区分
水域フィールド科目
ディプロマ・ポリシーとの関係
カリキュラム・ポリシーとの関係
カリキュラム全体の中でのこの科目の位置づけ
フィールド自然学科は、自然と人間が共存できる社会を目指し、科学的知見に基づいた教育と研究をおこなう学科である。陸域・水域・農業の3つの分野について詳しく学ぶとともに、統計データ解析や幅広い教養を育むカリキュラムを編成している。また、柔軟な考え方や実践的な提案力を養うため、学科共通の授業や複数の分野にかかわる授業も設けている。これにより、幅広い視野をもち、さまざまな課題に対応できる人材を育成する。
科目の目的
本科目では海洋生態系および水産の基礎知識を身に着け、更にその関係性についての理解を深め、海洋の自然環境を大切にしながら水産を中心とした海洋生態系サービスの持続的享受に向けた科学的かつ社会的な視点を養うことである。その現状・課題やその対策について理解することを目的とする。海洋は地球規模での気候調整や物質循環に関与し、多様な生態系と膨大な資源を提供しているが、同時に気候変動、資源枯渇、海洋汚染など深刻な課題にも直面している。本科目では、海洋の物理・化学的環境や生態系の基盤的理解を出発点とし、主要な漁業資源や養殖、水産科学の基礎を学ぶ。また、水産業の現状、水産生物、国際漁業制度、さらには加工・流通・社会文化との関わりまでを体系的に取り扱う。これにより、受講者は海洋科学と社会科学を融合させて水産業を総合的に捉える視野を獲得し、現代社会における持続可能性の課題に主体的に向き合う力を育成することを目指す。
到達目標
本科目は、海洋の地球システムにおける役割を理解し、人類社会との相互関係を多角的に把握する力を養うことである。具体的には、まず海洋の物理的・化学的環境や生態系の基礎構造を理解し、それらが水産資源や漁業にどのように影響するかを説明できるようになることを目指す。また、日本や世界の水産業の現状を理解し、浮魚類や底魚類、無脊椎動物など主要な水産生物の生態を理解し、資源管理や持続可能な利用に関する科学的知識を身につける。さらに、水産の歴史、養殖の科学的側面、沿岸生態系の機能、国際漁業や資源管理制度、加工・流通・フードシステムといった水産業の幅広い領域を学ぶことで、自然科学と社会科学の両面から水産業を総合的に捉える力を養成する。最終的には、気候変動や海洋汚染など現代社会の環境課題を背景に、持続可能な水産のあり方を自ら考察し、ブルーエコノミーや社会・文化的視点を含めた実践的な提案を行うことができるようになることを到達目標とする。
科目の概要
本科目は海と水産に関する知識を広く学び、海の環境を大切にしながら、魚介類などの海の恵みを将来にわたって利用する方法を科学的かつ社会的な視点をもって考える力を養うことを目的とする。第1回では海洋の重要性と持続可能性を概観し、第2~7回では物理・化学環境や生態系の基礎を学ぶ。第8~10回では水産の歴史と現状、水産生物の生態や沿岸生態系と漁業との関係を扱い、第11回以降は、国際漁業と資源管理、水産養殖、水産と海洋環境問題、水産加工・流通から社会・文化的側面までを包括的に学習する。最終回では、これらの知識を統合し、サステナビリティやブルーエコノミーの視点から水産業の未来と人類社会の持続的発展について議論する。全体を通じて、科学的理解と社会的課題を関連づけ、海洋資源の持続可能な利用に向けた総合的な視野を養うことを目指す。
科目のキーワード
① 地球システム、②海洋生態系、③水産資源管理、④持続可能性(サステナビリティ)、④ブルーエコノミー⑤環境変動
授業の展開方法
独自の教材を中心に講義展開を行う
オフィス・アワー
三瓶真:【前期】
地球環境学火曜3・4限
基礎ゼミナールⅠ木曜5限
【後期】
海洋と水産の科学月曜5限
海洋学演習金2限・5限
基礎ゼミナールⅡ火曜4・5限
中島琢自:※指定時間以外に希望する場合、時間を調整するのでメールなどでご連絡ください。
【前期】
環境と微生物
基礎ゼミナールⅠ
微生物利用学
全科目:火曜1限、水曜昼~5限、木曜2限、金曜4限
【後期】
地域産業学
基礎ゼミナールⅡ
基礎微生物学演習
全科目:月曜5限、火曜1限、木曜4・5限、金曜4限
吉田弥生:【前期】
自然共生社会
基礎ゼミナールⅠ
海の大型動物生態学
全科目:月曜~金曜の5限
【後期】
動物行動観察演習A・B
基礎ゼミナールⅡ
環境共生型社会のデザイン
動物行動学
全科目:月曜~金曜の5限
科目コード
TE2030
学年・期
1年・後期
科目名
海洋と水産の科学
単位数
2
授業形態
講義
必修・選択
選択
学習時間
前提とする科目
展開科目
関連資格
担当教員名
三瓶真・中島琢自・吉田弥生
回
主題
コマシラバス項目
内容
教材・教具
1
イントロダクション:海洋と人類
科目の中での位置付け
本科目は海と水産に関する知識を広く学び、海の環境を大切にしながら、魚介類などの海の恵みを将来にわたって利用する方法を科学的かつ社会的な視点をもって考える力を養うことを目的とする。第1回では海洋の重要性と持続可能性を概観し、第2~7回では物理・化学環境や生態系の基礎を学ぶ。第8~10回では水産の歴史と現状、水産生物の生態や沿岸生態系と漁業との関係を扱い、第11回以降は、国際漁業と資源管理、水産養殖、水産と海洋環境問題、水産加工・流通から社会・文化的側面までを包括的に学習する。本コマは第1回目の講義であり、本科目を学ぶ上での土台となる海洋について、地球システムにおける重要性、人類社会による海洋資源の利用、その際に起こっている問題・課題について概観する。
オリジナル解説教材
コマ主題細目
① 地球システムにおける海洋の役割 ② 人類社会と海洋資源の利用 ③ 現代社会における課題と持続可能性
細目レベル
① ① 地球システムにおいて、海洋は気候、地球上の水循環について重要な役割を担っている。気候調節機能について、海洋は巨大な熱貯蔵庫として機能し、太陽からの熱を吸収・再分配することで、地球全体の気温を安定させている。暖流と寒流からなる海流は、熱エネルギーを赤道から極地へと運び、世界中の気候を穏やかに保っている。また、海洋は二酸化炭素の最大の吸収源であり、大気中の温室効果ガス濃度を調節し、地球温暖化を緩和する役割を果たしている。地球上の水循環については、海洋は水循環の起点・終点であり、太陽エネルギーによって蒸発した海水は、雲を形成し、降水となって陸地に水をもたらす。これにより、陸上の生態系や人間の活動に必要な淡水が供給される。そして降水として陸地に降り注いだ水は川に集まりまた一部は地下水脈を通して海に流れ着く。これらの役割を通じて、海洋は地球全体が生命を維持できる環境を保つために重要な役割を果たしている。
② ② 人類社会は、食料、エネルギー、医薬品、輸送手段など、多岐にわたる面で海洋資源を利用している。海洋は、魚介類、海藻、甲殻類など、人類にとって不可欠なタンパク源と栄養・医薬品の原料を提供してた。そのため、世界の水産物消費量は増加の一途をたどり、新興国の経済発展等により需要が拡大してる。しかし、この需要の増加は、乱獲や違法漁業により、多くの魚種で資源枯渇が懸念されており、持続可能な漁業の推進が急務である。また、海底には、石油、天然ガス、メタンハイドレートなどのエネルギー資源やマンガン、銅、コバルトといった希少金属も埋蔵されており、採掘や採掘のための技術開発が進められている。しかし、これらの開発は海洋汚染や生態系破壊のリスクを伴っている。更に、海洋は、国際貿易の80%以上を担う重要な輸送路であり、巨大なコンテナ船が行き交い、世界の物流を支えている。しかし、船舶から排出される温室効果ガスやバラスト水による生態系への影響も問題となっている。
③ ③ 現代社会における水産をはじめとする海洋利用には、深刻な課題が山積している。その中でも大きな問題の一つが乱獲である。世界的な水産物需要の増加に応えるために、科学技術の進歩に伴い漁獲能力を飛躍的に向上させてきた結果、多くの魚種が持続可能な水準を超えて漁獲され、資源の枯渇が懸念されている。これは、食料供給の安定性だけでなく、海洋生態系全体のバランスを崩す原因となり、健全な海洋環境および水産資源の持続性にとっても大きな問題となる。また、プラスチックごみ(マイクロプラスチックを含む)や化学物質の流入などによる海洋汚染も海の景観や海洋生物の生息環境の悪化をもたらしている。これらの課題を解決し、海洋利用の持続可能性を確保するためには、国際的な協力が不可欠であり、例えば、漁獲量管理の厳格化、違法・無報告・無規制(IUU)漁業の撲滅、海洋保護区の拡大、そしてプラスチックごみ削減に向けた各国の協調的な取り組みが求められる。消費者レベルでも、MSC(海洋管理協議会)認証やASC(水産養殖管理協議会)認証のような持続可能な漁業で獲られたもしくは養殖業で生産された水産物を選ぶなど、意識的な行動が重要となる。これらの対策を通じて、人類と海洋が共生できる未来を築く必要がある。
キーワード
① 地球システム ② 海洋文化 ③ ブルーエコノミー
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
予習:コマシラバスおよび関連する資料を読んでおく。復習:今回の講義の次の三つのポイントを復習し、それぞれについて3分程度で説明できるようにする。一つ目のポイントは、地球環境の生命維持装置である海洋について。二つ目は、人類社会は食料・資源・輸送など多面的に海洋を利用しているが、その持続可能性と環境保全が大きな課題となっていることについて。三つ目は、持続可能な海洋利用のためには、乱獲や汚染を防ぎ、国際協力と消費者の意識改革によって人類と海洋の共生を実現することが求められるについて。
2
海洋環境の特徴:陸上環境との比較
科目の中での位置付け
本科目は海と水産に関する知識を広く学び、海の環境を大切にしながら、魚介類などの海の恵みを将来にわたって利用する方法を科学的かつ社会的な視点をもって考える力を養うことを目的とする。第1回では海洋の重要性と持続可能性を概観し、第2~7回では物理・化学環境や生態系の基礎を学ぶ。第8~10回では水産の歴史と現状、水産生物の生態や沿岸生態系と漁業との関係を扱い、第11回以降は、国際漁業と資源管理、水産養殖、水産と海洋環境問題、水産加工・流通から社会・文化的側面までを包括的に学習する。本コマは第2回目の講義であり、本科目を学ぶ上での土台となる海洋について、その特徴について分かりやすく陸上と比較して概観する。
オリジナル解説教材
コマ主題細目
① 水と大気の物性の違い ② 温度環境の均一性と安定性 ③ 生物のサイズや現存量の違い
細目レベル
① 水と大気の物性の違いは、主に密度、比熱、粘性の3点に集約され、これらの物理的特性の差が、地球上の環境や生物の活動に大きな影響を与えてる。水は空気よりもはるかに密度が高く、標準的な条件下では水の密度は約1000kg/m3であるのに対し、空気の密度は約1.2kg/m3と、約830倍も水の密度のほうが高い。この密度の違いが、水の浮力や抵抗力の大きさを生み出している。水中の生物は、この高い密度のおかげで重力の影響を軽減でき、浮力を利用して体を支えているが、陸上の生物は重力に抵抗するため、頑丈な骨格や筋肉を発達させる必要がある。また、水の粘性は空気よりも約50倍も高く、この高い粘性のため水中を移動する生物は大きな抵抗を受ける。そのため、多くの海洋生物は、抵抗を減らすために流線型の体形に進化してきた。比熱は物質の温度を1℃上げるのに必要な熱量を表し、水の比熱は空気の約4倍である。このため、水は温まりにくく冷めにくいという性質を持ち、海洋は大量の熱を蓄えることができるため、陸地に比べて温度変化が緩やかで、生物にとって安定した環境を提供しするとともに、海流は太陽から得た熱を地球全体に輸送し、気候の安定化に貢献している。
② 海洋環境は陸上環境に比べて、温度がより均一で安定しているという大きな特徴があるが、これは水の比熱と地球規模の循環という二つの主要な要因によってもたらされる。水の比熱は空気の約4倍と非常に大きく、これは水を温めるのに多くのエネルギーが必要であることを意味し、この高い比熱のおかげで、海洋は陸上に比べて急激な温度変化が起こりにくい。陸上では、砂漠のように昼夜の気温差が数十度に達する場所もあるが、海ではそのような極端な変化はほとんど見られない。海洋は太陽から受けた熱エネルギーを大量に蓄積し、これをゆっくりと放出する「熱の貯蔵庫」として機能している。この安定性が、多くの海洋生物が温度変化に対する強い適応能力を持たずとも生存できる理由の一つになっている。また、陸上環境が地域や季節によって気温が大きく異なるのに対し、海洋は海流という大規模な水の循環システムによって、熱が地球全体に効率的に運ばれている。これにより、寒冷域の冷たい海水が暖かい海域に運ばれたり、その逆で、赤道付近の暖かい海水が寒冷域に運ばれたりすることにより、海洋全体の温度を比較的均一に保つ役割を果たしている。この循環がなければ、地球の気候はより不安定になり、生物の生息環境は一層過酷なものとなる。ただし、この均一性は主に水平方向に言えることであり、垂直方向には光の減衰や水圧の変化によって、表層と深海で大きな温度差が存在する。
③ 海洋と陸上環境を比較すると、生物のサイズや現存量には顕著な差が見られる。まずサイズに関しては、海洋にはシロナガスクジラに代表されるように、地球上で最大級の動物が存在する。これは水の浮力が重力の制約を和らげ、巨大な体を支えることを可能にするためである。一方、陸上では自重を支える必要があるため、ゾウなど大型種にも限界があり、最大サイズは海洋ほどには達しない。しかし、海洋では陸上環境と比較して圧倒的に生物の体を構築する原料が不足しているため、数マイクロメートルから数十マイクロメートルの小型の植物である植物プランクトンが優占する。生物の現存量を比較すると、陸上(約470GtC:その約9割以上は数センチから数十メートルの草本や樹木)では海洋(約6~7GtC:その約5割以上が)の約70~80倍となっている。しかし、植物の生産量である1年あたりの基礎生産量で比較すると海洋では45-55PgCyr-1、陸上では55~65 PgCyr-1となっており、ほぼ変わらない値を示している。つまり、海洋は「少ない現存量で高い生産を維持できるシステム」であり、これは微小なプランクトン群集の高速なターンオーバーによって可能になっている。一方、陸上は「大量のバイオマスを保持する代わりに回転速度が遅い」仕組みで、両者は対照的な現存量‐生産量関係を示している。
