区分 (心)心理学科基盤科目 心理学基礎科目 (犯)犯罪心理学基盤科目
ディプロマ・ポリシーとの関係
専門的知識と実践的能力 分析力と理解力 地域貢献性
カリキュラム・ポリシーとの関係
課題分析力 課題解決力 課題対応力
カリキュラム全体の中でのこの科目の位置づけ
(心)本科目は1年生の必修科目であり,心理学基盤科目の心理学基礎科目に配置されている。本科目を履修することで,心理学基盤科目の2年次以降の科目内容において専門的知識を深めることができ,さらに心理学専門領域科目,心理学専門隣接科目に配置される専門科目との関連においても有機的に結びついた学習が可能となる
(犯)犯罪心理学基盤科目に位置づけられ,心理学の歴史と研究方法について概観し,さまざまな分野の心理学(感覚・知覚,記憶,学習,動機づけ,コミュニケーション,社会的影響,組織,学校,文化など)の基礎知識を身につける。当科目では,学問としての心理学の全体像を理解し,2年次以降の専門的な学修に必要となる基礎知識を修得する。

科目の目的
「心理学概論」は、まさにその言葉通りに、心理学の全体のあらましを要約して説明するという目的を持つ。つまり、心理学の対象、目的、方法を明らかに、その学問がどのような領域を形成し、知識を蓄積してきたのかを要約的に示すことになる。この心理学概論を学ことで、その後に展開される心理学科の授業のあらましを知ることができる。本科目はそういう意味で、心理学の入門編に当たる。
到達目標
心理学の対象、目的、方法をまず理解し、心理学がどのような知識を蓄積したのか、その代表的な事実や理論について理解することを目標とする。(履修判定指標との関係を明確にすること)。
科目の概要
初学者が心理学を理解するために必要な知識を、歴史的展開、研究法の展開、アプローチ方法による展開、領域による展開に分けて、30回の授業でそれらを講義する。まず基本的な知識として、心理学の定義、心理学の方法論、歴史的展開から初めて、心理学の生物学的基礎を学。その後、行動の多様性を生む行動変容を説明する学習について、外界の認知能力としての感覚と知覚の心理学を学ぶ。その後、外界の理解を可能にし、適応的行動を可能にする記憶について学ぶ。私たちはさらに記憶した情報を問題解決や予想のために利用する能力を持つ。それが言語や思考、知能と呼ばれる能力である。その後はダイナミックな心の働きである感情・情動について、その後に個性の心理学、発達心理学、人間集団に関わる心理学(社会心理学)を学ぶ。以上に続くのは、心理学の応用領域である臨床心理学、異常心理学、健康心理学、環境心理学を学ぶ。
科目のキーワード
心理学史、心理学方法論、生物学的基礎、学習心理学、感覚・知覚心理学、記憶心理学、言語、思考、知能、感情・情動心理学、パーソナリティ心理学、発達心理学、社会心理学、臨床心理学、異常心理学、健康心理学、環境心理学
授業の展開方法
講義形式の授業の展開である。授業はパワポの資料を提示しながら解説するので、学生諸氏はMSTeamsにアップロードされている資料に目を通しておくこと。学生諸氏は資料を印刷するか、もしくはコンピュータかノートなどに、授業における解説の要点や重要な事項を書き込めるようにしておくこと。今回は教科書も指定するので、事業中に教科書の関連ページの図表や解説の参照を求めるので、準備しておくこと。また授業では、必要に応じてYouTubeなどにアップロードしてある貴重な視覚教材も参照するので、百聞は一見にしかずという現象も経験すること。このような視覚教材に関する概要や感想も書き留めておき、学習に役立てること。
オフィス・アワー
【火曜日】4時限目・5時限目、【木曜日】2時限目、3・4時限目(後期のみ)
科目コード PSC100
学年・期 1年・前期
科目名 心理学概論
単位数 4
授業形態 講義
必修・選択 必須
学習時間 【授業】90分×15 【予習】90分以上×15 【復習】90分以上×15
前提とする科目 なし
展開科目 (心)心理学統計法 心理学とキャリア 臨床心理学概論 他
(犯)犯罪心理学概論(司法・犯罪心理学) 心理学とキャリア 臨床心理学概論 他
関連資格 公認心理師、認定心理士
担当教員名 厳島行雄
主題コマシラバス項目内容教材・教具
1 心理学への誘い:心理学の定義と心理学の展開 科目の中での位置付け 第1回授業
心理学を最初に学ぶ者にとって、心理学とは何かを知ることは極めて重要な意味を持つ。どのような学問もそうであるが、学問にはそれなりの定義が用意されている。この理解にはもちろん、定義そのものを知ることも重要であるが、初学者が混同しやすい学問領域との違いを知ることも重要である。今回授業では、1)心理学の定義、2)心理学と、心理学の近接領域の学問との違い(例:医学、文学、哲学、生物学、・・・)2)心理学が誕生する以前の心への関心、3)心理学誕生以降の心理学の展開について学ぶ。
1)心理学の定義では、それはもちろん心理学における立場の違いを反映して、異なる定義がなされている場合もあるが、ここでは基本的に多くの学者が受け入れている定義を学ぶ。2)については、それぞれの学問領域の定義と実際について説明し、どこが心理学と異なるのかを理解する。3)に関しては、心理学固有の事情があり、いくつかの異なるアプローチがなされるようになった。そのアプローチの違いが、心理学の多様性を産むとともに、また心理学を複雑にしてきたことも確かである。しかし、人間の心理の複雑さを考えれば、これもまた当然のことと言わなくてはならない。初学者の諸君は、そういう学問の事情も理解する必要がある。


第2回授業
心理学はそれまでの心に関する哲学によるアプローチと訣別し、科学的方法を採用して学問としての独自性を打ち立ててきた。興味深いのは心理学の祖と言われているブントの経歴である。彼は、学生時代には医学部に籍を置き、卒業後は生理学者、物理学者としても有名はヘルムホルツの助手を務めた。彼はそのように、医学や生理学の基礎があった。ブントは心理学を哲学と生理学の間にある科学的学問であると考えていた。そして、心理学の目的は人間の意識的経験を科学することと考えていた。つまり、この目的を達成するために、実験法を採用したのである。ただし、ブントはこの直接経験は日常の生活においては把握できず、条件統制のもので、内観法を訓練によって会得した者によってのみ把握可能と考えた。
現在では、ブントのこのような方法論に対しては批判が多いが、当時の考え方としては新しいものであった。本講義では、まず現在の心理学の方法論について、その後心理学の基本的領域について講義する。


教科書『心理学概説』の第1章が第1、2回授業の範囲
コマ主題細目 ① 心理学の定義と心理学の展開
細目レベル ① 第1回授業
1)心理学とは:その定義
心理学は、1879年にドイツのライプチヒ大学にウイルヘルム・ブント(Wundt, W.)が心理学実験室を開いたことをその創設とすることが多い。実際はこの4年前に既に私費で大学の施設を利用した実験室を開いていた。彼は心理学をどのように考えていたのだろうか。ブントにとって心理学は意識経験を科学的に研究することであり、その目標は意識の構成要素を同定し、そのような要素が意識を生み出すためにどのように結合するのかを明らかにすることであった(構成主義と呼ばれる)。これに対して、アメリカのハーバード大学に心理学研究室を構えたウイリアム・ジェームズ(James, W.)は、心理学は、世界における行動の機能を明らかにすることであり、精神活動が生活体をしてどのように環境に適応させているのかを明らかにすることであった(機能主義)。ブントの心理学観は要素主義的であるのに対して、ジェームズのそれは心全体の操作に関心があったといえよう。ジェームズの機能主義の背景には進化論の影響がある。では、彼らはどのように心理学を定義し、現在はどのような定義が採用されているのか、みてみよう。

2)心理学以前:心理学以前の心への関心
心理学はドイツやアメリカで突然誕生したわけではない。心理学が科学として誕生する以前には、心に関する哲学における興味や、骨相学、精神医学などにおける活動が存在していて、これらが心理学の形成に大きな役割を演じたことが知られている。ただ、ブントにとって、踏襲すべきアイデアは哲学ではなく、ウェーバー(Weber, E.)のような生理学者によって提供された知見であった。実際、ブントはウェーバーこそが(実験)心理学の開祖と呼ばれるに相応しいと考えていた。それは、感覚の授業で学習するが、ウェーバーが感覚の変化に関するウェーバーの法則を発見したことでも知られている。また、ドイツにはフェヒナーFechner, G.T.)という、物理学者で哲学者、そして詩人でもあった人物が、精神物理学(物的な世界と精神世界の関係を明らかにする新しい学問)を構想し、心理学の創設に強い影響を与えていた。19世紀のドイツにおける学問的展開は、心理学のみならず、様々な学問領域で独自の発展を遂げていったのである。

3)心理学の展開 発展の道筋
ドイツでブントが心理学研究室を開き、構成主義的なアプローチで多くの研究を重ねてきていたが、アメリカではジェームズがプラグマティズムと機能主義的なアプローチでの心理学を始めていた。その後、ドイツではゲシタルト心理学が登場し、第二次世界大戦前までのドイツの心理学を代表していた。ゲシタルト心理学は刺激と反応の結びつきを研究対象とするワトソンの行動主義のアプローチとは異なり、刺激の生活体にとっての意味が重要であること、そして刺激の持つ全体性は部分の総和以上の意味を持ち、それが人間行動の基礎になっていると主張した。ただ、このゲシタルト学派には錚々たる心理学者が誕生した。
一方、アメリカでは、プラグマティズムの影響もあり、1900年初頭には、ワトソン(Watson, J.B) が、心理学も自然科学の一分野であるべきで、そのためには、意識というような観察不可能な対象を捨てて、観察可能な行動を研究対象にすべきであると主張した。

② 第2回授業
1)心理学の研究法:科学的方法による展開
科学とは何かということを手短に紹介することは難しい。そこには人類が知識を得るために払った多大な努力が関わるからである。しかし、あえて要約的に表現するなら、それはいくつかの特徴を備えた知識の獲得方法と言えるだろう。その特徴とは何か。
かの哲学者、バートランド・ラッセルは科学的推理について、5つの公準を示している。
擬似永続性の公準
分離可能な因果列の公準
時空間的連続の公準
構造的公準
類推の公準
ただ、一般的には次のような特徴を備えたものとされている。
再現可能性・・・現象が再現可能であること
普遍性・・・・・どこでも同条件の元で同じ現象が得られること
因果性・・・・現象を生起させる原因とその結果との関係性が明らかであること

つまり、何か起こっている現象には必ず原因があると考えることが重要で、その原因と結果としての現象の関係を明らかにすることが科学であるともいえよう。そこには実証的な態度が関与している。つまり、何らかの原因と考えらえるものと、その原因から派生する結果に関する命題に対して、その関係を示す事実を実証して明らかにする必要がある。

2)各種の研究法:実験法・調査法・質問紙法・面接法
心理学における科学的思考を実装する方法論が、実験法・調査法・質問紙法・面接法
である。実験法は行動に影響する要因を決定するために採用される方法で、観察法の一種である。特定の刺激が特定の反応を誘発すれば、そしてそれが再現可能で、普遍的に現れるならば、そこには因果関係が仮定できる。心理学の目的が、心の働きの解明、行動の規則性の解明、行動の制御、その応用にあるとすれば、この方法は最も心理学に適した方法であり、最も強力な方法と言えよう。
調査法は人間の様々な現象を調べるために、各人の意見や態度を質問する方法である。多くの場合、この方法は因果関係ではなく、意見や態度の相関関係を知る方法である。しかし、その実施が比較的容易であるために、多くの研究者によって利用されている。
質問紙法は、人の行動や概念に関する複数の質問によって構成され、参加者はそれらの質問に回答することが要求される。
面接法は、特定の個人や集団に対して、対面によって言語的な交換を行い、必要な情報を収集したり、診断・治療する方法である。

3)心理学の領域
心理学の領域として代表的なものを挙げれば、以下のような領域を上げることができよう。心理学の領域は研究法で分類する方法、研究対象で分類する方法、研究目的で分類する方法などがある。その中で、よく使用される分類法は、研究領域による分類である。ただし、研究領域による分類でも、どのレベルによる分類なのかということと大きく関係して、その数も増減することになる。以下に示したのは、極めて代表的な領域の分類で、今回の心理学概論でも採用する領域群である。
学習心理学、感覚・知覚心理学、記憶心理学、言語、思考、知能、感情・情動心理学、パーソナリティ心理学、発達心理学、社会心理学、臨床心理学、異常心理学、健康心理学、環境心理学などがある。


キーワード ① ブント ② 心理学学派 ③ 科学としての心理学 ④ 心理学研究法
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 予第1回授業
予習
教科書1ページから8ページまでを読んでおくこと。そなかで展開されている、心理学の定義や心理学形成に至る歴史的展開について読んでおくこと。また、心理学が科学として誕生する経緯について考えておくこと。
復習
心理学が行動科学として発展してきたが、心の科学がどのようにして可能になったのか、まとめておくこと。また、それぞれの心理学の歴史的展開で重要な働きをした心理学者の考えについて、整理してまとめておくこと。

第2回授業
予習
教科書8ページから15ページまでを読んでおくこと。ここでは心理学が研究のために使用する方法論について紹介されている。学生諸君はこれらの方法が、既存の物理学や化学とどの点が類似していて、どこが異なるのか、考えておくと理解が促進されると思われる。
復習
心理学が科学と言われるのは、心理学が採用する研究方法にある。科学が普遍的知識を目指す方法論を工夫して獲得してきたことを理解する。また心理学が使用している方法論(実験、調査、質問紙法、観察法、面接法)のそれぞれの特徴(調書短所も含めて)を理解しておくこと。

2 行動の生物学的基礎 科目の中での位置付け 第3回授業
長い進化の過程で人類が誕生した。そのような過程で生命を持つ生活体が生まれ、動物が誕生し、環境に適応して進化してきた。現在、最も複雑な身体を持つ人類だけでなく、いわゆる動物は環境の中で生きいくために、様々な機能を持つようになった。つまり、外的環境に適応するために、自らの体に様々な機能を持つようになったのである。生命を維持するために、生活体は外界から栄養を得なくてはならない。そのような外界を正確に知ることがまずは必要であった。いわゆる外界を知るための感覚器官である。感覚器官で得た情報は、どこかで集約的に処理し、その情報を利用できるようにしなくてはならない。また、外界からは得た栄養をエネルギーに変換する器官も持つ必要があった。そして、外界を移動できる能力も持つ必要があった。
そのような進化の過程で、動物は感覚器官、呼吸器官、筋肉、消化器官、神経系を持つようになり、より適応的な能力を身につけてきた。このことは現在においても、当然、人類の適応方略に重要な意味を持っている。今回授業では、この生活体と環境の話をまず展開し、ついで、外界の情報の伝達に関して講義する。

第4回授業
前回授業では神経の構造について講義した。今回の授業では、中枢神経系と末梢神経の機能と構造について学ぶ。感覚器官を通して(求心性神経を通り)入力された情報は、その情報に適切反応するために、何らかの情報の処理をする必要があった。そして、その処理された結果を、適切に外界に適応するために、効果器である筋肉などに伝達する必要があった。この入力されて集まった情報を適切に処理する器官が脳である。もちろん、脳は複雑な構造と機能を与えられるように進化してきた。その進化のプロセスは、脊椎を持つようになった初期には小さな塊のようなものであり、それが次第に複雑化して現在の脳の形式に至ったと考えられている。この脳の機能と構造を理解するのが今回の授業の目的である。
まず、中枢神経系について。この神経系は神経系のうちで形態的にも機能的にも中心となる部分で、脊椎動物では脳と脊髄から構成されている。これらの神経系には多数の神経細胞が集まっていて、大きなまとまりを形成している領域である。また全身に分散している神経系は末梢神経系と呼ばれる。

教科書第2章が対象範囲
コマ主題細目 ① 生活体と環境 神経系の基礎 ② 中枢神経系 末梢神経系
細目レベル ① 第3回授業
1)生活体と環境
どのような生命体であれ、地球上に住まう生物は、その環境に適応して現在まで命を繋いできたはずである。地球環境が現在のような生物が発生するような状態になるまでには相応の年数が必要であった。ただ、一旦そのような条件が揃いだすと、微小の有機物が発生し、生命の基礎が確立されるようになった。現在の地球においてはその生物の種類の多様性が指摘されているが、ここは生物学の授業ではなく心理学の話なので、人間に限った話に限定しよう。
現在の人類は、二足歩行で移動し、言語を持ち、相応の知的能力と言われるものを持つようになった。直立歩行によって前足である手が微細な運動を可能にして、外界の環境に存在する様々なオブジェクトを細工・加工できるようになった。さらに火をコントロールできるようになり、栄養価の高い食事も可能になった。また、集団で作業する方略にも長け、他の動物には見られない複雑な社会を形成していった。
人類にとって、それらは外的環境であり、それを処理した結果としての心理的環境も持つようになった。心理的環境とはその個体によって認知された環境であり、外部環境とは同一ではない。また、人間人身も環境を持っている。つまり、身体に関する環境である。生活体である人類は、そのような3種の環境を持ち、生存を図るようになった。
では、それぞれの環境はどのようなものか。
外部環境はまさに物理的世界であり、我々を取り囲んでいる環境である。そこは物理的エネルギーや化学的エネルギーに満ちている。そのような環境で、生命を維持するのに適した機能を持つ必要があった。そこで、我々は外界を知るための装置である、感覚器官を進化させてきた。目、耳、舌、鼻、皮膚は全て感覚器官であり、外界の情報を我々が利用可能なように情報を変換してくれている。それらの感覚器官を通して得られた情報は求心性神経を経由して、中枢神経に送られる。そこで適切に処理された情報が、今度は遠心性神経によって効果器である筋肉や腺に送られ、行動が発生する。

