区分 (生)フィールド生態科目 フィールド生態共通科目 (環)フィールド生態科目 (心・犯)学部共通科目
ディプロマ・ポリシーとの関係
専門性 理解力 実践力
カリキュラム・ポリシーとの関係
専門知識 教養知識 思考力
実行力
カリキュラム全体の中でのこの科目の位置づけ
個人・社会・自然が直面する課題に対して専門的な理解を深めると共に、学際的な柔軟性を有し、実践的な能力を有する。グローバルな視野を持ち、国際社会に貢献できる力を有する。
科目の目的
生態学、農業・園芸学、物質循環学といった環境科学や、国際協力をはじめとする人文・社会科学に関わる専門知識を習得・理解していくには、生態系や人間社会の成因となりうる自然環境の成立要因およびその成立過程、さらには自然環境を構成する様々な自然環境の要素どうしの相互作用を総合的に理解することが不可欠である。本講義では、環境科学・社会科学・人文科学に関わる専門科目の履修に先立ち、自然環境にかかわる基礎知識を、気候学と地形学を主軸とする自然地理学という枠組みにおいて理解することを目的とする。
到達目標
地球上で起こっている、気候や地形などに関する、様々な自然現象について、その成因や過程の概要を地理学的考察により、正しく理解し、説明することができる。身のまわりにある自然環境、自然現象について、地理学的に意味付けされた景観としてとらえる意識を身につける。
科目の概要
本講義では、私たちを取り巻く自然的要素とその相互作用の現れ、つまりは気候、地形、植生、土壌、水環境、自然災害などについて、気候学、地形学を主軸とする自然地理学という枠組みにおいて学ぶ。自然地理学は気候学や地形学といった分野にも分けることもできるが、ある場所における現象を、複数の要素(地形、気候、植生、土壌など)の相互関係からその成因を把握していくという点で学際的である。本講義では(1)天体としての地球の特徴を概説した上で、(2)地球の動き、及びそれにより生じる地域差と紐づけた地球全体と日本の気候の特徴、(3)各地域においてみられる植生・土壌の特徴や気候との関連性、(4)地球内部の動きと紐づけた地形の特徴とその成因、などについて解説する。これらの項目は相互に密接に関係している。
科目のキーワード
①地球 ②大気大循環 ③気候 ④植生 ⑤土壌 ⑥気候変動 ⑦プレートテクトニクス ⑧山地 ⑨平地 ⑩自然災害
授業の展開方法
本講義は「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院)を教科書として指定する。講義は本書をベースとしたスライド資料により進行する。本書は15章からなり、各講義回につき1章ずつ内容を解説する。講義内容は、教科書の内容から大きく逸脱することはないが、身の回りの自然環境(愛知・岡崎の自然環境)に言及する機会が多い。自然地理学は、ある場所における現象を、複数の要素(地形、気候、植生、土壌など)の相互関係からその成因を把握していくという点で総合的な学問である。教科書についても気候学、地形学というように系統的にはなっているが、各章の内容が互いに関係しているので留意すること。
オフィス・アワー
【火曜日】昼休み・3・4・5時限目、【木曜日】昼休み・3・4・5時限目
科目コード ENS201
学年・期 1年・前期
科目名 自然地理学
単位数 2
授業形態 講義
必修・選択 選択
学習時間 【授業】90分×15 【予習】90分以上×15 【復習】90分以上×15
前提とする科目 なし
展開科目 環境と生物の進化、基礎生態学、植物分類学、環境気象学、地理情報処理法、環境適応型農業
関連資格 なし
担当教員名 横家将納
主題コマシラバス項目内容教材・教具
1 講義ガイダンス 地球のすがた 科目の中での位置付け 本講義では、私たちを取り巻く自然的要素とその相互作用の現れ、つまりは気候、地形、植生、土壌、水環境、自然災害などについて、気候学、地形学を主軸とする自然地理学という枠組みにおいて学ぶ。本講義では(1)天体としての地球の特徴を概説した上で、(2)地球の動き、及びそれにより生じる地域差と紐づけた地球全体と日本の気候の特徴、(3)各地域においてみられる植生・土壌の特徴や気候との関連性、(4)地球内部の動きと紐づけた地形の特徴とその成因、発達史などについて解説する。ただし、講義の順番においては、気候学分野、地形学分野というような系統的な分け方がされているが、これらの項目は互いに密接に関係しているため、各章の内容を独立して修得することは難しいと理解されたい(例えば、河岸段丘という地形の発達には気候変動が関係している)。本コマ(第1回講義)では、まず講義全体のガイダンスとして自然地理学の概要を説明する。続いて、システムの基盤としての地球(地球の大きさや形など)について概説する。
コマ用オリジナル配布資料
② 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第1章 p1-2
③ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第1章 p3
④ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第1章 p4-5
コマ主題細目 ① 講義ガイダンス: 自然地理学とは ② システムの基盤としての地球 ③ 地球の大きさと重さ ④ 地球のかたち
細目レベル ① 自然地理学(Physical geography/Physiography)とは、地理学の細分類の一つである。地理学は英語でGeographyと言い、地球の(Geo-)情報を記録・記述する(graph)学問である。地理学は、系統地理学、地誌学、地図学、地理学説史の4つに大きく分類され、このうち系統地理学は自然地理学と人文地理学に細分類される。自然地理学は「気候学・生態学・水文学といった地上(人間生活圏)の自然現象、および地上の自然現象のメカニズムを概説するための情報として、天上や地下内部の自然現象について空間的な観点から調査・分析する学術分野」を指す。本科目では自然環境にかかわる基礎知識を、おおよその位置情報、及びその地点の気候と地形の地域差と結び付けた地理的知識として理解することを目的とする。
② 天体が他の天体の周囲の軌道上を周回する運動を公転、天体自身がその内部にある軸を中心として回転する運動を自転と呼ぶ。地球の場合は太陽の周囲を約1年(約365.24219日)かけて公転し、また地軸と呼ばれる北極点と南極点を結ぶ直線を中心として約1日(約23時間56分4秒)かけて東方向に自転している。地球の公転周期は365日より若干長いことから、人間が利用する暦を公転周期にあわせて調整する必要が生じる。この調整を実施する年のことを閏年と呼ぶ。地軸が公転軌道に対して垂直である場合、地球表面の全ての地点において太陽光は1日のうち約12時間ずつ照射されることになるが、実際には地軸は約23.4°(公転面からは約66.6°)傾いている。この傾きにより、赤道(地球を地軸と直交するように輪切りにした際、最も面積が大きくなる面=赤道面の円周)から離れた地域において、公転軌道上の位置により1日の日照時間に変化が生まれ、季節差が生じる。
③ 地球は太陽系の第三惑星である。太陽系の惑星は現在8個が確認されており、岩石や金属から構成される地球型惑星、主にガスから構成される木星型惑星、主に氷から構成される海王星型惑星に分類される。地球は地球型惑星に分類され、木星型惑星や海王星型惑星と比べて小さく密度が高い(約5.52g/cm3)という特徴を有する。地球の形状は、半径約6400kmの球体に近い回転楕円体(極半径6357km, 赤道半径6378km)である。地球の質量は6.0×10^24kg、体積は1.1×10^21g/cm3、表面積は5.1×10^8 km2である。地球の最大の特徴は生物が存在することであり、この理由として水が液体として存在できることが挙げられる。地球表面の陸と水(海)の比率は約3:7であることから、地球は「水の惑星」とも呼ばれる。
④ 地球は、ほぼ球体であるが、真球ではない。遠心力により、果物のみかんのように外側に膨らんだ形であることはよく知られている。果物のみかんのように球をつぶした(横方向には膨らました)形のことを回転楕円体と呼ぶ。回転楕円体とは楕円を回転させてできる立体で、地球の形はこの回転楕円体で近似できる。地球には凹凸があるので、回転楕円体と正確に一致することはないが、陸をすべて削って、海にしてしまってもなお、回転楕円体とは一致しない。地球の表面における重量が均一でないためである。このような仮想的な海面のことをジオイドと呼ぶ。
キーワード ① 自然地理学 ② 自転、公転 ③ 地軸 ④ 回転楕円体 ⑤ ジオイド
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】復習は教科書中の図の解説ができることを心掛けるとよい。授業中の説明で図1-1は地球と太陽の位置関係を示したものであるが、それぞれの地球の位置が、春、夏、秋、冬のどの季節に該当するのか説明できるようにすること。図1-2、1-3に関連し、エラトステネスの方法で、地球の円周を概算できるようにしておくこと。図1-5ジオイドに関して正しく理解をすること。特に重力が等しいのではなく、位置エネルギーが等しい面であるということの意味を正しく理解すること。【予習】教科書、第2章の内容を読み、分からない箇所ならびに興味のある内容について事前に把握すること。図2-1、疎密波と実体波の違いを知っていると理解が速い。図2-3、玄武岩、花崗岩などの岩石種について中学校で学んだ知識(火成岩か深成岩か)を知っていると、系統立てて記憶できる。
2 地球のなりたち 科目の中での位置付け 本講義では、私たちを取り巻く自然的要素とその相互作用の現れ、つまりは気候、地形、植生、土壌、水環境、自然災害などについて、気候学、地形学を主軸とする自然地理学という枠組みにおいて学ぶ。本講義では(1)天体としての地球の特徴を概説した上で、(2)地球の動き、及びそれにより生じる地域差と紐づけた地球全体と日本の気候の特徴、(3)各地域においてみられる植生・土壌の特徴や気候との関連性、(4)地球内部の動きと紐づけた地形の特徴とその成因、発達史などについて解説する。ただし、講義の順番においては、気候学分野、地形学分野というような系統的な分け方がされているが、これらの項目は互いに密接に関係しているため、各章の内容を独立して修得することは難しいと理解されたい(例えば、河岸段丘という地形の発達には気候変動が関係している)。本コマ(第2回講義)では、地球の成り立ちと題して、地球の内部構造や誕生から現在までの歴史について概要を説明する。
コマ用オリジナル配布資料
① 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第2章 p6
② 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第2章 p7-8
③ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第2章 p9-10
コマ主題細目 ① 地球の中身 ② 地球の層構造 ③ 地球の進化
細目レベル ① 前回の授業で、紀元前エジプトのエラトステネスが地球の周回を求めた方法を紹介した。地球をほぼ球体とみなした場合、その半径は約6400kmである。この値から地球の体積を求めることができる。さらに地球の重さについては1800年にはキャベンディッシュによりそのおおよその値が求められている。このことから地球の平均密度は5.5g/cm3と求められる。この値は水銀よりは小さく、アルミニウムよりは大きい。つまり地球は主として鉱物(岩石)からできていることがわかる。さらに地球の内部の構造は地震波を使って調べることができる。地震波にはP波とS波があるが、波であるため、屈折したり反射したりする。P波、S波は地球の内部を通り抜けるとき、それぞれ特有の屈折をする。
② 固体・液体・気体のいずれの中も伝わるP波(Primary wave)と、固体の中のみ伝わるS波(Secondary wave)の伝達を利用した地球内部(地圏)の調査により、地圏は層構造になっていることが明らかにされた。物質区分では地球表面から順に地殻、上部マントル、下部マントル、外核、内核に区分される。内核と外核は鉄を主体とする合金から構成されるが、内核は固体状、外核は液体状である。マントルは上部下部ともに岩石からなるが、上部マントルの最下部(下部マントルとの境界)は液体状の特徴を、それ以外の上部マントル・下部マントルは固体状の特徴を示す。最上部の地殻は固体状の岩石からなり、同じ物質的特徴を持つ地殻と上部マントルの上部分をあわせてプレート(リソスフェア)、特徴が異なる上部マントル最下部をアセノスフェアと呼称する。地圏から大気圏に至るまで、総じて地球の重心の近くでは密度の高いもので構成され、重心から離れるにつれて密度が低いもので構成される傾向がみられる。