キーワード
① 地球環境の安定性 ② 生物の生息環境 ③ 生物のサイズと現存量
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
予習:コマシラバスおよび関連する資料を読んでおく。復習:今回の講義の次の三つのポイントを復習し、それぞれについて3分程度で説明できるようにする。一つ目のポイントは、水と空気の密度・粘性・比熱の違いは、生物の形態や活動、そして地球環境や気候の安定性に大きな影響を与えていることについて。二つ目は、海洋は高い比熱と大規模な循環により温度を安定・均一に保ち、地球の気候と生物の生息環境を支えているについて。三つ目は、海洋は浮力により巨大生物を生みつつ少ない現存量で高い生産性を保ち、陸上は大量のバイオマスを蓄えながら低回転で維持するという対照的な特徴をもつことについて。
概要:海洋の地球環境における役割と人類社会との関わりを概観。
3
海洋の物理環境1
科目の中での位置付け
本科目は海と水産に関する知識を広く学び、海の環境を大切にしながら、魚介類などの海の恵みを将来にわたって利用する方法を科学的かつ社会的な視点をもって考える力を養うことを目的とする。第1回では海洋の重要性と持続可能性を概観し、第2~7回では物理・化学環境や生態系の基礎を学ぶ。第8~10回では水産の歴史と現状、水産生物の生態や沿岸生態系と漁業との関係を扱い、第11回以降は、国際漁業と資源管理、水産養殖、水産と海洋環境問題、水産加工・流通から社会・文化的側面までを包括的に学習する。本コマは第3回目の講義であり、本科目を学ぶ上での土台となる海洋について、その物理環境について概観する。特に、海水の鉛直構造と光・温度環境および生態系に対する影響について理解する。
オリジナル解説教材
コマ主題細目
① 海水の物理的性質と成層構造 ② 海洋における光条件と生態系への影響 ③ 海水の鉛直混合と物質輸送
細目レベル
① ① 海水の塩分濃度は平均で約35‰(パーミル)であるが、海域や深度によって変動がある。また水温も同様に海域や深度によって変動がある。海水の密度は塩分が高いほど、また温度が低いほど大きくなる。つまり一般的に深いところに存在する海水は塩分が高くて水温が低い傾向を示し、逆に浅いところに存在する海水は塩分が低く水温は高い傾向を示す。海洋は水温の変化に応じて大きく3つの層に分けられ、それぞれの特徴を以下の通りである。1つ目は表層混合層と呼ばれ、水深0〜数十mまでの水深で、風や波によってよくかき混ぜられ、ほぼ均一な水温を示す。2つ目が温度躍層と呼ばれ、表層混合層の下〜数百mの深さまでの水深が深くなるにつれて水温が急激に低下する層。この層の上と下の間で鉛直混合が起きにくく、生物分布の境界にもなり、栄養塩の上下移動が制限される。3つ目が深層と呼ばれ、数百m以深、海底までの水深を指す。水温はほぼ一定で0〜4℃程度の低温を示す。海洋が成層化する原因は、水温の違いの他に塩分の違いもある。この水温と塩分が同時に影響して海水の密度が決まるため、その結果、深さによって異なる密度の層が形成され、上下の水塊の混ざり合いが抑制される。このような理由により、一次的あるいは局地的に水温の低い海水が水温の高い海水よりも浅い層に存在する現象がみられることもある。
② 海洋における光環境は、植物プランクトンやコンブ・ワカメなどの大型藻類といった基礎生産者の生育範囲を規定する重要な要因である。これら基礎生産者は食物連鎖の土台になるので、光条件は海洋生態系の成立と維持を支える基盤的な環境要素と位置づけられる。太陽光は水面から海中に入射すると、波長(光の色)ごとに吸収や散乱を受け、その透過度は大きく異なる。赤色光は数メートルで消失し、橙や黄色も比較的浅い水深で弱まる。一方で青色や緑色はより深くまで届き、最終的に海中に残る光は青緑色が主体となる。このため、光合成に利用できる光が届く範囲は有光層(euphotic zone)と呼ばれ、一般に水深100〜200メートル程度までとされる。ただし、この深さは地域や環境条件によって変動し、透明度の高い熱帯外洋では200メートル以上に達することもある。逆に濁度が高い沿岸域や高緯度海域では、有光層が数十メートルに限られる場合もある。有光層の下には、光は届くが光合成に十分でない薄光層(disphotic zone)、さらに全く光が届かない無光層(aphotic zone)が広がる。また、光環境は海洋の動物にも直接的に様々な影響を及ぼす。例えば、太陽光は 動物の行動リズムに影響を及ぼし、昼夜周期 や 季節変化 を通じて生物の行動(回遊、産卵、摂食など)を調整する。また、太陽光に含まれる 紫外線 (UV) は生物に有害となる場合があり、DNA損傷、成長阻害、プランクトンの死亡率増加などが知られている。
③ 海水の鉛直混合と物質輸送は、海洋の物理過程・化学環境・生態系の維持に不可欠な役割を担っている。海水は鉛直方向に密度成層を持ち、表層は日射や風応力の影響を強く受ける一方、深層は温度や塩分の変化が小さく、安定した状態にある。このため、両者をつなぐ鉛直混合の強弱が、栄養塩や酸素、二酸化炭素などの物質循環を大きく左右する。鉛直混合の主要な駆動要因として、風応力による乱流混合、月の引力によって生じる潮汐のエネルギーが元になる乱流混合、対流(海水の密度の違いによっておこる循環流)による鉛直循環が挙げられる。風によって表層に生じる乱流は表層混合層を形成し、ここでは温度や塩分が均一化される。また、冬季には表層の冷却によって密度が増加し、対流混合が進行して栄養塩を深層から表層へ供給する。これが春の植物プランクトンブルーム(大増殖)が起こる要因の一つとなる。一方、成層が強い夏季には鉛直混合が抑制され、表層での栄養塩枯渇が進み、植物プランクトンの生産が抑制される。海水の鉛直混合と物質輸送は、物理的なエネルギー供給過程と密度成層構造とのバランスにより決定される。これらのプロセスは、局所的には沿岸生態系の生産性、広域的には地球規模の炭素循環や気候システムに深く関与しているため、その理解と定量化は海洋学における重要課題となっている。
キーワード
① 水温躍層 ② 有光層 ③ 鉛直混合
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
予習:コマシラバスおよび関連する資料を読んでおく。復習:今回の講義の次の三つのポイントを復習し、それぞれについて3分程度で説明できるようにする。一つ目のポイントは、海洋は水温と塩分により密度差が生じて表層混合層・温度躍層・深層に成層し、生物分布や物質循環に大きな影響を与えていることについて。二つ目は、海洋の光環境は基礎生産者の生育範囲と食物連鎖の基盤を決定し、生態系の成立・維持や動物の行動に大きな影響を与えている点について。三つ目は、海水の鉛直混合と物質輸送は、栄養塩や酸素循環を通じて生態系の生産性から地球規模の気候システムまでを支える重要なプロセスであることについて。
4
海洋の物理環境2
科目の中での位置付け
本科目は海と水産に関する知識を広く学び、海の環境を大切にしながら、魚介類などの海の恵みを将来にわたって利用する方法を科学的かつ社会的な視点をもって考える力を養うことを目的とする。第1回では海洋の重要性と持続可能性を概観し、第2~7回では物理・化学環境や生態系の基礎を学ぶ。第8~10回では水産の歴史と現状、水産生物の生態や沿岸生態系と漁業との関係を扱い、第11回以降は、国際漁業と資源管理、水産養殖、水産と海洋環境問題、水産加工・流通から社会・文化的側面までを包括的に学習する。本コマは第4回目の講義であり、本科目を学ぶ上での土台となる海洋について、その物理環境について概観する。特に、海水の流れに焦点を合わせてその重要性について理解する。
オリジナル解説教材
コマ主題細目
① 大規模循環 ② 海流と潮流 ③ 湧昇流・沈降流
細目レベル
① 海洋の大規模循環とは、地球規模で海水が長期的かつ全休規模で広範囲に移動する現象を指し、気候や生態系に決定的な役割を果たしている。これはしばしば「グローバル・コンベヤーベルト」と呼ばれ、深層流と表層流が連動する巨大な循環システムである。その基本原理は、まず水の密度差によって駆動される深層循環にある。水の密度は主に温度と塩分濃度で決まり、これを「熱塩循環」と呼ぶ。たとえば北大西洋高緯度域では、大気による強い冷却や海氷形成に伴う塩分濃縮によって海水が重くなり、深層へ沈み込む。この深層水は大西洋を南下し、南極周辺でさらに改変を受けつつインド洋や太平洋へと拡散する。その流れは数百年から千年規模の時間をかけて緩やかに循環し、やがて湧昇によって再び表層に戻る。この深層循環は、地球規模で熱や炭素を再分配する役割を担い、長期的な気候変動や炭素循環の安定に大きく寄与している。一方、表層循環は主として大気の風によって作られる。海面は常に貿易風や偏西風といった大規模な風に押されており、その影響で海水は広い範囲で一定の流れを生み出す。大きな海盆ごとに円を描くような流れが生じ、それぞれが「環流」と呼ばれる。この環流は暖かい海水を低緯度から高緯度へ運び、逆に冷たい海水を赤道付近へと戻す役割を担う。例えば北大西洋の表層流は、熱帯の暖かい水をヨーロッパ近くまで運び、その地域を比較的温暖に保つ要因となっている。
② 海洋には「海流」と「潮流」という二つの大きな水の動きが存在する。両者は同じく水の流れであるが、その性質と成因は大きく異なっている。海流とは、広い海域にわたって比較的一定の方向と流速を保ちながら長期間にわたって流れる大規模な水の流れを指す。地球規模で見ると、赤道付近の貿易風や中緯度の偏西風など大気の循環が主な要因となり、大洋全体に巨大な循環系を形成している。例えば北太平洋では、赤道から北赤道海流が西に向かい、フィリピン沖で黒潮となって北上し、偏西風の影響で東に向かって北太平洋海流となり、カリフォルニア沖で南下して再び赤道付近へ戻るという大循環を形成する。これらの海流は気候や生態系に大きな影響を与える。例えば暖流である黒潮やメキシコ湾流は周辺地域に温暖な気候をもたらし、寒流であるカリフォルニア海流や親潮は乾燥や冷涼化を促すほか、栄養塩を供給して良好な漁場を形成する要因ともなる。これに対し、潮流とは月や太陽の引力によって引き起こされる潮汐現象に伴って生じる周期的な水の流れのことを指す。つまり、潮の満ち引きに合わせて流向と流速が数時間ごとに変化するのが特徴である。湾口や海峡など地形の制約を受けやすく、日本では鳴門海峡や関門海峡の潮流が有名であり、これらは数ノット以上にも達する激しい流れを生み、船舶にとって航行の難所となる一方、潮流発電の利用対象として注目されている。潮流は海流に比べて局所的で周期性が強く、持続的な方向性を持たない点で明確に区別される。全体的にまとめてみると、海流は主に風による広域的で持続的な流れであり、地球規模の気候や生態系を規定する大きな要素であるのに対し、潮流は天体の引力に起因する周期的かつ局地的な流れであり、航海や発電といった人間の活動に密接に関わる存在である。両者は相互に作用しつつ、地球環境を形づくる重要な要素であるといえる。
③ 湧昇流と沈降流は海水の鉛直方向の大規模な動きを示し、地球規模の物質循環や気候システムに大きな影響を及ぼしており、理解することは地球環境の把握に不可欠である。湧昇流とは、深層にある冷たく栄養塩を豊富に含んだ海水が、何らかの力によって表層へと持ち上げられる現象を指す。代表的な要因として、沿岸での風の作用が挙げられる。たとえば、北半球の西岸では偏西風や貿易風の影響により、エクマン輸送と呼ばれる仕組みで表層水が沖へと運び出されます。すると、その空隙を埋めるようにして深層の水が上昇し、表層に達する。この湧昇流によって、深層に沈んでいた栄養塩類が供給され、植物プランクトンの増殖が促される。の結果、魚類など高次の生物生産が活発化し、ペルー沖やカリフォルニア沖などは世界有数の漁場となっている。湧昇流は「海の肥沃化装置」とも呼ばれ、海洋生態系の基盤を支えている。一方で沈降流とは、表層の海水が何らかの要因で下層へ沈み込む現象を意味する。その発生に最も重要な要因は海水の密度差であり、温度が低下したり塩分が増加したりすることで海水の密度が大きくなると、表層の水は重くなって深層へ沈む。特に有名なのが、北大西洋のグリーンランド沖や南極周辺で発生する「深層水形成」である。冬季の強い冷却や海氷生成による塩分濃縮の影響で密度の高い海水が沈み込み、これが大規模な熱塩循環を駆動する。この循環は地球全体の熱輸送や気候システムの安定化に大きく寄与している。まとめると、湧昇流と沈降流は対をなす現象として、海洋の物質・エネルギー循環に深く関与している。湧昇流は栄養供給を通じて生物生産を活発化させる一方、沈降流は熱や二酸化炭素を深海へ輸送し、地球の気候安定や炭素循環に貢献している。そのため、両者のバランスが崩れると生態系や気候に深刻な影響を及ぼす可能性がある。たとえば、地球温暖化によって北大西洋での沈降流が弱まると、大西洋の熱輸送が停滞し、ヨーロッパの気候や海洋生態系に大きな変化を引き起こすと懸念されている。
キーワード
① 熱塩循環 ② 親潮・黒潮 ③ メキシコ湾流
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
予習:コマシラバスおよび関連する資料を読んでおく。復習:今回の講義の次の三つのポイントを復習し、それぞれについて3分程度で説明できるようにする。一つ目のポイントは、海洋の大規模循環は、深層の熱塩循環と表層の風成循環が連動して熱や炭素を地球規模で再分配し、気候と生態系を安定させる仕組みであることについて。二つ目は、海流は風により生じる広域的で持続的な流れ、潮流は天体の引力による周期的で局地的な流れであり、いずれも気候・生態系・人間活動に重要な役割を果たしている点について。三つ目は、湧昇流は深層から栄養塩を供給して生物生産を活発化させ、沈降流は熱や二酸化炭素を深海へ輸送して気候を安定化させる海洋循環の要となる現象であることについて。
5
海洋の化学環境
