区分 学部共通科目
ディプロマ・ポリシーとの関係
(心)専門的知識と実践的能力 (心)分析力と理解力 (心)地域貢献性
(環)専門性 (環)理解力 (環)実践力
カリキュラム・ポリシーとの関係
(心)課題分析力 (心)課題解決力 (心)課題対応力
(環)専門知識 (環)教養知識 (環)思考力 (環)実行力
カリキュラム全体の中でのこの科目の位置づけ
個人・社会。自然が直面する課題に対して専門的な理解を深めると共に、学際的な柔軟性を養い、実践的な能力を身につける。
科目の目的
日本語の構造や歴史的な変遷、特色、表現性についての知識を習得することにより、日本語の基礎的な知識を深めること、および近代(明治時代)以降の日本語による文章を正確に読解する能力を養うことを目指す。そのうえで、文章の論理構成を的確に把握する技能と、ことばや文章に託された表現者の意図・思考を読み取る能力を身につける。その知識をかえりみることにより、自らの思考や思いを他者に的確に伝達する能力を身につけることを目指す。
到達目標
1「万葉仮名」とは、中国伝来の文字である漢字を借りて日本語を書き記すために生み出された表意文字である漢字の意味を捨てた用法のことである。次の用法、「万葉仮名」、「音仮名」「訓仮名」「戯書」について教科書本文の説明をもとにそれぞれ説明することができる。
2「上代特殊仮名遣い」とは、上代、すなわち平安時代以前、キ・ヒ・ミ・ケ・ヘ・・コ・ソ・ト・ノ・モ・ロ・ヨとその濁音(ギ・ビ・ゲ・ベ・ゴ・ゾ・ド)に見られた、甲類・乙類で表す漢字のグループの万葉仮名の書き分けのことである。このような書き分けから、たとえば「甲類のき」と「乙類のき」では発音が異なったと考えられる。「上代特殊仮名遣い」すなわち甲類乙類の書き分けのあったかな、そして日本語の現在の清音数・濁音数、上代特殊仮名遣いから知られる奈良時代の清音数・濁音数を選択肢回答方式で答えることができる。
3ひらがなとカタカナについて、漢字(万葉仮名)からどのようにして成立したか・発生の場・担い手をそれぞれキーワードで説明することができる。
4漢字カタカナ交じり文が日本語の文章の代表となった理由を説明することができる。カタカナが生まれた場が漢文訓読の場であったこと、漢文訓読においてカタカナは最初補助記号として漢文本文の行間に小字で書かれた。カタカナは誕生当時、助詞や助動詞、活用語(動詞・形容詞・形容動詞)の活用語尾、日本語にするための補いの語、振り仮名を行間に小字で記載したが、その後カタカナは実質的な意味を表す語を大字で書かれるようになったという過程を、選択肢解答方式で答えることができる。
5係り結びとはどのような表現形式なのかということを、「係助詞―結びの活用形」という呼応形式、およびその形式で表現される意味を説明することができる。あわせて、係り結びは、平安時代に栄えた表現形式であるが、鎌倉・室町時代になると衰退・消滅への道をたどる、その理由を選択肢解答方式で解答し説明することができる。

科目の概要
 第1回の講義では、教科書の書名であり、講義テーマである「日本語の歴史」を理解するために必須である、日本の歴史の復習から始める。続いて教科書『日本語の歴史』を理解するために必須の知識、教科書ⅵ頁記載「用例の引用について」に見える「句読点」「濁点」「促音」「地の文」「漢字の新字体」「踊り字」等といった用語の知識の確認をする。その後「言語(ことば)の歴史」、すなわち「言語」には「音声言語」(声)と「文字言語」(文字)があり、どの民族も音声言語から出発し、その後それに加えて文字言語を獲得したという過程を理解する。
 第2回から第7回の講義では、教科書「Ⅰ漢字にめぐりあう-奈良時代」の理解のために必須である、漢字が「形音義」を持つ三位一体の文字であること等の確認から出発して、文字を持たなかった日本語が、漢字を借りて日本語を書き記す方法である「万葉仮名」という漢字の用法と、万葉仮名の使い分け、すなわち「上代特殊仮名遣い」から知られる奈良時代の音韻について理解する。
 続く第8回から第12回までは、教科書「Ⅱ文章をこころみるー平安時代」、漢字を用いて日本語を書き記すことから出発した後、漢字から日本固有の文字カタカナ・を生み出し、それらを使って、漢字カタカナ交じり文、ひらがな文で、自由に文章を書く悦びを手に入れていった過程を理解する。
 そして、第13回から第14回では、教科書「Ⅲうつりゆく古代語―鎌倉・室町時代」では、高等学校国語「古典」でおなじみの「係り結び(の法則)」の確認から始める。そして、室町時代になると「こそー已然形」意外の係り結びが衰退、消滅していく過程とその理由を理解する。
 最後の第15回では、奈良時代から中世、鎌倉・室町時代までの「日本語の歴史」の流れを振り返る。

科目のキーワード
万葉仮名、上代特殊仮名遣い、漢字カタカナ交じり文、ひらがな文、係り結び(の法則)
授業の展開方法
【講義形式】教員の解説を中心とした講義形式で教科書『日本語の歴史』の読解をすすめる。
【教材】教科書『日本語の歴史』及び配布資料(基本的にパワーポイントは使用しない)
配布資料には、教科書、岩波新書『日本語の歴史』を理解するために必要な基礎的な知識、たとえば「日本語の歴史」を理解するために必須である義務教育終了程度の日本史の時代区分、同程度の国語の知識(漢字の音訓、拗音、撥音等)の説明等や追加資料を掲載する。それらの基礎・基本的な知識を土台として、教科書を理解する。
各回の講義(1コマ90分)の構成の基本は、以下の通りである。
1、前回の復習を細目レベル順に、すなわち①、②、③と進める(15)分
2、当該回の講義内容を細目レベル順に解説する(60分)
3、当該回の講義内容のまとめ・復習事項の解説・manabaテスト(15分)

オフィス・アワー
(岡崎キャンパス)【火曜日】昼休み・4時限目、【水曜日】昼休み・3時限目(会議日は除く)、【木曜日】2時限目・昼休み
(大府キャンパス)講義前後、メール(hanai@uhe.ac.jp)にて質問に対応する。なお、メールの場合は、大学発行のアドレスからのみとする。

科目コード COM300
学年・期 1年・前期
科目名 日本語表現論
単位数 2
授業形態 講義
必修・選択 選択
学習時間 【授業】90分×15 【予習】90分以上×15 【復習】90分以上×15
前提とする科目 なし
展開科目 なし
関連資格 なし
担当教員名 花井しおり
主題コマシラバス項目内容教材・教具
1 日本語がなかったらーはじめに 科目の中での位置付け 本講義「日本語表現論」全15回の流れの概略は以下の通りである。
 第1回の講義では、教科書の書名であり、講義テーマである「日本語の歴史」を理解するために必須である、日本の歴史の復習から始める。続いて教科書『日本語の歴史』を理解するために必須の知識、教科書ⅵ頁記載「用例の引用について」に見える「句読点」「濁点」「促音」「地の文」「漢字の新字体」「踊り字」等といった用語の知識の確認をする。その後「言語(ことば)の歴史」、すなわち「言語」には「音声言語」(声)と「文字言語」(文字)があり、どの民族も音声言語から出発し、その後それに加えて文字言語を獲得したという過程を理解する。
 第2回から第7回の講義では、教科書「Ⅰ漢字にめぐりあう-奈良時代」の理解のために必須である、漢字が「形音義」を持つ三位一体の文字であること等の確認から出発して、文字を持たなかった日本語が、漢字を借りて日本語を書き記す方法である「万葉仮名」という漢字の用法と、万葉仮名の使い分け、すなわち「上代特殊仮名遣い」から知られる奈良時代の音韻について理解する。
 続く第8回から第12回までは、教科書「Ⅱ文章をこころみるー平安時代」、漢字を用いて日本語を書き記すことから出発した後、漢字から日本固有の文字カタカナ・を生み出し、それらを使って、漢字カタカナ交じり文、ひらがな文で、自由に文章を書く悦びを手に入れていった過程を理解する。
 そして、第13回から第14回では、教科書「Ⅲうつりゆく古代語―鎌倉・室町時代」では、高等学校国語「古典」でおなじみの「係り結び(の法則)」の確認から始める。そして、室町時代になると「こそー已然形」意外の係り結びが衰退、消滅していく過程とその理由を理解する。
 最後の第15回では、奈良時代から中世、鎌倉・室町時代までの「日本語の歴史」の流れを振り返る。
 今回第1回講義では、教科書読解の必須となる「凡例」の理解に必要な事項や日本史
歴史区分等々の基礎的事項の確認をする。

※次回以降も「教材・教具」欄の①②③は、授業当該回の細目レベルを表す。またこの欄記載の「配布資料●」の●の指示は授業内で行う。教科書・配布資料・コマシラバス①コマシラバス「必修・選択」「科目の目的」「到達目標」と履修判定指標」等の項目②教科書ⅵ頁③教科書7頁、配布資料●
コマ主題細目 ① 予習・復習 ② 『日本語の歴史』の凡例 ③ 日本史の時代区分 ④ ⑤
細目レベル ① コマシラバスを用いて、「カリキュラム全体の中でのこの科目の位置付け」「科目の目的」「到達目標」「履修判定指標」「科目の概要」「授業の展開方法」教科書『日本語の歴史』の読み方「予習・復習の方法」について理解する。まずこの「日本語表現論」は卒業要件となる必修科目ではないので、自らの興味・関心に従って、いくつかの選択肢のなかから「日本語の歴史」について知りたい、学びたいといった興味・関心によって選択する科目であることを理解する。そのうえで、「到達目標」と「履修判定指標」の解説、単位修得のためには何を理解すればよいのかを理解する。その後、教科書『日本語の歴史』を用いた予習・復習の方法について理解する。
② 教科書ⅵ頁の「用例の引用について」に見える用語を確認する。「用例の引用について」は、書籍における「凡例」、「本の初めに、その本を読む上で参考になる事項を箇条書きにしたものや約束事」(『新明解国語辞典 第六版』三省堂)であり、教科書を理解するために必須の用語である。ここに見える用語は既習事項ではあるが、その意味を、新書の読者対象レベル、つまりは義務教育終了レベル一般的な国語辞典での解説レベルで復習する。
以下の①から⑦はⅵ頁記載の丸囲み数字と対応する。①の「句読点」とは、句点「。」と読点「、」のこと。「濁点(だくてん)」は「゛」であり、「半濁点(はんだくてん)」が「゜」。濁点・半濁点をつけないで表せる音を「清音(せいおん)」というのに対し、「濁音(だくおん)」は濁点のある「が・ぎ・ぐ・げ・ご」等の、ガ行・ザ行・ダ行・バ行である。なお、半濁点のある音を「半濁音(はんだくおん)」という。例としては「パ・ピ・プ・ペ・ポ・ピャ・ピュ・ピョ」のようにパ行。②の「促音(そくおん)」はつまる音「っ」、「拗音(ようおん)」は「きゃ」「しゅ」「りょ」等のように小さい「ゃ・ゅ・ょ」などで表す音。③の「地(じ)の文」とは、「会話文」以外の場面などを説明する文のこと。④の「新字体」および対義語の「旧字体」(本字)の関係。たとえば新字体「斉・国」に対する旧字体(本字)が「齋・國」であるという関係。⑥の「踊り字(繰り返し符号)」とは、「ゝ」「ゞ」「〱」「〲」等のことを指す。「かゝ」は「かか」、「かゞ」は「かが」、「つれ〱」は「つれつれ」、「つれ〲」は「つれづれ」の意となる。⑦の「歴史的仮名遣い」が、「平安時代中期以前の文献に標準を置いた仮名遣い」であるのに対し、「現代仮名遣い」は、現在私たちが用いる仮名遣いのことをいう。
 なお、基本的に教科書文中の「 」は筆者が強調したい語であり、『 』は書名。

③ 日本史の歴史区分を確認する。教科書の書名であり、主題である「日本語の歴史」を理解するためには。日本史の歴史区分の知識は必要不可欠である。また、教科書に述べられる日本語に関わる事象が、「今からおよそ何年くらい前に起こったことなのか」ということ、そして事象と事象との前後関係を理解するために、日本史の歴史区分の知識は重要である。
そこで、教科書7頁に見える「奈良時代」「平安時代」「鎌倉・室町時代」「江戸時代」「明治以降」のそれぞれの時代区分とそれぞれの時代の特徴と都の所在地等を確認する。
奈良時代:710年平城京遷都から794年平安京遷都まで・都は平城京(現在の奈良市)
平安時代:794年平安京遷都から1192年(近時では1185年)の鎌倉幕府成立まで・都は平安京(現在の京都市)・貴族が中心の時代
鎌倉・室町時代:1192年(近時では1185年)鎌倉幕府成立から江戸幕府成立まで・都は京都市のままだが、政治の中心は幕府のひらかれた鎌倉へ移る・武士が中心の時代
江戸時代:1603年江戸幕府成立にはじまる・都は京都市のままだったが、政治の中心は幕府の開かれた江戸に移る。それに伴って、経済・文化の中心も「上方(かみかた)」から江戸へと移った。町人たちの文化が栄えた時代.



