような包括的アセスメントを経て初めて、「心理的問題そのもの」へのアセスメント、「その人がどのように生きるか」という実存的課題に関する支援的理解、へと進むことができる)。理解の終点は以下のとおりである:心理師として、支援の出発点は“こころの問題”ではなく、それ以前の医療的・社会的背景のアセスメントにあることを説明できること。包括的な情報収集をもとに、「いま」必要な支援とは何かを適切に判断・説明できること。心理的・実存的支援に移行するための前提条件としてのアセスメントの意義と手順を理解できること。

③ ここでは、「いま」必要な支援が心理的・実存的課題であると判断された場合に求められる、依存症に特化したアセスメントの視点と方法について学ぶ。特に、嗜癖行動の生起と維持の背景を、患者本人の語りを通じて理解し、支援に活かす姿勢と技術に注目する。学習範囲は、以下の2点に限定する:嗜癖行動に関する状況的アセスメントの理解(依存症における心理的アセスメントでは、どのような状況・文脈・きっかけで嗜癖行動(例:飲酒・ギャンブル・ゲーム)が生起するのかを明らかにする必要がある。また、行動の直後にもたらされる主観的メリット・デメリット(安心感、気晴らし、罪悪感、身体的負担など)を確認し、嗜癖行動が本人にとってどのような意味を持っているのかを捉える視点が求められる。このような行動パターンが、長期的に繰り返されてきた結果として、現在どのような生活上・心理的な困難を生んでいるかを整理することが、アセスメントの基本となる)、患者の主観と生活背景を踏まえた丁寧な傾聴と理解の重要性(上記のような状況や行動を把握する際には、形式的・機械的に情報を聞き出すのではなく、本人の語りを尊重した関わりが必要である。たとえば飲酒に関しては、「どのようなときに飲みたくなるか」だけでなく、「飲酒によって何を感じているのか」「どのような生活と結びついているのか」といった、患者の内面や日常の文脈に根差した理解を目指す姿勢が不可欠である)。理解の終点は以下のとおりである:依存症に特化したアセスメントにおいて、嗜癖行動の状況・動機・結果・意味を包括的に把握する視点を説明できること。アセスメントの過程で、患者の語りと生活背景に対する共感的理解がなぜ重要であるかを、自身の言葉で整理し説明できること。
キーワード ① 支援 ② アセスメント ③ 公認心理師
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 [復習]
 第10回では、依存症の治療において、治療者自身ができることの効用と限界の理解、患者に必要な支援のための包括的なアセスメント、包括的なアセスメントをふまえた問題に特化したアセスメントの階層性を整理した。さらなる理解を深めるために、教材に提示した公認心理師の支援に関する効用と限界に関する文献を読み、理解を進める。

[予習]
 依存症者に支援者として何ができるかについて、自身のイメージを持ちながら授業に臨む。

11 これまでのまとめ/依存症の心理療法では何をするのか 科目の中での位置付け 本科目は、依存症の成因、診断法、症状、経過、本人および家族に対するアセスメントや支援に関する知識を修得し、依存症と関連する問題に対する支援についての理解を深めることを目的とする。また、関連文献の講読を通じて、依存症を心理学的に捉える視点を養うことを目指す。

■ 全15回の構成(※全コマ共通で記載)
1:嗜好、嗜癖、依存症とは
2:ハマるとは何か
3:ハマるとは何か②
4:これまでのまとめ
5:依存症はこころの病気であるのか
6:依存症は治療・支援できるのか
7:依存症者は治療に行くのか
8:これまでのまとめ/治療者は依存症者に何を思うのか
9:どのように行動を変容させるのか
10:治療者は依存症者の何を理解する必要があるのか
11:これまでのまとめ/依存症の心理療法では何をするのか
12:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか
13:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか②
14:依存症は治るのか
15:まとめ

■ この回(第11回)の位置づけと内容
本回は、全15回で構成される講義の第11回目にあたり、依存症の心理療法において中心的に用いられている治療モデルについて理解を深めることを目的とする。

具体的には、依存症支援における代表的な介入法である「リラプス・プリベンション(再発予防)モデル」を取り上げ、その理論的背景や基本的な概念を学ぶとともに、このモデルが実際の治療場面でどのように活用され、どのような効果をもたらしているかについて整理する。

また、再発という現象を否定的に捉えるのではなく、治療プロセスの一部としてどのように支援に位置づけるかという視点も学び、現実的かつ柔軟な心理支援のあり方を考える機会とする。

本回の学びは、次回(第12回:「依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか」)で扱う“治療の本質的な目的とは何か”という問いにつながるものである。

