区分 (心)心理学専門領域科目 臨床・障害領域 (犯)犯罪心理学基盤科目 (生・環)学部共通科目
ディプロマ・ポリシーとの関係
(心)専門的知識と実践的能力 (心)分析力と理解力 (心)地域貢献性
(環)専門性 (環)理解力 (環)実践力
カリキュラム・ポリシーとの関係
(心)課題分析力 (心)課題解決力 (心)課題対応力
(環)専門知識 (環)教養知識 (環)思考力 (環)実行力
カリキュラム全体の中でのこの科目の位置づけ
(心)本科目は1年生の必修科目であり,心理学専門領域科目の臨床・障害領域に設置されている。本科目を履修することで,臨床・障害領域の2年次以降の科目内容において専門的理解や心理的問題の分析および支援の理解を深めるとともに,他の領域の専門科目との関連においても有機的に結びついた学習が可能となる

(犯)犯罪心理学基盤科目に位置づけられ,現代の人々が抱えているさまざまな心の問題に対応する心理学的な理論と心理学的な治療技法の研究である臨床心理学について学ぶ。当科目では,犯罪心理学発展科目の学びの基盤となる,心理学の主要な領域に関する基礎知識を修得する。

科目の目的
精神障害やメンタルヘルス不調,いじめ,不登校,発達や学習についての問題,虐待,引きこもり,家族関係をめぐる問題,過労死,自殺問題など,現代の人々が抱えているさまざまな心の問題に対応する学問である臨床心理学について,その歴史や考え方などを探求する。それらの問題に対応する心理専門職としては,これまで1988年につくられた民間資格である臨床心理士が主に対応してきた。また,2015年9月に公認心理師法が制定・公布され,2018年にわが国初の心理専門職の国家資格である公認心理師が誕生した。本科目では,上述したような心の問題について,臨床心理士や公認心理師などの心理専門職が身につけるべき基本的な知識を学ぶことを目的とする。
到達目標
この科目では臨床心理学の成り立ちや,代表的な理論について学ぶ。これにより,臨床心理学が対象とする人々の心の問題,各心理療法の成り立ちや理論,心理アセスメント,臨床心理学的地域援助,心理専門職の研究や研鑽,倫理規定といった,臨床心理士や公認心理師などの心理専門職が身につけるべき基本的な知識について理解する。
科目の概要
本科目は2015年9月に制定・公布された「公認心理師法」第7条の第1項で大学において心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省・厚生労働省令で定めるとされた科目である。そのため,①臨床心理学の成り立ち(A:精神分析学と力動的心理療法の成り立ち,B:行動理論と行動療法の成り立ち,C:人間性心理学と人間中心アプローチの成り立ち,D:認知理論と認知行動療法の成り立ち,E:心理療法の諸理論の成り立ち,F:心理アセスメントの成り立ち),②臨床心理学の代表的な理論(A:臨床心理学の基本概念,B:面接法によるアセスメントの理論と技法,C:知能・発達・認知機能のアセスメントの理論と技法,D:性格検査の理論と技法,E:見立てと心の病理学,F:心理療法の理論,G:心理療法の折衷と技法選択・効果のエビデンス)などの内容を含んでいる。
科目のキーワード
①臨床心理学  ②臨床心理学面接 ③精神分析的心理療法  ④認知行動療法  ⑤クライエント中心療法  ⑥心理アセスメント  ⑦異常心理学  ⑧臨床心理学的地域援助  ⑨倫理規定  ⑩研究と実践
授業の展開方法
教員による講義を中心に行う。教員は臨床心理士として非常勤で児童精神科病院,教育センター,学生相談室に勤務し,常勤でスクールカウンセラーとして学校に勤務した実務経験がある。そのため,授業では教員の実務経験に基づいた具体的なエピソードが活用される場面も多くなる。これにより,受講生は本科目の内容について,より具体的な知識として学ぶことができるであろう。
オフィス・アワー
【月曜日】2時限目(前期のみ)、昼休み、4時限目(後期のみ)、【水曜日】2・昼休み・3・4・5時限目(会議日は除く)、【金曜日】1・2時限目
科目コード PSC200
学年・期 1年・後期
科目名 臨床心理学概論
単位数 2
授業形態 講義
必修・選択 必須
学習時間 【授業】90分×15 【予習】90分以上×15 【復習】90分以上×15
前提とする科目 心理学概論 発達心理学
展開科目 公認心理師の職責 心理演習 心理実習 他 
関連資格 公認心理師
担当教員名 二宮有輝
主題コマシラバス項目内容教材・教具
1 臨床心理学とは 科目の中での位置付け 本科目は,公認心理師法第7条に規定されている公認心理師となるために必要な科目であり,その基準を満たすために,①臨床心理学の成り立ち(A:精神分析学と力動的心理療法の成り立ち,B:行動理論と行動療法の成り立ち,C:人間性心理学と人間中心アプローチの成り立ち,D:認知理論と認知行動療法の成り立ち,E:心理療法の諸理論の成り立ち,F:心理アセスメントの成り立ち),②臨床心理学の代表的な理論(A:臨床心理学の基本概念,B:面接法によるアセスメントの理論と技法,C:知能・発達・認知機能のアセスメントの理論と技法,D:性格検査の理論と技法,E:見立てと心の病理学,F:心理療法の理論,G:心理療法の折衷と技法選択・効果のエビデンス)などの内容を含んでいる。本コマ(第1回)では,②臨床心理学の代表的な理論(A:臨床心理学の基本概念)について学ぶ。
配布資料,および参考文献(細目①:公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会HP:http://fjcbcp.or.jp/,細目②:下山晴彦 他 編『公認心理師スタンダードテキストシリーズ3 臨床心理学概論』ミネルヴァ書房;伊藤良子 編著『いちばんはじめに読む心理学の本① 臨床心理学ー全体的存在として人間を理解するー』ミネルヴァ書房 pp. 1-7,細目③:公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会HP:http://fjcbcp.or.jp/)
コマ主題細目 ① 臨床心理学とは ② 臨床心理学の成り立ち ③ 臨床心理学の4つの領域
細目レベル ① 臨床心理学(Clinical Psychology)は,「科学,理論,実践を統合して,人間行動の適応調整や人格的成長を促進するととともに,不適応,障害,苦悩の成り立ちを研究し,問題を予測し,そして問題を軽減,解消することを目指す学問である」と定義されている(米国心理学会 American Psychological Association; APA)。そして,この臨床心理学に基づいて心理的支援を行う心理専門職として,臨床心理士や公認心理師がある。

上記の定義からわかる通り,こうした心理専門職においては,心理的問題の解決を支援する実践者だけでなく,要因を探究する科学者であることが同時に求められる。すなわち,心理的苦悩を含めた人間行動の科学的探究(科学性)と,心理的問題の改善や解決を支援する臨床実践(実践性)の両方の立場に立脚する必要がある。このようなあり方を,「科学者-実践者モデル」と呼ぶ。


一方,臨床心理学の「臨床」とは,もともと,「床(とこ)に臨む」,すなわち病気で横たわる人の傍にいて看取るということを意味する言葉である。現在では,「臨床」という用語は,「臨床医」「臨床教育学」「臨床社会学」など,人間に関わることにおいて「実践的な」という意味で用いられることが多くなった。したがって,臨床心理学とは,心理学の中でも人間に関わる実践的な学問であるということができる。そのため,科学的な視点から,心の問題を抱えた人とその病理を客観的な「対象」として捉えることは重要であるものの,我々の元に相談に訪れる人々は,それぞれ異なる背景や事情を持った個人,すなわちそれぞれ固有の「個別性」を持った人間であることから,臨床心理学では,「個別の・主観的な・非因果的な」,つまり科学的ではない思考が重要になってくる。

心理学における方法論には,「法則定立型アプローチ」と「個性記述的アプローチ」の二つがある。前者は科学的かつ実証的に人間の学習,知覚,動機などの一般法則を発見し,人格の構造や機能を明らかにしようとする立場であり,後者は特定の人間,一人ひとりの理解に焦点を合わせ,複数の視点といくつかの方法を組み合わせて,個人の人格的特徴を総合的に理解しようとする立場である。
法則定立的アプローチは,人間の苦悩のメカニズム,プロセスを理解する上で重要であるが,臨床心理学の実践は,目の前にいる一人の人間を理解したい,理解しようとする姿勢に根ざしている。そのため,臨床実践においては個性記述的アプローチに重きが置かれる


19世紀に近代精神医学が成立した。これには二つの流れがあり,一つは早発性痴呆(統合失調症)・躁うつ病(双極性障害)の概念を提唱したクレペリンKraepelinをはじめとする,近代的な合理性に基づいて心の病などの不合理を解き明かそうとする流れである。二つ目は,シャルコーCharcot・ジャネJanet・フロイトFreud,S.らによる神経症の研究である。これは,合理的な人間という見方に基づいた1つ目の流れと異なり,不合理性が心の本質であるとする前提に立って心の病を理解する流れである。

そして,アメリカのウィトマーWitmerが,ペンシルベニア大学に世界最初の心理クリニックを開設し,初めて「臨床心理学」という用語を用いた。ウィトマーの心理クリニックは,実験心理学などから得られた心に関する科学的知見を,障害のある子どもたちの診断と治療教育に活用しており,当初の臨床心理学は科学的志向が強かったことが窺える。

1909年には,フロイトがアメリカに招待され講演を行ったことをきっかけに,精神分析が米国の臨床心理学に取り入れられ,大きな流れとなっていった。1920年頃にこの流れに反発し,臨床心理学は客観性や科学性に重点をおくべきだと主張したのが,ワトソン(Watson, J. B.)である。彼の考え方は後の行動療法の起源となった。

1940年代にはロジャーズ(Rogers, C. R.)のクライエント中心療法が新たな介入法として注目され,その後 1970年代までに家族療法,コミュニティ心理学,認知療法など,様々な介入方法が提案され,多様な心理的アセスメント技法や介入技法を含む新たな実践の学問として臨床心理学が形作られていった。

一方,様々な対立から,20世紀前半までは臨床心理学は一貫した学問体系ではなく異なる学派や心理療法の集合体としての位置付けにとどまっていた。すなわち,様々な場所で異なるルーツを持つ心理療法が生まれ,それらが時間をかけて現在の臨床心理学へと統合されていったのである。


日本臨床心理士資格認定協によれば,臨床心理士の職務内容には以下の4つの領域がある。これらの領域は,学問としての臨床心理学の専門領域と考えて良い。4つの領域は,① 臨床心理アセスメント(査定),② 臨床心理面接,③ 臨床心理的地域援助,そして④ 研究である。

 ① 臨床心理アセスメント(査定)とは,心理検査や観察面接を通じて,個々人の独自性,個別性の固有な特徴や問題点の所在を明らかにすることを意味している。アセスメントを行うためには,心の病や問題を扱う異常心理学,心理検査に関する知識や,面接におけるアセスメントの視点を学ぶことが必要である。また,心理アセスメントは心の問題で悩む人々をどのような方法で援助するのが望ましいか明らかにしようとすることも含まれることに加えて,他の専門家とも検討を行う専門行為といえる。

② 臨床心理面接とは,さまざまな臨床心理学的技法(精神分析,夢分析,遊戯療法,クライエント中心療法,集団心理療法、行動療法,箱庭療法,臨床動作法,家族療法,芸術療法,認知療法,ゲシュタルト療法,イメージ療法など)を用いて,クライエントの心の支援に資する心理専門職にとってもっとも中心的な専門行為である。これらを学ぶために,本科目では代表的な心理療法の技法の成り立ちや,その理論について学んでいく。

③ 臨床心理的地域援助とは,問題を抱えた個人ではなく,その周りにいて問題を抱えた個人を支える人々,そして地域住民や学校,職場に所属する人々(コミュニティ)の心の健康や地域住民の被害の支援活動を行うことである。このようなアプローチの仕方は,「コミュニティアプローチ」とも呼ばれる。また,一般的な生活環境の健全な発展のために,心理的情報を提供したり提言する活動も地域援助の業務に含まれる。

最後に,④ 研究は,臨床心理に関する手法や知識を確実なものにするために,基礎となる調査や研究活動を実施することを指している。特に,事例研究の学習は,心理専門職に求められる大切な専門業務であり,自らの専門資質の維持・発展に資するきわめて重要な自己研鑽に関する専門業務といえる。また,この領域には,科学的視点に基づいた調査・研究のみではなく,個々の心理臨床に関する個人研究,すなわち自己研鑽も含まれる。