科目の中での位置付け
本科目は海と水産に関する知識を広く学び、海の環境を大切にしながら、魚介類などの海の恵みを将来にわたって利用する方法を科学的かつ社会的な視点をもって考える力を養うことを目的とする。第1回では海洋の重要性と持続可能性を概観し、第2~7回では物理・化学環境や生態系の基礎を学ぶ。第8~10回では水産の歴史と現状、水産生物の生態や沿岸生態系と漁業との関係を扱い、第11回以降は、国際漁業と資源管理、水産養殖、水産と海洋環境問題、水産加工・流通から社会・文化的側面までを包括的に学習する。本コマは第5回目の講義であり、本科目を学ぶ上での土台となる海洋について、その化学環境について概観する。特に、海洋生態系にとっての重要性について理解する。
オリジナル解説教材
コマ主題細目
① 海洋の栄養塩と酸素環境 ② 炭素循環と海洋の役割 ③ 海洋酸性化とその影響
細目レベル
① 植物の基礎生産に必要な栄養塩と生物の呼吸やバクテリアの分解活動に必要な酸素は海洋生態系の成立と維持において不可欠な要素であり、物質循環や生物生産を大きく規定していると言える。栄養塩とは、海洋の植物、特に植物プランクトンの成長に必要な無機態の栄養分の中でも特に不足しがちで、植物の基礎生産を律速する要因となる栄養分を指す。これら栄養塩は、主に窒素(硝酸塩、亜硝酸塩、アンモニウム)、リン(リン酸塩)、ケイ素(ケイ酸塩)がある。植物プランクトンは光合成により有機物を合成し、食物網(食物連鎖)を通じて高次生物へと有機物とエネルギーを伝達するが、自然環境下ではその生産力はしばしば栄養塩濃度によって制限される。特に外洋表層では栄養塩が枯渇しやすく、基礎生産が低く抑えられているのに対し、沿岸域や湧昇域では栄養塩供給が豊富で高い基礎生産が見られる。栄養塩の分布は鉛直的にも特徴的である。表層海域は光が届き、植物プランクトンが活発に光合成を行うために、栄養塩を消費し尽くすため栄養塩濃度は低い。一方、表層以深の中深層では有機物の沈降に伴い分解が進むことで栄養塩が再生産され、濃度が高くなる。このため、深層水は栄養塩に富む傾向があり、その栄養塩が豊富な深層水が湧昇流や混合を通じて再び表層に供給されることで、基礎生産力を高め、生態系の生産性を維持する重要なプロセスが成立している。酸素環境について見ていくと、海水中の酸素は大気からの溶解と光合成によって供給される。一方で、呼吸や有機物分解に伴い消費されるため、酸素分布は栄養塩と同様に鉛直的な偏りを示す。表層は光合成と大気との交換によって酸素に富むが、中深層では有機物分解による消費が大きく、酸素極小層が形成される。酸素極小層の存在は生物群集構造に影響を与え、好気性生物の生息を制限する一方、嫌気的代謝を行う微生物にとっては重要な生息場となる。近年では地球温暖化に伴う海洋表層の成層強化や酸素溶解度の低下によって、酸素極小層の拡大が懸念されており、これは漁業資源にとってもネガティブな影響を及ぼすことが懸念されている。
② 炭素循環とは、炭素が大気・海洋・陸域生態系・岩石圏の間を移動する仕組みのことであり、特に温暖化ガスである二酸化炭素の隔離に関して理解を深めるために重要になる。その中で海洋は、地球最大の炭素貯蔵庫として、全体の約8割から9割の炭素を蓄えているとされる。大気中の二酸化炭素は海面で溶解し、物理的ポンプ(溶解ポンプ)によって表層から深層へと輸送される。これは、低温・高圧の深層ほど二酸化炭素が溶けやすい性質だからであり、海洋循環によって数百年から千年単位で炭素が隔離される。また、植物プランクトンによる光合成は大気中の二酸化炭素を吸収し、基礎生産により有機物を生産する。この有機物の一部は食物連鎖を通じて利用・消費され二酸化炭素として排出されるが、一部は「生物ポンプ」によって海底方向へ沈降し、深海に炭素を隔離する。これにより、海洋は地球温暖化を緩和する「炭素シンク」として機能している。
③ 海洋酸性化とは、大気中の二酸化炭素が増加し、それが海水に溶け込むことで海水のpHが低下する(酸性に傾く)現象を指す。産業革命以降、大気中の二酸化炭素濃度は急速に上昇し、海洋は人間活動由来の二酸化炭素の約3割を吸収してきた。その結果、表層海水のpHは過去200年で約0.1低下した。酸性化が進むと、炭酸カルシウムの飽和度が低下し、サンゴ・貝類・有孔虫など殻や骨格を炭酸カルシウムで形成する生物が成長しにくくなる。また、殻の溶解も進み、生存率や繁殖率の低下を引き起こす。さらに、プランクトン群集の構造変化は食物網全体に影響を及ぼし、水産資源の減少にもつながる可能性がある。加えて、サンゴ礁の衰退は生物多様性の損失や沿岸防護機能の低下を招き、人間社会にも深刻な影響を与える。海洋酸性化は地球温暖化と並ぶ「もう一つの二酸化炭素問題」として注目されており、将来の気候変動や生態系の持続性・漁業への影響を考える上で極めて重要な課題である。
キーワード
① 栄養塩、酸素極小層 ② 炭素循環、生物ポンプ ③ 海洋酸性化、炭酸カルシウム
コマの展開方法
社会人講師
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ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
予習:コマシラバスおよび関連する資料を読んでおく。復習:今回の講義の次の三つのポイントを復習し、それぞれについて3分程度で説明できるようにする。一つ目のポイントは、栄養塩と酸素は海洋における物質循環と基礎生産を支える不可欠な要素であり、その鉛直分布や変動が生態系の構造と機能を大きく左右していることについて。二つ目は、海洋は物理ポンプと生物ポンプを通じて炭素を深層に隔離し、地球最大の炭素シンクとして温暖化緩和に重要な役割を果たしている点について。三つ目は、海洋酸性化は二酸化炭素吸収により海水のpHが低下し、炭酸カルシウムを利用する生物や生態系・漁業に深刻な影響を及ぼす地球規模の環境問題であることについて。
6
海洋生態系の基礎1
科目の中での位置付け
本科目は海と水産に関する知識を広く学び、海の環境を大切にしながら、魚介類などの海の恵みを将来にわたって利用する方法を科学的かつ社会的な視点をもって考える力を養うことを目的とする。第1回では海洋の重要性と持続可能性を概観し、第2~7回では物理・化学環境や生態系の基礎を学ぶ。第8~10回では水産の歴史と現状、水産生物の生態や沿岸生態系と漁業との関係を扱い、第11回以降は、国際漁業と資源管理、水産養殖、水産と海洋環境問題、水産加工・流通から社会・文化的側面までを包括的に学習する。本コマは第6回目の講義であり、本科目を学ぶ上での土台となる海洋について、その海洋生態系について概観する。特に、プランクトンから高次捕食者までの食物網について理解する。
オリジナル解説教材
コマ主題細目
① 基礎(一次)生産とプランクトン群集 ② 動物プランクトンから捕食者まで ③ 高次捕食者と食物網のダイナミクス
細目レベル
① 基礎生産とは、生態系において一次生産者が無機的な炭素を有機物へと固定する有機物生産を指す。海洋では主に植物プランクトンが光合成により二酸化炭素を有機炭素に変換し、その生成物が動物プランクトンや魚類へと伝達される。こうした一次生産は食物網全体の基盤を成し、生態系の物質循環やエネルギー循環における中心的役割を担っている。プランクトン群集は大きく植物プランクトンと動物プランクトンに分けられる。植物プランクトンには珪藻、渦鞭毛藻、緑藻、シアノバクテリアなどが含まれ、光量、水温、栄養塩条件によって群集組成は大きく変動する。温帯域では春季に水柱の安定化と光量増加を背景に珪藻がブルームを形成し、短期間に大量の一次生産を行う。一方、貧栄養で成層が強い亜熱帯海域では、小型藻類やシアノバクテリアが優占し、低いながらも持続的な生産を維持する。
② 植物プランクトンによって生産された有機物は、まず動物プランクトンに摂取される。動物プランクトンは、主に甲殻類(カイアシ類やアミ類)、クラゲ類、また小型の魚類幼生など多様な群を含む。彼らは植物プランクトンなどを摂食して成長し、基礎生産で生み出された物質やエネルギーを高次の栄養段階へと橋渡しする存在である。特に海洋におけるカイアシ類は、植物プランクトンの生産量を効率的に取り込み、小型魚類や大型動物にエネルギーを供給する要の役割を担う。動物プランクトンを摂食するのは、小型魚類や稚魚、イカ類、クラゲ類などである。ニシン、カタクチイワシ、サンマといった群泳性の小型魚は、動物プランクトンを主食としながら急速に生物量を増加させる。その結果、これらの小型魚類は多くの中型・大型捕食者にとって重要な餌資源となる。水産業の観点からも、この段階でのエネルギー変換効率は資源量や漁獲高に直結するため、特に注目されている。
③ さらに上位の捕食者としては、大型魚類(マグロ、カツオ、サバなど)、海鳥、哺乳類(クジラ、アザラシ、イルカ)が存在する。これらは広い行動圏をもち、食物網の物質やエネルギーを集約して利用する。彼らは基礎生産から始まる物質やエネルギーの流れの「受け手」であると同時に、生態系のバランスを調整する重要な存在でもある。彼らは高次栄養段階に位置するため、基礎生産の変動や下位栄養段階の個体群動態が遅れて反映される「トップダウン」「ボトムアップ」両方向の影響を受けやすい。まず「ボトムアップ効果」として、植物プランクトンや動物プランクトンの量が増えると、小型魚類が増え、それを食べる上位捕食者も豊かになる。逆に基礎生産が低下すれば、その影響は最上位まで連鎖して個体数が減少する。一方「トップダウン効果」として、上位捕食者が小型魚類を多く食べると、動物プランクトンへの捕食圧が下がり、プランクトン量が増えるなどの連鎖(栄養段階カスケード)が起こる。さらに、上位捕食者は広い海域を回遊するため、局所的な食物網を越えて物質やエネルギーをつなぎ合わせる役割も持つ。加えて、人間による上位捕食者に対する乱獲で捕食者が減少すると、小型魚が増えすぎて下位段階の構造が崩れる可能性もある。要するに、上位捕食者は「食物網の頂点」ではなく、上下の階層をつなぎ、生態系の安定性を左右する存在である。
キーワード
① 基礎生産、植物プランクトン ② 動物プランクトン、エネルギーの橋渡し ③ 上位捕食者、栄養段階カスケード
コマの展開方法
社会人講師
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小テスト
毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
予習:コマシラバスおよび関連する資料を読んでおく。復習:今回の講義の次の三つのポイントを復習し、それぞれについて3分程度で説明できるようにする。一つ目のポイントは、基礎生産とは植物プランクトンが二酸化炭素を有機物に変換して食物網の基盤を形成し、海洋生態系の物質・エネルギー循環を支える過程であることについて。二つ目は、動物プランクトンは植物プランクトン由来の有機物を取り込み、小型魚類などへとエネルギーを橋渡しすることで海洋食物網の要を担っている点について。三つ目は、上位捕食者は物質とエネルギーの流れを集約しつつ上下の栄養段階をつなぎ、生態系の安定性を調整する重要な存在であることについて。
7
海洋生態系の基礎2と海洋環境の概要まとめ
科目の中での位置付け
本科目は海と水産に関する知識を広く学び、海の環境を大切にしながら、魚介類などの海の恵みを将来にわたって利用する方法を科学的かつ社会的な視点をもって考える力を養うことを目的とする。第1回では海洋の重要性と持続可能性を概観し、第2~7回では物理・化学環境や生態系の基礎を学ぶ。第8~10回では水産の歴史と現状、水産生物の生態や漁業資源と生態系との関係を扱い、第11回以降は、国際漁業と資源管理、水産養殖、水産と海洋環境問題、水産加工・流通から社会・文化的側面までを包括的に学習する。本コマは第7回目の講義であり、前回に引き続き海洋生態系について概観する。特に海洋生態系の地理的な違いについて理解する。また、本科目を学ぶ上での土台となる海洋の基礎に関する知識固めを行う。
オリジナル解説教材
コマ主題細目
① 海洋生態系の地理的な違い ② 海洋の物理・化学的な特徴 ③ 海洋の物理・化学的特徴が海洋生物に及ぼす影響
細目レベル
① 沿岸域の生態系は、外洋に比べて環境条件が複雑で変動が大きい一方、その豊かな生産力と高い生物多様性によって特徴づけられる。物理的条件として沿岸は陸域からの影響を強く受け、河川から淡水・土砂・栄養塩・有機物が流入する。さらに潮汐や波浪、季節的な気温変化により、水温・塩分・濁度が大きく変動する。この変動性は生物にとって厳しい環境条件となる一方、多様な適応をもつ種が集まる要因となり、生物多様性の高さにつながる。沿岸域では浅海域まで光が届くため、海草や大型褐藻・紅藻などの底生光合成生物が群落を形成し、安定的に有機物を生産する。これに加え、植物プランクトンも陸域由来や沿岸湧昇などによって栄養塩供給を受けやすく、沿岸の一次生産力は外洋を大きく上回る。海草藻場、マングローブ林、干潟、サンゴ礁などは生物の生息場・育成場として重要であると同時に、「ブルーカーボン生態系」として大気中の二酸化炭素を吸収・固定し、気候変動緩和にも寄与する。一方、外洋域の生態系は広大で比較的安定した環境の中で展開され、塩分や温度の変動は沿岸に比べて小さい。さらに外洋表層は陸域からの栄養塩供給を受けにくく、一般に栄養塩が乏しいため、基礎生産者は主に植物プランクトンに限られる。栄養塩が比較的豊富な海域では珪藻が優占し、貧栄養海域ではシアノバクテリアやピコプランクトンが生産の中心を担う。ただし湧昇域や海洋前線域では深層から栄養塩が供給され、プランクトンが増殖して高い生産性を示し、漁業資源の豊かな漁場を形成する。外洋では沿岸のような複雑な生息環境に支えられた食物網というより、広大で比較的均質な水塊を大型回遊生物が移動しながら利用する点が特徴である。人間活動の影響は沿岸ほど直接的ではないが、乱獲による資源減少、船舶交通による騒音・汚染、プラスチックごみの拡散などは深刻化している。また緯度帯による特徴として、熱帯・亜熱帯では環境が比較的安定し、生物多様性の高い生態系が形成されやすい。これに対して温帯・寒冷帯では四季変動が大きく、それに応じて生産構造が変化する。春〜夏には栄養塩供給と日射量増加により植物プランクトンのブルームが発生し、魚類や高次捕食者の生産の基盤となる。総じて、熱帯・亜熱帯は多様で安定した生態系、温帯・寒冷帯は季節変動を基盤とした生産的な生態系として特徴づけられる。