2)神経系の基礎
ニューロンと神経の仕組みについて学ぶ。神経系の基本的構成要素はニューロン(神経細胞)である。ニューロン同士の結合方式は複雑なネットワークを構成する。その結合の特徴は、反回回路的であり、発散的、収束的である。ニューロンは細胞体と数本の樹状突起、そして長い軸索から構成されている。軸索が髄鞘に覆われている神経を有髄神経、覆われていないものを無髄神経と呼ぶ。有髄神経では、軸索を覆う髄鞘にランビエ絞輪と呼ばれる1μm程度の狭窄部が存在している。軸索を取り巻く髄鞘部分は絶縁であるので、有髄神経の信号はランビエ絞輪から次のランビエ絞輪まで、飛びながら伝わることになる。この信号形式が跳躍伝導と呼ばれる。
ニューロンからニューロンの電気的信号の伝達は、シナプスを介して行われる。シナプス前ニューロンの軸索を通して伝播したインパルスは、神経終末に達する。この神経終末は、神経伝導物質を包み込んだシナプス小胞体を多数有していて、活動の電位が伝わると、シナプス後ニューロンの膜との隙間(シナプス間隙)へ神経伝達物質を放出する。放出された神経伝達物質がシナプス後ニューロンの膜状に分布する受容体に到達すると、イオンの透過性が変化し、その部位の電位が変化する。このように、信号伝達における電気的信号は、シナプスを介して化学的な信号に変換されたのちに、再び電気的信号へと変換され、伝達される。


② 第4回授業
1)中枢神経系
脳と脊髄から構成される神経系である。まず脳の機能と構造を見ていこう。脳はその重さが1.3kg程度であり、1000億個以上のニューロンからなる集合体である。この脳に関しては、いくつかの区分法が提案されてきている。
脳は前脳と脳幹に区分される。前脳はさらに大脳と間脳、脳幹は中濃と菱脳に区分される。大脳(またの名を終脳とも)は、左右対称の大脳半球からなる。これを断面的に見ると、肉眼でも識別できる、色の異なる二つの部分、灰白質と白質が見て取れる。
灰白質は大脳半球を覆う大脳皮質と呼ばれる神経細胞からなる。大脳皮質はシワのある構造体で、それによって表面積を拡大している。量的にも脳の重量の85%を占めている。大脳皮質には、様々な心理学的能力(感覚、知覚、言語、思考、記憶など)が関係していることがわかっている。
間脳は終脳と中脳の間に位置している。この間脳で特に重要な構造体は視床と視床下部である。視床の重要な役割は感覚情報を特定の感覚領域に中継することや、快や不快、不安、恐怖にも関わる部位である。視床下部は量的には小さいが、自律神経や内分泌の調整、様々な生命維持の機能と関わる部分である。
脳幹は間脳に加え、橋、中脳、延髄から構成される。
小脳は、大脳の小型版のような形状をなし、橋と延髄の背側に位置している。その機能は運動と平衡感覚の制御である。

2)末梢神経系
末梢神経系とは、神経系のうち、中枢神経系以外の神経のことである。末梢神経系の働きは、体の知覚・運動を制御する体性神経系と内臓・血管などの自動的な処理に関わる自律神経系に分かれている。
体性神経系は、感覚神経(求心性神経)と運動神経(遠心性神経)からなる。自律神経系は交感神経系と副交感神経系から構成される。体内や体外の情報を受け取って、体内プロセスを制御する。機能を促進するのは交感神経系(アクセルを踏むようなもの)、抑制するのには副交感神経系(アクセルを離す)が使われる。交感神経系は、かつては闘争神経とも呼ばれていた。交換神経系が興奮を伝えると、身体的変化が速やかに行われるようになる。


キーワード ① 生活体と環境 ② 神経系の基礎 ③ 中枢神経系 ④ 末梢神経系
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 第3回授業 
予習
第3回授業は生活体と環境について学ぶ。17ページから34ページの行動の生物学的基礎を読んでおくこと。ここではニューロンと神経の仕組みから始まって、神経系の構造と機能について学ぶことになるので、それぞれ教科書に太字で示されている学術用語について覚えるようにしておこう。
復習
生活体と環境について、その関係性を整理し、理解すること。特に神経細胞やニューロンの構造と機能についてまとめておくこと。


第4回授業
予習
第4回授業は第3回授業を受けて、特に中枢神経系と末梢神経の機能と構造について学ぶ。私たちが適応的に生存できるのは、まさにこのような神経系によって外界の情報を適切に取り込み、加工し、効果器に伝えることで成り立っている。心をどのように考えるかは別として、これらの仕組みが生存の基礎であることを認識しよう。
復習
中枢神経系は脳と脊髄に分かれている。さらに脳も下位構造を持ち、複雑な構造を成している。またそれぞれの構成要素に独自の機能を持っているので、それらの関係について理解をしておくこと。また末梢神経系の機能についてもきちんと説明できるようにまとめておくこと。

3 学習心理学 科目の中での位置付け 第5回授業
生活体が環境に適応するためには、自らの行動を効果的に変容させる必要がある。また場合によっては、環境に働きかけて環境を変化させる必要がある。このように、行動を柔軟に変容させることを心理学では学習と呼んでいる。学習の定義はもう少し厳密で「先行経験による行動の比較的永続的変容」とされている。つまり、行動の変容が起こるには、その変化した行動以前の経験が影響していると考えるのである。そして、この行動の変容は薬物の影響による変容や、疲労による変容を含んでいない。この学習がどのような現象であり、どのようにして起こるのかにする実証的・理論的見当が、心理学では長期に渡り検討されてきた。
今回の講義では、この学習がどのような理論によって説明されているのかを非連合学習と連合学習に分けて学んでいく。授業では学習とは一体どのような現象であるのかを、日常の体験から考察し(スポーツ、料理、楽器の演奏などなど)、後半はそれらの学習の現象を説明するために提案された学習理論について学ぶ。

第6回授業
学習理論を代表する二つの理論といえば、レスポンデント条件づけとオペラント条件づけである。第6回授業では、両者の学習について詳細に学ぶ。は古典的な領域で、脅威的な発展を遂げた。それは行動主義の影響のもと、行動の変容をいかに説明するかという問題意識であった。その結果として、行動主義、新行動主義という二つの大きな研究の潮流を作った。行動主義では、精神的な概念が放棄され、刺激と行動の関係を解明するという、ある意味、機械的な説明に終始した。そこでは「心なき心理学」との汚名が残されたが、その後の新行動主義では、刺激と行動の間に生活体を媒介させるという、新たな理論化がなされた。


教科書第3章が学習範囲
コマ主題細目 ① 学習とは何か・・・行動の変容・非連合学習 ② レスポンデント条件づけ・オペラント条件づけ
細目レベル ① 第5回授業
1)学習とは何か・・・行動の変容
私たちは日々、行動している。その中では、新しい知識を学んだり、新しい技能を学んだり、様々な行動の変容について学んでいる。これらは皆、学習という現象である。皆さんが楽器を初めて練習したり、何らかのスポーツをやり始めた時のことを思い出してみよう。また自転車に乗れる人は、最初に自転車に乗ることにチャレンジした時のことを思い出してみよう。最初からうまく乗れた人はいないであろう。まずは後ろで支えてもらったり、補助輪をつけて乗る練習をしたはずである。そのようにして何回も乗ってると、突然、バランスよく乗れるようになったのではないだろうか。また楽器の演奏の習得も、スポーツにおける技の習得も同様に反復することで、目的の技術を獲得してきたはずである。また、漢字を書いたり、新しい英単語を覚ええたり、私たちはそのように先行経験に基づいて次なる行動を変容させてきた。これらは全て学習と呼ばれる。ただし、薬物の影響で行動が変容したり、疲労などで行動が変容しても、それらは学習とは呼ばれないので
注意が必要である。こん学習による行動の変容に関しては、過去に多くの理論が提唱されて、研究も多く行われてきた。
第5回の授業では、学習の定義、学習の種類(非連合学習、連合学習)のうち、非連合学習と連合学習のうちのレスポンデント条件づけを学ぶ。
2)非連合学習と連合学習(レスポンデント条件づけ)

非連合学習(「くん化」と「鋭敏化」)
例えば、口の中に梅干しを入れれば、唾液が自動的に分泌される。瞼に空気を吹きかけると瞬きが生じる。これらは反射と呼ばれ、これを引き起こす刺激を誘発刺激と呼んでいる。この反射は生得的であり、遺伝によって備えられたものであり、学習ではない。しかし、この誘発刺激を反復していると、この刺激に誘発された反応の強さに変化が生じる。この変化は繰り返し提示されている刺激に対してのみ起こり、別の刺激に対しては反応強度が復活する(元のような反射が生まれる)ことから、このような強度変化は学習の単純な過程と考えられている。そして、この誘発刺激の反復定位によって反応強度が低下することを「くん化」と呼び、逆に反応強度が増すことを「鋭敏化」と呼んでいる。
また特定の刺激に「くん化」した後に、「くん化」が生じた刺激に類似した刺激を提示すると、そのままの反応強度が維持される場合がある。これは「般化」と呼ばれる。また「脱くん化」といって、「くん化」が生じたのちに「くん化」が生じた刺激とは異なる刺激を与えて反応強度が再度増加する場合を「脱くん化」と呼ぶ。


② 第6回授業
1) レスポンデント条件づけ
行動を自発(自ら行動を起こすこと)するオペラント行動(operant behavior) と、刺激によって誘発されるレスポンデント行動(respondent behavior)が連合学習にはある。レスポンデント条件づけは,刺激と刺激を時間的に接近させて提示することによって、その関係を学習させる条件づけの方法である。条件づけを二分法的に分類したスキナー(Skinner, B. F.)により命名され、オペラント条件づけと対置される手法である。レスポンデント条件づけは,古典的条件づけ( classical conditioning(Miller,S.,& Konorski,J.,1928))、または発見者の名を冠してパブロフ型条件づけPavlovian conditioningともいわれる。
パブロフ(Pavlov,I.P.,1927)は、イヌを使った有名な唾液の条件づけ実験において、餌をイヌの口に入れたときに生じる唾液分泌反射が、本来それを引き起こさない刺激(中性刺激neutral stimulus)によって誘発されることを発見した。この現象は,特定の条件下で動物が学習した結果としての反射(反応)であるために、今日では条件反応(conditioned response:C R)といわれる。この例における食物など,唾液を生得的に誘発する刺激を無条件刺激(unconditioned stimulus:(U S)、USにより引き起こされる反射性の唾液分泌は無条件反応(unconditioned response:U R)といわれる。ベルの音のような中性刺激とUS とを対にして繰り返し提示すると、やがてベルの音だけでも唾液分泌が誘発されるようになり(これがCRである)、この場合のベルの音が条件刺激(conditioned stimulus:C S)である。

2)オペラント条件づけ
オペラント条件づけとは,生活体が自発した反応(行動をなんらかの装置によって計測したもの)に対して、ある事象を随伴させることにより、その反応が変化することをいう。道具的条件づけ(instrumental conditioning)ともいう。オペラント条件づけの対象となるのは、個体の随意的な行動(オペラント行動operant behavior)である。なお、共通の結果をもたらす反応は、すべて同一の反応クラスに属していて、このような反応クラスをオペラントoperantという。スキナーは、新しい条件づけをパブロフの見いだした条件づけと区別するために、それぞれの条件づけの特徴を表わす名称として「オペラント条件づけ」と「レスポンデント条件づけ」と命名した(すでに述べたように)。これらの名称は、個体が自発的・能動的に環境に働きかけるという特徴(随意的行動,行為)と、刺激に対する受動的な応答という特徴(不随意的行動、反射)をそれぞれ表わすために作られた造語である。このように二つの条件づけは、それぞれ「行為の原理」と「反射の原理」と呼ぶことができる。

キーワード ① 学習 ② 非連合学習 ③ レスポンデント条件づけ ④ オペラント条件づけ
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 第5回授業
予習 
教科書35ページから39ページを読んで、学習のうち、非連合学習について学ぶ。これは経験による行動の変化ではあるが、単純な刺激に対するくん化、鋭敏化、般化、脱くん化について、それがどのような現象であるのかを理解するように努めること。
復習
非連合学習について、きちんと説明できるようにポイントをまとめておくこと。特に非連合学習に関わる諸現象に命名された術語(くん化、鋭敏化、般化、脱くん化)を適切に説明できるようにしておくこと。

第6回授業
予習
ここではレスポンデント条件づけとオペラント条件づけについて学ぶ。学生諸君は、教科書の40ページから54ページまでをよく読んでおくこと。また二つの学習には大きな違いがある。そういう点を考えながら予習を進めること。
復習
レスポンデント条件づけとオペラント条件づけについて、それぞれの条件づけによってどのように新たな行動が獲得されていくのか、その原理をきちんと言葉で説明できるようにしておくこと。それぞれの条件づけに固有の術語があるので、その整理をしておくこと。

4 感覚・知覚の心理学 科目の中での位置付け 第7回授業
第7回授業は、外界の情報を取り込む最初の段階である、感覚の働きに関しての学習である。感覚とは単純な完成経験として理解されている。では、単純な完成経験とは何か。例えば、朝起きた時に、何か軽い物音が聞こえたというのが、感覚である。例えば、その音が人の足音だと分かれば、それは感覚の次の段階である知覚の働きになる。つまり、知覚は管区情報に意味を付与するような働きである。知覚は複雑な感性経験と言われる所以である。
では、感覚を生み出す能力はどのように知ることができるのだろうか。生理学者や心理学者は19世紀から、この問題に挑んできた。それらが絶対閾、弁別閾、ウエーバー比、フェヒナーの法則と知られる事実や法則である。今回授業では、これらの感覚能力を知るための概念を学習する。

第8回授業
感覚情報は脳でさらに処理され、記憶されている情報と関連づけられて、その対象の意味が抽出される。視覚であれば、見た対象が何であるかを知り、聴覚であればそれが何の音かを知ることになる。今回の授業では、この知覚の現象を、視覚を例に考えていこう。視覚の心理学である。この視覚が成立する生理学的基礎についてまず見ていこう。私たちの眼球は、まずは角膜に覆われていて、そこから光が侵入する。角膜についで水晶体があり、これを通るが、ここで虹彩によって光の侵入量を調節される。水晶体は凸レンズであり、視覚世界のイメージは網膜には上下が逆さまに硝子体を通って、網膜に投影される。
網膜上には視細胞が分布していて、光量子のエネルギーが十分であれば、これらの細胞を興奮させる。この網膜上には2種類の機能が異なる視細胞、桿体細胞と錐体細胞が分布している。そして、この網膜上の細胞の興奮のパタンが視神経を経由して大脳に送られる。脳で適切に処理されたイメージがわたしたちの見ている世界である。授業では、この世界がどのように形成されるのかを学ぶ。フェヒナーの法則は、感覚の強度が刺激の大きさの対数関数として表現できることを示したものである。y=klogSで表現される。下の図を参照のこと。この意味は、感覚強度を等間隔に変化させようとすると、物理的強度は直線的ではなく、対数関数として変化させる必要があるということである。





教科書4章が学習範囲
コマ主題細目 ① 感覚過程の心理学 ② 視知覚の生理学的基礎、形の発生、形のまとまり
細目レベル ① 第7回授業
1) 感覚とは
感覚は単純な感性経験と説明されるが、この経験を生み出すためには、感覚器官がどのように働くのかを知る必要がある。まず私たちが持っている感覚器官の種類を知ろう。多くの人はすでに知っている。眼球、鼻、下、耳、皮膚が5つの感覚器官である。それぞれ物理的なエネルギーを処理している。眼球は光という物理的エネルギーを処理し、耳は音波という物理的エネルギーを、そして鼻と舌は化学的エネルギーの処理装置である。皮膚は複数の感覚を発生させるが、それは物理的エネルギーである圧(接触)の検出、温度などを処理している。眼球の処理によって、私たちは見ているという感覚(視覚)、耳の機能で聞くという感覚(聴覚)、舌によって味覚、鼻によって嗅覚が生じる。皮膚感覚には痛覚、痒覚、温覚・冷覚がある。この感覚を産む感覚器官は特殊な構造と機能を持っている。授業では、視覚を中心に詳細な眼球やそれと関わる神経系の話も行う。

2)感覚能力を測る
  閾値(刺激閾)
  弁別閾
  ウエーバー比
フェヒナーの法則
スティーブンスの法則
感覚の研究はすでに指摘したように、長い歴史をもつ。例えば、私たちの感覚能力に関して、一体どれほど物理的エネルギーがあれば、感覚器官は感覚を生じさせてくれるのであろうか。この疑問、つまり、私たちの感覚器官が感覚を生じさせることができる最小限度の刺激エネルギーの強度が刺激閾と呼ばれるものである。つまり、これより弱い刺激エネルギーが存在していても、私たちにはそのことを知ることができないのである。例えば、聴覚における刺激閾は、同じ大きさの音でも音の高さ(周波数)に応じてよく聞こえたり、聞こえなかったりします。つまり、低い音はそれが聞こえるためには、エネルギーを大きく(ボリュームを上げる)しないと、聞こえない。つまり、音の高さの刺激閾は音のエネルギーの大きさによって変化する。これに対して、これ以上大きなエネルギーを与えると痛みに変わるような音の大きさ(刺激頂)は、音の大きさに対してほぼ変化が認められない。そしてこの刺激閾と刺激頂に囲まれた範囲が可聴範囲ということになる。
さらに感覚には、感覚の大きさの変化に気づく最低限どの刺激差がある。これが弁別閾である。この弁別閾に関しては、ウェーバーの法則が成立することが知られている。弁別閾をΔI
とすると、ΔI /Iは一定というのがその法則である。この値をウェーバー比と呼んでいる。そしてこの弁別閾を比べると人間の諸感覚の能力の違いを見ることができる。このウェーバー比が小さいほど、感覚が鋭いと言える。