キーワード ① 臨床心理学 ② 近代精神医学 ③ 科学者-実践者モデル ④ 法則定立型アプローチと個性記述的アプローチ ⑤ 臨床心理学の4領域
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:臨床心理学の成り立ちおよび,4つの領域について,配布資料や教科書を読んでしっかり身につける。また,科学者-実践者モデル,および法則定立型アプローチと個性記述的アプローチについて復習し,説明できるようにしておくこと。

予習:精神分析の考え方などについて,これまで他の授業などで学んだことや自分で勉強したことをまとめておく。また,次回の授業に向けて,「言語連想法」,「錯誤行為」,「意識」・「無意識」・「前意識」,「自我」・「超自我」・「イド」,「リビドー」などの精神分析と関係の深い用語について,心理学の事典・辞典などで自分で調べ,意味を把握しておくことが役に立つだろう。

2 心理療法論①:精神分析1 科目の中での位置付け 本科目は,公認心理師法第7条に規定されている公認心理師となるために必要な科目であり,その基準を満たすために,①臨床心理学の成り立ち(A:精神分析学と力動的心理療法の成り立ち,B:行動理論と行動療法の成り立ち,C:人間性心理学と人間中心アプローチの成り立ち,D:認知理論と認知行動療法の成り立ち,E:心理療法の諸理論の成り立ち,F:心理アセスメントの成り立ち),②臨床心理学の代表的な理論(A:臨床心理学の基本概念,B:面接法によるアセスメントの理論と技法,C:知能・発達・認知機能のアセスメントの理論と技法,D:性格検査の理論と技法,E:見立てと心の病理学,F:心理療法の理論,G:心理療法の折衷と技法選択・効果のエビデンス)などの内容を含んでいる。本コマ(第2回)では,①臨床心理学の成り立ち(A:精神分析学と力動的心理療法の成り立ち)・②臨床心理学の代表的な理論(F:心理療法の理論)について学ぶ。
配布資料,および参考文献(細目①:教科書 pp. 93-96;小此木啓吾 他『精神分析セミナーⅢ フロイトの治療技法論』岩崎学術出版社 pp. 15-26,細目②:教科書 pp. 93-96;小此木啓吾 他『精神分析セミナーⅢ フロイトの治療技法論』岩崎学術出版社 pp. 85-100,細目③:教科書 pp. 93-96;小此木啓吾 他『精神分析セミナーⅣ フロイトの精神病理学理論』岩崎学術出版社 pp. 80-82)
コマ主題細目 ① 精神分析の成り立ち ② 力動論・構造論 ③ 防衛機制
細目レベル ① ジグムント・フロイト(Freud, S.)は精神分析を創始したことで有名であるが,フロイトは最初から精神分析による治療を行っていたわけではない。精神分析を創始する以前,ヒステリー患者に対する催眠の時代があった。ヒステリーとは,現代で言うところの「転換ヒステリー」もしくは「変換症」に該当する疾患であり,器質的には異常が認められないにも関わらず,足が動かなくなったり目が見えなくなったり,突然意識を消失するなどの身体症状が現れるものである。

1895年,フロイトは,先輩である医師,ブロイアーと共著で『ヒステリー研究』を出版する。その本の中に取り上げられた事例アンナ,O.は,催眠にかかると自分が忘れていた記憶を思い出して語り,そののちに症状が消失した。このことから,フロイトは意識すると耐えがたいなんらかの経験(心的外傷)が人間の意識できない領域(無意識)に押さえ込まれると考えた。

その後,精神分析は,フロイトの治療技法が催眠浄化法から自由連想法へ移っていったことから始まる。催眠浄化法は,催眠のかかりやすさに個人差があることや,また,再発の可能性があることなど,効果が不安定であった。また,催眠をかける治療者と,かけられる患者の関係が,催眠に影響してしまうこともある。そこで,フロイトは,患者に心に思い浮かんだことを隠さずに何でも話させるという自由連想法を用いるようになったのである。このようにして精神分析が誕生したことにより,それまで治療手法が確立されてこなかった神経症という心の病を治療する道が開かれたのである。

② 先に述べたように,フロイトは人間の心の中に,自身が意識できない無意識と呼ばれる領域があると仮定した。このように,心の領域を意識や無意識といった領域に分ける考えを,「局所論」と呼ぶ。そして,心の病の原因となるのは,意識に入ってくると激しい嫌悪感や罪悪感などを生じさせる欲望や感情,記憶であると考えた。

心の病の原因となる心的内容は,無意識に押し込まれることで,気づくことができなくなる。こうした押さえ込みは,人間が自身を守るために行なっているものであると考えられた。これがいわゆる,「抑圧」(Repression)と呼ばれる防衛規制である。

抑圧された心的内容は,おりにふれて意識に浮上しようするが,意識はそれに直面したくないため抑え込みたいという葛藤が生じる。その結果として,押さえ込まれた苦痛を伴う経験は,意識的にそれえを思い出すという形ではなく,身体的な症状として表現されて現れてくるという,心理的な症状の基本的なメカニズムが明らかにされていった。フロイトは,複数の神経症患者の事例から,こうしたメカニズムを考案した。

一方,局所論では意識することが苦痛な体験の記憶や感情といったものが無意識に抑圧される際,一体何によって抑圧されるのかという疑問が残るという点が問題となった。そこで,フロイトは「自我」・「超自我」・「エス(イド)」という心的装置が心の中に存在するという,「構造論」を提出した。

この「自我・超自我・エス」の概念の導入により,人の心の中の葛藤を捉える力動的な理解の仕方が発展していったのである。すなわち,自我(ego=私)に入ることができない,快楽原則に従う欲動や感情を司るエス(es=it),そしてそのような不道徳的な心的内容を監視する,道徳心を司る超自我(super ego)という3つの構造間の力動を想定したのである。

また,自我は,外界から自分を守るだけではなく,イドに由来する欲求や,超自我による禁止など,内的なものからも自分を守るはたらきがある。これが「抑圧」などの「自我の防衛機制」である。

③ 防衛機制(Defense Mechanism)とは,自我が心の均衡状態を保つために行なっている機能である。一般的に,「防衛」という言葉を聞くと,外界からの攻撃や脅威から身を守ることをイメージしやすいが,精神分析における防衛機制は,自身の内側について働くものである。すなわち,先に述べた抑圧のように,自我に入ってきては困る欲動や感情,記憶などが意識に昇らないようにする方向に働くのが防衛機制である。フロイトの理論は,初期には防衛と抑圧は同義であった。しかしその後,様々な事例から,防衛機制には抑圧以外にも様々な種類があるとする理論に変化していった。

以下に,代表的な防衛機制について述べる。これらの防衛機制は対人関係のあり方にも影響を及ぼし,過度になると特定の精神病理と結びつくことが知られている。

「投影」(projection)とは,自分の中にあることを認めたくない欲動や感情を外に排出し,相手が持っていると思い込む防衛機制である。例えば,本当は自分が相手に対して怒りを覚えているのに,それが意識されずに,その怒りをあたかも相手が持っている,すなわち「あの人は私に怒っている」と思い込む場合がこれに該当する。投影を過度に用いる人は,いわゆる被害妄想を抱きやすく,対人関係から退却したり,他者と円滑な関係を築けないなどの問題を生じやすいとされる。

「反動形成」(reaction formation)は,本心とは逆のことをする防衛機制である。例えば,敵意・攻撃性を抱く相手に対して,過剰に親切,礼儀正しく,下手に出ることで,自身の敵意や攻撃性を抑え込む場合などがこれに当たる。反動形成は,強迫症あるいは強迫性格と呼ばれるものと関連が深い防衛機制である。強迫症とは,例えば手が汚れた,鍵を閉め忘れたかもしれない,といった観念が浮かび,それに囚われてしまい,その不快感を解消するための行為(強迫行為)を繰り返すことで,日常生活に支障が出る疾患である。

その他,代表的な防衛機制として,「置き換え」(replacement)が挙げられる。これは,欲求の対象や表現手段などを別のもので代替する防衛機制である。例えば,怒りを覚えた対象に直接攻撃できないので,物に八つ当たりするなどがこれに当たる。置き換えは,恐怖症と関連が深い防衛機制である。すなわち,本当は噛みついてくるような父親が怖いが,それを意識化するのを避けて,代わりに犬(噛み付くのメタファー)を怖がる,といったメカニズムがあると理解される。

一方,様々な防衛は置き換えで成り立っているとも考えられる(義兄と結ばれたい,という欲求を意識化すること,足が動かなくなるという症状に置き換える,など)。ここで,防衛機制は種類を同定することが重要ではなく,その存在に気づくことが重要である。置き換えという防衛機制は,種々の精神病理や心の問題を理解するためによく使用される。すなわち,この症状は何か本質的な問題が置き換えられたものだ,ということは理解できるためである。

キーワード ① フロイト ② 自由連想法 ③ 局所論 ④ 構造論 ⑤ 防衛機制
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:精神分析の基本となる考え方がかたちづくられていくまでの流れを,配付資料をもとに再度確認しておく。特に,局所論や構造論について確認し,「自我」・「超自我」・「イド(エス)」・「超自我」の役割について確認しておくと良いだろう。これには,フロイトの有名な事例(エリザベートの事例など)を参考に,心的内容がどのように身体症状として現れるのかを学ぶことが有効である。

予習:①フロイトの発達理論について,教科書を読んだり自身で文献を調べて予習しておく。②精神分析における治療理論について,教科書や文献をもとに理解を深めておく。特に転移や抵抗,解釈といった概念が中心となるため,これらの概念を理解しておくことが望ましい。③精神分析はフロイト以後,様々な形で発展していった。無意識を扱う精神分析の分派にはどのようなものがあるか,事前に調べておくと良いだろう。

3 心理療法論②:精神分析2 科目の中での位置付け 本科目は,公認心理師法第7条に規定されている公認心理師となるために必要な科目であり,その基準を満たすために,①臨床心理学の成り立ち(A:精神分析学と力動的心理療法の成り立ち,B:行動理論と行動療法の成り立ち,C:人間性心理学と人間中心アプローチの成り立ち,D:認知理論と認知行動療法の成り立ち,E:心理療法の諸理論の成り立ち,F:心理アセスメントの成り立ち),②臨床心理学の代表的な理論(A:臨床心理学の基本概念,B:面接法によるアセスメントの理論と技法,C:知能・発達・認知機能のアセスメントの理論と技法,D:性格検査の理論と技法,E:見立てと心の病理学,F:心理療法の理論,G:心理療法の折衷と技法選択・効果のエビデンス)などの内容を含んでいる。本コマ(第2回)では,①臨床心理学の成り立ち(A:精神分析学と力動的心理療法の成り立ち)・②臨床心理学の代表的な理論(E:見立てと心の病理学,F:心理療法の理論)について学ぶ。
配布資料・参考文献(細目①:教科書 pp. 93-96,細目②:教科書:93-96;小此木啓吾 他『精神分析セミナーⅢ フロイトの治療技法論』岩崎学術出版社 pp. 85-100,細目③:教科書 pp.97-110)
コマ主題細目 ① 心理-性的発達理論 ② 精神分析療法 ③ 精神分析の発展
細目レベル ① 初期のフロイトの理論では,患者が抑圧しているのは幼少期に受けた外傷体験(主に性的虐待体験)であり,自由連想法によってこの記憶が意識化されれば神経症の症状は消失する,と考えられていた。

しかし,その後,全ての患者に性的外傷体験があるわけではないことがわかってきた。すなわち,患者は幼少期に受けた性的外傷体験を報告するのであるが,それが事実とは考えにくい事例が多いことに気づいたのである。

こうした事実から,フロイトは幼少期に実際にあった性的外傷体験の記憶を想起することで症状が消失するという,性的外傷説を放棄した。代わりにフロイトは,患者自身が持つ性的欲求に着目したのである。すなわち,神経症の症状の背景にあるのは,「母親(父親)と結ばれたい」といった患者側の欲求であり,これらの欲求は道徳的に認め難い性質のものであるために抑圧されると考えたのである。

そこでフロイトが提唱したのが,「心理-性的発達段階」である。この理論では,「リビドー」と呼ばれる性的エネルギーが身体に備給されて敏感になる部位が発達に応じて変化する,と想定されている。特に,3歳から5歳頃までの時期は「エディプス期」と呼ばれる。これは,同性の親を亡き者にして異性の親と結ばれたい,という欲求と葛藤(エディプス・コンプレックス)が生じる時期である。なお,子どもの性的欲求は大人の性的欲求と区別され,大人の性的欲求は「性器性欲」,子どもの性的欲求は「幼児性欲」と呼ばれ,全く別物であると考えられている。

