区分
農業フィールド科目
ディプロマ・ポリシーとの関係
自然と生物の専門知識
フィールド生物調査
環境データ解析
自然共生社会
カリキュラム・ポリシーとの関係
教養
分析思考
実践技能
フィールド間連携
カリキュラム全体の中でのこの科目の位置づけ
フィールド自然学科は、自然と人間が共存できる社会を目指し、科学的知見に基づいた教育と研究を行っています。陸域・水域・農業の3つの分野についてくわしく学び、さらに統計データ解析や幅広い教養を育むカリキュラムを編成しています。また、柔軟な考え方や実践的な提案をする力を育てるために、学科共通の授業や複数の分野に関わる授業も用意されています。これにより、幅広い視野を持ち、さまざまな課題に対応できる人材を育成します。
農業地理学は「農業がどこでどのように行われ、その土地や人々にどう影響を与えるか」を学ぶ学問です。たとえば、どの地域でどんな作物が育てられているのか、なぜその場所でその作物が育ちやすいのかを理解するために、気候や土地の特徴、水の利用などを調べます。また、農業が環境や人々の生活にどんな影響を与えているかも考えます。農業地理学を学ぶことで、世界中の農業の発展や課題について理解が深まり、例えば食料問題や環境問題を解決するためにどんな方法が必要かを考える助けになります。
本科目である「農業地理学」は、最初に身につけるべき農業を見る視点を育てる基礎科目となっています。この科目の中心となる問いは、「なぜ、ある地域でその農業が行われているのか?」です。たとえば、宇和島市で段々畑による柑橘(かんきつ)栽培が行われているのはなぜなのか。佐渡島で水田とトキの共生(きょうせい)が進んでいるのはなぜなのか。こうした問いを通して、農業という営みが「地形」、「気候」、「土壌」、「水」、「生物」などの自然環境とどのように関わりながら成り立っているのかを地理的に理解していきます。この視点は、2年次以降に学ぶ「土壌生態学」や「農業生態学」、さらには3年次の「生産環境学」、「環境保全型農業」、「農生物演習」「農環境演習」など専門的かつ実践的な学びにおいて不可欠な土台となります。また、卒業後に地域で農業や環境保全に関わる場面でも、地理的に説明できる力が役立つでしょう。
科目の目的
この授業では、「なぜ、この場所でこの農業が行われているのか?」という問いから出発します。農業は、自然環境(山や川、土、気候)と人の暮らしがかかわり合って成り立っています。ある地域にお米が多いのはなぜか、果物が多いのはなぜか。その理由を、地形や気温、雨の量、土の質、そこで暮らす生き物や文化などを手がかりにして考えていきます。
この科目は、1年生で受ける「農業基礎演習Ⅰ・Ⅱ」などの基礎科目と連動しており、農業の現場で必要となる地理の目を育てる役割をもっています。この視点は、2年生以降に学ぶ「土壌生態学」、「農業生態学」などでの応用学習につながり、3年生の「農生物演習」や「農環境演習」では、現場の課題に対応するための思考力の土台にもなります。また、この科目は社会的にも大切な意味を持っています。気候変動や生物多様性の減少、地域農業の衰退といった問題は、いずれも「その土地に合った農業とは何か」を考え直すことからはじまります。農業地理学を学ぶことは、環境を守り、地域を元気にし、世界の食と暮らしを支える力を身につけることでもあります。
到達目標
この授業をすべて終えたとき、学生には次のような力が身についていることを目指します。
(1) 農業地理学の基本的な考え方を理解し、「なぜこの場所でこの農業が行われているのか?」という問いに対して、自分の言葉で説明できる。
(2) 地形・気候・土壌・水・生き物など、自然環境の違いが農業のあり方にどう影響するかを、国内外の具体的な事例を使って論理的に説明できる。
(3) 気候変動や生物多様性の減少など、農業を取り巻く現代の問題に対して、地理的な視点からその原因や影響を考察できる。
(4) 自分が暮らす地域や、調査した土地において「どのような農業がその土地に合っているか」を考え、自然と人とのよりよい関係を提案できる。
(5) 地理的な視点を使い、農業政策や環境保全などのテーマについて、科学的な根拠にもとづいて意見を述べることができる。
これらの力を身につけることにより、学生は農業や環境に関する課題に対して、自分なりの視点を持ち、論理的に説明し、他者と共有できるようになります。
科目の概要
本科目「農業地理学」では、「なぜこの地域でこの農業が行われているのか?」という問いを軸に、農業という営みが自然環境(地形・気候・土壌・水・生き物)や社会経済的背景(地域文化・政策・市場など)とどのように関わってきたのかを、地理的な視点から考えていきます。本学カリキュラムにおける(基盤形成期)に位置づけられる本科目は、1年次前期に開講され、以後の「土壌生態学」、「農業生態学」、「農生物演習」、「農環境演習」などの専門・実践科目へとつながる基本的な思考枠組みを提供します。
本科目の授業構成は、全15回を三つの部に分けて構成しています。第1回~第4回までは、農業地理学の基本的な概念を学ぶ〈第一部〉とし、「農業を地理的に見るとはどういうことか」、「自然条件と農業の関係とは何か」といった問いに答えながら、科目全体の見取り図を描いていきます。第5回~第10回は〈第二部〉にあたり、日本の農業遺産地域(宇和島、佐渡、大崎、新潟中越、掛川など)を事例に、地域ごとの自然と農業のつながりを考察します。第11回~第15回の〈第三部〉では、長良川、白山、阿蘇といった地域を事例に、第二部で学んだ視点をさらに発展させ、「自然とともにある農業」をより深く、多面的に考察します。清流・豪雪・火山など、異なる自然環境のもとで育まれてきた農業のしくみや文化を通して、農業と信仰、農と地域社会の結びつき、さらには持続可能な農業とは何かというテーマに踏み込みます。
この授業を通して、学生は地図や統計データ、事例を活用しながら、農業が自然とどう向き合ってきたか、地域の暮らしとどのように結びついてきたかを読み取る力を養っていきます。農業を「場所」と「人」と「環境」のつながりから捉える視点を身につけ、次の専門科目への橋渡しとして活用していきます。
科目のキーワード
自然環境と農業の関係(地形、気候、土壌、水資源、生物多様性)、農業の地域特徴(段々畑、棚田、農業遺産、用水路)、現代課題の展望(アグロエコロジー、スマート農業、持続可能性、食料安全保障、地域特性、農村景観)
授業の展開方法
毎回の授業では、Wordで作成したオリジナルテキスト(PDF版)を配布し、その内容に沿って授業を進めていきます。テキストは、コマシラバスの「コマ主題細目」に対応した章立てとなっており、各コマは「解説」「練習問題」「まとめ」の三つの要素で構成されています。
授業の最初の10分間では、当該回で取り扱う内容の全体像を概観し、そのコマで学習すべき重要事項や学習のポイントを明示します。続く60分間では、コマ主題細目に沿って、細目レベルに関する解説を行い、その内容を踏まえた練習問題を解くことで理解度を確認します。その後、各コマ主題細目に要点を整理し、まとめを行います。これを授業回ごとに繰り返すことで、知識を段階的に積み重ね、系統的な理解へと導きます。
授業の終盤10分間には、その回の内容全体を振り返り、学んだことを整理します。最後に小テストを実施し、理解度を客観的に確認したうえで、解答と解説を行います。
授業終了後には、次回までに復習を行うことが求められます。配布オリジナルテキストの解説や練習問題を見直すだけでなく、ChatGPTを活用して、自ら20問程度の練習問題を作成・解答することで理解を深めます。さらに、その解答と解説を確認することで、より確実に知識を定着させることができます。
オフィス・アワー
甲斐貴光:【前期】
農業基礎演習Ⅰ
農業地理学
基礎ゼミナールⅠ
土壌生態学
インターンシップⅠ
全科目:月曜昼~4限
【後期】
農業基礎演習Ⅱ
基礎ゼミナールⅡ
全科目:月曜1・2限
三瓶真:【前期】
地球環境学火曜3・4限
基礎ゼミナールⅠ木曜5限
【後期】
海洋と水産の科学月曜5限
海洋学演習金2限・5限
基礎ゼミナールⅡ火曜4・5限
松原慧:【前期】
情報リテラシーⅠ金曜5限
農業基礎演習月曜4限
基礎ゼミナールⅠ木曜4限
【後期】
情報リテラシーⅡ金曜5限
農業基礎演習Ⅱ月曜5限
基礎ゼミナールⅡ火曜5限
昆虫生態学水曜5限
科目コード
TF1010
学年・期
1年・前期
科目名
農業地理学
単位数
2
授業形態
講義
必修・選択
必修
学習時間
【授業】90分×15 【予習】90分以上×15 【復習】90分以上×15
前提とする科目
展開科目
関連資格
担当教員名
甲斐貴光・三瓶真・松原慧
回
主題
コマシラバス項目
内容
教材・教具
1
【農業地理学の概要】~なぜその場所でその農業なのか? にし阿波の傾斜地農耕システム(徳島県西部)から考える~
科目の中での位置付け
本科目「農業地理学」では、「なぜこの地域でこの農業が行われているのか?」という問いを軸に、農業という営みが自然環境(地形・気候・土壌・水・生き物)や社会経済的背景(地域文化・政策・市場など)とどのように関わってきたのかを、地理的な視点から考えていきます。カリキュラムにおける(基盤形成期)に位置づけられる本科目は、1年次前期に開講され、以後の「土壌生態学」、「農業生態学」、「農生物演習」などの専門・実践科目へとつながる基本的な思考枠組みを提供します。
本科目の授業構成は、全15回を三つの期に分けて構成しています。第1回~第4回までは、農業地理学の基本的な概念を学ぶ〈導入期〉とし、「農業を地理的に見るとはどういうことか」「自然条件と農業の関係とは何か」といった問いに答えながら、科目全体の見取り図を描いていきます。第5回~第10回は〈展開期〉にあたり、日本の農業遺産地域(宇和島、佐渡、大崎、新潟中越、掛川など)を事例に、地域ごとの自然と農業のつながりを考察します。第11回~第15回は〈応用期〉として、長良川、白山、阿蘇といった地域を事例に、第二部で学んだ視点をさらに発展させ、「自然とともにある農業」をより深く、多面的に考察します。
このように構成された本科目のなかで、第1回は「導入期」の第1回目、すなわち農業地理学という学問がどのような問いを出発点とし、なぜいま重要なのかを全体に先立って明らかにする役割を果たします。今後の各地域事例や世界との比較を深く理解するためにも、本コマで「農業=自然と人の相互作用」という見方をしっかりと土台に据えることが求められます。
(1) 池田定彦『農業地理学入門』、古今書院、2007年、 1-30頁、50-80頁、120-150頁
(2) 武内裕『現代農業と環境』、筑摩書房、2004年、40-80頁、100-140頁
(3) 平田純一『農業と環境』、有斐閣、2001年、45-80頁、90-120頁、160-190頁
(4) 佐藤正明『日本農業の環境と発展』、農文協、2006年、70-100頁、p150-180
コマ主題細目
① 農業地理学とは何を見る学問か:自然条件・空間・人間活動の関係を読む視点 ② にし阿波の傾斜地農耕システム:急傾斜地に適応した雑穀農業の知恵 ③ にし阿波から読み解く農業地理学の構造:自然 × 技術 × 社会 × 制度の相互関係
細目レベル
① この細目では、農業地理学を「農業の紹介」ではなく、「農業を空間的関係の中で説明する学問」として理解させるところまで掘り下げます。まず、「どこで・なぜ・どのように」という三つの基本問いを提示し、自然条件(地形・気候・水)が農業の種類や方法を左右することを理論的に説明します。次に、作物分布の偏りや土地利用の違いをスライド図で示し、「農業は場所によって違う」という事実を視覚的に理解させます。その上で、自然条件だけでなく、技術・社会・制度も含めて地域を“システム”として捉える視点を提示します。事例(にし阿波)はあくまで説明素材とし、理論の枠組みを示すことを中心とします。
② この細目では、にし阿波を単なる事例紹介に終わらせず、「自然条件が農業の形を方向づける」という地理学的因果関係を理解させるところまで掘り下げます。まず四国山地の急傾斜地(30~40度に及ぶ斜面)という地形条件を地形図や写真で示し、水田が不利である理由(水保持の困難さ、土壌流亡の危険)を説明します。次に、雑穀中心の畑作へと適応した作物選択の合理性を示します。さらに石積み畑や等高線方向の耕作などの技術を紹介し、これが土壌流亡防止と持続性を支えていることを解説します。最後に、共同作業や労働力確保の仕組み、世界農業遺産として評価された「持続的システム」という観点まで整理します。方法は写真・地形図・因果関係図による講義中心とします。
③ この細目では、にし阿波の事例を再整理し、農業地理学の基本構造を理論として抽出するところまで掘り下げます。まず「急傾斜地」という自然条件が雑穀中心の作物選択を生み、それに対応する石積み畑などの技術が発達した因果関係を明示します。次に、傾斜地農耕が分散型集落や労働協力の形を生み、そこから共同体的制度や文化が形成された流れを図式化して示します。単なる列挙ではなく、「自然→技術→社会→制度」という連鎖構造として解説教材や黒板で整理します。最後に、この循環的関係が持続可能性として評価され、世界農業遺産に認定されたことを示し、農業地理学が“地域システムの解明”であると理論的にまとめます。
キーワード
① 自然条件(地形・気候・水) ② 作物選択(雑穀中心) ③ 適応技術(石積み・土壌流亡防止) ④ 共同体・制度(労働協力・地域管理) ⑤ 地域システム(自然×技術×社会の連関)