② 海洋は温度・塩分による密度成層(表層混合層―躍層―深層)と光環境(有光層)を基盤として、風・潮汐・対流による鉛直混合や海流・大規模循環、湧昇/沈降といった物理過程によって熱と物質が再分配され、その結果として栄養塩・酸素・炭素の鉛直分布(栄養塩の再生産、酸素極小層)や炭素隔離(物理ポンプ・生物ポンプ)、さらにCO₂吸収に伴う海洋酸性化が規定される。ここでは、復習として、海洋の物理・化学的特徴を総合的に整理する。成層・光・混合(温度・塩分による成層構造(表層混合層・躍層・深層))と光環境(有光層など)を理解し、鉛直混合が物質輸送と生物生産性を左右することを整理する。また、海流・潮流、大規模循環(風成循環・熱塩循環)、湧昇・沈降による熱・栄養塩・炭素の再分配と、漁場形成との関係を概説する。さらには、栄養塩・酸素(酸素極小層など)・炭素循環(物理/生物ポンプ)・海洋酸性化を扱い、生態系・漁業資源・気候への影響を整理する。
③ 洋生物の生態に対して物理・化学・生物環境の影響を受け、それぞれが相互作用を行い海洋生態系が形成される。ここでは、復習として、海洋生物の分布・生産・行動は、成層構造(表層混合層―躍層―深層)と光環境(有光層)により生息可能域が区切られ、さらに風・潮汐・対流による鉛直混合や湧昇/沈降、海流・大規模循環による物質輸送によって規定されることを整理する。具体的には、混合や湧昇が深層の栄養塩を表層へ供給して植物プランクトンの基礎生産(ブルーム)を促し、食物網を通じて高次生物や漁場形成につながる一方、成層強化は栄養塩供給を抑えて生産を低下させる。また、酸素極小層は生物の生息域を制限し群集構造を変化させ、炭素循環(物理ポンプ・生物ポンプ)や海洋酸性化は殻形成生物や生態系、漁業への影響をもたらす点を復習する。
キーワード
① 沿岸域生態系、ブルーカーボン生態系 ② 外洋域生態系、海洋砂漠 ③ サンゴ礁、海氷域生態系 ④ 栄養段階、レッドフィールド比
コマの展開方法
社会人講師
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ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
予習:コマシラバスおよび関連する資料を読んでおく。復習:今回の講義の次の三つのポイントを復習し、それぞれについて3分程度で説明できるようにする。一つ目のポイントは、海洋生態系はその地域(沿岸・外洋、寒冷海域・熱帯海域など)、で異なっており、それぞれの特徴が大きく異なること。二つ目は、海洋の物理・化学的な特徴の理解。三つ目は、海洋の物理・化学的特徴が海洋生物に及ぼす影響について。
8
水産の歴史と現状
科目の中での位置付け
本科目は海と水産に関する知識を広く学び、海の環境を大切にしながら、魚介類などの海の恵みを将来にわたって利用する方法を科学的かつ社会的な視点をもって考える力を養うことを目的とする。第1回では海洋の重要性と持続可能性を概観し、第2~7回では物理・化学環境や生態系の基礎を学ぶ。第8~10回では水産の歴史と現状、水産生物の生態や沿岸生態系と漁業との関係を扱い、第11回以降は、国際漁業と資源管理、水産養殖、水産と海洋環境問題、水産加工・流通から社会・文化的側面までを包括的に学習する。本コマは第8回目の講義であり、これまでに学んだ海洋系の知識を土台にして水産との関係性を学ぶにあたって、水産業の歴史的背景について概観する。
オリジナル解説教材
コマ主題細目
① 水産とは ② 日本の水産業 ③ 世界の水産業
細目レベル
① 水産(業)とは、漁業の事のみを指すのではなく、水域における生物資源を対象とし、それを利用・生産する人間活動およびその産業全般を指す言葉である。具体的には、海や河川、湖沼などに生息する魚類、貝類、甲殻類、海藻などを捕獲・養殖し、食料や原料として利用する営みを中心に展開される。水産の大きな特徴は、自然の恵みである「水産資源」に依存する点にある。漁業はその代表で、沿岸漁業、沖合漁業、遠洋漁業といった形態に分かれる。沿岸漁業は地域社会と密接に結びつき、伝統的な漁法や地元の食文化を支えてきた。一方、遠洋漁業は広大な海域でマグロやカツオなどを対象に行われ、国際的な食料供給や貿易にも大きな役割を果たしている。さらに近年は、天然資源の乱獲や環境変化への対応として、養殖業や栽培漁業の重要性が高まっている。ブリやタイ、サーモンといった魚種の養殖は安定した供給源となり、海藻の養殖は食用のみならず工業原料としても活用されている。また、水産は単なる食料供給にとどまらず、地域経済や文化とも深く関わってる。漁村は独自の生活様式や祭礼を持ち、日本各地の郷土料理や食文化は水産物と密接に結びついている。さらに、加工業や流通業とも連動し、干物、練り製品、缶詰など多様な製品が国内外に供給されている。更には、造船業などの機械産業も関わっている。このように水産業は食卓だけでなく産業構造全体に広がりを持ち、雇用創出や地域振興の基盤にもなっている。
② 日本は領土面積が小さい一方で、四方を海に囲まれ豊かな漁場に恵まれており、漁業は、農業や畜産と並ぶ一次産業の一つとして古来より重要な産業分野として発展してきた。縄文時代の貝塚には多様な魚介類の骨が出土し、古代から海の恵みを食生活の中心に据えていたことがわかる。中世には沿岸漁業が盛んになり、イワシやカツオ、サバなどが干物や塩蔵品として流通した。さらに江戸の町では魚河岸(現在の築地市場の前身)が整備され、魚食文化が大衆に浸透した。近代に入ると、蒸気船や冷蔵技術の普及により漁場は遠洋へ拡大し、明治後期から戦前にかけては北洋漁業や捕鯨が主要産業となった。戦後は高度経済成長とともに水産物の需要が急増し、1970年代には日本の漁獲量が世界一に達した。しかし、1977年の「200海里水域」の設定により、遠洋漁業は大きな制約を受け、日本漁業は縮小を余儀なくされた。現代では、漁獲量は1990年代以降大きく減少しており、1984年に約1300万トンあった漁獲量は、2020年代には約400万トン前後にまで落ち込んでいる。原因には資源の乱獲、地球温暖化による海洋環境の変化、国際的な漁業規制の強化、および漁師の減少が挙げられる。
③ 世界の水産業もまた、古代から人類の食文化と経済を支えてきた。古代エジプトやメソポタミアでは淡水魚の捕獲や養殖が行われ、古代ギリシアやローマでは塩漬け魚や魚醤が広く利用された。また、中世ヨーロッパではカトリックの断食習慣が魚需要を高め、北海やバルト海を中心とするニシン漁が重要な産業となった。更には、大航海時代以降はタラ漁を求めて北米・大西洋へと活動が拡大し、漁業は世界的規模に展開していった。20世紀に入ると、冷凍・缶詰技術や大型漁船の発達により漁業は急成長し、特に戦後は世界の漁獲量が飛躍的に増加した。しかしその結果、多くの魚種で資源が枯渇し、1990年代には国際社会で「持続可能な漁業管理」が重要課題として認識されるようになった。国連海洋法条約(1982年)やFAOの「責任ある漁業の行動規範」(1995年)は、国際的な漁業規制と資源管理の枠組みを整備する契機となった。現在の世界水産業の大きな特徴は「養殖の拡大」である。FAOの統計によれば、1980年代には漁業生産の9割が天然漁獲だったが、21世紀に入り養殖が急速に成長し、2010年代後半には養殖が世界水産物供給の半分以上を占めるに至った。特に中国や東南アジア諸国では淡水魚やエビの養殖、ノルウェーではサーモンの養殖が盛んで世界市場を牽引している。
キーワード
① 裾野の広い産業 ② 200海里水域、漁獲量減少 ③ 持続可能な漁業管理、養殖の拡大
コマの展開方法
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コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
予習:コマシラバスおよび関連する資料を読んでおく。復習:今回の講義の次の三つのポイントを復習し、それぞれについて3分程度で説明できるようにする。一つ目のポイントは、水産業とは、水域の生物資源を漁獲・養殖して利用する営み全般を指し、食料供給だけでなく文化・経済・産業構造に広く関わる基盤的な産業であることについて。二つ目は、日本の漁業は古代から発展し世界一の漁獲量を誇った時期もあったが、200海里規制や乱獲・環境変化・担い手減少により近年は大幅に縮小している点について。三つ目は、世界の水産業は古代から発展し20世紀に急成長したが資源枯渇を招き、現在は国際的な管理の下で養殖が供給の中心へ移行していることについて。
9
外洋・沖合性水産生物(漁業資源)の生態
科目の中での位置付け
本科目は海と水産に関する知識を広く学び、海の環境を大切にしながら、魚介類などの海の恵みを将来にわたって利用する方法を科学的かつ社会的な視点をもって考える力を養うことを目的とする。第1回では海洋の重要性と持続可能性を概観し、第2~7回では物理・化学環境や生態系の基礎を学ぶ。第8~10回では水産の歴史と現状、水産生物の生態や沿岸生態系と漁業との関係を扱い、第11回以降は、国際漁業と資源管理、水産養殖、水産と海洋環境問題、水産加工・流通から社会・文化的側面までを包括的に学習する。本コマは第9回目の講義であり、これまでに学んだ海洋系の知識を土台にして水産の知識を学ぶ。特に沖合性の水産生物の生態について理解する。
オリジナル解説教材
コマ主題細目
① 生活史と回遊 ② 繁殖特性と再生産 ③ 群れ行動と生態系内での役割
細目レベル
① 水産生物の生活史と回遊は、漁業資源の持続的利用を考える上で欠かせない基本的な視点である。生活史とは、卵から成体に至るまでの一生の過程を指し、その各段階で必要とする環境や資源は大きく異なる。多くの魚類や甲殻類は、成長段階ごとに異なる場所や条件を利用するため、資源管理を行う際にはこうした空間的・時間的な変化を理解することが重要となる。代表的な例として、サケ類が挙げられる。サケは淡水河川で孵化した後、稚魚として一定期間を河川で過ごし、その後は海洋へ下りて数年間成長する。そして成熟に達すると、再び母川へ回帰して産卵を行い一生を終える。このような淡水と海水を往復する「両側回遊」は、環境変動や河川環境の改変に敏感であり、ダム建設や水質悪化が回帰を阻害すると、資源量の急激な減少につながる。そのため、サケ資源の管理では河川環境の保全や魚道の設置など、人間活動との調和が重視される。一方で、マイワシ、カツオ、マグロといった回遊魚は、海洋環境の変動に応じて広範囲を移動する。これらは餌生物の分布や水温、潮流などの環境条件を求めて大規模な回遊を行うため、その動向は漁獲量の変動と密接に結びついている。例えばマイワシは、資源が豊富な時期には巨大な群れを形成し、漁業の中心資源となるが、海洋環境が変化すると急激に減少し、数十年単位で豊漁と不漁のサイクルを繰り返すことが知られている。こうした変動は「イワシの大規模変動」として古くから注目されており、海洋環境と資源量の関係を理解するための重要な研究対象となってきた。一方で、マイワシ、カツオ、マグロといった回遊魚は、海洋環境の変動に応じて広範囲を移動する。これらは餌生物の分布や水温、潮流などの環境条件を求めて大規模な回遊を行うため、その動向は漁獲量の変動と密接に結びついている。例えばマイワシは、資源が豊富な時期には巨大な群れを形成し、漁業の中心資源となるが、海洋環境が変化すると急激に減少し、数十年単位で豊漁と不漁のサイクルを繰り返すことが知られている。こうした変動は「イワシの大規模変動」として古くから注目されており、海洋環境と資源量の関係を理解するための重要な研究対象となってきた。また、回遊には沿岸から沖合へ、あるいは南北方向への季節的な移動も含まれる。カツオは春から夏にかけて黒潮に沿って北上し、秋には再び南下する。この季節回遊は日本の漁業において「初ガツオ」「戻りガツオ」として文化的にも重要な意味を持ち、漁業経済や地域社会の営みに深く結びついている。こうした回遊パターンを理解することは、漁期や漁場の設定に直結する。生活史と回遊の知見は、単に漁獲効率を高めるためだけでなく、資源の持続性を守るために不可欠である。どの段階で漁獲圧を加えると資源に大きな影響を及ぼすのか、どの海域を保護すべきかといった判断は、生活史の理解なしには成り立たない。例えば産卵場や稚魚の生息場を保護することは次世代資源を確保する上で重要であり、禁漁期や海洋保護区の設定根拠となる。また、気候変動による海水温の上昇や海流の変化は、回遊経路や分布域を大きく変化させる可能性があり、その影響を予測するためにも生活史と回遊の理解は欠くことができない。
② 魚類に特徴的なのは「多産型」の繁殖戦略である。多くの海産魚は、一度の産卵で数十万から数百万の卵を放出する。これは外敵や環境変動による死亡率が高いため、数の多さによって次世代を残す戦略である。しかし大量に卵を産んでも、その大部分は初期生活段階で死滅し、生き残れるのはごくわずかである。卵や仔魚の生残率は、海水温やプランクトンの発生状況、捕食者の存在など外部環境に大きく左右されるため、資源量の変動を理解するには環境条件との関係を把握することが欠かせない。一方、エビやカニといった甲殻類は、雌親が卵を体外に抱え込み、一定期間保護したのちに幼生を放出する。この方法は卵の数こそ魚類に比べて少ないが、卵や幼生の生存率を高める効果がある。また、イカやタコなどの頭足類では、親が産卵後に卵塊を守るなどの行動も見られる。このように繁殖様式には違いがみられ、種の多様性を維持する要因の一つになっていると考えられる。また、繁殖特性は漁業の影響を強く受ける。大きな個体ほど多くの卵を産むことが多いため、大型魚を優先的に漁獲すると再生産能力が低下し、資源が回復しにくくなる。これを防ぐために、産卵期の禁漁や産卵場の保護、漁獲サイズの制限などが導入されることがある。こうした管理措置は、次世代の加入量を確保する上で極めて重要である。