② 精神分析は,フロイトの治療技法が催眠浄化法から自由連想法へ移っていったことから始まる。催眠浄化法は,催眠のかかりやすさに個人差があることや,また,再発の可能性があることなど,効果が不安定であった。また,催眠をかける治療者と,かけられる患者の関係が,催眠に影響してしまうこともある。

そこで,フロイトは,患者に心に思い浮かんだことを隠さずに何でも話させるという自由連想法を用いるようになったのである。自由連想法では,患者は些細なことや,関係がないと思われることも含めて全てを話すよう促されるが,この方法を続けていくと,例えば何も思いつかないと言ったり,思いついたことを話すことを拒否したりするなど,治療のルールに対する「抵抗」が生じるようになる。

また,治療が進むにつれて,患者が過去の人間関係でいだいた感情を治療者に向けて投影する「転移」(治療者の側が患者に向けて投影する転移のことを「逆転移」という)も生じるようになる。こうした患者の「抵抗」や「転移」について分析し,患者が今まで無意識的に意識することを避けていた内容を意識化していくという治療技法が確立されていった。

③  精神分析は,フロイトの仲間やその弟子によってその後様々な学派に分かれ,発展していった。

【分析心理学(ユング)】
 カール・グスタフ・ユング(Jung, C. G.)は,フロイトの仲間として国際精神分析学会の創設期に活躍した人物であるが,フロイトが人間のエネルギーの中心を性的なもの(リビドー)と考えたのに対して,人間のエネルギーはそれ以外にもさらに広いエネルギーがあると考えたことなどから,フロイトと訣別することとなった。ユングは無意識について,フロイトが想定した個人が持つ「個人的無意識」だけでなく,そのさらに深い層に人類共通の無意識,すなわち「普遍的無意識」があると考えた。そして,ユングは意識と無意識というように,人間の心を相反するものが相補的に関与し合う図式を描いており,これらが統合されて全体性を獲得していくことが重要だと考えた。なお,ユングは普遍的無意識の存在は,「元型」として現れると考えた。元型とは,我々の深い無意識の中に存在しているものが具現化されて表現されるもので,物語や夢などにあわられるものである。

【自我心理学(アンナ・フロイト,エリック・エリクソンなど】
 フロイトの跡を継いで,自我の諸機能に関する理論を追求し,発展させた流れが自我心理学である。代表的な理論家に,フロイトの娘であるアンナ・フロイトが挙げられる。自我には,①現実機能:現実を認識する力,②防衛機能:防衛機制,③適応機能:現実への適応力,④対象関係機能:心の内面との関係,⑤自律機能:興味関心に向けて前進する力(葛藤に巻き込まれていない自我),そして⑥統合機能:自分を自分というまとまりにする働き,などがあると考えられている。なお,エリック・エリクソンは,生涯発達理論(心理-社会的発達段階)を提唱したことで有名である。

【対象関係論(メラニー・クライン,フェアバーン,ウィニコットなど】
 対象関係論とは,精神内界に内在化された対象(内的対象)との関係や,それと現実の対人関係との相互作用を扱う理論である。1930年代からイギリスで発展してきた理論で,メラニー・クライン(Klein, M.)やフェアバーン,ウィニコットらが有名な理論家として挙げられる。特徴の一つに,フロイトが想定したより早期の母子関係に焦点を当てている,ということが挙げられる。また,この時期に見られる防衛機制として,原始的防衛機制という概念を提唱し,今日では特に,境界性パーソナリティ障害と呼ばれる疾患を抱えた人々の理解に有効な理論となっている。原始的防衛機制には,投影性同一視や分裂といったものが含まれる。

キーワード ① 心理-性的発達理論 ② エディプス・コンプレックス ③ 抵抗 ④ 転移 ⑤ 解釈
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:①心理-性的発達理論について,各時期の期間や特徴について確認しておく。これには,初期のフロイトの理論の流れを前回の授業内容から遡って確認すると,理解しやすいであろう。②精神分析療法における,抵抗,転移,そして解釈について確認しておくこと。これには,フロイトの代表的な事例(例えば,症例ドラ)を読むとより理解が深まるであろう。③フロイト以後の精神分析の発展について,それぞれの学派の特徴を教科書や配布資料,文献を調べて確認しておくこと。

予習:人間の認知や行動といった側面に注目した心理療法の考え方などについて,これまで他の授業などで学んだことや自分で勉強したことをまとめておく。また,次回の授業内容と関連の深い,「行動療法」,「古典的条件づけ」,「オペラント条件づけ」といった用語について,自分で調べ,意味を把握しておくと役立つだろう。

4 心理療法論③:行動療法 科目の中での位置付け 本科目は,公認心理師法第7条に規定されている公認心理師となるために必要な科目であり,その基準を満たすために,①臨床心理学の成り立ち(A:精神分析学と力動的心理療法の成り立ち,B:行動理論と行動療法の成り立ち,C:人間性心理学と人間中心アプローチの成り立ち,D:認知理論と認知行動療法の成り立ち,E:心理療法の諸理論の成り立ち,F:心理アセスメントの成り立ち),②臨床心理学の代表的な理論(A:臨床心理学の基本概念,B:面接法によるアセスメントの理論と技法,C:知能・発達・認知機能のアセスメントの理論と技法,D:性格検査の理論と技法,E:見立てと心の病理学,F:心理療法の理論,G:心理療法の折衷と技法選択・効果のエビデンス)などの内容を含んでいる。本コマ(第2回)では,①臨床心理学の成り立ち(B:行動理論と行動療法の成り立ち)・②臨床心理学の代表的な理論(E:見立てと心の病理学,F:心理療法の理論)について学ぶ。
配布資料,および参考文献(細目①教科書 pp. 105;下山晴彦 他 編『公認心理師スタンダードテキストシリーズ3 臨床心理学概論』ミネルヴァ書房 pp. 98-109,細目②:下山晴彦 他 編『公認心理師スタンダードテキストシリーズ3 臨床心理学概論』ミネルヴァ書房pp. 98-109,細目③下山晴彦 他 編『公認心理師スタンダードテキストシリーズ3 臨床心理学概論』ミネルヴァ書房 pp. 98-109)
コマ主題細目 ① 古典的条件づけ ② オペラント条件づけ ③ 行動療法の技法
細目レベル ① 従来の心理学が対象としていたものは,性格や思考,感情といった人の心の中で生じている事柄であった。しかし,心の中のことは直接観察することはできない。したがって,観察者によって見方が違うという問題が生じる。そこで,心の中で生じている現象ではなく,直接観測可能な行動によって心を科学的に検討しようとする立場が現れた。こうした考えを,「行動主義」と呼ぶ。

行動主義を提唱したのが,ジョン・ワトソン(Watson, J. B.)である。彼は意識,無意識といった目に見えない対象を扱う従来の心理学のあり方を批判し,客観的に観察可能な行動や生理的反応に着目することで, 刺激と反応の関係を分析し,行動を予測,コントールすることを重視した。

ワトソンの学習理論は,ロシアのパブロフ(Pavlov, I. P.)が発見した古典的条件づけ(レスポンデント条件づけ)という学習原理に基づいている。例えば,犬が餌を見ると涎が出る。すなわち,「餌」という刺激が,「涎」という反応を生じさせているわけであるが,このように自然に生じる反応を「無条件反応」,無条件刺激を生じさせる刺激を「無条件刺激」と呼ぶ。ここに,無条件反応と何の関係もない,ベルの音を新たな刺激(中性刺激)として加える。当然,中性刺激では涎は出ない。しかし,餌(無条件刺激)とベル(中性刺激)を同時に提示することを繰り返すと,次第に犬はベルの音を聞いただけで涎を出すようになる。この状態の時のベルを「条件刺激」,涎を「条件反応」と呼ぶ。すなわち,本来涎という生理的反応とは関係のない刺激(ベルの音)と,生理的な反応(涎)との結びつきが学習されたのである。このような考えを,「S-R理論」と呼ぶ。これは,学習は刺激と反応の連合によって成立するという考え方である。

② 我々の行動は古典的条件づけのみから成立しているわけではない。例えば,家事の手伝いをしたらご褒美をもらえたので,進んで家事をやるようになった,という行動は古典的条件づけでは説明ができない。

こうした行動の学習を説明する理論として,「オペラント条件づけ」がある。これは,自発的な行動(オペンラント行動)は,「報酬」や「罰」という行動の結果によって学習されるとする考え方である。オペラント条件づけを提唱したバラス・スキナー(Skiner, B. F.)は,スキナーボックスという装置を使ってこのメカニズムを明らかにした。

オペラント条件づけでは,まず,「弁別刺激」と呼ばれる,行動の手がかりになる刺激(ex. ブザーがなる)があり,その弁別刺激に対して生体が自発的な行動を起こす(ex. ネズミが偶然レバーを押す)。スキナーボックスでは弁別刺激に対してネズミが偶然レバーを押すと餌がもらえる仕組みとなっており,ネズミはこの行動の結果を学習し,自発的にレバーを押すようになる。この場合の餌を,「強化子」と呼ぶ。「強化」とは,オペラント行動の頻度を増やすことであり,強化子はその頻度を増やすための刺激(ex. エサがもらえる)である。逆に,オペラント行動を減らすことを「罰(弱化)」と呼ぶ。

さらに,何かを与えることを「正(せい)」,何かが取り上げられることを「負(ふ)」として,行動とその結果生じる変化との関係を表すことができる。これは「行動随伴性」と呼ばれ,正の強化・正の罰・負の強化・負の罰という4種類がある。

③  先の細目までで学んだ古典的条件づけ,オペラント条件づけは,行動療法の技法に応用されている。
 古典的条件づけを利用した行動療法には,以下のものが挙げられる。

曝露法(エクスポージャー)
恐怖,不安,嫌悪感を抱く刺激にあえて向き合うことでその効果的な付き合い方を学ぶ方法である。例えば,不潔恐怖がある人が,汚いと感じるものにあえて触ることでその恐怖を克服する場合などがこれに当たる。

系統的脱感作法
 これは広義の曝露法に含まれる技法である。不安や恐怖を感じる刺激を段階的に定める「不安階層表」を用いて,不安の弱いものから徐々に取り組み,同時にリラックス反応を条件づけていく方法である。例えば,最初から汚いと感じる対象そのものに触ることは困難だが,まずはその対象が置かれている机の端を触ることから始め,徐々に嫌悪対象に触れるようトレーニングしていく場合などがある。

曝露反応妨害法
曝露反応とは,刺激によって生じる不快感を取り除くような行動である。曝露反応妨害法は,この不快感の消去という負の強化をしないようにすることで,その効果的な付き合い方を学ぶ方法である。例えば,強迫症では「汚い」と感じるものに触った後に,「手を洗う」という強迫行為によってその不快感を取り除くという反応(暴露反応)が生じるが,この強迫行為が続くことによって強迫症状が維持されるというメカニズムがある。これは,手を洗うという行動によって不快感が消失する,という負の強化に基づいている。そこで,この暴露反応を我慢することで,汚いものに触った後に手を洗わなくても,何も起こらない,あるいは自然と強迫観念が消失していく過程を学習し,負の強化が生じるプロセスを消失させていくのである。

オペラント条件づけを応用した行動療法には,以下のようなものがある

トークン・エコノミー法
プラスチック製のコインなど(トークン)を報酬として使用し,適当的な行動に対して正の強化を与える手法である。子どもに対しては,シールなどを用いることも多い。

 また,発達障害児の療育や家族支援に用いられることが多い,応用行動分析(Applied Behavior Analysis; ABA)においても,オペラント条件づけの理論が用いられている。

キーワード ① 行動主義 ② 古典的条件づけ ③ オペラント条件づけ ④ 強化と罰 ⑤ 行動療法
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:①古典的条件付やオペラント条件付けについて,説明できるように自身でまとめておく。特に,オペラント条件づけにおいては,正負の強化と罰について理解していることが重要であるため,具体例とともに確認しておくことが望ましい。②行動療法の技法について,代表的なものを確認しておく。特に,それぞれの技法が古典的条件づけとオペラント条件づけ,どちらを応用したものかを理解しておくと,授業内容の全体的な理解に繋がるであろう。

予習:認知療法・認知行動療法について,教科書や文献を読んであらかじめ調べておくことが望ましい。特に,ベックの認知モデルについては心理療法以外の領域でも使用されることが多く,汎用性が高い考え方であるため,あらかじめ学習し理解を深めて置けると良いだろう。また,いわゆる第3世代の認知行動療法については,一人で実施できるワークもある。事前に体験しておくことで,授業内容に対する理解が一層深まると予想される。