キーワード ① 濁音 ② 半濁音 ③ 促音 ④ 拗音 ⑤ 日本史の時代区分
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【予習】1、教科書ⅵ頁の「用例の引用について」を読んで、わからない語に傍線を引く等の印をつける。印をつけた語の意味を「国語辞典」(電子辞書、スマホの辞書機能でも可)や、手持ちの「国語便覧」等で調べてノート(手書きでも、Word文書でも可)しておく。
2、教科書「日本語がなくなったら」(1~8頁)を読み、章のテーマである「日本語がなくなったら」どのようなことになるのかということ、および筆者の執筆意図の3点が書かれている部分に傍線を引いておく。
【復習】今回第1回講義の細目レベル②で確認した用語は、教科書の読解に必要な知識であるので、それを理解し憶えておく。同じく細目レベル③の日本史の時代区分、その区切りやそれぞれの時代の都や経済の中心、文化の担い手を憶える。

2 漢字にめぐりあうー奈良時代1 科目の中での位置付け 本講義「日本語表現論」全15回の流れの概略は以下の通りである。
 第1回の講義では、教科書の書名であり、講義テーマである「日本語の歴史」を理解するために必須である、日本の歴史の復習から始める。続いて教科書『日本語の歴史』を理解するために必須の知識、教科書ⅵ頁記載「用例の引用について」に見える「句読点」「濁点」「促音」「地の文」「漢字の新字体」「踊り字」等といった用語の知識の確認をする。その後「言語(ことば)の歴史」、すなわち「言語」には「音声言語」(声)と「文字言語」(文字)があり、どの民族も音声言語から出発し、その後それに加えて文字言語を獲得したという過程を理解する。
 第2回から第7回の講義では、教科書「Ⅰ漢字にめぐりあう-奈良時代」の理解のために必須である、漢字が「形音義」を持つ三位一体の文字であること等の確認から出発して、文字を持たなかった日本語が、漢字を借りて日本語を書き記す方法である「万葉仮名」という漢字の用法と、万葉仮名の使い分け、すなわち「上代特殊仮名遣い」から知られる奈良時代の音韻について理解する。
 続く第8回から第12回までは、教科書「Ⅱ文章をこころみるー平安時代」、漢字を用いて日本語を書き記すことから出発した後、漢字から日本固有の文字カタカナ・を生み出し、それらを使って、漢字カタカナ交じり文、ひらがな文で、自由に文章を書く悦びを手に入れていった過程を理解する。
 そして、第13回から第14回では、教科書「Ⅲうつりゆく古代語―鎌倉・室町時代」では、高等学校国語「古典」でおなじみの「係り結び(の法則)」の確認から始める。そして、室町時代になると「こそー已然形」意外の係り結びが衰退、消滅していく過程とその理由を理解する。
 最後の第15回では、奈良時代から中世、鎌倉・室町時代までの「日本語の歴史」の流れを振り返る。
 今回第2回講義では、前回第1回で確認した知識のもとに漢字という文字の特性を理解する。このことは第7回講義までの万葉仮名理解の前提となる。

教科書・配布資料・コマシラバス①教科書10~11頁「話し言葉の時代」②配布資料●③配布資料●
コマ主題細目 ① 音声言語と文字言語 ② 表意文字と表音文字 ③ 漢字 ④ ⑤
細目レベル ① ことば(言語)には、音声言語と文字言語があることを理解する。世界に言語はいくつあるのか。およそ4000語とか7000語以上などといわれている。世界の中には今でも文字のない社会が存在する。また日本列島にも、まだ文字のない時代があった。文字を使いはじめてからの時代はたかだか1400年ほどであす。文字を使わない時代の方が、文字を使う前(音声言語だけの時代)よりもかなり長いといえる。
 ことば(言語)の歴史上、日本語を含んでどの言語も音声言語のみの時代から出発し、その後に音声言語+文字言語の時代を迎える。というのも音声言語は、「今・ここ」の制約があるからである。音声言語による伝達機能は、同時間に声の届く範囲という場所を限定してのみ可能である。それに対して、文字言語は、すなわち文字として書き留められたことにより、およそ1300年前の人々が詠んだ歌を収めた『万葉集』や、およそ1000年前に紫式部が書いた『源氏物語』は、その時間の隔たりを超えて現在まで伝わり読むことができることを理解する。

② 「表意(表語)文字」と「表音文字」ということを理解する。「好きな文字は何ですか」と問われたら、あなたはどのように答えますか? あるいは、毎年の年末の風物詩、清水寺で発表される今年を代表する文字が「漢字」なのはなぜなのでしょうか。
 「好きな文字」を問われた場合に、ひらがなの「あ」やカタカナの「ス」、あるいはアルファベットの「C」というように、ひらがな、カタカナ、アルファベットを選ぶということはまずないでしょう。ほとんどの場合、漢字、「愛」だとか「和」という文字を選ぶと思います。ちなみに昨年令和3年を代表する漢字は、東京オリンピックでの日本の金メダルを祝福する「金」でした。このように、好きな文字として漢字が選ばれること、逆にいえば好きな文字としてひらがな・カタカナ・アルファベットが選ばれないことの理由は、次のことにあります。すなわち漢字が、意味を表す表意(表語)文字であるのに対して、ひらがな・カタカナ・アルファベットは、発音のみを表す表音文字であることに因るからです。たとえば、ひらがなの「あ」を見た時に喚起されるのは、〔a〕という発音のみで、そこに意味は読みとれないということを理解する。

③ 漢字は「形音義」を持つ文字であることを理解する。先に今回細目レベル②において、漢字が表意(表語)文字であることを理解した。その漢字は、「形」文字としての「字形」視覚的に認知されるもの、および「音」、音読み、訓読みといった発音、そして「義」すなわち意味という三つを持つ、三位一体のものであることを理解する。
 つまり、「花」という漢字で説明すると、「花」という字形、「カ」(音読み)、「はな」(訓読み)の発音、そして「一定の期間、植物の茎や枝の先に形成され、つぼみの状態から開いて実を結ぶものの総称。よい香りと美しい色彩をもつものが多く、鑑賞・装飾用に栽培されるものもある。植物学的には種子植物の生殖器官で、雄しべ・雌しべ・花冠・萼(がく)からなる」(『明鏡国語辞典 第三版』大修館書店)という意味を持つ、つまり、漢字「花」は、このように形(字形)・音(発音)・義(意味)の三つを持つということを理解する。



キーワード ① 音声言語 ② 文字言語 ③ 表意文字 ④ 表音文字 ⑤ 漢字
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【予習】教科書「Ⅰ 漢字にめぐりあうー奈良時代」(10~21頁)を、下記の①から③のことを考えながら読み、その解説部分に傍線を引く。
①「話し言葉」(音声言語・声)と「書き言葉」(文字言語・文字)との相違点②「言霊信仰」とはどのような考え方をいうのか③話し言葉がコミュニケーション中心の時代における人の「名」はどのようなものだったか
【復習】今回第2回講義細目レベル①音声言語と文字言語の相違を90程度(句読点を含む)で説明する。
※音声言語によるコミュニケーションが、話し手と聞き手とが同時に声の届く範囲においてのみ成立するのに対して、文字言語によるコミュニケーションは時間・空間を超えることができる。(85字)
同じく細目レベル②の表意(表語)文字と表音文字の違いについて、70字程度(句読点を含む)説明するまた、ある漢字について、実例を「形」「音」「義」を説明する。
※ひらがな・カタカナ・アルファベットが発音のみを表す表音文字であるのに対して、漢字は形音義を備えた表意(表語)文字である。(70字)

3 漢字にめぐりあうー奈良時代2 科目の中での位置付け 本講義「日本語表現論」全15回の流れの概略は以下の通りである。
 第1回の講義では、教科書の書名であり、講義テーマである「日本語の歴史」を理解するために必須である、日本の歴史の復習から始める。続いて教科書『日本語の歴史』を理解するために必須の知識、教科書ⅵ頁記載「用例の引用について」に見える「句読点」「濁点」「促音」「地の文」「漢字の新字体」「踊り字」等といった用語の知識の確認をする。その後「言語(ことば)の歴史」、すなわち「言語」には「音声言語」(声)と「文字言語」(文字)があり、どの民族も音声言語から出発し、その後それに加えて文字言語を獲得したという過程を理解する。
 第2回から第7回の講義では、教科書「Ⅰ漢字にめぐりあう-奈良時代」の理解のために必須である、漢字が「形音義」を持つ三位一体の文字であること等の確認から出発して、文字を持たなかった日本語が、漢字を借りて日本語を書き記す方法である「万葉仮名」という漢字の用法と、万葉仮名の使い分け、すなわち「上代特殊仮名遣い」から知られる奈良時代の音韻について理解する。
 続く第8回から第12回までは、教科書「Ⅱ文章をこころみるー平安時代」、漢字を用いて日本語を書き記すことから出発した後、漢字から日本固有の文字カタカナ・を生み出し、それらを使って、漢字カタカナ交じり文、ひらがな文で、自由に文章を書く悦びを手に入れていった過程を理解する。
 そして、第13回から第14回では、教科書「Ⅲうつりゆく古代語―鎌倉・室町時代」では、高等学校国語「古典」でおなじみの「係り結び(の法則)」の確認から始める。そして、室町時代になると「こそー已然形」意外の係り結びが衰退、消滅していく過程とその理由を理解する。
 最後の第15回では、奈良時代から中世、鎌倉・室町時代までの「日本語の歴史」の流れを振り返る。
 今回第3回では、これまでに学習した漢字が中国伝来の文字であること、表意(表語)文字であるということといった知識を土台として、万葉仮名という、日本における漢字の用法を理解する。

教科書・配布資料・コマシラバス①教科書15~21頁「話し言葉の時代」②教科書20~21頁、配布資料●③教科書21~28頁、配布資料●
コマ主題細目 ① 『古事記』序文 ② 漢字の訓 ③ 万葉仮名 ④ ⑤
細目レベル ① 日本語が文字言語を持つための二つの方法について理解する。日本語が音声言語、話し言葉だけだった時代に、文字を手に入れる方法として、理論的に二つの方法があった。その二つの方法を理解する。一つは、自分たちで、自分たちの話し言葉を記すのに適した文字を創り出していく方法。たとえば、中国で中国語を記すための文字として漢字が創り出されたように、日本で日本字というような日本語を記すための文字を創り出すということである。もう一つは、既に創られ使われている他国の文字を借りてきて利用する方法である。なお、日本独自として日本で創られた文字であるひらがな・カタカナが創られたのは、平安時代であり、二つの文字の「字母」は漢字である。
自明の通り、日本語は二つの方法のうちの後者の方法を選択した。つまり、中国語を記すために創り出された文字を借りて日本語を記すという方法をとった。
ここで考えなければばらないのは、日本語と中国語との相違である。日本語と中国語とは、発音や文法体系が異なる言語である。中国語を表記するために創り出された漢字を用いて日本語を書き記すということによる苦労が『古事記』「序文」に書かれている。その中国語を記すための漢字で、日本語を記すことの苦労を理解する。

② 漢字の音訓を理解する。今回第3回講義の細目レベル①で見たように、漢字は中国語を書き記すために創り出された文字である。その漢字を、現在も私たちは日々使用し、漢字を用いることなくコミュニケーションを図ることはできないといってもよい状況にある。その漢字には、一文字にいくつもの読み方がある。たとえば、「山」という漢字を漢和辞典、国語辞典で引くと、「やま」「サン」という読み方があることがわかる。このうちひらがな記載の読み方が「訓読み」といわれるものであり、「山」という文字の意味する「やまとことば」(日本語)、「やま」ということである。一方カタカナ記載の読み方「サン」は、「音読み」といわれるものであり、「山」の漢字音を日本人が聞き取った発音である。その方法は、たとえば英語「This」の発音を日本人がカタカナで「ディス」「ジス」等と書き写すことと同様の方法である。
 漢字の音読みが、漢字本来の読み方に近い読み方であること、訓読みが、中国から伝わった漢字の表す意味にあてはまる日本語をあてた読み方であることを理解する。
 なお、音読みには、日本に伝えられた時期や地域によって違う、「呉音」「漢音」「唐音」がある。呉音は、5・6世紀に伝えられた中国南方の呉の地方の発音。漢音は、中国の随・唐時代の発音で、平安時代からの正式の音となる。唐音は、鎌倉・室町時代に伝えられた中国の宋や元の発音。

③ 「万葉仮名」という漢字の用法について理解する。「万葉仮名」とは、ひらがな・カタカナとは異なり、漢字の用法をいう。万葉仮名とは、表意(表語)文字である漢字の表意性をそぎ落として、音としてのみ使う用法のことであることを理解する。たとえば、教科書21頁「万葉仮名の誕生」の6行目に引用される『古事記』の本文「久羅下那洲多陀用弊流(時)」にしても、一文字目の「久」という文字には久しい、長い時間という意味、三文字目の「下」という文字には上下の上という意味、六文字目の「多」という文字には量的に多いという意味があるが、ここではそれらの漢字の意味は一切捨てられ、字形は漢字であるが、「くらげなすただよへる」という音だけを表しているという、万葉仮名の方法を理解する。


キーワード ① 漢字 ② 音読み ③ 訓読み ④ 『古事記』 ⑤ 万葉仮名
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【予習】教科書「Ⅰ 漢字にめぐりあうー奈良時代」(17~22頁)を今回細目レベル①②③および【復習】課題が説明されている部分に傍線を引きながら読む。
【復習】①文字を持たなかった日本語が、文字を手に入れた方法を60字程度(句読点を含む)で説明することができる。
※日本語は、既に日本に伝来していて、中国語を書くために創り出された漢字を借りて日本語を記載するという方法をとった。(56字)
②漢字の音訓について、「音読み」「訓読み」について、それぞれ50字程度(句読点を含む)で説明することができる。
※漢字の音読とは、漢字本来の読み方を日本人が聞き取った、本来の音に近い読み方である。(41字)
漢字の訓読みとは、中国から伝わった漢字の表す意味にあてはまる日本語をあてた読み方である。
③「万葉仮名」という漢字の用法を50字程度(句読点を含む)で説明することができる。
※万葉仮名とは、表意文字である漢字の意味を一切捨てて、その音だけを借りて使う用法のこと。(43字)