③ 水産生物は単独で存在するのではなく、生態系の中で捕食者・被食者として相互に影響を与え合いながら生存している。その中でもマイワシやサンマ、イワシ類、ニシンなどの小型浮魚は、海洋生態系において特に重要な役割を担う。これらは植物プランクトンや動物プランクトンを餌としながら急速に成長し、同時にマグロ類やカツオ、サメ、さらには海鳥や海洋哺乳類など多くの高次捕食者にとって主要な餌資源を提供する。つまり、小型浮魚は「中間栄養段階」として食物網をつなぐ存在であり、資源量の変動は生態系全体の安定性に直結する。このような小型浮魚は、群れを形成することで生き残り戦略を発揮する。数万から数億尾単位で行動する群れは、外敵からの捕食圧を分散させ、個体ごとの死亡リスクを下げると同時に、効率的な採餌を可能にする。群れは環境条件に応じて形や密度を変化させ、捕食回避やエネルギー節約の機能を果たすことが知られている。しかし、この群れ行動は人間の漁業活動にとっては逆に「漁獲しやすさ」を高める要因となる。ソナーや魚群探知機を用いた現代漁業は、群れの存在を容易に捉えることができ、まさに一網打尽の漁獲が可能となる。その結果、資源量が急激に減少する危険性をはらんでいる。実際、マイワシ資源は過去数十年の間に大規模な変動を繰り返してきた。1970年代から80年代にかけては豊漁期を迎え国内外の漁業を支えたが、1990年代に入ると環境条件の変化や漁獲圧の影響によって急激に資源量が減少した。このような大規模変動は「イワシの興亡」とも呼ばれ、漁業経済や地域社会に甚大な影響を与えてきた。群れ魚類の資源は環境変動に敏感である一方、人間活動によって減耗が加速するため、持続的利用には特別な配慮が求められる。さらに、群れ魚類の変動は食物網全体に波及する。小型浮魚が豊富であれば、大型魚類や海鳥、海洋哺乳類の個体群は安定しやすいが、不漁が続くとこれら捕食者の分布や繁殖成績に深刻な影響を及ぼす。したがって、群れ魚類は単に漁業対象というだけでなく、生態系の健全性を左右する「鍵種(key species)」として位置づけらる。
キーワード
① 回遊 ② 多産型繁殖戦略、産卵期保護 ③ 小型浮魚、鍵種
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
予習:コマシラバスおよび関連する資料を読んでおく。復習:今回の講義の次の三つのポイントを復習し、それぞれについて3分程度で説明できるようにする。一つ目のポイントは、水産生物の生活史と回遊は資源量や漁獲変動を左右し、持続的利用や環境保全のための管理に不可欠な基盤であることについて。二つ目は、魚類は多産型の繁殖戦略をとり環境条件に強く左右されるため、資源管理には産卵や初期生活段階の保護が不可欠である点について。三つ目は、小型浮魚は食物網の中間をつなぐ鍵種であり、群れ行動によって生態系を支える一方、環境変動や漁獲により資源量が大きく変動するため持続的利用が重要であることについて。
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沿岸漁業・漁業資源と海洋生態系のまとめ
科目の中での位置付け
本科目は海と水産に関する知識を広く学び、海の環境を大切にしながら、魚介類などの海の恵みを将来にわたって利用する方法を科学的かつ社会的な視点をもって考える力を養うことを目的とする。第1回では海洋の重要性と持続可能性を概観し、第2~7回では物理・化学環境や生態系の基礎を学ぶ。第8~10回では水産の歴史と現状、水産生物の生態や漁業資源と生態系との関係を扱い、第11回以降は、国際漁業と資源管理、水産養殖、水産と海洋環境問題、水産加工・流通から社会・文化的側面までを包括的に学習する。本コマは第10回目の講義であり、これまでに学んだ海洋系の知識を土台にして水産の知識を学ぶ。特に沿岸生態系と漁業の特徴について理解する。さらには、漁業資源と海洋生態系についての基礎知識の知識固めを行う。
オリジナル解説教材
コマ主題細目
① 沿岸生態系と沿岸漁業 ② 漁業資源と海洋生態系 ③ 漁業資源とその管理
細目レベル
① 漁業は沿岸の豊かな生態系から恩恵を受けて成り立っているが、その漁業活動が沿岸の環境に負担をかけている。過剰漁獲は魚種構成や食物網に変化を与え、資源量を減少させ、底曳き網のような漁法は海底環境を物理的に破壊し藻場や底生群集の回復を困難にする。また、陸域からの富栄養化や化学物質流入は赤潮や貧酸素水塊を引き起こし、漁業生産に悪影響を及ぼす。逆に、漁業管理や共同体による自主規制は資源の回復を促す例もある。禁漁区や季節的な操業制限は資源再生産を助け、結果として漁業者の利益にもつながる。つまり、漁業と生態系は相互依存的な関係にある。沿岸生態系は漁業資源の供給源であり、人間社会の食料確保にとって欠かせない存在である。しかし、その利用形態は生態系に多様な影響を及ぼしており、両者は密接に関わり合っている。その一例として、漁法による物理的な影響がある。特に底曳き網漁業は、効率的に多様な魚介類を捕獲できる一方で、海底を直接攪乱するため、藻場や底生生物群集を破壊する可能性が高い。こうした生息環境の劣化は、稚魚や幼生の育成場を失わせ、資源の再生産力を低下させる。また、刺し網や定置網でも、非対象種(混獲)を誤って捕獲するケースがあり、生態系全体に影響を与えうる。
② 生活史と回遊についてみると、水産生物の生活史(卵―仔稚魚―未成体―成体)では、発育段階ごとに利用する環境・餌・生息場が異なるため、資源の持続的利用には空間的・時間的な生息場利用の変化を理解することが不可欠である。サケ類は淡水で孵化し海で成長した後に母川へ回帰して産卵する両側回遊を行い、河川改変や水質悪化、回遊阻害(ダム等)が資源減少に直結するため、魚道整備や河川環境保全が管理上の要点となる。一方、マイワシ、カツオ、マグロなどの回遊魚は水温・潮流・餌生物分布などの海洋環境に応じて広域に移動し、その動向は漁場形成と漁獲量変動に直結する。とくにマイワシは数十年規模で豊漁・不漁を繰り返す大規模変動が知られ、環境変動と資源量の関係を理解する代表例である。カツオの黒潮沿いの季節回遊(初ガツオ・戻りガツオ)にみられるように、回遊パターンの把握は漁期・漁場設定や地域経済にも結び付く。さらに気候変動による水温上昇や海流変化は分布域や回遊経路を変える可能性があるため、生活史と回遊の知見は将来予測と適応的管理の基盤となる。繁殖特性と再生産についてみると、海産魚類の多くは多産型の繁殖戦略をとり、一度に大量の卵を放出するが、卵・仔魚期の死亡率は高く、生残は水温、餌(プランクトン)量、捕食圧など環境条件に強く左右される。そのため、資源量変動を理解するには再生産(産卵・加入)過程と環境要因の結び付きを押さえる必要がある。これに対し、甲殻類では雌が卵を抱卵して保護し、頭足類では卵塊を守るなど、種によって繁殖様式が異なり、これが生残戦略や資源変動の特性差につながる。加えて繁殖特性は漁獲の影響を受けやすく、大型個体ほど産卵量が多い傾向があるため、大型魚の選択的漁獲は再生産能力を低下させ資源回復を遅らせうる。このため、産卵期の禁漁、産卵場保護、漁獲サイズ制限などの措置が、加入量確保と資源の持続性維持に重要な根拠を与えることを整理する。最後に群れ行動と生態系内での役割についてみると、水産生物は生態系の中で捕食・被食関係を介して相互に結び付き、資源量の増減は生態系全体へ波及する。とくにマイワシ、サンマ、ニシン類などの小型浮魚は、プランクトンを高次捕食者(マグロ類・カツオ・海鳥・海洋哺乳類など)へつなぐ中間栄養段階として食物網の要となり、豊凶は生態系の安定性を左右する「鍵種」として位置づけられる。小型浮魚は群れを形成し、捕食圧の分散、採餌効率の向上、エネルギー節約などの利点を得るが、群れは魚群探知機・ソナーにより探索・集中漁獲されやすく、資源急減のリスクも高い。マイワシ資源が豊漁期から不漁期へ急変し、漁業・地域社会に大きな影響を与えてきた事例は、環境変動に敏感な群れ魚資源が漁獲圧によって減耗が加速しうることを示す。したがって、群れ魚資源の管理では単一種の漁獲量だけでなく、捕食者側への影響や生態系機能を含めた視点(生態系アプローチ)で考える必要があることを確認する。
③ 漁業資源の持続的利用には、対象生物の生活史・回遊、繁殖特性と再生産、そして生態系内での役割を踏まえた管理が不可欠である。生活史では卵・仔稚魚・成体で利用海域や必要条件が異なり、サケ類の両側回遊は河川環境の改変や回遊阻害の影響を受けやすいことから、魚道整備や生息場保全が資源維持の前提となる。一方、マイワシ・カツオ・マグロなどの回遊魚は水温・潮流・餌分布に応じて広域移動し、分布変化は漁場・漁期と漁獲変動に直結するため、環境変動を考慮した適応的な管理が求められる。繁殖面では、魚類の多産型戦略でも初期生活段階の死亡率が高く、加入量が環境条件に左右されるため、産卵期の禁漁や産卵場・稚魚生息場の保護が中核となる。また大型個体ほど産卵寄与が大きいため、サイズ規制等により再生産能力の低下を防ぐ必要がある。さらに小型浮魚は食物網をつなぐ鍵種であり、群れ形成は漁獲の集中化を招き資源急減のリスクも高い。よって単一種の漁獲量管理に加え、捕食者との関係や生態系機能を含めた「生態系アプローチ」による資源管理の考え方を整理する。
キーワード
① 相互依存、過剰漁獲、 ② 生態系アプローチに基づく漁業管理、生態系サービス、 ③ ブルーカーボン、産卵場、
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
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教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します
復習・予習課題
予習:コマシラバスおよび関連する資料を読んでおく。復習:今回の講義の次の三つのポイントを復習し、それぞれについて3分程度で説明できるようにする。一つ目のポイントは、沿岸域の多様な生態系は漁業資源を支えると同時に漁業活動から影響を受ける相互依存関係にあり、持続的管理が不可欠であることについて。二つ目は、漁業資源である水産生物の生態的特徴およびそれら水産生物の海洋生態系との関わりについてのまとめ。理によって両者の調和が求められている点について。三つ目は、水産資源の管理や持続可能な利用に向けて、広範囲の取り組みが必要であること。例えば、その資源生物の現存量のみではなく、その生態やそれを取り巻く生態系についての広い理解が必要であり、生態系アプローチに基づく漁業管理や里海づくりなどの取り組みが重要であり、気候変動への適応も含めた地域社会との協働が不可欠であることなどを多角的に概観する。
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国際漁業と資源管理
科目の中での位置付け
本科目は海と水産に関する知識を広く学び、海の環境を大切にしながら、魚介類などの海の恵みを将来にわたって利用する方法を科学的かつ社会的な視点をもって考える力を養うことを目的とする。第1回では海洋の重要性と持続可能性を概観し、第2~7回では物理・化学環境や生態系の基礎を学ぶ。第8~10回では水産の歴史と現状、水産生物の生態や沿岸生態系と漁業との関係を扱い、第11回以降は、国際漁業と資源管理、水産養殖、水産と海洋環境問題、水産加工・流通から社会・文化的側面までを包括的に学習する。本コマは第11回目の講義であり、これまでに学んだ海洋系や水産系の知識を踏まえて漁業資源やその管理に向けた国際的な取り組みについて学ぶ。
オリジナル解説教材
コマ主題細目
① 国際漁業の現状と課題 ② 国際条約と管理枠組み ③ 持続可能な漁業への取り組みと今後の展望
細目レベル
① 国際漁業は、国家の境界を越えて行われる漁業活動や公海における漁獲を含むものであり、世界の食料供給と経済にとって極めて重要な役割を果たしている。しかしその一方で、資源の枯渇や違法操業など多くの課題が山積している。特に漁業資源の持続的な利用は、人類全体にとって不可欠な課題であり国際的な協力なくしては達成が困難である。まず、世界の漁業資源の現状を見てみると、国際連合食糧農業機関(FAO)の「世界漁業・養殖業白書」によれば、世界の主要漁業資源のうち約3分の1が持続不可能な状態にあると報告されている。これは、過剰漁獲によって資源が再生産能力を失い、漁獲量が減少する「漁獲の縮小スパイラル」に陥っていることを意味する。特に高度回遊性魚類であるマグロ類やカツオ類は、国際市場での需要が高く、寿司や缶詰製品などの需要増加によって漁獲圧が集中している。これにより、いくつかの種では資源量が危機的水準に達しており、国際社会が強い懸念を示している。次に、国際漁業における最も深刻な課題の一つとして、違法・無報告・無規制漁業(IUU漁業)が挙げられる。IUU漁業は、合法的な漁業者の努力を無にするだけでなく、資源管理体制そのものの信頼性を損なう要因となる。漁獲量が正しく報告されなければ、科学的根拠に基づく資源評価が不可能になり、持続的な漁業管理の基盤が崩れてしまう。また、IUU漁業はコストをかけずに規制を逃れて行われるため、安価な水産物として市場に流入し、適切に操業する漁業者の経済的利益を圧迫する構造を生み出している。特に問題が顕著なのは、途上国沿岸における監視体制の脆弱さである。多くの発展途上国では、海上監視船や航空監視の整備が不十分であり、違法操業を取り締まるための人員や予算も不足している。その結果、外国船による違法操業が常態化し、沿岸国の漁業資源が無秩序に搾取される状況が生まれている。これは単なる一国の問題ではなく、国際市場を通じて資源の枯渇や価格の変動、ひいては食料安全保障の不安定化につながるため、国際社会全体が取り組むべき課題である。さらに、近年は気候変動によって魚類の分布が変化しつつあり、資源管理をより複雑にしている。水温上昇や海洋酸性化は、漁業資源の生息域や産卵パターンに影響を与え、既存の国際的な漁獲割当や協定が現実に即さなくなるリスクを高めている。これにより、資源を追うように漁船が新たな海域に進出し、紛争や管理不在の問題が生じやすくなる。