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回授業時間内に、ヨリソル上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
◆今回授業の復習
第1回では、「なぜその場所でその農業なのか」という問いに、自分の言葉で答えられるようになることを目標とする。にし阿波の事例を用いて、①急傾斜地という自然条件、②雑穀中心となった作物選択、③石積み畑などの技術、④共同体による支え、がどのようにつながっているかを因果関係で整理すること。単なる特徴の暗記ではなく、「自然条件が変われば農業も変わる」という地理学的思考を確認する。また、「農業地理学とは何を明らかにする学問か」を一文でまとめられるようにしておくことが重要である。
◆次回授業の予習
次回は「愛媛県宇和島市」の農業を取り上げます。この地域は、海に面しながらも山が迫る地形で、段々畑を使った柑橘類の栽培がさかんです。そこでの農業は、単に作物を育てるだけでなく、地域の文化や景観(闘牛、城跡、里海など)とも深く関わっています。事前に「段々畑とは何か」「なぜ斜面でみかんが育てられるのか」「愛媛・南予の柑橘農業システム(日本農業遺産 H30)」の意味を調べておきましょう。宇和島の地形図や写真を見て、どんな自然条件があるかを想像してみるのも良い準備となります。
2
【自然と農業のかかわりを見つめる① ~段々畑・里海・闘牛・城跡と柑橘(カンキツ)農業(愛媛県宇和島市)~】
科目の中での位置付け
本科目「農業地理学」では、「なぜこの地域でこの農業が行われているのか?」という問いを軸に、農業という営みが自然環境(地形・気候・土壌・水・生き物)や社会経済的背景(地域文化・政策・市場など)とどのように関わってきたのかを、地理的な視点から考えていきます。カリキュラムにおける(基盤形成期)に位置づけられる本科目は、1年次前期に開講され、以後の「土壌生態学」、「農業生態学」、「生産環境学」、「環境保全型農業」、「農生物演習」、「農環境演習」などの専門・実践科目へとつながる基本的な思考枠組みを提供します。
本科目の授業構成は、全15回を三つの期に分けて構成しています。第1回~第4回までは、農業地理学の基本的な概念を学ぶ〈導入期〉とし、「農業を地理的に見るとはどういうことか」「自然条件と農業の関係とは何か」といった問いに答えながら、科目全体の見取り図を描いていきます。第5回~第10回は〈展開期〉にあたり、日本の農業遺産地域(宇和島、佐渡、大崎、新潟中越、掛川など)を事例に、地域ごとの自然と農業のつながりを考察します。第11回~第15回は〈応用期〉として、長良川、白山、阿蘇といった地域を事例に、第二部で学んだ視点をさらに発展させ、「自然とともにある農業」をより深く、多面的に考察します。
第2回の授業「段々畑・里海・闘牛・城跡と柑橘(カンキツ)農業(愛媛県宇和島市)」は、農業地理学という学問の基本を学んだ第1回をふまえて、実際の地域を取り上げる最初の具体的なケーススタディに位置づけられます。この回では、地形(急傾斜地)、気候(温暖多雨)、土壌(水はけの良い土質)、そして沿岸部という自然条件が、柑橘類の段々畑栽培という農業形態を支えていることを、地理的に読み解く力を養います。また、「愛媛・南予の柑橘農業システム」が日本農業遺産(H30)に認定された背景には、長い時間をかけて人と自然が築いてきた関係性があることを学びます。さらに、この地域の農業は、闘牛や城跡といった文化資源や景観とも結びついており、農業が単なる「生産」ではなく、地域の暮らしとどのように結びついているかを考察する導入となります。こうした自然・文化・農業のつながりが明確に表れており、地理的視点を具体的に養うには最適な地域であることから、宇和島を第1の事例として採用しています。
(1) 池田定彦『農業地理学入門』、古今書院、2007年、50–60頁「日本の農業地域と地形の関係」:宇和島における傾斜地農業や段々畑の地理的成り立ちを理解するための基礎資料。
(2) 佐藤正明『日本農業の環境と発展』、農文協、2006年、70–85頁:宇和島に代表される中山間地域の農業の工夫と課題についての理解を深める。 150–160頁「農業と地域文化・景観資源」:農業が地域文化(闘牛・城跡など)とどのように結びついているかを読み解く視点を提供する。
(3) 愛媛県農林水産部資料・宇和島市教育委員会発行パンフレット:宇和島の地形、柑橘農業、段々畑の構造、地域文化(闘牛・里海など)に関する写真・図版・統計資料など。
コマ主題細目
① 傾斜地農業と段々畑のしくみ:地形に適応した農業技術の理解 ② 柑橘(カンキツ)類と宇和島の自然条件:気候・土壌・水資源の活用と選択の背景 ③ 農業と地域文化の融合:闘牛・城跡・里海と農の景観的価値
細目レベル
① 宇和島市に広がる段々畑が、どのように急傾斜地という地形に適応して築かれてきたのかを、地理的に掘り下げて学びます。具体的には、段々畑の構造、水の流れの調整法、石垣や排水技術などの伝統的な工夫を図解・写真で紹介し、それが柑橘栽培にどのように貢献してきたのかを理解させます。目標としては、「なぜ平地ではなく斜面で柑橘が育てられているのか?」という問いに対し、地形・土壌・気候の視点を組み合わせて自分の言葉で説明できることを目指します。方法としては、講義と図解のほか、斜面農業と平野農業の比較表を作成する簡単なワークを通して、自然条件への人の適応力を具体的に考える力を育てます。
② 「なぜ宇和島では柑橘類がさかんに栽培されているのか」を自然条件との関連から理解します。気候(黒潮の影響による温暖多雨)、土壌(火山灰性で水はけがよい)、海と山が近接した複雑な地形などが、柑橘栽培にどのように適しているのかを、データや地図をもとに丁寧に分析します。学習目標は、農作物と自然条件のマッチングの視点を育て、「その土地に合った作物とは何か」を考えられるようになることです。方法としては、複数の作物(例:稲、小麦、柑橘など)と自然条件の比較表を作成したり、簡単な気候グラフを読み取るワークを行ったりします。さらに、地域ブランド化(例:宇和島みかん)の背景としての地理的優位性にも触れ、農業と地域経済のつながりを理解させます。
③ 宇和島の農業が、単に作物の生産にとどまらず、地域の文化や景観とも深く関わっていることを考察します。たとえば、闘牛文化や宇和島城跡などが、農村の景観や観光資源としての農業の新しい役割を担っていること、そして「里海」と呼ばれる沿岸の海とのつながりが、地域の自然と暮らしを支えていることを学びます。「文化的景観」や「農業遺産」といった用語も導入し、農業が人と自然と文化をつなぐ営みであることを理解させます。目標は、農業を「風景」や「暮らし」の一部として捉え直し、自分の地域や身近な場所においても同じような価値があるかを考える視点をもつことです。
キーワード
① 段々畑(だんだんばたけ) ② 傾斜地農業(けいしゃちのうぎょう) ③ 柑橘類(かんきつるい) ④ 文化的景観 ⑤ 日本農業遺産
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回授業時間内に、ヨリソル上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
◆今回授業の復習
宇和島の農業について、「なぜ山の斜面でみかんを育てているのか?」をもう一度考えてみましょう。雨が多く、土の水はけがよい土地だからこそ、段々畑が生かされてきたという話がありました。また、農業が自然だけでなく、地域の文化(たとえば闘牛や城跡)ともつながっていることを思い出してください。そうした「自然と人とのかかわり」が、日本農業遺産として高く評価されている理由のひとつです。
◆次回授業の予習
次回は、宮崎県の高千穂郷と椎葉村(たかちほごう・しいばむら)を中心とした山間地域の農業について学びます。この地域は、山の斜面を活かしながら、森林とともに暮らす農業が今でも受けつがれている場所です。昔から行われてきた「焼き畑(やきはた)」や「複合的な農林業」の知恵に注目します。事前に地図で高千穂町と椎葉村の場所を確認しておき、「山の中で農業を続けるには、どんな工夫や知恵が必要なのか?」という問いを考えてみましょう。また、「高千穂郷・椎葉山の山間地農林業複合システム」が世界農業遺産に認定された理由についても、インターネットなどで少し調べてみましょう。
3
自然と農業のかかわりを見つめる② ~神話の里と山間地の知恵(宮崎県高千穂郷・椎葉村(たかちほごう・しいばそん)を中心とした山間地域)~】
科目の中での位置付け
本科目「農業地理学」では、「なぜこの地域でこの農業が行われているのか?」という問いを軸に、農業という営みが自然環境(地形・気候・土壌・水・生き物)や社会経済的背景(地域文化・政策・市場など)とどのように関わってきたのかを、地理的な視点から考えていきます。本学カリキュラムにおける「基盤形成期」に位置づけられる本科目は、1年次前期に開講され、以後の「土壌生態学」「農業生態学」「農生物演習」などの専門・実践科目へとつながる基本的な思考枠組みを提供します。
本科目の授業構成は、全15回を三つの期に分けて構成しています。第1回~第4回までは、農業地理学の基本的な概念を学ぶ〈導入期〉とし、「農業を地理的に見るとはどういうことか」「自然条件と農業の関係とは何か」といった問いに答えながら、科目全体の見取り図を描いていきます。第5回~第10回は〈展開期〉にあたり、日本の農業遺産地域(宇和島、佐渡、大崎、新潟中越、掛川など)を事例に、地域ごとの自然と農業のつながりを考察します。第11回~第15回は〈応用期〉として、長良川、白山、阿蘇といった地域を事例に、第二部で学んだ視点をさらに発展させ、「自然とともにある農業」をより深く、多面的に考察します。
第3回は、第1回で学んだ農業地理学の基本視点と、第2回での傾斜地農業(宇和島市)をふまえて、もう一つの地域事例である山間地域の農業を学ぶ回です。ここで「山のくらしと農業」を知ることで、日本の農業が自然環境に合わせて多様に発展してきたことがより実感できます。この授業では、焼畑農業や森林と一体となった暮らしのあり方を通じて、人が自然をただ「利用する」のではなく、「共に生きている」ことを学びます。農業は生産だけでなく、文化や生き方とつながっているという視点が深まる回です。高千穂郷・椎葉村は、山間地農業の伝統的な知恵と自然との共生が色濃く残る地域であり、世界農業遺産にも認定されていることから、山地農業の代表的事例として取り上げます。
(1) 池田定彦『農業地理学入門』、古今書院、2007年、55–60頁「中山間地農業の多様性」:高千穂郷・椎葉村に代表される山間地農業の立地や農法の多様性を理解するための基礎資料となる。
(2) 佐藤正明『日本農業の環境と発展』、農文協、2006年、80–95頁「焼畑と農業の循環性」:椎葉村などで行われてきた焼畑農業の知恵や環境との関係を学ぶ。
(3) 農林水産省ウェブサイト掲載「世界農業遺産 GIAHS」紹介ページ:特に「高千穂郷・椎葉山の山間地農林業複合システム」に関する解説資料(PDF)を活用し、世界農業遺産として評価された理由(共生・多様性・持続性)を具体的に学ぶ。
コマ主題細目
① 山間地農業の特徴と焼畑の知恵 ② 森林と共にある農と暮らし(農林業複合) ③ 世界農業遺産としての高千穂郷・椎葉村を中心とした山間地域の価値
細目レベル
① 高千穂郷や椎葉山で行われてきた「焼畑農業」について学びます。焼畑は、山の森林を一時的に焼いて畑にする農業ですが、自然をこわすものではなく、数年おきに土地を休ませて森に戻す「循環型」の知恵です。学生は、焼畑の手順(伐採→乾燥→焼き払い→畑→休ませる)とその目的を図や映像を通じて学びます。さらに、現代の農業と違って「自然と相談しながら行う」農業の姿を、焼畑の暮らしとともに理解します。学習レベルとしては、なぜ山間地ではこうした農業方法が選ばれたのかを、地形や交通の難しさ、生物多様性などをふまえて説明できることを目指します。
② 「農業」と「林業」が切り離されずに行われてきた「農林業複合」のしくみを学びます。高千穂・椎葉では、畑での作物づくりに加え、山から木材や燃料、山菜などを得ながら、山とともに生活するスタイルが続いてきました。これを通して、「農業は土地だけでなく、山や森とも深くつながっている」という視点を持ちます。学生には、農業を「森の中でのくらしの一部」として考えることで、都会の農業イメージとの違いを知ってもらいます。学習目標は、「農業と林業がどう協力しあっているか」を、具体的な事例(例:畑の肥料は落ち葉/木の皮は薪)をもとに説明できることです。
③ 「高千穂郷・椎葉山の山間地農林業複合システム」が世界農業遺産に登録された理由を考えます。授業では、「何が遺産として守られる価値があるのか?」という問いを出発点に、自然と人との長い共生の歴史、暮らしと文化のつながり(神楽や棚田の景観)、生物多様性の維持などを紹介します。学生は、単に「昔から続く農業だからすごい」のではなく、「環境と文化の両方を大切にしてきたこと」が評価されていると理解します。高千穂郷と椎葉村を中心としたこの山間地域は、傾斜地での農業、森林と共にある暮らし、焼畑の技術など、日本の山地農業の原型とも言える知恵が今なお受け継がれていることから、事例として非常に重要です。
キーワード