② 第8回授業
1)視知覚の生理学的基礎
眼球から入った情報はすでに示したように、網膜を経由して視神経によって、視床の外側膝状態を通り、大脳の後頭葉の1次視野(V1)に送られる。その後、V1から2次視野(V2)へと情報が送られる。その後、側頭葉へと向かう視覚経路である腹側視覚経路、頭頂葉に向かう視覚経路である背側視覚経路に分かれる。
腹側経路は対象の形状を知るため(What経路)、背側経路は対象の位置を知り、それに接近する情報を与えるため(Where経路、How経路)を伝える。このように眼球から入力された視覚情報は、複数の脳における処理段階を経由して、最終的に私たちの経験する視知覚の世界を作り出す。その際、対象の形態、色彩、奥行きなど様々な対象の属性が処理されることになる。

2)形の発生
私たちが見ている世界は形に満ちている。どのような対象であれ、例えば山行でのホワイトアウトなどを除けば、私たちの視覚世界は形のあるものが圧倒的に多い。では、この形はどのようにして出来上がる、もしくは発生するのであろうか。この質問に答える一つの問いかけは、形のない世界を考えることである。先ほどのホワイトアウトの現象では、霧が濃くて形が認識できなくなる。これは全体野(Ganzfeld)と呼ばれ、光の波長、強度が等質の視野のことである。この視覚世界では、かたちと呼ばれるような対象が存在しない。しかし、この視覚世界に何か遺物が入り込んだとしよう。この時、この遺物が形をなす。この遺物の混入によって形が成立することを、ゲシタルト心理学心理学者のルビンは図と地の分化によって説明した。つまり、全体野である背景(地)に対して、図である遺物が分化したと考えるのである。この図と地の関係は、図地反転の現象を見ると明らかである。ルビンの杯として知られる図形を見ると、ある時には杯が、またある時には二人の人物が向き合っているように見える。しかし、同時に両者を見ることは難しい。このことは、形として知覚される対象が図になり、もう一方は地として背景に退くと考えた。このように、図と地の関係が形の認知を説明する。
ルビン(1912)はデンマークの心理学者で、この図と地の概念を使用しての説明を行った。

3)形のまとまり
私たちの視覚世界はバラバラに存在する訳ではない。むしろ、整然とまとまって知覚される。この形のまとまりを説明する一つの考え方が、ゲシタルト心理学者から提案されたプレグナンツの原理である。
対象物や図形などを知覚したり、記憶したりする際には、それらの対象を簡潔化された、規則的な形態や構造をもつものとして把握される傾向があることをいう。これは、M.ウェルトハイマーが主張して、法則として提示したものを言う。これは対象の知覚や記憶の際の一般的原理で、簡潔化の法則とも呼ばれる。ゲシタルト要因はこの法則の具体的な現れとみなすことができる。




キーワード ① 感覚過程 ② 視知覚の生理学的基礎 ③ 形の発生・形のまとまり ④ 錯視 ⑤ 運動の知覚
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 第7回授業
予習
教科書は感覚過程の心理学の部分が少ないので、今回授業は資料を用意して、感覚に関する教材を提供すいることとした。事前に配布する資料を読んで、内容の理解に努めること。
復習
感覚心理学では、どのようにして感覚能力を測るのかにさまざまな試みがなされてきた。その中でも大切な概念が、閾値(刺激閾)、弁別閾、ウエーバー比、フェヒナーの法則、スティーブンスの法則である。これらの概念をきちんと説明できるように理解につとめること。

第8回授業
予習 
教科書55ページから73ページを読んでおくこと。特に、視知覚の生理学的基礎、形の発生、形のまとまりについて理解を深めること。
復習
視覚処理の神経学的な基礎、形の発生の意味、形のまとまりについて、基本的な説明ができるように、それぞれの項目についてまとめておくこと。言語化して(自分の言葉で)説明できるということが重要である。




5 知覚・記憶の心理学 科目の中での位置付け 第9回授業
視覚的世界は前回の授業で説明したもので終わる訳ではない。例えば、私たちの知覚している世界は、物理的な世界の正確な複写ではない。知覚世界も構成されていると考える立場もある。この知覚世界が物理世界のコピーでないことを示す例が、錯視図形である。現在までに様々な錯視図形が考案されてきている。
また、視覚世界は網膜像的には2次元的広がりしかない世界でありながら、体験的には奥行きのある世界が展開する。この奥行き知覚(立体視、3次元知覚とも呼ばれる)には、それを可能にする多様な手がかりが存在していることがわかっている。例えば生理学的手がかりには、水晶体の厚さをコントロールする筋肉や、輻輳の手がかり(眼球が二つあるため)、また心理的な要因としての運動視差、陰影、肌理の勾配、大気遠近法、線遠近法などがこの奥行き知覚に関与している。
また私たちの視覚世界の対象は絶えず運動している。これらの運動の知覚は、対象の移動や運動がなくても生じる。仮現運動などがそれである。これらを生じさせる機序になどについても学ぶ。

第10回授業
記憶とは、心理学においては記銘、保持、想起という三つの段階からなる心的機能と考えられている。ここで、記銘memorizationとは、今日では符号化(encoding)と呼び、外界の情報を保持できるように変換して取り込む段階である。記銘された情報は必要な時点で取り出されるまで蓄えられている必要がある。この情報を保管しておく働きを保持(retention)、または貯蔵(storage)とも呼んでいる。そして、保持された情報を利用するためには、その貯蔵された情報を取り出す必要がある。この情報の取り出しの過程を想起(remembering)あるいは検索(retrieval)と呼んでいる。今回授業では、この記憶の基本的な働きについて学ぶ。また、1960年代以降に明らかになった、上記の3段階よりも進んだ記憶理論について学ぶが、それらは感覚記憶、短期記憶もしくはワーキングメモリー、長期記憶である。長期記憶に関しては、次回の授業で学ぶこととする。


教科書第4章と第5章が学習範囲
コマ主題細目 ① 錯視  奥行知覚  運動知覚 ② 記憶とは何か  感覚記憶   短期記憶・ワーキングメモリー
細目レベル ① 第9回授業
1)錯視
錯視とは錯視による錯覚のことである。錯視には明るさ、色、大きさ、長さ、形、方向、奥行、運動の錯視などがある。錯覚の大部分は錯視である。錯視は、刺激を注意深く観察しても、またそれを熟知する人が観察しても明確に生じる現象である。日常生活において、分量は小さくても、錯視と同様のずれや歪(ゆが)みを生じている場合が多いが、そのずれや歪みが特に顕著に生じる場合が錯視である。
錯視は異常な現象ではなく、正常な知覚現象である。錯視の研究は、知覚全般を支配する一般原理を探るための有効な手段と考えられている。そのために古くからこの現象を創造する努力がなされてきた。
錯視の種類としては、幾何学錯視、多義図形の錯視、逆理図形の錯視、月の錯視、対比錯視、運動の錯視、勾配(こうばい)の錯視、方向づけの錯視などが知られている。授業ではこれらの錯視を紹介し、視覚世界の不思議も体験する。

2)奥行き知覚
観察者から刺激対象までの距離を知覚するという点が基本的である。三次元的な立体の前面からその背後までの距離を知覚することも含まれている。この奥行き知覚に関しては、聴覚や身体感覚もその成立に相応の役割を果すことが知られている。実際に奥行を生じさせる要因としては、(1)眼球 の調節,(2) 輻輳、 (3) 両眼視差、(4) 物の相対的大きさ関係、重なり、遠近法、色合いの濃淡 (遠方の物ほどぼんやり青みがかる) 、運動視差 (観察者の動きにつれ距離の違う物体相互が異なった動きをして見える) 、肌理 (きめ) の勾配のなどが手がかりとなっている。聴覚では一般に強度差の手掛りが重要とされているが必ずしも明らかではない。

3)運動の知覚
視空間における対象の移動の知覚を言う。この運動視には、視覚的運動、触覚的運動、聴覚的運動などがある。もっとも典型的な知覚は視覚的運動であり、(1)実際運動、(2)運動残像、(3)仮現運動、(4)自動運動、(5)誘導運動に分類される。
(1)実際運動:刺激対象の動きが直接に運動として知覚される場合の運動知覚である。対象が遅く動いたり速すぎたりすると、運動は知覚されない。対象の動きが初めて認められる最小の移動速度を速度閾(いき)と言い、ほぼ1~2分(視角/秒)である。対象の動きがまだ認められる最大の移動速度を速度頂と言い、ほぼ30度(視角/秒)である。

(2)運動残像:滝の水の流れをしばらく凝視したあとで、近くの景色を眺めると、景色が緩やかに上昇してみえる(滝の錯視)。このように、視野の中で広い部分を占める一定方向へ移動する対象を持続して観察したあとで、静止した対象へ目を向けると、観察した運動とは反対方向に緩やかに動く残像をみることができる。

(3)仮現運動:見かけの運動ともいう。二つの静止対象を短い時間間隔で続けて異なる場所に提示すると、一方の対象から他方の対象へ実際に運動しているかのようにみえる現象のことである。線路の遮断機についている赤い左右に動くように見える信号は、この例である。
(4)自動運動:暗室内で静止した小光点を凝視すると、光点は静止しているのにもかかわらず、さまざまな方向へ動き出してみえる。これが自動運動である。光点の運動範囲は、視角で20~30度程度であり、運動の速度は毎秒、視角2~20度程度である。

(5)誘導運動:例えば、夜に流れる雲に月が囲まれるのを見ると、雲が止まっていて月が逆方向に動いてみえる現象が経験される。また、自分の乗っている電車が動かないのに、隣にいた電車が動き始めると、自分の乗っている電車が、隣の電車の動く方向とは逆方向に動いて知覚される。これが誘導運動の現象である。

② 第10回授業
1)記憶とは何か
 もしも記憶がなかったら、私たちの人間としての生活は成り立たないであろう。自分がどのような生活を送ってきたのか、誰と住まい、自分が何者なのか、親しい友人も、経験した大切な出来事も、一切ない世界。また新しい知識や世界を解釈することもできない生活。記憶というこころの働きがなければ、そうした世界を生きていくことになる。このように考えただけでも、記憶が私たちの生活を形成するうえで極めて重要な働きを持っていることがわかる。普段の私たちは、覚えるのが難しい課題にぶつかったり、覚えたはずの大事な事柄を思い出せずに悩んだりと、記憶が思うように働かないことも経験する。しかし、そのような困難を経験したとしても、日常生活においてはほとんどの場合、問題なく記憶の課題を遂行して、生活している。
もちろん理論とかモデル、仮説というのはちょっと面倒な概念である。しかし、現実そのものを私たちが把握するのは極めて困難である。たとえば、私たちが住まうところを走る道路を説明しようとしても、なかなか言語化が難しい。しかし、そこに地域の道路を示す地図があれば、自分が通る道や目的地に向かう道を容易に理解できる。もちろん地図は抽象化されている。そのために詳細な情報は表現されえない。記憶についても同様である。記憶という全体像を示すことは不可能に近い。しかし、その働きを理論(仮説、モデル)という地図のようなものによって表現することで、その現実に近づくことができる。さらに、地図にも用途によって様々な種類のものがあるように、記憶の理論にも、記憶のどのような側面を明らかにしようとしているのかによって、様々な理論が存在する。地図には道路が詳細に描かれたものもあれば、地域の店情報を示すもの、それぞれの家の番地を示すもの、土地の高度を示すものなど様々なものがある。記憶の理論も、極めて大雑把なものもあれば、一つの機能の詳細を示すような理論もある。ここでは代表的ないくつかの理論と記憶の機能区分に関する理論を紹介する。

2)感覚記憶
視覚的感覚記憶(visual sensory memory)とか視覚的感覚記憶(iconic memory(icon))とも呼ばれる。見る世界の感覚記憶のことである。この記憶の存在を明らかにしたのが、Sperling (1960)の実験である。彼のハーバード大学の博士論文が心理学モノグラフという雑誌に掲載された。それがとても画期的な発見だった。彼はのような実験を行なったのか。彼は、タキストスコープを利用した視覚実験をおこなった(瞬間的に人はどれくらいの文字を見ることができるのだろうか)。ここでタキストスコープというのは瞬間露出器と訳され、1/1000秒単位で刺激提示をコントロールできるマシン。それを使った実験をおこなったのである。彼はまず全体報告法という、比較的簡単な方法を採用した。全体報告法(whole report method)の手続きは以下の通り。
まず凝視点(視野の中心に提示される小さな点でそこを見るように教示される)の提示を行い、次に子音12文字のアルファベットを提示(50msec)する(1msec=1/1000秒)。参加者は、文字が見えたらすぐにそれらを報告する。これを毎回刺激を代えて、多数回試行した。実験結果は平均で4.5個を報告できるというものであった。しかし、参加者から不思議なことが報告された。
参加者の内省報告:「報告する以上にもっと見えていたが報告している間に、文字が消えてしまう」スパーリングの仮説:非常に短時間だが、多くの情報が存在していた。ただ報告している間に消失してしまう。
 そこで・・・、部分報告法という報告方法が工夫された。
1)記憶とは何か
 もしも記憶がなかったら、私たちの人間としての生活は成り立たないであろう。自分がどのような生活を送ってきたのか、誰と住まい、自分が何者なのか、親しい友人も、経験した大切な出来事も、一切ない世界。また新しい知識や世界を解釈することもできない生活。記憶というこころの働きがなければ、そうした世界を生きていくことになる。このように考えただけでも、記憶が私たちの生活を形成するうえで極めて重要な働きを持っていることがわかる。普段の私たちは、覚えるのが難しい課題にぶつかったり、覚えたはずの大事な事柄を思い出せずに悩んだりと、記憶が思うように働かないことも経験する。しかし、そのような困難を経験したとしても、日常生活においてはほとんどの場合、問題なく記憶の課題を遂行して、生活している。
もちろん理論とかモデル、仮説というのはちょっと面倒な概念である。しかし、現実そのものを私たちが把握するのは極めて困難である。たとえば、私たちが住まうところを走る道路を説明しようとしても、なかなか言語化が難しい。しかし、そこに地域の道路を示す地図があれば、自分が通る道や目的地に向かう道を容易に理解できる。もちろん地図は抽象化されている。そのために詳細な情報は表現されえない。記憶についても同様である。記憶という全体像を示すことは不可能に近い。しかし、その働きを理論(仮説、モデル)という地図のようなものによって表現することで、その現実に近づくことができる。さらに、地図にも用途によって様々な種類のものがあるように、記憶の理論にも、記憶のどのような側面を明らかにしようとしているのかによって、様々な理論が存在する。地図には道路が詳細に描かれたものもあれば、地域の店情報を示すもの、それぞれの家の番地を示すもの、土地の高度を示すものなど様々なものがある。記憶の理論も、極めて大雑把なものもあれば、一つの機能の詳細を示すような理論もある。ここでは代表的ないくつかの理論と記憶の機能区分に関する理論を紹介する。


2)感覚記憶
視覚的感覚記憶(visual sensory memory)とか視覚的感覚記憶(iconic memory(icon))とも呼ばれる。見る世界の感覚記憶のことである。この記憶の存在を明らかにしたのが、Sperling (1960)の実験である。彼のハーバード大学の博士論文が心理学モノグラフという雑誌に掲載された。それがとても画期的な発見だった。彼はのような実験を行なったのか。彼は、タキストスコープを利用した視覚実験をおこなった(瞬間的に人はどれくらいの文字を見ることができるのだろうか)。ここでタキストスコープというのは瞬間露出器と訳され、1/1000秒単位で刺激提示をコントロールできるマシン。それを使った実験をおこなったのである。彼はまず全体報告法という、比較的簡単な方法を採用した。全体報告法(whole report method)の手続きは以下の通り。
まず凝視点(視野の中心に提示される小さな点でそこを見るように教示される)の提示を行い、次に子音12文字のアルファベットを提示(50msec)する(1msec=1/1000秒)。参加者は、文字が見えたらすぐにそれらを報告する。これを毎回刺激を代えて、多数回試行した。実験結果は平均で4.5個を報告できるというものであった。しかし、参加者から不思議なことが報告された。
参加者の内省報告:「報告する以上にもっと見えていたが報告している間に、文字が消えてしまう」スパーリングの仮説:非常に短時間だが、多くの情報が存在していた。ただ報告している間に消失してしまう。
 そこで・・・、部分報告法という報告方法が工夫された。

多くの情報が提示直後では利用可能であったが、最終的に0.5秒程度の時間経過でほとんど消失した。このことは短時間に多くの比較的未処理の情報が貯蔵されているが、極めて短時間に消失されることを示していた。

3)短期記憶(ワーキングメモリー)
短期記憶は比較的短時間にわたり、意識的に情報を保持することのできる記憶であり、歴史的にはジェームズ(James, W, 1887)もこの記憶について報告して、一次記憶(primary memory)と呼んでいた。この記憶の特徴は、リハーサルを通して意識的に操作することが可能であり、保持時間がコントロールできる。またこの記憶の容量は比較的小さく(7±2チャンク)、リハーサルしないと20秒にも満たない保持時間である。以下、この記憶の基本的な諸特徴を紹介する。
記憶の心理学的特徴を捉える場合に重要な要件の一つはその入れ物の大きさ、つまり容量の大きさである。ここで容量とはどれほど情報を維持できるかということである。この短期記憶の容量は認知心理学の発展に大きく貢献したミラー(Miller, 1954)によって詳細が報告されている。かれは私たちの多くの能力が7という数字と関わっていることを指摘した。たとえば、短時間に継時的に入ってくる数字を記憶したり、ランダムに提示される異なる高さの音を記憶する場合、私たちは7個前後の数字や音を正確に再生できる。これは数字だけでなく、単語でもアルファベットでも同様である。ミラーはこの数字を“不思議な数7±2として紹介したのである。さらにこの記憶は、符号化を工夫することで、見かけ上は7個を超える数字や文字を記憶できる。その際の符号化方略によってできる心理学的単位をかれはチャンクとよび、そのようにまとめることをチャンキングと呼んだ。