4 漢字にめぐりあうー奈良時代3 科目の中での位置付け 本講義「日本語表現論」全15回の流れの概略は以下の通りである。
 第1回の講義では、教科書の書名であり、講義テーマである「日本語の歴史」を理解するために必須である、日本の歴史の復習から始める。続いて教科書『日本語の歴史』を理解するために必須の知識、教科書ⅵ頁記載「用例の引用について」に見える「句読点」「濁点」「促音」「地の文」「漢字の新字体」「踊り字」等といった用語の知識の確認をする。その後「言語(ことば)の歴史」、すなわち「言語」には「音声言語」(声)と「文字言語」(文字)があり、どの民族も音声言語から出発し、その後それに加えて文字言語を獲得したという過程を理解する。
 第2回から第7回の講義では、教科書「Ⅰ漢字にめぐりあう-奈良時代」の理解のために必須である、漢字が「形音義」を持つ三位一体の文字であること等の確認から出発して、文字を持たなかった日本語が、漢字を借りて日本語を書き記す方法である「万葉仮名」という漢字の用法と、万葉仮名の使い分け、すなわち「上代特殊仮名遣い」から知られる奈良時代の音韻について理解する。
 続く第8回から第12回までは、教科書「Ⅱ文章をこころみるー平安時代」、漢字を用いて日本語を書き記すことから出発した後、漢字から日本固有の文字カタカナ・を生み出し、それらを使って、漢字カタカナ交じり文、ひらがな文で、自由に文章を書く悦びを手に入れていった過程を理解する。
 そして、第13回から第14回では、教科書「Ⅲうつりゆく古代語―鎌倉・室町時代」では、高等学校国語「古典」でおなじみの「係り結び(の法則)」の確認から始める。そして、室町時代になると「こそー已然形」意外の係り結びが衰退、消滅していく過程とその理由を理解する。
 最後の第15回では、奈良時代から中世、鎌倉・室町時代までの「日本語の歴史」の流れを振り返る。
 今回第4回では、これまで第3回までの学内容のもとに、万葉仮名の音仮名、訓仮名、戯書の表記方法を理解する。

教科書・配布資料・コマシラバス①教科書15~21頁「話し言葉の時代」②教科書20~21頁、配布資料●③教科書21~28頁、配布資料●①教科書22~24頁配布資料●②教科書24~25頁配布資料●③教科書㉕から28頁配布資料●
コマ主題細目 ① 音仮名 ② 訓仮名 ③ 戯書 ④ ⑤
細目レベル ① 「音仮名」とは、漢字の音読みを借りた表記法である。たとえば、教科書22頁「一字一音」の4行目にあげられている「夜麻(やま) 可波(かは) 由岐(ゆき) 伊呂(いろ) 波奈(はな)」のような表記法である。いずれも一つの漢字が一音を表している。そして、最初の例「夜麻」は「やま」という音を表すのみであって、そこに漢字「夜」、「麻」の、それぞれ「日没から日の出までの時間。夜間」、「①大麻・苧麻(ちょま)・マニラ麻などの繊維の総称。②クワ科の一年草。茎はまっすぐ伸び、高さ2m。茎の皮から繊維をとる。実は食用。大麻。○夏③①から作った糸や織物。「―のスーツ」」(『集英社 国語辞典』)の意味はないという漢字の使い方であることを理解する。
② 「訓仮名」とは、漢字の訓読みを借りた表記法である。たとえば、教科書24頁「訓読みの万葉仮名」の4行目に見える「八間跡」、「やまと」がそれである。すなわち「八」の訓読みが「や・や(つ)・やっ(つ)・よう」(( )内は送りがな)、「間」の訓読みは、「あいだ・ま」、そして「跡」の訓読みが「あと」である。ここでも「八間跡」を読む時に、漢字のもつ「八つ」とか「あいだ」とか「あと」という意味は全く関係がない。このような表記法を「訓仮名」という。
 また、「訓仮名」には、先に見た一字一音の「八間跡」、「やまと」のような例の他、教科書24頁「訓読みの万葉仮名」7行目の「相見鶴鴨」「夏樫」のように二文字以上の音に対応する例もある。この場合にも「鶴鴨」「夏樫」にそれぞれの漢字の持つ、鳥の「鶴」「鴨」の意味、季節の「夏」の意味、植物の「樫」の意味はない。
  今回第4回細目レベル①②で見てきたように、万葉仮名の基本は、漢字の意味を捨てて読みだけを借りることであることを理解する。

③ 「戯書」とは、漢字の背後に、文字遊びの要素を取り込んだ表記方法のことである。たとえば、教科書26頁2行上段の、『万葉集』二五四二の歌の第五句「二八十一あらなくに」のような表記方法のことである。「二八十一あらなくに」は、「にくくあらなくに」と読む。「二」を「に」と読むのは音読みに因る。続く「八十一」を「くく」と読むのは、掛け算の九九の「9×9=81」、つまり「九九、八十一」に因る。万葉集の時代の人々は九九に精通していたと見え、この他にも「十六」と書いて、「しし」と読む。「4×4=16」、「四四、十六」によって、「十六」を「猪(しし)」(当時は、食用となる鹿や猪などの総称)と読む例もある。
 また、教科書26頁13行目上段の、『万葉集』一七八七の歌の第四句「山上復有山」は、漢詩の例に倣った表記で、当該部分は「山の上に復(また)山が有る」と読めることから、「山」の字の上に、復(ま)た「山」を書くと「出」となることから、「出(いで) ば」と読む例も見える。



キーワード ① 漢字 ② 万葉仮名 ③ 音仮名 ④ 訓仮名 ⑤ 戯書
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【予習】教科書「Ⅰ 漢字にめぐりあうー 奈良時代」20~28頁を、次の①から③について考えながら読む。①漢字が表意(表語)文字であること②漢字の音読みと訓読みという読み方がそれぞれどのような読み方なのか③万葉仮名とはどのような漢字の用法なのか
【復習】①「万葉仮名」について、40字程度(句読点を含む)で説明することができる。
※万葉仮名とは、漢字の意味を捨てて読みだけを借りる用法のこと。(30字)
②「音仮名」について、25字程度(句読点を含む)で説明することができる。
※音仮名とは、漢字の音読みを借りた表記法をいう。(23字)
③「訓仮名」について、25字程度(句読点を含む)で説明することができる。
※訓仮名とは、漢字の訓読みを借りた表記法をいう。(23字)
④「戯書」について、35字程度(句読点を含む)で説明することができる。
※戯書とは、漢字の背後に、遊びの要素を取り込んだ表記法をいう。(30字)


5 漢字にめぐりあうー奈良時代4 科目の中での位置付け 本講義「日本語表現論」全15回の流れの概略は以下の通りである。
 第1回の講義では、教科書の書名であり、講義テーマである「日本語の歴史」を理解するために必須である、日本の歴史の復習から始める。続いて教科書『日本語の歴史』を理解するために必須の知識、教科書ⅵ頁記載「用例の引用について」に見える「句読点」「濁点」「促音」「地の文」「漢字の新字体」「踊り字」等といった用語の知識の確認をする。その後「言語(ことば)の歴史」、すなわち「言語」には「音声言語」(声)と「文字言語」(文字)があり、どの民族も音声言語から出発し、その後それに加えて文字言語を獲得したという過程を理解する。
 第2回から第7回の講義では、教科書「Ⅰ漢字にめぐりあう-奈良時代」の理解のために必須である、漢字が「形音義」を持つ三位一体の文字であること等の確認から出発して、文字を持たなかった日本語が、漢字を借りて日本語を書き記す方法である「万葉仮名」という漢字の用法と、万葉仮名の使い分け、すなわち「上代特殊仮名遣い」から知られる奈良時代の音韻について理解する。
 続く第8回から第12回までは、教科書「Ⅱ文章をこころみるー平安時代」、漢字を用いて日本語を書き記すことから出発した後、漢字から日本固有の文字カタカナ・を生み出し、それらを使って、漢字カタカナ交じり文、ひらがな文で、自由に文章を書く悦びを手に入れていった過程を理解する。
 そして、第13回から第14回では、教科書「Ⅲうつりゆく古代語―鎌倉・室町時代」では、高等学校国語「古典」でおなじみの「係り結び(の法則)」の確認から始める。そして、室町時代になると「こそー已然形」意外の係り結びが衰退、消滅していく過程とその理由を理解する。
 最後の第15回では、奈良時代から中世、鎌倉・室町時代までの「日本語の歴史」の流れを振り返る。
 今回第5回では、これまでの第1回から第4回までの学習内容をまとめる。

教科書・配布資料・コマシラバス①教科書10~14頁、配布資料●②教科書15~17頁、配布資料●③教科書17~22頁配布資料●
コマ主題細目 ① 音声言語 ② 漢字 ③ 万葉仮名 ④ ⑤
細目レベル ① 音声言語「話し言葉」中心の時代の特徴を理解する。話し言葉のコミュニケーションが中心の社会では、現代人である私たちの想像をはるかに超えて、言葉そのものが霊力を持っていた。「言霊思想」である。この考え方は、現代人が、「四」という番号の部屋は「死」を連想し、不吉だと思ったり、子供に名前をつけるときに姓名判断に凝ったりするのも、言葉に何らかの力を認めていることであるので、現代でもそれに列なる考え方は残っている。しかし、話し言葉だけの社会では、言葉の意欲が極めて強かった。「無事だ」と高らかに宣言すると、発せられたその言葉の通りに無事の状態を実現できると考えられていた。
 そのことと関連して、古代日本語では「事柄」も「言葉」も「こと」であった。つまりは、「事柄」=「言葉」と考えられていたことを理解する。

② 漢字という文字の特徴を理解する。漢字が、「表意(表語)文字」であること、および「形」「音」「義」を持つ文字であることは、本講義の第2回細目レベル②③で見てきた通りである。また、漢字は紀元前1500年ごろに中国で生まれ、日本には4世紀ごろに伝えられたと考えられています。その発声から知られるように、漢字は中国語を記すために創り出された文字である。文字を持たなかった日本語が文字を持とうとした時、理論的に以下の二つの方法があった。一つは、中国で中国語を書き記すための文字、漢字が創り出されたように、日本でも日本語を書き記すための文字を創り出すという方法。もう一つが、既に伝来していた漢字を借りて日本語を書き記すという方法である。
 日本は後者の方法を選択し、漢字には音読みと訓読みという読みをあてたことを理解する.

③ 万葉仮名という漢字の用法を理解する。『万葉集』の時代、すなわち平安時代以前、日本に文字は漢字しかなかった。だから『万葉集』はすべて漢字で書かれている。漢字で日本語を書き記すことは、本講義第3回細目レベル①で触れた『古事記』「序文」に、「漢字を使って述べてみると、どうも心に思っていることが十分にあらわされていない。そこで漢字の音だけを借りる方式で述べてみると、恐ろしく文章が長くなってしまう。困った挙句、この『古事記』は、表意文字としても漢字に音だけを借りた漢字を交ぜて書くことにします。また、事柄によっては表意文字としても漢字を連ねて書きます」(教科書19頁下段2行目から7行目『古事記』序文 口語訳(現代語訳))と記されていた。
 『万葉集』は、歌(和歌)を、「音仮名」「訓仮名」等の「万葉仮名」という、漢字の意味を捨てて読みだけを借りる方法で書き記したことを理解する。



キーワード ① 言霊思想 ② 漢字 ③ 音仮名 ④ 訓仮名 ⑤ 万葉仮名
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【予習】①教科書1頁から28頁を読む。②教科書10から14頁を読んで、言霊思想における具体例として本文にあげられている人名にかかわる三つの例をノート(Word文書可)にまとめる。
【復習】①「言霊信仰」とは、どのような考え方なのか35字程度(句読点を含む)で説明する。
※言霊信仰とは、言葉そのものが霊力を持っているとする考え方のことをいう。(35字)
②『古事記』序文において、漢字を用いて日本語と書く場合に、漢字の「音(音読み)」だけを借りて書くとどのようになると書かれていますか。その部分を教科書19頁下段の『古事記』序文の口語訳(現代語訳)から書き抜く。
※漢字の音だけを借りる方式で述べてみると、恐ろしく文章が長くなってしまう。

6 漢字にめぐりあうー奈良時代5 科目の中での位置付け 本講義「日本語表現論」全15回の流れの概略は以下の通りである。
 第1回の講義では、教科書の書名であり、講義テーマである「日本語の歴史」を理解するために必須である、日本の歴史の復習から始める。続いて教科書『日本語の歴史』を理解するために必須の知識、教科書ⅵ頁記載「用例の引用について」に見える「句読点」「濁点」「促音」「地の文」「漢字の新字体」「踊り字」等といった用語の知識の確認をする。その後「言語(ことば)の歴史」、すなわち「言語」には「音声言語」(声)と「文字言語」(文字)があり、どの民族も音声言語から出発し、その後それに加えて文字言語を獲得したという過程を理解する。
 第2回から第7回の講義では、教科書「Ⅰ漢字にめぐりあう-奈良時代」の理解のために必須である、漢字が「形音義」を持つ三位一体の文字であること等の確認から出発して、文字を持たなかった日本語が、漢字を借りて日本語を書き記す方法である「万葉仮名」という漢字の用法と、万葉仮名の使い分け、すなわち「上代特殊仮名遣い」から知られる奈良時代の音韻について理解する。
 続く第8回から第12回までは、教科書「Ⅱ文章をこころみるー平安時代」、漢字を用いて日本語を書き記すことから出発した後、漢字から日本固有の文字カタカナ・を生み出し、それらを使って、漢字カタカナ交じり文、ひらがな文で、自由に文章を書く悦びを手に入れていった過程を理解する。
 そして、第13回から第14回では、教科書「Ⅲうつりゆく古代語―鎌倉・室町時代」では、高等学校国語「古典」でおなじみの「係り結び(の法則)」の確認から始める。そして、室町時代になると「こそー已然形」意外の係り結びが衰退、消滅していく過程とその理由を理解する。
 最後の第15回では、奈良時代から中世、鎌倉・室町時代までの「日本語の歴史」の流れを振り返る。

教科書・配布資料・コマシラバス①教科書32~36頁、配布資料●②教科書32~33頁、配布資料●③教科書34~40頁、配布資料●
コマ主題細目 ① 五十音図 ② 母音・子音 ③ 上代特殊仮名遣い ④ ⑤
細目レベル ① 五十音図と「段」「行」の指示体系を理解する。今回第6回細目レベル③で学ぶ「上代特殊仮名遣い」を理解するために必須である「五十音図」について復習する。
 「五十音図」は国語辞典等でおなじみのものである。国語辞典の見出しは、あいうえお順(五十音順)に配列されている。五十音の一つ一つが日本語の一音節を表す仮名文字で、5段10行で構成されている。横の並びを「段」、縦の並びを「行」(ぎょう)という。すなわち、段は、ア段・イ段・ウ段・エ段・オ段の五つの段となり、行は、ア行・カ行・サ行・タ行・ナ行・ハ行・マ行・ヤ行・ラ行・ワ行の十行となる。そして、ア段といえば、五十音図の横の並びを指し、具体的にいえば「ア・カ・サ・タ・ナ・ハ・マ・ヤ・ラ・ワ」をいうことになる。また、縦の並びを指す「行」の場合は、「ア行」は、ア・イ・ウ・エ・オであり、「カ行」は「カ・キ・ク・ケ・コ」をいう。