② 国際漁業資源の持続的利用を実現するためには、国家間を越えた資源管理の枠組みが不可欠である。特に高度回遊性魚類や広域分布資源は単独の国による管理が不可能であり、国際条約や地域機関を通じた協調が求められている。その中心的な基盤となっているのが国連海洋法条約(UNCLOS)である。同条約は、各国に200カイリの排他的経済水域(EEZ)を認め、沿岸国に資源利用の権利と責任を与える一方で、公海における「自由利用」の原則を維持した。これにより、EEZを越えて移動する魚種については、沿岸国と漁獲国の双方が協力し、適切な管理を行うことが義務付けられている。この理念を実際の管理に落とし込むために設立されたのが地域漁業管理機関(RFMO)である。RFMOは、特定の海域や魚種を対象に、加盟国が共同で管理方策を決定し、遵守を図る仕組みである。代表例として、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)、中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)、北太平洋漁業委員会(NPFC)などが挙げられる。これらの機関は、科学委員会による資源評価を基に、漁獲量や漁期、漁具の規制などを決定している。ここで重要な管理手段の一つがTAC(総漁獲可能量)制度である。TACとは、科学的調査に基づき、その年に持続的に漁獲可能と推定される資源量の上限を設定する仕組みである。RFMOは対象資源ごとにTACを定め、それを加盟国間で配分する「漁獲割当制度」を導入している。例えば、ICCATでは大西洋クロマグロについてTACを設定し、加盟国ごとに漁獲可能量を割り当てることで資源回復を図ってきた。TAC制度は科学的知見と政策判断を結びつける要であり、資源保護と漁業経済の両立を目指す国際管理の中核に位置付けられている。しかし、TAC制度とRFMOの管理には課題も多い。第一に、漁獲量の過少申告や未報告、IUU漁業によって、実際の漁獲がTACを大幅に上回るケースがあり、制度の実効性が損なわれることがある。第二に、国際交渉において各国の利害が対立し、科学的根拠よりも政治的妥協に基づいたTACが設定されることもしばしばである。第三に、監視・取締り体制の整備には多大なコストがかかり、特に途上国では十分な履行能力を持てない場合が多い。
③ 持続可能な漁業は、単に魚を獲り続けられるようにするという技術的な問題にとどまらず、国際社会全体の食料安全保障、環境保全、そして地域社会の経済的安定と密接に結びついている。そのため、科学的管理、制度的枠組み、市場メカニズム、そして市民の意識を含めた多層的な取り組みが求められている。国際的には、2015年に採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」において「海の豊かさを守ろう(SDG14)」が掲げられ、漁業資源の保全と適切な管理が明確な目標として位置づけられた。この目標は、過剰漁獲の削減、違法・無報告・無規制(IUU)漁業の撲滅、そして科学的根拠に基づく管理の徹底を含んでいる。各国政府や地域漁業管理機関(RFMO)は、この国際的枠組みを踏まえつつ、管理の実効性を高める方向で取り組みを進めている。技術面では、漁獲証明制度や衛星監視(VMS・AIS)の導入により、違法漁業の摘発や漁業活動の透明性向上が進んでいる。さらに、資源評価モデルの発展によって漁獲可能量(TAC)の設定が精緻化され、資源を再生産可能な範囲で利用する仕組みが強化されている。ただし、科学的知見を政策に反映させるには、国際交渉や利害調整の壁を乗り越える必要がある。一方、市場における取り組みも注目される。MSC(海洋管理協議会)認証などのエコラベルは、持続可能な漁業に従事する生産者を認証し、消費者が環境に配慮した水産物を選択できる仕組みを提供している。こうした制度は、市場を通じて漁業者に持続的な操業を促すインセンティブを与え、資源保全の新しい柱となっている。また、大手流通業者や外食産業が調達方針にサステナビリティ基準を組み込むことで、漁業の現場に強い影響を与えるようになっている。さらに今後の展望として、気候変動への対応が避けられない課題である。海水温の上昇や海洋酸性化は魚種の分布や生態系構造に変化をもたらし、従来の漁獲海域や漁期の予測を困難にしている。例えば、北上する魚種に合わせて新しい海域に漁業者が進出することで、国境やEEZをまたぐ新たな紛争が生じる可能性もある。このような動的な変化に対処するためには、既存の固定的な管理制度を超えた柔軟な国際協調の仕組みが必要となる。
キーワード
① IUU漁業 ② 国連海洋法条約、地域漁業管理機関 ③ SDGs(目標14:海の豊かさを守ろう)、MSC認証
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
予習:コマシラバスおよび関連する資料を読んでおく。復習:今回の講義の次の三つのポイントを復習し、それぞれについて3分程度で説明できるようにする。一つ目のポイントは、国際漁業は世界の食料供給を支える一方、過剰漁獲やIUU漁業、気候変動による資源変動といった課題に直面し、持続的利用には国際的協力が不可欠であることについて。二つ目は、国際漁業資源の持続的利用にはUNCLOSを基盤としたRFMOやTAC制度による協調管理が不可欠だが、IUU漁業や利害対立、監視体制の不備といった課題が残されている点について。三つ目は、持続可能な漁業は食料安全保障・環境保全・地域経済に直結する課題であり、科学的管理・国際協調・市場メカニズム・市民意識を組み合わせた多層的な取り組みが求められていることについて。
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水産増養殖の科学
科目の中での位置付け
本科目は海と水産に関する知識を広く学び、海の環境を大切にしながら、魚介類などの海の恵みを将来にわたって利用する方法を科学的かつ社会的な視点をもって考える力を養うことを目的とする。第1回では海洋の重要性と持続可能性を概観し、第2~7回では物理・化学環境や生態系の基礎を学ぶ。第8~10回では水産の歴史と現状、水産生物の生態や沿岸生態系と漁業との関係を扱い、第11回以降は、国際漁業と資源管理、水産養殖、水産と海洋環境問題、水産加工・流通から社会・文化的側面までを包括的に学習する。本コマは第12回目の講義であり、これまでに学んだ海洋系や水産系の知識を踏まえて水産養殖の基礎について学ぶ。
オリジナル解説教材
コマ主題細目
① 生物学的基盤 ② 環境と健康管理 ③ 技術革新と持続可能性
細目レベル
① 水産増養殖を発展させるうえで最も重要な柱のひとつが、生物学的基盤の理解である。養殖対象となる魚介藻類の生活史や繁殖様式、成長特性を把握することなしには、生産の効率化も持続可能性の確保も難しい。まず、対象種がどのような環境条件下で産卵し、どのように卵から仔魚へ、さらに成魚へと発達していくのかという「生活史」の理解が不可欠である。たとえば、ウナギは海で産卵し、稚魚は大洋を回遊して河川に遡上するという複雑な生活史を持つため、完全養殖の確立には長年の研究が費やされてきた。こうした知見の蓄積によって、近年ようやく人工ふ化から成魚までの飼育が可能となりつつあるが、まだ商業的に安定していない。サケも同様に、回遊と産卵の周期性を持つため、初期発生段階の飼育条件が成功の鍵を握る。一方で、マダイやブリといった比較的養殖技術の進んだ魚種では、既に種苗生産技術が確立しており、餌料や飼育環境の改善を通じて成長効率の向上が追求されている。特に配合飼料の改良は、生物学的基盤の知識に基づいた応用の典型例である。魚の消化酵素活性や栄養素要求量を詳細に解析し、タンパク質・脂質・ビタミンなどの最適比率を導き出すことにより、成長促進や疾病抵抗性の強化につながる。さらに、飼料原料として持続可能な資源を利用する工夫も進められており、栄養学と環境科学の融合が求められている。また、遺伝的多様性の確保も生物学的基盤の重要なテーマである。限られた親魚集団から採卵を繰り返すと、近交弱勢によって成長遅延や疾病感受性の増加が生じる。これを防ぐためには、遺伝解析による系統管理や、選抜育種による形質改良が不可欠である。近年ではゲノム情報を活用した分子マーカー選抜が進み、成長速度や耐病性といった有用形質を持つ個体を効率的に選抜できるようになってきた。これらの研究は、水産増養殖を単なる経験的産業から、科学的根拠に基づく高度な産業へと進化させる原動力となっている。さらに、生理学的な知見も重要である。水温や塩分濃度、溶存酸素など環境要因が魚類の代謝や成長に与える影響を理解することは、最適な飼育条件を設定する上で欠かせない。例えば、低酸素状態では成長が阻害されるだけでなく、免疫力も低下し疾病にかかりやすくなる。また、光周期や水温変化が成熟・産卵を誘導する生理的メカニズムを解明することで、人工的に繁殖を制御し、安定した種苗供給を実現することが可能となる。
② 環境の変化は養殖生物の成長や生存率に直結するため、環境と健康管理は水産増養殖の中核的課題であり持続的発展のために科学的なアプローチが欠かせない。まず、水質管理は養殖現場における基盤である。高密度飼育では排泄物や残餌が水中に蓄積し、窒素やリンが増加することで富栄養化が進行する。これにより植物プランクトンが異常増殖し、赤潮や青潮が発生して養殖魚に大きな被害を与えることがある。また、有機物の分解に伴う酸素消費は溶存酸素量を低下させ、魚の代謝や免疫力を弱める。こうした悪循環を防ぐために、水質モニタリングを行い、酸素濃度やアンモニア濃度を常時監視することが重要である。次に、疾病管理は養殖の成否を決定づける要素である。養殖環境は高密度であるがゆえに病原体が蔓延しやすく、一度感染が広がれば甚大な被害につながる。過去には抗生物質の大量使用によって被害を抑えようとしたが、耐性菌の発生や残留薬剤による食品安全上の懸念から、その依存は世界的に問題視されてきた。現在ではワクチン接種が重要な対策となっており、サケ養殖における細菌性疾患の予防などで大きな成果を挙げている。また、腸内環境を整えるプロバイオティクスや、免疫を高める機能性飼料の導入など、より持続的な疾病対策が模索されている。さらに、近年注目されているのが遺伝的耐病性の強化である。ゲノム情報を活用し、病原体に強い個体を選抜・育種することで予防的に疾病リスクを下げる取り組みが進んでいる。こうした手法は薬剤に依存しないため、環境負荷を軽減しつつ長期的な安定生産を可能にする。環境と健康管理は相互に深く結びついている。例えば、水質悪化によるストレスは魚の免疫力低下を招き、疾病流行の引き金となる。そのため、養殖現場では「環境を健全に保つことが、最良の健康管理である」という考え方が広まりつつある。加えて、ICTやAI技術を用いた「スマート養殖」では、水質データや魚の行動をリアルタイムで解析し、給餌や換水を自動制御することが可能となりつつあり、効率的かつ精密な管理が実現している。更に近年では海面ではなく陸上で養殖を行うシステム(循環型養殖システム:RAS)の導入が進んでおり、濾過や殺菌を通じて水を再利用することで、環境負荷を抑えつつ安定した飼育環境を維持できるようになっている。
③ 世界の水産物供給における養殖の役割は年々拡大している。かつては漁獲漁業が水産物供給の大半を担っていたが、資源の過剰利用や環境変動による減少に伴い養殖が急速に拡大してきた。現在では世界の水産物生産量の半分以上を養殖が占め、今後もその比率は増加すると予測されている。特にアジア地域は世界養殖生産の中心であり中国、インドネシア、ベトナム、インドなどが主要生産国である。中国は世界全体の養殖生産量の6割近くを占め、コイやティラピアなどの淡水魚をはじめ、エビや海藻類の大規模生産でも圧倒的な地位を占める。インドネシアやベトナムでは、輸出産業としてのエビ養殖が経済を支える基幹産業となっており、国際市場の需要と密接に結びついている。養殖対象は魚類に限らず、エビ、二枚貝、海藻など多岐にわたり、地域の食文化や市場特性に応じて多様化している。例えば東南アジアではエビ養殖が国際輸出向けに発展し、ヨーロッパではサケの海面養殖が安定供給を支えている。アフリカや南米でも近年はティラピアやナマズ養殖が進展し、食料安全保障の観点から養殖の重要性が高まっている。世界規模で見ると、養殖業は単なる食料供給手段にとどまらず、地域経済や雇用、国際貿易を牽引する産業として位置づけられている。一方で日本の養殖業は、生産物の質と養殖の技術力において一部高い評価を受けているが、量的・経済的規模では世界的に大きなシェアを占めてはいない。日本で代表的な養殖対象はマダイ、ブリ、カキ、ノリである。マダイやブリは養殖魚としてブランド化が進み、品質管理や流通技術と組み合わせることで国内外の市場で強い競争力を持っている。カキ養殖は広島湾を中心に全国に広がり、安定供給と高い安全性で知られている。また、ノリ養殖は世界的にも先駆的な技術開発を行ってきた分野であり、色調管理や品種改良など独自の高度技術を発展させてきた。しかし、日本の養殖業は地理的・環境的制約も抱えている。国土が狭く沿岸環境の利用可能面積が限られるため大規模養殖には不向きである。また、赤潮や高水温といった自然環境の変動により生産が不安定化するリスクもある。これに対応するため、日本では「量より質」を重視した発展が模索されてきた。具体的には、ICTやAIを活用したスマート養殖による給餌・水質管理の最適化、循環型養殖システムの導入、魚粉代替飼料の利用による環境負荷低減といった取り組みが進められている。
キーワード
① 生活史の理解、種苗生産技術 ② 水質管理、疾病管理 ③ 養殖拡大、スマート養殖
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
予習:コマシラバスおよび関連する資料を読んでおく。復習:今回の講義の次の三つのポイントを復習し、それぞれについて3分程度で説明できるようにする。一つ目のポイントは、水産増養殖の発展には、対象生物の生活史・繁殖・成長特性や栄養・生理・遺伝的基盤を理解し、科学的知見に基づく効率的かつ持続可能な生産体制を確立することが不可欠であることについて。二つ目は、水産増養殖の持続的発展には、水質と疾病の科学的管理を軸に、ワクチン・機能性飼料・耐病性育種・ICT活用・循環型養殖システムなどを組み合わせた環境と健康の統合的管理が不可欠である点について。三つ目は、世界の水産物供給は養殖が主流となりつつあり、アジアを中心に拡大する一方、日本は規模より質を重視し、高度技術とブランド化で持続可能な養殖を発展させていることについて。