1) Marlatt, G. A., Demming, B., & Reid, J. B. (1973). Loss of control drinking in alcoholics: An experimental analogue. Journal of Abnormal Psychology, 81 (3), 233-241. 
2) Marlatt, G. A., & Gordon, J. R. (1985). Relapse Prevention. The Guilford Press.
3) Marlatt, G. A. (1996). Harm reduction: Come as you are. Addictive Behaviors, 21(6), 779-788.
4) Marlatt, G. A. (Ed.). (1998). Harm reduction: Pragmatic strategies for managing high-risk behaviors. The Guilford Press.
5) Marlatt, G. A., Baer, J. S., Kivlahan, D. R., Dimeff, L. A., Larimer, M. E., Quigley, L. A., Somers, J. M., & Williams, E. (1998). Screening and brief intervention for high-risk college student drinkers: Results from a 2-year follow-up assessment. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 66(4), 604–615.
6) Marlatt, G. A., & Donovan, D. M. (2005). Relapse prevention, Second Edition: Maintenance strategies in the treatment of addictive behaviors. The Guilford Press.
7) Bowen, S., Chawla, N., & Marlatt, G. A. (2010). Mindfulness-based relapse prevention for addictive behaviors: A clinician’s geode. The Guilford Press.
8) Marlatt, G. A., Larimer, M. A., & Witkiewits, K. (2012). Harm reduction, second edition: Pragmatic strategies for managing high-risk behaviors. The Guilford Press.
9) Roffman, R. A. (2011). Gordon Alan Marlatt (1941-2011). Addiction, 106. 1532-1533.
コマ主題細目 ① これまでのまとめ ② リラプスプリベンションモデルとは何か ③ リラプスプリベンションモデルを提唱したマーラット博士、及び治療の実際
細目レベル ① ここでは、第8~第11回で取り扱った内容を整理する。本講義では、依存症治療における治療者の内面と関わり方に焦点を当てる。まず、治療者が抱きやすい怒り・無理解・過度な同情などの感情や、「間違い指摘反射」などのコミュニケーション上の“罠”を取り上げ、それが患者の治療動機や関係性に与える影響を検討する。次に、動機づけ面接の理論と技法(OARS)を学び、両価性への理解と、チェンジトークを引き出す支援的関わりについて理解する。さらに、依存症者が抱える背景や認知・感情の特性に対する理解を深め、治療者として必要な視点と態度を身につけることを目指す。
② ここでは、依存症の再発予防を目的とした心理的介入法である「リラプス・プリベンション(Relapse Prevention)」モデルについて学ぶ。これは、G. Alan Marlatt と Judith R. Gordon によって体系化されたものであり、特に断酒・断薬の継続支援において中心的なアプローチとされている。学習範囲は、以下の2点に限定する:リラプス・プリベンションモデルの目的と構造の理解(リラプス・プリベンションとは、不適切な習慣(嗜癖行動)をやめようとする人々に対し、リラプス(再発)のリスクを予期し、それに備えた自己マネジメント行動を支援することを目的とした心理的介入モデルである。このモデルにおいて重視される変数として、以下のような要素がある:ハイリスク状況(再発を引き起こしやすい状況の予測と同定)、結果予期(嗜癖行動に対して期待している心理的・身体的効果)、対処スキル(リスク状況において別の行動を選択する能力)、これらの変数をアセスメントし、支援計画に反映させることが臨床実践において重要である)、lapseとrelapseの概念の区別と臨床的意義の理解(Marlattは、「lapse」と「relapse」を明確に区別している。lapseとは、嗜癖行動を止めていたにもかかわらず一時的に使用してしまう行動(再飲酒・再ギャンブルなど)を指し、日本では「スリップ」と呼ばれることが多い。一方、relapseとは、嗜癖行動が慢性的に再開し、治療前の状態に戻ってしまうことを意味する。Marlattは、lapseを「失敗」とみなすのではなく、「再発に向かうサイン(警告)」と捉え、lapseの段階で対応することでrelapseを防ぐことができるという立場をとっている。このような視点は、治療者に対し、lapseを否定的に解釈するのではなく、再発予防の契機と捉える柔軟な姿勢を求めている)。理解の終点は以下のとおりである:リラプス・プリベンションモデルの理論的枠組みと目的を説明できること。lapseとrelapseの違いを理解したうえで、lapseに対する治療的対応の意義とその具体的手段(ハイリスク状況の評価、対処スキルの獲得など)を整理し説明できること。リラプス・プリベンションが依存症の長期的支援においてどのように活用されるべきかを自分の言葉で理解し、説明できること。
③ ここでは、リラプス・プリベンション(再発予防)モデルを用いた治療実践の具体的構成と、そのエビデンスに基づく効果について学ぶ。リラプス・プリベンションは、認知行動療法(CBT)の中核的なアプローチの一つであり、アルコール依存症、薬物依存症、ギャンブル障害など多様な依存症への適用が可能な治療法である。以下の2点に学習範囲を限定する:治療の2ステップ構造とその臨床的実施方法の理解(リラプス・プリベンションによる治療は、以下の2つのステップから構成される。第1ステップ:ラプス(再飲酒や再使用)につながりやすい「ハイリスク状況」の同定(ハイリスク状況には、たとえばアルコール依存症の場合、友人からの誘い、風呂上がり、季節イベント(年末年始、誕生日など)、ストレスや気分の落ち込み時などが挙げられる。患者ごとに特有のハイリスク状況を探索する)、 第2ステップ:同定されたハイリスク状況に対する対処スキルの学習(具体的な技法としては、刺激統制法:状況自体を除去できる場合に適用、スキル訓練:状況を回避できない場合に、代替的な行動(飲酒以外の対処行動)を学習、代替行動の獲得:飲酒や使用と同時にできない行動の活用による対処)、これらの取り組みは、日常生活の振り返りと再構築を通じて、ライフスタイル全体を修正することを目指すものであり、「ライフスタイルの修正」とも呼ばれる)。理解の終点は以下のとおりである:リラプス・プリベンションモデルに基づく治療の2ステップ(ハイリスク状況の同定と対処スキルの学習)の構造と内容を具体的に説明できること。リラプス・プリベンションが単なる再発防止技術ではなく、生活全体の再構成を目指す包括的アプローチであることを理解し、説明できること。