5 心理療法論④:認知行動療法 科目の中での位置付け 本科目は,公認心理師法第7条に規定されている公認心理師となるために必要な科目であり,その基準を満たすために,①臨床心理学の成り立ち(A:精神分析学と力動的心理療法の成り立ち,B:行動理論と行動療法の成り立ち,C:人間性心理学と人間中心アプローチの成り立ち,D:認知理論と認知行動療法の成り立ち,E:心理療法の諸理論の成り立ち,F:心理アセスメントの成り立ち),②臨床心理学の代表的な理論(A:臨床心理学の基本概念,B:面接法によるアセスメントの理論と技法,C:知能・発達・認知機能のアセスメントの理論と技法,D:性格検査の理論と技法,E:見立てと心の病理学,F:心理療法の理論,G:心理療法の折衷と技法選択・効果のエビデンス)などの内容を含んでいる。本コマ(第2回)では,①臨床心理学の成り立ち(D:認知理論と認知行動療法の成り立ち)・②臨床心理学の代表的な理論(E:見立てと心の病理学,F:心理療法の理論)について学ぶ。
配布資料,および参考文献(細目①:伊藤絵美(2011)ケアする人も楽になる認知行動療法入門 BOOK1 医学書院 pp. 14-40,細目②:pp. 40-62,細目③:63-120)
コマ主題細目 ① 認知療法 ② 自動思考とスキーマ ③ 第3世代の認知行動療法
細目レベル ① 認知とは,人の思考や考えを意味している。認知療法とは,この認知に着目した心理療法であり,1960年代にアーロン・ベック(Beck, A.)によって提唱された。

認知療法において重要なモデルに,ベックが提唱した「認知モデル」がある。

認知モデルを説明するために,一般的に「ストレス」と呼ばれているものについて説明することから始める。ストレス(stress)とは,生体に何らかの負荷がかかっている状態を意味している。そして,このストレスの原因となる刺激のことを「ストレッサー」と呼ぶ。例えば,「暑い-寒い」「親に怒られた」などがストレッサーである。

このストレッサーによって生じる反応は,「ストレス反応」と呼ばれ,「認知」「気分」「身体」「行動」の4つに分けることができる。認知モデルでは,ストレッサーに対する認知によって他のストレス反応が生じるかどうかが決まると考える。つまり,ストレッサーを不快や脅威として認知すると心や身体に何らかのストレス反応が生じると考えるのである。

ここで,逆に言えばストレッサーに対して「大したことない」と認知できれば,身体症状やネガティブな気分といったストレス反応が生じないということとなる。認知療法では,個人のストレッサーに対する認知を扱い,不適応的な認知のあり方を見直してより適応的な認知の仕方を身につけるといったことが目指される。

② 認知モデルにおける「認知」は,さらに2つに分けることができる。まず,ある状況下で自動的に頭に浮かぶ考えを「自動思考」と呼ぶ。自動思考は,認知の中でも表層に位置し,比較的意識しやすいものである。この自動思考には,論理的に正しいとは言えない思考も含まれる。例えば,友人に朝挨拶をしたのに返事がなかった,という状況では,どのようなことが考えられるだろうか。友人は挨拶の声が聞こえなかっただけかもしれないし,挨拶した友人が何か心配事を抱えていて上の空だったかもしれないなど,複数の可能性が考えられるだろう。しかし,人によっては「嫌われた」という自動思考が浮かび,事実そのようにしか思えず,強い心理的苦痛を経験する場合もある。

比較的表層に位置する認知である自動思考に対して,より根深いところに位置する認知のことを,「スキーマ」と呼ぶ。これは,幼少期から形成される,自分や他者,世界についての構えや信念である。スキーマは当人にとっては「当たり前」となっている考え方のパターンや新年であるため,普段は意識されない。したがって,自動思考に比べて捉えることが難しいものとなる。

スキーマと自動思考の関係性は,スキーマが自動思考のパターンを生み出すというものである。例えば,挨拶をしたのに帰ってこなかったという状況において「嫌われた」という自動思考が浮かび,そのようにしか考えられず苦痛を感じる人のスキーマは,「私は人から嫌われている」「私には価値がない」といったスキーマを持っているために上記のような自動思考が浮かびやすいと考えられる。

認知療法では,上記のような自動思考を捉えるところから始め,不合理な認知の仕方,すなわち「認知の歪み」に焦点を当て,物事に対する偏った認知を修正していくことを目的としている。

③ 認知行動療法は,行動療法と認知療法を合わせたものである。一般的に,第1世代の認知行動療法が,学習理論を基礎とする行動療法,第2世代の認知行動療法が,認知の歪みに着目する認知療法,そして第3世代の認知療法が,思考プロセスへの気づきを重視する近年の認知行動療法とされている。

第3世代の認知行動療法の例としては,「マインドフルネス認知療法」が挙げられる。「マインドフルネス」とは,今この瞬間の現実に常に気づきを向け,その現実をあるがままに知覚し,それに対する思考や感情には囚われないでいる心の持ち方である。

マインドフルネスは近年では企業やスポーツ選手が取り入れていることが有名になってきている手法である。授業の中では,以下のようなワークを取り入れてマインドフルネスを実際に体験する。

「あなたは河原に一人でいて,体育座りをして目の前の川の流れを見ています。その川はわりと川幅があって,流れもゆったりとしています。そのゆったりとした川の流れに乗って,緑の葉っぱが一枚,またしばらくして別の葉っぱが一枚,さらにまた一枚・・・というように,葉っぱが流れています。あなたは河原でぼんやりと川の流れと,流れては去っていく葉っぱを眺めています」

このイメージを維持しながら,自分の頭に浮かんでくる自動思考に注意を向ける。

出てきた自動思考をキャッチして,その自動思考を,川を流れる葉っぱに乗せる。イメージの形で自動思考が出てきたら,そのイメージごと,葉っぱに乗せる。自身が葉っぱを流すのではなく,葉っぱが川の流れに沿って自然に流れていくのに任せる。

川と葉っぱのイメージを維持しながら,自動思考をキャッチしてそれを葉っぱに乗せ続ける。

キーワード ① 認知療法 ② 認知モデル ③ 自動思考とスキーマ ④ 認知行動療法 ⑤ マインドフルネス
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:認知モデルの考え方,特にストレッサーと認知といった概念を中心に,その特徴について配付資料の内容をもとに再度確認しておく。また,キーワードとなっている用語を中心に,その意味を配付資料をもとに確認し,さらに詳しい文献について自分で探して読むことが望ましい。さらに,近年の第3世代の認知行動療法について,配布資料を元にその特徴をまとめ,自身が興味を持った技法があれば詳しい文献を自分で探して読むとより理解が深まるであろう。

予習:クライエント中心療法の考え方などについて,これまで他の授業などで学んだことや自分で勉強したことをまとめておく。特に,「無条件の積極的関心」・「共感的理解」・「自己一致」は全ての心理療法に共通する重要な概念であるため,教科書や文献を自分で調べ,あらかじめ理解を深めておくことが望ましい。

6 心理療法論⑤:クライエント中心療法 科目の中での位置付け 本科目は,公認心理師法第7条に規定されている公認心理師となるために必要な科目であり,その基準を満たすために,①臨床心理学の成り立ち(A:精神分析学と力動的心理療法の成り立ち,B:行動理論と行動療法の成り立ち,C:人間性心理学と人間中心アプローチの成り立ち,D:認知理論と認知行動療法の成り立ち,E:心理療法の諸理論の成り立ち,F:心理アセスメントの成り立ち),②臨床心理学の代表的な理論(A:臨床心理学の基本概念,B:面接法によるアセスメントの理論と技法,C:知能・発達・認知機能のアセスメントの理論と技法,D:性格検査の理論と技法,E:見立てと心の病理学,F:心理療法の理論,G:心理療法の折衷と技法選択・効果のエビデンス)などの内容を含んでいる。本コマ(第4回)では,①臨床心理学の成り立ち(C:人間性心理学と人間中心アプローチの成り立ち)②臨床心理学の代表的な理論(F:心理療法の理論,E:見立てと心の病理学)について学ぶ。
配布資料,および参考文献(細目①:教科書 pp. 99-100,細目②:教科書 pp. 144,細目③:教科書 pp. 140-141)
コマ主題細目 ① クライエント中心療法の成り立ち ② 治療的人格変化の必要十分条件 ③ 中核条件
細目レベル ① 人間性心理学は,1960年代に入ってアブラハム・マズロー(Maslow, A.)によって提唱された心理療法の第三の勢力と呼ばれる流れである。心理療法の第一の勢力は精神分析であり,人間性心理学の視点から見ると,権威主義的で,人間の病的な側面に過度に注目しているという問題がある。第二の勢力は行動主義であり,人間性心理学の視点から見ると,操作主義的で,動物と人間を区別しない機械的な側面があるという問題がある。

マズローは人間の正常で健康な側面を重視し,特に「自己実現傾向」と呼ばれる,人は自分の持つ能力や可能性を最大限発揮し,なりたい自分を模索し,それに向かって自分自身を発展させていく傾向に着目した。マズローが提唱した,欲求階層説は現在でも有名な理論の一つとなっている。

クライエント中心療法(のちにパーソン・センタード・アプローチにつながっていく)は,1940年代に米国の臨床心理学者ロジャーズRogersが提唱した非指示的療法であり,彼は精神分析や行動療法などがクライエントに対して“指示的”であることを批判した。クライエント中心療法は,人間性心理学に含まれる心理療法の流れである。

ロジャースがカウンセリングに必要であると考えた3条件は,現在では学派を超えて,心理職に必要なものであると考えられている。このクライエント中心療法の基本的な姿勢は,人間には「実現傾向」と呼ばれる,成長や自己実現に向かう力が備わっており,その力を阻害する要因が除去されれば,治療者が何かを指示したり,知識を振りかざしたりしなくても来談者自らが自身の問題に気付き,成長していくことができるというものである。

② ロジャーズは1957年に,「治療的人格変化の必要十分条件」という論文を発表し,自身の理論をまとめた。その中でロジャーズはクライエントの人格変化を生じさせる条件として,6つの条件をあげている。以下に,その6条件を示す。

1. 二人のひとが心理的に接触している
2. 一方のひとは,クライエントと言うことにするが,不一致の状態,すなわち傷つきやすく,不安の状態にある
3. もう一方のひとは,治療者と言うことにするが,この関係の中で,一致している,あるいは統合されている
4. 治療者は,自分が無条件の積極的関心をクライエントに対して持っていることを,体験している
5. 治療者は,自分がクライエントの内的照合枠を共感的に理解していることを体験しており,かつ,クライエントにこの自分の体験を伝えようと努めている
6. クライエントには,治療者が,共感的理解と無条件の積極的関心を体験していることが,必要最低限は伝わっている
これらの条件の中でも,重要な3つの条件は「中核条件」と呼ばれ,これらは現在では学派を超えて,心理職に必要なものであると考えられている。

中核条件は,①無条件の積極的関心:クライエントの話を批判・否定せず,条件をつけずに,関心を持って耳を傾け,受容すること(第4条件),②共感的理解:クライエントの話を,その人の内的準拠枠(その人の価値観や認識のしかたなど,ものごとの捉え方)から,クライエントが感じるように理解すること(第5条件),③自己一致(純粋性あるいはジェニュインネスともいわれる):セラピストが自分の感じていることを自他に対して偽らず誠実であること(第3条件),の3つである。

この細目では,これら3つの名称と内容について理解することが重要である。

③ しばしばクライエント中心療法は,基本的姿勢を学ぶ上では重要であるが,心理療法としてそれだけでは不十分であると言われている。また,相談者の言葉をそのまま伝え返す反射という技法は,しばしば「オウム返し」と揶揄され,話を聞くだけで役に立たないカウンセラーの代名詞とも言われる始末である。しかし,これらの指摘は本当に的を得ているのか。例えば,ひどく打ちひしがれている人,苦しんでいる人に対して,われわれは何ができるのか。これらの問題は,決して小手先の「技法」だけでは太刀打ちできない問題であると考えられる。クライエント中心療法の考え方は,こうした問題を抱えざるを得ない人たちに寄り添うためのヒントを与えてくれるかもしれない。

そこで。本細目ではロジャーズの中核条件と呼ばれる3つの条件と,しばしば見落とされがちな第一条件(二人のひとが心理的に接触している)について,より詳細に検討することを目的とする。これらの条件は,字面で見ればなるほどと思うことばかりだが,実行に移すとなるとしばしば非常に困難なものとなる。これは,これらの条件を字面だけで理解すると,抽象的な理解に止まってしまい,具体的な行動に結びつきづらいためであると考えられる。