13
水産と海洋環境問題
科目の中での位置付け
本科目は海と水産に関する知識を広く学び、海の環境を大切にしながら、魚介類などの海の恵みを将来にわたって利用する方法を科学的かつ社会的な視点をもって考える力を養うことを目的とする。第1回では海洋の重要性と持続可能性を概観し、第2~7回では物理・化学環境や生態系の基礎を学ぶ。第8~10回では水産の歴史と現状、水産生物の生態や沿岸生態系と漁業との関係を扱い、第11回以降は、国際漁業と資源管理、水産養殖、水産と海洋環境問題、水産加工・流通から社会・文化的側面までを包括的に学習する。本コマは第13回目の講義であり、これまでに学んだ海洋系や水産系の知識を踏まえて人間活動が及ぼしている負の影響の基礎について学ぶ。
オリジナル解説教材
コマ主題細目
① 海洋汚染 ② 海洋プラスチック汚染 ③ 気候変動と水産資源の変動
細目レベル
① 海洋汚染は、水産業にとって深刻な環境課題の一つであるが、その要因は多岐にわたり、産業排水や工場からの化学物質、農地から河川を経由して海に流入する窒素やリンといった栄養塩、都市部の生活排水、さらには船舶事故による油流出などが挙げられる。とりわけ深刻なのが富栄養化による赤潮や青潮である。窒素やリンが過剰に供給されると、植物プランクトンが異常繁殖し、海水中の酸素が急激に消費される。その結果、魚類や貝類が大量死し、養殖業は甚大な損害を被る。赤潮の発生は水産物の商品価値を下げるだけでなく、消費者の購買意欲を低下させ、地域経済全体に打撃を与える点でも看過できない。また、重金属や有害化学物質による汚染も水産業に大きな影響を与える。水銀やカドミウムといった物質は、食物連鎖を通じて濃縮され、最終的に人間の食卓に上る魚介類に蓄積する。これは単なる環境問題にとどまらず、公衆衛生の観点からも深刻な脅威である。かつての水俣病のような事例は、海洋汚染と人間社会の結びつきを強く示している。油流出事故も忘れてはならない。タンカー事故や施設からの漏出により海面に油膜が広がると、魚介類や海鳥が直接的な被害を受けるだけでなく、海底の生態系全体に長期的な悪影響を残す。こうした事故は短期間で甚大な環境被害を引き起こし、その回復には数十年単位の時間が必要になることもある。このような海洋汚染に対処するためには、流域全体を見据えた総合的な対策が必要である。農業では肥料の適正使用や流出防止策を講じ、工業や都市部では下水処理の高度化や排水規制の強化が求められる。また、漁業者自身が水質の監視や環境保全活動に参加することも効果的である。
② 海洋プラスチック汚染は、近年世界的に最も注目される環境問題の一つである。国際連合環境計画(UNEP)などの報告によれば、毎年数百万トン規模のプラスチックごみが海へ流入しており、その総量は海洋生態系に深刻な影響を与えている。プラスチックは自然環境中で分解されにくく、数百年にわたり海に残存するため、単なる廃棄物問題ではなく、長期的な生態リスクとなっている。特に問題視されているのが、波や紫外線によって細かく砕かれた「マイクロプラスチック」である。直径5ミリ未満の微細な粒子は、魚類、貝類、さらにはプランクトンによって容易に摂取される。これによりプラスチックは食物網の中に取り込まれ、次第に高次の捕食者へと移行していく。最終的には人間が食する水産物を通じて体内に入り込む可能性が高く、食品安全や公衆衛生の観点からも懸念されている。また、水産業に特有の問題として、廃棄された漁具による「ゴーストフィッシング」がある。網や仕掛けが海中に残されたまま放置されると、魚介類や海鳥、ウミガメが絡まり、死に至るケースが多発する。これは漁獲資源にとって純粋な損失であり、漁業者の利益をも損なう。さらに、絡まった生物の腐敗が新たな捕食者を引き寄せることで、被害は連鎖的に広がる。漁具由来のプラスチックごみは重量も大きく、海底に沈殿して生態系に長期的影響を与える点でも深刻である。また、プラスチックごみの漂着は観光資源としての海岸景観を損ない、清掃に莫大なコストを要し大きな経済的損失をも産み出す。さらに、水産物がプラスチックを含むというイメージは消費者の不安を煽り、市場価値の低下を引き起こす恐れがある。こうした社会的影響は、水産業全体の信頼性にも関わる問題である。解決策としては、まず発生源対策が基本となる。プラスチック製品の使用削減やリサイクルの徹底、使い捨てプラスチックの規制強化が求められる。また、漁業分野では生分解性素材を用いた漁具の導入や、使用済み漁具の回収システム整備が有効である。さらに、国際的な連携も不可欠であり、各国が協調して海洋ごみ削減に取り組む枠組みを強化する必要がある。
③ 気候変動は、21世紀における水産業の持続性を左右する最重要課題の一つである。地球温暖化に伴う海水温の上昇や海洋酸性化、海流や生態系の変化は、魚介類の生息環境や資源量に直接的な影響を与える。こうした環境変動は漁業現場における漁獲の不安定化を招き、地域社会の生計や食料供給にも波及している。まず顕著なのが魚種の分布域の変化である。水温が上昇すると、多くの魚は適温域を求めて高緯度や深場へ移動する。日本近海では、従来豊富に漁獲されてきたサンマやサケの資源量が減少傾向にある一方で、ブリやマイワシといった暖水性魚種が増加している。これは単なる漁獲対象の変化にとどまらず、漁業者が従来の漁場や漁法を見直さざるを得ない状況を生み出している。資源動向の不確実性は、漁業経営の安定性を揺るがす大きな要因となっている。また、気候変動は海流やプランクトンの組成にも影響を与え、食物網全体のバランスを変化させる可能性がある。これにより、魚種間の競合関係が変わり予測困難な資源変動が生じる懸念がある。そのため水産資源の管理においては、従来の長期的な資源評価だけでなく環境変動を加味した動的かつ柔軟なアプローチが求められる。こうした課題に対応するには、複数の取り組みが必要である。第一に、資源動向に応じた適応的漁業管理の導入が挙げられる。漁獲枠や漁期を柔軟に調整し、環境変動に対応した管理体制を構築することが重要である。第二に、養殖業の強化や技術革新も不可欠である。温暖化や酸性化の影響を受けにくい魚種の導入、陸上養殖や閉鎖循環式システムの普及などが有効策とされる。第三に、国際的な協力体制の強化が求められる。水産資源は国境を越えて移動するため、単一国家では対応が困難であり、各国の合意に基づいた共同管理が不可欠である。
キーワード
① 富栄養化(赤潮・青潮)、重金属汚染 ② マイクロプラスチック、ゴーストフィッシング ③ 魚種分布の変化、適応的漁業管理
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
予習:コマシラバスおよび関連する資料を読んでおく。復習:今回の講義の次の三つのポイントを復習し、それぞれについて3分程度で説明できるようにする。一つ目のポイントは、海洋汚染は赤潮・有害物質・油流出などを通じて水産業や人間社会に深刻な影響を及ぼすため、流域全体を視野に入れた総合的な対策と管理が不可欠であることについて。二つ目は、海洋プラスチック汚染はマイクロプラスチックやゴーストフィッシングを通じて生態系・水産業・人間社会に深刻な影響を及ぼし、発生源対策や国際協調による削減が不可欠である点について。三つ目は、気候変動は魚種分布や資源量を変動させ水産業の持続性を脅かすため、適応的管理・養殖技術革新・国際協調による柔軟な対応が不可欠であることについて。
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水産加工・流通とフードシステム
科目の中での位置付け
本科目は海と水産に関する知識を広く学び、海の環境を大切にしながら、魚介類などの海の恵みを将来にわたって利用する方法を科学的かつ社会的な視点をもって考える力を養うことを目的とする。第1回では海洋の重要性と持続可能性を概観し、第2~7回では物理・化学環境や生態系の基礎を学ぶ。第8~10回では水産の歴史と現状、水産生物の生態や沿岸生態系と漁業との関係を扱い、第11回以降は、国際漁業と資源管理、水産養殖、水産と海洋環境問題、水産加工・流通から社会・文化的側面までを包括的に学習する。本コマは第14回目の講義であり、視点を変えて水産業の中でも漁業の次に来る、加工・流通の基礎について学ぶ。
オリジナル解説教材
コマ主題細目
① 水産加工の役割と技術革新 ② 流通システムと市場構造 ③ フードシステムと持続可能性
細目レベル
① 水産物は畜産物や農産物と比べても特に鮮度の劣化が早く、漁獲直後から品質低下が始まる。そのため、加工と保存の技術は水産業において単なる付随的な工程ではなく、資源を有効に活用し、消費者に安全で価値ある食品を届けるための核心的役割を担ってきた。古来より人々は、魚をいかに長く保存し、遠方へ届けられるかという課題に直面してきた。塩蔵、乾燥、燻製、発酵といった伝統的技法は、保存性を高めるだけでなく、独自の風味や地域文化を育み、水産物の食文化形成に寄与してきたといえる。20世紀以降、冷凍技術や低温流通網の発展により、水産加工は大きな転換点を迎えた。特に急速凍結は、鮮魚の細胞を壊さずに長期保存を可能とし、解凍後も高い品質を維持できる画期的な手法である。これにより、かつては地元でしか消費できなかった鮮魚が、国内外の広範な市場に流通するようになった。また、冷凍すり身の開発は、かまぼこやちくわといった伝統的練り製品だけでなく、世界各国で多様な食品原料として利用されるなど、新しい国際市場を切り拓いた事例として重要である。さらに現代では、消費者の多様なニーズに対応する形で加工のあり方が進化している。健康志向の高まりを背景に、低塩干物や減塩漬け魚、EPA・DHAといった機能性成分を強調した商品が登場している。また、真空パックやレトルト加工は常温流通を可能にし、保存性と利便性を兼ね備えた商品群を生み出した。こうした加工は単に保存期間を延ばすにとどまらず、ライフスタイルの変化に対応した新しい食文化を創出している。一方で、加工は資源の有効活用にも直結する。漁獲量が不安定でサイズや形が揃わない魚種でも、切り身やすり身に加工することで規格化でき、商品価値を高められる。また、これまで廃棄されがちだった頭部や骨、内臓なども、エキスや粉末として健康食品や調味料に再利用されるケースが増えている。副産物の有効利用は、資源管理や環境負荷低減の観点からも極めて重要であり、持続可能な水産業に貢献している。このように水産加工は、単なる保存技術の延長ではなく、品質保持、付加価値創出、資源の有効活用を同時に実現する総合的な取り組みとして発展してきた。
② 水産物は漁獲や養殖によって生産されてから消費者の食卓に届くまでに、数多くの流通段階を経る。この流れを理解することは、水産業が地域経済やフードシステム全体の中でどのような役割を果たしているのかを考える上で重要である。従来、日本の水産物流通は「漁港市場」「卸売市場」「仲卸業者」「小売業者」という多段階構造に支えられてきた。漁港に水揚げされた魚はまず漁港市場に出され、そこで仲買人や卸業者によるセリを経て中央卸売市場へと運ばれ、さらに仲卸業者を通じてスーパーや魚屋、外食産業に分配される。この仕組みは品質の安定や価格の透明性に寄与し、日本の水産消費を長く支えてきた。しかし近年、この伝統的な市場流通の形態は大きく変化しつつある。その一つが、大手流通企業やスーパーマーケットが主導する「産地直送」や「契約取引」の拡大である。これにより、産地から消費地へと中間流通を省いた効率的な取引が可能になり、漁業者にとっては販売先の安定確保、消費者にとっては鮮度の高い水産物を比較的低コストで入手できるという利点がある。また、インターネット販売やECサイトを活用した直販の仕組みも広がっており、地域ブランドの魚介類が全国の消費者に届くようになってきた。一方で、物流インフラの発達も大きな変化をもたらしている。冷凍技術やコールドチェーンの進歩によって、国内はもちろん海外市場への長距離輸送が可能となり、日本近海の水産物がアジアや欧米の消費者に届くようになった。逆に、海外からの安価な水産物輸入も増加し、国内市場における競争が激化している。このようなグローバル化の進展は、消費者にとって選択肢を広げる一方で、国内漁業者や加工業者にとっては価格競争の圧力となっている。さらに、市場構造の変化は地域の小規模業者や漁村経済に影響を及ぼしている。従来の仲卸業者は地域の流通を支える重要な存在であったが、大手流通の台頭によって取引量が減少し、存続が難しくなる事例もある。また、物流コストの上昇は、遠隔地や離島など流通条件の不利な地域にとって深刻な課題となっている。効率性を追求する流通システムの中で、地域経済や伝統的な魚食文化をいかに守るかが重要な論点である。したがって、水産物流通の未来を考える上では、従来の卸売市場の役割と新しい流通モデルの双方を理解し、そのバランスをどのように取るかが課題となる。効率性と価格競争力を高めることは不可欠であるが、それだけでは地域社会や漁業者の持続可能性を損なう可能性がある。今後は、地域ブランド化や地産地消の推進、ICTを活用した需給調整などを通じて、効率と地域性を両立させる仕組みが求められる。