③ 地球の地軸が公転面の法線方向に対して23.4°傾いていることや、地球の内部がなお高温で、流動的な核を持っていることは、現在の地球環境に大きな影響を与えている。地球が現在のような状況に至った経緯(歴史)を振り返ると、現在の地球環境の形成には、いくつもの偶然が働いたことが予想されている。例えば、地軸がなぜ23.4°の傾きを持っているのかということはわかっていないが、近年ジャイアント・インパクト(月は原始地球と火星ほどの大きさの天体が激突した結果形成されたとする説)がこの傾きを生じさせたとする考えも発表されている。現在の地球環境(四季がある、海がある、火山がある、地震がある)は極めてまれな偶然の産物と考えられる。

キーワード ① P波、S波 ② 地殻 ③ マントル ④ 内核、外核 ⑤ ジャイアント・インパクト
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】P波、S波のそれぞれの性質(疎密波か実体波か、液体を伝わるかなど)を正しく理解すること。花崗岩、玄武岩などの岩石種は第9章で扱う火山の性質とも深く関連しているので、ここでその特徴を押さえて理解しておくこと。図2-3地球の内部構造については内核、外核がどのような物質で構成されているのかなどを正しく理解すること。【予習】教科書第3章を読み、分からない箇所ならびに興味のある内容について事前に把握すること。図3-1、大気組成に関して、分子構造を知っていると温室効果気体であるかどうかを判断しやすい。図3-6大気循環モデルは初学者には覚えることの多い複雑なモデルである。モデル中にある風系と気候帯の名称は覚えておくとよい。
3 大気のはたらき 科目の中での位置付け 本講義では、私たちを取り巻く自然的要素とその相互作用の現れ、つまりは気候、地形、植生、土壌、水環境、自然災害などについて、気候学、地形学を主軸とする自然地理学という枠組みにおいて学ぶ。本講義では(1)天体としての地球の特徴を概説した上で、(2)地球の動き、及びそれにより生じる地域差と紐づけた地球全体と日本の気候の特徴、(3)各地域においてみられる植生・土壌の特徴や気候との関連性、(4)地球内部の動きと紐づけた地形の特徴とその成因、発達史などについて解説する。ただし、講義の順番においては、気候学分野、地形学分野というような系統的な分け方がされているが、これらの項目は互いに密接に関係しているため、各章の内容を独立して修得することは難しいと理解されたい(例えば、河岸段丘という地形の発達には気候変動が関係している)。本コマ(第3回講義)では、地球の大気についてその組成や鉛直分布、および循環システムについて概要を説明する。

コマ用オリジナル配布資料
① 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第3章 p11
② 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第3章 p12-13
③ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第3章 p14-16
コマ主題細目 ① 地球大気の組成 ② 熱収支と地域差 ③ 風の起こるしくみと大気大循環
細目レベル ① 地球大気の化学的成分組成は、窒素が約78%、酸素が21%などとなっている。温暖化で問題となっているCO2の濃度はわずか0.038%しかない。植物はこれで光合成を行っている。 大気の組成は地球進化の過程と深く関わっている。地上から上空に広がる大気(大気圏)に着目すると、いくつかの層を成していることがわかっている。これらの層は地表からの高度に伴う温度の変化の傾向により、地上付近から順に対流圏、成層圏、中間圏、熱圏に区分されている。わたしたちの生活圏である対流圏では、高度上昇に伴い気温が低下する(約-0.65℃/100m)。成層圏は対流圏と異なり、上昇するほど昇温するが、これはオゾン層の存在による。上空ほど高温であるということは、対流が起こりにくいことを意味する。

② 地球は太陽放射(エネルギー)を受けて暖められる。地球に入射した太陽放射の一部(約31%)は雲やエアロゾル、地表面により大気圏外へ反射されるが、約69%は地表面、あるいは大気に熱として吸収される。太陽放射より熱エネルギーを受けっぱなしの状態では地球の気温は際限なく上昇してしまうが、実際には地球全体として一定の熱環境を保っている。これは、太陽放射により得た熱と同量の熱エネルギーが大気圏外に放出されている証左である。こうした熱エネルギーの出入りのことを熱収支と呼ぶ。熱収支の地域差を見ると、地球からの熱放射に大きな地域差はみられない。一方で太陽放射の入射については、太陽が地球から十分に離れていること、地球の形状が円に近いことから、低緯度の地域ではほぼ直上から太陽放射を受けるのに対し、高緯度の地域では太陽入射の角度が直上からずれ、結果として単位面積あたりで受け取る太陽放射が少なくなる。こうした太陽放射から受け取る熱量の地域差に起因し、地球上では主に緯度に依存した気温の地域差が生じる。地球全体としての熱収支を吊り合わせるため、地球上では熱エネルギーの大規模な運搬が行われている。

③ 気温が高い低緯度地域では大気が膨張して上昇気流、すなわち低圧帯が生じる。逆に、気温が低い高緯度地域においては下降気流、すなわち高圧帯が生じる。地上部においては高気圧帯から低気圧帯に向けて大気の移動、つまり風が発生し、低圧帯で上昇した大気はある程度の高度(10km程度)に達すると水平に広がり、高圧帯で地上部に吹き降ろす。このように、太陽放射の入射の地域差に起因する気温差により、大気の大きな対流が生み出される。この大気の大きな対流のことを大気大循環と呼び、またこの現象により、地上付近の大気層は対流圏と呼称される。理論上、地上部では高緯度地域から低緯度地域に向けて風が吹く、大きな循環が1周しているように思われるが、実際の地球の対流圏内には大きく3つの大気の循環がみられる。これはコリオリの力(転向力)と呼ばれる、地球の自転に起因する見かけ上の慣性力により、風が北半球では進行方向より右に、南半球では左に曲げられる。コリオリの力の強さはその地点の自転速度の差に左右され、したがって高緯度ほど影響が大きくなる。赤道付近の低圧帯で上昇した大気は緯度30°前後で吹き溜まり地上へ吹き降ろすため、緯度30°前後の地域に高圧帯が生じる(ハドレー循環)。高緯度地域では逆に、極付近の高圧帯からの風がコリオリの力により曲げられて緯度60°前後の地域で吹き溜まり、低圧帯が生じる(極循環)。このとき、緯度30~60°の地域にも噛み合うような循環が生じていると考えられる(フェレル循環)が、実態としては寒冷な大気と温暖な大気を混合するような蛇行する風が観測される(偏西風)。大気大循環は空気と熱を地球規模で長距離運搬し、世界の気候区分を形成する原動力となる。

キーワード ① 熱収支 ② 大気大循環 ③ コリオリの力 ④ 熱帯収束帯(赤道低圧帯)、亜熱帯高圧帯(低緯度高圧帯)、亜寒帯低圧帯(高緯度低圧帯)、極高圧帯 ⑤ 潜熱・顕熱
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】図3-5に関連してコリオリの力は初学者にはイメージしにくい概念であるが、授業中に紹介する動画などで、北半球で風や海流が移動する場合にコリオリの力が働く方向を正しく理解し、図3-6が示す風向に矛盾がないことを確認すること。図3-2にある鉛直構造を示した4つの層、図3-6のモデル内に出てくる風系と気候帯名を正しく理解すること。【予習】教科書第4章を読み、分からない箇所ならびに興味のある内容について事前に把握すること。図4-4は水の密度と温度の関係について知っていると理解が速い。図4-5の分布図については、地球上の気温や降水量の分布を知っていると理解しやすい。したがって図5-1、図5-2とも関連付けて見てみるとよい。図4-6については、海流が曲げられる方向がコリオリの力が働く向きと矛盾がないかを確認できるとよい。
4 海洋のはたらき 科目の中での位置付け 本講義では、私たちを取り巻く自然的要素とその相互作用の現れ、つまりは気候、地形、植生、土壌、水環境、自然災害などについて、気候学、地形学を主軸とする自然地理学という枠組みにおいて学ぶ。本講義では(1)天体としての地球の特徴を概説した上で、(2)地球の動き、及びそれにより生じる地域差と紐づけた地球全体と日本の気候の特徴、(3)各地域においてみられる植生・土壌の特徴や気候との関連性、(4)地球内部の動きと紐づけた地形の特徴とその成因、発達史などについて解説する。ただし、講義の順番においては、気候学分野、地形学分野というような系統的な分け方がされているが、これらの項目は互いに密接に関係しているため、各章の内容を独立して修得することは難しいと理解されたい(例えば、河岸段丘という地形の発達には気候変動が関係している)。本コマ(第4回講義)では、海洋のはたらきについて、主に熱輸送システムとしての役割を説明する。

コマ用オリジナル配布資料
① 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第4章 p17-18
② 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第4章 p19-20
③ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第4章 p21-22
コマ主題細目 ① 地球上の水 ② 海水と海洋の構造 ③ 海水の循環
細目レベル ① 史上最も世に出回った地球の写真は、1972年にアポロ17号の乗組員により撮影された、現在「ザ・ブルー・マーブル(青いビー玉の意)」と呼ばれる写真であるという。「ザ・ブルー・マーブル」は地球の表面全体が光に照らされた状態をとらえた最初の鮮明な画像と言われる。広大な宇宙空間にある地球の儚さ、脆さ、孤立を描写したものであるとして、多くの人々が注目したとされる。この写真のタイトルとなっているように地球を青く見せいているのは海である。地球の表面積5.1億km2のうち、海洋が占める割合は約70%である。南半球では極域を除き、海洋の面積比が大きい。地球上に存在する水の総量は14億km3に及ぶとされるが、このうち海水が97.5%を占め、淡水が占める割合はわずか2.5%ほどである。

② 海水の成分組成に注目してみると、水を除けばナトリウムイオンや塩化物イオンが多い。海水を蒸発させると、塩化ナトリウム(塩)以外に、様々なナトリウム塩が得られる。これがにがりである。海水の塩分濃度は約3.5%(35パーミル)であるが、場所や深さにより異なる。海水温は一般に表層で高く、深海で低くなっている。深海の海水温は2~4℃で世界中どこでも一定であるが、2~4℃の海水の密度が最も高くなるためである。大気の鉛直構造と同じように、海の鉛直構造も深さに伴う温度変化によりいくつかの層に分けられる。それらは、表層から、表層混合層(海面から水深10mの浅い層)、水温躍層(深さ数百mくらいまでで、水温が深層に向かい急に下がる層)、深層(深さ数百m以上で、いつでも、どこでも水温が一定な層)と呼ばれている。

③ 海水のうち、表層のものは風により水平方向に循環している(風成循環)。水平方向の循環では大気と同様にコリオリの力を受けるため、低緯度~中緯度地域においては、北半球では時計回り、南半球では反時計回りの大循環が観察される。この風成循環は、大気大循環と並んで熱エネルギーの運搬に寄与している。海水の移動は表層の水平方向だけではなく、深層を含めた垂直方向でも行われている。表層の海水が南北の極付近で冷却されることにより、密度が上がり底層まで沈み込み、世界の海洋の底層を移動しながらゆっくり上昇して表層に戻る(熱塩循環)。熱塩循環は約1500年もの長期的なスケールで行われており、風成循環とは時間的スケールが全く異なる。大洋間をまたぐ大規模な循環である、風成循環と熱塩循環を総称して海洋大循環と呼ぶ。