② 日本語の音節構造を理解する。日本語の音節は、今回第6回細目レベル①でように五十音図で示される。そのうちのア行のア・イ・ウ・エ・オが現代の日本語の「母音」である。そして、カ行以下の行は、「子音+母音」で構成される。この母音と子音の構成はローマ字で表記するとわかりやすいので、以下に示す。ア行が「a・i・u・e・o」であるのに対し、カ行は「ka・ki・ku・ke・ko」、サ行が「sa・si・su・se・so」、つづくタ行が「ta・ti・tu・te・to」と表される。
 またあげたローマ字表記から、「ア・カ・サ……」がア段であり、「イ・キ・シ……
をイ段ということも分かりやすい。なお、「子音」は、「ka」「sa」などの「k」「s」をいう。

③ 「上代特殊仮名遣い」について理解する。奈良時代「こひ(恋)」の「こ」と、「こゑ(声)」の「こ」、異なる漢字のグループの万葉仮名で書き分けられていた。このことは何を意味するのか。現代でも、ひらがなで「あ」と「い」を書き分けるのは、「あ」と「い」の音が異なるからである。ということからわかる、当時「こひ(恋)」と「こゑ(声)」の「こ」とは発音が違っていたということがわかる。このような万葉仮名の書き分けを「上代特殊仮名遣い」という。
 音の相違は、「甲」「乙」で表されるが、二つ音の相違はよくわからない。今のところ、「甲
と記した方の音の発音は、現在に伝わる発音とほぼ同じだけれども、「乙」と記した方の音は、母音部分が「甲」と記した方の音とは違っていたとする説が通説になっている。
 この上代特殊仮名遣いにより、教科書34頁表3からわかるように、奈良時代には清音が61音あり、同頁の図4から奈良時代には濁音が27音あったことがわかる。



キーワード ① 五十音図 ② 日本語の音節 ③ 母音 ④ 子音 ⑤ 上代特殊仮名遣い
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【予習】1教科書32~42頁を読む。2教科書32頁の表1・表2をノートに書き写して(Wordファイル可)、「五十音図」と、「段」、「行」を確認しておく。
【復習】1教科書32~42頁を熟読する。2現代語の五十音図が作成できるようにする。そのうえで、「ア段」とはどの音を指すのか、「サ行音」とはどの音を指すのかと問われたら答えられるようにする。3日本語の音節構造が、ア行音が母音のみ、それ以外の行は子音+母音という構造であることをする。4上代特殊遣いとは、奈良時代にキ・ヒ・ミ・ケ・ヘ・
・コ・ソ・ト・ノ・モ・ロ・ヨとその濁音に見られた、甲類・乙類で表す漢字のグループの万葉仮名の書き分けのことであることを理解する。

7 漢字にめぐりあうー奈良時代まとめ 科目の中での位置付け 本講義「日本語表現論」全15回の流れの概略は以下の通りである。
 第1回の講義では、教科書の書名であり、講義テーマである「日本語の歴史」を理解するために必須である、日本の歴史の復習から始める。続いて教科書『日本語の歴史』を理解するために必須の知識、教科書ⅵ頁記載「用例の引用について」に見える「句読点」「濁点」「促音」「地の文」「漢字の新字体」「踊り字」等といった用語の知識の確認をする。その後「言語(ことば)の歴史」、すなわち「言語」には「音声言語」(声)と「文字言語」(文字)があり、どの民族も音声言語から出発し、その後それに加えて文字言語を獲得したという過程を理解する。
 第2回から第7回の講義では、教科書「Ⅰ漢字にめぐりあう-奈良時代」の理解のために必須である、漢字が「形音義」を持つ三位一体の文字であること等の確認から出発して、文字を持たなかった日本語が、漢字を借りて日本語を書き記す方法である「万葉仮名」という漢字の用法と、万葉仮名の使い分け、すなわち「上代特殊仮名遣い」から知られる奈良時代の音韻について理解する。
 続く第8回から第12回までは、教科書「Ⅱ文章をこころみるー平安時代」、漢字を用いて日本語を書き記すことから出発した後、漢字から日本固有の文字カタカナ・を生み出し、それらを使って、漢字カタカナ交じり文、ひらがな文で、自由に文章を書く悦びを手に入れていった過程を理解する。
 そして、第13回から第14回では、教科書「Ⅲうつりゆく古代語―鎌倉・室町時代」では、高等学校国語「古典」でおなじみの「係り結び(の法則)」の確認から始める。そして、室町時代になると「こそー已然形」意外の係り結びが衰退、消滅していく過程とその理由を理解する。
 最後の第15回では、奈良時代から中世、鎌倉・室町時代までの「日本語の歴史」の流れを振り返る。
 今回第7回は、教科書「漢字にめぐりあうー奈良時代」のまとめとして、主として「万葉仮名」と「上代特殊仮名遣い」を復習する。

教科書・配布資料・コマシラバス①教科書20~28頁・配布資料●②教科書32~40頁、配布資料●③教科書40~42頁、配布資料●
コマ主題細目 ① 万葉仮名 ② 上代特殊仮名遣い ③ 奈良時代の語彙 ④ ⑤
細目レベル ① 万葉仮名という漢字の用法を理解する。漢字は、紀元前1500年ごろに中国で生まれ、日本には4世紀ごろに伝えられたと考えられている。その発生から知られるように、漢字は中国語を記すために創り出された文字である。文字を持たなかった日本語は、既に伝来していた漢字を借りて日本語を書き記すという方法を選択し、漢字には音読み(中国での漢字本来の読み方に近い読み方)と訓読み(中国から伝わった漢字の表す意味に当てはまる日本語を当てた読み方)という読みをあてた。そして、現存する最古の歌集『万葉集』では歌(和歌)を、「音仮名」「訓仮名」等の「万葉仮名」という、漢字の意味を捨てて読みだけを借りる方法で書き記したことを理解する。
② 上代特殊遣いという奈良時代に見えた万葉仮名の使い分けの仕組みを理解する。 上代特殊遣いとは、奈良時代にキ・ヒ・ミ・ケ・ヘ・・コ・ソ・ト・ノ・モ・ロ・ヨとその濁音(ギ・ビ・ゲ・ベ・ゴ・ゾ・ド)に見られた、甲類・乙類で表す漢字のグループの万葉仮名の書き分けのことである。このような書き分けから、たとえば「甲類のき」と「乙類のき」では発音が異なったと考えられる。この発音の相違は現在もよくわかってはいないが、甲類は、現在の発音とほぼ同じ、乙類は母音部分が甲類とは違っていたという説が通説である。上代の日本語は、教科書34頁の表3「奈良時代の清音」および同頁の表4「同じく濁音」から、清音が現在の44音に対して61音、濁音が現在の18音に対して27音であったことがわかる。
③ 奈良時代の人々の語彙を理解する。第6回細目レベル③、そして今回細目レベル②で見たように、奈良時代の人々の発音が現在とは大きく違っていた。それでは、当時の人々は、どのような言葉を用いていたのか。当時の資料は少ない。当時の語彙を知る資料の中心は歌集である『万葉集』である。歌(和歌)に見える語彙ということになるが、奈良時代の日本人は、日本固有の「やまとことば」(=和語)を、現在よりもはるかに多く用いていたと考えられる。しかし、わずかではあるが、「法師」「餓鬼」「香」(かう)「布施」「檀越」(だにをち)などの中国伝来の漢語・仏教用語を用いていたことがわかる。また、歌に使われる言葉は、日常の話し言葉とは異なっていた。たとえば、日常の話し言葉でじゃ「つる(鶴)」「かへる(蛙)」といったが、それらを歌に詠むときには「たづ(鶴)」「かはづ(蛙)」といったことを理解する。


キーワード ① 万葉仮名 ② 音読み ③ 訓読み ④ 上代特殊仮名遣い ⑤ 和語
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【予習】1教科書1~41頁を、奈良時代の日本語がどのようなものだったのかを考えながら熟読する。2授業で触れたこの教科書の読解に必要な用語であるⅵ頁「用例の引用について」に見える用語や、漢字が「表意(表語)文字」であること、「漢字の音訓」「濁音」「五十音図」「万葉仮名」「上代特殊仮名遣い」等を復習しておく。
【復習】1教科書1~41頁を熟読する。2日本語の歴史から見て、奈良時代というのはどのような時代だったのかを100字程度(句読点を含む)でノートにまとめる。
※奈良時代は、文字を持たなかった日本人が、漢字という異国の文字を借りて日本語を記そうとし、万葉仮名という独自の漢字の使い方を見つけ出し、日本語の表記の土台を築いた時期である。(86字)

8 文章をこころみるー平安時代1 科目の中での位置付け 本講義「日本語表現論」全15回の流れの概略は以下の通りである。
 第1回の講義では、教科書の書名であり、講義テーマである「日本語の歴史」を理解するために必須である、日本の歴史の復習から始める。続いて教科書『日本語の歴史』を理解するために必須の知識、教科書ⅵ頁記載「用例の引用について」に見える「句読点」「濁点」「促音」「地の文」「漢字の新字体」「踊り字」等といった用語の知識の確認をする。その後「言語(ことば)の歴史」、すなわち「言語」には「音声言語」(声)と「文字言語」(文字)があり、どの民族も音声言語から出発し、その後それに加えて文字言語を獲得したという過程を理解する。
 第2回から第7回の講義では、教科書「Ⅰ漢字にめぐりあう-奈良時代」の理解のために必須である、漢字が「形音義」を持つ三位一体の文字であること等の確認から出発して、文字を持たなかった日本語が、漢字を借りて日本語を書き記す方法である「万葉仮名」という漢字の用法と、万葉仮名の使い分け、すなわち「上代特殊仮名遣い」から知られる奈良時代の音韻について理解する。
 続く第8回から第12回までは、教科書「Ⅱ文章をこころみるー平安時代」、漢字を用いて日本語を書き記すことから出発した後、漢字から日本固有の文字カタカナ・を生み出し、それらを使って、漢字カタカナ交じり文、ひらがな文で、自由に文章を書く悦びを手に入れていった過程を理解する。
 そして、第13回から第14回では、教科書「Ⅲうつりゆく古代語―鎌倉・室町時代」では、高等学校国語「古典」でおなじみの「係り結び(の法則)」の確認から始める。そして、室町時代になると「こそー已然形」意外の係り結びが衰退、消滅していく過程とその理由を理解する。
 最後の第15回では、奈良時代から中世、鎌倉・室町時代までの「日本語の歴史」の流れを振り返る。
 今回第8回からは、これまで学習した、奈良時代の日本語がどのように平安時代の日本語につながってゆくのかついて考える。

教科書・配布資料・コマシラバス①教科書44~51頁、配布資料●②教科書48~50頁、配布資料●③教科書48~54頁、配布資料●
コマ主題細目 ① 日本語文 ② 漢文と和文 ③ 漢式和文 ④ ⑤
細目レベル ① 法隆寺金堂(ほうりゅうじこんどう)薬師仏「光背銘」(こうはいめい)は、漢字だけで記載されているが日本語文であることを理解する。日本語の文章として古くて有名なものとして、奈良法隆寺薬師仏の光背銘がある。そこに刻まれた文は、中国語文(=漢文)ではなく、日本語文であると判断される。その理由を理解する。教科書45頁3行目からに法隆寺薬師仏の「光背銘」があげられている。二段組みの上段が光背銘本文であり、下段が本文の読み方である。「光背銘」はすべて漢字で書かれているが、日本語文である。
その理由は、①「薬師像作」(薬師像を作る)、「造不堪」(造るに堪えず)、「大命受」(大命を受ける)というように、日本語の語順で書かれていることが多い。言い換えると、漢字だけで書かれているが中国文(漢文)の語順、先にあげた例で説明すると中国語文(漢文)の語順「作薬師像」「不堪造」「受大命」のように書かれていない。②敬語表現が入っている。言い換えると、中国語文にはない、「大御身」(おほみみ)「大御病」(おほみやまひ)という接頭辞による敬語表現や、「労賜」(労(つかれ)賜ひし)「誓願賜」(誓ひ願ひ賜ひしく)「崩賜」(崩(かむあがり・「かむあがる」は「崩御」(ほうぎょ)という語があるように天皇などが亡くなること)賜ひて)「受賜」(受け賜ひて)「仕賜」(仕へ賜ひて)といった補助動詞による敬語表現、「坐」(いまさむ)という動詞による敬語表現が用いられていることに因る。

② 教科書における「漢文」と「和文」の意味を理解する。「漢文」とは、書き手が日本人か中国人であるかにかかわらず、中国語で書かれた文章(中国語文)をさす。日本人が書いたために、日本語的な誤りが犯されていてもそれを「漢文」という。
 それに対して、日本語文として書かれた文章はすべて「和文」という。「和文」のなかには、「万葉仮名文」「草仮名文」(そうがなぶん)「ひらがな文」「宣命体文」(せんみょうたいぶん)「漢字カタカナ交じり文」が入ることを理解する。
 なお、「草仮名」とは、「漢字の草書体をさらに略して出来たかなの役目をする文字」(『新明解国語辞典 第六版』三省堂)。「宣命体」とは、実質的な意味の語を大字で、助詞・助動詞や活用語尾を小さく右寄せに各文章方式。天皇の命令を述べ知らせるための文章「宣命」がこの文章様式で書かれているので、「宣命体」という。また、祭りの儀式に唱えて祝福する「祝詞」(のりと)、神前仏前で読誦する文章もこの様式で書かれている。