キーワード ① 錯視   ② 奥行知覚   ③ 動知覚 ④ 感覚記憶 ⑤ 短期記憶
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 第9回授業
予習
第9回授業では、私たちが日常経験するさまざまな視覚現象のうち、錯視、奥行き知覚、運動知覚を扱う。教科書では、60ページから73ページを読んでおくこと。感覚器官を通して、私たちが外界の情報をどのように理解するようになるのか、極めて不思議な現象であるが、心理学がその問題にどのようにアプローチしようとしているのかを理解するようにしよう。
復習
私たちを取り巻く視覚世界がどのように理解されるのかを、錯視、奥行き知覚、運動知覚を通して理解したことと思う。これらの現象を理解するための知識を整理して、それぞれの知覚の成立を説明できるようにしておこう。


第10回授業
予習
視覚世界や聴覚世界の情報の獲得時に関与する記憶にどのような種類があるのか、教科書の75ページから94ページまでを読んでおこう。諸君が考えている記憶の認識とは随分異なった説明がなされていることと思う。科学的概念による説明を理解できるようにしておこう。
復習
授業では、1)記憶とは何かから始まり、2)感覚記憶、3)短期記憶・ワーキングメモリーと進んだ。それぞれの記憶がどのような役割を演じているのか、説明できるようにしておこう。

6 記憶心理学・言語の心理学 科目の中での位置付け 第1回授業
前回授業では感覚記憶から短期記憶までを学んだ。今回は長期記憶について学ぶ。長期記憶とは、私たちの最も古く想起できる出来事やエピソードの記憶から最近の、おそらく20秒ほど前までに起こった出来事の記憶に至るまでの、長期間にわたる記憶のことである。
この長期記憶に関しては、さまざまな機能があることがわかっており、その基本的区分についてはすでにスクワイアーの分類として示されている。
 記憶が一つのシステムなのかそれとも複数のシステムからなるのかという議論は心理学の誕生からそれほど経たない時点で始まった。例えば、短期記憶と長期記憶の区分に関しては、ジェームズ(James, W:1887)の心理学原論に一次記憶と2次記憶の区分が紹介されている。一次記憶はちょうど短期記憶のようなもので、心理学的現在の記憶として意識化できる記憶であり、二次記憶はそのままでは意識化できない大量の記憶である。これは長期記憶に対応する。そのような区分は古くから知られていたものの、さらに長期記憶に関する区分がタルビング(Tulving, 1972)によって提案された。それがエピソード記憶と意味記憶の区分であった。
 その後、この長期記憶はすでに述べたスクワイヤーによって、さらなる分類が行われるようになったのである。

第12回授業
今回授業では、ことばの心理学をまず、最初に学ぶ。私たちは発達の過程で言葉を獲得していく。言葉の持つ機能はさまざまであり、言葉の心理学も幅広く、そのような多様な機能を研究してきている。例えば、この文書を読んでいる諸君は、その視覚的な形態から読み方、意味を即座に理解する。そしてそれを第3者に言葉で話して伝えることも、また何かに書きつけてそれを示すこともできる。またあなたも、誰かの話を聞くことができる。そして聞かれたメッセージの意味を理解する。このように、読む、書く、聞く、話すという行為は言語を扱う心理学的な能力であることがわかるが、それは思考と深く関わっていることも理解できよう。つまり、思考と言語は切り離せない関係にある。今回授業では、このうち言語に重点をおき、その機能を見ていくことにしよう。特に、言語の基本的要素である、音声、文字、単語の理解の機能、文章の理解、物語の理解の仕組みについて、どのような考え方があるのかを探る。

教科書第5章、第6章が学習範囲
コマ主題細目 ① 長期記憶、展望記憶、自伝的記憶 ② 音声・文字・単語の理解、文章の理解、物語の理解
細目レベル ① 第11回授業
1)長期記憶
長期記憶の基本的分類は、陳述記憶(宣言的記憶)と非陳述記憶(非宣言的記憶)である。陳述、宣言というのはdeclarativeという英語の訳語である。陳述記憶は意識に現れる記憶であり、非陳述記憶というのは意識に現れない記憶のことである。非陳述記憶で代表的な記憶が手続き記憶として記されている記憶で、これはスキル(技能)の記憶である。この記憶は私たちの運動の記憶(楽器を弾く、スポーツを行う、文字を書くなどの身体動作の記憶)である。この記憶は海馬を通さずに形成されるという特徴を持つ。この非陳述記憶にはさらに、学習心理学で学んだ古典的条件づけなども分類される。潜在記憶であるプライミングなどもこのカテゴリーに分類される記憶である。犯罪心理学科の西山先生の専門分野である。
陳述記憶はエピソード記憶と意味記憶に分類される。

2)展望記憶
記憶というと、過去の何かを覚えていたり、忘れたりということを連想しやすい。しかし、記憶の中には将来やるべきことの記憶も、私たちの生活の中で重要な役割を演じている。「授業がお終わったら、友人Bと会う」とか、今度の「日曜は・・へ出かける」「次の水曜日には・・をする」など。このような記憶は展望記憶を呼ばれている。つまり、展望記憶とは将来の適切な時間に計画されている活動や意図している活動を記憶し、適切な時点でそれを展開する記憶のことである。
この展望記憶に関しては、事象ベースの展望記憶と時間ベースの記憶が知られている。前者は行うべき特定の行為の記憶であり、後者は時間がベースになっている記憶で、3時になったらおやつを食べるというような記憶である。これらの記憶の特徴について学ぶ。

3)自伝的記憶
自伝的記憶とは、エピゾード記憶(特定の時間と場所で経験された事象の記憶)と意味記憶(世界についての知識)の両者から構成される自己に関わる記憶のことである。コンウェイらはこれを自己記憶システムと呼んでいる。つまり、自己と世界との関わりの記憶と言える。例えば、自分がどのように生きてきたかというライフヒストリーはまさに、この自伝的記憶から出力される情報である。
コンウェイ(Conway, 2005)によれば、自伝的記憶の構造は層構造をなしているという。最も上層にあるのが、抽象度の高いライフストーリー、次の層がテーマ、次は人生の時期、一般的な出来事、出来事固有のエピソード記憶という構造である。この自伝的記憶にはレミニセンスバンプという、青年期前後の記憶の出来事がより多く思い出されるという、極めて興味深い現状も知られている。


② 第12回授業
1)音声・文字・単語の理解
人間の言語と動物の情報伝達手段を区分する性質の一つの特徴は、言語の二重分節と呼ばれる構造的特徴にある。この二重分節とは何か。それは例えば「太郎は音楽を聴く」といった文章が発話された場合、この文章は次のようにいくつかの単語に分解できる。「太郎 は 音楽 を 聴く」のように。この分解を第一次分節という。次に例えば、「太郎」という単語はさらに、「/t/ /a/ /r/ /o/ /u/」のように母音や子音に分解することができる。これを二次分節と呼んでいる。このように、言語の構造には文から単語、単語から音へと回想的に分節されるという特徴を持つ。
さて、以上が言語の特徴であるが、私たちは日々人の話や会話を聞いている。それは音声として私たちに知覚される。実は音声は物理的な空気の振動であるが、それを私たちはカテゴリカルに知覚する。つまり、聴覚系から入力された情報を一つ一つの音として聴く能力を身に付けたのである。そしてそれらのまとまりとしての単語の聴取がより高次の処理として、行われる。このように聴覚の情報処理が行われているのである。
では、文字の処理はどのように行われるのか。これは視覚情報処理であり、文字の認識に関しては諸説あるが、最も有効な説明は特徴抽出モデルとして知られる考え方である。
さらに文字は単語としても認知される。これはただ文字のランダムな配置に比較して、単語の方がより早く処理される単語優位性効果からも示唆されるものであるが、多分、私たちの持つ心的語彙と照合されて、単語は単語として理解されると考えられている。

2)文章の理解
言語学的には文章の理解は、統語論、意味論、語用論という3領域で研究が行われているが、心理学においても同様の分類に対応した研究が行われている。文法の理解では、統語解析という、複数の単語の構成を分析する必要がある。例えば、同じ単語が使用されていても、「AがBを好む」という文章と「BがAを好む」では、構成要素は同じでも、意味が全く異なる。チョムスキーによれば、文には二つの構造があるという。表層構造と深層構造である。表層構造はどのような言葉がどのような順番に並んでいるかに関わり、深層構造はその文の内容に関わる。統語解析はこのうち表層構造に関わる部分である。教科書の図6−4はこの解析の例を示している。表層構造の解析は句構造規則によって行われて、文がどのような要素(句)に分かれているかを明らかにする役割を果たす。
意味の理解に関して興味深い現象は、文章を提示して次第に時間が経過すると、文の態や形式の変化は忘却されやすいのに対して、文の意味(深層構造)は記憶に残るということが知られている。
語用論とは文がその状況に応じてどのように理解されるのかを研究する領域である。例えば、「ちょっと寒いですね」という言葉が寒い部屋で発せられると、それは事実を表すが、もしその部屋に暖房器具があって、それが点火されていなければ、それを点けてくださいという意味を持つこともある。つまり、言外の意味のような働きも文にはあるのである。

3)物語の理解
物語をどのように定義するか。物語を理解するとはどういうことなのか。この問題は極めて複雑は心理過程を反映している。物語を読むという行為において内容を理解するという過程は、心理学では「物語理解」と呼ばれてきた。1970年代には物語文法や物語スキーマのように命名されて、その理解のプロセスを説明するモデルが提案されてきた。授業ではこれらのモデルがどのように理解を説明するのかを講義し、物語への感情移入や没入感に関する研究も紹介する。そして、物語理解において私たちが形成する記憶表象の機能や構造について説明していく。

キーワード ① 長期記憶 ② 展望記憶 ③ 自伝的記憶 ④ 音声・文字・単語 ⑤ 文章の理解
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 第11回授業
予習
第11回授業は記憶の心理学の中でも、長期記憶と命名される、長く保持される記憶に関して学ぶ。記憶研究は認知心理学の中でも中心的なテーマで、現在も盛んに研究されている。諸君は教科書の82ページから94ページを読んでおくように。
復習
長期記憶の区分には、同じカテゴリに異なって命名される場合がある(心理学者と脳科学者で異なって翻訳された場合)ので、混乱しないようにしておこう。陳述記憶(宣言的記憶)と非陳述記憶(非宣言的記憶)はその例である。また長期記憶もさらに細分化されているので、それらの特徴を整理しておこう。

第12回授業
予習
第12回・第13回授業は言語と思考の心理学がテーマであるが、第12回は言語心理学の基礎を学ぶ。音声・文字・単語がどのように理解されるのかについて、また、文章や物語がどのように理解されるのかを知るために教科書95ページから102ページを読んでおくこと。
復習
言語は私たちの高次の認知に必要不可欠な役割を果たしている。その心理学的機能の基礎を理解しておこう。特に、音声・文字・単語の理解、文章の理解、物語の理解というキーワードを軸に言語の機能について整理しておこう。

7 思考・知能の心理学 科目の中での位置付け 第13回授業
私たちは、環境にうまく適応するために、さまざまな能力を獲得してきた。今までに学んだ感覚や知覚、記憶の能力はそのような適応を促す能力であった。そしてさらに、私たちは記憶された情報を利用して、複雑な環境にさらによく適応する能力を身につけてきた。つまり、1を聞いて10を知るというような推測の能力、また不確定な事態に行う意思決定、さらに新しいものを生み出す創造的思考に至るまで、さまざまな能力を持つようになったのである。今回の授業では、この人間の理性の創造的側面について学ぶ。取り上げるテーマは、創造的思考としての問題解決である。このテーマはゲシタルト学派のウエルトハイマーによって探求され、ケーラーに引き継がれた。そして現代でもその線に沿っての研究が行われている。次に、問題解決の際に使用される意思決定(ヒューリスティック)について学び、最後にイメージと思考の関係について学ぶ。過去、偉大な科学的発見には視覚的イメージが伴って行われたとの報告が多い。イメージはどのように思考に影響するのかを見ていく。

第14回授業
知能という言葉は日常生活でも耳にすることが多い心理学用語である。では、その知能とは一体何か。知能の定義から考えてみよう。知能の定義には、知的能力をどのように捉えるかによって、数種類の代表的なものがある。例えばウエクスラーは「環境に適応する能力」を知能の主要な能力と考えている。また、ヘッブなどは「学習の速さ」を知能と考えている。ただ概念的な定義も重要であるが、心理学においてはこの知能を測定するということが、長きに渡って試みられてきた。例えば、世界初の知能テストと言われるフランスのビネーとシモンのものは、子どもの知的能力の発達を測定する試みであった。その後、知能テストはアメリカに渡り、発展することになる。スタンフォード・ビネー検査はその代表的なテストである。さらにそれに続いて、ウエクスラーの一連の検査が作成されるようになって、今日まで発展してきている。本授業では、知能の定義、理論、測定について学ぶ。

教科書第6章が学習範囲
コマ主題細目 ① 問題解決、意思決定 、イメージと思考 ② 知能とは何か、知能の理論、知能の測定
細目レベル ① 第13回授業
1) 問題解決
人の思考の1番の特徴は新しい発想を生み出せるという能力である。前述したウエルトハイマー(Werthheimer, M.)は、ゲシタルト心理学者であるが、視覚心理学のみならず、思考の心理学でも大きな貢献をした。特に、再生的思考と生産的思考の区分をしたことで有名である。ここで再生的思考とは、過去の経験や知識を直接的に活用している思考のことである。それに対して生産的思考とは、直面する問題に対して新しい関係性を見出すような、問題に対する認知構造の変化を生じさせる思考である。この後者の代表的研究が、ケーラー(Kohler, W.)の洞察という概念である。ケーラーは第一次世界大戦中、テネリファ島で類人猿を用いた思考実験を行い、類人猿の創造的思考について研究した。そこでは手段と目的の関係に全く新しい視点が導入され(認知構造の変換)、問題解決がなされた。授業では、その実験の詳細を提示する。

2)意思決定
私たちは、問題解決に際して、特徴的な解決方法を持っている。それは多くの場合、経験則に基づいて当てはまりそうな解決を考えるという方法である。そのような解決はうまく当てはまると早い解決に至るが、一方、外れてしまうと解決できない事態におちいる。このような思考法がヒューリステヒクスと呼ばれる。このような思考方法に関しては、心理学者のカーネマン(Tversky & Kahneman, 1974)によって、主観的な確率の問題を通して検討されてきた。次のような文章表現を考えてみよう。
「手術の成功率は90%です」
「手術の失敗率は10%です」
内容はおなじ事実を表しているにもかかわらず、実は、前者の方がその手術を受ける選択率が上がる。つまり、問題に対する構え(失敗か成功かの表現によって作られるメンタルセット)によって、判断が影響を受けるのである。

3)イメージと思考
私たちが何か文章や物語を読むとき、その文章や物語によって視覚イメージが喚起されたり、聴覚的なイメージが浮かんだりした経験は誰にもあるだろう。
「古いけやかわず飛び込む水の音」「閑(しずか)さや岩に染み入る蝉の声」などの文章を読むと、古い木造りのいどに滑車がついていてそこにかえるが飛び込み様子や、カナカナと秋ちかい時期の山里に蝉の音をイメージしたりするであろう。このように、私たちは文章理解に際して、各種のイメージを生成し、利用することが多い。このイメージ実はさまざまな問題解決に利用される。例えば新しい家の一部屋に購入予定の家具を置くという時、その家具の前で家の部屋のイメージを作り、家具のイメージをいろいろ動かしてみて、適当な場所を探すということがあろう。このように問題解決(場所決め)にイメージを使うだけでなく、私たちはさまざまな状況でイメージを利用して柔軟な思考を導いている。授業ではこのようなイメージの特徴的な機能について学ぶ。
キーワード(3個から5個程度を項目としてリストアップ)


② 第14回授業
1)知能とは何か
知能とは、広義には生物が持つ高次の心的機能をさす用語である。ただし、すでに紹介したように、どのような立場で知能を定義するのかに関しては、統一した考えがあるわけではない。ただ、その能力が果たす機能の種類によって分類するような試みがなされてきた。それらは、例えば、「適応能力」「学習能力(学習の速度)」「問題解決能力」「推理力」・・・である。ちょっと変わったものに、「操作的定義」というのがある。これは知能を測定されるものとして定義しようという立場である。操作的定義は物理学者のブリッジマン(Bridgeman, P.W.)によって提唱された考え方で、これをボーリング(Boring, E.G.『実験心理学の歴史』という著書を残したハーバード大学の心理学者)が心理学に導入した。何かの概念を示す時に、それを測定と絡めて、その測定値を指示できるという形で定意義しようというものである。

2)知能の理論
知能の理論に関しては、知能の計量との関係で発展してきたという事情がある。例えば、さまざまな知能を測定するという課題を用意して、その結果を因子分析のような多変量解析をしようして分析し、それらの課題が一体何を測定しているのかを明らかにしようというアプローチである。つまり、知能はどのような基本的能力によって構成されるものかということを明らかにしようというアプローチである。歴史的にはスピアマンの2因子説(一般因子と特殊因子)を提唱した。これは、ここの課題に共通の因子(G因子)と課題に特化した因子(S因子)から構成されるとしたものである。次に、サーストン(Thurston, L.L.)は、スピアマンよりも多くの課題を用いて分析した結果、多くの因子を見出し、多因子説を提唱した。その後、キャテル(Cattell, R. B.)は一般知能因子(G因子)が二つの層から構成されているとし、そこに流動性一般知能と結晶性一般知能の存在を仮定した。その後、認知心理学の影響を受けて記憶との関連でモデル構成したホーンの理論などもある。

3)知能の測定
知能の測定は、まずはビネーとシモンの1905年のテストで始まった。これは画期的なもので発達段階に応じた課題を設定し、当該年代の課題の通過率を事前に決めておいて、それを物差しにした。この時の課題は30問であった。その後1908年には3歳から13歳までが対象となる58問の問題を用意し、通過率を設定して、そこより遅れているのか進んでいるのかで、知能のレベルを精神年齢という形で表現するという試みが行われた(こちらは1908年のバージョンから)。その後、1916年に米国のターマンが、ドイツのシュテルン(1912)の示唆により、知能指数という概念を用いて表現する知能テストを作成した。これは実年齢で精神年齢を割って、100倍したものである。その後、米国のベルビュー精神病院の心理学者であったウエクスラーが、このビネー式検査を成人用として使用する際の問題点を改良し、1939年に成人版のW A I Sが作成された。その後はウエクスラーの児童版(WICS)、就学前児童版(WPPSI)も開発された。ウエクスラー式では知能偏差値が使用されている。