① 焼畑農業 ② 山間地農業 ③ 森林と農業の共生 ④ 農林業複合 ⑤ 世界農業遺産
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回授業時間内に、ヨリソル上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
◆今回授業の復習
高千穂や椎葉では、山の中で焼畑農業や林業と農業を組み合わせた暮らしが行われてきました。復習として、「なぜ平らな土地ではなく、山の中で農業をしていたのか」「焼畑や山の恵みをどう使っていたのか」を、地形や暮らしと結びつけて説明できるようにしましょう。また、世界農業遺産に選ばれた理由として、「自然と無理なくつきあう暮らし」「文化や神話とつながる農の風景」が大切にされていることを、図や言葉で整理しておきましょう。
◆次回授業の予習
次回は、「農業遺産ってなんだろう?」というテーマで、農業地理学の中で大切な制度である「世界農業遺産」と「日本農業遺産」の違いや意味を考えます。そのために、今回学んだ高千穂・椎葉の例を思い出しながら、「農業にはどんな価値があるのか?」「なぜ守るべきなのか?」という問いを持ってきてください。予習として、農林水産省のウェブサイトにある「農業遺産」のページを見たり、他の認定地域(例:佐渡、能登など)を一つ調べて、どんな特徴があるかメモしておくと理解が深まります。
4
【自然と農業のかかわりを見つめる③ ~農業遺産って何? 世界と日本の視点から考える~】
科目の中での位置付け
本科目「農業地理学」では、「なぜこの地域でこの農業が行われているのか?」という問いを軸に、農業という営みが自然環境(地形・気候・土壌・水・生き物)や社会経済的背景(地域文化・政策・市場など)とどのように関わってきたのかを、地理的な視点から考えていきます。本学カリキュラムにおける「基盤形成期」に位置づけられる本科目は、1年次前期に開講され、以後の「土壌生態学」「農業生態学」「農生物演習」などの専門・実践科目へとつながる基本的な思考枠組みを提供します。
本科目の授業構成は、全15回を三つの期に分けて構成しています。第1回~第4回までは、農業地理学の基本的な概念を学ぶ〈導入期〉とし、「農業を地理的に見るとはどういうことか」「自然条件と農業の関係とは何か」といった問いに答えながら、科目全体の見取り図を描いていきます。第5回~第10回は〈展開期〉にあたり、日本の農業遺産地域(宇和島、佐渡、大崎、新潟中越、掛川など)を事例に、地域ごとの自然と農業のつながりを考察します。第11回~第15回は〈応用期〉として、長良川、白山、阿蘇といった地域を事例に、第二部で学んだ視点をさらに発展させ、「自然とともにある農業」をより深く、多面的に考察します。
第4回は、導入期(第1回〜第4回)のまとめとなる回であり、農業地理学の基本的な問いから農業の価値を考える方向へと視野を広げる大切なコマです。これまでの回で学んだ、農業と自然環境の関わり(地形・気候・土壌・水)をふまえて、今回は「農業はどうして守られるべきものなのか?」という視点に立ちます。世界農業遺産や日本農業遺産という制度を通して、農業がもつ文化的・歴史的・環境的価値に気づき、「なぜ残すべき農業があるのか」を地理的な視点で考えます。次回の第5回「能登の里山里海」は、世界農業遺産認定第1号地域であるため、この回で「農業遺産」という考え方をしっかり学んでおくことが、その理解に直結します。
(1) 池田定彦『農業地理学入門』、古今書院、2007年、120–130頁:「農業景観と文化的価値」:高千穂郷・椎葉村の農業が、地域の風景や文化とどのように結びついているかを読み解く視点を提供する。145–150頁:「農業の多面的機能と持続可能性」:農業が生産活動を超えて、環境保全や文化継承などにも果たす役割を理解するための理論的基盤となる。
(2) 農林水産省・世界農業遺産(GIAHS)事務局公式パンフレット、「GIAHSとは」紹介ページおよび日本国内の認定事例リストを活用し、「高千穂郷・椎葉山の山間地農林業複合システム」が世界農業遺産として評価された理由(自然との共生、多様な生業、長期的な持続性)を学ぶ。
(3) 佐藤正明『日本農業の環境と発展』、農文協、2006年、150–160頁:「農業遺産と地域社会」:山間地域における農業と地域文化の深いつながりを理解し、農業遺産という制度がもつ意義を考える資料となる。
コマ主題細目
① 農業遺産とは何か?:世界と日本の制度を比べてみよう ② なぜ古い農業が遺産になるのか?:価値の見つけ方 ③ 守りながら続ける農業:持続可能性と農業地理学のつながり
細目レベル
① FAO(国連食糧農業機関)が認定する「世界農業遺産」と、日本独自の「日本農業遺産」の制度について、成立の背景・目的・対象の違いを理解します。授業では、能登、佐渡、掛川などの認定地域を簡単に紹介しながら、どのような農業が“守るべきもの”とされるのかを考えます。学習レベルは、「世界農業遺産と日本農業遺産の違いを図や表を使って説明できること」を目標とします。
② 「農業=食べものを育てる」だけではなく、「地域の景観・文化・技術・生物多様性」なども農業の価値であることを学びます。たとえば、棚田の美しさ、段々畑の水管理技術、里山と共生する生活などが、それに当たります。学生には、自分の地元にある農業風景にも価値があるかもしれないと気づかせる内容とします。レベルとしては、「価値とは何か?」「価値をどう見つけるか?」という問いに対し、具体的な例とともに意見を言えることを目指します。
③ 農業遺産が「博物館のように残すためのもの」ではなく、「今も続ける、未来に伝える農業」であるという考え方を理解します。世界各地で農業が消えていく中で、地域に根ざした農業を守ることが、食料の安定や環境保全にもつながると紹介します。「守りながら続けるにはどんな工夫があるか?」を学びます。レベルとしては、「農業の持つ環境・文化・景観・経済のバランスを意識して考えられる」ことを目指します。
キーワード
① 世界農業遺産 ② 日本農業遺産 ③ 文化的景観 ④ 農業の多面的価値 ⑤ 持続可能な農業
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回授業時間内に、ヨリソル上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
◆今回授業の復習
今日の授業では、「農業遺産」という言葉の意味を学びました。復習として、「世界農業遺産と日本農業遺産の違い」「農業にどんな価値があるのか」「なぜそれを守る必要があるのか」を、自分のことばで説明できるようにしましょう。農業はただの食料生産ではなく、長い時間をかけて自然と人が作り上げてきた「地域の知恵」だということを忘れないようにしてください。
◆次回授業の予習
次回は、世界農業遺産のひとつ「能登の里山里海」を学びます。そこでは、山と海が近くにあり、棚田・漁業・林業などがつながって、ひとつの循環する暮らしができています。予習として、「里山・里海」という言葉の意味を調べておきましょう。また、能登が世界農業遺産の第1号に選ばれた理由(自然との共生・多様な生業・生物多様性の保全)を簡単にメモしておくと、授業での理解が深まります。
5
【地域に根ざす農業の知恵① ~海と山に寄り添う里山里海の農業(石川県能登地域)~】
科目の中での位置付け
本科目「農業地理学」では、「なぜこの地域でこの農業が行われているのか?」という問いを軸に、農業という営みが自然環境(地形・気候・土壌・水・生き物)や社会経済的背景(地域文化・政策・市場など)とどのように関わってきたのかを、地理的な視点から考えていきます。本学カリキュラムにおける「基盤形成期」に位置づけられる本科目は、1年次前期に開講され、以後の「土壌生態学」「農業生態学」「農生物演習」などの専門・実践科目へとつながる基本的な思考枠組みを提供します。
本科目の授業構成は、全15回を三つの期に分けて構成しています。第1回~第4回までは、農業地理学の基本的な概念を学ぶ〈導入期〉とし、「農業を地理的に見るとはどういうことか」「自然条件と農業の関係とは何か」といった問いに答えながら、科目全体の見取り図を描いていきます。第5回~第10回は〈展開期〉にあたり、日本の農業遺産地域(宇和島、佐渡、大崎、新潟中越、掛川など)を事例に、地域ごとの自然と農業のつながりを考察します。第11回~第15回は〈応用期〉として、長良川、白山、阿蘇といった地域を事例に、第二部で学んだ視点をさらに発展させ、「自然とともにある農業」をより深く、多面的に考察します。
この授業は、「農業遺産って何?」を学んだ前回の内容をもとに、世界農業遺産(GIAHS)に選ばれた「能登の里山里海」を例にして、実際の地域の中で、農業が自然とどうつながっているのかをくわしく見ていく回です。能登では、山の段々畑(棚田)で米を作り、海の近くで漁をし、森からは木や落ち葉を使うという、「自然とともにある暮らし」が今でも残っています。この回では、そのしくみを「山・川・海」という流れで考えるとともに、「農業が地域の自然や文化とどんなふうに関わっているのか」を考えるきっかけになります。今後学ぶ佐渡や大崎などの地域事例を理解するための大切なステップになります。能登は、日本で初めて世界農業遺産に認定された地域であり、山・川・海の自然循環と、農業・漁業・林業の複合的な関係が明確に見えることから、農業と自然・文化のつながりを学ぶ最初の事例としてふさわしい地域です。
(1) 池田定彦『農業地理学入門』、古今書院、2007年、60–70頁:「棚田と中山間地の農業」:能登地域における傾斜地農業と水の使い方の理解に役立つ。130–135頁:「農業と地域文化・環境のつながり」:里山・里海に根ざした農業の文化的背景と地域との関係を学ぶ視点を提供する。
(2) 武内裕『現代農業と環境』、筑摩書房、2004年、100–115頁:「里山・里海と環境のつながり」:能登における農業と自然の循環的な関係性(山・川・海のつながり)を理解するための基礎資料。
(3) 農林水産省 GIAHS資料、「能登の里山里海」紹介ページおよび認定理由を記した解説資料:世界農業遺産としての価値(多様性・共生・持続可能性)を具体的に学ぶ。
コマ主題細目
① 棚田と水の使い方:山の斜面を生かした農業の工夫 ② 山・川・海のつながり:里山と里海の関係を考える ③ 農業遺産としての価値:自然と人の暮らしの共生
細目レベル
① 能登のような山が多い地域で、平らな土地が少ないことを知り、その中でどうやってお米を育ててきたのかを学びます。能登では、山の斜面を階段のように削って「棚田(たなだ)」を作り、水が上から下へと流れるしくみをうまく使っています。学生は地図や写真を見ながら、棚田のかたちと水の流れ方を理解します。学びの目標は、「なぜ能登では棚田が必要だったのか」「水をどうやって使っているのか」を、自分の言葉で説明できるようになることです。
② 「農業は山だけの話じゃない」という視点を身につけます。能登では、山の木の葉が川に落ち、それが海に流れて魚たちのエサになるなど、「山→川→海」の自然の流れが、農業と漁業の両方を支えています。このような自然のしくみを「里山(さとやま)」「里海(さとうみ)」と呼びます。学びの目標は、「農業と海がどうつながっているのか」「自然の流れの中に農業がある」ことを理解し、自分でその関係を説明できるようになることです。
③ 能登のような地域がなぜ「世界農業遺産(GIAHS)」に選ばれたのかを考えます。ただ昔のやり方を残しているだけではなく、自然を守りながら農業・漁業・林業を続けていることが評価されています。棚田の風景、地域のお祭り、人と自然のつながりすべてが、世界に誇れる「文化」として見られています。学生には、「なぜ農業が“遺産”なのか」「どうして守る必要があるのか」という問いに、自分の考えで答えられるようになってほしいと考えています。
キーワード
① 棚田(たなだ) ② 里山・里海、水の流れ(山→川→海) ③ 循環(じゅんかん) ④ 世界農業遺産 ⑤ 自然と人の暮らし
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回授業時間内に、ヨリソル上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
◆今回授業の復習
今回の授業では、能登の農業が「山・川・海」のつながりの中で行われていることを学びました。復習では、「棚田はどうやって水を使っているのか」「里山と里海はどう関係しているのか」「農業が自然を守ることとどうつながっているのか」について、自分のノートに言葉でまとめてみましょう。また、「農業遺産」としての価値とは何かを、もう一度ふりかえってみてください。
◆次回授業の予習
次回は、静岡県掛川市の「茶草場農法(ちゃくさばのうほう)」を学びます。これは、お茶畑で草をうまく活用する方法で、「生き物を守りながら農業をする」知恵がつまっています。予習では、「茶草場農法」という言葉の意味を調べて、「どんな生き物と関係があるのか?」「なぜ草が大事なのか?」について、少し考えてきてください。また、掛川市がどんな場所にあるのか、地図で確認しておきましょう。
6
【地域に根ざす農業の知恵② ~草を活かすお茶の里の知恵(静岡県掛川市)~】
科目の中での位置付け