キーワード ① 表層混合層 ② 水温躍層 ③ コリオリの力 ④ 風成循環 ⑤ 熱塩循環
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】風成循環だけではなく、熱塩循環についても駆動のメカニズムを説明できること。もしも氷が水に沈んだら、もしも海洋の循環が止まったらといった思考実験ができるとよい。図4-3海水中の成分の構成については概要を理解しておくこと。図4-4、深海底の海水温がなぜ2~4℃に落ち着くのか説明できるようにしておくこと。図4-6主な海流についてその名称を覚えること。【予習】教科書第5章を読み、分からない箇所ならびに興味のある内容について事前に把握すること。図5-1は簡単な気温分布であるが、モノクロで見にくいため、高温部あるいは低温部に色彩すると理解しやすい。図5-2についても同様で、降水量が最も多い地域と少ない地域の分布はどこなのか色を塗るとよい(授業中には色付きで示す)。
5 気候 科目の中での位置付け 本講義では、私たちを取り巻く自然的要素とその相互作用の現れ、つまりは気候、地形、植生、土壌、水環境、自然災害などについて、気候学、地形学を主軸とする自然地理学という枠組みにおいて学ぶ。本講義では(1)天体としての地球の特徴を概説した上で、(2)地球の動き、及びそれにより生じる地域差と紐づけた地球全体と日本の気候の特徴、(3)各地域においてみられる植生・土壌の特徴や気候との関連性、(4)地球内部の動きと紐づけた地形の特徴とその成因、発達史などについて解説する。ただし、講義の順番においては、気候学分野、地形学分野というような系統的な分け方がされているが、これらの項目は互いに密接に関係しているため、各章の内容を独立して修得することは難しいと理解されたい(例えば、河岸段丘という地形の発達には気候変動が関係している)。本コマ(第5回講義)では、地球全体で見た気温、降水量の違い、および日本における気温、降水量の違いに着目しその要因について説明する。

コマ用オリジナル配布資料
① 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第5章 p23
② 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第5章 p24
③ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第5章 p25-26
④ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第5章 p27-29
コマ主題細目 ① 気候要素・因子 ② 世界の気温分布 ③ 世界の降水分布 ④ 季節風と日本の気候
細目レベル ① 気候とは、1年周期で最も高確率で生じる大気の総合的な状態と定義され、言い換えれば長年(日本においては直近30年間)の気象状態の集積結果である。気象とは、大気現象や大気の総合的な状態を指す言葉である。天気とは比較的短期間(例えば1日単位など)の気象の状態を表し、天候とは比較的長期間(5日~数ヶ月単位)の天気の推移を表す。気候を形成する大気の性質を平均化したもの、つまり気象の状態を定量的に(数字のデータとして)示す要素のことを気候要素といい、主として気温、気圧、降水量、風速、風向、相対湿度、雲量、日射量、日照時間が挙げられる。また、気候要素に影響を与える地理的要因を気候因子という。主な気候因子として、緯度、水陸分布、海流、標高、地形が挙げられる。

② 気温に大きく影響する気候因子は緯度と標高である。太陽放射により得られる熱エネルギーは低緯度ほど大きく、高緯度ほど小さい。このため原則として高緯度ほど気温が低くなる傾向がみられるが、地域ごとに検討すると、緯度の影響に加えて海流の温度の影響がみられる。例えば日本より高緯度に位置するイギリスでは、冬季に偏西風が暖流の上を通るため、日本と同程度の気温となる。逆に寒流の影響でイベリア半島やペルーなど夏にしては気温があまり上がらないというところもある。日本は黒潮と呼ばれる世界的に見ても最も強い暖流の経路上にあり、その影響を受けているはずであるが、冬の間は大陸からの季節風(モンスーン)の吹き出しの影響が強すぎて、黒潮暖流の影響をあまり体感することはできない。

③ 降水量に大きく影響する気候因子もやはり緯度である。前回解説した大気大循環において低圧帯となっている緯度帯(赤道付近: 赤道収束帯、緯度40~60°付近: 亜寒帯低圧帯)では、上昇気流により雲が生成されやすいため降水量が多い傾向がみられる。一方、高圧帯となっている緯度帯(極付近: 極高圧帯、緯度20~30°付近: 亜熱帯高圧帯)では降水量が少ない傾向がみられる。緯度の他に、大気への水の供給源である海との距離(水陸分布)や、水の供給源との間に大山脈などの遮蔽物が存在するかどうか(地形)が、降水量に大きく影響する。このように降水量は気温と同様に地域差が大きく、地球上の水は空間的・時間的に遍在しているといえる。東京の年間降水量1800mm程度で、日本は世界的にはかなりの多雨地域である。

④ 日本全体としては一年を通して降水量が多い気候とされるが、降水の傾向は地域により差が生じる。日本には中央部を縦断するような配置で山脈が存在し、この山脈を境界として日本海側(ユーラシア大陸側)と太平洋側で気候の季節変化が異なる。日本の気候は太平洋高気圧(小笠原気団)、オホーツク海高気圧(オホーツク海気団)、シベリア高気圧(シベリア気団)、移動性高気圧(長江気団/揚子江気団)の4つの高気圧の配置で決定される。特に、低温乾燥なシベリア高気圧と、温暖湿潤な太平洋高気圧の勢力の強弱により風向が決定づけられる。冬は陸(ユーラシア大陸)が海(太平洋)よりも低温となることから、日本の北西に位置するシベリア高気圧が発達し、南東の太平洋高気圧が衰退することで、俗に西高東低型といわれる気圧配置を示す。このため日本には北西からの季節風が吹くが、この季節風は日本に到達する前に日本海から水分の供給を受ける。低温湿潤な風が山脈にぶつかることで日本海側では降雪があり、降雪後の風が吹き降ろす太平洋側では乾燥する傾向にある。春になると陸と海の温度差が小さくなり、シベリア高気圧も太平洋高気圧も発達していない状態となる。このとき、移動性高気圧(長江気団から切り離された高気圧)と、温帯低気圧が日本に交互に到来することにより、不安定な天気を示す。夏にかけて陸側の温度が上昇し、海が陸よりも相対的に低温となるため、太平洋高気圧が発達する。このとき、衰退中のシベリア高気圧との間(「気圧の谷」と呼ばれる低気圧がみられる)で前線(梅雨前線)が発生することにより、初夏には梅雨と呼ばれる長雨がみられる。その後、太平洋高気圧の発達に伴い梅雨前線が追いやられることで「梅雨明け」となり、南東からの季節風が吹くようになる。冬とは逆に、太平洋側では湿潤な季節風による雷雨がみられ、日本海側では風が山脈を越えた後の温度上昇が山脈を越える際の温度低下よりも大きくなるフェーン現象により、高温乾燥となる。秋は春と同様、シベリア高気圧と太平洋高気圧は双方ともに発達していないが、赤道低圧帯で発生する赤道気団から台風をはじめとする熱帯低気圧が発達・到来し、日本に暴風と豪雨をもたらす。
以上のように、日本の季節変化は明確ではなく、連続的であるといえる。

キーワード ① 気候・気象 ② 暖流・寒流 ③ 気団 ④ モンスーン ⑤ フェーン現象
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】降水量や気温の分布は、世界、日本ともにその概要を理解すること。どんな場所で気温が高く、雨が多いかということが説明できるとよい。図5-4は日本海側に降雪が多くなる理由を示したものであるが、氷期に、日本に氷河地形が発達しなかった原因とも関連するため、特に大雪となる要因について正しく説明できるようにしておくこと。【予習】教科書第6章を読み、分からない箇所ならびに興味のある内容について事前に把握すること。図6-1ケッペンの気候区分については中学でも学習するものであるがA~Eまでの大分類を覚えていると理解が早い。図6-4はあらゆる生物系の教科書に記載があるものであり、バイオームの名称を書き入れられるように理解しているとよい。
6 土壌・植生 科目の中での位置付け 本講義では、私たちを取り巻く自然的要素とその相互作用の現れ、つまりは気候、地形、植生、土壌、水環境、自然災害などについて、気候学、地形学を主軸とする自然地理学という枠組みにおいて学ぶ。本講義では(1)天体としての地球の特徴を概説した上で、(2)地球の動き、及びそれにより生じる地域差と紐づけた地球全体と日本の気候の特徴、(3)各地域においてみられる植生・土壌の特徴や気候との関連性、(4)地球内部の動きと紐づけた地形の特徴とその成因、発達史などについて解説する。ただし、講義の順番においては、気候学分野、地形学分野というような系統的な分け方がされているが、これらの項目は互いに密接に関係しているため、各章の内容を独立して修得することは難しいと理解されたい(例えば、河岸段丘という地形の発達には気候変動が関係している)。本コマ(第6回講義)では、気候の影響を受けて成立している植生や土壌についてその概要を説明する。

コマ用オリジナル配布資料
① 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第6章 p30-31
② 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第6章 p32-33
③ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第6章 p34-37
コマ主題細目 ① 気候区分と植生 ② 成帯土壌 ③ 日本の植生
細目レベル ① ケッペンの気候区分においては、まず赤道付近から高緯度にAからEのアルファベット(アルファベート)を振り分け、気温の指標とする。気温を示す1文字目がA、C、Dとなる地域では降水量、気温ともに樹林の成立要件を満たすため、樹林気候と総称される。樹林気候においては、2文字目は降水量を示し、s(sommer trocken: 夏季乾燥)、w(winter trocken: 冬季乾燥)、m(mittelform: 湿潤と乾燥の中間)、f(feucht: 湿潤)のいずれかを付す。A(熱帯)では気温条件は樹木の生育に適しているため、成立植生は降水量に左右される。気候区分Afでは一年を通して温暖多雨なことから、一年中葉をつける(常緑)大型の樹木からなる熱帯多雨林が成立する。Amの気候帯では雨季と弱い乾季が観測されるが、乾季においては葉をつけていると蒸散による水分喪失が大きくなるため、葉を落とす方が有利となる。したがって、乾季に落葉し雨季に葉をつける雨緑林(熱帯季節林)が成立する。Awの気候帯では冬に明確な乾季が存在するため、樹木の生存にとって厳しい環境となる。このため樹木があまり育たず、草原内にまばらに存在するサバナ(サバンナ)とよばれる植生が広がる。C(温帯)では、植物にとっては冬季の寒冷が厳しいものとなる。Cfでは降水量は十分なため、比較的温暖な地域では常緑広葉樹林(照葉樹林)が成立する。Cfでみられる常緑広葉樹には冬季に葉を守る仕組みとして、小さく厚い葉を持つという特徴がある。一方、冬の寒さが比較的厳しい地域では、冬に葉を維持する方がデメリットが大きくなる。したがって、冬季に落葉する夏緑林(落葉広葉樹林)が成立する。D(冷帯)はCの気候帯よりも更に寒冷となり、冬季には地中の水が凍結するため水の確保が課題となる。更に、高緯度となるため日照量が少なく、大きな葉をつけていても光合成の効率には期待できない。したがって、蒸散を抑えることができる葉の面積が狭い針葉樹を主体とする、針葉樹林が成立する。ケッペンの気候区分は植生に基づく結果的な区分であるとされる。一方でアリソフの気候区分は気団や前線の位置に注目したもので植生分布とは一致しないが、気候要素に基づく成因的な気候区分であるとされる。

② 土壌は母材の性質のほか、地上の気候や植生・生物の影響を大きく受ける。特に土壌の肥沃度、すなわち腐植の割合は主に有機物の供給速度と分解速度のバランスにより決定される。一般に、土壌は黒色を呈するほど肥沃である傾向がみられる。地球上の土壌は12種類に分類される。A(熱帯)では腐植を分解する微生物の働きが活発であり、なおかつ赤道収束帯の影響で降水量が多いため、養分は分解され雨水とともに地下へ流出してしまう(溶脱)。この結果、取り残された鉄やアルミニウムが酸化することにより、オキシソルや強風化赤黄色土といった強い赤色を呈する貧栄養な土壌がみられる。BW(砂漠)では降水による溶脱こそないものの、植物が極めて少ないため腐植がほとんど存在しない。こうした地域でみられる砂漠土では土中の水が短時間で蒸発し、その際に塩が取り残される(塩類集積・塩害)。この塩害が、乾燥地における植物の生育にとって大きな課題となる。BS(ステップ)や、A~Dの気候帯のうち比較的乾燥している地域では、草原が成立するため土壌への腐植の供給がある。一方で降水が少ないため、溶脱が少ない。こうした地域ではチェルノーゼムやひび割れ粘土質土壌といった、黒色を呈する肥沃な土壌がみられる。C~Dの気候帯のうち森林が成立する降水量が多い地域では、粘土集積土壌や褐色森林土(若手土壌)といった、雨水による溶脱が確認される土壌がみられる。DからEにかけての高緯度帯においては、低温のため微生物が活発でなく、腐植の分解が進まないため、未分解の腐植層がみられるポドゾルや、植物の死がいが分解されず圧縮された泥炭土がみられる。更に高緯度のET(ツンドラ)では、土中の水分が凍結している永久凍土と呼ばれる土壌がみられる。以上の10種類は気候に起因する土壌であり、成帯土壌と総称される。その他の土壌として、土壌生成の経過時間が短いため層構造を確認できない未熟土、火山灰を母材とし、火山灰に腐植が結合することで生成される黒ボク土がある。黒ボク土は火山が多く分布し、降水量が多い地域でみられ、日本でもよくみられる。