キーワード ① 問題解決 ② 意思決定 ③ イメージと思考 ④ 知能の理論 ⑤ 知能の測定
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 第13回授業
予習
第13回授業は、問題解決、意思決定、イメージと思考について学ぶ。私たちは日々、問題解決に迫られている。また、いくつかの予定に関しても複数の選択肢の中からあれかこれかの選択を迫られる。そういう心理はどのように説明されるのであろうか。またイメージは思考とどのように思考と関わるのか、教科書の102ページから108ページを読んでおこう。
復習
問題解決のいくつかの重要な方略(ストラテジー)について、まとめて説明できるようにしておこう。また、視覚的イメージが思考に果たす役割についても、学生諸君の経験や自身の体験について内省し、イメージがどのように生成されて、問題解決に関与したのかを考えてみるのも良いだろう。また、学習内容を整理しておくこと。

第14回授業
予習
第14回は知能の心理学について学ぶ。知能に関しては教科書の108ページから112ページを読んでおくこと。知能にもさまざまな理論があり、また測定法があることを知っておこう。
復習
知能は測定論から始まったと言って良い。それは現実的な問題解決のためのツールで、学習が困難な生徒の発見にその目的があった。それから次第に成人の知的能力の要素を発見したり、測定するという方向に発展した。知能の理論にはいくつかの代表的な理論があるが、それらをまとめておくこと。また測定法についても理解を深めておくこと。

8 感情と情動の心理学 科目の中での位置付け 第15回授業
私たちの意識的経験のうち、外界の状況や対象に対する最も非理性的で主観的な態度や価値づけを感情と呼んでいる。情動は齧歯類(げっしるい)から共通する怒り、恐怖、不安などから、さらに霊長類に特徴的な高次の社会的感情に至るようなものまで多岐に渡り、私たちの認知能力にも大きな影響を持っている。この情動を生み出す神経回路に関しては、扁桃体や視床下部を初め、島、腹内側前頭野窓の脳領域などの関与が認められている。
英語ではfeelingやaffectionという言葉が対応する。このような感情でも特に強い喜・怒・哀・楽を情動と呼ぶ。この情動は、生理的な変化(身体的反応)を伴うものである。心理学は古くから、この両者に関して考察を加えてきたが、歴史的にはギリシア時代から考察され続けてきたテーマである。今回の授業では、現代におけるさまざまなアプローチを概観して、感情と情動の心理学についての理解を深める。扱う内容は、情動の身体的基礎、情動の理論(古典的理論から現代的理論まで)、認知的評価過程である。まず情動の生理学的基礎に関しては、すでに学心理学概論で学習した中枢神経系や末梢神経系が関与する。この情動喚起に関する心理学理論には、抹消起源説、中枢起源説、そして二要因説などがある。最後に学習する認知的評価過程に関しては、上に示した二要因説を代表とする理論以外の理論を紹介する。

第16回授業
情動と身体的状態の関係は、日常生活の中でも経験されることが多い。たとえば強い怒りを覚えれば、自然と筋肉に力が入り、心臓の拍動が速くなることを経験する。また最初はそれほど悲しくはないが、少しばかり涙が出てきて、次第に悲しみが強くなっていったという経験もあるだろう。ここでいう身体的変化とは、内臓器官や筋肉の活動における変化であり、内臓器官の活動は視床下部を中枢として、末梢では自律神経系が制御している。この自律神経には、臓器や筋肉を活性化させる交感神経系と、それらの活動を抑制化する副交感神経系がある。前出のキャノンはこの交感神経系のことを、闘争(逃走)神経と呼んだ。それは、環境における危険を察知してそれに対応する時に働く神経系だからである。このような環境事態に置かれると生活体である人間の副腎髄質からアドレナリンが分泌され、その結果として、心臓がよりはやく拍動し、血液中の糖分や酸素を筋肉に運びやすくする。つまり、闘争に備える身体が用意される。さらに呼吸が速くなり、より多くの酸素を取り込み、エネルギー変換の効率を良くする。また余分な内臓の働きは抑制され、皮膚の毛細血管は一層細くなる。また、情動は顔面にも現れる。

教科書第7章が学習範囲
コマ主題細目 ① 情動の生理学的基礎、情動の心理学理論、認知的評価過程 ② 身体的変化と情動、顔面表情、情動調整、動機づけ
細目レベル ① 第15回授業
1)情動の生理学的基礎
情動生成に関わる神経科学的基礎として知られるものには以下のものがある。
パペッツの情動回路説:外界の情報が感覚器官を通して入力され、脳において分析統合されて情動体験となる。パペッツ(Papez, J.)はこの情動の生成に関わる神経科学的基礎として、情動回路という仮説として古くから知られた仮説である。この仮説では、視床、視床下部、海馬、帯状皮質よりなる神経回路が情動を生起させると仮定された。その後の核磁気共鳴画像法など非侵襲的方法を使用した研究により、情動の生成に関しては、さらに島、扁桃体、服内側前頭前野などの関与が知られるようになった。

2)情動の心理学理論
情動の心理学理論に関しては、抹消説と中枢説がある。以下、その両者について説明する。まず、抹消説の代表はジェームズ=ランゲ説である。この説は、ジェームズ(James, W.)の情動の生成に関する考え(1894)であるが、生理学者のカール・ランゲの説を内包するものであったために、ジェームズ=ランゲ説と呼ばれている。この説に関しては教科書の124ページに図示してあるのでそれを参考にして欲しい。この説では、刺激によって引き起こされた身体反応(筋肉)が脳に伝達されて、主観的な情動反応が生ずると考えた。簡単に言えば、熊を見て怖いと思うのは、熊を見て逃げるから怖いということになる。つまり、泣くから悲しくなるというように、身体反応が先行し、その後そのフィードバックにより悲しいという情動が体験されるというのである。
中枢説で古典的なのがキャノン=バード説である。これは上のジェームズ=ランゲ説に対抗する形で登場した。キャノン(Cannon, W.B.)は生理学者であり、ホメオスタシスの研究でも有名であった。バードも生理学者で実証的研究によって、中枢説を支持した。この説に従えば、知覚された刺激は抹消に届くとともに、中枢である視床を経由する。その際に情動的な色付けが行われると説明した。

3)情動の理論
中枢説と抹消説は、情動の起源に関する説明において対立する部分はあるものの、両者ともに外的刺激に対しての末梢反応が定式化された情動の反応を生み出すという点では共通している部分がある。しかし、両仮説ともに同一の身体生理的反応から異なる情動が生まれるということを説明できないという難点を抱えている。そこで、この問題を解決するモデルが提唱されるようになった。それが情動の2要因説として知られる考え方で、スタンレイ・シャクターとジェローム・シンガーによって提案された説である。この説に従うと、情動は知覚された非特異的な覚醒(arousal)を、自身を取り巻く状況についての情報や既存の知識に基づいて解釈するという二つの要因によって生じると解釈した。この説明の具体例が、「吊り橋効果」として知られている。

② 第16回授業
1)身体的変化と情動
すでに示したように、情動が起こると身体にもさまざまな影響が出てくる。次に交感神経と副交感神経の機能を対比させながらもう少し詳しくおみていこう。まず交感神経は、視床下部から始まり延髄を通って胸髄まで伸びている。そして、そこから末梢へと神経を出している。これに対して副交感神経は、脳幹および仙髄から始まって末梢へと神経を出している。このうち延髄から出ている迷走神経は、脳内から気管支、肺、心臓、胃や腸と実に体の半分にも及ぶほどの長さの神経を体に送っている。それぞれの機能についてみていくと、体の上から順番に、まず眼球の瞳孔は、交感神経が緊張すると散大し、副交感神経が緊張すると収縮する。次に呼吸は、気道が交感神経刺激で拡張し、副交感神経では収縮する。また呼吸も交感神経によって早く大きくなり,副交感神経緊張ではその逆となる。血圧に関しては、交感神経が活性化すると心臓は心拍数や収縮力が増え、さらに血管も収縮し上昇する。以上のように、交感神経と副交感神経は拮抗する関係にある。

2)顔面表情
表情とは、感情、情動、意志、思考などの心的状態が表情筋の作用によって顔面に現れたものである。広義には表出行動全般を指すが、心理学では人間の顔面に表出された心理状態、とくに感情,情動の変化にかかわる現象(感情表出)を指すことが一般的である。顔面表情に関して、現在の心理学的研究に直接つながるのは、進化論を唱えたダーウィン(Darwin, C.)である。ダーウィンは『ヒトと動物の情動表出The expressions of emotions in man and animals』(1872)で、感情の表出である表情はヒトという種に生まれながらに備わっていて、進化の過程で獲得された行動様式であるとした。その後、進化論的な考え方は徐々に浸透していったが、進化論を誤って適用した社会進化論に対する批判や、文化相対主義による文化の独自性の強調などのために、社会科学や心理学の分野では進化論による表情の説明は重視されなくなり、表情も言語と同様に、文化によって異なった、獲得された行動であると考えられるようになった。その結果、20世紀の半ばを過ぎところからエクマン(Ekman, P.)とフリーセン(Friesen, W. V.),、イザード(Izard, C. E)らは、表情が人類に普遍であることを実験的に検証しようと試みた。他文化との接触経験が限られているニューギニアの部族を対象にしたエクマンの研究を含め、結果は、世界各地の多様な人種、文化において、幸福(喜び),嫌悪,驚き,悲しみ,怒り,恐れという6種類の感情とそれを表わす表情とがほぼ対応していることを示すものであった。これらの表情は,その後,基本情動fundamental emotionsの表出,つまり基本表情primary facial expressionsとして多くの研究で取り上げられることになった。

3)情動調整
情動調整とは、自らの情動を制御し、それを行動に表能力と言える。たとえば、私たちの社会では、自らの情動を直接的に他者に示すことが憚(はばか)れる場合がある。たとえば、自分は大学入試の試験に合格したのに、一緒に結果を見に行った友人が不合格の場合などでは、あまりにも自分の喜びを大きく表現してしまうのは、失礼のように感じられて、喜びを抑制するというような経験があるだろう。このような生まれてきた情動を生のままに表出せずに何らかの制御をかけて調整することを情動調整という。この情動調整は子どもにも見られ、発達する能力であることが知られている。また、生育した社会のルールのようなものによっても影響を受ける(文化的表示規則)。また危険なスポーツに興味を持つような場合にも、この情動調整が関わっていると言われている。

4)動機づけ
生活体はお腹が空けば、食を求める行動を起こす。喉が渇けば水分を求める行動を起こす。この時の空腹、乾きというのが欲求と呼ばれる。そしてこの欲求を解消するための対象である、食べ物や水のことを目標と言ってる。この目標に、生活体を近づけたり、離れさせたりする性質を持つ。それが誘因であり、生活体を近づける場合を正の誘因(プラスの誘因とも)、遠ざける場合を負の誘因(マイナスの誘因)という。欲求が起こっても、それが弱い場合にはその解消行動は生じない。ある程度その強さがないと行動に出ない。その行動に駆り立てる力を動因(ドライブ)という。このように、欲求が生起して、目標に対して方向付けられる行動が、目標達成されるように興ことを動機づけと呼んでいる。欲求の種類には一次的欲求と二次的欲求が区分される。前者は生得的なもので、後者は一次的欲求をもとに学習された欲求である。また一次的欲求を生理的欲求と呼ぶこともある。私たちの生命維持に必要な欲求の多くがこの欲求である。

キーワード ① 情動 ② 情動の理論 ③ 身体的変化 ④ 情動調整 ⑤ 動機づけ
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 第15回授業
予習
第15回授業は、情動の生理学的基礎と情動の心理学理論について学ぶ。教科書の117ページから125ページを読んで、情動の概要について把握しておくこと。感情や情動という、理性的な心の働きとは対極にある、心のダイナミズムについて概要をつかんでおくこと。
復習
情動の生理学的基礎と情動の心理学理論について学んだが、生理学的過程に関しては現在でも研究が進んでいる。ダマジオの著作も紹介していくので、興味のある学生はそのような著作を読んで理解を深めたい。また、それぞれのテーマに関して知識の整理をしておくこと。

第16回授業
予習
情動体験は身体に現れる。特に、顔面表情は普段から学生諸君も対人場面で、相手の表情を読み解いていることであろう。そのような表情の心理学的理解を行うのがこの授業の目的である。教科書の125ページから134ページを読んでおくこと。
復習
身体的変化と情動、顔面表情、情動調整、動機づけの各項目について、自分の言葉できちんと説明できるように理解を深めておこう。現実生活において、情動調整がどのように機能するのかなど、自ら問を発してその答えを探してみよう。理解が深まるはずである。

9 パーソナリティ心理学 科目の中での位置付け 第17回授業
パーソナリティとは何か。元々は、ラテン語のペルソナ(persona)に起源がある。ペルソナは、もともとはギリシア劇で用いられ、ローマにも伝えられた仮面(mask)のことであり、特定の役割を与えられて、それを演じていた。その後、これから転じて、見せかけの表情、演技者の役割、演技者自身の内面的な心的特性、あるいは威厳とか重みをも意味するようになったと伝えられている。パーソナリティーには、以上のように外側からの期待に対してこたえる役割的な演技の意味があるとともに、その人独自の人柄を表す全体的な統一体な意味もある。日本語でパーソナリティーにあたる「人格」は、その人独自の人柄または徳性を備えた「品格」を意味するが、人間をパーソナリティーという概念でとらえる場合には、気質と素質のような生得的に得られたものを基礎に、獲得された行動傾向を表す「性格」を意味していると言えよう。知能のところで見てきたように、心理学の主要な概念には多くの定義がなされてきていて、どのような立場で定義するかによってその表現するところが変わってくる。この傾向はパーソナリティにおいても同様である。今回授業では、そのようなパーソナリティを説明する理論について展望する。

第18回授業
新しいパーソナリティ理論は、1990年代にアメリカでゴールドバーグ(Goldberg, L. R.)によって提唱された、ビッグ・ファイブBig Five(性格の5大因子)と呼ばれる理論で、外向性(extraversion)、神経症傾向(neuroticism)、誠実性(conscientiousness)、調和性(agreeableness、,そして経験への開放性(openness to experience)から成る5因子説である。この理論は今まで個別に扱われてきたパーソナリティ理論を包含するような内容になっている。5つの因子と言われると数が少ないような印象を与えるが、実際には5大因子それぞれが双極だから相当に複雑な構成になっている。また因子分析は分析される最初の分布に影響を受けるので、たとえば経験への開放性を見いだすため、それに関する項目数がある程度必要となってくる。そのために開放性に関する議論が続いている。また、「ビッグ・ファイブ」の5要素は、研究者によって多少その内容は異なるが、基本的な考え方は全て同じであり、現在最も広く利用されているのは「コスタ&マックレー」のモデルで、それぞれの因子を構成する下位の尺度が見出されている。特性輪に依拠する測定は基本的に質問紙法であるが、授業ではそれ以外の方法についても言及する。

教科書第8章が学習範囲
コマ主題細目 ① 力動論、類型論、特性論 ② 新しい理論展開とパーソナリティ測
細目レベル ① 第17回授業
1)力動論
フロイト(Freud, S.)は、精神分析学の創始者の一人であるが、心の世界をはじめは3領域からなるものと考えていた。意識、前意識、無意識である。意識は自分で意識できる精神性界であり、前意識は普段は忘れているが、思い出そうとすれば思い出せる精神過程、そして、無意識は自分の意思では思い出せない精神過程のことである。そして無意識には、その人の乳児以来ずっと抑圧されてきた欲求や感情、記憶などが沈澱していると考えた。そして、その後、以上の考えをさらに発展させて、フロイトはパーソナリティを3つの主要構成要素である、イド、自我、超自我から構成されるものと考えるようになった。イドは生まれながらの無意識的なパーソナリティの部分である。ここでは衝動的欲求が即時的に追求される快感原則が支配している世界である。パーソナリティの第2の部分は自我であり、イドから派生して形成されるとした。自我は外界と接触し、外界の対象を正しく把握し、適応的に生存するために組織化された心の中心的領域である。超自我はルールの遵守など学習された、道徳的な自我である。このような3領域の相互作用が人間の行動を司ると考えられた。そしてそれはパーソナリティの発達とも深く関わるとされ、独自の発達理論が展開された。

2) 類型論
類型論は古くはギリシアに登場する。医者であり、諸学に通じていたガレノスは、ヒポクラテスの4体液説(人間には血液、粘液、黒胆汁、黄胆汁の4種類の体液があると主張)を発展させて、これに対応する4気質説という類型論を発展させた。多血質は楽観的で健康、粘液質は静かで無関心、黒胆汁質は抑うつ的で落ち込みやすい、黄胆汁質は苛立ちやすいなどであった。これらは特に科学的根拠がないものの、20世紀になるとドイツの精神科医のクレッチマーが、彼の臨床経験から、体格と精神病との間に関係があり、さらに研究を続けて、体型と気質に関係のあるということに注目した。彼はパーソナリティの中心に気質があると考えていた。彼は3つの体型(細長型、肥満型、闘士型)とその対応する気質特徴があると考えた。このような考えに近いものにシェルドンの類型論、人生の価値や目的によるn分類を行ったドイツの哲学者の分類、精神分析のユングの分類などがある。