キーワード ① リラプスプリベンション ② マーラット博士 ③ ラプス ④ リラプス
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 [復習]
 第11回では、依存症の治療において最も重要な治療モデルであるリラプスプリベンションモデルについて、整理した。そして、その創始者であるマーラット博士がなぜその治療が必要であると感じ、リラプスプリベンションモデルを治療に用いたのかについて、整理した。さらなる理解を深めるために、教材で提示した文献を読み、理解を進める。

[予習]
 リラプスプリベンションモデルにおける、ラプスとリラプスの違いについて、検索エンジンを用いて調べておく。

12 依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか 科目の中での位置付け 本科目は、依存症の成因、診断法、症状、経過、本人および家族に対するアセスメントや支援に関する知識を修得し、依存症と関連する問題に対する支援についての理解を深めることを目的とする。また、関連文献の講読を通じて、依存症を心理学的に捉える視点を養うことを目指す。

■ 全15回の構成(※全コマ共通で記載)
1:嗜好、嗜癖、依存症とは
2:ハマるとは何か
3:ハマるとは何か②
4:これまでのまとめ
5:依存症はこころの病気であるのか
6:依存症は治療・支援できるのか
7:依存症者は治療に行くのか
8:これまでのまとめ/治療者は依存症者に何を思うのか
9:どのように行動を変容させるのか
10:治療者は依存症者の何を理解する必要があるのか
11:これまでのまとめ/依存症の心理療法では何をするのか
12:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか
13:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか②
14:依存症は治るのか
15:まとめ

■ この回(第12回)の位置づけと内容
本回は、全15回で構成される講義の第12回目にあたり、「依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか」というテーマを通じて、依存症治療における目標の多様性について学ぶことを目的とする。

具体的には、これまで依存症治療における中心的な方針とされてきた「完全断酒」「完全断ギャンブル」などの禁絶(abstinence)モデルの歴史と背景を学びつつ、近年では「節酒」や「節ギャンブル」など、依存対象とのより柔軟な関わり方を目指すコントロール志向の治療方針も広がってきている現状について整理する。

こうした治療目標の多様化が、依存症者の主体的な選択や回復のプロセスにどのような影響を与えているかを考察し、支援者として治療方針をどう位置づけるかという視点を深める。

本回の学びは、次回(第13回:「依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか②」)で扱う実際の支援事例や実践的展開につながるものである。