③ 「漢式和文」ということの意味を理解する。今回第8回細目レベル①で触れた、法隆寺金堂薬師像光背銘は、すべて漢字で書かれてはいるが日本語文と判断されることが知られた。光背銘のような文章は、一般的には「変体漢文」と呼ばれる。「変体漢文」という呼び方では、中国語で書かれた「漢文」の一種のように理解されてしまうが、光背銘は中国語文ではなく、れっきとした日本語文、つまり「和文」の一種である。そして、「変体」とは、中国人お書いた「漢文」を「正格」なものとして、それを模倣しつつも「正格」に至らなかったという認識が潜んでいる。確かに光背銘の文章の書き手は「漢文」を手本にしたかもしれないが、「漢文」を書くことを目指したのではなく、日本人に読んでもらうための文章を書くことを目指したと考えられる。「変体漢文」という呼び方では、このように本質を見誤らせる可能性があるので、教科書では「漢式和文」と呼ぶ。その「漢式和文」の意味を理解する。
 「漢式和文」とは、山口佳紀氏の用語で、漢文様式で書かれた日本語の文章をいう。



キーワード ① 法隆寺金堂薬師蔵光背銘 ② 漢文 ③ 和文 ④ 変体漢文 ⑤ 漢式和文
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【予習】教科書44~51頁を、41頁にあげられている法隆寺金堂薬師仏の「光背銘」がなぜ日本語文といえるのかというその理由を考えながら読む。教科書にその理由が述べられている部分に傍線を引く、あるいはその理由部分をノート(Wordファイル作成可)にまとめる。
【復習】1教科書41頁にあげられている法隆寺金堂薬師仏の「光背銘」が日本語文である理由を2つあげることができる。
※①日本語の語順で書かれている。②敬語表現が入っている。
2「漢文」「和文」の定義を教科のを引用をもとにまとめることができる。
※漢文とは、書き手が日本人か中国人であるかを問わず、中国語として書かれた文章をさす。和文とは、日本語として書いたすべての文章をさす。

9 文章をこころみるー平安時代2 科目の中での位置付け 本講義「日本語表現論」全15回の流れの概略は以下の通りある。
 第1回の講義では、教科書の書名であり、講義テーマである「日本語の歴史」を理解するために必須である、日本の歴史の復習から始める。続いて教科書『日本語の歴史』を理解するために必須の知識、教科書ⅵ頁記載「用例の引用について」に見える「句読点」「濁点」「促音」「地の文」「漢字の新字体」「踊り字」等といった用語の知識の確認をする。その後「言語(ことば)の歴史」、すなわち「言語」には「音声言語」(声)と「文字言語」(文字)があり、どの民族も音声言語から出発し、その後それに加えて文字言語を獲得したという過程を理解する。
 第2回から第7回の講義では、教科書「Ⅰ漢字にめぐりあう-奈良時代」の理解のために必須である、漢字が「形音義」を持つ三位一体の文字であること等の確認から出発して、文字を持たなかった日本語が、漢字を借りて日本語を書き記す方法である「万葉仮名」という漢字の用法と、万葉仮名の使い分け、すなわち「上代特殊仮名遣い」から知られる奈良時代の音韻について理解する。
 続く第8回から第12回までは、教科書「Ⅱ文章をこころみるー平安時代」、漢字を用いて日本語を書き記すことから出発した後、漢字から日本固有の文字カタカナ・を生み出し、それらを使って、漢字カタカナ交じり文、ひらがな文で、自由に文章を書く悦びを手に入れていった過程を理解する。
 そして、第13回から第14回では、教科書「Ⅲうつりゆく古代語―鎌倉・室町時代」では、高等学校国語「古典」でおなじみの「係り結び(の法則)」の確認から始める。そして、室町時代になると「こそー已然形」意外の係り結びが衰退、消滅していく過程とその理由を理解する。
 最後の第15回では、奈良時代から中世、鎌倉・室町時代までの「日本語の歴史」の流れを振り返る。
 今回第8回は日本語の文章はいつごろから書かれたのかについて考える。

教科書・配布資料・コマシラバス①教科書44~51頁、配布資料●②教科書54~58頁、配布資料●③教科書60~67頁配布資料●
コマ主題細目 ① 日本語文 ② 漢文訓読 ③ カタカナ ④ ⑤
細目レベル ① 日本語の文章の最初が大化の改新(たいかのかいしん・745年)以降であると考えられることを理解する。まず、「大化の改新とは」、645(大化1)年飛鳥時代の政治改革。中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)が中臣(藤原鎌足)らの協力を得て蘇我蝦夷(そがのえみし)・入鹿(いるか)父子を滅ぼし孝徳天皇を擁立、皇子は皇太子となって政治改革を行った(『新制版 日本史辞典』数研出版)
 本講義前回第8回細目レベル①から③で見たように法隆寺金堂薬師仏「光背銘」は、日本語文と考えられる。「光背銘」はいつ書かれたのか。「光背銘」には、教科書45頁3行目からの上段(本文)・下段(口語訳)の文末にそれぞれ2行目からに、「歳次丁卯年」(上段・本文)「丁卯(ひのとう)(六〇七年)」に、法隆寺と薬師像を完成させたとある。しかし、法隆寺は、建立後ほどなく火災で炎上し、その後早くても、天武天皇・持統天皇の頃(天武天皇即位は686年)にならないと再建されていない。
 「光背銘」の本文、教科書45頁3段目から(上段本文・下段口語訳)の冒頭近くに「天皇」とあることが注目される。この「天皇」という語は、持統天皇の頃(687年)以降使われ出すことが、東野治之氏により明らかにされている。つまり、「光背銘」の文章は、「天皇」あることから、「天皇」という語が使われ始めた後、持統天皇の頃以後の7世紀後半以後に書かれたと考えられる。
 なお、持統天皇の頃以前に、日本語として書かれた文章やその断片として残っているものは、いずれも大化の改新(645年)以後のものである。
これらのことから、日本語の文章は、大化の改新(645年)以降書き始められたと考えられる。

② 「漢文訓読」という日本人が漢文(中国語文)を読んだ方法がどのように効率的な方法なのかを理解する。平安時代に最もステイタスの高い文章は、中国人も読むことができる「漢文」であった。当時の日本の歴史書『続日本紀』(しょくにほんぎ)『日本後紀』『続日本後紀』『文徳実録』(文徳天皇実録)『三代実録』(日本三代実録)などの国史は、すべて漢文で書かれている。
 それでは、漢文を日本辞はどのようにして読んだのか。中学校や高校の漢文の授業でおなじみの「訓読」という方法で読んだ。あれは、日本人が中国の漢文を学び取る方法を学んでいたのである。漢文訓読という方法は、原文の漢文に符号(レ点や一・点、上下点など)を書き込み、助詞・助動詞などを書き込んで翻訳完了。新たに、日本語の文章を書き起こしたりしない。翻訳に必要な作業を一つ抜かした、誠に効率的な消化吸収方法である。だから、日本人は短時間に漢文の内容を吸収できたということを理解する。

③ 漢文訓読の場において、漢字の篇旁冠脚からカタカナが生まれた過程を理解する。漢文訓読の訓読を実際に行う場面を思い浮かべてみる。原文の漢文の行間は狭い。そこに、今回細目レベル②で見たように、助詞や助動詞、活用語(動詞・形容詞・形容動詞)の活用語尾、日本語にするための補いの語、振り仮名を記さなければならなかった。文字は、漢字と同じ字形の万葉仮名しかない。画数の多い万葉仮名を書き込むには、漢文の行間が狭すぎる。そのうえ、画数の多い万葉仮名は書き込むのに時間がかかりすぎる。また、たとえ書いたとしても、画数の多い万葉仮名を小さく書いたのではどんな文字なのか判別しにくい。 
 そこで、万葉仮名の字形の一部分をとって「カタカナ」が発生した。部分をとった不完全な文字なので「カタカナ」と名づけられた。「カタカナ」の「カタ」とは、不完全な、十分でないという意味の言葉である。もともと、一音を表すのに、複数の万葉仮名があったので、カタカナも、一音に対してたくさんの文字ができてしまったが、次第にある音に対してはこの文字というように固定化してゆき、やがて一音に対して一つのカタカナが対応するようになった。
 教科書61頁の表5「カタカナのもとになった万葉仮名」を見ると、カタカナが文字としての体系を整えた10世紀半ばには、五十音図は、47音になっている。奈良時代に存在したたくさんの音が、平安遷都とともに、短期間で消失し、現在にとても近い音になったことがわかる。また、表5で、カタカナとそのもとになった万葉仮名との字形をそれぞれ比較してみると、カタカナが万葉仮名の最初の画をとるか、最後の画をとるかという傾向性に気づく。それは、人間の目というのは、最初と最後に注目しやすいからである。



キーワード ① 日本語文 ② 漢文訓読 ③ 返り点 ④ 振り仮名 ⑤ カタカナ
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【予習】1教科書44~62頁を熟読する。2教科書45頁にあげられている法隆寺金堂薬師仏光背銘がいつ書かれたのかを考えながら読む。3教科書55~58頁「奇妙な翻訳」を読んで、「漢文訓読」の方法とは、漢文(原文)をどのようにして読む方法なのかを読み取る。
4カタカナは漢文訓読の場において、漢字(万葉仮名)から生まれたが、教科書61頁表5「カタカナのもとになった万葉仮名」を見て、カタカナのそれぞれの文字がもとの漢字からどのようにして生まれたのかを、カタカナの字形と漢字の字形を比較しつつ考える。
【復習】1教科書44~62頁を熟読する。2法隆寺金堂薬師仏光背銘が書かれた時期を、「光背銘」の表現を引用して60字程度(句読点を含む)で説明する。
※「天皇」という持統天皇の頃以後使われはじめた語が見えることから、光背銘は7世紀後半以降に書かれたと考えられる。(55字)
3カタカナが漢字の偏旁冠脚という、万葉仮名の最初か最後の画をとる傾向で生み出されたことを、字母の万葉仮名とそれから生まれたカタカナの字形を比較して確認する。

10 文章をこころみるー平安時代3 科目の中での位置付け 本講義「日本語表現論」全15回の流れの概略は以下の通りある。
 第1回の講義では、教科書の書名であり、講義テーマである「日本語の歴史」を理解するために必須である、日本の歴史の復習から始める。続いて教科書『日本語の歴史』を理解するために必須の知識、教科書ⅵ頁記載「用例の引用について」に見える「句読点」「濁点」「促音」「地の文」「漢字の新字体」「踊り字」等といった用語の知識の確認をする。その後「言語(ことば)の歴史」、すなわち「言語」には「音声言語」(声)と「文字言語」(文字)があり、どの民族も音声言語から出発し、その後それに加えて文字言語を獲得したという過程を理解する。
 第2回から第7回の講義では、教科書「Ⅰ漢字にめぐりあう-奈良時代」の理解のために必須である、漢字が「形音義」を持つ三位一体の文字であること等の確認から出発して、文字を持たなかった日本語が、漢字を借りて日本語を書き記す方法である「万葉仮名」という漢字の用法と、万葉仮名の使い分け、すなわち「上代特殊仮名遣い」から知られる奈良時代の音韻について理解する。
 続く第8回から第12回までは、教科書「Ⅱ文章をこころみるー平安時代」、漢字を用いて日本語を書き記すことから出発した後、漢字から日本固有の文字カタカナ・を生み出し、それらを使って、漢字カタカナ交じり文、ひらがな文で、自由に文章を書く悦びを手に入れていった過程を理解する。
 そして、第13回から第14回では、教科書「Ⅲうつりゆく古代語―鎌倉・室町時代」では、高等学校国語「古典」でおなじみの「係り結び(の法則)」の確認から始める。そして、室町時代になると「こそー已然形」意外の係り結びが衰退、消滅していく過程とその理由を理解する。
 最後の第15回では、奈良時代から中世、鎌倉・室町時代までの「日本語の歴史」の流れを振り返る。
 今回第10回は、奈良時代の万葉仮名という漢字の用法から、カタカナ・ひらがなが生まれた過程を考える。

教科書・配布資料・コマシラバス①教科書64~67頁、配布資料②教科書72~75頁、配布資料●③カタカナについては教科書60~67頁、ひらがなについては教科書72~75頁、配布資料●
コマ主題細目 ① 漢字カタカナ交じり文 ② ひらがな ③ 字母 ④ ⑤
細目レベル ① 漢字カタカナ交じり文が漢文訓読の場から生まれたことを理解する。教科書65頁9行目から11行目に本文が引用されている『今昔物語集』は、平安時代末期の作である。教科書引用部分が教科書66頁に図8「鈴鹿本『今昔物語集』(京都大学図書館蔵).京都大学学術出版会刊『鈴鹿本今昔物語集』より」としてあげられている。あげられている『今昔物語集』では、引用本文、図8ともに1行目の「可為キ」「无限シ」以外は、返り読みがない、日本語の語順で書かれている。図8の文章を見ると、実質的な意味を持つ単語は漢字で大きく書かれ、実質的意味を持たない助詞・助動詞や活用語尾はカタカナで小さく右寄せで書かれている。ところが、一カ所だけ図8の3行目4文字目からの「オヒタゝシ(現在では「おびただしい」)とカタカナで大きく書かれている部分が目を引く。この書き方から、日本語の文章を書く場合にカタカナの地位が少し高くなったことがわかる。
 さらに、『今昔物語集』以後の説話集『打聞集』では、教科書66頁8行目から9行目の引用部分のうち、「(日)デリ」「イタク」「シケレバ」「カタニ」「イヤテリニテリ」と、実質的な意味を表す言葉が大字のカタカナで書かれている。そして、鎌倉・室町時代になると、カタカナの部分がほとんど漢字と同じ大きさになり、漢字カタカナ交じり文となった過程を理解する。

② 万葉仮名文からひらがなが生まれた過程を理解する。万葉仮名文は、漢文訓読の場で、カタカナを生み出し、さらに漢字カタカナ交じり文を生み出した。一方で、万葉仮名は、もう一つの新しい文字の系統と文章の世界を生み出した。それは、ひらがなとひらがな文の世界である。
 奈良時代の簡単な手紙文が二通、現在に伝わっている。それらは、「正倉院仮名文書甲類」「正倉院仮名文書乙類」といわれているもので、どちらも長い文章をしっかりした楷書の万葉仮名で書くのは大変な労力がいるので、とても短いものである。
 しかし、漢字の字形を少し草体化すると、労力が少々省ける。教科書73頁図10「有年申文」.漢字と草仮名の区別がつきにくい.(東京国立博物館.武蔵野書院刊『国語史資料集』より)は、草仮名で書かれている。しかし、草仮名の部分がまだ万葉仮名に近く、漢字との区別がつきにくい。最初の9字は漢字。10字目の「許礼波」から以下の2行は草仮名。3行目の下から2文字目の「抑」から続く「刑大史」が漢字。4行目の8字目の「定以出賜」が漢字。最後の署名の「有年申」が漢字。あとは、すべて草仮名で書かれている。漢字との区別をはっきりさせるためには、草仮名をさらに崩して、部悦の文字と認識できるようにしなければならない。そうして生まれたのがひらがなである、という万葉仮名文からひらがなが生まれた過程を理解する。