授業では,いくつかの文献を参照しつつ,これらの問題について検討を行う。具体的には,河合隼雄の「ユング心理学入門」の冒頭にある極めて有名な一節,アーヴィン・ヤーロムの「The Gift of Therapy」における共感的理解に関する示唆に富む事例,村上英治の「伴侶者」という考えなどについて紹介する。これらの文献の内容全てを取り上げることはできないため,興味のある人はぜひこれらの原著を読んでみてほしい。

これらの検討を通して,ただ共にいて寄り添う,ということの難しさ,そして共感的理解における「同じ窓から世界を見ること」の重要さについて,理解を深めることが本細目の狙いである。

キーワード ① クライエント中心療法 ② 無条件の積極的関心 ③ 共感的理解 ④ 自己一致 ⑤ 伴侶者
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:クライエント中心療法の理論と基本的な考えについて,配布資料を元に確認し,まとめておく。また,精神分析的心理療法,および行動療法,認知療法を含む認知行動療法の考え方と,クライエント中心療法の考え方の類似点と相違点について,配付資料の内容をもとに再度確認しておく。特にロジャーズの中核条件は心理療法において重要な概念であるため,配付資料をもとに確認し,詳しい文献を自分で探して読むなどして,それぞれの条件を自分の言葉で説明できるまで理解を深めておく。

予習:次回はこれまで学んできた心理療法とは異なる種類の心理療法の考え方について学ぶ。教科書や文献をもとに,事前にどのような心理療法があるのかを調べておくことが望ましい。特に,遊戯療法(プレイセラピー)については,これまで説明してきた心理療法とは趣が大きく異なることに加え,異なる立場の考え方がいくつか存在している。例えば,クライエント中心療法の流れを汲む遊戯療法と,精神分析の考えに基づいた遊戯療法について,それぞれの考え方の違いをあらかじめ調べておくと,授業内容をより深く理解できるだろう。

7 心理療法論⑥:その他の心理療法論 科目の中での位置付け 本科目は,公認心理師法第7条に規定されている公認心理師となるために必要な科目であり,その基準を満たすために,①臨床心理学の成り立ち(A:精神分析学と力動的心理療法の成り立ち,B:行動理論と行動療法の成り立ち,C:人間性心理学と人間中心アプローチの成り立ち,D:認知理論と認知行動療法の成り立ち,E:心理療法の諸理論の成り立ち,F:心理アセスメントの成り立ち),②臨床心理学の代表的な理論(A:臨床心理学の基本概念,B:面接法によるアセスメントの理論と技法,C:知能・発達・認知機能のアセスメントの理論と技法,D:性格検査の理論と技法,E:見立てと心の病理学,F:心理療法の理論,G:心理療法の折衷と技法選択・効果のエビデンス)などの内容を含んでいる。本コマ(第4回)では,①臨床心理学の成り立ち(E:心理療法の諸理論の成り立ち)②臨床心理学の代表的な理論(F:心理療法の理論,E:見立てと心の病理学)について学ぶ。
配布資料,および参考文献(細目①:教科書 pp. 153-154,細目②:教科書 pp. 149-151,細目③:教科書 pp. 146-148)
コマ主題細目 ① 家族療法 ② 芸術療法 ③ 遊戯療法
細目レベル ① 科目の前半では,精神分析,認知行動療法,クライエント中心療法について学んだが,これまで学んだ内容だけではわからないこともある。例えば,家族の問題がある場合はどうしたらいいのか?言葉を使うセラピー以外の可能性はないのか?十分言語機能が発達していない子どもに対してはどうしたらいいのか?といった問題が挙げられるだろう。そこで,今回の授業では家族療法,芸術療法,遊戯療法といった心理療法の考え方について学ぶ。

まず扱うのは,「家族療法」である。家族療法とは,問題を抱えた個人にフォーカスを当てるのではなく,家族を一つのまとまりを持ったシステムとみなし,そのシステムを治療対象とする心理療法である。

家族療法では,以下のような考え方を特徴としている。

① 病理は家族システムの中にある:個人の症状や問題行動は,家族ホメオスタシスの作用によって生じると考える。ホメオスタシスとは,生体の状態を一定に保つようにする生体機能である。家族ホメオスタシスという考えは,症状や問題は家族システムの均衡を保つために役立っていると考える。また,このような症状や問題を呈する家族メンバーはIP(identified Patient)と呼ばれ,家族の中でそのような役割をとっている個人,という見方をする。

② 治療の対象は家族である:家族機能の回復と,健康な家族相互作用が治療目標となる。

③ 「今ここ」での関係性を重視する:問題の原因を過去に遡って解釈する直線的因果律ではなく,原因も結果もないとする円環的因果律を考える。円環的因果律とは,例えば,①母親がやるべきことをしない弟を叱る→②弟は問題行動を起こして気持ちを訴える→③父親が弟の問題行動を鬱陶しがって自室に行く→④母親が不機嫌になり,つい弟を叱る(①に戻る)といった円環状の因果関係を想定する考えである。この考えでは,最初の原因というものはなく,どのポイントも現象の始発点になりうる。逆に,いずれかのポイントを変えれば,全体の流れが変わりうるため,悪循環を断ち切ることができると考えられる。
 
 その他,家族療法の代表的な理論には,2つの矛盾したメッセージにより相手を混乱させるコミュニケーションである「ダブルバインド理論」や,否定的な意味合いを裏返し,肯定的な意味合いに捉え直す「リフレーミング」,そして症状や問題を意図して出すことを指示することで,それらをコントロールすることを目指す「症状処方」などがある。

② 「芸術療法」とは,非言語的(ノンバーバル)な表現方法,すなわち絵や写真,その他の作品等を用いた心理療法の総称である。芸術療法は,ナウムバーグ(Naumberg, M.)の絵画療法やカルフ(Kalff, D. M.)の箱庭療法などの誕生を契機に心理療法として確立していったという歴史を有している。

言葉を必ずしも使用しない芸術療法は,以下のような原理で心理療法としての機能を有している。①言語化できる意識レベルから言語化できない無意識のレベルまで表現できる。②カタルシス(浄化)効果,すなわち表現することが自己治癒機能をもつ。③視覚的フィードバックによる洞察が可能である。④心的内容を表現することによる,自己実現や人格の統合の可能性。⑤第3の存在,すなわちセラピストとクライエント両者の間に表現素材が入ることで,二者関係から三者関係となり,緊張の緩和や関係の安定化を助ける。

芸術療法には,描画療法,箱庭療法などが含まれる。

描画療法には,「交互色彩分割法」や,ナウムバーグが開発した「スクリブル法」(なぐり描き),ウィニコット(Winnicott, D. W.)が開発した「スクイグル法」(片方がなぐり描きを行い,もう片方がそこに見えたものを描画する),などが含まれる。

箱庭療法は,砂が入った箱の中に様々なミニチュアを並べ,内的世界の表現を行う心理療法である。ローエンフェルド(Lowenfeld, M.) が子どもの心理療法として創始した「世界技法」が基になっており,後にカルフ(Kalff, D. M. )がユング (Jung, C. G.) の理論を応用し,適用範囲を成人にまで広げ,箱庭療法として発展させた。

クライエントが作成した作品に対して,セラピストは全体の印象やミニチュアの配置,表現されているテーマなどについて解釈を行う。なお,作品は繰り返し作成されることがあり,その際は複数の作品を一連の作品として見る視点も重要である。

しかし,重要であるのは解釈ではなく,クライエントが自身の内的世界をセラピストに見守れながら,すなわち自由にして保護された環境で表現する点にある。そのため,セラピストは製作に干渉せず側でそっと見守る姿勢が重要である。

③ 遊戯療法とは,遊びを通してまだ言語能力が十分発達していない子どもの心理療法を行う方法である。子どもにとって,遊びは内的世界を表現する方法であり,現実では叶えられない空想の世界であり,現実の世界である。ウィニコットは現実と非現実にまたがる「中間領域」という概念を用いたが,遊びはまさに両者にまたがる中間の世界であると言える。

また,遊びは子どもにとってコミュニケーションの媒体でもある。すなわち遊びは他者との交流のための重要な手段であり,大人の「言語」以上の重要な意味を持つと考えられる。

なお,遊戯療法には様々な流派がある。代表的な遊戯療法の流派の一つとして,精神分析的遊戯療法が挙げられる。アンナ・フロイト(Freud, A.)は自我が未発達な子どもへの精神分析的治療は困難であるとし,家族への教育的指導などの現実的介入を重視した。その一方で,メラニー・クライン(Klein, M.)は,フロイト, S.の理論より早期に超自我が形成されると考え,子どもの遊びを自由連想として捉えて解釈を重視した。同じ精神分析的遊戯療法の中でも,現実的介入を重視するのか,子どもの内的世界を重視するのか,といった違いがあることを理解する。

その他の遊戯療法の流派としては,クライエント中心療法の流れを汲む,「子ども中心遊戯療法」が挙げられる。子ども中心遊戯療法は,ロジャーズの弟子のヴァージニア・アクスライン(Axline, V. M.)を基礎とする流れであり,子どもの潜在的な力を信頼し,遊びを通して自ら成長していくことを重視する立場である。なお,アクスラインの遊戯療法の8原則は子どもの遊戯療法を行う上で重要な原則であるため,必ず押さえておくこと。

アクスラインの遊戯療法の8原則

① よいラポール(信頼関係)をつくる
② あるがままの受容
③ 許容的な雰囲気(治療者の温かい関心の中での自由)
④ 適切な情緒反射(子どもの感情を敏感に捉え,それを明確にする)
⑤ 子どもに自信と責任を持たせる(子どもの能力を信じ,遊びの内容の選択を任せる)
⑥ 非指示的であること
⑦ ゆっくり待つこと
⑧ 必要な制限:最大限の自由があるが,子どもの安全や健康を守り,治療関係の成立を助ける制限がある

キーワード ① 家族療法 ② 芸術療法 ③ 描画療法 ④ 遊戯療法 ⑤ アクスラインの8原則
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:①家族療法の理論や概念について,配布資料や教科書等を参照して確認しておくこと。②芸術療法について,種々の療法の特徴を確認し,それぞれどのような方法かを説明できるようにしておくことが望ましい。③遊戯療法について,特にアクスラインの8原則を確認しておく。加えて,アンナ・フロイトとメラニー・クラインの考え方の違いについて,配布資料や文献を用いて理解を深められると良い。これは,精神分析における自我心理学と対象関係論における違いであり,心理療法論を学ぶ上で示唆に富むものとなるだろう。

予習:次回からは,心理療法の対象となる精神病理や心の問題について学ぶ。これに先立って,「正常」と「異常」はどのように区別されるか,心理的援助の対象となる問題とは何か,代表的な精神疾患にはどのようなものがあり,それぞれどのような治療方法があるのか,といったことについて,事前に調べ,理解を深めておくと良いだろう。

8 心理アセスメント①:大人の心の問題と精神疾患 科目の中での位置付け 本科目は,公認心理師法第7条に規定されている公認心理師となるために必要な科目であり,その基準を満たすために,①臨床心理学の成り立ち(A:精神分析学と力動的心理療法の成り立ち,B:行動理論と行動療法の成り立ち,C:人間性心理学と人間中心アプローチの成り立ち,D:認知理論と認知行動療法の成り立ち,E:心理療法の諸理論の成り立ち,F:心理アセスメントの成り立ち),②臨床心理学の代表的な理論(A:臨床心理学の基本概念,B:面接法によるアセスメントの理論と技法,C:知能・発達・認知機能のアセスメントの理論と技法,D:性格検査の理論と技法,E:見立てと心の病理学,F:心理療法の理論,G:心理療法の折衷と技法選択・効果のエビデンス)などの内容を含んでいる。本コマ(第4回)では,②臨床心理学の代表的な理論(A:臨床心理学の基本概念,E:見立てと心の病理学)について学ぶ。
配布資料,および参考文献(細目①:教科書 pp. 22-25,細目②:教科書 pp. 78-83,細目③:教科書 pp. 52-55)
コマ主題細目 ① 精神医学 ② 精神障害① ③ 精神障害②
細目レベル ① 臨床心理学が対象とする心の問題,精神疾患について研究する学問体系のことを,ここでは「異常心理学」と呼ぶ。これは,どのように心の問題が発生,維持されるかを明らかにする学問体系とも言える。

そもそも,正常と異常は,どのように区別されるのだろうか。一般的に,正常と異常とを区別する基準には,以下の4つの基準がある。

① 適応的基準:所属する社会や集団に適応しているかどうか
② 価値的基準:法律や常識などに基づいた基準
③ 統計的基準:平均とそこからの逸脱の程度による基準
④ 病理的基準:医学的に疾病と診断されるかどうかによる基準

心の病を扱う医学は,精神医学(Psychiatry)と呼ばれる。精神医学における診断分類,すなわち疾患の分類体系には,精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders;DSM)と,疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems;ICD)の二つがある。前者はアメリカ精神医学会,後者は世界保健機関(WHO)が発行している。