1) 松本 (2019). ハーム・リダクションの理念とわが国における可能性と課題 精神神経学雑誌,121(12),914-925
2) 徐・池田 (2019). ハームリダクション:概念成立の背景と日本における語の定着について Osaka University Knowledge Archive,6,51-62. https://nyan-jp.net/harmreduction-project/
コマ主題細目 ① リラプス・プリベンションモデルが提唱された当時の治療目標 ② 依存症治療における底つき体験 ③ 依存症治療における治療目標の選択肢として減酒/節酒の台頭
細目レベル ① ここでは、リラプス・プリベンションモデルが提唱された当時の依存症治療における治療目標の変遷と、ハーム・リダクションの視点から見た節度的使用の位置づけについて学ぶ。依存症治療の前提となる「abstinence(絶つ)」「control(コントロール)」「moderation(適度・節度)」という概念の違いとその臨床的意義を理解する。学習範囲は、以下の2点に限定する:リラプス・プリベンション提唱当時の治療目標の主流とその課題(従来の依存症治療では、abstinence(断酒・断ギャンブル)を唯一の目標とするアプローチが一般的であった。この方針では、治療を受け入れられない者は「治療意欲がない」「否認が強い」と評価され、治療の枠外に置かれることさえあった。また、「底つき体験(rock bottom)」を経なければ回復は始まらないと考えられていたが、このアプローチには危険性が高いことや、底つきまで放置することによる生命的・社会的損失の大きさが次第に指摘されるようになった)、節度的使用とハーム・リダクションの視点の導入(近年では、「moderation(節度ある使用)」や「control(使用の自己管理)」を目標とする治療が選択肢として広がってきている。たとえば、日本でも飲酒量低減薬「ナルメフェン」の登場により、断酒ではなく減酒・節酒を目指す治療が制度的にも受け入れられるようになってきた。ギャンブル依存症やゲーム障害においても、現時点で有効な薬物治療は存在しないが、同様に「節ギャンブル」「節ゲーム」といった方針が実践的に試みられている。このような方針は、問題行動を完全にやめることを前提とせず、それによってもたらされる害悪(身体的、社会的、経済的被害)を軽減するという「ハーム・リダクション(害の削減)」の考え方に基づくものである。理解の終点は以下のとおりである:abstinence、control、moderationの違いとそれぞれの臨床的含意を整理して説明できること。従来の断絶主義的治療の限界と、それに代わるハーム・リダクションの実践的意義を自分の言葉で説明できること。断酒・断ギャンブルのみならず、節度的使用を含む多様な治療目標を選択肢として理解できること。
② ここでは、依存症治療において従来重視されてきた「底つき体験」の概念と、それが治療動機および治療経過に与える影響について検討する。特に、断酒や断ギャンブルといったabstinenceを前提とする治療方針において、底つき体験がいかに位置づけられてきたのかを理解することが目的である。学習範囲は、以下の1点である:底つき体験の定義と、それが治療開始・維持・効果に与える影響の理解(わが国を含め、依存症治療の歴史的文脈においては、患者が十分な治療意欲をもたない段階では介入が難しく、治療の効果が上がりにくいと考えられてきた。そのため、治療意欲を引き出すためには、患者自身が「酒やギャンブルをやめなければどうにもならない」と痛感する「底つき体験」を経ることが必要であるという見解が支配的であった。たとえばアルコール依存症の場合、飲酒による身体疾患、借金、家族関係の崩壊、生死に関わる危機などを通して「限界的な状態に至る」ことが、治療に向かう転機となるとされてきた。このような体験をもとに、「否認」を脱し、「断酒」の必要性を自覚することが治療開始の前提条件と見なされてきた)。理解の終点は以下のとおりである:底つき体験とは何かを定義と具体例を用いて説明できること。底つき体験が従来の治療モデルにおいて、治療開始・治療意欲の獲得・治療の維持にどのように関係づけられてきたかを整理し、説明できること。このような治療観が持つ臨床的な利点と課題の両面を理解し、今後の支援方針を考える視点を持つことができること。
③ ここでは、アルコール依存症治療における治療目標の多様化と、それを可能にした薬物療法の進展について学ぶ。特に、2019年に国内で発売された飲酒量低減薬「ナルメフェン(商品名:セリンクロ)」の登場が、治療方針に与えた影響に注目する。学習範囲は、以下の1点に限定する:従来の断酒モデルと減酒モデルの比較、および薬物療法による治療目標の選択肢の拡大の理解(依存症治療においては、長らく「断酒(abstinence)」「断薬」「断ギャンブル」が最も安全かつ望ましい治療目標であるとされてきた。しかしながら、2019年3月より国内で使用可能となったナルメフェン(セリンクロ)は、飲酒を続けながらも飲酒量を低減させる効果を持つ薬剤であり、従来の治療構造に変化をもたらした。新しいアルコール依存症治療ガイドラインでは、断酒を最終的な目標としつつも、軽度依存症や治療導入段階では「減酒」や「節酒」を中間的な目標として設定することが妥当であるとされている。これにより、治療の選択肢が広がり、患者にとってアクセスしやすい支援が提供可能となった)。理解の終点は以下のとおりである:ナルメフェンの作用機序と臨床的特徴を説明できること。従来の断酒モデルと比較して、減酒・節酒モデルがなぜ登場し、どのような臨床的利点をもたらすかを整理し説明できること。治療目標の多様化が、依存症治療へのアクセスと受容性にどのように影響を与えるかを自分の言葉で理解・説明できること。
キーワード ① マーラット博士 ② リラプス・プリベンション ③ abstinent ④ control ⑤ 底つき体験
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 [復習]
 第12回では、依存症の治療における重要な考え方であるリラプス・プリベンションについて整理した。さらなる理解を深めるために、教材で提示した文献を読み、理解を進める。

[予習]
 依存症につして、やめるべきか、コントロールするべきかに関する自分自身の考えを整理したうえで授業に臨むとともに、検索エンジンを用いて、リラプス・プリベンションとは何かについて調べておく。

13 依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか② 科目の中での位置付け 本科目は、依存症の成因、診断法、症状、経過、本人および家族に対するアセスメントや支援に関する知識を修得し、依存症と関連する問題に対する支援についての理解を深めることを目的とする。また、関連文献の講読を通じて、依存症を心理学的に捉える視点を養うことを目指す。

■ 全15回の構成(※全コマ共通で記載)
1:嗜好、嗜癖、依存症とは
2:ハマるとは何か
3:ハマるとは何か②
4:これまでのまとめ
5:依存症はこころの病気であるのか
6:依存症は治療・支援できるのか
7:依存症者は治療に行くのか
8:これまでのまとめ/治療者は依存症者に何を思うのか
9:どのように行動を変容させるのか
10:治療者は依存症者の何を理解する必要があるのか
11:これまでのまとめ/依存症の心理療法では何をするのか
12:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか
13:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか②
14:依存症は治るのか
15:まとめ

■ この回(第13回)の位置づけと内容
本回は、全15回で構成される講義の第13回目にあたり、第12回で学んだ「治療目標の多様化」に続き、依存症治療におけるハーム・リダクション(害の軽減)という視点に注目し、実践的理解を深めることを目的とする。

具体的には、断酒・断ギャンブルなどの完全な中止(abstinence)から、節酒・節ギャンブルなどのコントロールを目指す治療目標への変化が生じてきた背景を整理し、こうした変化をハーム・リダクション・アプローチの観点から捉え直す。

さらに、ハーム・リダクションの考え方がどのように依存症支援の現場で実践されているのか、具体的な取り組みや事例を通じて学ぶことで、依存症者の生活の質を高める支援の在り方について理解を深める。