③ ① ともに万葉仮名から生まれたカタカナとひらがなの相違を理解する。教科書74頁表6「ひらがなのもとになった万葉仮名」、このように、現在のように一音に対して一つのひらがなに決まったのは、カタカナと同じく明治33年(1900年)の「小学校令」によってである。
 表6において、ひらがなのもとになった万葉仮名との関係をそれぞれ見てゆくと前回第9回細目レベル③で見た教科書61頁表5「カタカナのもとになった万葉仮名」で見た、カタカナの字母になった万葉仮名と共通している場合がいくつかることに気づく。しかし、ひらがなとカタカナとは、文字体系を支える思想が異なっているので、できあがった文字が異なる。カタカナは、文字というものは一点一角を重ねてできるものだととらえているから、万葉仮名の部分を取る。それに対して、ひらがなは、文字というものは連続体ととれているから、全体を書き崩すけれども、部分をとることはしない。同じ文字に対して、異なる側面からとらえたために、カタカナとひらがなとう2種類の文字の系統ができあがったということを理解する。
 ひらがなは、10世紀前半には文字としての体系を整え、和歌を中心とする文学の花を咲かせた。



キーワード ① 『今昔物語集』 ② 漢字カタカナ交じり文 ③ カタカナ ④ 有年申文 ⑤ ひらがな
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【予習】教科書60~75頁を熟読する。1教科書64~67頁「『今昔物語集』は読める」を読んで、漢字カタカナ交じり文が生まれたプロセスを読み取る。2教科書72~73頁「万葉仮名文から草仮名文へ」と73頁の図10「有年申文」を読んで、「有年申文」文字のどの字が漢字でどの字は草仮名(漢字の表意性を捨てた文字である仮名)として使われているのかを確認する。3教科書73~75頁「ひらがなの思想」を、カタカナのひらがなの生み出された方法の違いを考えながら読む。
【復習】教科書60~75頁を熟読する。1教科書65頁9~11行目および66頁図8にあげられている『今昔物語集』本文「オビタゝシ」の部分で、実施って気な意味を表す形容詞がカタカナの大字で書かれていることを確認する。2教科書73~74頁「ひらがなの思想」を読み、カタカナとひらがなの万葉仮名からの生み出され方を、教科書本文をもとに120字程度(句読点を含む)でまとめる。
※カタカナは、文字というものは一点一画を重ねてできるものだととらせているから、万葉仮名の部分を取るのに対して、ひらがなは、文字というものを連続体ととらえているから、全体を書き崩し、部分をとることはない。(100字)

11 文章をこころみるー平安時代4 科目の中での位置付け 本講義「日本語表現論」全15回の流れの概略は以下の通りある。
 第1回の講義では、教科書の書名であり、講義テーマである「日本語の歴史」を理解するために必須である、日本の歴史の復習から始める。続いて教科書『日本語の歴史』を理解するために必須の知識、教科書ⅵ頁記載「用例の引用について」に見える「句読点」「濁点」「促音」「地の文」「漢字の新字体」「踊り字」等といった用語の知識の確認をする。その後「言語(ことば)の歴史」、すなわち「言語」には「音声言語」(声)と「文字言語」(文字)があり、どの民族も音声言語から出発し、その後それに加えて文字言語を獲得したという過程を理解する。
 第2回から第7回の講義では、教科書「Ⅰ漢字にめぐりあう-奈良時代」の理解のために必須である、漢字が「形音義」を持つ三位一体の文字であること等の確認から出発して、文字を持たなかった日本語が、漢字を借りて日本語を書き記す方法である「万葉仮名」という漢字の用法と、万葉仮名の使い分け、すなわち「上代特殊仮名遣い」から知られる奈良時代の音韻について理解する。
 続く第8回から第12回までは、教科書「Ⅱ文章をこころみるー平安時代」、漢字を用いて日本語を書き記すことから出発した後、漢字から日本固有の文字カタカナ・を生み出し、それらを使って、漢字カタカナ交じり文、ひらがな文で、自由に文章を書く悦びを手に入れていった過程を理解する。
 そして、第13回から第14回では、教科書「Ⅲうつりゆく古代語―鎌倉・室町時代」では、高等学校国語「古典」でおなじみの「係り結び(の法則)」の確認から始める。そして、室町時代になると「こそー已然形」意外の係り結びが衰退、消滅していく過程とその理由を理解する。
 最後の第15回では、奈良時代から中世、鎌倉・室町時代までの「日本語の歴史」の流れを振り返る。
 今回第11回は、奈良時代の万葉仮名という方法からひらがなが生まれ、平安時代に『源氏物語』『枕草子』といった文学作品が誕生したその理由を考える。

教科書・配布資料・コマシラバス①教科書75~78頁、配布資料●②教科書78~80頁、配布資料●③教科書80~84頁、配布資料●
コマ主題細目 ① ひらがな ② 女手 ③ ひらがな文 ④ ⑤
細目レベル ① ひらがなの使い手について理解する。前回第10回細目レベル③で見たように、万葉仮名文から草仮名、さらにひらがなが生まれたことが知られた。そのひらがなは、「女手」といわれていたことから、女性だけが使っていたように思われている。さらに、有名な、紀貫之の『土佐日記』の冒頭文もその固定観念をつくるのに寄与している。教科書75頁「女は、ひらがなを使う」の4行目から5行目が『土佐日記』の冒頭部分の引用で、二段組みの上段が本文、下段が口語訳である。この文から、男が漢字で日記を書くのに対して、女はひらがなで日記を書くと述べていると読み取れるからである。男=漢字、女=ひらがな、という図式ができやすい文であるが、口語訳を見ればわかるように、貫之は、「日記を書く」という行為についてそれまでに男女差があったことを述べているだけである。
 『源氏物語』や『紫式部日記』から知られるように、紫式部は漢文に精通していたが、漢字の「一」さえも読むことができないといっているように、当時女性に許されていた文字はひらがなだけで、漢文を読むことや漢文の知識は隠されていた。そのように女は、ひらがなしか読めないものとされていたので、男は女にあてた手紙を書く場合や、和歌を詠む時にはひらがなを用いた。たとえば、『古今和歌集』に収められている和歌の多くは男性作者だが、ひらがなで書かれている。

② ひらがな文には漢字も使われているということを理解する。ひらがな文は、ひらがなだけで書かれ、漢字は全く含んでいないと思われているが、そうではない。ひらがな文は、ひらがなが中心ではあるが、漢字を使わざるを得ない場合には漢字が使われている。たとえば、今回下句レベル①で見た『土佐日記』の冒頭文であるが、その写本である教科書79頁図11 青谿書屋本『土佐日記』.貫之の自筆の趣を伝える写本.(武蔵野書院刊『国語史資料集』)を見ると、ほとんどひらがなだが、1行目の「日記」のみ漢字で書かれている。
 このように、当時ひらがな文に漢字が取り入れられるのは、①拗音が入っている漢語、②誤読される危険性のある場合、③見出し語的な語、という場合が見える。

③ ひらがな文は話し言葉で書くことができる。ひらがなの功績は、物語・日記・随筆という散文を中心とした文学ジャンルを開花させたことである。和歌や歌謡などの韻文は文字数が限られているので、万葉仮名でも表現できる。しかし、長い散文の文章は、ひらがなの発明を待って初めて可能になった。ひらがな文は、自分たちの日常使っている話し言葉で文章を書くことができるようにした。


キーワード ① 草仮名 ② ひらがな ③ 女手 ④ 『土佐日記』 ⑤ ひらがな文
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【予習】教科書72~86頁を熟読する。1教科書75~78頁を読んで、ひらがなが「女手」ともいわれること、そして「女手」ともいわれるひらがなが限られた場合において男にも使われたことを読み取る。2教科書79~80頁「ひらがな文には漢字も入る」を読み、ひらがな文漢字が入る三つの場合を読み取る。
【復習】教科書72~86頁を熟読する。1教科書80~84頁に見える、ひらがなによって生み出された作品名をノート(Wordファイルでの作成可)書き出す。
※物語『伊勢物語』『竹取物語』『宇津保物語』『落窪物語』『源氏物語』、日記『蜻蛉日記』、随筆『枕草子』2ひらがな文が生まれたことによって、なぜ日本語の長い散文の文章が生まれたのか、その理由を教科書80~83頁の「ひらがな文は話し言葉でかける」の本文を引用してまとめる。
※ひらがな文は、自分たちの日常使っている話し言葉を基盤にする文章だから。

12 文章をこころみるー平安時代まとめ 科目の中での位置付け 本講義「日本語表現論」全15回の流れの概略は以下の通りある。
 第1回の講義では、教科書の書名であり、講義テーマである「日本語の歴史」を理解するために必須である、日本の歴史の復習から始める。続いて教科書『日本語の歴史』を理解するために必須の知識、教科書ⅵ頁記載「用例の引用について」に見える「句読点」「濁点」「促音」「地の文」「漢字の新字体」「踊り字」等といった用語の知識の確認をする。その後「言語(ことば)の歴史」、すなわち「言語」には「音声言語」(声)と「文字言語」(文字)があり、どの民族も音声言語から出発し、その後それに加えて文字言語を獲得したという過程を理解する。
 第2回から第7回の講義では、教科書「Ⅰ漢字にめぐりあう-奈良時代」の理解のために必須である、漢字が「形音義」を持つ三位一体の文字であること等の確認から出発して、文字を持たなかった日本語が、漢字を借りて日本語を書き記す方法である「万葉仮名」という漢字の用法と、万葉仮名の使い分け、すなわち「上代特殊仮名遣い」から知られる奈良時代の音韻について理解する。
 続く第8回から第12回までは、教科書「Ⅱ文章をこころみるー平安時代」、漢字を用いて日本語を書き記すことから出発した後、漢字から日本固有の文字カタカナ・を生み出し、それらを使って、漢字カタカナ交じり文、ひらがな文で、自由に文章を書く悦びを手に入れていった過程を理解する。
 そして、第13回から第14回では、教科書「Ⅲうつりゆく古代語―鎌倉・室町時代」では、高等学校国語「古典」でおなじみの「係り結び(の法則)」の確認から始める。そして、室町時代になると「こそー已然形」意外の係り結びが衰退、消滅していく過程とその理由を理解する。
 最後の第15回では、奈良時代から中世、鎌倉・室町時代までの「日本語の歴史」の流れを振り返る。
 今回第12回は、ひらがなの発明によりうまれたひらがな文は、日常の話し言葉で文章を書くことを可能としたことにより、平安時代には多くの優れた散文の文学作品が生まれたが、ひらがな文、日本語の文章の代表にはならなかった、その理由を考える。

教科書・配布資料・コマシラバス①②③ともに教科書84~86頁、配布資料●
コマ主題細目 ① 漢字カタカナ交じり文 ② 漢語 ③ ひらがな ④ ⑤
細目レベル ① ひらがな文が、日本語の文章の代表にならなかった理由その1を理解する。ひらがな文は読みにくいことに因る。ひらがな文に漢字が入るといっても、限られた語だけである。中心は、あくまでもひらがなである。教科書でこれまでに例示されていたひらがなの文学作品例を見ても、意味の切れ目には空白を言えて読みやすくして引用したにもかかわらず、読みにくい。
 このことは、教科書80頁「ひらがな文は話し言葉で書ける」の8行目から81頁4行目に引用されている、天福本『伊勢物語』二三段の本文、同じく教科書81頁15行目から82頁4行目に引用されている桂宮本『蜻蛉日記』上巻の本文、教科書83頁「『源氏物語』は和歌的散文」の6行目から84頁2行目に引用されている大島本『源氏物語』橋姫の本文を読むとよくわかる。
 このようなひらがな文に対して、漢字カタカナ交じり文は、読みやすい。実質的な意味を持つ語は漢字で、付属的な役割をする助詞や助動詞や活用語尾はカタカナでという役割分担ができており、一目で意味がわかる。漢字カタカナ交じり文は、表意文字と表音文字のいいところを取って組み合わせた優れた表記方法である。

② ひらがな文が、日本語の文章の代表にならなかった理由その2を理解する。ひらがな文は漢語を取り組みにくいことに因る。この世には、抽象的な意味を持つ漢語でしか表せない世界がある。たとえば、政治や経済や宗教にかかわる事柄である。ひらがな文が得意なのは、日常の話し言葉で綴る男と女の世界である。つまり、ひらがな文で表せる世界は日常の話し言葉で表現する男と女の世界に限られている。
 そのようなひらがな文に対して、漢字カタカナ交じり文は、もともと学問の場から生まれた文章形式である。抽象的な意味を持つ漢語を自在に駆使して、政治・経済・社会などの硬いジャンルのことも記すことができる。さらに、漢字カタカナ交じり文は、漢文を訓読することから誕生しているので、その根底に論理的な漢文の発想を持っている。

③ ひらがな文が、日本語の文章の代表にならなかった理由その3を理解する。ひらがな文は、論理的に物事を述べていくのには不向きな文章形式であることに因る。ひらがな文は、和歌で鍛えられた文章なので、語句と語句との関係を明確にする必要のない文章形式である。和歌で語句と語句との関係は付かず離れずの関係にある。こうした文章は、論理性を要求される文章には不向きである。