③ 水産フードシステムとは、単に漁業者が魚を獲り、それを加工・流通させて消費者に届けるという直線的な流れではなく、資源の管理から加工・流通、消費、さらには廃棄物の再利用に至るまでを含む、循環的で総合的な仕組みである。その持続可能性をいかに確保するかは、現代社会における水産業の最重要課題の一つとなっている。背景には、世界的な魚食需要の拡大と資源の減少、気候変動による海洋環境の変化、そして消費者意識の変化がある。まず注目すべきは、持続可能な漁業認証制度の普及である。国際的にはMSC(海洋管理協議会)、養殖分野ではASC(養殖管理協議会)が代表的で、これらの認証を受けた製品は「環境に配慮して獲られた、あるいは育てられた水産物」として流通する。消費者は安全・安心だけでなく、環境的責任を果たした製品を選ぶ傾向が強まり、企業側も認証取得を競うようになっている。認証ラベルはブランド価値の向上にもつながり、国際市場において重要な競争力の要素となりつつある。また、サプライチェーン全体でのトレーサビリティ確保も不可欠である。漁獲場所や漁法、生産者、加工工程などの情報を消費者に開示することで、信頼性を高めるとともに、不正漁業や違法取引の防止にも寄与する。ICT技術の発展により、生産から消費までの情報をリアルタイムで追跡できるシステムが整備されつつあり、これが持続可能なフードシステムの基盤となっている。さらに、フードロス削減と副産物利用も重要なテーマである。水産物は鮮度劣化が早いため廃棄率が高くなりやすいが、冷凍・加工技術の進展によって保存期間を延ばし、余剰在庫を減らす取り組みが広がっている。未利用魚や規格外の小魚を活用した加工食品の開発、魚の骨や内臓からのカルシウム・コラーゲン抽出などは、資源の有効活用と収益確保の両立に貢献する。こうした副産物利用は循環型社会の構築にもつながり、水産業の環境負荷低減に資する。消費者行動の変化も見逃せない。従来は「安くて新鮮」であることが重視されたが、近年は「環境にやさしい」「社会的に公正」といった価値が購入動機に加わっている。企業は単なる商品供給者ではなく、環境保全や社会的責任を担う主体として行動を求められているのである。今後の水産フードシステムは、経済的利益だけでなく、資源保全や地域社会の持続可能性といった多面的な価値を創出する場となるだろう。
キーワード
① 水産加工、急速凍結 ② 産地直送、水産物流通の多段階構造 ③ 持続可能な漁業認証(MSC・ASC)、トレーサビリティ
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
予習:コマシラバスおよび関連する資料を読んでおく。復習:今回の講義の次の三つのポイントを復習し、それぞれについて3分程度で説明できるようにする。一つ目のポイントは、水産加工は鮮度保持・保存性向上だけでなく、付加価値創出や副産物利用を通じて資源を有効活用し、持続可能な水産業と食文化を支える重要な取り組みであることについて。二つ目は、水産物流通は従来の多段階市場から直送・EC・国際流通へと多様化し、効率性とグローバル化を進める一方で、地域社会や伝統文化との両立が課題となっている点について。三つ目は、水産フードシステムは資源管理から消費・再利用までを含む循環型の仕組みであり、認証制度・トレーサビリティ・副産物活用・消費者意識の変化を取り込みつつ持続可能性を追求することが求められていることについて。
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海洋と水産の科学(まとめ)
科目の中での位置付け
本科目は海と水産に関する知識を広く学び、海の環境を大切にしながら、魚介類などの海の恵みを将来にわたって利用する方法を科学的かつ社会的な視点をもって考える力を養うことを目的とする。第1回では海洋の重要性と持続可能性を概観し、第2~7回では物理・化学環境や生態系の基礎を学ぶ。第8~10回では水産の歴史と現状、水産生物の生態や沿岸生態系と漁業との関係を扱い、第11回以降は、国際漁業と資源管理、水産養殖、水産と海洋環境問題、水産加工・流通から社会・文化的側面までを包括的に学習する。本コマは第15回目の講義であり、これまでの講義で得てきた知識を基にしてこれからの持続可能な水産の未来について考える。
オリジナル解説教材
コマ主題細目
① 環境変動と生態系変動 ② 生態系変動とこれからの漁業 ③ 持続可能な水産業
細目レベル
① ① 地球規模で進行する環境変動は、海洋生態系に多様かつ深刻な影響を及ぼしている。まず気候変動に伴う海水温の上昇は、海洋生物の分布域を大きく変化させている。例えば、従来は温帯域に生息していた魚種が北上したり、逆に冷水域の種が減少したりする現象が世界各地で報告されている。これにより、地域ごとの生態系構造が組み替わり、従来の食物網や漁業資源の安定性が揺らいでいる。さらに、海氷の減少や海流パターンの変化も無視できない。特に北極海では、氷の融解がプランクトンの発生時期や分布に影響し、それを基盤とする高次捕食者まで食物連鎖全体に変化を引き起こしている。こうした「フェノロジーのずれ」は、生物間の捕食・被食関係を不安定化させ、繁殖成功率の低下や個体群減少につながる。一方で、人間活動による負荷も重なっている。沿岸開発や過剰な栄養塩流入は富栄養化や赤潮を引き起こし、低酸素水塊の発生を促進する。こうした現象は魚類や底生生物の大量死につながり、局所的に生態系を大きく変容させる。さらにマイクロプラスチック汚染など新たな問題も浮上しており、生物体内の蓄積や食物網を通じた拡散が懸念されている。このように、環境変動は物理化学的要因と生物的要因の双方に波及し、複合的な生態系変動をもたらしている。今後は観測データの蓄積と予測モデルの高度化を通じて、生態系の応答を科学的に理解することが求められる。さらに、地域固有の変動を考慮した管理戦略の策定が必要であり、海洋環境の健全性を守る努力は国際的な協力なくして成し得ない。環境変動と生態系変動の関係性を深く理解することは、人類が持続的に海洋資源を利用するための第一歩となる。
② 生態系の変動は、漁業のあり方に直接的な影響を及ぼす。従来の漁業は特定の魚種を対象とし、その資源量や漁獲努力量を管理することで成り立ってきた。しかし環境変動に伴う生態系の再編は、漁業資源の空間分布や季節的出現パターンを大きく変えており、従来型の管理手法では対応が難しくなっている。例えば、日本近海においてはサンマやイワシ類の漁獲量が年ごとに大きく変動し、温暖化や海流変動がその主要因として指摘されている。これにより漁業者は従来の漁場や漁期に依存できず、新たな操業戦略を模索せざるを得ない状況にある。また、生態系全体の変動は、単一魚種の管理を超えた「生態系アプローチ型漁業管理」の必要性を浮き彫りにしている。捕食者と被食者の関係を含めた食物網全体を考慮することで、ある魚種の過剰漁獲が他の資源に及ぼす影響を最小化できる。特に上位捕食者の減少は生態系のバランスを崩す要因となるため、総合的な視点での資源評価が重要である。さらに、国際的な漁業ガバナンスの重要性も増している。回遊性魚種は複数の国の排他的経済水域を横断するため、国際機関や多国間協定を通じた資源管理が不可欠である。環境変動によって資源の分布域が変われば、漁獲権を巡る摩擦も生じやすくなる。したがって、科学的データに基づく協調的な管理枠組みの構築が今後の課題となる。一方、漁業技術や情報技術の進展は新たな可能性を開いている。衛星データやAIを活用した漁場予測、漁船の行動データ解析は、変動する環境下でも効率的な操業を可能にしつつある。これらを現場に還元することで、資源の過剰利用を防ぎながら漁業者の生計を支えることができる。生態系変動の時代において漁業は「獲る」から「守りながら利用する」プラス「育てる」方向へ転換を迫られている。未来の漁業は、科学的知見、国際協力、そして技術革新を三本柱として、生態系と共生する形を模索していく必要がある。
③ 持続可能な水産業とは、将来世代の資源利用を損なうことなく、現在の需要を満たす生産・利用の仕組みを指す。その実現には、環境保全・経済的利益・社会的公平性の三要素を同時に満たす必要がある。まず、資源の持続性を確保するためには、科学的調査に基づく漁獲量の適正管理が不可欠である。資源動向を把握し、その変動を踏まえて漁獲圧を調整することで、資源の枯渇を防ぐことができる。また、違法・無報告・無規制(IUU)漁業の排除も重要であり、監視体制の強化やトレーサビリティの確保を通じて、資源の健全な利用が担保される。次に、養殖業の役割も大きい。天然資源の減少に伴い、世界の水産物供給の半分以上を養殖が担っている。しかし養殖には環境負荷や疾病リスクが伴うため、持続可能な方法への転換が求められる。具体的には、給餌効率の改善、環境負荷の低い飼料の開発、閉鎖循環式養殖(RAS)といった技術導入が進められている。これにより、生産の安定化と環境調和の両立が期待される。さらに、消費者意識の変化も持続可能性を後押ししている。MSC認証やASC認証といったエコラベルは、環境に配慮した漁業や養殖を推進する手段として広がっている。消費者が選択を通じて持続可能性を支持することで、産業全体の方向性が変わる可能性がある。加えて、沿岸地域社会の持続性も忘れてはならない。水産業は単なる食料供給源ではなく、地域経済や文化の基盤でもある。資源管理や環境保全に地域住民が主体的に関与することで、社会的側面を踏まえた持続可能性が実現する。国際的にも「ブルーエコノミー」の概念が注目され、経済発展と海洋保全を両立させる取り組みが進められている。総合的に見て、持続可能な水産業は単なる資源管理の問題ではなく、環境・経済・社会を統合的に捉える課題である。その実現には、科学と政策、技術と社会の協働が不可欠であり、人類と海洋の関係を再定義する試みといえる。
キーワード
① 気候変動、生態系変動 ② 生態系アプローチ型漁業管理、技術革新(AI・衛星データ活用) ③ IUU漁業排除、ブルーエコノミー
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
毎回の授業時間内に、LMS上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
予習:コマシラバスおよび関連する資料を読んでおく。復習:今回の講義の次の三つのポイントを復習し、それぞれについて3分程度で説明できるようにする。一つ目のポイントは、地球規模の環境変動は海洋生態系に分布変化・食物網の不安定化・富栄養化や汚染を通じた深刻な影響を及ぼしており、持続的利用には科学的理解と国際的協力に基づく管理が不可欠であることについて。二つ目は、生態系変動により従来の単一魚種管理は限界を迎え、漁業は生態系アプローチ・国際協力・技術革新を柱に「守りながら利用し育てる」形へ転換が求められている点について。三つ目は、持続可能な水産業は、科学的管理・環境調和型養殖・消費者の選択・地域社会の参画を通じて、環境・経済・社会の三要素を統合的に満たす仕組みであることについて。
履修判定指標
履修指標
履修指標の水準
キーワード
配点
関連回
海洋と人類、海洋環境の特徴
★やさしい
地球環境や我々人類が受けている恩恵に関して海洋の重要性を説明できる。海洋環境の主な特徴について説明できる。
地球システム、海洋文化、ブルーエコノミー、地球環境の安定性、生物の生息環境、生物のサイズと現存量
20
1,2
海洋の物理・化学環境、生態系
★やさしい
海洋の物理・化学に関して基礎的なことを説明できる。海洋生態系構造について説明できる。
水温躍層、海洋の成層構造、有光層、鉛直混合、海流、大規模循環、潮汐、湧昇流・沈降流栄養塩、酸素極小層、炭素循環、生物ポンプ、海洋酸性化、沿岸域生態系、ブルーカーボン生態系、外洋域生態系、海洋砂漠、サンゴ礁、海氷域生態系
40
3,4,5,6,7
水産の歴史と現状
★★普通
日本と世界の水産業の歴史と現状について説明できる。
裾野の広い産業、200海里水域、漁獲量減少、持続可能な漁業管理、養殖の拡大
10
8
水産と海洋生態
★★普通
沿岸域と沖合・外洋域に分けて水産生物の生態と海洋生態
回遊、多産型繁殖戦略、産卵期保護、小型浮魚、鍵種、生活史、資源量変動、海のゆりかご、相互依存、過剰漁獲、生態系アプローチに基づく漁業管理、生態系サービス
10
9,10
漁業資源管理と水産増養殖
★★★難しい
漁業資源の管理について、水産養殖の観点も含めて、その取り組みについて説明できる。
IUU漁業、国連海洋法条約、地域漁業管理機関、国連海洋法条約、SDGs(目標14:海の豊かさを守ろう)、MSC認証、国際合意、生活史の理解、種苗生産技術、閉鎖循環式養殖、遺伝資源、疾病管理、養殖拡大、スマート養殖
5
11,12
水産加工・流通とフードシステム
★★★難しい
水産加工・流通の基礎について説明できる。
水産加工、急速凍結、産地直送、水産物流通の多段階構造、コールドチェーン、付加価値、食品安全
5
14
総合考察
★★★難しい
持続可能な水産業について、海洋生態系や基本的な環境問題の観点も含めえて説明できる。
富栄養化(赤潮・青潮)、重金属汚染、マイクロプラスチック、ゴーストフィッシング、魚種分布の変化、適応的漁業管理、海洋酸性化、マイクロプラスチック、気候変動、生態系変動、生態系アプローチ型漁業管理、技術革新(AI・衛星データ活用)、IUU漁業排除、ブルーエコノミー
10
13,15
評価方法
試験(100%)により評価する。
評価基準
評語
学習目標をほぼ完全に達成している・・・・・・・・・・・・・
S (100~90点)
学習目標を相応に達成している・・・・・・・・・・・・・・・
A (89~80点)
学習目標を相応に達成しているが不十分な点がある・・・・・・
B (79~70点)
学習目標の最低限は満たしている・・・・・・・・・・・・・・
C (69~60点)
学習目標の最低限を満たしていない・・・・・・・・・・・・・
D (60点未満)
教科書
指定の教科書はありません。
参考文献
【総合・基礎】 ・多田邦尚ほか著 『海洋科学入門』恒星社厚生閣 、2014・Carol M. Lalli and Timothy R. Parsons著, 關文威【監訳】,長沼毅【訳】『生物海洋学入門』講談社、2005・佐藤慎一・山口敦子(編著)『海洋学入門』東京大学出版会,2018年. • 日本海洋学会(編)『海洋環境科学』朝倉書店,2013年.生物海洋学【水産資源・漁業管理】 • 長谷川均『水産資源学』恒星社厚生閣,2016年. • 東京大学海洋研究所(編)『漁業資源とその管理』恒星社厚生閣,2005年. 【増養殖・沿岸生態系】 • 中田英昭(編著)『養殖の科学』恒星社厚生閣,2017年. • 黒倉壽(監修)『日本の藻場と干潟』恒星社厚生閣,2011年. 【海洋環境と社会】 • 藤田敏彦『海洋と地球環境』共立出版,2014年. • 有馬郷司『海洋政策と国際法』日本評論社,2020年. 【加工・流通・文化】 • 浜田光『水産食品学』恒星社厚生閣,2012年. • 日本水産学会(編)『水産学シリーズ』恒星社厚生閣(各巻).
実験・実習・教材費
教材費はありません。