③ ケッペンの気候区分においては日本の多くの地域がCfに属しており、総じて樹林が成立する気候である。特に降水量は季節変動があるものの極めて多く、樹木の成長には十分である。このため、日本国内においてみられる植生の地域差は気温の差に依存する。気温により成立植生の差を示そうとしたものが、吉良の温量指数(暖かさの指数・寒さの指数)である。吉良の温量指数では植物が成長可能な期間の基準を月平均気温5℃として、平均気温5℃を上回った月の平均気温から5を引いた値の総和を暖かさの指数、平均気温5℃を下回った月の平均気温から5を引いた値の総和(負の値となる)を寒さの指数とする。例えば愛知県岡崎市の場合は暖かさの指数124.0、寒さの指数1.3となり(1980~2010年の平年値より算出)、常緑広葉樹林(照葉樹林)帯であると区分される。竹島の植生をみると、この結果がおおむね正しいことがわかるだろう。日本の植生分布は、モンスーンアジアの島国という地理的位置、温暖多雨な気候、起伏に富んだ地形といった要因により、亜熱帯林、温帯林、亜寒帯林から高山植生までを有し、多様かつ複雑な様相を示す。このため日本は、世界的にみても高い生物多様性を有している。

キーワード ① ケッペン(の気候区分) ② アリソフ(の気候区分) ③ 成帯土壌 ④ 間帯土壌 ⑤ 暖かさの指数
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】図6-1ケッペンの気候区分では、A~Eが示す気候帯の意味と分類の基準を理解すること。図6-2アリソフの気候区分に関しても、気候の境界が何を示しているのか説明できるようにすること。図6-4それぞれのバイオームの名称を答えられるようにすること。図6-6暖かさの指数の分布は日本の植生や気候を論じる際に必ず必要になる図である。暖かさの指数の計算方法と併せてしっかり理解しておくこと。【予習】教科書第7章を読み、分からない箇所ならびに興味のある内容について事前に把握すること。図7-1地質年代は地球史上、大きな環境の変化があった時代を境に区切られており、6,600万年前や、11,700年前に地球上でどのようなイベントが起こったか、知っていると理解しやすい。また、大陸氷床の分布に関連して、北欧や北米、カナダなどの田園地帯の地形がなだらかな起伏をしていることなどを知識として持っていると理解がしやすい。
7 地球史における最近の自然変動 科目の中での位置付け 本講義では、私たちを取り巻く自然的要素とその相互作用の現れ、つまりは気候、地形、植生、土壌、水環境、自然災害などについて、気候学、地形学を主軸とする自然地理学という枠組みにおいて学ぶ。本講義では(1)天体としての地球の特徴を概説した上で、(2)地球の動き、及びそれにより生じる地域差と紐づけた地球全体と日本の気候の特徴、(3)各地域においてみられる植生・土壌の特徴や気候との関連性、(4)地球内部の動きと紐づけた地形の特徴とその成因、発達史などについて解説する。ただし、講義の順番においては、気候学分野、地形学分野というような系統的な分け方がされているが、これらの項目は互いに密接に関係しているため、各章の内容を独立して修得することは難しいと理解されたい(例えば、河岸段丘という地形の発達には気候変動が関係している)。本コマ(第7回講義)では、過去の気候変動の事実と、そのことが、現在の地形やその他の景観を形作る要因となっていることを概説する。

コマ用オリジナル配布資料
① 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第7章 p38
② 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第7章 p39-41
③ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第7章 p42
④ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第7章 p43
コマ主題細目 ① 新生代第四紀 ② 過去の気候変動 ③ 気候変動の原因 ④ 歴史時代の気候変動
細目レベル ① 気候変動とは文字通り気候の変化であるが、近年では一般に「通常ではない気候への変化」という意味でも使用される。よく耳にする例は地球温暖化であろう。現在の気候について論じるにあたっては、「通常の気候変動」の時間スケールと内容について理解する必要がある。最も新しい、ヒト科ヒト属が進化した時代である第四紀(約260万年前~現在)に着目してみると、総じて地球上にある程度まとまった氷体(氷河・氷床)が存在する、氷河時代であるといえる。この氷体は常に一定という訳ではなく、地球全体が寒冷となりより氷河が発達する氷期と、比較的温暖であり氷河が衰退する間氷期が繰り返されてきた。このような繰り返しを氷期-間氷期サイクルと呼び、約2万年~10万年程度の周期とされている。現在は約1万年前に始まった間氷期の最中であり(現在を含めた最新の間氷期を特に後氷期と呼ぶ)、数万年のうちに再び氷期が来るという説が有力である。

② 現在は気象予報などで示される通り、気象測器により気候要素を定量的に測定・記録することが可能となっている。こうした気象測器が存在しない時代の気候変動を調べるためには、気象要素の代替となるデータ(プロキシデータ)を用いた気候復元を行う必要がある。人間による社会活動が活発となった数千年前から1880年ごろまでの間は、人間が作成した文献や碑文といった資料を利用して気候を推定することができる。例えば日本の場合は、宮中で開かれたサクラの花見の日程を、9世紀ごろから辿ることが可能である。こうした、人間による資料が残存している時代のことを歴史時代と呼ぶ。
人間による社会活動が活発となる以前、地質時代と呼ばれる時代においては気候の推定材料となる資料が存在しないため、別のプロキシデータを利用する必要がある。地質時代の気候復元におけるプロキシデータの代表として、氷床コア(アイスコア)に封入された過去の空気の分析、特に重さの違う酸素分子(同位体)の割合に着目した分析方法が挙げられる。寒冷環境下において、酸素同位体のうち比較的軽い16Oは空気中に漂うが、比較的重い18Oは氷雪内に残存し、最終的には氷床コアに封入される。つまり、16Oと18Oの比率を調べることで、その氷床コアが作られた時代の気温を推定することが可能となる。氷床コアのほかによく利用されるプロキシデータとして、樹木年輪の幅(温暖であるほど幅が広くなる)、底生生物や花粉の化石(気温や風向きにより出現種や量が変動する)が挙げられる。

③ 氷期-間氷期サイクルといった地球規模の気候変動の要因として、地球の周期的運動、太陽活動の周期的変動、火山活動(極々まれに大隕石の落下)によるエアロゾル(浮遊微粒子)の発生が挙げられる。
地球の周期的運動には、公転軌道の変化に伴う太陽からの距離の変動、地軸の傾きの変化による太陽放射の受け取り方の変動、自転軸の歳差運動に伴う季節のずれが挙げられる。これらの周期的変動により地球が受け取る日射量が周期的に変化する。この日射量の変動周期のことをミランコビッチ・サイクルと呼ぶ。
地球による太陽放射の受け取り方のほか、太陽そのものの活動も周期的に強まったり弱まったりすることが観察されている。こうした太陽活動の指標として、太陽黒点の数が観測されている。太陽活動が活発化すると太陽黒点の増加が観察され、逆に太陽活動が低下すると太陽黒点の減少が観察される。こうした太陽活動の増減は、約11年周期で発生していることが確認されている。
大規模な火山の噴火により発生する火山灰(第11回・第14回で解説)や、大隕石の落下に伴い巻き上げられる粉塵が、対流圏の更に上層である成層圏に到達した場合、地球規模の広域に拡散して日射を遮ることにより(日傘効果)、地球規模の気温低下が発生する場合もある。例えば、恐竜類が絶滅に追い込まれた地球規模の寒冷化の原因は、ユカタン半島に落下した大隕石が巻き上げた粉塵によるものとされている。

④ 1880年ごろに気象測器が登場して以来(観測時代)、気象測器を用いた組織的な観測により気候の変化・変動を定量的に把握できるようになった。日本における各地点の気象データは気象庁Webページ内で公開されており、誰でも参照可能である。ここ20~30年来指摘されている気候変動の代表的な傾向として、地球温暖化が挙げられる。現在観測されている地球温暖化は歴史時代~観測時代における気候変動とは傾向が異なる現象であり、過去2000年のうち最も温暖な時期の多くが20世紀に集中していると指摘する研究チームがある一方で、地質時代を含めた第四紀全体の気候変動の幅は更に大きなものであり、現在観測されている温暖化もその一部にすぎないといった懐疑的意見も散見される。

キーワード ① 新生代第四紀 ② 氷期・間氷期 ③ ミランコビッチサイクル ④ 氷床 ⑤ 海進・海退
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】主要な地質年代(特に第四紀)については名称を覚えること。氷期、間氷期の繰り返しは地球軌道要素の変動によって起こっていることが理論的に確かめられており、特に、重要とされる3つの地球軌道要素については正しく説明ができるように理解しておくこと。氷期、間氷期の繰り返しに伴う、海面の上昇、低下により、日本列島の陸域、海域分布がどのように変化したか、特に、最終氷期の極相期である2万年前と、縄文海進時である6,500年前で、現在とどのように違っているか説明できるようにすること。【予習】教科書第8章を読み、分からない箇所ならびに興味のある内容について事前に把握すること。図8-2は中学校や高等学校の教科書にも出てくる地図であるが、海嶺と、海溝の分布に関して、大西洋と、太平洋とで対比させて理解できるとよい。図8-4についても中学や高校で頻繁に取り上げられる図であり、この図の意味についても事前に知っていることが望ましい。
8 プレートテクトニクス 科目の中での位置付け 本講義では、私たちを取り巻く自然的要素とその相互作用の現れ、つまりは気候、地形、植生、土壌、水環境、自然災害などについて、気候学、地形学を主軸とする自然地理学という枠組みにおいて学ぶ。本講義では(1)天体としての地球の特徴を概説した上で、(2)地球の動き、及びそれにより生じる地域差と紐づけた地球全体と日本の気候の特徴、(3)各地域においてみられる植生・土壌の特徴や気候との関連性、(4)地球内部の動きと紐づけた地形の特徴とその成因、発達史などについて解説する。ただし、講義の順番においては、気候学分野、地形学分野というような系統的な分け方がされているが、これらの項目は互いに密接に関係しているため、各章の内容を独立して修得することは難しいと理解されたい(例えば、河岸段丘という地形の発達には気候変動が関係している)。本コマ(第8回講義)では、大地形を形成するための大きな要因であるプレートテクトニクスについて、その概要と成立の過程について概説する。

コマ用オリジナル配布資料
① 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第8章 p44-45
② 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第8章 p46
③ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第8章 p47-48
④ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第8章 p49-52
コマ主題細目 ① プレートテクトニクスとは ② プレートテクトニクスの成立 ③ プレート境界 ④ マントルプルームとホットスポット
細目レベル ① プレートテクトニクスとはプレートがマントルの対流のため移動し、大陸移動や海洋底の拡大が起こるとする理論である。プレートテクトニクスによると地球表層は14~15枚のプレート(リソスフェア)により覆われており、これらがマントルの対流により移動することで大地形の形成や地震、火山活動が生じるとされる。こうしたプレートを動かす内部営力となるマントルの対流は当初マントル表層100~200km(アセノスフェア)において生じるものとされていたが、より深層(メソスフェア)をも含む約2900kmの範囲内でゆっくりとした鉛直方向の移動があることが判明した。こうしたメソスフェアを含めたマントルの対流はプルームテクトニクスとして説明される。マントルが熱対流により地表面に向かって上昇する地点(ホットプルーム)が大陸の下にあった場合、大陸はやがて分裂して移動し、別のプレートに衝突して沈み込んでいく。この沈み込んだプレートはそのうちマントルを地球内部に向かって沈んでいく(コールドプルーム)。