キーワード ① 漢字カタカナ交じり文 ② 漢字の音訓 ③ 漢語 ④ 漢文訓読 ⑤ ひらがな文
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【予習】教科書72~86頁を熟読する。
【復習】教科書72~86頁を熟読する。1教科書84~86頁「ひらがな文は、なぜ代表
ならなかったのか」をよく読み、平安時代にひらがな文は、『源氏物語』をはじめとする多く文学作品を生み出したのにもかかわらず、日本語の文章にはならなかった、その理由三つ
を教科書の本文をもとに簡潔にまとめる。
※①ひらがな文が読みにくかったから。②ひらがな文は漢語を取り込みにくかったから。③ひらがな文は、論理的に物事を述べていくのには不向きな文章だったから。
 2漢字カタカナ交じり文の二つのよい点を、教科書84~86頁「ひらがな文は、なぜ代表
ならなかったのか」をよく読み、教科書の本文をもとに簡潔にまとめる。
※①漢字カタカナ文は、実質的な意味を持つ語は漢字で、付属語的な役割をする助詞や助動詞や活用語尾はカタカナでと役割分担ができており、一目で意味がとれ、わかりやすいから。②漢字カタカナ交じり文は、学問の場である漢文訓読から生まれた文章形式なので、漢語を取り込んで論理的に物事を述べることができる文章だったから。

13 うつりゆく古代語ー鎌倉・室町時代1 科目の中での位置付け 本講義「日本語表現論」全15回の流れの概略は以下の通りである。
 第1回の講義では、教科書の書名であり、講義テーマである「日本語の歴史」を理解するために必須である、日本の歴史の復習から始める。続いて教科書『日本語の歴史』を理解するために必須の知識、教科書ⅵ頁記載「用例の引用について」に見える「句読点」「濁点」「促音」「地の文」「漢字の新字体」「踊り字」等といった用語の知識の確認をする。その後「言語(ことば)の歴史」、すなわち「言語」には「音声言語」(声)と「文字言語」(文字)があり、どの民族も音声言語から出発し、その後それに加えて文字言語を獲得したという過程を理解する。
 第2回から第7回の講義では、教科書「Ⅰ漢字にめぐりあう-奈良時代」の理解のために必須である、漢字が「形音義」を持つ三位一体の文字であること等の確認から出発して、文字を持たなかった日本語が、漢字を借りて日本語を書き記す方法である「万葉仮名」という漢字の用法と、万葉仮名の使い分け、すなわち「上代特殊仮名遣い」から知られる奈良時代の音韻について理解する。
 続く第8回から第12回までは、教科書「Ⅱ文章をこころみるー平安時代」、漢字を用いて日本語を書き記すことから出発した後、漢字から日本固有の文字カタカナ・を生み出し、それらを使って、漢字カタカナ交じり文、ひらがな文で、自由に文章を書く悦びを手に入れていった過程を理解する。
 そして、第13回から第14回では、教科書「Ⅲうつりゆく古代語―鎌倉・室町時代」では、高等学校国語「古典」でおなじみの「係り結び(の法則)」の確認から始める。そして、室町時代になると「こそー已然形」意外の係り結びが衰退、消滅していく過程とその理由を理解する。
 最後の第15回では、奈良時代から中世、鎌倉・室町時代までの「日本語の歴史」の流れを振り返る。
 今回第13回では、中世、鎌倉・室町時代の日本語を考える。

教科書・配布資料・コマシラバス①教科書88~90頁、配布資料●②教科書89~93頁、配布資料●③教科書93~96頁、配布資料●
コマ主題細目 ① 係り結び ② 強調の係り結び ③ 疑問・反語の係り結び ④ ⑤
細目レベル ① 係り結び(の法則)の、形式と意味を確認する。「係り結び」とは、文中に「係助詞」がある場合、文末を終止形ではない特定の活用形で結ぶことである。係助詞と結びの活用形との呼応関係をいう。係助詞「ぞ」「なむ」は連体形で結び、意味は強調(強意)。係助詞「や」「か」も同じく連体形で結ぶが、意味は疑問・反語。また係助詞「こそ」は已然形(いぜんけい、口語文法には見えない活用形)で結び、強調(強意)の意味となる。
 たとえば、教科書91頁の2行目から3行目に引用されている『竹取物語』の本文(上段)で説明すると、「その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。」は、傍線部に「なむ」という係助詞がある。だから文末は、係助詞「なむ」は連体形で結ぶという係り結びの法則により、文末の過去の助動詞「けり」は、終止形の「けり」ではなく、連体形の「ける」で結ばれているという法則のことをいう。

② 強調の係り結び「なむー連体形」「ぞー連体形」「こそー已然形」の意味の相違を理解する。
 今回細目レベル①で確認したように、強調の係り結びには、次にあげる「なむー連体形」「ぞー連体形」「こそー已然形」の三つの形式がある。このように三つの形式があるということからすると、そこには意味の相違があったと考えられるが、現在その相違はよくわかってはいない。そこで、教科書の著者の整理した相違について、今回細目レベル①であげた『竹取物語』の冒頭文を例にとって考えてみる。
 「なむー連体形」の係り結びの場合、「その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。」
これは、竹取の翁(おきな おじいさん)は、かぐや姫を見つけるきっかけになった冒頭部分にある文。係助詞「なむ」のない、普通の文「もと光る竹一筋ありけり(=根本の光る竹が一本あった)」という、事実だけを直截的に述べる文に対して、係助詞「なむ」が入ると、係り結びになると、聞き手を意識し、聞き手の目を見つめ、念を押し、同意を求めて穏やかに語る口調になる。つまり、「なむー連体形」は、念を押しつつ語る強調表現を作り出すものと考えられる。
 次に「ぞー連体形」の係り結びを考えてみる。前の「なむー連体形」の文を「ぞー連体形」に換えてみる。「その竹の中に、もと光る竹ぞ一筋ありける。」では、係助詞「ぞ」の下にある「一筋ありける」という状態が起きたのは、まさに「もと光る竹」においてなのだという強調表現である。「もと光る竹」が、「一筋ありける」の対象として指し示されて強調されている。「ぞー連体形」は、係助詞「ぞ」の下で説明される動作や状態が起きるのは、「ぞ」の上に示された点においてなのだという、指し示しによる強調表現だったと考えられる。
 最後に「こそー已然形」の係り結びである。最初にあげた文を「こそー已然形」に変形して考えてみる。「その竹の中に、もと光る竹こそ一筋ありけれ。」では、根元の茶色くなった竹、根元の折れている竹、など、さまざまあるけれども、なんと根元の光る竹があった、という意味で、「根元の光る竹」をそれ以外の竹と区別して取り立てて強調している。「こそー已然形」は、取り立てることによる強調表現である。
 このように、「強調」の係り結びは、「なむー連体形」は念を押すことによる強調、「ぞー連体形」はそれと指し示すことによる強調、「こそー已然形」は取り立てることによる強調の意味であったと考えられる。

③ 疑問・反語の係り結び「やー連体形」「かー連体形」の意味の相違について理解する。
 まず疑問の「やー連体形」「かー連体形」の意味の相違について考えてみる。奈良時代は、「かー連体形」の方が「やー連体形」よりも優勢だった。しかし、平安時代になると逆転し、「やー連体形」の方が優勢となり、「かー連体形」は、「いかに」「いかで」「なに」「など」「いつ」「いづれ」「いくつ」「たれ」などの疑問詞が上に来る時だけという限定された使い方になった。
 「やー連体形」の例で考えてみる。「世界の人のいひけるは、「大伴の大納言は、龍の頸の玉や取りおはしたる。」、ここでは「大伴の大納言は、龍の頸の玉を取っていらっしゃったのか」という問いを発し、「龍の頸の玉は取らなかったけれど、両眼にスモモのような玉を付けていらしゃったよ」と言い合って笑う場面である。ここで係助詞「や」は、文末の「たる」という連体形と呼応して、疑問表現をつくっている。ここでは、「大伴の大納言は、龍の頸の玉をとっていらしゃった」という文全体の内容が問われている。「玉」とか、「(取りて)おはしたる」などの、文の一部が疑問の対象となっているのではないことを理解する。
 続いては「かー連体形」の例である。「『いかに思ひてか、汝らかたきものと申すべき。』」、このセリフは、「龍の頸にある為をとるのは無理ですと訴える家来たちに向かって、大伴の大納言が言う言葉である。「かー連体形」は、「いかに」という疑問詞とともに用いられている。「いかに思ひてか」は「申す」にかかり、「申す」の理由が問われている。ここでは、文の内容全体が疑問の対象になっているのではなく、「申す」という文中の一点についてその理由が問われている。
 このように、疑問を表す係り結びにおいて、「やー連体形」は文全体の内容を疑問の対象にするのに対して、「かー連体形」は文の一点を疑問の対象とする相違がある。
 次に、反語表現の場合について考えてみる。反語表現というのは、話し手が心の中に確信を持ちながら、表面上は疑問の形をとってあえて相手に問いかける表現である。だから、反語表現の場合には常に文全体で述べられた内容が問題となるので、疑問表現の時のような相違が「やー連体形」「かー連体形」の間で起きることはない。反語の場合の「やー連体形」と「か-連体形」との相違は、語気の強さにある。つねに、「いかで」「など」などの疑問詞と一緒に用いられる「かー連体形」の方が、「やー連体形」よりも語気が強いという相違が見えることを理解する。



キーワード ① 係り結び ② 係助詞 ③ 結びの活用形 ④ 強調 ⑤ 疑問・反語
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【予習】教科書88~96頁を熟読する。1教科書88~89頁の「『係り結び』に注目」を読み、
係り結びとはどのような表現形式なのかを確認する。2教科書90~93頁を読んで、強調の係り結び「なむー連体形」「ぞー連体形」「こそー已然形」の意味の相違を理解する。3教科書93~96頁「疑問や反語を表したい時」を読んで、「やー連体形」と「かー連体形」の意味の相違を理解する。
【復習】教科書88~96頁を熟読する。1教科書90~93頁を読んで、強調の係り結び「なむー連体形」「ぞー連体形」「こそー已然形」の意味の相違を教科書の本文をもとに簡潔に説明することができる。
※強調の係り結びは、「なむー連体形」は念を押すことによ強調、「ぞー連体形」はそれと指し示すことによる強調、「こそー已然形」は取り立てることによる強調という意味であったと考えられる。

14 うつりゆく古代語ー鎌倉・室町時代2 科目の中での位置付け 本講義「日本語表現論」全15回の流れの概略は以下の通りある。
 第1回の講義では、教科書の書名であり、講義テーマである「日本語の歴史」を理解するために必須である、日本の歴史の復習から始める。続いて教科書『日本語の歴史』を理解するために必須の知識、教科書ⅵ頁記載「用例の引用について」に見える「句読点」「濁点」「促音」「地の文」「漢字の新字体」「踊り字」等といった用語の知識の確認をする。その後「言語(ことば)の歴史」、すなわち「言語」には「音声言語」(声)と「文字言語」(文字)があり、どの民族も音声言語から出発し、その後それに加えて文字言語を獲得したという過程を理解する。
 第2回から第7回の講義では、教科書「Ⅰ漢字にめぐりあう-奈良時代」の理解のために必須である、漢字が「形音義」を持つ三位一体の文字であること等の確認から出発して、文字を持たなかった日本語が、漢字を借りて日本語を書き記す方法である「万葉仮名」という漢字の用法と、万葉仮名の使い分け、すなわち「上代特殊仮名遣い」から知られる奈良時代の音韻について理解する。
 続く第8回から第12回までは、教科書「Ⅱ文章をこころみるー平安時代」、漢字を用いて日本語を書き記すことから出発した後、漢字から日本固有の文字カタカナ・を生み出し、それらを使って、漢字カタカナ交じり文、ひらがな文で、自由に文章を書く悦びを手に入れていった過程を理解する。
 そして、第13回から第14回では、教科書「Ⅲうつりゆく古代語―鎌倉・室町時代」では、高等学校国語「古典」でおなじみの「係り結び(の法則)」の確認から始める。そして、室町時代になると「こそー已然形」意外の係り結びが衰退、消滅していく過程とその理由を理解する。
 最後の第15回では、奈良時代から中世、鎌倉・室町時代までの「日本語の歴史」の流れを振り返る。
 今回14回は、平安時代に見えた係り結びが衰退し消滅してゆく過程を考える。

教科書・配布資料・コマシラバス①教科書97~106頁、配布資料●②教科書106~113頁、配布資料●③教科書113~118頁、配布資料●
コマ主題細目 ① 係り結び ② なむー連体形の係り結び ③ 係り結びの衰退 ④ ⑤
細目レベル ① 中世、鎌倉・室町時代の係り結び「なむー連体形」の衰退と消滅について理解する。この時期、中世の文学作品の代表である『平家物語』をはじめとする軍記物語に「なむ(鎌倉・室町時代の表記では「なん」)―連体形」の強調の係り結びの例を見つけることができない。また、同じ時代の吉田兼好の『徒然草』、鴨長明の『方丈記』においても「なむ(なん)―連体形」の例は少なく、鎌倉時代に入るやいなや「なむ(なん)―連体形」の係り結びは衰退しはじめたことがわかる。
 では、なぜ鎌倉時代に入るとすぐに「なむ(なん)ー連体形」の係り結びが衰退したのか。平安時代のその使用状況から見ると、教科書104頁「なぜ衰退したのか」の5行目からに引用されている『伊勢物語』一〇段を読むとわかるように、やわらかい語りの口調に限って用いられる強調表現であることがわかる。
 やわらかい強調表現は、強さやたくましさを求める、鎌倉・室町時代、武士の時代には不向きである。だから、「なむ(なん)―連体形」の係り結びは、やわらかい語り口調を基調にした平安時代には愛用されたが、武士の時代になるとやわらかさゆえ避けられ、使われなくなった。が、かろうじて鎌倉時代の終わりまで「なむー連体形」の係り結びは、寿命を保った。けれども、教科書105頁「『なむー連体形』の消滅」の6行目からに引用される、鎌倉時代半ばに出来た説話集『十訓抄』の序文(上段本文)を見ると、「~ナンイヘリ」(教科書106頁1行目上段)と、文中に係助詞「ナン」があるので、結びは完了の助動詞「リ」の連体形「ル」のはずであるが、終止形「リ」になっている。このように、鎌倉時代の終わりには、「なむ」の結びが連体形であるという約束が忘れられ、終止形になってしまうことが多く、「なむー連体形」の係り結びは消滅してしまったということを理解する。