両者の違いとしては,DSMは精神疾患のみの診断分類であるが,ICDは精神疾患以外の疾病を含むすべての疾患を対象にしている。また,WHO加盟国においては,公式な診断,報告などにはICDが使用されることが一般的となっている。

② ここでは,代表的な精神疾患を取り上げ,その特徴について学んでいく。この細目では,「統合失調症」,「気分障害」を取り上げる。

統合失調症(Schizophrenia)は,19世紀にクレペリン(Kraeperin)が「早発性痴呆」,すなわち思春期・青年期に発症することが多い痴呆として提唱し,その後ブロイラー(Bleuler)がSchizophreniaという名称をつけた。以前は「精神分裂病」と呼ばれていた疾患であり,ブロイラーは統合失調症の特徴として,以下の「4A」を挙げた。すなわち,連合弛緩(Assoiation loosening)・感情鈍麻(Affective disorder)・両価性(Ambivalence)・自閉性(Autism)である。

統合失調症の症状は,大きく「陽性症状」と「陰性症状」に分けられる。陽性症状は,幻覚(主に幻聴。自分に対する悪口や悪い噂声が聞こえるなど),および妄想(隣人が嫌がらせしてきている。前から来る人は悪の組織で私を監視している,テレビやネットが私の情報を流している,など)を主とする症状である。

陰性症状は,意欲の低下や感情鈍麻,自閉といった活動性の低下を示す症状である。
発症年齢は10代後半から30代前半での発症が多いとされるが,近年では 10代前半での発症が多いという報告もある。生涯発症率はおよそ100人に1人であり,原因は脳内神経伝達物質の異常が関与していることがわかっている。遺伝の関与も否定できないが正確な原因はわかっていない。治療は薬物療法が中心となる。一般的に,急性期の症状が治まると回復期に入り,徐々に長期安定にいたる。また,新しい薬や治療法の開発により,近年では全体的に軽症化していることが指摘されている。

「気分障害」は,気分の変調をその特徴とする疾患であり,いわゆるうつ病などがこれに含まれる。

うつ病は,診断分類としては「大うつ病性障害」(major depressive disorder)と記される。症状としては,抑うつ気分,不安,制止(行動や思考,反応の鈍化),絶望感,希死念慮,身体症状(食欲不信や動悸,睡眠障害,妄想(貧困妄想など)などがある。病前性格としては,執着気質(責任感が強く,徹底的,凝り性,熱中しやすい),メランコリー親和型性格(対他配慮,秩序愛,真面目で内向的)の人がなりやすいとされている。原因はストレスや生活上の負の体験などの環境因がかなり関与していることがわかっており,生涯有病率は10〜15%とされ,発症は20代と中年以後に多いとされる。

「双極性障害」(bipolar disorder)は,いわゆる躁うつ病と呼ばれる疾患である。うつ状態と気分が高揚したり,過度な行動に走る躁状態を繰り返す疾患である。双極Ⅰ型は,うつ状態と激しい躁状態を繰り返す場合に診断され,双極Ⅱ型はうつ状態と軽躁状態を繰り返す場合に診断される。軽躁状態とは,いつもに比べて妙に活動的に見え,周囲の人から「何だかいつもと違う,あの人らしくない」と思われるような比較的軽い気分の高揚が見られる状態を指す。

③ 「神経症」という用語は医療現場で使用されることは少なくなったが,心理的援助のあり方を考える上で重要な概念であるため,ここで取り上げる。神経症とは,器質的な原因が除外され,心因性に生じる心身の機能的な生涯を総称する疾患群と定義されるが,心的な外傷体験が背景にある心の病と考えて良い。

DSMやICDには「神経症」という分類はなく,それぞれ独立の障害として細かく分類されている。

「不安神経症」には,現代の「パニック症」や「全般不安症」が当てはまる。
パニック症とは,不安の発作(パニック発作),すなわち「このまま死んでしまうんではないか」という恐怖や発狂に対する恐怖,動悸,発汗,震え,息苦しさ,目眩,嘔気などの自律神経症状を伴う疾患である。加えて,発作が起きていない時にも発作に対する不安(予期不安)も生じる。これらにより,パニック発作が起きると困るような人が場所(学校や電車の中など)に対して恐怖が生じるため,外出などの行動が制限されてしまいやすい。

「強迫神経症」は,現代の「強迫症」に該当する神経症である。
強迫症(obsessive-compulsive disorder)は,強迫観念と強迫行為に特徴づけられる疾患である。強迫観念(obsession)とは,非常に強い不安感・恐怖感であり,不潔恐怖などの恐怖症の形を取ることが多い(例:「手が汚れているのではないかと気になって仕方がない」「家の鍵を閉めたか気になって仕方がない」など)。これに対して,強迫行為(compulsion)とは,強迫観念を打ち消すために繰り返し行う行為である。例えば,「手を一日に何十回・何百回も洗う」「会社に行く途中に何度も自宅に戻って施錠の確認をする」など。また,特定の言葉や数を数えるなどの心の中での反復行為も含まれる。

「恐怖症」は特定の対象に恐怖心を抱く神経症の一種である。これにはいくつかの種類があり,代表的なものには日本人に特に多いとされる「対人恐怖症」,自分の臭いが周囲を不快にさせているのではと恐れる「自己臭恐怖」,周囲から見られている,変に思われているのではないかと恐れる「他者視線恐怖」などがある。

神経症の代表的な疾患の一つに,「ヒステリー」(Hysteria)が挙げられる。心理学における「ヒステリー」は以下の二つの意味で用いられる。

① ヒステリー性格:自己顕示が強く,自己中心的で,好き嫌いが激しく,気分屋,負けず嫌い,誇張的(大袈裟)といった特徴を持つ性格傾向。女性だけでなく男性にも数多く存在する。
② (疾患としての)ヒステリー:精神分析では欲求(リビドー)が抑圧,否認された結果生じるものとされる。フロイトは精神分析療法を通して,患者が抑圧・否認している性的欲求を解放しようとした。現在では欲求は性的な内容に限定されていない。

後者の疾患としてのヒステリーは,転換ヒステリーと解離ヒステリーに大別され,現代ではそれぞれ「転換ヒステリー(変換症)」,「解離ヒステリー(解離性同一性障害)」と呼ばれる。転換ヒステリーは,抑圧・否認された欲求が身体症状として出現するものと考えられており,古典的には運動麻痺,痙攣,感覚障害(手が手袋状になった感覚など),ヒステリー球(胃から球体が昇ってくるように感じる)などの症状が有名である。ただし,現在では心因性の発熱や視力障害,腹痛,頭痛など軽微な症状が多い。一方,解離ヒステリーは,抑圧・否認された欲求が精神症状として出現するものと考えられ,もうろう状態(意識障害),多重人格,健忘(生活史の一部ないし全ての記憶の消失),意識消失発作などとして現れる。

その他,授業では心的外傷後ストレス障害(PTSD),摂食障害,境界性人格障害についても取り扱う。

キーワード ① 精神疾患の診断分類 ② 統合失調症 ③ 気分障害 ④ 神経症 ⑤ 境界性人格障害
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:種々の精神疾患について,その主な症状を確認しておく。それぞれの疾患について,症状やその他の特徴を口頭で説明できる程度に理解することが望ましい。また,各疾患について,文献や教科書を読んで理解を深めておくと良いだろう。特に具体的な事例を読んでおくと,それぞれの疾患に対する理解がより深まると思われる。これに関しては,古典的な文献を読むことも有益である。例えば,フロイト, S.の事例である。強迫症については「強迫神経症の一例に関する考察」(通称,ねずみ男),恐怖症については「ある5歳の少年における恐怖症の分析」(少年ハンスの事例),統合失調症については「自伝的に記述されたパラノイア(妄想性痴呆)の一症例に関する精神分析的考察」(シュレイバー症例)がそれぞれ対応している。

予習:次回は主に子どもの精神疾患について取り扱う。事前にどのような精神疾患が子どもに生じうるのかについて調べておくと良いだろう。特に,自閉症スペクトラム障害,注意欠陥多動性障害(ADHD),学習障害(LD)といった,いわゆる発達障害と呼ばれる疾患に関しては社会的にも注目が集まっており,理解しておくことが求められる疾患であるため,それぞれの疾患の基本的特徴を中心に,事前に理解を深めておけると良い。

9 心理アセスメント①:子どもの心の問題と精神疾患 科目の中での位置付け 本科目は,公認心理師法第7条に規定されている公認心理師となるために必要な科目であり,その基準を満たすために,①臨床心理学の成り立ち(A:精神分析学と力動的心理療法の成り立ち,B:行動理論と行動療法の成り立ち,C:人間性心理学と人間中心アプローチの成り立ち,D:認知理論と認知行動療法の成り立ち,E:心理療法の諸理論の成り立ち,F:心理アセスメントの成り立ち),②臨床心理学の代表的な理論(A:臨床心理学の基本概念,B:面接法によるアセスメントの理論と技法,C:知能・発達・認知機能のアセスメントの理論と技法,D:性格検査の理論と技法,E:見立てと心の病理学,F:心理療法の理論,G:心理療法の折衷と技法選択・効果のエビデンス)などの内容を含んでいる。本コマ(第4回)では,②臨床心理学の代表的な理論(A:臨床心理学の基本概念,E:見立てと心の病理学)について学ぶ。
配布資料,および参考文献(細目①:教科書 pp. 28-41,細目②:教科書 pp. 42-51,細目③:教科書 pp. 56-62)
コマ主題細目 ① 子どもの精神障害① ② 子どもの精神障害② ③ 子どもの精神障害③
細目レベル ① 臨床心理学が対象とする子どもの心の問題は,大きく①発達的問題と,②心理的問題に分けられる。本細目ではまず,①発達的問題について取り扱う。

発達障害者支援法第2条(文部科学省)によれば,「発達障害とは,自閉症,アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害,学習障害,注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう」とある。

なお,発達障害は近年,医学的には神経発達障害/神経発達症という名称となったことを押さえておく必要がある。

発達障害の基本特性としては,①生来性あるいは生後早期に生じる脳機能障害であり,②②行動特性が発達期に明らかになることに加え,③行動特性には統合失調症のような変動がなく安定している,ということが挙げられる。

DSM―5における,神経発達障害に含まれる疾患を以下に示す。

 知的能力障害 Intellectual Disabilities
 コミュニケーション症(障害) Communication Disorders
 自閉症スペクトラム症(障害) Autism Spectrum Disorder
 注意欠如・多動性症(障害) Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder
 限局性学習症(障害) Specific Learning Disorder
 運動症(障害) Motor Disorders
 他の神経発達症


自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder; ASD)は,「自閉症」autismとその近縁の障害を一つにまとめた概念である。診断基準は,①持続する相互的な社会的コミュニケーションや対人的相互反応の障害,② 限定された反復的な行動,興味,または活動の様式(こだわり行動)の二つとされる。なお,同じASDの診断を持つ子どもでも,症状の重症度や年齢などによりその様相が大きく変化するために,スペクトラムという言葉で表現されている。

自閉症に関しては,ローナ・ウイングが提唱した自閉症の「3つ組の障害」を理解しておく必要がある。3つ組の障害とは,以下の3つの障害を意味している。

① 社会性の障害:人への関心がない,空気を読めない,気持ちの理解が困難など
② コミュニケーションの障害:一方的なコミュニケーション,独特な言葉など
③ 想像力の障害:限られた興味の対象と常同的・反復的行動へのこだわり

DSM-5ではこのうち①と②が統合された。また,③では感覚の過敏さ・鈍感さが追加された。自閉症児が他者の心の状態を推測することが苦手であることを説明する理論として,「こころの理論」が挙げられる。これは,ある状況に置かれた他者の行動を 見て,他者の考えを予測し,解釈 することができるという心の働きである。こころの理論は,サリーとアンの課題などのような,幼児がどのように他者の心を理解しているかを観察する,「誤信念課題」を用いて確認することができる。

注意欠陥多動性障害(Attention Deficit / Hyperactivity Disorder; ADHD)は,不注意(1つのことに集中できない・集中できる時間が短い・気が散りやすい,など)や,多動・衝動性((じっとしていることができない・落ち着きなく動きまわる・気になった物にすぐ触ろうとしたり,すぐ迷子になったりする,など)といった特徴がある。