3)特性論
類型論が全体論的なアプローチであるのに対して、特性論は要素的なアプローチである。この特性論の特性とは、さまざまな状況においても比較的一貫した個人の行動傾向が見られることを言う。特性論とは、この特性という概念を用いて人のパーソナリティを説明しようという立場である。そして、この特性にどのような種類があるのかということ、その特性の強弱によってその特性が測定できるのか、ということに関心が集中した。その中で最も体型的にこの理論を展開したのが、オルポート(Allport, G.W.)であった。彼は個人の中で比較的変化する特性を個人特性とし、もう一つの特性である共通特性を分けて考えた。科学が語れるのは後者の共通特性であり、それぞれの特性は、たとえば身長や体重のように、正規分布に従うと考えられた。このアイデアから、オルポートは特徴を抽出する方法として性格を記述する用語を辞書の中に求め、多くの言葉から共通する概念を拾い出した。その結果、20個近い特性を選び出した。その後、特性論はキャテル(Carttell, M.)、アイゼンク(Eysenck, H.J.)、ゴールドバーグ(Goldberg, L.R.)らによって更なる展開を遂げてきている。


第18回授業
1)新しいパーソナリティ理論
新しいパーソナリティ理論である「ビッグ・ファイブ理論」は、1990年代に心理学者のルイス・ゴールドバーグ氏が提唱した『パーソナリティの性格分析』において「人間が持つさまざまな性格が、5つの要素の組み合わせで構成される」とする考え方である。現在、パーソナリティ理論の中で最も有力な考え方として、広く研究、活用されてきている理論である。心理学におけるパーソナティ研究においては、長年にわたってさまざまな性格類型理論や特性理論が提出されてきたが、それらのアプローチに対しては、お互いに別物であり科学ではないという指摘がなされていた。ゴールドバーグは、その点を考慮して新たに特定した構造が「ビッグ・ファイブ(The Big-Five factor structure)」である。他の研究者による独立した分析でも、類似の結果が得られたことから、ようやく性格の科学的な記述は「ビッグ・ファイブ理論」にほぼ統一されるに至った。

2)パーソナリティを測る
パーソナリティはパーソナリティ検査(性格検査とも)によって行われる。個人の行動様式や反応様式などから,その個人のパーソナリティ特性を定量的に評価することを目的としている。検査方法は通常次の3つに分類される。 (1) 自己評定法:パーソナリティ特性に関する質問に対し被験者自身に答えさせるもので、質問紙法、行動目録法などがある。 (2)作業検査法 :単純な作業の実施から、作業過程を追いかけて、それらの結果からパーソナリティを測定するもの。 (3)投影法 :曖昧な刺激を意味あるものとして解釈してもr会うことで、定性的にパーソナリティ特性を測定しようとする。ロールシャッハ・テスト、絵画統覚テスト、文章完成法などがある。
(1)自己評価法による測定は、質問紙を用いて行われる。多くの性格検査がこの形式を採用している。MMPI(ミネソタ式多重人格目録)、ビッグ・ファイブなどなどである。MMPIは質問項目が多く(550問)、ビッグファイブは国内版で60項目(和田版, 1996)、その後、29項目からなる短縮版の提案もなされている (並川ら, 2012)。
(2)作業検査法 :この方法は作業を伴うような課題を実施し、その結果のパタンや成績から、作業者の内面の性格を理解しようとする方法である。内田・クレペリン精神作業検査などはこの代表的方法である。
(3)投影法:この検査の代表格はロールシャッハ・テストであろう。インクブロットを用いた検査用項目に対して、被検査者が自由にその曖昧刺激を解釈し、その解釈を分析することで、深層にある心理を解釈する方法である。そのほかにも曖昧な描画を用いたり、「私は・・・」の文書を20問書かせていく文章完成法なども用意されている。それぞれの方法に短所、長所がある。授業ではその点についても言及する。

キーワード ① 力動論 ② 類型論 ③ 特性論 ④ ビッグ・ファイブ ⑤ 測定
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 第17回授業
予習
第17回授業は個性の心理学に該当する、パーソナリティの学習である。パーソナリティは、個人の比較的安定した行動傾向のことである。これらの行動がどのように説明されるのか、教科書の135ページから144ページまでを読んでおこう。
復習
第17回授業では、パーソナリティの力動論、類型論、特性論という3つの代表的理論を学習した。それぞれの理論の特徴についてポイントを整理して、自分の言葉で説明できるようにしておこう。

第18回授業
予習
第18回授業は、新しいパーソナリティ理論について学び、その後に実際にパーソナリティが心理学的にどのように測定されるのかを学ぶ。新しい理論は従来の特性論を踏まえた幾分とも複雑な構造を持つが、それをきちんと理解しよう。教科書の144ページから153ページを読んでおこう。また測定に関しては教科書ではあまり言及されていないが、授業ではそれを展開する。
復習
パーソナリティの新しい理論と測定法について、まとめておくこと。ビッグファイブについては、現在、最も信頼の置かれている理論である。それを簡潔に説明できるようにしておこう。また測定に関しては自己評定法、作業検査法、投影法について説明できるようにしておくこと。

10 発達心理学 科目の中での位置付け 第19回授業
心理学における発達とは、人間が生まれてから死に至るまでの時間の経過に伴って生じる心身の変化を表している。関連した言葉として成長、成熟、学習があるが、成長は一般的には発達と同じような意味合いで使用されてきている。また成熟は遺伝によってある程度規定された心理・身体・行動の変化を意味し、学習は生まれたのちの経験による心理・身体・行動の変容を指している。
発達心理学はアメリカのホール((Hall, S.)が19世紀末に児童心理学として創設し、それまであまり理解されていなかった児童の権利を擁護しようという運動と合わさりながら発展してきた。現在、世界的にかつてない高齢化社会が到来し、老年期の精神発達についての知見への社会的要請も高まり、だいぶ以前より生涯発達心理学という考え方が広まった。研究の方法論として、人間と動物の発達過程を比較する比較行動学(エソロジー)的な方法や、異文化間の発達過程の相違や共通点を検討する比較文化的な方法など、その研究方法も多様な広がりをみせ、心理学に限らず行動の発生学的説明を試みる学問領域を包含する総合的な発達科学として成長してきている。今回授業では、2回に分けて心身の発達の過程を見ていくことにしよう。

第20回授業
中年期は、40歳から64歳の25年間をいい、身体的、社会的、家庭的、心理的に変化の多い時期である。また、安定と不安定、若さと老い、獲得と喪失が共存する時期であり、今まで積み重ねてきたものを問い直し、時には人生の危機に直面する時期でもある。これまで中年期とは、老いと死に向かって衰えていく時期という否定的なニュアンスでとらえられてきた。しかし、人生が80年以上となった現代では、人生は一つの山ではなく、青年期から中年期の第1の山と中年期から老年期の第2の山があり、中年期は第1の山の尾根であると同時に、第2の山の出発点でもあるとも考えられる。高年期は、成人期につづく,人生最後の時期にあたる。老齢期の心理学は老年学(gerontology)に影響されて始まったといってよい。老年学は、高齢者という特定の母集団を研究対象にし、エイジング(aging:加齢)に伴う諸機能の低下、いわゆる老化を主要な研究テーマとした。その背景にある発達の考え方は、子どもから青年期は成長(生理学的・心理学的諸機能の獲得や増加)の時期、成人期はそれらが安定して推移する時期であり、老年期は成人期と比較的はっきり区別できる衰退・喪失の時期であるというものであった。しかし、20世紀後半に欧米を中心に各種のテクノロジーが急速に発達し、産業構造や社会のあり方が大きく変化したために、人びとは新たな変化に対応する必要が生じ、成人期はもはや安定した時期とはいえなくなった。高齢期は発達的にも多様性が生まれ、個々人で随分と差の大きな発達を遂げる時期でもある。

教科書第9章が学習範囲
コマ主題細目 ① 発達心理学とは何か、乳児期・幼児期の発達、児童期・青年期の発 ② :中年期・高年期の発達
細目レベル ① 第19回授業

1) 発達とは
すでに科目内での位置付けで見たように、発達心理学とは、主に精神の発達を対象として、時間経過に従って生じる変化に関する特徴や法則性、変化を推し進める要因について検討する心理学の分野である。発達とは、誕生から死にいたるまでの過程での変化を指す。学習心理学における“学習”もある種の“変化”を扱うが、発達はより長期の変化・獲得であり、遺伝的な規定と環境の影響の交互作用として理解される。この発達心理学において、遺伝要因はより基本的な発達に関わるものであるとされ、より個人的(個性的)な細かな発達は環境要因によるものであるとされている。環境要因には、家族・家庭などや、さらに社会的・文化的な影響も含まれる。近年、単に「発達心理学」というのではなく「生涯発達心理学」という用語が使われるようになってきているが、生涯発達心理学とは、人間の受胎・誕生から老年までの生涯のライフ・コースを通じて、どのような恒常的な心理的特性が存在するか、どのような量的変化や質的変化を生ずる心理的特性が作用しているかなどを包括的に捉える必要から、そのような領域名が付けられて、使用されるようになった。従来の発達心理学が主に幼児期から青年期に至るまでの上昇的変化を対象にし、発達段階の特徴やその移行の過程を捉えてきたのに対して、生涯発達心理学は全生涯的な発達の中で見直していくというメタ方法論的な側面を含むものとなっている。

2) 乳児期・幼児期の発達
まずは発達段階の考え方について知ろう。発達は連続的な過程であるが、実際にはその連続性が分かりにくい。そこで、特徴的な変化が持続し、また新たな変化が起こって維持される段階を考えて、発達段階という考え方が導入されている。発達は心理学的発達にせよ、運動機能の発達にせよ、さらに細分化してみることができる。たとえば、心理学的発達と言っても知覚能力、記憶能力、言語能力、問題解決能力などの認知能力から始まって、感情の発達、パーソナリティの発達など・・・心理学が扱う諸領域の発達を見ることができる。つまり、発達心理学は心理学の領域でも極めて広い範囲を扱う心理学であることがわかってもらえるだろう。ここは概論なので、代表的発達について見ていくことにしよう。

3) 児童期・青年期の発達
まずは児童期の知的発達の特徴を見てみよう。この時期における学校での組織的な教育のもとで、子どもはさまざまな基礎的諸能力や諸技能(読み・書き能力、計算能力など)、自然、社会についての科学的諸知識を習得する。さらに、学習活動を通して観察力、思考力、注意力、記憶力などの認知機能が飛躍的に発達する。この時期の知的発達の大きな特徴は、心理諸過程に随意性(意志性、意識性)が発生し、随意的な知覚(観察)、随意的注意、随意的記憶、随意的思考が発達することである。また、内言(ないげん)の発達と結び付いて、課題を(頭のなかで)内的に解決したり、課題解決の計画をあらかじめ内的にたてたり、自分の行為を随意的に統制・調整する能力が発達する。また、論理的思考操作、空間表象の発達も著しく進展する。しかし、形式的な論理・命題操作の発達は、今日の教育条件のもとでは、11、12歳以降になって行われるので、J・ピアジェは、この期の子供の思考を具体的操作期の思考と命名している。
青年期について:
青年期とは依存している小児が自立した成人に成長する発達時期である。この時期は10歳頃から始まり10代後期または20代早期まで続く。青年期は身体的、知的、情緒的に著しい成長を遂げる。この期間を成功的に乗り切ることは、本人にとって困難な課題である。青年期初期に、抽象的、論理的な思考能力が発達し始める。思考の複雑さが増すことにより自己認識が強化され、自己の存在について深慮するようになる。青年期に起こる多くの目立つ身体的変化のため、この自己認識はしばしばぎこちなさの感覚を伴う自意識過剰へと変化する。青年は、容姿や魅力のことばかりを考えるようになり、友人との相違に過敏になる。青年はまた、この新たな熟考力を用いて道徳的問題に対処する。青年期以前の小児は、善悪を固定的かつ絶対的なものとして理解する。しかし、年長の青年はしばしば行動規範に疑問を抱き伝統を否定して、親を狼狽させることがある。理想は、このような熟考によって、最終的に青年自身の道徳律が発達し内在化することである。


② 第20回授業
1) 中年期の発達:
身体的発達:体力に限界を感じたり、疲労回復に時間がかかったり、健康に関心が増すなどの変化が生じる時期です。生活習慣病(高血圧、糖尿病など)が起こりやすくなるのもこの時期です。また、女性の場合は、閉経などの生理的な変化も大きく影響してきます。
さらに後期になると、体力や目や耳などの感覚器の衰えに加え、老親や、同年配の人たちの重い病気や訃報に接する機会も増えることで、死ということが現実味をおびはじめる。心理的発達:社会的役割の変化、体力的な衰えなどから、今までのやり方ではどうもうまくいかないと感じ始め、「自分の人生はこれでよかったのか」「本当に自分のやりたいことは何なのか」という、自分の生き方、あり方そのものについて、見直しを迫られる時期でもあります。さらに後期になると、社会的にも身体的にも「喪失」を体験する時期です。この喪失を受け入れ、自分自身の新たな人生の歩みを作り上げる時期でもある。

2) 高年期の発達
高齢期における精神機能の老化は、すでに述べたように、個人差が大きいという特徴がある。その理由は、中枢神経系が年齢を重ねて変化をしていく中で、心理的、身体的、環境的な要因が加わり、その結果として精神機能の症状が出現するためといわれている。特に記憶に関しては、エピソード記憶が関与する「新しいこと」を覚えることが困難になる。これは、記銘力(きめいりょく:新しいことを覚える能力)が低下するためである。また、短期記憶の機能も低下するため、直近の出来事を思い出せないとか、覚えていないということもよく起こる。さらに、過去の出来事は覚えているのだが、思い出すのに時間がかかるようになる。これは想起力(以前の出来事を思い出す能力:検索の問題)が低下するためである。さらに他の認知能力である、注意力や集中力の保持も困難になる。知的能力の面で見てみると、高齢者は計算や記銘といった単純作業や、知的作業の能力は低下するとされる。しかし、言語的理解能力のような、経験や知識に結びつけて判断する能力は、比較的高齢まで維持される。

3)高齢期の発達の問題
高齢者の精神機能の低下には様々な原因がある。その中で最も重要視されるものの1つに、喪失体験がある。高齢者は年を重ねるごとに、友人、兄弟、配偶者との死別を経験し、喪失感を味わうことになる。この喪失感はやがて、生きがいの喪失や孤独感の増強をもたらす。他にも、定年退職による「職業や社会的立場の喪失」や、身体面の老化といった心理的、肉体上の喪失体験も同様に、精神的機能の低下につながる原因にもなる。さらに、身体的な疾患の合併や、身体機能の低下、環境の変化も精神機能の低下を招く原因になる。若者の精神機能の低下は原因が明確であることが多い一方で、高齢者の精神機能の低下は、様々な要因が複雑に絡み合っていることが多い。また、この精神機能の低下がうつ病を誘発する可能性も指摘されている。高齢者のうつ病有病率は、比較的軽度なものも含めると、およそ15%であるといわれており、高齢化が進む中でこの割合は年々上昇していくと考えられている。

キーワード ① 幼児期 ② 児童期 ③ 青年期 ④ 中年期 ⑤ 高齢期
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 第19回授業
予習
第19回授業は発達心理学について学ぶ。発達は英語でdevelopment、成長growthとは似ているが異なる概念である。成長は身体の変化に対して使用されるが、発達は精神の変化や変化の規則性に対して使用される。この発達は、心のあらゆる側面に起こる系統的・規則的変化で、今まで学習した心理学の領域に関わる事項である。今回授業では、乳児期・幼児期の発達、児童期・青年期の発達に分けて、その特徴を学習するので、教科書の155ページから167ページを読んでおくこと。
復習
乳児期・幼児期の発達、児童期・青年期の発達の諸特徴を要領よくまとめておくこと。教科書では、それぞれの心理領域の発達をコンパクトに紹介しているので、それに習ってまとめておくこと。

第20回授業
予習
第20回授業では、中年期の発達、高齢期の発達、高齢期の発達の問題について学ぶ。発達研究の初期では、これらの年代の心理学につてはあまり意識されていなかった。しかし、生涯発達という概念が提唱されてから、揺り籠から墓場までという生涯の発達を解明しようという機運が高まった。今回は人生の中盤から後半にかけての心理学である。教科書168ページから、178ページまでを読んでおくこと。
復習
学生諸君には、中年や高齢者の発達というのはわかりにくいかも知れないが、皆さんのご両親は多分、この中年期に当たるだろう。心理学研究から得られる知識を整理しておくこと。諸君のご両親の心理を知る良い機会になると思う。

11 社会心理学 科目の中での位置付け 第21回授業
社会心理学は、人間の社会行動を広範囲に捉える心理学の一分野である。そこでは、個個人レベル、小集団レベル、大集団レベルの行動が対象に研究されている。個人のレベルでは、社会的認知、欲求と価値、自我とアイデンティティ、役割行動など、小集団レベルでは、小集団における各種の相互作用や群衆行動など、大集団レベルでは、流言や流行、あるいは社会運動などの集合行動を扱っている。このように社会心理学の対象を区分することはある意味で便利であるが、実際にはこの区分が難しい、つまり、お互いに関連し合っている場合もあることを知っておくことが重要である。今回授業では、この社会心理学の概要を2回に分けて講義する。初回は、1)社会心理学とは何か、2)社会的知覚・認知、3)態度と説得をテーマに学習する。1)では、社会心理学の発展を歴史的に捉え、2)では個人がどのようにして他者の認識(つまり、知覚や認知)を行っているのかについて学習し、3)では人々が持つ他者や物に対する好意や非行為的な評価であり、その結果としての他者の評価の変更を促すコミュニケーションである、説得について学ぶ。