本科目「農業地理学」では、「なぜこの地域でこの農業が行われているのか?」という問いを軸に、農業という営みが自然環境(地形・気候・土壌・水・生き物)や社会経済的背景(地域文化・政策・市場など)とどのように関わってきたのかを、地理的な視点から考えていきます。本学カリキュラムにおける「基盤形成期」に位置づけられる本科目は、1年次前期に開講され、以後の「土壌生態学」「農業生態学」「農生物演習」などの専門・実践科目へとつながる基本的な思考枠組みを提供します。
本科目の授業構成は、全15回を三つの期に分けて構成しています。第1回~第4回までは、農業地理学の基本的な概念を学ぶ〈導入期〉とし、「農業を地理的に見るとはどういうことか」「自然条件と農業の関係とは何か」といった問いに答えながら、科目全体の見取り図を描いていきます。第5回~第10回は〈展開期〉にあたり、日本の農業遺産地域(宇和島、佐渡、大崎、新潟中越、掛川など)を事例に、地域ごとの自然と農業のつながりを考察します。第11回~第15回は〈応用期〉として、長良川、白山、阿蘇といった地域を事例に、第二部で学んだ視点をさらに発展させ、「自然とともにある農業」をより深く、多面的に考察します。
この授業は、これまで学んできた「自然に合わせた農業の工夫(段々畑・棚田など)」や、「農業と自然のつながり(里山・里海)」をふまえたうえで、「草」を使った農業の知恵を学ぶ大切な回です。特に、静岡県掛川市の「茶草場農法(ちゃくさばのうほう)」は、草をうまく活用してお茶を育てるだけでなく、草原にすむ珍しい生き物たちも守っていることで注目されています。この授業を通して、「農業は作物だけでなく、まわりの自然や生き物ともつながっている」という視点を深めます。そして、次回の授業(大崎耕土の水田と用水管理)で学ぶ「人と自然の共存のしくみ」へとつなげる橋渡しになります。掛川市の茶草場農法は、自然への配慮と農産物の生産を同時に実現している代表的な取り組みであり、生きもの・地域文化・農業のつながりを学ぶ事例としてふさわしいことから、第6回の教材地域として採用しています。
(1) 池田定彦『農業地理学入門』、古今書院、2007年、72–80頁:「草地の農業利用と環境との関係」:草を活かす農業の伝統的な知恵と土壌管理の視点を学ぶ資料。135–140頁:「農業と生物多様性の保全」:草地管理によって生まれる生き物の生息環境の重要性を理解するための理論的基盤。
(2) 農林水産省「茶草場農法」世界農業遺産パンフレット、掛川の農家の工夫や茶草場に生きる生物に関する図解・写真つき資料。草と人の共生、地域文化の持続、農業の環境的価値を具体的に学べます。
コマ主題細目
① 茶草場農法とは?:お茶づくりと草のつながり ② 生き物を守る農業:草原の環境と生物多様性 ③ 世界農業遺産としての茶草場農法の価値
細目レベル
① 静岡県掛川市で行われている「茶草場農法」について学びます。茶草場農法とは、お茶の畑(茶園)のまわりにある草地から草を刈り取り、それを茶畑にしきつめる農法です。草は土の水分を守ったり、雑草が生えるのをふせいだりする働きがあります。学生は、草が「ゴミ」ではなく、昔から大事な資源として使われてきたことを理解します。目標は、「草がどんなふうにお茶づくりに役立っているか」を具体的に説明できることです。
② 茶草場がただのお茶畑のまわりの草地ではなく、たくさんの珍しい動物や植物のすみかにもなっていることを学びます。たとえば、「カヤネズミ」や「フジタイゲキ」といった貴重な生き物が、草刈りをしすぎず、自然に近いかたちで残された草地にすんでいます。茶草場農法では、「お茶も生き物も両方守る」という工夫がされています。学生は「農業をすると自然がこわれる」と思いがちですが、実は「農業が自然を守ることもある」と気づくのがこの回の大きなポイントです。
③ 2013年に茶草場農法が「世界農業遺産(GIAHS)」に選ばれた理由を学びます。お茶をおいしく育てながら、生き物のすむ場所も大切にしてきたこと、草を使うという昔ながらの知恵を今でも守っていることが評価されています。学生は、「ただ古いからすごい」のではなく、「自然と人がうまくつながっている」ことが“守るべき価値”だと理解します。目標は、「茶草場農法がどんな点で世界から評価されたのか」を、自分のことばで言えるようになることです。授業では、世界農業遺産の他の地域と比較する表を使って、掛川の特徴をまとめます。
キーワード
① 茶草場農法(ちゃくさばのうほう) ② 草資源(くさしげん) ③ 生物多様性 ④ 持続可能な農業 ⑤ 世界農業遺産
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回授業時間内に、ヨリソル上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
◆今回授業の復習
今回の授業では、「草」がお茶を育てるために役立っていること、そして草地がたくさんの生き物たちのすみかにもなっていることを学びました。復習では、①茶草場農法のしくみ(どこから草を取ってどう使うか)、②生き物と草地の関係(どんな工夫で守っているか)、③世界農業遺産としての価値(なぜ守るべきか)の3つを、自分のノートにイラストや短い文でまとめてみましょう。
◆次回授業の予習
次回は、宮城県の「大崎耕土(おおさきこうど)」という場所を学びます。ここでは、水を上手に管理することで大きな水田(すいでん)を育ててきた工夫があります。予習では、「用水路(ようすいろ)」や「湿地(しっち)」といった言葉を調べておきましょう。また、「水をうまく使う農業にはどんな知恵があるのか?」という問いをもって、次回の授業にのぞんでください。
7
【地域に根ざす農業の知恵③ ~巧みな水管理が生む米どころ(宮城県大崎地域)~】
科目の中での位置付け
本科目「農業地理学」では、「なぜこの地域でこの農業が行われているのか?」という問いを軸に、農業という営みが自然環境(地形・気候・土壌・水・生き物)や社会経済的背景(地域文化・政策・市場など)とどのように関わってきたのかを、地理的な視点から考えていきます。本学カリキュラムにおける「基盤形成期」に位置づけられる本科目は、1年次前期に開講され、以後の「土壌生態学」「農業生態学」「農生物演習」などの専門・実践科目へとつながる基本的な思考枠組みを提供します。
本科目の授業構成は、全15回を三つの期に分けて構成しています。第1回~第4回までは、農業地理学の基本的な概念を学ぶ〈導入期〉とし、「農業を地理的に見るとはどういうことか」「自然条件と農業の関係とは何か」といった問いに答えながら、科目全体の見取り図を描いていきます。第5回~第10回は〈展開期〉にあたり、日本の農業遺産地域(宇和島、佐渡、大崎、新潟中越、掛川など)を事例に、地域ごとの自然と農業のつながりを考察します。第11回~第15回は〈応用期〉として、長良川、白山、阿蘇といった地域を事例に、第二部で学んだ視点をさらに発展させ、「自然とともにある農業」をより深く、多面的に考察します。
農業という営みは、自然の条件の上にただ乗っているのではなく、人間がその条件をどのように“読解”し、どう“応答”するかによって成り立っています。第7回の授業では、その応答のあり方がもっとも如実に現れる「水の管理(かんり)」を中心に取り上げます。宮城県の大崎地域では、「大崎耕土(おおさきこうど)」と呼ばれる広大な水田地帯があります。ここでは、自然のままでは農業に不向きな“湿地”を、人びとが工夫をこらして用水路(ようすいろ)や排水路をつくり、水をたくみに管理することで、豊かな稲作地帯へと変えてきました。この回は、自然と人間との関係を「変えられない条件」ではなく「調整と共生の対象」として考え直す出発点になります。また、世界農業遺産(GIAHS)・日本農業遺産の両方に認定されている事例でもあり、これまで学んだ農業遺産の意義を深く理解しなおすための回でもあります。次回以降に扱う「佐渡の水田」「雪国の養鯉」など、水と共にある農業へとつなげる基礎ともなります。大崎地域は、日本で唯一「日本農業遺産」と「世界農業遺産」の両方に認定されており、水環境と農業、地域社会の関係を学ぶ実例として最適なため、第7回の事例地域として採用しました。
(1) 池田定彦『農業地理学入門』、古今書院、2007年、70–80頁:「日本の水田と水管理の知恵」:用水と排水の工夫、湿地農業の展開、稲作との関係性を学ぶ基本資料。135–140頁:「農村景観と農業遺産」:農業が地域の景観・文化と結びついて形成されてきた歴史的背景を理解する。
(2) 農林水産省/大崎市教育委員会発行パンフレット、「大崎耕土」農業遺産紹介資料(図解・写真付き):世界・日本農業遺産に認定された背景や水管理の技術、農村文化のあり方について具体的に学べます。
コマ主題細目
① 湿地(しっち)が米どころになるまで:大崎耕土の水のしくみ ② 人が水を使いこなす:用水路と排水路のネットワーク ③ 農業遺産としての大崎耕土:自然と人の“対話”の歴史
細目レベル
① 大崎耕土という場所がもともとは湿地で、水がたまりやすく作物が育ちにくい土地だったこと、そして人々がそこを「米どころ」に変えていった歴史を学びます。湿地を田んぼにするには、水を集めたり逃がしたりする技術が必要でした。学生は、大崎の地形や雨の多さを地図や図で確認しながら、「なぜここで稲作が発展したのか?」を水のコントロールという視点から理解します。目標は、「自然に逆らうのではなく、うまくつきあう工夫」が農業に必要であることを、自分の言葉で説明できるようになることです。
② 大崎耕土を支えている「用水(ようすい)」と「排水(はいすい)」のしくみを、ネットワークという考え方でとらえます。単に川から水を引くだけでなく、「どのくらいの水を、どこに、いつ送るか」「雨のときどう逃がすか」など、複雑な調整が日々行われています。学生は、実際の用水路図や断面図を使って、水の流れ方と土地利用の関係を視覚的に学びます。目標は、「自然の水の流れを読む」「人の手で調整する」「全体の中で自分の畑を考える」という3つの力を、自分の中に入れることです。
③ 大崎耕土が日本農業遺産(2016年)と世界農業遺産(2017年)の両方に認定された理由を学びます。評価されたのは、ただ美しい景観や広い田んぼだけではなく、人々が長い時間をかけて自然と“対話”しながら農業を続けてきたという「歴史の知恵」です。学生は、先人たちがどのように失敗し、工夫し、改善してきたかの記録を見ながら、「農業は文化でもある」という視点を育てます。目標は、「農業の価値は、結果だけでなく、過程にもある」ということを理解し、次回の佐渡のトキとの共生の話につなげられるようになることです。
キーワード
① 湿地(しっち) ② 用水路・排水路 ③ 米づくり(稲作) ④ 水管理 ⑤ 世界農業遺産・日本農業遺産
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回授業時間内に、ヨリソル上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
◆今回授業の復習
今回の授業では、「大崎耕土」という湿地だった場所が、どうやって広い田んぼに変わっていったのかを学びました。復習では、①水を“ためる”工夫(用水)、②水を“ながす”工夫(排水)、③それを地域全体で調整するネットワークの考え方を、自分の言葉でノートにまとめてください。「人は自然を変えたのではなく、“読み解いて調整した”」という発想を大切にしましょう。
◆次回授業の予習
次回は、新潟県佐渡市の農業について学びます。佐渡では、トキという鳥と一緒にくらす「共生(きょうせい)」の農業が行われています。予習では、「なぜトキが絶滅しかけたのか?」「なぜ農業がそれを守れるのか?」を自分なりに調べてみてください。また、湿地や水田の環境が生き物にどんな意味をもつのか、図や写真で見ておくと、次の授業がわかりやすくなります。
8
【地域に根ざす農業の知恵④ ~トキと共生する島の里山(新潟県佐渡市)~】
科目の中での位置付け
本科目「農業地理学」では、「なぜこの地域でこの農業が行われているのか?」という問いを軸に、農業という営みが自然環境(地形・気候・土壌・水・生き物)や社会経済的背景(地域文化・政策・市場など)とどのように関わってきたのかを、地理的な視点から考えていきます。本学カリキュラムにおける「基盤形成期」に位置づけられる本科目は、1年次前期に開講され、以後の「土壌生態学」「農業生態学」「農生物演習」などの専門・実践科目へとつながる基本的な思考枠組みを提供します。
本科目の授業構成は、全15回を三つの期に分けて構成しています。第1回~第4回までは、農業地理学の基本的な概念を学ぶ〈導入期〉とし、「農業を地理的に見るとはどういうことか」、「自然条件と農業の関係とは何か」といった問いに答えながら、科目全体の見取り図を描いていきます。第5回~第10回は〈展開期〉にあたり、日本の農業遺産地域(宇和島、佐渡、大崎、新潟中越、掛川など)を事例に、地域ごとの自然と農業のつながりを考察します。第11回~第15回は〈応用期〉として、長良川、白山、阿蘇といった地域を事例に、第二部で学んだ視点をさらに発展させ、「自然とともにある農業」をより深く、多面的に考察します。
「農業とは、自然と人との応答である」──この視点を軸に展開されてきた農業地理学の授業において、第8回はひとつの帰結点を示します。
佐渡市では、かつて絶滅寸前だった「トキ」という鳥を守るために、農業のあり方そのものを見直し、「自然と共に生きる農業」を実現しようとする取り組みが行われてきました。