② ヴェーゲナー(ウェゲナー)により大地形の成因として提唱された大陸移動説は、大陸を移動させる力について解明できなかったことから支持をされなかった。また、ウェーゲナー自身も、観測中に遭難し、非業の死を遂げる。ところがウェーゲナーの没後、1960年代までに海洋底の探査が飛躍的に進んだ。放射性年代測定法により、海洋底を構成する岩石の生成年代が特定できるようになった。その結果、海洋底の岩石の年齢は海嶺から対称に、海嶺から遠ざかるほど古くなっていることが判明した。さらに、海洋底を構成する岩石の熱残留磁気が調査されるようになると、地磁気の逆転や海洋底の拡大が(ひいては大陸の移動)がもはや疑いの余地がないものとなった。

③ このようにマントルの対流により水平方向にプレートが移動するが、プレート境界におけるプレート同士の挙動は3つのパターンに分類される。1つ目は発散境界(発散型境界)と呼ばれるもので、プレート同士が離れていく境界である。この地点ではプレート同士の隙間を埋めるようにアセノスフェアが上昇し、マグマとなって地表面(海底面)に噴き出す。この噴き出し口は列状に位置することが多いため、海底で発生した場合は中央海嶺が形成される。2つ目は横ずれ境界(トランスフォーム断層)といい、先述の列状に位置する噴き出し口が若干ずれて位置する地点にみられる、プレート同士がすれ違う境界である。3つ目は収束境界(収束型境界)と呼ばれる、プレート同士が衝突する境界である。収束型境界においては衝突したプレートの片方が沈み込む場合(沈み込み帯)と、双方ともに沈み込まず盛り上がる場合(衝突帯)がみられる。これらのプレート境界においては、火山活動や地震が発生しやすい。

④ 現在ではプレートテクトニクスはさらに理論的に拡張され、プルームテクトニクスに発展した。プルームテクトニクスはマントル内の大規模な対流運動 (プルーム:煙の意) と、この変動に関する学説で、深さ2,900kmに達する(プレートテクトニクスよりさらに深い領域の)マントル全体の動きと地殻変動の関係を検討する理論である。この理論によるとプルームが沸き上がる流れ(ホットプルーム)では発散境界(海嶺や地溝帯など)が発生し、地球の内部に沈み込む流れ(コールドプルーム)では、海溝に沈み込んだプレートが引き込まれる場となっている。また、地球深部から沸き上がるマグマにより形成されるホットスポットは、何億年も地球内部の同じ場所にあり、海洋地殻に生じた火山島が海洋プレートの拡大に伴い移動しても、元あった場所に新しい火山が形成される(ハワイ島など)。

キーワード ① プレートテクトニクス ② マントル対流 ③ ウェーゲナー ④ 古地磁気学 ⑤ トランスフォーム断層
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】図8-3、図8-4はプレートテクトニクスの成立を説明する上で、非常に重要な図であり、海洋底拡大、大陸移動、熱残留磁気、地磁気逆転などの用語を用い、正しく説明できるようにすること。プレート境界のうちトランスフォーム境界がどのような場所に現れるか正しく理解しておくこと。図8-8~10ホットスポットと海山列の関係について説明ができるようにしておくこと。【予習】教科書第9勝を読み、分からない箇所ならびに興味のある内容について事前に把握すること。図9-1は、前回学習したプレートの分布と関連付けてその分布が説明できるとよい。この図に関しても前回同様、大西洋と太平洋の違いに注目すると、理解しやすい。図9-2、日本付近の4つのプレートの名称は知っていることが望ましい。
9 火山 科目の中での位置付け 本講義では、私たちを取り巻く自然的要素とその相互作用の現れ、つまりは気候、地形、植生、土壌、水環境、自然災害などについて、気候学、地形学を主軸とする自然地理学という枠組みにおいて学ぶ。本講義では(1)天体としての地球の特徴を概説した上で、(2)地球の動き、及びそれにより生じる地域差と紐づけた地球全体と日本の気候の特徴、(3)各地域においてみられる植生・土壌の特徴や気候との関連性、(4)地球内部の動きと紐づけた地形の特徴とその成因、発達史などについて解説する。ただし、講義の順番においては、気候学分野、地形学分野というような系統的な分け方がされているが、これらの項目は互いに密接に関係しているため、各章の内容を独立して修得することは難しいと理解されたい(例えば、河岸段丘という地形の発達には気候変動が関係している)。本コマ(第9回講義)では、地形形成のための大きな要因でもある火山活動について、地形造成作用と自然災害との側面から概説する。

コマ用オリジナル配布資料
① 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第9章 p53-55
② 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第9章 p56-59
③ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第9章 p59-61
コマ主題細目 ① 火山分布 ② マグマの種類、火山噴出物と地形 ③ 火山災害
細目レベル ① 活火山の分布は世界的に著しい偏りがみられ、主にプレート境界に集中している。発散境界である中央海嶺では、ホットプルームに起因した火山活動が多くみられる。また、収束境界のうち沈み込み帯の付近にも火山の分布が集中している。沈み込み帯では、沈み込むプレート内の岩石に含まれる水が地中の熱と圧力により放出され、周囲の岩石の融点が急激に下がることでマグマが部分的に発生する。こうして浮上したマグマは、より密度が小さい地殻に到達する付近で浮力を失って滞留し、マグマ溜まりを形成する。ここで、マグマに含まれる気体の放出や、新たなマグマの生成によりマグマ溜まり内の圧力が高まると、マグマが地表面に到達する可能性が高まる。こうしたプロセスにより、収束境界の沈み込み帯付近には活火山が多く生成される。

② 先述の通り火山体はマグマの噴出により形成されるため、火山の形状はマグマの性質によって異なる。具体的には、マグマに含まれるSiO2(二酸化ケイ素)の割合が多いほど粘性が高く(流紋岩タイプ)、SiO2の割合が少ないほど粘性が低く(玄武岩タイプ)サラサラとしたマグマになる。噴火の様式はマグマの「泡」を噴き出した際の泡の成長と、壊れる時の大きさに例えられる。粘性が低いマグマの泡は十分に成長する前に壊れ、マグマが噴出口から流出するかたちで噴火する。こうした地表面に出たマグマ(溶岩)は薄く遠くまで流れて広がるため、盾状火山や溶岩原といった形状の火山となる。一方、粘性が高いマグマの泡は壊れる前に十分に成長し、壊れる際も激しく爆発する傾向にある。地表面に出た溶岩は粘性の高さから比較的狭い範囲内にとどまり、溶岩円頂丘のような火山体を形成する。泡の破壊=噴火にともないマグマのしぶきが冷え固まったもの(火山砕屑物)を多くもたらす火山においては、火山砕屑物が多く流れる(火砕流)ため、上方に高く、広い裾野を有する成層火山が形成される。また、爆発があまりにも大規模な場合、マグマ溜まりが一気に空洞となり、地表面が陥没する。こうした陥没地帯のことをカルデラと呼ぶ。

③ 火山活動によって生じる災害の総称を火山災害と言う。火山災害では、溶岩や火山砕屑物、火山ガスなどの噴出物による直接的な人体・建築物の被害に注目されがちだが、土石流や泥流といった二次的産物による人体や建築物への被害も相当に多くなる。また、火山ガスが大気中の水と化学反応を起こしたものや、火山灰がエアロゾルとして大気中に巻き上がることによる太陽放射の遮蔽(日傘効果)も重大な被害として挙げられる。大規模な噴火により火山由来のエアロゾルが成層圏に到達した場合、広域的な農作物の不作に起因する飢饉のリスクが高まる。日本は環太平洋造山帯に位置することから火山が極めて多い地域であり、火山災害のリスクが高い地域であると言える。

キーワード ① ホットプルーム ② SiO2(二酸化ケイ素) ③ 玄武岩 ④ スコリア ⑤ カルデラ
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】図9-1プレート境界と火山の分布については教科書中に色を塗るなどして、どのような境界に生じている火山なのかを説明できるようにすること。図9-3火山の噴火様式と、岩石種について、第2章で触れた事柄(火山岩と深成岩)が再び出てくる。火山岩であるか、深成岩であるかの区別の他、二酸化ケイ素の含量、かんらん岩の割合などに注目して、岩石種と火山の様式を関連付けて覚えられるとよい。【予習】教科書第10章を読み、分からない箇所ならびに興味のある内容について事前に把握すること。図10-1地震の分布は、前々回の授業で触れたプレートの分布と深く関連している。環太平洋造山帯と呼ばれるように、太平洋沿岸地域には火山や地震が多く、大西洋とは対照的である。プレートの分布と、海溝、海嶺の位置関係と、火山、地震の分布を系統立てて理解できるとよい。図10-2、断層の種類についても中学校や高等学校の教科書に説明がある事柄であり、断層の種類および、そのような断層が生じる場合の力の方向について理解しているとよい。
10 地震 科目の中での位置付け 本講義では、私たちを取り巻く自然的要素とその相互作用の現れ、つまりは気候、地形、植生、土壌、水環境、自然災害などについて、気候学、地形学を主軸とする自然地理学という枠組みにおいて学ぶ。本講義では(1)天体としての地球の特徴を概説した上で、(2)地球の動き、及びそれにより生じる地域差と紐づけた地球全体と日本の気候の特徴、(3)各地域においてみられる植生・土壌の特徴や気候との関連性、(4)地球内部の動きと紐づけた地形の特徴とその成因、発達史などについて解説する。ただし、講義の順番においては、気候学分野、地形学分野というような系統的な分け方がされているが、これらの項目は互いに密接に関係しているため、各章の内容を独立して修得することは難しいと理解されたい(例えば、河岸段丘という地形の発達には気候変動が関係している)。本コマ(第10回講義)では、地震のメカニズムと種類、および災害としての特徴について概説する。

コマ用オリジナル配布資料
① 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第10章 p62
② 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第10章 p63-64
③ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第10章 p65
④ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第10章 p65-66
⑤ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第10章 p67-68
コマ主題細目 ① 地震のメカニズム ② 地震の分布 ③ マグニチュード ④ 地震のタイプ ⑤ 地震災害
細目レベル ① 地震とは、岩盤に力が加わっていくような状況で蓄積したひずみが限界に達した時に起こる、岩盤の破壊現象、およびそれにともなって発生する波による振動のことをいう。地震は岩盤の破壊現象によって生じる。せんべいを割ることを考えてみると、せんべいが割れる瞬間が、地震の発生であり、それを予知することは極めて難しいことがわかる(力やひずみがかかり続けていることはわかっているが、割れる瞬間を予測することは困難である)。プレート境界においては形態によって力のかかり方は異なるものの、いずれにしても常に何かしらの力がかかり続けていると言える。こうした力によって発生する岩盤の歪みが、限界を超えて戻る、あるいは破壊されることにより、地震動が発生する。

② プレート境界は地震の好発地帯であり、世界で観測される地震の大半はプレート境界で発生している。プレートの沈み込み帯が集中する日本もまた、地震が頻発する地域である。マグニチュード(地震そのもののエネルギー量を示す数値)6以上の地震の約23%が日本付近で発生しているとの報告もあり、2019年だけでも震度(地表に到達したエネルギー量、すなわち地震動による被害の程度を示す数値)5以上の地震が9回発生している。プレート境界で発生する地震のうち、日本のような収束境界(沈み込み帯)で起こる地震には震源が深いものが多い。それに対し、発散境界(海嶺付近など)で起こる地震の震源は浅いものが多い。また横ずれ境界(トランスフォーム断層付近など)では震源が浅いとされる。