本回の学びは、次回(第14回:「依存症は治るのか」)において扱う「回復とは何か」「治癒とはどう捉えられるのか」といった根本的な問いへの導入となる。

1) 大嶋栄子 “嵐”のあとをいきる人たち:「それいゆ」の15年が映し出すもの かりん舎、2018.
コマ主題細目 ① abstinenceとcontrolをハーム・リダクションの視点から見る ② さまざまなハーム・リダクション ③ 予防教育
細目レベル ① ここでは、依存症支援における基本理念の一つである「ハーム・リダクション(Harm Reduction)」の定義、発展の背景、および倫理的意義について学ぶ。ハーム・リダクションは、従来の厳罰的・断絶的なアプローチとは異なり、物質使用や行動そのものの即時中止を求めず、現実的かつ段階的な支援を重視する立場に基づいている。学習範囲は、以下の2点に限定する:ハーム・リダクションの定義と特徴の理解(ハーム・リダクションとは、もともと物質使用に関する臨床実践や地域支援のなかから生まれた理念であり、合法・違法を問わず、薬物使用や特定の嗜癖行動を直ちにやめることを前提としない。その代わりに、それらの行動が引き起こす健康的・社会的なリスクを優先的に評価し、リスクを軽減するための介入を行うという考え方である。たとえば、注射器交換プログラム、飲酒量の低減、節ギャンブル支援などが実際の介入例として挙げられる)、ハーム・リダクションの倫理的・社会的意義の理解(ハーム・リダクションは、厳罰政策や断酒・断薬一辺倒の治療アプローチがもたらしてきた支援の限界や排除の構造に対する批判から出発した理念である。その中心には、薬物使用者や依存症者に対する人権の尊重があり、従来の支援からこぼれ落ちていた人々を孤立から救い出すための倫理的・実践的アプローチであると位置づけられている)。理解の終点は以下のとおりである:ハーム・リダクションの定義と代表的な実践例を説明できること。断絶的アプローチと比較しながら、ハーム・リダクションが依存症支援の現場にもたらす現実的・倫理的意義を整理できること。ハーム・リダクションが単なる技術的介入ではなく、支援対象者の人権と尊厳を守るための理念的枠組みであることを理解し、自らの言葉で説明できること。
② ここでは、ハーム・リダクション(harm reduction)の基本的な定義と理念を理解し、その実践の多様性を具体的な事例を通じて学ぶ。ハーム・リダクションは、物質使用や依存症行動を直ちに中止させることを前提とせず、行動に伴う健康上・社会的なリスクを軽減することを目的とした支援方針である。学習範囲は、以下に限定する:ハーム・リダクションの具体的分類と実践例の理解(ハーム・リダクションの実践は、以下のように大きく3つの類型に分けることができる:従来型(行動そのものを社会的に管理・制御する):例)違法薬物の使用許可区域の設定、薬物使用監視施設、付随する害の低減・除去型:例)加熱式タバコ、1円パチンコ、安全注射器配布など、報酬効果の低減型:例)低カフェイン飲料、低カロリー食品、減アルコール飲料など)。これらはすべて、当該行動の継続を一律に否定するのではなく、社会的・身体的な害を軽減することを優先する介入であり、個人の自己決定や社会的包摂の視点にもとづいたアプローチである。理解の終点は以下のとおりである:ハーム・リダクションアプローチの実践が、従来型、付随害低減型、報酬効果低減型という複数の方向性に分類されることを理解し、それぞれの具体例を挙げて説明できること。
③ ここでは、ハーム・リダクションの一形態としての「予防」の意義と、依存症の予防教育の具体的な役割について学ぶ。予防は単に行動の抑制ではなく、依存症の発症・進行・再発といった各段階において悪影響を最小限に抑えるための重要な介入手段であると位置づけられる。学習範囲は、以下の2点に限定する:予防の定義と段階的介入の理解(予防とは、最悪の事態(例:健康被害や社会的損失)が起こる前に、あらかじめ対策を講じることによってそれを防ぐ行為である。依存症における予防は、大きく以下の3段階に分類される:一次予防(発症予防):依存症になる前の段階での教育的介入、二次予防(進行予防):問題使用が見られる段階での早期発見・支援、三次予防(再発予防):治療後の再発防止に向けた支援。このような段階的アプローチは、リスクのある行動を完全に排除するのではなく、それに伴う害を減らすというハーム・リダクションの基本理念と一致している)、予防教育の内容と意義の理解(予防教育とは、依存症に関する正確な知識を普及させ、アルコール・ギャンブル・ゲームなどの嗜癖対象との適切な関わり方を事前に学習することを目的とした教育的介入である。たとえば、依存症につながるサインや初期症状、危険な使用行動の特徴などを理解することは、リスクの早期発見と悪影響の回避に寄与する。また、予防教育は「アクセスを完全に遮断する」ことを目的とするのではなく、現実的な行動選択としての「上手なつきあい方」を促すものである。この点においても、ハーム・リダクション的視点に立脚した実践であるといえる)。理解の終点は以下のとおりである:予防が依存症の発症・進行・再発をそれぞれの段階で抑制する介入であることを整理し説明できること。予防教育が単なる禁止や啓発ではなく、ハーム・リダクションとして機能することを理解し、正しい知識の提供と関係性の形成を目的としていることを説明できること。依存対象と「断絶する」のではなく、社会の中で適切に向き合うという現実的な支援方針の一つとして、予防の役割を理解できること。