この回では、「農業とは誰のためのものか?」、「農業は“食べるため”だけの営みなのか?」という根本的な問いを投げかけながら、人と生き物が共に生きるための農業のかたちを考えます。前回(第7回)の「水管理による稲作」との比較をふまえ、水田が単なる“作物の場所”ではなく、“命をつなぐ場所”であるという認識へと視野を広げるきっかけとなります。
この授業は、持続可能な農業を「環境」、「文化」、「命」という三つの軸から問い直す、大きな転換点となります。佐渡市は、2011年に「トキと共生する佐渡の里山」として日本初の世界農業遺産(GIAHS)に認定されており、生物多様性と農業の両立という現代的な課題に対するモデル事例としてふさわしいことから、第8回の学習地域として採用しました。
(1) 池田定彦『農業地理学入門』、古今書院、2007年、82–90頁:「水田農業と生物の多様性」:トキを含む水田周辺の生き物との共生に関する地理的視点を養う。140–145頁:「農業と環境保全型の農法」:化学肥料や農薬を抑えた農業が生物多様性に与える影響とその意義を理解する。
(2) 農林水産省「世界農業遺産:トキと共生する佐渡の里山」パンフレット、トキの生態や農法の工夫、世界農業遺産(GIAHS)としての認定理由が写真・図解とともに掲載されており、佐渡の農業と自然環境の関係を具体的に学べます。
コマ主題細目
① トキのすむ田んぼ:水田と生き物の関係 ② なぜトキはいなくなったのか?:農業の変化と環境破壊 ③ トキと人の共生:農業を変えるという選択
細目レベル
① 「田んぼはお米をつくる場所」という見方にとどまらず、「田んぼは生き物のすみかでもある」という視点を導入します。佐渡の水田では、カエルやドジョウ、小さな虫たちが多く生きており、それがトキのえさになります。学生は、水田が“人だけの場所”ではないということを、写真や動画から実感します。授業では、「トキの一日」を追うシートや、田んぼに生きる生物の関係図をつくるワークを取り入れ、生態系と農業のつながりを可視化して学びます。
② 「なぜかつてたくさんいたトキが、いなくなってしまったのか?」という問いを立て、その原因を探ります。農薬の使いすぎや、冬に田んぼを乾かしてしまう「乾田化」など、人間が農業の効率ばかりを求めてきた結果、生き物のすむ環境が失われていったという事実を学びます。授業では、「便利になることはいいことなのか?」という問いを中心に、近代農業の問題点を考えます。
③ 佐渡で、いま実際に行われている「生きものを育む農法」について学びます。トキが帰ってこられるように、農薬をへらし、冬にも田んぼに水を残し、まわりの森も手入れする──そうした「手間のかかる農業」が、佐渡ではあえて選ばれています。ここでの目標は、「農業はただ作物を育てるだけではなく、“生き方”を選ぶ行為でもある」ことを理解することです。
キーワード
① トキの野生復帰 ② 水田と生態系 ③ 農薬 ④ 共生・共存 ⑤ 生きものを育む農法(佐渡方式)
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回授業時間内に、ヨリソル上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
◆今回授業の復習
今回の授業では、田んぼがトキのすみかとしても大事な場所であること、農薬や水の管理を見直すことで生き物との共生が実現できることを学びました。復習では、①水田と生き物の関係、②トキが減った理由、③農業を変えてトキが戻ってきた経過、の3点を自分の言葉でまとめてみましょう。「自然のために農業を変える」ことの意味を、自分なりに考えることが大切です。
◆次回授業の予習
次回は、新潟県中越地域の「雪の多い地域での農業」について学びます。ここでは、雪が多いことを逆に活かして、お米や「こい(鯉)」を育てる工夫が行われています。予習として、「雪国のくらしと農業」「雪がもたらす恵みとは何か」を調べてきてください。また、佐渡との共通点やちがいについて、自分なりに考えてみると、次の学びがより深まります。
9
【地域に根ざす農業の知恵⑤ ~雪国が育む米と鯉(新潟県中越地域)~】
科目の中での位置付け
本科目「農業地理学」では、「なぜこの地域でこの農業が行われているのか?」という問いを軸に、農業という営みが自然環境(地形・気候・土壌・水・生き物)や社会経済的背景(地域文化・政策・市場など)とどのように関わってきたのかを、地理的な視点から考えていきます。本学カリキュラムにおける「基盤形成期」に位置づけられる本科目は、1年次前期に開講され、以後の「土壌生態学」「農業生態学」「農生物演習」などの専門・実践科目へとつながる基本的な思考枠組みを提供します。
本科目の授業構成は、全15回を三つの期に分けて構成しています。第1回~第4回までは、農業地理学の基本的な概念を学ぶ〈導入期〉とし、「農業を地理的に見るとはどういうことか」、「自然条件と農業の関係とは何か」といった問いに答えながら、科目全体の見取り図を描いていきます。第5回~第10回は〈展開期〉にあたり、日本の農業遺産地域(宇和島、佐渡、大崎、新潟中越、掛川など)を事例に、地域ごとの自然と農業のつながりを考察します。第11回~第15回は〈応用期〉として、長良川、白山、阿蘇といった地域を事例に、第二部で学んだ視点をさらに発展させ、「自然とともにある農業」をより深く、多面的に考察します。
「農業は、自然条件に“従う”ものか、それとも自然条件に“応答する”ものなのか?」 第9回は、この問いを“雪”という自然条件から考える回です。新潟県中越地域では、冬に何メートルもの雪が積もる厳しい環境のなかで、人びとはあえてそこに留まり、「雪の恵み」を味方につけてきました。これまでの授業では、段々畑(宇和島)、棚田(能登)、水管理(大崎)、共生農法(佐渡)と、地域の地形や水環境に応じた農業の工夫を学んできました。本コマでは、気候──特に「雪」という極端な条件──と農業のつながりに焦点をあて、米と鯉という二つの営みが“雪とともにある暮らし”から生まれてきた背景を探ります。
自然に対して、逃げるのではなく向き合い、時間と空間をかけて調和をはかるという人間の知恵。それがいかにして農業というかたちをとるのか。本コマは、農業を「気候への応答」として読み解くための実践的な一歩となります。新潟県中越地域は、2016年(平成28年)に「雪の恵みを活かした稲作・養鯉システム」として日本農業遺産に認定されており、厳しい自然環境に対して“あきらめる”のではなく“活かす”という農業地理学的視点を深める事例としてふさわしいため、第9回に採用しています。
(1) 池田定彦『農業地理学入門』、古今書院、2007年、90–100頁:「雪国農業と水の活用」:中越地域における雪解け水を利用した稲作の知恵や気候との関係を学ぶ。145–150頁:「地域の多様な農業モデル」:地域資源に応じた多様な農業のあり方として、米と鯉の複合経営を位置づける。
(2) 佐藤正明『日本農業の環境と発展』、農文協、2006年、150–160頁:「養鯉と地域資源の活用」:冬の農閑期に鯉を育てる農業経営の工夫と、その背景にある雪国の生活文化とのつながりを具体的に学ぶ。
コマ主題細目
① 雪のある暮らしと農業:気候と農のかたち ② 米と鯉の“二刀流”経営:農業の多様性と工夫 ③ 日本農業遺産としての価値:雪とともにある知恵
細目レベル
① 新潟県中越地域の気候(とくに雪)に注目します。冬には2〜3メートルの雪が積もり、農作業ができない期間が長くなります。しかし、その雪が春にとけると、ミネラルを含んだ豊かな水となって田んぼをうるおします。学生は「雪はジャマなもの」ではなく、「資源として活用できるもの」だと気づきます。目標は、気候が農業に与える影響を理解し、「自然のきびしさ=工夫の原点である」という視点を持つこと。
② 中越地域で発展した「稲作と鯉(こい)の養殖(ようしょく)」を両立させる“二刀流”の農業について学びます。雪で農業ができない冬、農家の人たちは室内で鯉を育てて収入源とし、生活の安定をはかってきました。米と鯉という異なるものを組み合わせることで、季節に応じた暮らしが成立しています。学生は、農業が単一でなく、地域と気候に応じて「複数の知恵を重ねる」ものだと理解します。目標は、「なぜ鯉が農業の中に登場するのか?」という問いに、気候と生活の関係をふまえて説明できるようになることです。
③ この地域の「雪を味方につけた農業」が、2018年に「日本農業遺産」に認定された理由を考えます。注目すべきは、ただ伝統を守っているからではなく、「自然条件に応じた知恵と工夫」が今でも生きていることです。農業の価値とは「生産量」だけでなく、「人がどう自然と向き合ってきたか」という過程そのものにあります。学生は、前回までに学んだ農業遺産(能登、佐渡、掛川など)と比較しながら、「農業における価値の多面性」を言語化する力を育てます。
キーワード
① 雪国農業(ゆきぐにのうぎょう) ② 雪解け水(ゆきどけみず) ③ 稲作と養鯉(いなさく・ようこい) ④ 二刀流経営 ⑤ 日本農業遺産
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回授業時間内に、ヨリソル上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
◆今回授業の復習
今回の授業では、雪が農業のじゃまではなく、田んぼや鯉の養殖を助ける“味方”になることを学びました。復習として、①雪と水の関係、②米と鯉の組み合わせ、③農業遺産としての価値、の3つのテーマを自分の言葉でまとめてみましょう。特に、「なぜ鯉が農業の話に出てくるのか?」を説明できると、自然・生活・経済をつなげて考えられるようになります。
◆次回授業の予習
次回は、これまでに学んできた宇和島、能登、掛川、大崎、佐渡、中越の6つの地域を見なおし、「共通点は?」「ちがいは?」「どんな自然に、どんな農業が合っていたか?」を考えてきてください。自分の好きな地域をひとつ選び、その特徴を簡単にメモしておくと、授業で活かせます。
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【地域に根ざす農業の知恵⑥ ~日本の農業を地形・気候・文化で読み解く~】
科目の中での位置付け
本科目「農業地理学」では、「なぜこの地域でこの農業が行われているのか?」という問いを軸に、農業という営みが自然環境(地形・気候・土壌・水・生き物)や社会経済的背景(地域文化・政策・市場など)とどのように関わってきたのかを、地理的な視点から考えていきます。本学カリキュラムにおける「基盤形成期」に位置づけられる本科目は、1年次前期に開講され、以後の「土壌生態学」「農業生態学」「農生物演習」などの専門・実践科目へとつながる基本的な思考枠組みを提供します。
本科目の授業構成は、全15回を三つの期に分けて構成しています。第1回~第4回までは、農業地理学の基本的な概念を学ぶ〈導入期〉とし、「農業を地理的に見るとはどういうことか」、「自然条件と農業の関係とは何か」といった問いに答えながら、科目全体の見取り図を描いていきます。第5回~第10回は〈展開期〉にあたり、日本の農業遺産地域(宇和島、佐渡、大崎、新潟中越、掛川など)を事例に、地域ごとの自然と農業のつながりを考察します。第11回~第15回は〈応用期〉として、長良川、白山、阿蘇といった地域を事例に、第二部で学んだ視点をさらに発展させ、「自然とともにある農業」をより深く、多面的に考察します。
これまでの授業では、各地の農業がそれぞれの「自然条件」や「文化」に応じて形づくられていることを学んできました。しかし、それらはバラバラの“情報のかたまり”として終わってはいけません。本コマでは、それらをもう一度テーブルの上に並べ直し、共通点・違い・構造的なつながりを見出す作業に入ります。日本の農業は、ひとつの“かたち”ではありません。山の農業、海辺の農業、雪の中の農業。すべてが、その土地の「地形」「気候」「文化」と対話するように成り立っています。第10回では、これまでの事例(宇和島、高千穂、能登、掛川、大崎、佐渡、中越)を素材に、「日本の農業を読み解く地図」を自ら描き出すことを目指します。この授業は、今後学ぶ海外の農業事例(トスカーナ、中国長江、アンデス)と比較するための「基準」を自分の中につくるという、大きな意味をもっています。すべての理解は、ふり返ることから始まるのです。そのため、第10回には、これまで学んだ地域事例を一度立ち止まって再整理し、日本の農業の多様性と共通性を構造的に理解するための“踊り場”の回としての役割が求められます。知識を並べるだけでなく、そこに見える意味のまとまりを自分の言葉で見いだす力を育てるため、本授業で採用しました。
(1) 池田定彦『農業地理学入門』、古今書院、2007年、140–150頁:「日本の農業の地域的特徴と構造的理解」:地域ごとに異なる農業のかたちと、そこに見られる共通する要素を読み解く視点を養う。151–160頁:「農業と文化・景観のつながり」:農業を文化や風景と結びつけて理解するための理論的背景を学ぶ。
(2) 地域別整理表、宇和島〜中越までの各地域における自然条件・農業の工夫・文化的要素を一覧で整理するための表。
コマ主題細目
① どんな自然条件が、どんな農業の形を生んだか? ② 農業と文化はどのように結びついてきたか? ③ 日本の農業の“共通点”と“多様性”をどう整理するか?