③ 地震のマグニチュードとは、地震が発するエネルギーの大きさを対数で表した指標値である。揺れの大きさを表す震度とは異なる。日本の地震学者、和達清夫の最大震度と震央までの距離を書き込んだ地図に着想を得て、アメリカの地震学者チャールズ・リヒターが考案したとされる。マグニチュードの算出には、まず地震のエネルギーを表す、地震モーメントの値を求める。地震モーメントは 岩盤のかたさ(剛性率)×断層面の総面積×断層面のずれた量の平均 で求められる。次に地震のエネルギー(地震モーメントの値)を1000の平方根を底とした対数で表す。1000の平方根√1000は31.6である。したがってマグニチュードが 1 増えると地震のエネルギーは約31.6倍になり、マグニチュードが 2 増えると地震のエネルギーは1000倍になる。

④ 日本付近で発生する地震のタイプにはいくつかあるが、まず最も被害が懸念される地震のタイプとしてプレート間地震地震がある。これは海洋プレートに引き込まれたプレートがずれ戻ることにより起こる地震で、しばしば巨大地震となる。プレートで起こる地震には境界ではなく、プレートの中で発生するものもある。これは海洋プレート内地震と呼ばれ、沈み込みつつある海洋プレートの内部で岩盤が崩壊して発生する。さらに、それよりも深く沈んだ海洋プレート(スラブ)の内部で発生する地震もある。内陸の活断層で発生する地震は、大陸プレート内の比較的浅い場所で断層を生じることで起こる。東日本では逆断層、中部日本以西では横ずれ断層、別府-島原地溝帯では正断層が多い。直下型地震の原因となる。

⑤ 地震の被害は複合的に生じる。地震による地滑りが河川をせき止め(河道閉塞)このようにしてできた自然のダムが崩壊し、下流域に洪水となって押し寄せたという記録がある(善光寺地震)。教科書に紹介されているのは、長崎県島原半島にある雲仙普賢岳と、その手前にある眉山の写真である。この眉山は1792年のマグニチュード6.4の地震により山体崩壊を起こした。この時発生した岩屑なだれは島原の城下町を埋めながら、有明海に流れ込み、大津波を発生させた。津波は対岸の熊本や天草にまで到達し、これによる犠牲者は1万5000人に達したと伝えられる。日本史上、最大規模の災害であったとされている。この震災は島原大変肥後迷惑(しまばらたいへんひごめいわく)と言って現代まで語り継がれている。

キーワード ① マグニチュード ② 震度 ③ 活断層 ④ 逆断層 ⑤ 山体崩壊
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】図10-1地震の分布についてはプレートの分布および海嶺、海溝の分布とセットで理解すること。図10-3に関連し、国内で起きた過去の地震災害について、その原因が海溝型であるのか、内陸型であるのか、プレートのどの部分で生じた地震であるのかを説明できるようにすること。地震の規模を表す、マグニチュードとはどのように求められるのか説明できること。いくつもの海溝型地震が連動して生じる巨大地震の発生の可能性や内陸部で起こる局地的な地震災害について正しく理解すること。【予習】教科書第11章を読み、分からない箇所ならびに興味のある内容について事前に把握すること。図11-1はスカンジナビア半島の隆起の様子を示したものであるが、なぜ隆起しているのかを知っていると理解が早い。
11 地殻変動 科目の中での位置付け 本講義では、私たちを取り巻く自然的要素とその相互作用の現れ、つまりは気候、地形、植生、土壌、水環境、自然災害などについて、気候学、地形学を主軸とする自然地理学という枠組みにおいて学ぶ。本講義では(1)天体としての地球の特徴を概説した上で、(2)地球の動き、及びそれにより生じる地域差と紐づけた地球全体と日本の気候の特徴、(3)各地域においてみられる植生・土壌の特徴や気候との関連性、(4)地球内部の動きと紐づけた地形の特徴とその成因、発達史などについて解説する。ただし、講義の順番においては、気候学分野、地形学分野というような系統的な分け方がされているが、これらの項目は互いに密接に関係しているため、各章の内容を独立して修得することは難しいと理解されたい(例えば、河岸段丘という地形の発達には気候変動が関係している)。本コマ(第11回講義)では、盆地や平野などの地形営力としての地殻変動作用について概説する。

コマ用オリジナル配布資料
① 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第11章 p69
② 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第11章 p70-73
③ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第11章 p74-75
コマ主題細目 ① アイソスタシー ② 日本列島の地殻変動 ③ 盆地の成因
細目レベル ① アイソスタシーとは、比較的軽い地殻が、重く流動性のある上部マントルに浮かんでおり、地殻の荷重と地殻に働く浮力がつり合っているとする説、または、そのつり合い。 地殻均衡(説)ともいう。地殻において、アイソスタシーが成立しているというのは、地殻の荷重と地殻への浮力がつりあっている状態を指し、この場合、山は高くも低くもならない。逆に、アイソスタシーが成立していないとは、地殻の荷重と地殻への浮力がつりあっていないことを指し、この場合、山が高くなったり低くなったりする。スカンジナビア半島周辺は年間10mm程度、地殻変動としては非常に速いスピードで隆起を続けている。これは火山活動によるものでなく、氷期にこの地域を覆っていた厚い(重い)氷が融け、アイソスタシーが成立しなくなったためであると考えられている。

② 日本列島は新第三紀から第四紀にかけて、最近の500万年程度の地殻変動により形成されたと考えられている。海洋プレートの沈み込む日本では日本アルプスを中央にして、今なお隆起が続いている状況である。地殻には様々な方向から力が加わり、それに伴い、様々な様式で隆起が起こった。これら隆起の様式には曲隆(100km単位で緩やかに盛り上がる)、褶曲(曲隆より波長が短く地殻が折り畳まれる)、逆断層地塊(逆断層が典型的に形成され地殻が持ち上げられる)、横ずれ断層地塊(横ずれ断層が典型的に形成され断層間の一部の地殻が持ち上げられる)、正断層地塊(引張場にあるため正断層が形成され地溝が生じる)などがあり、日本列島のいたるところに特徴的な地形景観を生み出すことになった。

③ 一方で、盆地の成因は隆起現象だけでは説明できない。盆地は周囲の大部分を山地に囲まれた土地であり、隆起している場所ではあるが、地盤が周辺に対し相対的に沈降した結果形成される平地である。盆地は平らな土地であるが、低い土地が埋まらなければ平らな土地はできない。したがって、土地が(相対的に)低くなるということ、その土地が埋まるということが同時に進行しなければ盆地は形成されない。大部分の盆地は(相対的に)周りの土地よりも地盤が沈下することでできる。同様なことが平野についても言える。平野が形成されるには土地が低くなることと、そこへ川が流れ込むことが同時に進行しなければならない。濃尾平野には新第三紀からの地層が積み重なっており、つまり100万年という長さでこのプロセスが続いていると考えられる。

キーワード ① アイソスタシー ② 隆起 ③ 褶曲 ④ 盆地 ⑤ 濃尾平野
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】アイソスタシーなどの専門用語が指し示す意味を正しく理解すること。図11-3~11-4、日本各地に多数ある盆地がどのようにして形成されているのか説明できること。図11-5、11-6は地形の成因について地形発達史の観点から示したものであり、やや専門的なものであるが、関東平野や濃尾平野の地下に、過去数百万年もの間にもわたる体積物が積み重なっているという事実から、どのようなことが言えるのか考え出せるとよい。【予習】教科書第12章を読み、分からない箇所ならびに興味のある内容について事前に把握すること。図12-1、12-2は谷系の発達について示したものであるが、どのような順番で発達が進み、どこまで発達して終わるのかといったイメージが持てるとよい。
12 風化浸食と地形 科目の中での位置付け 本講義では、私たちを取り巻く自然的要素とその相互作用の現れ、つまりは気候、地形、植生、土壌、水環境、自然災害などについて、気候学、地形学を主軸とする自然地理学という枠組みにおいて学ぶ。本講義では(1)天体としての地球の特徴を概説した上で、(2)地球の動き、及びそれにより生じる地域差と紐づけた地球全体と日本の気候の特徴、(3)各地域においてみられる植生・土壌の特徴や気候との関連性、(4)地球内部の動きと紐づけた地形の特徴とその成因、発達史などについて解説する。ただし、講義の順番においては、気候学分野、地形学分野というような系統的な分け方がされているが、これらの項目は互いに密接に関係しているため、各章の内容を独立して修得することは難しいと理解されたい(例えば、河岸段丘という地形の発達には気候変動が関係している)。本コマ(第12回講義)では、風化作用と侵食作用について、日本の山々で起こっている事例を中心に概説する。

コマ用オリジナル配布資料
① 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第12章 p76-77
② 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第12章 p78
③ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第12章 p79-82
④ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第12章 p81-82
コマ主題細目 ① 起伏の形成 ② 風化の役割 ③ 侵食と地形 ④ 3000mの限界
細目レベル ① 山の起伏の程度は場所により異なる。人間環境大学周辺は山地であるが、起伏はそれほど激しくない(傾斜がそれほど急ではない)。山の起伏の程度をは、尾根と谷の高度差や斜面の傾斜の程度で表現できよう。尾根と谷の高度差が大きくなるためには、降水量が多いことと、隆起速度が速いことが求められる。日本の山岳地帯はいずれもこの条件を満たしている。また、降水量が多く、隆起速度が速いと谷の数も増える(谷密度が大きくなる)。山の起伏は隆起の量の違いによっても生じるが、10万年以上をかけて(広域的に土地全体が)持ち上げられてきたことを考えると、侵食により形成されるウエイトが大きい。水は低いところに集まるため、わずかな低所があればそこに水が集まり、谷が刻まれる。隆起しはじめた最初の段階で形成された谷が、その後どんどん発達してゆくことになる。

② 風化とは、岩石が、元の岩石から離され細かくなってゆくプロセスのことである。風化はその要因によって、物理風化と化学風化、生物風化に分けられる。物理風化の要因には、温度の変化(温度変化が岩石そののものを膨張、収縮させ岩石を崩す)、水の凍結・融解(岩石の隙間に入り込んだ水が、凍結と融解を繰り返し岩石を壊す)などがある。また風による風化(風食)も物理風化の要因である。化学風化の代表的なものには酸性雨などによる風化がある。酸性雨は石灰岩を溶かす(溶食)。そのようにしてできたのがカルスト地形である。大気汚染がなくとも空気中の二酸化炭素の影響で、雨は酸性である。生物風化には、植物の根が岩の隙間に入り込み成長したり、植物から出る酸などが岩石鉱物を溶かすといったことがある。様々な風化が最初に生じることが、その後の侵食を引き起こす上で必要不可欠である。

③ 川の上流では侵食が、下流では堆積が起こることにより、地形は次第に均されてゆく。やがて、河川は上州から下流、河口までなめらかな高度変化をするように順応する(侵食も堆積も起こっていないような状態)。このような河川は地殻変動の激しい日本では見られない。実際に、日本における侵食の様子を観察してみると、谷壁斜面の傾斜が谷(川:水が流れているところ)の傾斜よりも急であることに気が付く。つまり水によって削られているのは水が流れている谷底だけで、谷壁斜面は重力移動により形成され安息角をなしている。このようにして形成されているのがV字谷である。日本は河川による侵食速度が世界的に見て最も速い地域である。侵食の速度はダムに溜まった土砂の量を、ダムの集水域で除すなどして推定されている。