自閉症スペクトラムと同様に,現在では脳の器質障害による認知機能の問題とされている。家庭や学校場面では離席や指示にしたがわないこと,勉強に集中できないことなどが原因で叱られることが多くなりがちであり,その結果,自己効力感・自己肯定感が低下するなどの2次的な問題が生じる場合も多い。なお,ADHDは年齢によって顕著となる問題が異なるため,決して子どもの頃だけの問題ではないことに注意すべきである。
全般的な知的能力には問題はない一方で,読み書きや算数など,特定の領域における能力に著しい困難がある状態は,限局性学習障害(Learning Disorder; LD)と呼ばれる。LDの場合には,困難を抱えている領域以外のところでは理解力や能力に問題が生じない場合が多い。なお,これらの問題は勉強が本格的に始まる児童期以降にその問題が表面化することが多く,勉強ができないことによる自己肯定感の低下などの2次障害が生じることがあることに注意すべきである。

② 子どもに見られやすい心理的問題には色々なものがあるが,代表的なものの一つに,分離不安症が挙げられる。主に幼児から児童期初期において外出を強く恐れたり家庭や母親から離れることに極度に恐怖を感じ,それによって登園や登校が難しくなり,社会生活が困難となる状態である。

分離不安自体は正常な発達であるが,3,4歳を過ぎても強い分離不安が見られる場合は,親(養育者)との愛着関係が不安定であることが示唆される。

また,小学生になると,分離不安の問題は,いわゆる「不登校」という形となる。不登校とは,文部科学省の定義によれば,年度間に連続又は断続して30日以上欠席した児童生徒のうち,「何らかの心理的,情緒的,身体的,あるいは社会的要因・背景により,児童生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況にあること (ただし,病気や経済的理由によるものを除く。)をいう。

不登校は主に中学生で急激に増加しているが,近年では小学生の間でも急増している。また,不登校の背景要因は発達に伴って変化する。小学校低学年では母子分離不安という意味合いが強く,小学校の中学年頃までは友人関係や勉強自体の困難が直接の原因となりやすく,思春期になるとより複雑な心理的要因が背景にあると考えられるケースが多くなる。

不登校の対応としては,学校・家庭・専門機関の連携が重要となる。また,本人の怠けなどと捉え,連携や適切な対処がとられないと,長期化・悪化するケースが多い。そして,一般的には「学校へ行けない」が問題で,「行けるようになる」を目標とするパターンはうまくいかないことが多いと考えられている。そこで,「学校へ行けない」という症状の意味,本人の体験を理解しようとする態度を,周囲の人々が身につけることが重要となる。

③ 子どもに見られやすい心理的問題のうち,「情緒障害」とは,なんらかの心理的な要因によって生じる精神的・身体的症状のことである。これには,「チック」や「場面緘黙」などが含まれる。

チックとは,本人の意思とは関係なく運動(過度の瞬きや肩が動くなど)や音声(アレ,アレ,フン,フンなど)が出る症状である。チックを有する子どもの特徴としては,緊張が強かったり抑圧的な場合が多い。また,強迫傾向を伴うことも多い。

場面緘黙とは,正常な言語能力を持っているにもかかわらず,話すことが求められる場面で話すことができない状態である。背景には,子ども自身の要因(心理的問題,発達的な要因)に加え,家族や学校などの環境因が考えられる。

また,爪噛み・指しゃぶりなどの癖も,ひどい場合は,情緒障害と考えてよい。これらの症状を有する子どもは,抑圧的な場合や退行的な場合が多いとされる。また,自分で自分の頭髪やまつ毛,眉毛などを抜いてしまう「抜毛」も情緒障害の一種である。緊張が強かったり抑圧的な場合に見られるが,自罰的・自傷的な意味があると解釈できる場合もある。

子どもの心理的問題のうち,特に近年社会的にも問題となっているのが,虐待である。虐待は,いわゆる愛着の問題を生じさせる。母子の親密で持続的な幸福感に満たされた状態が精神的健康の基本であるのに対して,そのような母子の関係が欠如した状態を,「マターナル・ディプリベーション(母性剥奪)」と呼ぶ。以前はこうした母性剥奪の問題は,何らかの理由で施設に預けられた子どもに特徴的なものと考えられていたが,近年では母親がいても母性剥奪の問題が生じることが指摘されている。その代表的な例が,虐待である。

児童虐待は,①身体的虐待,②心理的虐待,③性的虐待,④ネグレクトの4つに分類される。虐待への対応としては,①緊急介入(児童相談所への通告), ②子どもの安全を確保した上で他者との関わりや自己肯定感を支える,③虐待せざるを得なかった親の感情や体験を整理する手伝いをすることで虐待の連鎖を断ち切る,といったことが挙げられる。

なお,養育者との愛着が虐待等の理由で形成されない場合,情緒面や対人関係に問題が生じることが知られている。DSM-5では心的外傷(トラウマ)関連障害として以下の2つに分かれている。

① 反応性愛着障害:警戒心が強く,他者との情緒的交流を拒否する。
② 脱抑制型対人交流障害:初対面の相手にも物怖じせずむしろ馴れ馴れしい。一方で,他者との特別な絆を結ぶことが困難である。

キーワード ① ASD ② ADHD ③ LD ④ 不登校 ⑤ 情緒障害
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:①いわゆる発達障害と呼ばれる疾患である,自閉症スペクトラム障害,注意欠陥多動性障害,学習障害の主な特徴について,配布資料や教科書を用いて確認しておく。特に,それぞれの疾患に関する事例を読むと,より理解が深まるであろう。②子どもの心理的問題について,どのような問題があるかを確認しておく。また,これらの問題が大人の心理的問題とどのように異なるかについて整理できると良いだろう。特に,子どもの心の問題は身体症状として現れることが多いが,この点についての背景要因を調べ,理解を深められると良いだろう。

予習:次回は心理アセスメントの成り立ちについて学ぶ。これに先立ち,知能検査や人格検査と呼ばれる検査について調べておくと良いだろう。これには,知能検査,人格検査の下位分類,すなわち質問紙検査や作業検査,投映法検査などを整理できると良いだろう。これらの検査の詳細な内容は,一般に公開されていないため,図書館で専門書を探して読むことが有効だと考えられる。

10 心理アセスメント③:心理アセスメントの成り立ち 科目の中での位置付け 本科目は,公認心理師法第7条に規定されている公認心理師となるために必要な科目であり,その基準を満たすために,①臨床心理学の成り立ち(A:精神分析学と力動的心理療法の成り立ち,B:行動理論と行動療法の成り立ち,C:人間性心理学と人間中心アプローチの成り立ち,D:認知理論と認知行動療法の成り立ち,E:心理療法の諸理論の成り立ち,F:心理アセスメントの成り立ち),②臨床心理学の代表的な理論(A:臨床心理学の基本概念,B:面接法によるアセスメントの理論と技法,C:知能・発達・認知機能のアセスメントの理論と技法,D:性格検査の理論と技法,E:見立てと心の病理学,F:心理療法の理論,G:心理療法の折衷と技法選択・効果のエビデンス)などの内容を含んでいる。本コマ(第4回)では,①臨床心理学の成り立ち(F:心理アセスメントの成り立ち)②臨床心理学の代表的な理論(C:アセスメントの理論と技法(2)知能検査・発達検査・認知機能検査,D:アセスメントの理論と技法(3)性格検査)について学ぶ。
配布資料,および参考文献(沼初枝『臨床心理アセスメントの基礎』ナカニシヤ出版 pp. 2-21,細目②:沼初枝『臨床心理アセスメントの基礎』ナカニシヤ出版 pp. 48-55,細目③:沼初枝『臨床心理アセスメントの基礎』ナカニシヤ出版 pp. 56-59)
コマ主題細目 ① 心理アセスメントの成り立ち ② 知能検査 ③ 人格検査
細目レベル ① 心理アセスメントは心理査定とも呼ばれる。これは,相談者(クライエント)の主訴となっている問題の原因やそれが維持されているメカニズムを明らかにし,その問題を解決,あるいは改善するための方法を導き出すことを目的とした一連の過程である。心理アセスメントは,狭義には心理検査(心理テスト)を用いた査定を意味し,また,広義には,クライエントの抱えている問題の本質は何かを中心に,クライエントを複雑な背景を持った一人の人間として見立てることを意味しているといえよう。

心理アセスメントの手法としては,面接法,観察法,検査法といった複数の手法が用いられる。このうち,特に検査法の歴史は客観的な手法で人間の個人差や知能,能力を測定する手法が確立され,科学としての心理学が成立していった過程において重要な意味を持っている。

心理アセスメントの起源は,19世紀中頃,科学としての心理学が始まった頃に遡ることができる。例えば,チャールズ・ダーウィンの従弟にあたるゴールトン(Golton, F.)は,著名人の家系の調査し,才能の遺伝を示す個人差研究などを行なっている。この頃すでに,個人個人の差異を量的に記述したり,その差異を生み出す要因が検討されていたことが窺える。1890年には,キャッテル(Cattell, J. M.)が初めて“Mental Test”という言葉を提唱した。そして,この頃になると検査の標準化など,統計的手法が多くの領域の検査で用いられるようになっていった。

1905年にビネー・シモン尺度(現在のビネー式知能検査の原型)が開発される。この検査は元々は,教育制度をつくる過程で,特殊教育(特別支援教育)を受けることが望ましい知的欠陥のある子どもを識別する目的で開発された。その後,精神年齢(Mental Age)という概念が導入され,1916年には,知能指数(Intelligence Quotient;IQ)の概念が導入されるに至った。

上記のような個人差を数値化する手法の発展に伴い,第一次世界大戦の頃には軍隊兵士のスクリーニングを目的とした質問紙が作成された。

そして,「心理アセスメント」という用語が初めて用いられたのは,第二次世界大戦中にハーバード大学のマレー(Murray, A.)らが行った,戦略事務局向けのプログラムの中でである。

このように,心理アセスメントは,個人差研究や心理測定学が起源となっている。しかし,その発展過程においては,上記以外の流れも関与している。例えば,メニンガー・クリニックのラパポート(Rapaport, D.)は精神分析の枠組みから,テストバッテリー(複数の検査を組み合わせること)を用いて,患者のパーソナリティを力動的に解釈しようとした。すなわち,こうした心理アセスメントは精神分析理論を起源にしている。

② 19世紀後半に心理学における数量的・実験的手法が開発され始め,知能の測定もこの頃から試みられていたが,近代的な検査が開発されたのは20世紀に入ってからのことであった。知能検査の開発の背景には,学校制度の普及に伴って先天的に学力に困難のある児童を見分ける方法論の確立が急務となったということがある。

こうした中,1905年にアルフレッド・ビネーとテオドール・シモンが開発したのが,「ビネー・シモン知能測定尺度」である。この知能検査は複数の問題から構成され,やさしい問題から難しい問題順に配列されるなど,現代知能検査の基礎となった。

1908年には,「精神年齢(Mental Age; MA)」という概念が導入された。これにより,知能検査は判別のための方法から知能を測定する検査へと変化し,各国に広まっていった。そして,その後にドイツの心理学者シュテルンにより,知能指数(Intelligence Quotient; IQ)という考え方が提唱され,この知能指数(IQ)は1916年に発表された「スタンフォード改定増補ビネー・シモン知能測定尺度」で採用された。

なお,知能指数(IQ)は,以下の式によって求めることができる

IQ=精神年齢(知能検査から算出)/生活年齢(実際の年齢) × 100

1935年に,スタンフォード・ビネー式検査への批判から,ニューヨーク大学附属ベルビュー病院のデイビッド・ウェクスラーによって,ウェクスラー・ベルビュー成人知能検査が公評された。ウェクスラーによれば,「知能とは,個人が目的的に行動し,合理的に思考し,かつ効果的に自身を取り巻く外界環境を処理する個々の能力の集合的能力」と定義される。

ウェクスラー式検査は,現在では最も広く使用されている知能検査となっている。特に児童用知能検査(WISC)と,成人用知能検査(WAIS)が使用される頻度は,心理検査全体の中でもかなり高いものとなっている。

ウェクスラー式検査におけるIQは,偏差IQと呼ばれるものが使用されている。偏差IQとは,同じ年齢層の中での位置を示す概念である。これは,以下の式で求めることができる

偏差IQ=(個人の検査得点-母集団の平均値)× 15 ÷ 母集団の標準偏差+100

偏差IQは平均=100,標準偏差=15となるように設定されており,理論上は85~115の間に約67%、70~130の間に約95%の人が収まることなる。

上記までのところで,ビネー式検査とウェクスラー式検査について学んだ。これら二つの検査を見ても明らかな通り,「知能」と呼ばれる概念が検査によって異なる場合がある。ここで,知能に関するいくつかの理論を概観する。最も代表的なものは,キャロル(Carroll, 1993)のCattell-Horn-Carroll理論(CHC理論)である。これは,知能を第1層:一般因子,第2層:広範能力,第3層:限定的能力というように,知的能力を多因子的かつ多層的に捉える理論である。