細目レベル
① 各地域の農業が、その地形や気候の違いによってどのように変化してきたかをまとめ直します。山の傾斜(宇和島・高千穂)では段々畑や焼畑、平地(大崎)では用水路を活用した稲作、雪国(中越)では雪解け水を活かした米と鯉の二刀流。気候もそれぞれに異なり、農業の形に大きな影響を与えています。学生は、地域ごとの自然条件と農業の組み合わせを一覧表にして整理し、言葉だけでなく“構造”で理解する力を養います。目的は、「自然と農業は一対一対応ではない」「そこには“工夫”がある」という気づきに至ることです。
② 農業は、ただ作物を育てるだけの営みではありません。闘牛(宇和島)、夜神楽(高千穂)、茶草場の草刈り(掛川)、トキの復活(佐渡)など、地域の文化や祭り、暮らし方そのものと深く結びついています。この細目では、農業を「地域の文化装置」として読み解きます。学生は、農業を見れば、その地域の「生き方」「価値観」が見えてくるという視点を持つことを目指します。ワークでは、各地域の「農業+文化」の組み合わせを図にして整理します。重要なのは、「文化を守る農業」「農業が生んだ文化」の両方を言語化できるようにすることです。
③ 日本の農業の“らしさ”とは何かを考えます。学生は、複数の事例から「何が似ているか?」「何がちがうか?」を比較し、日本の農業がいかに多様で、かつ“自然と人の対話”という共通した構造の中にあるかをまとめます。たとえば、「地形への工夫(段々畑・棚田)」「水とのつきあい方」「生き物と共にある暮らし」など、キーワードの整理を通して、日本農業の地理的特性を言語化することがねらいです。最終的には「日本の農業とは何か?」という問いに対して、5つ程度の視点で簡潔に説明できるようになることを目標とします。
キーワード
① 地形と農業(段々畑・棚田) ② 気候と農法(雪・雨・温暖) ③ 文化的景観(闘牛・神楽・トキ) ④ 共通性と多様性(似ている点・ちがう点) ⑤ 日本の農業の特徴(自然との共生)
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回授業時間内に、ヨリソル上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
◆今回授業の復習
この授業では、「それぞれの地域で農業の形はちがうけれど、その奥には共通する“自然とのつきあい方”がある」ということを学びました。復習として、①宇和島・高千穂・能登・掛川・大崎・佐渡・中越の農業と自然の関係、②農業と文化のつながり、③そこに見られる“工夫”のかたち、の3点を、図や表にしてまとめてみましょう。言葉だけでなく、構造として理解することが大切です。
◆次回授業の予習
次回からは、海外の農業事例(第11回:イタリア・トスカーナ)に入ります。予習として、「ヨーロッパの農業って、日本とどうちがう?」「丘の上にあるブドウ畑ってどんな風景だろう?」という問いを持ってきてください。インターネットで「トスカーナ 農業」と検索して写真を数枚見ておくと、イメージがふくらみます。
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【日本の農業遺産から考える、農業と自然・文化の共生① 清流とともに生きる農の知恵 ~ 長良川流域の世界農業遺産 ~】
科目の中での位置付け
本科目「農業地理学」では、「なぜこの地域でこの農業が行われているのか?」という問いを軸に、農業という営みが自然環境(地形・気候・土壌・水・生き物)や社会経済的背景(地域文化・政策・市場など)とどのように関わってきたのかを、地理的な視点から考えていきます。本学カリキュラムにおける「基盤形成期」に位置づけられる本科目は、1年次前期に開講され、以後の「土壌生態学」「農業生態学」「農生物演習」などの専門・実践科目へとつながる基本的な思考枠組みを提供します。
本科目の授業構成は、全15回を三つの期に分けて構成しています。第1回~第4回までは、農業地理学の基本的な概念を学ぶ〈導入期〉とし、「農業を地理的に見るとはどういうことか」、「自然条件と農業の関係とは何か」といった問いに答えながら、科目全体の見取り図を描いていきます。第5回~第10回は〈展開期〉にあたり、日本の農業遺産地域(宇和島、佐渡、大崎、新潟中越、掛川など)を事例に、地域ごとの自然と農業のつながりを考察します。第11回~第15回は〈応用期〉として、長良川、白山、阿蘇といった地域を事例に、第二部で学んだ視点をさらに発展させ、「自然とともにある農業」をより深く、多面的に考察します。
農業は、ただ作物を育てる行為ではありません。それは、その土地の自然と人間の“対話”であり、同時に、その社会が何を“よし”とするかという価値観の表現でもあります。第11回では、日本の農業文化をより深く理解するための応用的な事例として、「清流・長良川(ながらがわ)」を取り上げます。長良川は、岐阜県を流れる代表的な一級河川であり、古くから鮎漁や鵜飼といった文化的営みと、農業・林業・漁業が複合的に支え合ってきた地域です。この回では、「なぜ川と田んぼがつながっているのか」「なぜ鮎が育つ水が農業にも使われるのか」といった問いを出発点に、自然と人間の関係を多面的に考えます。日本で学んできた農業地理の視点(地形、水、生物、文化など)を応用し、農業が自然や暮らし、景観とどのように共生しているかを読み取る力を養うことがねらいです。長良川流域は、「農」と「川」と「くらし」が溶け合う空間であり、「農業とは何か」を問いなおすのにふさわしい学びの場といえるでしょう。
(1) 池田定彦『農業地理学入門』、古今書院、2007年、153–155頁:「日本の農業景観・自然と文化の関係性」:「里地・里山」や「文化的景観」に関連する視点あり、175–180頁:「農業と観光・文化的価値」:地域ブランド化や景観保全など。
コマ主題細目
① 清流と暮らしが共生する“里川”のしくみ ② 鮎・棚田・森林がつなぐ農・林・漁の融合と伝統技術 ③ 流域全体を活かす地理的視点と地域資源の価値
細目レベル
① 長良川は、単なる自然の川ではなく、人々の暮らしや農業、文化と深く結びついた「里川」として知られています。上流の森林が雨水をゆっくりと蓄えることで地下水となり、その水が中流の田んぼや集落に届けられ、生活用水・農業用水・伝統漁業(鮎漁や鵜飼)など多様に利用されています。このように、山・森・川・田んぼ・人びとのくらしがつながる仕組みこそが「里川」の本質であり、自然と人の共生が実現している証です。また、伏流水を利用した用水路や棚田といった自然調和型の農業も、この地域ならではの工夫です。清らかな水とともに生きる人々の知恵は、農業だけでなく文化・観光とも結びつき、地域の持続可能性を支えています。長良川流域の「里川」は、人と自然が協力しながら共に生きてきた歴史と価値を今に伝える、大切な教材なのです。
② 長良川流域では、鮎漁を中心とした漁業、水田による農業、そして上流の森林管理による林業が、互いに支え合う関係を築いてきました。森林は川の源となる水を蓄え、川は清らかな水を田畑に運び、田んぼで使われた水は再び川に戻って鮎の生息を助けます。このような循環は、自然のしくみを壊すことなく人々の営みと調和する、「農・林・漁の融合」の好例といえます。さらに、鵜飼に代表される伝統漁法や、伏流水を活かした用水路、石垣棚田の技術など、自然条件に適応した伝統的な技術が今も活かされており、環境と共存する知恵が受け継がれています。経済効率を最優先にしない暮らしのあり方が、かえって現代の持続可能な社会のヒントとなることを、長良川は私たちに教えてくれます。
③ 長良川流域では、上流の森林から中流の田園、下流の町や河口まで、自然と人の営みが一体となって持続的な地域づくりが行われてきました。流域を一つのつながった空間として捉える「地理的視点」が重要であり、それぞれの土地の役割(森林=水源、農地=吸収・ろ過、川=生態系の軸)を理解することで、全体のしくみが見えてきます。農・林・漁のそれぞれが単独で成り立っているのではなく、水という共通の資源によって支え合っているのです。また、鮎漁や鵜飼といった文化資源や、水質を守る農法なども、流域全体のバランスによって価値が保たれています。このような視点から地域をとらえることで、単なる観光地ではなく、自然と共にあるくらしの豊かさや、地域資源を活かす知恵の深さを学ぶことができます。長良川は、流域という「つながりの地理」を実感する教材です。
キーワード
① 里川(さとがわ) ② 清流農業 ③ 鮎漁(あゆりょう) ④ 鵜飼(うかい) ⑤ 流域管理(りゅういきかんり)
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回授業時間内に、ヨリソル上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
◆今回授業の復習
今回の授業では、長良川流域では、森林・棚田・川・海がつながる「流域思考」にもとづいた暮らしと農業が営まれてきた。森林は水を蓄え、きれいな水が棚田や川に流れ、鮎漁や鵜飼の文化が育まれている。このように農・林・漁業が自然と共生しながら連携するしくみは、「長良川システム」として世界農業遺産にも認定された。地域の自然環境や文化を大切にし、観光や地域ブランドとしても活かされている。自然の力を活かした持続可能な農業の姿から、私たちはこれからの地域づくりを考えるヒントを学ぶことができる。
◆次回授業の予習
次回は、今回の授業では、日本農業遺産にも認定された「白山地域(石川・岐阜・福井)」を学びます。ここは雪が多く、山の斜面を利用した棚田(たなだ)での農業が行われてきました。冬の雪は春になると雪解け水となり、田んぼや畑をうるおします。こうした自然の恵みを活かすだけでなく、水を公平に分ける「水番制度」や地域の人びとによる「講(こう)」といった制度も発達してきました。また、白山は水の神さまとして信仰されており、田植え祭りや雨乞いなどの行事も農業と深く結びついています。「自然・制度・信仰」が重なり合った白山地域から、持続可能な農の知恵を学びます。
12
【日本の農業遺産から考える、農業と自然・文化の共生② 雪と信仰が支える山の農業 ~ 白山の日本農業遺産 ~】
科目の中での位置付け
本科目「農業地理学」では、「なぜこの地域でこの農業が行われているのか?」という問いを軸に、農業という営みが自然環境(地形・気候・土壌・水・生き物)や社会経済的背景(地域文化・政策・市場など)とどのように関わってきたのかを、地理的な視点から考えていきます。本学カリキュラムにおける「基盤形成期」に位置づけられる本科目は、1年次前期に開講され、以後の「土壌生態学」「農業生態学」「農生物演習」などの専門・実践科目へとつながる基本的な思考枠組みを提供します。
本科目の授業構成は、全15回を三つの期に分けて構成しています。第1回~第4回までは、農業地理学の基本的な概念を学ぶ〈導入期〉とし、「農業を地理的に見るとはどういうことか」、「自然条件と農業の関係とは何か」といった問いに答えながら、科目全体の見取り図を描いていきます。第5回~第10回は〈展開期〉にあたり、日本の農業遺産地域(宇和島、佐渡、大崎、新潟中越、掛川など)を事例に、地域ごとの自然と農業のつながりを考察します。第11回~第15回は〈応用期〉として、長良川、白山、阿蘇といった地域を事例に、第二部で学んだ視点をさらに発展させ、「自然とともにある農業」をより深く、多面的に考察します。
「農業とは、“土地の声”をどう聞き、それにどう応えるかという人間の知恵のかたちである」。
第12回では、日本の農業文化をより深く理解する応用事例として、「白山(はくさん)地域」を取り上げます。白山は、石川・岐阜・福井の三県にまたがる霊峰であり、豪雪と急傾斜というきびしい自然条件の中、人々は山の斜面を活かした棚田をつくり、雪解け水を用いた農業を営んできました。この授業では、「なぜ人びとは雪とともに生きる道を選んだのか」「どのように水を公平に分け合ってきたのか」という問いから、農業と自然、文化、地域制度のつながりを多角的に学びます。特に、水の神をまつる信仰や雨乞いの祭り、水番制度などの伝統的なしくみは、自然と人の対話としての農業の姿を伝えています。白山の事例は、「自然・技術・信仰」が重なり合う農業のかたちをとらえなおす、地理的学びの格好の教材となるのです。
(1) 池田定彦『農業地理学入門』、古今書院、2007年、153–155頁:「日本の農業景観・自然と文化の関係性」:「里地・里山」や「文化的景観」に関連する視点あり、175–180頁:「農業と観光・文化的価値」:地域ブランド化や景観保全など。
コマ主題細目
① 豪雪地のくらしと農村景観(文化と生活) ② 雪解け水と用水路管理(環境と技術) ③ 白山信仰と水神さまの話(信仰地理)
細目レベル
① 白山地域は、日本有数の豪雪地帯であり、冬には2〜3メートルを超える積雪がある厳しい自然環境の中で、人々は暮らしを営んできました。このような気候の中で育まれた農業や暮らしの工夫は、地域ならではの「農村景観」として形づくられています。たとえば、冬の間にためた雪を使った「雪室(ゆきむろ)」による保存技術や、急斜面に築かれた棚田の石垣、家々の雪囲いや屋根の勾配などには、自然と調和した暮らしの知恵が表れています。また、白山信仰と結びついた田の神行事や雨乞いの祭りなど、信仰や文化も生活に深く根づいています。こうした暮らしと農業が重なってできた風景は、単なる美しさを超え、「自然とともに生きる人びとの歴史」を今に伝えています。白山の農村景観は、自然・文化・技術が融合した“生きた地理教材”としての価値を持っています。