キーワード ① ハーム・リダクション ② 予防 ③ ハーム
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 [復習]
 依存症の治療における重要な考え方であるハーム・リダクションについて整理した。そして、依存症予防の重要性もあわせてハーム・リダクションと関連するアプローチであることを整理した。さらなる理解を深めるために、教材で提示した文献を読み、理解を進める。

[予習]
 依存症につして、やめるべきか、コントロールするべきかに関する自分自身の考えを整理したうえで授業に臨むとともに、検索エンジンを用いて、ハーム・リダクションとは何かについて調べておく。

14 依存症は治るのか 科目の中での位置付け 本科目は、依存症の成因、診断法、症状、経過、本人および家族に対するアセスメントや支援に関する知識を修得し、依存症と関連する問題に対する支援についての理解を深めることを目的とする。また、関連文献の講読を通じて、依存症を心理学的に捉える視点を養うことを目指す。

■ 全15回の構成(※全コマ共通で記載)
1:嗜好、嗜癖、依存症とは
2:ハマるとは何か
3:ハマるとは何か②
4:これまでのまとめ
5:依存症はこころの病気であるのか
6:依存症は治療・支援できるのか
7:依存症者は治療に行くのか
8:これまでのまとめ/治療者は依存症者に何を思うのか
9:どのように行動を変容させるのか
10:治療者は依存症者の何を理解する必要があるのか
11:これまでのまとめ/依存症の心理療法では何をするのか
12:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか
13:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか②
14:依存症は治るのか
15:まとめ

■ この回(第14回)の位置づけと内容
本回は、全15回で構成される講義の第14回目にあたり、「依存症は治るのか」という根源的な問いを通じて、依存症の回復に関する理解を多角的に深めることを目的とする。

具体的には、依存症治療における治療効果や再発率、さらに専門的な治療を受けずに回復に至る「自然的回復」の実態などを紹介しながら、依存症がしばしば再発を伴う慢性疾患であるという視点を整理する。

あわせて、「完治」という言葉が医学的にどのように定義されるかを確認し、依存症における「治る」とは何を意味するのか、どのような状態を回復とみなすのかという点についても議論を深める。

本回の学びは、最終回(第15回:「まとめ」)における総括や、自らの支援観・回復観を振り返るうえでの重要な視点となる。

1) 大嶋栄子 “嵐”のあとをいきる人たち:「それいゆ」の15年が映し出すもの かりん舎、2018.
コマ主題細目 ① 再発のリスク ② 治療におけるハーム・リダクションの理解と実践 ③ いつになったら治るのか
細目レベル ① 依存症者の多くは適切な治療を受けることで回復していく。しかしながら、その回復の過程で、再発を伴うことも事実である。再発には、ラプスとリラプスの2種類があり、ラプスとは「ついやってしまった」ことであり、再発とは「治療を受ける前の(悪い)状態まで戻ってしまう」ことである。ラプスが生起することで少なからず依存症の当事者には「やっぱり自分はダメだ」などの諦めが生じることがある。それによりリラプスに至ってしまう。ここでは、依存症の治療における効果、及び再発のリスク、そして自然的回復の割合などを整理しながら、依存症が再発を伴う病気であることを理解していく。その際、再発と関連する要因等を整理しながら、どのような患者に再発のリスクが高いのかを整理する。
② 治療者はもちろんラプスやリラプスが生じないように治療を進めていくわけではあるが、万が一、ラプスやリラプスが生じた時のために、再発に関する情報提供は重要である。そして、再発が生じた際に、可能な限り悪影響が小さくなるような対処方法等を事前に患者との面談の中で話し合っていく必要がある。つまり、ラプスやリラプスが生じるかもしれないので、それに備えた準備を事前に患者と話し合っておく、ということが依存症の治療では重要となる。これが、ハーム・リダクションを治療に取り入れるということである。また、医療においては、患者の物質使用を知った際の対応について、原則として守秘義務が優先されるか、警察等への通報が優先されるかについて整理する。再発のリスクを防ぐための方法には、欲求や危険な要因(場所、人、思考等)の自覚等をはじめとするメタ認知をはぐくむこと、使用できる人的なサポートの把握(パートナー、社会的資源としての自助グループの利用等)などが含まれる。これらを患者の生活や特徴に合わせて、整理していくことが重要である。
③ 依存症の治療で、依存症は治るのか、という点がよく議論される。「治る」ことに関する医学上の定義は、おそらく診断基準に該当する項目が一定数を下回ることであるとされる。例えば、ギャンブル依存症の場合、DSMの診断基準に4項目が当てはまることでギャンブル依存症の診断をうけるわけではあるが、当てはまる項目が3項目以下になれば、医学上は「治った」ことになる。しかしながら、患者自身はその時点で治療を止めるのであろうか。例えば、医療への通院はやめる、もしくはその頻度は少なくなるかもしれない。通っていた自助グループはどうであろうか。また、自身が嗜癖行動が生起しないために行っていた日々の対処はどうであろうか。これらの観点から依存症はいつになったら治るのかを整理していきたい。また、アルコール依存症の自助グループでは、自己紹介をする際に(匿名であっても”Y”などのように言う)”アルコール依存症のYです”と以前は自己紹介をしていたが、最近では”アルコール依存症から回復している(もしくは、回復を目指している)Yです”のように自己紹介が変化している自助グループもある。このような呼び方に鑑みると、依存症に治癒という言葉は不適切であるかもしれない。
キーワード ① ハーム ② 再発 ③ リラプス
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 [復習]
 第14回では、依存症の治療において、依存症は治るのか、という問いに答えるために、依存症の再発、回復後に必要な支援、依存症との付き合い方について、整理した。さらなる理解を深めるために、教材で提示した文献を読み、理解を進める。