④ 日本においても隆起による山地形成がみられ、中部地方に位置する日本アルプスがそれにあたる。日本アルプスは速いところで2~4mm/年のペースで隆起しているとされ、単純計算では100万年で2000~4000mも隆起することになるが、実際には日本に標高4000mを越える山は存在しない(日本最高峰の富士山・剣ヶ峰で3776.63m)。理由として、日本の降水量の多さが挙げられる。山地の斜面の岩石は地中の母岩と同様に、物理的風化・化学的風化の影響を受けて粉砕されていく。更に、水や空気といった流体が地表面の岩石や土壌を削り取り(侵食)運び去る(運搬)作用の影響を受け、急峻な斜面や谷といった山らしい地形が形成される。日本においては降水量が多いため流水による侵食が活発であり、山地の隆起速度と侵食速度がつりあった状態となるため、高山が形成されにくい状況が生じている。

キーワード ① 侵食 ② 物理風化・化学風化 ③ 堆積 ④ V字谷 ⑤ 動的平衡
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コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】風化の種類(物理風化、化学風化、生物風化)については、事例も含めて理解しておくこと。図12-8は地形発達史に基づくやや難解な図であるが、火山活動や隆起運動がどれくらいの時間スケールで起こっているのかということを念頭に入れて(ある場所の火山活動や隆起活動が永遠に続くわけではないことを考慮して)読み解くと理解しやすい。日本における標準的な隆起速度や侵食速度を覚えているとよい。【予習】教科書第13章を読み、分からない箇所ならびに興味のある内容について事前に把握すること。図13-1~13-3、三角州、扇状地、氾濫原などの地形は中学校等でも学習する地形であり、その成因について説明ができること。侵食地形であるのか堆積地形であるのかを区別して覚えるとよい。
13 運搬・堆積と地形 科目の中での位置付け 本講義では、私たちを取り巻く自然的要素とその相互作用の現れ、つまりは気候、地形、植生、土壌、水環境、自然災害などについて、気候学、地形学を主軸とする自然地理学という枠組みにおいて学ぶ。本講義では(1)天体としての地球の特徴を概説した上で、(2)地球の動き、及びそれにより生じる地域差と紐づけた地球全体と日本の気候の特徴、(3)各地域においてみられる植生・土壌の特徴や気候との関連性、(4)地球内部の動きと紐づけた地形の特徴とその成因、発達史などについて解説する。ただし、講義の順番においては、気候学分野、地形学分野というような系統的な分け方がされているが、これらの項目は互いに密接に関係しているため、各章の内容を独立して修得することは難しいと理解されたい(例えば、河岸段丘という地形の発達には気候変動が関係している)。本コマ(第13回講義)では、運搬・堆積作用と地形の形成について、日本でよくみられる例を中心に概説する。

コマ用オリジナル配布資料
① 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第13章 p83
② 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第13章 p84
③ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第13章 p85-86
④ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第13章 p87-88
コマ主題細目 ① 侵食平野と堆積平野 ② 上流~中流域の境界の堆積平野 ③ 中流域の堆積平野 ④ 下流域の堆積平野
細目レベル ① 平野は地表の凹凸が少ない比較的平坦な地形であると説明される。日本の国土のうち平野は24%を占め(台地9%、低地15%)、人口の8割以上と生産手段がここに集中している。平野はその成因により、主に侵食作用により形成されるもの(侵食平野)と主に堆積作用により形成されるもの(堆積平野)に大別される。このうち、北アメリカ中央平原(グレートプレーンズ)や西シベリア平原といった、世界的の主要な平野の多くは侵食平野である。侵食平野の形成には、侵食作用により地形が形成されるまでの非常に長い間地殻が安定していることが必要であり、したがって地殻変動が大きいプレートの収束境界には発達しない。こうした理由により、日本でみられる平野は原則として堆積平野であるといえる。

② 日本の地形(平野)形成においては、河川による堆積作用が大きく寄与している。河川が山地の出口(谷口)にさしかかるにつれ、傾斜は急激にゆるやかになり、更に流路が水平方向に広がるため、結果として流速が低下する。流速の低下に伴い堆積作用が卓越するが、中流域ではまだ流速は比較的速いため、小石(礫)や大粒の砂を放出するにとどめられる。こうして谷口に形成される、主に砂礫が堆積した平野のことを扇状地と呼ぶ。扇状地は主に砂礫から構成されることから極めて水はけ(透水性)が良い。この透水性の良好さに起因して、扇状地の上流部で水流が地下に潜るため見かけ上消失し、扇状地の下流部で再び地表に現れる、伏流と呼ばれる現象がしばしばみられる。扇状地の中央部では、普段伏流となっている河川が洪水時に地表面に現れる恐れがあり、都市や大規模な集落は発達しない傾向にある。しかし大規模な扇状地を形成する河川の場合、平時も伏流とならないことが多く、こうした扇状地には都市が発達するケースがみられる。例として、北海道の豊平川の扇状地上に発達した札幌市が挙げられる。

③ 扇状地から更に下流に進むと、氾濫原と呼ばれる地形がみられる。ここでは傾斜が扇状地よりも更に緩やかとなり、堆積作用の更なる卓越に伴う河川の蛇行が観察される。大雨などの要因により河川が増水し洪水状態となると、氾濫原は川底に沈む。このとき、普段の流路よりも川幅が広がることから、流速が減少し堆積作用が更に卓越した状態となる。洪水状態が解消されて水が引くにつれ、氾濫原のうち河川の流路付近には比較的大きい砂が、流路から離れた場所には細かい砂や粘土が放出される。このように、氾濫原の流路沿いには砂が堤防状に積み上がることから自然堤防と呼ばれる。一方で、細かい砂や粘土が堆積した場所では透水性が悪化するため湿地様の環境を示す。こうした湿地のことを特に後背低地(後背湿地)と呼ぶ。更に、洪水前の流路の蛇行が激しかった場合、洪水後の新たな流路は元の流路よりも直線に近い形状となり、元の流路の一部が三日月状の水たまりとして取り残されることがある。こうして取り残された水域のことを、河跡湖(三日月湖)と呼ぶ。

④ 氾濫原より更に下流に進んで河口付近に近づくと、河川の傾斜はほとんどなくなるため、細かい砂や粘土も放出・堆積される。こうして河口付近に形成される堆積平野を三角州(デルタ)と呼ぶ。三角州はその立地上、海を埋め立てていくようにして発達することから、日本としては比較的大規模な平地を確保できる。このため、三角州上には都市が発達する傾向がみられる。例として、淀川とその支流の三角州上に発達した大阪市、木曽三川の三角州上に発達した名古屋市が挙げられる。このように日本の平野は多くが河川の堆積作用によるものであり、必然的に河川の近隣に位置する。したがって、日本においては河川の氾濫を抑える施業(治水)が極めて重要である。

キーワード ① 平野 ② 扇状地 ③ 氾濫原 ④ 蛇行原(自然堤防) ⑤ 三角州(デルタ)
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】自然堤防や扇状地といった地形がどのようにして形成されるのか説明できるようにすること。扇状地と沖積平野ではできた年代に違いがあることを理解すること。沖積平野と洪積平野にはどのような違いがあるのか説明できるようにすること。【予習】教科書第14章を読み、分からない箇所ならびに興味のある内容について事前に把握すること。第14章は過去の気候変動と地形の形成に関する章であり、第四紀における気候変動(氷期、間氷期の繰り返し)を理解していなければならない。図14-2、およそ2万年前の日本付近の海陸分布に関して、日本海に状況、瀬戸内海の状況について概要を説明できること。第5章で触れた、日本海側で冬季に大雪となる原因について説明ができること。
14 環境変動と地形発達 科目の中での位置付け 本講義では、私たちを取り巻く自然的要素とその相互作用の現れ、つまりは気候、地形、植生、土壌、水環境、自然災害などについて、気候学、地形学を主軸とする自然地理学という枠組みにおいて学ぶ。本講義では(1)天体としての地球の特徴を概説した上で、(2)地球の動き、及びそれにより生じる地域差と紐づけた地球全体と日本の気候の特徴、(3)各地域においてみられる植生・土壌の特徴や気候との関連性、(4)地球内部の動きと紐づけた地形の特徴とその成因、発達史などについて解説する。ただし、講義の順番においては、気候学分野、地形学分野というような系統的な分け方がされているが、これらの項目は互いに密接に関係しているため、各章の内容を独立して修得することは難しいと理解されたい(例えば、河岸段丘という地形の発達には気候変動が関係している)。本コマ(第14回講義)では、気候変動が地形発達に影響をおよぼすメカニズムについて、日本中、いたるところでよく見られる段丘と呼ばれる地形を例に概説する。

コマ用オリジナル配布資料
① 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第14章 p89-91
② 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第14章 p92-93
③ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第14章 p94-96
コマ主題細目 ① 気候の変動と環境の変化 ② 河床の変動 ③ 段丘の成因
細目レベル ① 気候変動は地形の発達にも大きな影響を及ぼす。地球はおよそ10万年の周期で氷期と間氷期を繰り返している。過去の気候の変動では氷床の消長により、海面高度が100m以上変動したことがわかっている。最終氷期の極相期、海面は現在より百数十m低く、日本は大陸と陸続きであったと考えられている。寒冷であったにもかかわらず、氷河地形が発達しなかったのは、日本海からの蒸発量が減り降雪が少なかったからだと考えられている。一方で、北海道や標高の高い地域には周氷河地形が発達したと考えられている。周氷河地形とは地中の水分が周期的に凍結と融解を繰り返すことによって生じる地形で、岩石の破砕や土壌物質の移動などにより、なだらかな起伏を形成した土地である。

② 気候変動は河川の侵食・堆積作用のバランスも変える。普段の状態で、河川は上流で侵食作用が強く、下流で堆積作用が強い。長期的には侵食も堆積も起こらない、平衡な状態へ落ち着いていく。しかし、気候変動が生じると、この平衡状態に変化が生じる。一般に上流部では、寒冷化すると周氷河作用と降水量の減少で岩屑が堆積しやすくなると言われている(河床が上がる)。この時、下流は侵食基準面が低下したので削られやすくなる(河床が下がる)。温暖化すると今度は降水量の増加により上流では侵食作用が増し(河床が下がる)下流では海水準が上がり、河川の土砂が堆積する(河床が上がる)。このような気候変動に伴う侵食・堆積作用の変化が階段状の地形を形成する要因となる。

③ 関東地方には多摩丘陵、下末吉台地、武蔵野台地、立川段丘と呼ばれる段丘がある。この順に標高が高い。多摩丘陵は最も古くからある丘陵である。下末吉面は13万年前に起こった海進で海底だった時代に堆積してできた。その後の最終氷期(7万年前に開始)の海退時に、海面が下がってこの地層が陸地化した。陸地化によって川に削られ、削り残ったところが下末吉面となる。武蔵野面は7万年前の海退で、海面が下がって陸地になった。下末吉面より新しく出現した。立川面は最終氷期極相期の多摩川の河床としてできた面で、その後、上流では陸化し立川面として残り、下流では現在の多摩川によって作られる沖積面の下に埋まっている。多摩丘陵にはすべての時代の火山灰が積み重なっている。下末吉面には下末吉ローム層と武蔵野ローム層と、立川ローム層がのっている。武蔵野面には武蔵野ローム層と立川ローム層がのっている。立川面には立川ローム層しかのっていない。