② 白山地域の農業は、冬に積もった大量の雪が春にゆっくりと溶け出す「雪解け水」をうまく活かすことで成り立っています。雪解け水は、棚田や畑にとって大切な水資源であり、その水をいかに公平に、効率よく分け合うかが地域農業の要です。そこで重要になるのが、伝統的な用水路の管理と「水番制度」です。水番制度では、地域の住民が順番や時間を決めて用水を分け合い、全体の農作業が円滑に進むように協力しています。また、水路の保全や水質管理も住民主体で行われており、自然のリズムに合わせた高度な水利用技術といえます。雪という厳しい自然条件を逆手に取り、地域ぐるみで築かれた仕組みは、「自然と対立するのではなく、折り合いをつけて暮らす」日本の農業文化を象徴しています。白山地域は、環境に適応した水の知恵と協働の技術が今も息づく地域です。
③ 白山地域では、古くから山を神聖なものととらえる「白山信仰」が人々の暮らしと深く結びついてきました。白山は霊峰として崇められ、そこから流れ出る雪解け水は命の源とされてきました。地域の人びとは、山に感謝し、水を大切に使うための行事や祈りを受け継いできました。たとえば、田の神や水の神に豊作を願う祭り、雨乞いの儀式、水源地への参拝などが行われ、水を「神さまからの恵み」として扱ってきたのです。こうした信仰は、単なる宗教行事ではなく、水資源をめぐる共同管理のしくみや、自然と共生する暮らしのルールともなっています。信仰と農業が分かちがたく結びついているこの地域のあり方は、「信仰地理」という観点からも注目されます。白山の例は、自然と向き合う人間の姿勢が文化となり、地域の持続可能性を支えていることを教えてくれます。
キーワード
① 棚田(たなだ) ② 雪解け水 ③ 水番制度(すいばんせいど) ④ 白山信仰 ⑤ 信仰地理
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回授業時間内に、ヨリソル上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
◆今回授業の復習
白山地域では、昔から白山を「水の神さま」として信仰し、水を大切に使ってきました。雪解け水は農業に欠かせない命の水であり、田植え祭りや雨乞いなどの行事を通して、感謝や祈りの気持ちが受け継がれています。また、水を公平に分ける「講」や「水番制度」といった地域のしくみも、信仰と結びついて農業を支えてきました。信仰と農業は対立するものではなく、自然と人のくらしをつなぐ大切な知恵なのです。
◆次回授業の予習
次回は、世界農業遺産に登録された熊本県・阿蘇地域を学びます。阿蘇では、広大な草原を野焼きで守り、放牧されたあか牛のふんを堆肥に活用することで、自然のめぐりを生かした「循環型農業」が行われています。また、火山性土壌や湧水などの自然条件に合わせた農業の工夫も続けられています。さらに、火振り神事や御田祭り、農耕祈願祭など、農業と神々の信仰が結びついた文化も特徴です。地域全体で若者を育てる「農業師匠制度」や、農泊・食文化を世界に発信する「SAVOR JAPAN」の取り組みなど、阿蘇は“自然・人・文化”が一体となった農業のモデル地域です。
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【日本の農業遺産から考える、農業と自然・文化の共生③ 草原と火山に育まれた循環の農業 ~ 阿蘇の世界農業遺産 ~】
科目の中での位置付け
本科目「農業地理学」では、「なぜこの地域でこの農業が行われているのか?」という問いを軸に、農業という営みが自然環境(地形・気候・土壌・水・生き物)や社会経済的背景(地域文化・政策・市場など)とどのように関わってきたのかを、地理的な視点から考えていきます。本学カリキュラムにおける「基盤形成期」に位置づけられる本科目は、1年次前期に開講され、以後の「土壌生態学」「農業生態学」「農生物演習」などの専門・実践科目へとつながる基本的な思考枠組みを提供します。
本科目の授業構成は、全15回を三つの期に分けて構成しています。第1回~第4回までは、農業地理学の基本的な概念を学ぶ〈導入期〉とし、「農業を地理的に見るとはどういうことか」、「自然条件と農業の関係とは何か」といった問いに答えながら、科目全体の見取り図を描いていきます。第5回~第10回は〈展開期〉にあたり、日本の農業遺産地域(宇和島、佐渡、大崎、新潟中越、掛川など)を事例に、地域ごとの自然と農業のつながりを考察します。第11回~第15回は〈応用期〉として、長良川、白山、阿蘇といった地域を事例に、第二部で学んだ視点をさらに発展させ、「自然とともにある農業」をより深く、多面的に考察します。
この授業では、これまでの学びをさらに深め、「高地」と「火山」という特徴的な自然環境と、それに適応した農業の知恵を取り上げます。第13回の事例は熊本県の阿蘇地域。ここは世界最大級のカルデラをもち、冷涼な高地に広がる草原と豊富な湧水を活かした農業が行われています。野焼きで草原を維持し、あか牛の放牧や堆肥を使った循環型農業を展開していること、また農業と火・水の神への信仰(火振り神事・御田祭り)とが結びついている点に注目します。本授業では、「人間はどこまで自然と共に生きられるのか?」という問いを起点に、極端な環境に根ざした農のかたちを探ります。阿蘇の農業は、自然条件に寄り添い、暮らし・文化・信仰と一体化してきた「生きる知恵」の宝庫であり、日本の農業文化の多様性と奥深さを学ぶ絶好の機会となります。
(1) 池田定彦『農業地理学入門』、古今書院、2007年、153〜155頁:「日本の農業景観・自然と文化の関係性」
→ 阿蘇のように、自然環境と農業・文化・信仰が結びついた農村景観についての考察が含まれています。175〜180頁:「農業と観光・文化的価値」
→ 草原景観、農泊、農村文化の発信など、地域資源の活用による持続可能な地域づくりに関連する内容です。
コマ主題細目
① 草原と火山に育まれた循環の農業 ② 神々と生きる農村 ~阿蘇の農耕儀礼と祭り~ ③ 次世代につなぐ農業と農村文化
細目レベル
① 阿蘇地域の農業は、火山と草原という独特の自然条件のもとで発展してきました。阿蘇の広大な草原は、春の「野焼き」によって維持されており、これによりススキなどの草が毎年更新されます。この草は、放牧されたあか牛(褐毛和種)の飼料や敷きわらとなり、牛のふんは発酵されて堆肥として水田や畑に還元されます。こうして「草→牛→堆肥→作物→草」という資源の循環が地域内で完結する、持続可能な農業が営まれてきました。また、阿蘇の火山性土壌は酸性で養分が少ないため、長年にわたり堆肥や客土、畝立てなどの改良が積み重ねられてきました。農業は単なる作物生産ではなく、自然条件への適応と、地域資源を最大限に活かす工夫の結晶です。阿蘇の循環型農業は、自然と共に生きるという営みを体現した、日本の農業文化の重要な一例です。
② 阿蘇地域では、自然と人の営みだけでなく、農業と深く結びついた信仰や儀礼が今も息づいています。代表的なのが「火振り神事」や「御田祭り」などの農耕儀礼です。火振り神事では、たいまつを振り回すことで悪霊を払い、火の神に無病息災と豊作を祈願します。一方、御田祭りでは田植えの所作を神前で行い、稲作の成功を祈る神聖な儀式が執り行われます。これらの祭りは、自然の恵みに感謝し、人と神が共に営む農業という考え方を象徴しています。阿蘇神社を中心とした信仰文化は、火山という厳しくも豊かな自然を神ととらえ、その力と折り合いをつけながら生きてきた人びとの知恵です。農業が単なる経済活動ではなく、「祈り」や「願い」と一体になった暮らしの中の営みであることを、阿蘇の農耕儀礼は私たちに伝えています。
③ 阿蘇地域では、自然と共に生きる農業だけでなく、それを次世代につなぐための取り組みが地域ぐるみで進められています。代表的なのが「農業師匠制度」です。この制度では、地域のベテラン農家が「師匠」となり、若者や新規就農者を「弟子」として育て、農業の技術だけでなく、自然との向き合い方や地域文化のあり方まで伝えています。また、地元の農業高校と連携し、草原での放牧体験や堆肥づくり、地域の祭りへの参加を通じて、「暮らしの中にある農業」を実践的に学ぶ機会も設けられています。さらに、阿蘇地域は「SAVOR JAPAN」や「ディスカバー農山漁村の宝」にも選ばれ、農泊や食文化を通じて国内外の人々に地域の魅力を発信しています。このように、阿蘇では“農”を単なる産業としてではなく、自然・文化・人のつながりとして未来へと引き継ごうとする姿勢が根づいています。
キーワード
① 野焼き(のやき) ② 循環型農業 ③ 火山性土壌 ④ 農耕儀礼(御田祭り・火振り神事) ⑤ 農業師匠制度
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回授業時間内に、ヨリソル上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
◆今回授業の復習
阿蘇地域では、自然環境や信仰、農業、文化が密接につながり、地域全体で「持続可能な農業と暮らし」が営まれています。草原ではあか牛の放牧が行われ、牛ふんは堆肥として田畑に還元される循環型農業が実現しています。また、火振り神事や御田祭り、農耕祈願祭など、自然への感謝と祈りが込められた信仰行事が、農業と暮らしに根づいています。担い手育成では「農業師匠」制度や農業高校との連携が進み、地域全体で若者を支えています。阿蘇の農業は、自然・人・文化を一体として次世代へとつなげる知恵に満ちています。
◆次回授業の予習
次回の授業は、長良川・白山・阿蘇の3地域の学びをふり返ります。長良川では、清流を守りながら鮎漁と水田農業が共存し、白山では雪解け水と信仰、水番制度を活かした農業文化がありました。そして阿蘇では、草原を野焼きで守り、あか牛の放牧や堆肥を使った循環型農業が行われています。これら3地域に共通するのは、自然をただ利用するのではなく、「共に生きるもの」として尊重してきたことです。今回はその知恵を比較しながら、自然と人の共生の意味を深め、次世代にどう受け継ぐかを考えていきます。
14
【日本の農業遺産から考える、農業と自然・文化の共生④ 自然・文化・農業をむすぶ地域の力 ~ 日本農業遺産の学びをふりかえる ~】
科目の中での位置付け
本科目「農業地理学」では、「なぜこの地域でこの農業が行われているのか?」という問いを軸に、農業という営みが自然環境(地形・気候・土壌・水・生き物)や社会経済的背景(地域文化・政策・市場など)とどのように関わってきたのかを、地理的な視点から考えていきます。本学カリキュラムにおける「基盤形成期」に位置づけられる本科目は、1年次前期に開講され、以後の「土壌生態学」「農業生態学」「農生物演習」などの専門・実践科目へとつながる基本的な思考枠組みを提供します。
本科目の授業構成は、全15回を三つの期に分けて構成しています。第1回~第4回までは、農業地理学の基本的な概念を学ぶ〈導入期〉とし、「農業を地理的に見るとはどういうことか」、「自然条件と農業の関係とは何か」といった問いに答えながら、科目全体の見取り図を描いていきます。第5回~第10回は〈展開期〉にあたり、日本の農業遺産地域(宇和島、佐渡、大崎、新潟中越、掛川など)を事例に、地域ごとの自然と農業のつながりを考察します。第11回~第15回は〈応用期〉として、長良川、白山、阿蘇といった地域を事例に、第二部で学んだ視点をさらに発展させ、「自然とともにある農業」をより深く、多面的に考察します。
第14回では、第11回「長良川」、第12回「白山」、第13回「阿蘇」で学んだ内容をふり返り、「自然と共生する農業」の知恵を多角的に整理します。清流・豪雪・火山という極端に異なる自然条件の中で、人々は自然に“逆らう”のではなく、“折り合いをつけて”農業を営んできました。長良川では、鮎と田んぼが共存する「里川」の仕組み、白山では雪と水を活かす棚田農業と水番制度、阿蘇では草原と牛がつなぐ循環型農業の実践が紹介されました。本コマでは、これらの事例を単なる地域紹介にとどめず、共通する「自然との対話」「文化の継承」「地域資源の活用」という視点で再整理します。「なぜこの地域でこの農業が行われているのか?」という問いを再確認し、地理的視点の応用力を育てるコマです。
(1) 池田定彦『農業地理学入門』、古今書院、2007年、153〜155頁:「日本の農業景観・自然と文化の関係性」
→ 阿蘇のように、自然環境と農業・文化・信仰が結びついた農村景観についての考察が含まれています。175〜180頁:「農業と観光・文化的価値」
→ 草原景観、農泊、農村文化の発信など、地域資源の活用による持続可能な地域づくりに関連する内容です。
コマ主題細目
① 長良川の清流農業と共生の知恵 ② 白山と能登の農業文化 ③ 阿蘇の農業システム
細目レベル