② 鎌倉・室町時代に係り結び「ぞー連体形」「こそー已然形」「やー連体形」「かー連体形」がどのようになったか。鎌倉・室町時代の「ぞー連体形」の例は、教科書106頁からの「慣用的な表現『とぞ申しける』」にあげられているいくつかの例から知られるように、発言内容を逐一「ぞー連体形」で強調するようになる。これは、強調されないのと同じで、この時代になると「ぞー連体形」は、実質的な強調表現の機能を失い、力強い口調を出すための慣用表現となっていた。
 「こそー已然形」も、軍記物語に頻出するが、教科書108頁からの「『こそ候へ』へと固定化してくる」にあげられているいくつかの例からわかるように、「こそ候へ」という一種の慣用句的な言い回しになってしまっていて、平安時代の「取り立てて」強調する意味が薄れてきている。
 このように「ぞー連体形」「こそー已然形」はともに、本来持っていた強調の意味合いを失い、慣用表現化し衰退への道をたどることになった。しかし、「こそー已然形」の係り結びだけは、已然形で結ぶということが幸いして絵の時代前半まで残った。
 平安時代ではともに疑問・反語をあらわした「やー連体形」と「かー連体形」は、軍記物語では、「やー連体形」は疑問表現、「かー連体形」は反語表現というように、意味の役割分担をさせる。しかし、「やー連体形」「かー連体形」はともに南北朝時代を過ぎるとどちらも用例が減少し、室町時代には消滅した。
 このようにして、係り結びは、室町時代の終わりには「こそー已然形」をのぞいてはすべて消滅したことを理解する。

③ 室町時代に係り結びが消滅した理由を理解する。平安時代までは、連体形で文を止める場合は、以下の二つの場合に限られていた。一つは、上に係助詞「ぞ」「なむ」「や」「か」がある時。もう一つは、余韻を出したい時。しかし、平安時代、それ以外に、和歌や会話文において連体形で文を止める例が頻用されるようになり、鎌倉・室町時代になるとさらにそれが進んだ。それにより、連体形止めの持っていた表現効果が薄れ、終止形で終わったのと同じになった。こうして、終止形と連体形の活用形が同じ形になってしまった。
 これにより、「ぞ」「なむ」「や」「か」という係助詞がきたときには、連体形で結ぶという緊張した呼応関係は意味をなさなくなった。これが、連体形で結ぶ係り結びが室町時代末期にすべて消滅した原因である。



キーワード ① 係り結び ② 連体形終止文 ③ 終止形 ④ 連体形 ⑤ こそー已然形の係り結び
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【予習】教科書97~125頁を熟読する。
【復習】教科書97~125頁を熟読する。1教科書101~106頁を読んで、なぜ「なむー連体形」結びが鎌倉・室町時代に衰退したのか、教科書の本文をもとにまとめる。
※「なむー連体形」の係り結びは、やわらかい強調表現であり、強さやたくましさを求める鎌倉・室町時代、武士の時代には不向きだったから衰えた。
2鎌倉・室町時代に「ぞー連体形」「こそー已然形」「やー連体形」「かー連体形」の係り結びがどのようになったのか、教科書106~118頁の教科書の本文をもとにまとめる。
※平安時代ではともに疑問・反語をあらわした「やー連体形」と「かー連体形」は、軍記物語では、「やー連体形」は疑問表現、「かー連体形」は反語表現というように、意味の役割分担をさせる。しかし、「やー連体形」「かー連体形」はともに南北朝時代を過ぎるとどちらも用例が減少し、室町時代には消滅した。このようにして、係り結びは、室町時代の終わりには「こそー已然形」をのぞいてはすべて消滅した。

15 全体のまとめ 科目の中での位置付け 本講義「日本語表現論」全15回の流れの概略は以下の通りである。
 第1回の講義では、教科書の書名であり、講義テーマである「日本語の歴史」を理解するために必須である、日本の歴史の復習から始める。続いて教科書『日本語の歴史』を理解するために必須の知識、教科書ⅵ頁記載「用例の引用について」に見える「句読点」「濁点」「促音」「地の文」「漢字の新字体」「踊り字」等といった用語の知識の確認をする。その後「言語(ことば)の歴史」、すなわち「言語」には「音声言語」(声)と「文字言語」(文字)があり、どの民族も音声言語から出発し、その後それに加えて文字言語を獲得したという過程を理解する。
 第2回から第7回の講義では、教科書「Ⅰ漢字にめぐりあう-奈良時代」の理解のために必須である、漢字が「形音義」を持つ三位一体の文字であること等の確認から出発して、文字を持たなかった日本語が、漢字を借りて日本語を書き記す方法である「万葉仮名」という漢字の用法と、万葉仮名の使い分け、すなわち「上代特殊仮名遣い」から知られる奈良時代の音韻について理解する。
 続く第8回から第12回までは、教科書「Ⅱ文章をこころみるー平安時代」、漢字を用いて日本語を書き記すことから出発した後、漢字から日本固有の文字カタカナ・を生み出し、それらを使って、漢字カタカナ交じり文、ひらがな文で、自由に文章を書く悦びを手に入れていった過程を理解する。
 そして、第13回から第14回では、教科書「Ⅲうつりゆく古代語―鎌倉・室町時代」では、高等学校国語「古典」でおなじみの「係り結び(の法則)」の確認から始める。そして、室町時代になると「こそー已然形」意外の係り結びが衰退、消滅していく過程とその理由を理解する。
 今回最終回第15回は、全体奈良時代から中世、鎌倉・室町時代までの「日本語の歴史」の流れを振り返る。

教科書・配布資料・コマシラバス①教科書20~28頁②教科書32~40頁③カタカナについては教科書60~67頁、ひらがなについては教科書72~75頁④教科書62~72頁⑤教科書97~118頁
コマ主題細目 ① 万葉仮名 ② 上代特殊仮名遣い ③ カタカナ・ひらがな ④ 漢字カタカナ交じり文 ⑤ 係り結び
細目レベル ① 万葉仮名という漢字の用法を理解する。漢字は、紀元前1500年ごろに中国で生まれ、日本には4世紀ごろに伝えられたと考えられている。その発生から知られるように、漢字は中国語を記すために創り出された文字である。文字を持たなかった日本語は、既に伝来していた漢字を借りて日本語を書き記すという方法を選択し、漢字には音読み(中国での漢字本来の読み方に近い読み方)と訓読み(中国から伝わった漢字の表す意味に当てはまる日本語を当てた読み方)という読みをあてた。そして、現存する最古の歌集『万葉集』では歌(和歌)を、「音仮名」「訓仮名」等の「万葉仮名」という、漢字の意味を捨てて読みだけを借りる方法で書き記したことを理解する。
② 上代特殊遣いという奈良時代に見えた万葉仮名の使い分けの仕組みを理解する。上代特殊遣いとは、奈良時代にキ・ヒ・ミ・ケ・ヘ・・コ・ソ・ト・ノ・モ・ロ・ヨとその濁音(ギ・ビ・ゲ・ベ・ゴ・ゾ・ド)に見られた、甲類・乙類で表す漢字のグループの万葉仮名の書き分けのことである。このような書き分けから、たとえば「甲類のき」と「乙類のき」では発音が異なったと考えられる。この発音の相違は現在もよくわかってはいないが、甲類は、現在の発音とほぼ同じ、乙類は母音部分が甲類とは違っていたという説が通説である。上代の日本語は、教科書34頁の表3「奈良時代の清音」および同頁の表4「同じく濁音」から、清音が現在の44音に対して61音、濁音が現在の18音に対して27音であったことがわかる。
③ カタカナとひらがなとの相違を理解する。カタカナは、漢文訓読の場において、漢字の一部、主に篇旁冠脚(漢字の篇(へん)・旁(つくり)・冠(かんむり)・脚(あし))、最初か最終画をから生まれ、その担い手は主に男性であった。それに対して、ひらがなは、万葉仮名文において仮名として用いられた草仮名を、漢字との区別をはっきりさせるために、さらに崩して別の文字を認識できるようにして誕生した。ひらがなは「女手」ともいわれるように、主に女に使われたが、男も当時漢字の読み書きができないことを建前とした女に送る手紙や、和歌を書く場合に用いた。ひらがなとカタカナについて、漢字(万葉仮名)からどのようにして成立したか・発生の場・担い手を説明することができる。
④ 漢字カタカナ交じり文が漢文訓読の場から生まれ、日本語の文章の中心となったことを理解する。教科書65頁9行目から11行目に本文が引用されている『今昔物語集』は、平安時代末期の作である。教科書引用部分が教科書66頁に図8「鈴鹿本『今昔物語集』(京都大学図書館蔵).京都大学学術出版会刊『鈴鹿本今昔物語集』より」としてあげられている。あげられている『今昔物語集』では、引用本文、図8ともに1行目の「可為キ」「无限シ」以外は、返り読みがない、日本語の語順で書かれている。図8の文章を見ると、実質的な意味を持つ単語は漢字で大きく書かれ、実質的意味を持たない助詞・助動詞や活用語尾はカタカナで小さく右寄せで書かれている。ところが、一カ所だけ図8の3行目4文字目からの「オヒタゝシ(現在では「おびただしい」)とカタカナで大きく書かれている部分が目を引く。この書き方から、日本語の文章を書く場合にカタカナの地位が少し高くなったことがわかる。さらに、『今昔物語集』以後の説話集『打聞集』では、教科書66頁8行目から9行目の引用部分のうち、「(日)デリ」「イタク」「シケレバ」「カタニ」「イヤテリニテリ」と、実質的な意味を表す言葉が大字のカタカナで書かれている。そして、鎌倉・室町時代になると、カタカナの部分がほとんど漢字と同じ大きさになり、漢字カタカナ交じり文となった過程を理解する。つまり、漢字カタカナ交じり文は、読みやすい。実質的な意味を持つ語は漢字で、付属的な役割をする助詞や助動詞や活用語尾はカタカナでという役割分担ができており、一目で意味がわかる。漢字カタカナ交じり文は、表意文字と表音文字のいいところを取って組み合わせた優れた表記方法であるということを理解する。
⑤ 室町時代に係り結びが消滅した理由を理解する。平安時代までは、連体形で文を止める場合は、以下の二つの場合に限られていた。一つは、上に係助詞「ぞ」「なむ」「や」「か」がある時。もう一つは、余韻を出したい時。しかし、平安時代、それ以外に、和歌や会話文において連体形で文を止める例が頻用されるようになり、鎌倉・室町時代になるとさらにそれが進んだ。それにより、連体形止めの持っていた表現効果が薄れ、終止形で終わったのと同じになった。こうして、終止形と連体形の活用形が同じ形になってしまった。これにより、「ぞ」「なむ」「や」「か」という係助詞がきたときには、連体形で結ぶという緊張した呼応関係は意味をなさなくなった。これが、連体形で結ぶ係り結びが室町時代末期にすべて消滅した原因であることを理解する。
キーワード ① 万葉仮名 ② 上代特殊仮名遣い ③ カタカナ・ひらがな ④ 漢字カタカナ交じり文 ⑤ 係り結び
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【予習】シラバスと教科書を熟読する。【復習】これまでの学習内容
履修判定指標
履修指標履修指標の水準キーワード配点関連回
万葉仮名 「万葉仮名」とは、中国伝来の文字である漢字を借りて日本語を書き記すために生み出された表意文字である漢字の意味を捨てた用法のことである。次の用法、「万葉仮名」、「音仮名」「訓仮名」「戯書」について教科書本文の説明をもとにそれぞれ説明することができる。 万葉仮名、音仮名、訓仮名、戯書 20 1~8,15
上代特殊仮名遣い 「上代特殊仮名遣い」とは、上代、すなわち平安時代以前、キ・ヒ・ミ・ケ・ヘ・・コ・ソ・ト・ノ・モ・ロ・ヨとその濁音(ギ・ビ・ゲ・ベ・ゴ・ゾ・ド)に見られた、甲類・乙類で表す漢字のグループの万葉仮名の書き分けのことである。このような書き分けから、たとえば「甲類のき」と「乙類のき」では発音が異なったと考えられる。「上代特殊仮名遣い」すなわち甲類乙類の書き分けのあったかな、そして日本語の現在の清音数・濁音数、上代特殊仮名遣いから知られる奈良時代の清音数・濁音数を選択肢回答方式で答えることができる。 上代特殊仮名遣い、万葉仮名、 20 6,7,15
ひらがなとカタカナ ひらがなとカタカナについて、漢字(万葉仮名)からどのようにして成立したか・発生の場・担い手をそれぞれキーワードで説明することができる。 ひらがな、カタカナ、漢字、万葉仮名、草仮名 20 8~10
漢字カタカナ交じり文 漢字カタカナ交じり文が日本語の文章の代表となった理由を説明することができる。カタカナが生まれた場が漢文訓読の場であったこと、漢文訓読においてカタカナは最初補助記号として漢文本文の行間に小字で書かれた。カタカナは誕生当時、助詞や助動詞、活用語(動詞・形容詞・形容動詞)の活用語尾、日本語にするための補いの語、振り仮名を行間に小字で記載したが、その後カタカナは実質的な意味を表す語を大字で書かれるようになったという過程を、選択肢解答方式で答えることができる。 漢字、カタカナ、漢文訓読 20 9,10,15
係り結び 係り結びとはどのような表現形式なのかということを、「係助詞―結びの活用形」という呼応形式、およびその形式で表現される意味を説明することができる。あわせて、係り結びは、平安時代に栄えた表現形式であるが、鎌倉・室町時代になると衰退・消滅への道をたどる、その理由を選択肢解答方式で解答し説明することができる。

係り結び、係助詞、活用形、強意、疑問、反語 20 13~15
評価方法 期末試験100%
評価基準 評語
    学習目標をほぼ完全に達成している・・・・・・・・・・・・・ S (100~90点)
    学習目標を相応に達成している・・・・・・・・・・・・・・・ A (89~80点)
    学習目標を相応に達成しているが不十分な点がある・・・・・・ B (79~70点)
    学習目標の最低限は満たしている・・・・・・・・・・・・・・ C (69~60点)
    学習目標の最低限を満たしていない・・・・・・・・・・・・・ D (60点未満)
教科書 山口仲美『日本語の歴史』岩波新書赤版1018(820円+税)
参考文献 教科書223~230頁参照
実験・実習・教材費 なし