キーワード ① 最終氷期 ② 周氷河(地形) ③ 侵食基準面 ④ 段丘 ⑤ 下末吉台地
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】周氷河作用とはどのような作用なのか正しく理解し、説明できるようにすること。図14-3、過去の周氷河限界の高度に関して、現代の森林限界、周氷河限界のラインとともに正しく理解すること。図14-5は地形の発達と気候との関係を説明するものとして極めて重要なものであるので、その意味も含めて正しく理解すること。【予習】教科書第15章を読み、分からない箇所ならびに興味のある内容について事前に把握すること。図15-4、15-5などに示されているようにハザードマップには様々な種類があるが、自分が住んでいる地域のハザードマップについて知っていると理解が早い。図15-6に示されているような環境問題や社会問題については、その概要を理解していることが望ましい。日本にある世界自然遺産については知っていることが望ましい。
15 自然に生きる 講義のおさらい 科目の中での位置付け 本講義では、私たちを取り巻く自然的要素とその相互作用の現れ、つまりは気候、地形、植生、土壌、水環境、自然災害などについて、気候学、地形学を主軸とする自然地理学という枠組みにおいて学ぶ。本講義では(1)天体としての地球の特徴を概説した上で、(2)地球の動き、及びそれにより生じる地域差と紐づけた地球全体と日本の気候の特徴、(3)各地域においてみられる植生・土壌の特徴や気候との関連性、(4)地球内部の動きと紐づけた地形の特徴とその成因、発達史などについて解説する。ただし、講義の順番においては、気候学分野、地形学分野というような系統的な分け方がされているが、これらの項目は互いに密接に関係しているため、各章の内容を独立して修得することは難しいと理解されたい(例えば、河岸段丘という地形の発達には気候変動が関係している)。本コマ(第15回講義)では、講義のまとめとして、自然の恵みに対する理解、および脅威としての認識、今後、自然地理学が果たすべき役割について概説する。
コマ用オリジナル配布資料
① 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第15章 p97
② 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第15章 p97-98
③ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第15章 p99-101
④ 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」(古今書院) 第15章 p102-107
コマ主題細目 ① 自然のめぐみ ② 自然の猛威 ③ 災害対策 ④ 人類のゆくえ ⑤ 講義のおさらい
細目レベル ① 自然は我々に様々な恵みを与えてくれる。人類が自然の価値を再認識するにしたがい、世界自然遺産やジオパークと呼ばれるものも整備されるようになった。現在日本では、知床、白神山地、屋久島、小笠原諸島が世界自然遺産(ユネスコが認定)に指定されている。また、世界自然遺産とは別にユネスコ世界ジオパーク(ジオ:Geo パーク:Park「大地の公園」の意、地球を学び、丸ごと楽しむことができる場所とされる)というものがある。2021年4月現在、世界44カ国、169地域にユネスコ世界ジオパークがあり、そのうち9地域が日本にある。日本のユネスコ世界ジオパークは、洞爺湖有珠山(北海道)、糸魚川(新潟県)、山陰海岸(鳥取、兵庫、京都)、室戸(高知県)、島原半島(長崎県)、隠岐(島根県)、阿蘇(熊本県)、アポイ岳(北海道)、伊豆半島(静岡県)の9地域である。さらに現在日本には、日本ジオパーク委員会が認定した「日本ジオパーク」が46地域ある。

② 一方で、自然はときに猛威をふるう。それは時に忌むべき自然災害となる。数多くの災害は複合的に発生するが、災害の影響は、さらに人間の活動において連鎖する。自然現象の規模と頻度とには、規模が大きいほど頻度が低いという関係があることが多い。つまり大きな災害となるような大規模な現象はまれにしか起こらない。しかし起こらないわけではないので折悪しくしてその現象に直面してしまうと大きな災害となる。こうした自然の猛威は現在社会にとって計り知れない脅威として立ちはだかっている。自然災害の中には、約6500万年前に恐竜の絶滅を引き起こした巨大隕石の衝突など、滅多にないが、起こってしまえば「諦めるしかない」ようなものもある。それに対して「逃げられる」猛威や「防げる」猛威についてはずっと数が多いと考えることができる。

③ 人類は自然災害に対して様々な対策を講じてきたが、これは大きくハード面での対策とソフト面での対策に分けられる。ハード面での対策とは、例えば洪水などの災害で言えば、堤防などを構築することである。ハード面での対策では、事前に想定された最大規模未満の事象には十分な効力が発揮されるが、それ以上のものが起こると大災害となる。堤防が決壊するたびに想定を見直す必要に迫られ、さながら自然と人間のイタチごっこの様相を呈しているというのが、歴史の語る客観的事実といったところである。それに対し現代において重要となってきたのがソフト面での対策である。ソフト面での対策で代表的なものにハザードマップの作成がある。現代ではどこの自治体にでも整備されているハザードマップであるが、このハザードマップの有効性が認識されるまでにも大きな犠牲が払われてきた。

④ 最後にこれからの地球の将来がどのようになっていくのか少し考えてみる。我々は古より受け継がれてきたこの生活の場を、どのように未来に受け渡していくのか、また、変動の只中にある自然環境を背景に、人類はどのように存続させられていくべきなのか、答えの出そうにない問題ではあるが、考えるのをやめてしまってはいけない問題である。当面、矛先が向けられるのは、いわゆる地球環境問題と呼ばれる諸問題であると考えられる。我々日本人は150年前の江戸時代には完全な循環型社会を構築していた。つまり、今言われる持続可能な社会というものを江戸時代の生活に見ることができるわけだが、このような生活をもはや「すばらしい」と言いのけてしまえない困難さに地球環境問題の大問題たる本質を知るのである。

⑤ 講義全体を通しての総括を行う。高校等で、地理学や地学を学んでこなかった者にとっては、新しく覚えなければならない用語や地名も多いと思うが、(不思議なことに?)地理学はいわゆる暗記科目ではない。したがって、教科書に小さく書いてあるような小さな都市の地名を問うことはない。しかし、場合によってはこの都市の名前を知っていることが重要な意味を持っていることもあろう。初学者が、重要な事柄とそうではない事柄を区別するためには、やはり、授業を聞き、教科書を読み、文脈に沿って理解し、小テストの問題を解いて復習をするといった学習のプロセスを踏むことが重要であろう。とりわけ、小テストの問題を復習することは、自分の理解度を客観的に把握する上でもとても重要なことであると思う。

キーワード ① 世界自然遺産 ② ジオパーク ③ ハザードマップ ④ 循環型社会 ⑤ 地球環境問題
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 【復習】世界自然遺産や、ジオパークなど自分と関係の深い地域にあるものは覚えておくとよい。過去の自然災害について、関東大震災、東日本大震災など主要なものは覚えること。それぞれの震災でどのような被害が生じたか理解すること。大気汚染や地球温暖化といった環境問題が、南北問題、人口問題、日本で言えば少子高齢化社会などといった社会問題にどのように波及し、影響をもたらすのか考えられるとよい。授業全体を通して、該当する教科書の内容やコマ用オリジナル配付資料を読み返し、授業中、理解できていなかった内容について確認しておく。特に、小テストの内容については、使用されている語句などについても、わからないものについては記憶し、理解につとめること。
履修判定指標
履修指標履修指標の水準キーワード配点関連回
惑星としての地球と地域構成
自然地理学を理解する前提としての地球システムについて理解していること。地球の大きさや形、重さや内部構造、地軸の傾きや、月や太陽との関係など、自然環境に影響を及ぼす主要な要因について理解していること。地球内部の構造が地震波の観測によって調べられていることなどを理解していること。地球の内部構造がいくつかの層に分かれることや、対流していること、その熱源などについて理解していること。太陽系と地球の現在までの進化の過程について、概要を理解していること。 緯度、経度、公転、自転、地軸、ジオイド、地殻、マントル
15 1-2
大気と海洋
大気の組成、鉛直構造、熱収支および大気の大循環といった、地球の気候システムを形作る主要な要因について理解していること。特に地域によって熱収支が異なることや、地球の自転の影響がどのような風系を形成し、気温や降水量の地域差を生むことになっているのかを説明できること。海洋の循環システムについて理解していること。特に、風成循環、熱塩循環の発生するメカニズムと、これら循環が気候をはじめとする地球の環境に及ぼす影響について説明できること。 熱収支、大気大循環、熱塩循環、暖流、寒流、赤道収束帯、コリオリの力 15 3-4
気候および土壌・植生の分布 気候を構成する要素にはどのようなものがあり、これらにはどのような因子(地形など)が影響しているか理解していること。世界や日本における、気温や降水量などの代表的な気候要素の分布の概要について理解していること。現在の世界や日本の植生やバイオームの分布が、どのような気候条件の下で成立しているか理解していること。とりわけ、日本における植生分布の違いを規定している要因について正しく理解していること。気候が土壌の分布をどのように規定しているか理解していること。 気候要素、モンスーン、ケッペン、アリソフ、成帯土壌、間帯土壌、バイオーム 15 5-6
過去の気候変動 過去数10万年程度の間に起こった気候の変動について、その変動の原因を理解していること。過去の気候変動についてどのような方法でその復元、分析がなされているか理解していること。最終氷期において世界および日本列島がどのような状態であったか(海陸分布や氷床の分布などについて)理解していること。歴史時代においてどのような気候変動が起きたか理解していること。歴史時代における気候変動が人々の生活にどのような影響をおよぼしたか理解していること。 新生代第四紀、氷期、間氷期、ミランコビッチサイクル、氷床、海進 10 7
大陸の移動と火山活動 大地形を形成する主要な要因としてのプレートテクトニクスやプルームテクトニクスなどをはじめとした理論について、その概要と成立の過程を理解していること。さらに火山活動や地震の発生メカニズムをプレートテクトニクス理論に結び付けて説明できること。地形造営運動としての火山や地震の働きについて理解していること(地震活動や火山活動がどのように地形を形作っていくのかその過程を理解していること)。過去の地震や火山災害の事例と今後発生する可能性について理解していること。 プレートテクトニクス、マントルプルーム、ホットスポット、スコリア、カルデラ、マグニチュード、活断層 15 8-10
地殻変動と地形造営作用 プレート運動に伴う地殻変動や、河川の作用による侵食・堆積など、地形の造営に働いている様々な作用について、そのメカニズムを理解していること。さらにそれぞれが複合的に働いて地形の造営に至る過程を説明できること。加えて過去の気候変動が地形の造営に対しどのように影響してきたのかを理解していること。例えばV字谷、盆地、堆積平野、段丘などと呼ばれる地形がどのようにして発達するのか、その形成される過程(地形発達史)を理解していること。 アイソスタシー、盆地、風化、侵食、堆積平野、扇状地、周氷河地形、段丘 15 11-13
環境変動と地形発達 気候の変動が地形の発達にどのような影響を与えるのか、その概要について理解している。過去の寒冷な時期が、現在の地形にどのような痕跡を残しているか理解している。特に周氷河作用について、どのような作用で、どのような地域にまでその作用が及んだか理解している。第四紀にはどのような気候変動があったのかを理解し、こうした気候変動がどのような地形の発達(特に河成段丘)と関係しているか説明できる。段丘がどのようにしてできるのか説明することができる。 周氷河地形、段丘、台地、沖積平野、洪積台地 10 14
自然のめぐみと猛威 世界自然遺産や、ジオパークがどのようなものか理解している。主要な世界自然遺産について場所と概要を理解している。ハザードマップについて、閲覧、入手の方法や記載内容、利用方法について理解している。ハザードマップの作成の義務や問題点について理解している。過去の大きな災害について、被害が大きくなった原因を理解している。現在、人類が抱えている社会問題や環境問題は互いに複雑にリンクしており、これらの解決のためには何を理解し、どのように取り組んでいったらよいのか意見を述べることができる。 世界自然遺産、ジオパーク、ハザードマップ、東日本大震災、南北問題、少子高齢化 5 15
評価方法 試験(100%)により評価する。 *成績発表後、教務課にて試験・レポートに関する総評が閲覧できます。
評価基準 評語
    学習目標をほぼ完全に達成している・・・・・・・・・・・・・ S (100~90点)
    学習目標を相応に達成している・・・・・・・・・・・・・・・ A (89~80点)
    学習目標を相応に達成しているが不十分な点がある・・・・・・ B (79~70点)
    学習目標の最低限は満たしている・・・・・・・・・・・・・・ C (69~60点)
    学習目標の最低限を満たしていない・・・・・・・・・・・・・ D (60点未満)
教科書 吉田英嗣「第二版 はじめての自然地理学」 古今書院 2400円+税
参考文献 貝塚爽平「東京の自然史」<増補第二版> 講談社学術文庫 1080円+税     小倉 義光「一般気象学」<第2版補訂版> 東京大学出版会 2800円+税
実験・実習・教材費 なし