① 長良川流域では、清らかな水とともに生きる農業と漁業のあり方が今も受け継がれています。水田で使われた水が再び川に戻り、鮎などの生きもののすみかを支えるしくみは、自然と人の営みが共存する「里川(さとがわ)」の知恵といえます。川の水質を守るため、農薬や化学肥料をできるだけ使わない「清流農業」が実践され、農と漁、さらには地域の文化や観光(鵜飼など)までがつながった持続可能な暮らしが形づくられています。ここでは、自然を単なる資源として消費するのではなく、共に生きる存在として丁寧に扱う姿勢が見られます。長良川の事例は、自然・文化・経済が一体となった地域の知恵の集積であり、「農業とはどうあるべきか」という問いに対して、一つの実践的な答えを示しています。自然との調和をめざす農業の可能性を学ぶ上で、極めて重要な事例です。
② 白山地域と能登地域は、どちらも石川県に位置しながら、まったく異なる自然環境と農業文化を育んできました。白山地域では、豪雪や急斜面という厳しい自然条件のもと、雪解け水を活かした棚田農業や、水を公平に分け合う水番制度が発展しました。さらに、白山信仰に根ざした農耕儀礼や水の神への祈りが、自然と農のつながりを支えてきました。一方、能登地域は「里山・里海」の概念に象徴されるように、山・川・海が近接するなかで、多様な生態系と共生しながら小規模な農漁業が営まれてきました。田んぼに海藻や貝をまいて土を豊かにする農法や、森の恵みを活かす知恵は、自然の循環を大切にする暮らしの表れです。この両地域を比較することで、農業が自然だけでなく文化・信仰・社会制度と結びついていることが見えてきます。それぞれの農業文化には、土地の声に耳をすませる人びとの姿勢が色濃く刻まれています。
③ 阿蘇地域の農業は、火山による地形と草原という独自の自然環境を活かした循環型のしくみによって支えられています。毎年春に行われる「野焼き」は、草原の更新と維持に欠かせない作業であり、放牧されるあか牛の飼料資源にもつながります。牛のふんは堆肥として再利用され、水田や畑に栄養を与えることで、地域内で資源が循環する持続可能な農業が実現しています。また、阿蘇の火山性土壌は酸性で養分に乏しいため、堆肥の投入や客土、畝立てなど、長年にわたる改良の工夫も重ねられてきました。さらに、火山や湧水にまつわる信仰、農耕儀礼(御田祭りや火振り神事)も農業と一体となって息づいており、「農」と「くらし」と「文化」が融合した地域づくりが行われています。阿蘇の農業システムは、自然とともに生きるための知恵が形となった、日本の農業文化の重要なモデルといえるでしょう。
キーワード
① 共生(きょうせい) ② 循環(じゅんかん) ③ 信仰と農業 ④ 地域資源の活用 ⑤ 地理的視点
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回授業時間内に、ヨリソル上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
◆今回授業の復習
今回の授業では、長良川・白山・阿蘇の3地域をふり返り、「自然と共生する農業の知恵」について学び直しました。長良川では、川と田んぼが助け合い、鮎漁と農業が水を通じて共存していました。白山地域では、雪解け水を活かした棚田や雪室、水番制度など、厳しい自然と向き合う工夫がありました。阿蘇では、野焼きによって草原を維持し、牛の放牧と堆肥を活かした循環型農業が続けられています。どの地域も、自然を「資源」として使うだけでなく、暮らしと文化に結びつけながら「ともに生きる」姿勢を大切にしてきたことが共通点です。
◆次回授業の予習
次回はいよいよ最終回です。これまでの第1回から第14回までの学びをふり返る総まとめです。各地の自然環境や地形、水、土、気候といった条件が、どのように農業のかたちや地域文化をつくってきたのかを再確認します。たとえば、川と田んぼがつながる長良川、雪と信仰が支える白山、草原と火山に育まれた阿蘇など、地域ごとの特色を比べながら、自然と共生する農の知恵を見直します。また、農業遺産に認定された地域が共通して持つ価値や、今後の持続可能な農業へのヒントについても考えます。まとめを通して、地理から農業を見る視点を深めましょう。
15
【農業地理学の総仕上げと展望】
科目の中での位置付け
本科目「農業地理学」では、「なぜこの地域でこの農業が行われているのか?」という問いを軸に、農業という営みが自然環境(地形・気候・土壌・水・生き物)や社会経済的背景(地域文化・政策・市場など)とどのように関わってきたのかを、地理的な視点から考えていきます。本学カリキュラムにおける「基盤形成期」に位置づけられる本科目は、1年次前期に開講され、以後の「土壌生態学」「農業生態学」「農生物演習」などの専門・実践科目へとつながる基本的な思考枠組みを提供します。
本科目の授業構成は、全15回を三つの期に分けて構成しています。第1回~第4回までは、農業地理学の基本的な概念を学ぶ〈導入期〉とし、「農業を地理的に見るとはどういうことか」、「自然条件と農業の関係とは何か」といった問いに答えながら、科目全体の見取り図を描いていきます。第5回~第10回は〈展開期〉にあたり、日本の農業遺産地域(宇和島、佐渡、大崎、新潟中越、掛川など)を事例に、地域ごとの自然と農業のつながりを考察します。第11回~第15回は〈応用期〉として、長良川、白山、阿蘇といった地域を事例に、第二部で学んだ視点をさらに発展させ、「自然とともにある農業」をより深く、多面的に考察します。
農業地理学の授業は、「なぜ、そこにその農業があるのか?」という問いから始まりました。第1回から第14回までの授業では、日本各地の農業事例を通じて、農業が自然条件、地形、気候、文化、経済などと深く結びついていることを学びました。最終回となる第15回では、それらの学びをふり返り、自分の視点で「農業とは何か」「農業をどのように地理的に理解するか」を言葉にする回です。つまりこの回は、情報を“受け取る”学びから、“語る”学びへと移る転換点です。ここでは「農業とは生き方のひとつである」という認識をもとに、自分が最も関心をもった地域を選び、そこにある農業の特徴や価値を“自分の言葉”で再構成していくことが求められます。本コマは、知識を受け取る段階から、自らの視点で語り直す段階へと学びを深める回であり、学習の総仕上げとして位置づけられています。これまでに学んだ農業地理学の構造を、自分自身の考えとして言語化することで、学問を“自分のもの”にすることを目指すため、第15回に採用しました。
(1) 池田定彦『農業地理学入門』、古今書院、2007年、240–250頁:「農業を地理的に考えるとは何か」:農業を単なる生産行為ではなく、空間・自然・文化との関係からとらえる視点を再確認する。251–255頁:「地域農業と未来の展望」:学んだ地域事例を踏まえ、これからの農業のあり方について考える視野を養う。
コマ主題細目
① 農業地理学の学びをふり返る:地形・気候・文化のつながりを整理する ② 自分の視点をもつ:「わたしが選ぶ農業地理の一例」をまとめる ③ 農業とこれからの社会を考える:地理的視点で未来を見つめる
細目レベル
① 第1回から第14回までに学んだ地域事例(宇和島・高千穂・能登・佐渡・大崎・中越・長良川・白山・阿蘇など)をもう一度整理し、それぞれがどのような自然条件・農業の工夫・文化的背景を持っていたかを比較して確認します。ここでは、表や地図を用いながら「農業=自然との関係性である」「農業=文化的表現でもある」という構造的理解を再確認します。目標は、「農業はどこでも同じではなく、場所によって“かたち”がある」ことを知識としてではなく、“構造”として理解することです。
② ここでは、「なぜその地域を選んだのか?」「そこにどんな人の工夫があるのか?」「どんな自然条件と向き合っているのか?」という問いに対して、自分の視点をもって言葉で答えることが求められます。目標は、「農業地理を他者から学ぶ」のではなく、「農業地理を自分の言葉で語る」段階に進むことです。書くことは“思考”であり、その人の“立場”でもあることを学びます。
③ これまでの農業のかたちをふまえつつ、「これからの農業がどのようにあるべきか」を考えます。気候変動、人口減少、食料問題、生物多様性の保全など、農業をとりまく現代社会の課題に対して、地理的な視点から「地域に合った農業のあり方」を想像してみます。目標は、農業を「過去のもの」ではなく、「未来を考える入口」としてとらえることです。
キーワード
① 地形・気候・文化の関係 ② 地域に合った農業 ③ 自然との共生 ④ 農業の多様性と価値 ⑤ 農業の未来(食・環境・暮らし)
コマの展開方法
社会人講師
AL
ICT
PowerPoint・Keynote
教科書
コマ用オリジナル配布資料
コマ用プリント配布資料
その他
該当なし
小テスト
「小テスト」については、毎回授業時間内に、ヨリソル上において当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題
◆今回授業の復習
今回の授業では、これまでに学んだすべての地域事例をふり返り、「農業とは何か?」という問いに、自分の言葉で答えることを目指しました。復習として、①自分が選んだ農業地理の一例とその理由、②農業がどのように自然とつながっているか、③農業がこれからの社会にどう必要か、という3点をまとめてノートに記述してください。「農業を見ることは、人間の暮らし方を考えることでもある」という視点を忘れないようにしましょう。
◆この授業のふり返りとして
「あなたはなぜ農業地理学を学んだのか?」
これが最終的な問いです。この問いに、自分の言葉で答えられるようになっているかどうかが、この授業の成果を示しています。 それは、農業を単なる作物生産ととらえるのではなく、地域の自然・文化・暮らしと深く結びついた営みとして理解するためです。日本各地の農業には、地形や気候に応じた工夫や、自然と共に生きる知恵が詰まっていました。段々畑の石垣や焼畑、ため池や水番制度、草原と牛の循環など、すべてが「自然に応答する人びとの暮らし」でした。これからの社会にとって、持続可能な農業とは何かを考えるヒントが、農業地理学にはあります。私たちはその視点を得るために、この授業を学んだのです。
履修判定指標
履修指標
履修指標の水準
キーワード
配点
関連回
農業地理学の基本理解 (やさしい★)
農業地理学の定義や目的、研究対象を理解し、「なぜこの場所でこの農業が行われているのか?」という問いを自然環境や文化的背景から説明できる力を育むこと。単なる用語の暗記ではなく、地理的な視点を持ち、農業と土地との関係性を100文字以上で表現できるかが水準となる。
農業地理学、自然条件、地域特性
20
第1回~第3回
自然と農業の関係の理解(やさしい★)
地形、気候、土壌、水資源などの自然条件が農業の種類・方法にどのように影響するかを、具体的な地域事例を通じて理解する。自然の条件が単独ではなく、複合的に作用して農業の“かたち”を決定していることを、図表や気候グラフ、地形断面などを活用して100文字以上で説明できることが求められる。
地形、気候、土壌、水資源
25
第4回〜第6回
農業と文化・景観の関係理解(やさしい★)
農業がその土地の文化や暮らし、景観と結びついていることを理解し、文化的景観としての農業の意義を具体例とともに100文字以上で説明できる。祭り、信仰、風景などとの関係から、農業を社会的・文化的営みとして再解釈する力を養う。農業を“暮らしの文化”として読み解く視点を持てるかが評価基準となる。
文化的景観、伝統農業、生活文化
25
第2回、第5回、第8回、第11回
地域に根ざす農業の構造理解(普通★★)
長良川、白山、阿蘇などの地域事例を通じて、自然環境・文化・制度・技術がどのように組み合わさり、地域に根ざした農業のシステムが成り立っているかを理解する力を育てる。単に事例を覚えるのではなく、自然と人間の関係を複眼的に捉え、「農業とは何か」を構造的にとらえることが求められる。
地域構造、循環、共生、信仰
20
第11回〜第13回
農業の総合的理解と表現(難しい★★★)
これまで学んだ内容をふまえて、自分の視点から農業の意義を再構成し、地理的視点に立って100文字以上で説明できること。学んだ事例から一つを選び、農業の成り立ちと地域との関係性をまとめる力を評価する。自らの言葉で「農業とは何か」を語れる思考力と表現力が水準の目安となる。
総合力、言語化、地域理解
10
第14回、第15回
評価方法
期末試験100%とします。
評価基準
評語
学習目標をほぼ完全に達成している・・・・・・・・・・・・・
S (100~90点)
学習目標を相応に達成している・・・・・・・・・・・・・・・
A (89~80点)
学習目標を相応に達成しているが不十分な点がある・・・・・・
B (79~70点)
学習目標の最低限は満たしている・・・・・・・・・・・・・・
C (69~60点)
学習目標の最低限を満たしていない・・・・・・・・・・・・・
D (60点未満)
教科書
文章教材
参考文献
池田定彦『農業地理学入門』、古今書院、2007年、2400円+税 応用編として視野を広げたい場合 → 佐藤正明『日本農業の環境と発展』、農山漁村文化協会(農文協)、2006年、2800円+税 自然と農業の関係を生態学的に学びたい場合 → 武内裕『現代農業と環境』、筑摩書房 2004年 1200円+税
実験・実習・教材費
なし