第22回授業
人間は社会的存在であり、私たちの行動は周囲の他者によって多様な影響を受ける。日常生活でも、他者かの様々な依頼や働きかけの中で生きている。そこでは人と人、人と物、人と情報の間に様々な相互作用が起こっている。そのような相互作用の関係を明らかにするのが、今回の授業で扱うテーマである。最初は社会的影響について学ぶが、これは私たちの行動が促進されたり、抑制される要因についての学習を行う。このような要因については、9種類程度の要因が考察されてきた(賞影響力、罰影響力、正当影響力、専門影響力、参照影響力、情報影響力、魅力影響力、対人影響力、役割影響力)。また対人魅力とは、人が他者に対して持つ肯定的感情(態度)や否定的感情(態度)のことである。そして、対人魅力が好意や嫌悪などの感情、信念などの認知、接近や回避などの行動傾向の三つの要素で構成されると考えられている。援助行動は他者が困難に陥っている場合に自らの多少の犠牲を覚悟した上でその他者を助ける行動である。仮に恩を売る目的や相手の印象をよくして最終的に自分の利益を得ようとする目的があったとしても、その行動自体が他者の助けになるならばそれも援助行動に含まれる。また社会的なルールに従って行われる援助行動は向社会的行動(prosocial behavior)と呼ばれる。

教科書第10章が学習範囲
コマ主題細目 ① 社会的知覚・認知  態度と説得 ② 社会的影響・対人的影響、対人魅力、援助行動
細目レベル ① 1)社会心理学とは・・・科目内での位置づけに示したように、社会における人間行動についての心理学であるが、その起源は人間の社会的行動に関する哲学的・思想史的考察に認められ、ギリシアの昔のプラトンやアリストテレスにまでさかのぼ。また近代ではホッブズやアダム・スミスの人間性論は現代の社会心理学と関わるようなテーマが取り上げられている。しかし、今日の社会心理学の直接の基礎づけは、19世紀後半の学問的動向から生まれたと言ってよい。例えば、908年にはロス(Ros, E.A.)による『社会心理学』が刊行された。これはアメリカにおいて社会心理学という名を冠した最初の書物となった。ロスは、タルド、ル・ボン、バジョットなどヨーロッパの学問的業績に影響を受けていた。イギリスでは、ロスが『社会心理学』を発表した同じ年に、マクドゥーガが『社会心理学入門』を発表し、本能論に基づく社会行動の説明を試み、大きな反響を生んだ。その後はアメリカ、ヨーロッパ、日本でも社会心理学は大いに発展するようになった。

2)社会的知覚・認知
社会的知覚や社会的認知は、私たちが他者を理解するために、その人物の情報を収集し、推論し、判断する過程のことである。ここでは第一印象が、重要な役割を果たす。学生のみなさんも初めて会う人物に対して、特定の印象(好印象、悪印象などなど)を経験したことがあるだろう。これが第一印象である。この印象は形成が素早くなされ、しかも持続して、変化しにくいことがわかっている。このような印象が形成されるのは、私たちがステレオタイプと呼ばれる心理学的機能を持っているからである。ステレオタイプとは、特定の集団に属する人たちに対する一般化された信念や期待を意味している。また、原因帰属とは、私たちが行動の原因がどこにあるのかを認識する方法である。ハイダー(Heider, 1958)は、この原因帰属に内的帰属と外的帰属があるとした。前者は行動の原因を当人の内にある態度、期待、能力などに帰属させるもので、後者は行動の原因を、当該人物を囲む環境や状況に帰属させる物である。

3)態度と説得
態度とは、人々が持つ他者や物に対する好意や非行為的な評価であり、その結果としての他者の評価の変更を促すコミュニケーションが説得である。まず態度に関しては、ある特定の対象が良いとか悪いというような信念、その対象が好きであるとか嫌いであるという感情、そしてその対象に接近するとか離れるというような行動の側面を持っている。そしてこの態度は様々な学習(第5回、第6回授業)を通して形成される。またザイヨンスの提唱した単純接触効果による影響力もある。説得による態度変化に関しては、マスメディアの心理学でも取り上げるが、説得に関してはさまざまなモデルや理論が提唱されてきている。精緻化見込みモデルや認知的不協和の理論が代表的な考え方である。

② たとえば、「来週までにレポート提出しないと単位が与えられないよ」と言われたとする。こうした働きかけがあった場合に、それを受けて行動する場合もあれば、そうでない場合もある。しかし、生活においては人からの依頼や指示に満ちていることも確かである。このような場合、私たち自身が依頼や指示の受け手、相手が与え手となっているが、私たちが相手の言う通りに行動した場合、なぜ与え手は受け手である私たちに影響を及ぼすことができるのだろうか。実は、それを説明する心理学的概念が社会的影響力(あるいは、社会的勢力, social power)と呼ばれるものである。その与え手には受け手に影響を与えるための資源があると捉え、それを社会的影響力と呼んでいまる。社会的影響力とは、「受け手の行動,態度,感情などを,与え手が望むように変化させうる能力のこと」である。そして、社会的影響力にはどのような種類でよく引用されている研究がFrench & Raven (1959)によるものである。彼らは、社会的影響力を5種類に分類した。すなわち、賞影響力、罰影響力、専門影響力、正当影響力、そして、参照影響力です。その後、Raven (1962)は、情報影響力を付け加えて6種類とした。今井(1996)は、さらに魅力影響力、対人関係影響力、役割影響力を付け加えて9種類とすることを提案した。

2)対人的影響
社会的影響は、個人間で行なわれる対人的影響(interpersonal influence:説得、依頼、指示、命令など)のほかに、多数の人々に影響を与えることを目的とした広告、宣伝、プロパガンダ(政治的宣伝)も含まれる。広い意味では、送り手(influence agent)となる他者の積極的な働きかけがまったくない状況のもとで、他者の存在自体が受け手に影響を及ぼすことも社会的影響に含まれる。たとえば,援助行動の研究では,緊急場面に居合わせた人の数が多くなるほど援助行動が抑制されることが知られており,傍観者効果(bystander effect)と呼ばれている(Fischer,P.,Krueger,J.,Greitemeyer,T.,Kastenmüller, A.,Vogrincic,C.,& Frey,D.,2011)。以上のように社会的影響のうち、個人間での対人による影響を対人的影響と言う。

3)対人魅力
既に見たように、対人魅力とは他者への肯定的な態度と言えるが、社会心理学の研究では、その態度に影響する要因が調べられてきた。それらの研究が示すのは以下の要因である。
① 身体的魅力:研究によれば学生における異性への魅力は、学業成績や性格よりも身体的魅力が高感度を規定する。
② 性格:対人魅力と性格との関連に関しては,類似説,相補説,社会的望ましさ説の三つの仮説が提唱されている
③ 状況要因 居住空間や教室内の座席などの物理的な距離の近さ(近接性propinquity)も魅力を引き起こす。たとえばシーガル(Segal,M.W.)は,警察学校の新入生が入学6週間後に教室内で座席の近い人と友人になりやすいことを明らかにしている。近接性に関しては,時間の経過とともに効果が減少していくとする研究や,好意だけでなく嫌悪も高めることを示した研究も見られる。
④ 心理状態 一般的には快適な状態では魅力が高まり,不快な状態では魅力が低下する。しかし,生理的覚醒を伴う状態では異なる結果が示されている。たとえばダットン(Dutton, D. G.)とアロン(Aron, A. P.)は,不安定な吊り橋を渡った直後や電気ショックを与えられる直前など,不安が生じた際に異性に対する好意が高まることを明らかにした。
⑤ 魅力の対象からの好意や評価 自分に好意を抱く人や自分を高く評価する人に対しては,魅力を感じやすい。この現象は,好意の互恵性(好意の返報性)reciprocity of likingとよばれる。

4)援助行動
援助行動は,他者にポジティブな影響を与える向社会的行動(pro-social behavior)の典型である。ほかにも救助,寄付・提供,分与・共有,支援,共同など多くの種類の向社会的行動がある。向社会的行動は行動間の類似度に基づく分析によって、①寄付・奉仕行動: お金の寄付、奉仕活動、献血、臓器提供、②分与・貸与行動:自分の貴重な持ち物の分与、貸与、共有、③緊急事態における救助行動:緊急事態への直接的・間接的介入、④労力を提供する援助行動:身体的努力の提供、労働奉仕、⑤迷子や遺失者に対する援助行動:迷子の世話、拾得物を持ち主に届ける、送り返す、⑥社会的弱者に対する援助行動:体の不自由な人、お年寄り、幼少児への援助、⑦小さな親切行動:ちょっとした思いやりや親切心からの行動、の7つに分類できる。

キーワード ① 社会的認知 ② 態度と説得 ③ 社会的影響 ④ 対人魅力 ⑤ 援助行動
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 第21回授業
予習
第21回授業は社会心理学の授業である。今回は社会心理学とは何か(その概要)、社会的知覚・認知、そして態度と説得について学習する。私たちは他者と相互作用する中で生活している。そこでは、他者をどのように理解するのか、そして他者に対して自分の態度をどのように決定するのかが重要な生活の鍵になる。教科書181ページから185ページを読んでおくこと。
復習
他者の認知がどのように認知されるのか、そして私たちの態度がどのような要因によって形成されるのか、さらに説得とはどのようになされるのかについて、きちんと説明できるようにまとめておくこと。

第22回授業
予習
第22回授業は、社会的影響、対人的影響、対人魅力、援助行動について学ぶ。他者から影響を受けて、私たちの行動は変化する。その影響を与える諸要因について学ぶ。教科書186ページから191ページを読んでおくこと。
復習
社会的影響、対人的影響、対人魅力、援助行動のそれぞれがどのように異なっているのか、それぞれの概念を構成する要因についての理解をしておくこと。また、それぞれの概念の説明ができるようにしておくこと。

12 臨床心理学 科目の中での位置付け 第23回授業
臨床心理学の英語はclinical psychologyであり、clinicalとは元々はギリシア語のクリーネという由来していて、土や粘土で作った寝台という意味である。そしてその上に病苦で横たわっている人を寝かせて、その傍らでその人の話を聞き、心の安らぎへと導くという、元々は宗教人が行っていた役割が語源である。つまり、元来は宗教的色彩の強い言葉であった。そして、その後の歴史的発展を経て、臨床心理学は次のように定義されるようになった。つまり「情緒や行動の障害に関する研究、アセスメント、診断、評価、予防、治療、を専門とする心理学の部門」と定義されている。これはA P A(アメリカ心理学会)の定義であるが、総体的になされたものである。日本ではこの臨床心理学が独自の発展を遂げたために、心理臨床学という名称が存在し、実際にこの名前を冠した学会が臨床系の最大の学会となっている。もちろん、名称はいずれであっても、臨床心理学の特徴は、心理的な問題に対して苦悩を有する人々に心理的支援を行うことを根本としている心理学の一学術分野ということができる。

第24回授業
心理療法は内容的には精神療法と呼ばれるものと同じであるが、一般には精神科医による治療的アプローチを精神療法といい、臨床心理士に代表される心理職による援助的アプローチを、心理療法という。今日までに提案されてきた特定の人間観を背景とする理論を学問的背景とし、その理論に基づく心理的援助実践活動を行なう方法論の総称と考えると理解しやすい。したがって各々の理論と技法の体系ごとに固有の心理療法を標榜する学派が存在する。心理療法は、人間的成長を重視し、健康な側面の成長促進を目的とするカウンセリング(counseling)や、アカデミックな心理学を背景に、実証的研究に基づく心理アセスメントと介入を軸としてさまざまな問題に対する解決を目的とする臨床心理学(clinical psychology)とは学問的に区別される。ただし、日本では、心理療法とカウンセリングの境界は明確ではなく、両者を融合したものとして「心理臨床学」という呼称が用いられることもある。一方、心理カウンセリングは、広くはいわゆるカウンセリングの範疇に入るが、狭義の意味での心理カウンセリングは、精神心理的な相談援助のことをいう。このカウンセリングの学問的基礎は心理学、特に応用心理学における臨床心理学が担っている。

教科書第11章が学習範囲
コマ主題細目 ① 心理療法、心理カウンセリング、心理療法の学派・療法
細目レベル ① 第23回授業
1)臨床心理学とは
臨床心理学とは、すでに述べたように、心理的問題の解決や改善を支援する実践活動と、その活動の有効性を保証するための理論や研究から構成されている心理学の一分野である。その起源には諸説があるが、主要な起源となったのは19世紀後半に始まるフロイト(Freud,S.)の精神分析学である。その後、様々な立場からのアプローチがなされ、たとえば、行動療法やクライエント中心療法などの心理療法の活動と理論が提案され、実践されてきた。臨床心理学の特徴は、臨床心理学は,人間行動がどのように維持発展されるかについての科学的探究にかかわる科学性と,人間の苦悩を生み出す状況を改善し,問題を解決していく臨床実践にかかわる実践性の両者から構成される学問となっている点である。そういう意味で、これまで学んできた心理学の諸領域とは異なる性質も有している。

2)心理アセスメント
臨床心理学の対象が、何らかの心理的問題を抱えている人を対象とするという意味で、個別性を重要視している点が挙げられる。つまり、臨床心理学の実践においては、その問題を明らかにするためのアセスメントが必要不可欠である。心理アセスメントは、援助を求めてきたフライエントが、なぜ今ここにきたのか、実際にどのような援助を求めているのかを理解し、その問題に対してどのような援助がふさわしいのかを検討するために、面接、観察、検査などの臨床心理学的手法を用いて、その問題を明らかにする手法と言える。

3)心理アセスメントの過程
心理アセスメントの過程は次のような流れに沿っている。1)事例の主訴を掴み、アセスメントの目的を明確化する。ここでは医療現場であれば、医師からの依頼で患者がどのような動機を持っているのか、何に困っているのか、心理療法が適応可能か、可能であればどのような手法を考えるかなどが判断される。2)事例の情報収集、ここでは行動観察、面接、検査バッテリーによって情報が収集される。3)情報の解釈と統合/仮説の生成、ここでは種々の心理学理論の知見が必要となる。仮説が立てられれば、自ずと援助・治療計画が策定される。4)は結果の報告で、援助・治療計画の提示となる。クライエントに内容を説明し、同意を得る段階でもある。5)が援助実践の開始である。

4)心理検査の種類
心理検査は心理アセスメントにおいて必須ではない。しかし、心理検査が心理アセスメントの有力なツールであることも間違いない。検査には信頼性と妥当性が保証されているものを用いること。また検査にはその目的(測定しようとする対象)によって、知能検査、発達検査、神経心理学的検査、パーソナリティ検査など様々な分類において、多様な種類が用意されている。知能検査には、個別式と集団式がある。臨床現場で最もよく使用されているのは個別式のウエクスラー知能検査(WAIS)である。これは成人式で、その他にも児童用(WISC)、幼児用(WPPSI)が用意されている。発達検査は乳幼児の精神発達を測定する検査がよく用いられる。これには個別式の新版K式発達検査がある。神経心理学的検査では、失語症評価、記名力・記憶検査、前頭葉機能検査などが使用される。パーソナリティ検査には質問紙法、作業検査法、投影法などがある。

② 第24回授業
1)心理療法
心理療法に関しては、19世紀後半に、近代科学の発展を背景に独自の理論と援助技法の体系をもつさまざまな心理療法が次々と誕生した。フロイト(Freud. S.)の精神分析、ユング(Jung, C.G.)の分析心理学、ウォルピ(Wolpe, J.)の行動療法、ロジャーズ (Rogers, C.R.)のクライエント中心療法など、これらの療法がいずれも個人の心の中に焦点を当てているのに対して、1960年代には,公民権運動や近代市民社会の発展を背景に他者との関係性や地域社会を視野に入れた心理療法が発展した。具体的には,対人関係を重視する対人関係論,家族システムとの関連を重視する家族療法,地域の社会的環境を重視するコミュニティ心理学などが挙げられる。このような時代背景によって、さまざまな心理療法が乱立したが、一方でこれらの混乱と競争を和らげようとする動きも現われ、心理療法の理論と技法の統合が進められるようになった。その背景には、心理療法が社会的行為とみなされる中で、1970年代以降は心理療法そのものの実践的有効性が問われるようになったことがある。各療法の効果評価を行なった結果、学派の違いよりも援助の有効性を示すエビデンスが重視されるようになった。そうした経緯もあって、ベック(Beck, A.T.)やエリス(Ellis, A.)が提唱した認知療法と行動療法が合わさった。認知行動療法cognitive behavior therapyは,その効果が科学的に実証されたエビデンスベイストな心理療法として,近年,世界的に発展している。

2)心理カウンセリング
カウンセリングが心理学に基づいた専門的行為という意味で使われるようになったのは1938年米国においてパターソン(Patterson,O.G.)、シュナイドラー(Schneidler,G.G.)、ウィリアムソン(Williamson,E.G.)による著書『学生ガイダンスの技法(Student Guidance Techniques)』においてである。翌年、ウィリアムソンは『学生カウンセリングの方法:臨床カウンセラーの技法マニュアル『How to Counsel Students:A Manual of Techniques for Clinical Counselors』を著わし、カウンセリング・カウンセラーという用語を使って、特性因子理論に基づく学生支援論を展開した。カウンセリングとは、学生の適合、環境の変化、適切な環境の選択、必要なスキルの学習、態度の変容を支援することであり、臨床的カウンセリング技法とは、分析、総合、診断、予後、カウンセリング、フォローアップの6段階を踏んだ個別対応であるとした。

3)心理療法の学派・療法
既に1)で見たように、心理療法においても様々な技法や理論が展開されているが、それらをまとめると以下のようになるだろう。
a. 精神分析:フロイトの創始による理論に基づく、無意識の存在を仮定した療法
b. 分析心理:ユングの創始した集合無意識に基づく元型などの概念に基づく療法
c. クライエント中心療法:ロジャーズの創始に基づく、来談者と面接者の関係を重視してクライエントの認知的変化を治療に導入
d. 行動療法:学習理論を応用した心理学的療法
e. 自律訓練法:催眠類似の方法によりリラクゼーションを図る療法
f. 認知行動療法:行動療法に認知療法が加わった新しい療法で、認知の変更を図る
g. 家族療法:個人の問題は家族関係に起因するとして、関係の変化を志向する療法
h. 統合的心理療法:療法に関する学派を超えて、効果的な療法を目指すもの
i. 遊戯療法:子どもを対象とした遊びを交流手段とした心理療法全般のこと
j. 芸術療法:各種の芸術を利用してクライエントの精神的成長を目指す療法。
k. 集団心理療法:グループ参加者の相互作用を利用して個人の変化を目指す療法。
l. 多文化間カウンセリング:異文化からの衝撃による混乱に対する援助。
m. 森田療法:森田正馬によって開発された神経症の治療法。
n. 内観療法:自分との対話を通して、重要な人との関係を相手の立場で想起できるような宗教的な見調べによる方法。
o. 臨床動作法:特定の動作をとることにより、主体的な変化を導く方法。