[予習]
 依存症とその他の例えば身体的な疾患との間での差異について、治るという観点からその違いを考えたうえで授業に臨むとともに、検索エンジンを用いて、依存症と再発について、調べておく。

15 まとめ 科目の中での位置付け 本科目は、依存症の成因、診断法、症状、経過、本人および家族に対するアセスメントや支援に関する知識を修得し、依存症と関連する問題に対する支援についての理解を深めることを目的とする。また、関連文献の講読を通じて、依存症を心理学的に捉える視点を養うことを目指す。

■ 全15回の構成(※全コマ共通で記載)
1:嗜好、嗜癖、依存症とは
2:ハマるとは何か
3:ハマるとは何か②
4:これまでのまとめ
5:依存症はこころの病気であるのか
6:依存症は治療・支援できるのか
7:依存症者は治療に行くのか
8:これまでのまとめ/治療者は依存症者に何を思うのか
9:どのように行動を変容させるのか
10:治療者は依存症者の何を理解する必要があるのか
11:これまでのまとめ/依存症の心理療法では何をするのか
12:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか
13:依存症の治療:ただそれを止めれば良いのか②
14:依存症は治るのか
15:まとめ

■ この回(第15回)の位置づけと内容
本回は、全15回で構成される講義の最終回にあたり、これまでの学びを総括し、依存症に関する知識と理解を体系的に整理することを目的とする。

具体的には、各回の講義内容を振り返りながら、それぞれのトピックがどのように相互に関連し、全体として依存症理解の枠組みを構成しているのかを再確認する。また、依存症の概念、成因、治療、回復に関する学びを統合し、知識の定着と実践への応用を意識したまとめを行う。

本回の学びを通じて、受講者が本講義を通して得た知識や視点を将来的な支援実践や専門的成長へとつなげていくための足がかりとなることを目指す。

コマ主題細目 ① 依存症のメカニズム ② 依存症の治療の現状と治療ギャップ ③ 行動変容のための治療者のスキル ④ 依存症のアセスメント ⑤ 依存症の治療
細目レベル ① 依存症の医学的な状態像(アメリカ精神医学会が刊行する診断基準(Diagnostic and statistical manuals of mental disorders fifth edition)や世界保健機関が定めている診断基準(International Classification of Diseases 11th Revision))の確認をするとともに、依存症のメカニズムについて、オペラント条件づけ、古典的条件づけの観点(正/負の強化、自己治療仮説、刺激—反応関係、刺激制御)から復習を行う。さらに、ドーパミンをはじめとする神経伝達物質について、脳の報酬系の仕組みを復習する。
② わが国における依存症治療の現状について、医療、精神保健、自助グループをはじめとするその他の治療について復習を行う。さらに、治療ギャップ(治療が必要な人数と実際に治療を受けている人数のずれのこと)について、依存症の人々が治療を必要としているにもかかわらず、十分な治療を受けられない状況が続いてしまうその要因等(専門的な依存症治療期間の不足、専門家の不足、スティグマや偏見など)の復習を行う。加えて、治療ギャップを埋めるため施策、SBIRTSによる早期発見・早期介入や、インターネット上で提供される治療アプリ(治療用のスマートフォンアプリケーション)に関する復習を行う。
③ 依存症治療における、治療者がクライエントに対して害のあるかかわり方(過剰な同情や共感、依存症への怒りや無理解、過度の親身さ、間違い指摘反射など)、及び患者中心の関わり方(開かれた質問(Open Question)、是認(Affirmation)、聞き返し(Reflection)、要約(Summary))について、復習を行う。加えて、行動変容のための治療者のスキルとして重要である、動機づけ面接について、動機づけ面接のスピリット(変化への動機の強化、指示スタイルと追従スタイルの双方の要素を取り込む、両価的な人間への関わり方)を中心として、その実践と効果について復習を行う。
④ 依存症のアセスメントについて、問題の解決に向けて必要な情報の包括的なアセスメント法(身体症状や精神症状、経済状況や就労状況、心理的問題など)について復習を行いながら、自身ができることの効用と限界の理解と、自身よりも適切に問題解決が可能なリソースの把握、適切なリファーの必要性を復習する。そのうえで、嗜癖行動に関するアセスメント(どのような状況下で、どのようなきっかけで、嗜癖行動が生起するか(お酒の場合は、飲みたくなるか、飲んでしまうか)、そして、嗜癖行動をとった後にどのようなメリットデメリットがあるかなど)について復習を行う。
⑤ 依存症の治療について、リラプスプリベンションモデルの概要や支援の特徴(ラプス、リラプス、対処スキルなど)、ハーム・リダクションの概要やその成立背景、支援の実際(abstinent、control、予防など)について、復習を行い、依存症に対する心理支援において重要な概念を改めて復習する。さらに、依存症の回復過程や支援の必要性について、再発をする病気としての理解を踏まえて、依存症における様々な取り組みや治療モデル(グッドライフモデル、12ステップアプローチなど)の復習を行う。
キーワード ① 診断基準、オペラント条件づけ、古典的条件づけ、報酬系 ② 医療、精神保健、自助グループ、治療ギャップ、閾値化、SBIRTS ③ 動機づけ面接、チェンジトーク、維持トーク ④ アセスメント、心理的問題 ⑤ リラプスプリベンション、ハーム・リダクション、再発、治療
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
履修判定指標
履修指標履修指標の水準キーワード配点関連回
依存症の状態像と定義の理解
依存症の構造を理解するために、診断基準(DSM-5等)とそれぞれが示す悪影響について理解している。この理解を確認するためには、定義を正しく記述するだけでなく、具体例を用いながら、200字以上で説明できることが要求される。
タイプ、診断基準 10 1,2
依存症のプロセスと条件づけ理解 依存の成立プロセスを理解するために、オペラント条件づけと古典的条件づけの両方の視点から解説できることが求められる。オペラント条件づけにおける「提示型の強化」「除去型の強化」「自己治療仮説」、古典的条件づけにおける「刺激制御」「行動連鎖」などのキーワードを用い、200字で、具体例を含めながら解説することが要求される。 オペラント条件づけ、古典的条件づけ 10 3
依存症のメカニズム 依存症に関連する行動がなぜ続くのかを解明するために、報酬系の観点から理解し、「ドーパミン」「神経伝達物質」「報酬予測誤差」などのキーワードを用い、たとえばギャンブル依存における脳のドーパミンの放出について200字で解説する。
報酬系、ドーパミン、線条体 5 4, 5
依存症の治療の現状と治療ギャップ 依存症の治療について、医療、精神保健、自助グループなどについて、どのようなリソースがあるかを理解し、そこでどのようなことが行われているか(どのような治療をうけることができるか)について、整理している。また、依存症者が治療に向かわない「治療ギャップ」について、その現状、その要因、そしてその対策について、関連するキーワード(専門治療、スティグマ、人的コストなど)を用いて、200字程度で説明することができる。 医療、精神保健、自助グループ、治療ギャップ、閾値化、SBIRTS 15 6,7,15
行動変容のための治療者のスキル 依存症の治療について、治療者が陥りやすい罠や害のあるかかわり方について、関連するキーワード(治療者のネガティブな考え、患者中心の関わりなど)を用いて、200字程度で説明することができる。また、行動変容のための協働的な会話スタイルである動機づけ面接について、関連するキーワード(チェンジトーク、維持トークなど)を用いて、200字程度で説明することができる。 動機づけ面接、チェンジトーク、維持トーク 15 8,9,15
依存症のアセスメント 依存症のアセスメントについて、支援者は問題の解決に向けて必要な情報をアセスメントすることが重要であり、注意しなければならないことは、こころの問題(つまり、本人が困っている問題)にばかり注意して、本人にとって必要な、本人にとって有用な情報を聞き洩らすことである。ここでは、依存症のアセスメントについて、関連するキーワード(身体症状、経済状況、家族関係、心理的問題など)を用いて、200字程度で説明することができる。 アセスメント、心理的問題 10 10,15
依存症治療モデル 依存症治療において、リラプスプリベンションモデルの概要と支援の特徴について、「ラプス」「リラプス」「対処スキル」などのキーワードを用い、実際の支援プロセスを含めながら200字で説明できることが求められる。具体的には、ラプスを一時的な失敗ととらえ、リラプスへの移行を防ぐための対処スキル訓練の重要性を具体例を交えて記述する。 リラプスプリベンション、ラプス、リラプス、マーラット 20 11,12
ハームリダクションと回復過程の理解 ハーム・リダクションの概要とその成立背景、実際の支援方法について、「abstinent」「control」「予防」などのキーワードを用いながら200字で解説できることが求められる。さらに、依存症からの回復過程における再発リスクと支援の必要性についても触れ、再発を前提とした支援設計の重要性を具体例とともに説明する。 ハーム・リダクション、再発、治療、回復 15 13,14,15
評価方法 期末試験100%
評価基準 評語
    学習目標をほぼ完全に達成している・・・・・・・・・・・・・ S (100~90点)
    学習目標を相応に達成している・・・・・・・・・・・・・・・ A (89~80点)
    学習目標を相応に達成しているが不十分な点がある・・・・・・ B (79~70点)
    学習目標の最低限は満たしている・・・・・・・・・・・・・・ C (69~60点)
    学習目標の最低限を満たしていない・・・・・・・・・・・・・ D (60点未満)
教科書 講義までに配布される文字教材を教科書として使用する。
参考文献 各回で提示。
実験・実習・教材費 各回で提示。