キーワード ① 心理療法 ② 心理カウンセリング ③ 臨床心理学 ④ 心理アセスメント
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 第23回授業
予習
第23回授業は臨床心理学について学ぶ。臨床心理学は日常生活において様々な心理的問題を抱えた人々を支援する、実践的な心理学である。心理学問題と言っても様々で、その内容も千差万別である。心の問題の多様性に心理学がどのようにアプローチしているかを学ぶ。教科書201ページから209ページを読んでおくこと。
復習
心の問題を探るアセスメントを中心に、その問題の所在を明らかにし、どのようなアプローチで、どのように解決を測るのか、また補助的な手段としての検査にどのようなものがあるのかについて学んだので、その点をまとめて理解しておくこと。

第24回授業
予習
24回授業は、心理療法、心理カウンセリング、心理療法の学派・療法について学ぶ。これらは心の問題にどのように対処することで、クライエントの安らぎを得ることができるのかに関わる技法や理論である。教科書の209ページから219ページを読んでおくこと。
復習
ここでは心理療法、心理カウンセリング、心理療法の学派・療法について学んだ。それぞれの概念の意味、特に心理療法、心理カウンセリングの違い、心理療法の学派が持つ独自の思考などについて、知識を整理しておくこと。

13 異常心理学 科目の中での位置付け 第25回授業
異常心理学とは、臨床心理学の主要な研究領域であり、人間の行動、体験の異常を記述し、その構造と発生の仕組みを研究する心理学の一分野である。歴史的な発展を見ると、神経症、精神障害などの症状を主として研究する精神病理学のことをさしていた。ただし、この用語はドイツの影響があり、フランスでは異常心理学という概念が主流であった。確かに、異常心理学の研究は多くの精神医学者の研究業績を土台としていた。たとえば、クレペリン、ブロイラー、ヤスパースらの研究がこの分野に大きな影響を与えてきた。しかし「精神異常」の研究という精神病理学から、さらに広く異常心理学としての研究もしだいに多くなってきた。その始まりはフランスのジャネ、ブロンデル(Blondel, C.)らの催眠による異常心理の解明からである。その流れをくむフロイトのヒステリー研究から発展した無意識の概念が提示され、この分野に新しい方向を与えることになった。さらにアメリカにおける臨床心理学者の台頭によって、異常心理学が著しく拡大、発展するに至った。異常が歴史的展開である。

第26回授業
18世紀、精神障害は医学の対象であるとされ、それまでは単なる異常とされていたものが、症状として捉えられるようになった、19世紀末にはクレペリン(Kraepelin, E.)によって精神障害の分類とそれぞれの症状が整理されることになった。クレペリンによって始められた分類は、それぞれの障害の基礎となる病因を考えて、それによって分類を試みるものであった。そして精神疾患は3つに分類されてきた。精神障害の分類には古典的に3分類によっている。それらは外因性・心因性・内因性である。ただ、このような分類法では、分類する側の主観的な要因で信頼性に問題があった。その点を改善するために、操作的診断法が開発された。これは、1970年代より始まり、診断の根拠を示す試みで、1980年代にアメリカ精神医学会が刊行した『精神障害の診断・統計マニュアル』第3版(DMS-III: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)から、障害ごとにそれぞれの症状の基準および除外基準が示された操作的診断法が確立された。
臨床アセスメントは、症状や問題が生じた背景にある個人的歴史、パーソナリティなどを考慮して、その問題の持つ意味を一般論ではない、その個人において理解しようとする試みである。また介入も生物・心理・社会モデルに従った介入が行われるのが一般的である。

教科書第12章が学習範囲
コマ主題細目 ① 異常とは何か、異常心理学のパラダイム ② 分類・診断・臨床アセスメント・介入
細目レベル ① 1) 異常とは何か
異常心理学は、正常な心理に対して異常な心理が存在するとの、二元論的な思考が前提となっているといえる。つまり、異常な人と正常な人では、何か質的な違いがあって、全く異なったグループに属しているという発想である。しかし、現実にこの両者の間に厳密な線引きを行うことは極めて難しい。それはもちろん異常をどのように考えるのかという大きな問題が含まれているからである。そして、この正常と異常という判断を行う場合には、それらの基準、特に異常という判断がなされる基準が明確にされている必要がある。では、今日、異常心理学ではどのような基準が用意されているのであろうか。以下、今日使用されている4つの基準を示すこととする。
① 適応的基準
当該人物が所属している社会集団に適応している状態を正常とし、その集団で不適応を起こし、社会的活動ができない状態を異常と考える基準である。
② 価値的基準
当該人物が所属する社会の大多数の人たちに共有されている価値判断(常識・習慣・法律など)に照らし合わせて、その社会の規範を守っているものを正常とし、許容度を超えた行動を異常とするものである。
③ 統計的基準
当該人物が所属する社会集団の中で、行動や思考などの何らかの特徴を数値化して、平均や標準に近いものを正常とし、それらから大きく逸脱したものを異常とするものである。
④ 病理的基準
医学的基準によって健康と判断されれば正常、病気や障害と診断されれば異常とするものである。

2) 異常心理学のパラダイム
パラダイムとはクーンによって提唱された、科学的共同体によって共有されている科学理論の基本的枠組みのことである。異常心理学におけるパラダイムとは、まさに異常ということに関する理論的枠組みのことであり、またその理解のためのアプローチに関する理論的枠組みということになろう。この枠組みに関しては、いくつかの立場がある。それらを以下に示す。
① 生物学的パラダイム
異常行動に関する生物学的パラダイムというのは、精神病理は脳の器質的な欠陥に原因があり、身体的過程によって異常が引き起こされるという認識である。そのために、このパラダイムは医学あるいは疾病モデルと呼ばれることが多かった。現在では、病因論の基礎となる遺伝や生化学的因子である神経伝達物質に焦点があてられることが多い。
② 精神分析的パラダイム
フロイトによって始められた異常行動の原因論で、無意識の過程や幼児期の生活や人間関係に原因があるとする考え方である。フロイトは心の構造をイド、自我、超自我という3領域に分けて考えた。
③ 学習パラダイム
学習理論に基づく考え方で、異常行動・不適応行動も学習の結果として捉える立場である。パブロフの古典的条件付けでは、無関連な中性的な刺激が特定の生理反応を生み出す刺激とともに反復して提示されることで、無関連な刺激のみによって特定の生理的反射を生み出すようになることである。例えば、白鼠を見せた時に驚かせるような大きな音を聞かせると、白鼠を見ただけで、驚くようになるというケースは、まさにこの学習の結果である。
④ 認知パラダイム
このパラダイムは認知の歪みによって、行動の異常が発生すると解釈する。ベックによれば、多くの異常行動の原因は、人が自分自身や世の中、将来に対して否定的なパターンの考え方をすることであると主張する。つまり人生に対する否定的な認知が問題行動を生み出すという。であるから、これを改善できれば、行動も改善するということになる。

② ●精神障害の分類
精神疾患は、脳の働きの変化、つまり神経間の情報伝達が機能しない状態になることによって起こるが、その原因によって、外因性・心因性・内因性と、大きく3つに分類される。外因性精神障害とは、外傷や疾患、薬物の影響などはっきりした理由で脳神経の働きが阻害され、精神症状がみられるものである。心因性精神障害とは、心理的ストレスが原因で症状が出てくるものです。ストレス反応(急性ストレス障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD))や適応障害などの神経症などである。内因性精神障害とは、原因がはっきりしないのに精神症状が見られるもので、代表的なものとしては統合失調症、気分障害(うつ病、双極性障害)が挙げられ、この内因性精神疾患だけを指して精神疾患や精神障害と定義する場合もある。

●診断法
操作的診断法:これは既に述べた、アメリカ精神医学会が刊行した『精神障害の診断・統計マニュアル』第3版(DMS-III: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)から、障害ごとにそれぞれの症状の基準および除外基準が示された操作的診断法によって行うものである。現在ではこのマニュアルも第5版が出されている。
ICD-10による精神障害の分類:これはWHOが作成した分類で、古典的な分類も引き継いだものとなっている。ないような、10個の障害群と特定不能の精神障害という11 個の障害に分類される。

●臨床アセスメント
これは既に示したように、症状や問題が生じた背景にある個人的歴史、パーソナリティなどを考慮して、その問題の持つ意味を一般論ではない、その個人において理解しようとする試みである。また介入も生物・心理・社会モデルに従った介入が行われるのが一般的である。

●介入
介入のモデルとしては、生物・心理・社会モデルに従った介入が行われるのが一般的である。では、それぞれのモデルを見ると、生物学的介入はその中心が薬物療法であり、障害の生物学的プロセスの解明に伴う、薬理の発展に伴ったものである。心理学的介入は、既に臨床心理学で学んだ諸アプローチが中心となっている。つまり、精神分析、学習理論に基づく行動療法、認知療法、論理療法、家族療法、芸術療法、森田療法などである。社会学的介入は、入院中心であったものから社会のコミュニティでの生活を行いながら、治療を行うというパタンにシフトしてきてている。

キーワード ① 異常心理学 ② 分類 ③ 診断 ④ アセスメント ⑤ 介入
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 第25回授業
予習
第25回授業では、異常心理学について学ぶ。異常心理学とは人間の行動、体験の異常を記述し、その構造と発生の仕組みを研究する心理学の一領域である。言葉がなかなか難しいが、異常とは何かということをきちんと整理できるように、教科書223ページから230ページまでを読んでおこう。
復習
異常と判断される基準、異常心理学の理論(パラダイム)について、知識を整理し、自分の言葉で説明できるようにしておくこと。

第26回授業
予習
第26回授業では、精神障害の分類、診断、臨床的アセスメント、介入というテーマの学習を行う。古典的分類や統計を使用した分類など、歴史的展開の中で分類方法も変化してきた。また診断やアセスメント、さらに介入の方法等について学ぶ。教科書223ページから234ページまでを読んでおくこと。
復習
異常心理学がどのような心理学の分野であるのか、また異常心理学が対象とするもの、その対象へのアプローチについて、精神障害の分類、診断、臨床的アセスメント、介入という区分から知識を整理しておくこと。


14 健康心理学 科目の中での位置付け 第27回授業
健康とは、個人においては、日常生活を送るために必要な最低限度の身体と精神の両面の条件が十分に満たされている状態のことである。身体面においても精神面においても重い疾病にかかっているならば健康ではないであろう。ただ、明らかな疾患があっても、生活を変えなければならない状態でなければ健康といえるであろう。つまり、個人がある社会において社会生活を営むうえで、その社会にうまく適応していける場合は健康といえる。
ところで、公式に健康心理学が確立されたのは、1973年にアメリカ心理学会(APA)に健康研究特別委員会が設置されたことで始まった。比較的新しい心理学領域である。それまでの健康と病気の問題に関する心理学的な研究はまだ不十分であり、健康行動の理解と改善に心理学の諸原理と方法を応用すべきとの勧告が行われた。このような経緯を背景に、1978年にアメリカ心理学会(APA)では、第38部会として健康心理学部会が成立し、1980年には健康心理学を「健康の推進・維持,疾病の予防・治療,健康・疾病・機能不全に関する原因・診断の究明、およびヘルスケア・システム(健康管理組織)・健康政策策定の分析と改善等に対する心理学領域の特定の教育的・科学的・専門的貢献の全てを指す」と定義した。

第28回授業
1950年代以降、人間の行動パタンと健康の関係が研究の対象になってきた。今回授業では、この人間の行動パタンと健康にどのような関係があるのかを学ぶ。最初に学ぶのは、タイプA行動と呼ばれる行動パタンと健康の関係である。この関係を最初に明らかにしたのが、アメリカの循環器内科医であるフリードマン(Friedman, M.)とローゼンマン(
Rosenman, R. H. ,1959)である。彼らはタイプAの行動特徴を、⑴短時間にできるだけ多くのことをやろうと精力的に活動する、⑵競争心が強い、⑶短気で敵意や攻撃性をもつ,⑷自分への評価や承認・地位にこだわる、⑸多方面の仕事に没頭していつも締切に追われている、⑹せっかちで動作が速い、などを挙げている。つまり、このタイプの行動パタンを持つ人物は、いつも忙しい人物で、アグレッシブで、・・・という燃え尽き症候群を示すような人である。これに対して、タイプBという行動パターンはゆったりとしていて、リラックスしているタイプの行動様式である。今日ではタイプDまでの行動パタンが知られている。





教科書第13章が学習範囲
コマ主題細目 ① 健康心理学の成立、心理学と健康の関連、ストレスと健康 ② パーソナリティと健康
細目レベル ① 1)心理学と健康の関連
健康に関する考え方は時代とともに変化してきた。第二次世界大戦以降における健康の定義は、1946年の世界保健機構(WHO)の憲章で明らかにされている。それは「健康等は完全な肉体的、精神的および社会福祉の状態であり、単に疾病又は病弱が浸剤しないということではない。到達しうる最高基準の健康を享受することは、人種、宗教、政治的信念または経済的若しくは社会的条件の差別なしに万人の有する基本的権利の一つである」というものである。このように定義していても、時代と共に環境、社会、経済的状況は変化していく。たとえば死因を見ても、1947年では1位が結核、2位が肺炎、3位が脳卒中であった。1961年は国民皆保険が実現したが、この年の死亡原因を見ると、1位が脳卒中、2位ががん、3位が心臓病で、結核は第6位であった。2010年には死亡原因の1位はがんである。また平均寿命(0歳児の平均余命)も年々長くなる傾向が知られている。
また我が国のみならず、世界的な傾向として長寿化の傾向が知られている。総人口に対する高齢者の比率がどんどん高くなっている。そのために高齢者の病気を持つ率も高くなり、その結果としての国民所得に対する国民医療費の広津も高くなってきている。

2)ストレスと健康
私たちの健康と関連が深いのがストレスである。ストレスという言葉はよく聞くが、それは一体何を意味しているのであろうか。ストレスは元来、物体に外から力が加わった時に生じる歪みを意味していた。ところがカナダの生理学者であるセリエ(Selye, H.)が、生体が中毒、感染、外傷、環境変化などの有害な刺激に晒されたときに体内に生じる機能的・器質的な心身の負担をストレスという概念で説明した。そしてストレスを生じさせる原因をストレッサーと呼んだ。
このストレスが生体に与えられると最初に身体に警告反応期が現れる。これはショック期であり、数分から1日程度、副腎皮質ホルモンの相対的な低下、血圧低下、低血糖、低体温、緊張低下、アドレナリンの分泌などが現れる。続いて抵抗力が高まる時期(反ショック期)を迎え、下垂体前葉から副腎皮質刺激ホルモンが増加し、血圧や体温の上昇、血糖値や神経活動の上昇が現れる。さらに次の段階では第2段階として、ストレス状態に対する反応が持続し、ストレスとの間に一定のバランスが取れる抵抗期に入る。
心理学とストレスの関係はどうであろうか。1980年代になるとラザラス (Lazarus, R.S.)のストレスモデルが優位になってくる。このモデルでは、ストレス対処の有効性が問題になることを指摘している。そしてストレスの認知、評価、対処行動、対処結果という流れが出てくる。

② 1)パーソナリティと健康
1960年代から70年代にかけて8年半にわたる前向き疫学調査(prospective epidemiological study:健康人を対象として、追跡調査によって病気になった人の要因を調べる調査)であるアメリカの西部共同研究Western Collaborative Group Study(WCGS: 1975年発表)を手始めに多くの研究の結果から、タイプA行動者はタイプB行動者の約2倍CHD(coronary heart disease: 冠状動脈性疾患)を発症すること、さらに心筋梗塞の再発率は5倍であることが示された。そこでCHDの危険因子である高血圧、肥満、喫煙などと同様に、それら疾患の危険因子として、タイプAが注目されるようになったのである。
またこのような行動を生じさせる背景となる性格(タイプA性格)の心理学的研究も行われてきた。グラス(Glass, D. C., 1977)はタイプA行動の本質を、環境に対する統制の確立であると主張した。それは、タイプA行動は挑戦的と判断される環境ストレスが高まるほど、コントロール感に動機づけられて強くなる、というものである。とくに事態の対処不可能性という脅威に直面すると、タイプAは最も先鋭化した形で発揮される。しかし,この対処不可能性が慢性化すると、自己コントロール感は逆に無力感に転じてしまい、徐々にうつ状態に陥る危険性があるといわれている。最近では、研究が進んで、CHDの危険因子としてとくに敵意や怒りが注目されるようになった。
このような行動パタンに関しては、タイプCやタイプDも知られるようになった。タイプCは癌患者に多く見られる性格として、怒り・悲しみなどの感情を抑制したり、自分を抑えて他者を気づかうことなどが挙げられている。このタイプCは、 癌のcancerのCを採用して命名されという(Temoshok, L. 1992)。
さらにCHDの危険因子として、タイプDの行動パタンの存在も指摘されてきている。これはデノレット(Denollet, J.)ら(2008)によって提唱されたタイプ D(憂うつdepressionのD)で、これもCHDの発症要因として注目されている(石原,2010)。タイプDの行動パタンは、ネガティブ感情(落ち込み・不安・抑うつ)を喚起することが多く、かつ社会的場面において感情表現を抑制する社会的抑制も高いものである。デノレットらがCHD患者を5~10年追跡調査した結果、タイプDが死亡率や心事故発生率に対して非常に高い予測要因であることが明らかにされた。残炎ながら、日本においてはタイプDに関する研究はまだほとんどなされていないが、今後注目される要因であるといえよう。

2)エクササイズと健康