③ 人格(Personality)とは,簡単にいえばその人らしい行動傾向を生み出すものと言えるが,この概念は主に米国で使用されるもので,ラテン語のペルソナ(Persona)が起源となっている。ペルソナとは,演劇で用いる仮面である。演じられる役割という意味を持つことから,人の内的な性質を表すようになったと言われる。

人格の類語に,性格(Character)が挙げられる。性格は主にヨーロッパで使用される用語であり,ギリシャ語で「刻み込まれたもの,彫りつけられたもの」という意味の言葉が元になっている。

一方,人格と性格を厳密に区別することは難しいため,ここでは便宜的に「人格」を使用することとする。

ここで,人格を対象とする心理学の体系を,「人格心理学」と言う。これは,性格,人格という概念によって個人差を理解・説明しようとする学問と言えるだろう。そして,細目の題名になっている「人格検査」とは,検査的手法によって対象者の人格的特徴を把握するための道具である。この細目では,まず人格の把握方法について学び,次いで代表的な人格検査について概観する。

人格の把握方法には「類型論」と「特性論」の2種類がある。

類型論は,世の中にはさまざまな人がいるが,それらの人を,ある人はAタイプ,またある人はBタイプと,特定のタイプ(類型)に当てはめることで人格を把握する方法である。代表的なものに,クレッチマーの類型論が挙げられる。これは,体型と性格,および精神病理との関連を指摘する理論である。すなわち,①痩せ型の人は「分裂気質」と呼ばれ,非社交的,生真面目,神経質だが落ち着きもある,などの特徴をもつ。②肥満型の人は「循環気質」と呼ばれ,社交的で明るい性格だが,憂鬱になりやすいとされる。③筋肉質型の人は「粘着器質」と呼ばれ,几帳面で物事に熱中しやすく,頑固で,突然爆発する,などの特徴をもつ,とされている。

特性論は個人の性格を,複数の性格特性の量的な差異で表現する理論である。すなわち,人格は外向的・誠実さなどの複数の要素(=特性)からなり、個々の人格の違いはそれらの特性の量的な差で表現されるという考えである。

代表的な理論として,例えばハンス・アイゼンクの階層構造理論がある。この理論は,人格を階層的に捉える理論であり,最も高次に類型レベルがあり,その次にその類型的な行動を規定する個々の性格特性があり(特性レベル),次に習慣的な行動レベル,特定の反応レベル,という具合に階層をなすと考える。

現在最も支持されている特性論は,人間の性格特性は5つの次元に収束するとする「Big Five理論」である。

人格を測定する人格検査には,質問紙法や投映法がある。

質問紙検査は,実施が容で,特別な訓練が必要でなく採点でき,客観的な分析が可能であることに加え,集団での実施が可能であるという利点がある。一方,意図的に反応を歪めることができてしまうという問題も生じやすい。以下に,代表的な質問紙検査を挙げる。

MMPI(Minnesota Multiphasic Personality Inventory ミネソタ多面人格目録)
ハサフェイとマッキンレーによって1943年に刊行された。550項目から構成され,健康・家族・職業・教育・性・社会・政治・宗教・文化・態度・精神病理・受験態度などを測定する。この尺度を元に作成された質問紙も多い。

Y-G性格検査(矢田部ギルフォード性格検査)
カリフォルニア大学のギルフォードが作成し,矢田部達郎らが日本人に合うよう構成した検査である。12の人格に関する因子で構成されており,プロフィールや性格類型として結果が表示される

エゴグラム(TEG)
精神科医のバーンによる「交流分析」の理論を元に構成された検査である。人が持つ3つの自我状態(子ども,親としての自分,大人の自分)について,各自我へのエネルギーの割り振りを見て,対人関係のあり方などを分析できる。

投映法は,自由で正解や優劣の判断ができない課題を実施し,その結果から人格を測定する検査法である。質問紙検査に比べて意図的な回答の歪みがなく,多面的・総合的に人格を捉えることができるという利点があるが,反面,実施と解釈には相当の熟練が必要であり,解釈が検査者によって異なることも多いため,信頼性と妥当性に課題がある。また,検査による侵襲性(防衛された欲求や感情,記憶などを刺激し,その人の心理的な安定性を揺るがすこと)が高いというリスクがある。以下に,代表的な投映法検査を挙げる。

描画検査
描かれた絵からその人の人格的特徴を把握する検査である。代表的な検査に,「バウムテスト」がある。Baumは木を意味しており,一本の木の絵を描いてもらい,描かれた木にその人物の人格が投映されると仮定される。

主題統覚検査(Thematic Apperception Test; TAT)
モーガンとマレーによって発表された検査である。特定の写真あるいは絵を見せ,そこから連想される物語を自由に語ってもらうことでその人の人格的特徴を捉える。

ロールシャッハ・テスト(ロールシャッハ法)
スイスの精神科医,ヘルマン・ロールシャッハによって考案された検査である。偶然出来上がった左右対称のインクのシミ(インクブロット)のある図版を見てもらい,そこに何が見えるか,どこに見えるか,なぜそう見えたのかといったことからその人の人格の深層領域を捉える検査である。代表的な投映法検査であり,バウムテストなどとともに臨床場面で最も使用されている検査の一つとなっている。

なお,上記までで学んだ心理検査(知能検査と人格検査)は,単独で用いられることもあるが,実際の臨床場面では複数の心理検査を組み合わせて実施することが多い。これは,複数の検査から多面的に対象者の心理的特徴を捉えるためである。このような複数検査の組み合わせのことを,「テスト・バッテリー」と呼ぶ。

キーワード ① 心理アセスメント ② 心理検査 ③ 知能検査 ④ 人格(性格)検査 ⑤ テスト・バッテリー
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:知能検査,人格検査について,それぞれの検査の基本的特徴を確認しておくこと。これらの検査の詳細は一般には公開されていないため,図書館などで専門書を探し,具体的な実施方法や背景理論,詳しい歴史などを読み,理解を深めておくことが望ましい。また,テスト・バッテリーとして,実際にはどのような組み合わせが多いのかを調べておけると良いだろう。さらに,それらのテスト・バッテリーがよく用いられるのは,いかなる理由かを考察できれば,より心理検査に対する理解が深まると考えられる。

予習:次回は人が抱える心の病の成り立ちについて学ぶ。特に,病態水準論という考え方は心理的な判断において重要な概念であるため,予め自分で文献を調べるなりして理解を深めておくことが望ましい。なお,復習にあたっては本科目の2回目,3回目で学んだ精神分析の内容が役に立つため,合わせて復習しておくと良いだろう。特に,病態水準論と関わりが深い防衛機制については教科書や文献をもとに確認しておく。

11 心理アセスメント④:心の病の成り立ち 科目の中での位置付け 本科目は,公認心理師法第7条に規定されている公認心理師となるために必要な科目であり,その基準を満たすために,①臨床心理学の成り立ち(A:精神分析学と力動的心理療法の成り立ち,B:行動理論と行動療法の成り立ち,C:人間性心理学と人間中心アプローチの成り立ち,D:認知理論と認知行動療法の成り立ち,E:心理療法の諸理論の成り立ち,F:心理アセスメントの成り立ち),②臨床心理学の代表的な理論(A:臨床心理学の基本概念,B:面接法によるアセスメントの理論と技法,C:知能・発達・認知機能のアセスメントの理論と技法,D:性格検査の理論と技法,E:見立てと心の病理学,F:心理療法の理論,G:心理療法の折衷と技法選択・効果のエビデンス)などの内容を含んでいる。本コマ(第4回)では,②臨床心理学の代表的な理論(A:臨床心理学の基本概念,E:見立てと心の病理学)について学ぶ。
配布資料,および参考文献(細目①:教科書 pp. 7-8,細目②:教科書 pp. 4-5,細目③:教科書 pp. 18-19)
コマ主題細目 ① 生物―心理―社会モデル ② 生物学的・社会的要因に関するモデル ③ 病態水準論
細目レベル ① 心理専門職が行うのは,医学的診断ではなく,「心理アセスメント」である。すでに以前のコマで述べた通り,心理アセスメントとは,相談者(クライエント)の主訴となっている問題の原因やそれが維持されているメカニズムを明らかにし,その問題を解決,あるいは改善するための方法を導き出すことを目的とした一連の過程である。

医学的診断は,対象者を苦しめている病理を特定し,治療方法を決定することに重点が置かれる。一方,心理アセスメントは,相手(クライエント)を一人の人間として理解しようとする試みであり,特にその人が何を体験しているか,何がその人を苦しめているかを理解しようとする試みであるという違いがある。

心理アセスメントにおいては,心の病に関係する複数の要因を多面的に見ていく必要がある。大別すると,これらの要因は一般的に生物学的要因・社会的要因・心理的要因に大別される。

臨床心理学の成り立ちに関するコマですでに学んだ通り,19世紀に近代精神医学が成立した際に二つの流れが誕生した。クレペリンKraepelinをはじめとする,近代的な合理性に基づいて心の病などの不合理を解き明かそうとする流れである。この流れはいわゆる伝統的精神医学と言うことができる。すなわち,人間が抱える心の病は脳をはじめとする生物学的原因がある異常な状態であると考える流れである。

そして,二つ目の流れが神経症,特にヒステリーを対象としたフロイトFreud,S.らの流れである。フロイトは,人を合理的な存在ではなく,人は本質的に不合理であると考えた。そして,人の心の病の原因は,全て心理的要因にあると考えたのである。

このように,従来は「全て生物学的な原因がある」,「全て心理的な原因がある」という二つの相反する考えが衝突していたのである。しかし,現代ではこれらの生物学的要因,心理学的要因,そして環境的な要因を含め,人の心の病の原因を多面的に見ていく必要があるとする理解の仕方が主流となってきている。このような見方は,「生物―心理―社会モデル」(Bio-Psycho-Social model )と呼ばれる。

② 一般的に流布している認識の一つに,精神疾患や心の病を抱えるのは一部の限られた人だけである,というものがある。確かに,特定の精神疾患においては遺伝要因が関与していることが明らかになっており,生まれつき精神疾患や心の病に罹患しやすい人がいる,ということはできるだろう。こうした精神疾患に対する生まれつきの要因を,「脆弱性」あるいは「素因」と呼ぶ。しかし,こうした脆弱性(素因)を持つ人全てが精神疾患を発症するわけではない。また,元々精神疾患に罹患するリスクが低い人でも,非常に強いストレス(自然災害や凄惨な事故など)や,持続的なストレスを受ければ,心身の不調やある種の精神疾患を患うに至る場合も少なくない。

こうした元々の脆弱性と環境要因(ストレス)が精神疾患の発症に与える影響を説明するモデルに,「ストレス–脆弱性モデル(素因ストレスモデル)」(Diathesis-stress model)がある。これは,横軸に脆弱性,縦軸にストレスを配置し,生物学的要因と環境要因とが精神疾患の発症に関与していることを示すモデルである。重要なのは,精神疾患は一部の脆弱性が高い人々がなるものではなく,誰でも発症しうるものである,ということがこのモデルから説明される点にあることを理解したい。

上記のモデルに含まれる環境要因,すなわちストレスは,心身にどのような影響を与えるのであろうか。いわゆるストレス反応(心身のさまざまな反応)は,生体におけるホメオスタシスという機能が関係している。ホメオスタシスとは,環境の変化に適応し,生体内の環境を一定に維持させるためのシステムである。例えば,暑いと汗をかいて喉が渇くが,これは体温を下げ,適切な水分量を維持するためである。

では,非常に強いストレッサー,例えば身の危険を感じるような出来事に遭遇したとき,人間のホメオスタシスはどのように作用するのだろうか。このような場合に生体が示す反応のことを,「闘争と逃走の反応」(fight-or-flight response)と呼ぶ。危険を感じる出来事に遭遇すると,身体は心拍数の増加,血圧上昇,胃腸活動の抑制,瞳孔拡大などの変化が生じる。また,心理的には怒りあるいは恐れといった感情が生起する。こうした心身の変化により,生体は危険に対して立ち向かったり,回避するための準備状態を作るのである。

一方,強いストレスや持続的なストレスにさらされ続けると,容易に想像できるように,生体は心身のバランスを崩す。生理学者のセリエ(Selye,1936)は,人間がストレスにさらされた反応経過を示す学説を示した。これを,「汎適応性症候群」と呼ぶ。

汎適応性症候群は,ストレスを受け続けた場合に生じる一連の過程が以下のように示されている。①警告反応期は,突然ストレッサーにさらされた状態である。これはショック状態を起こし,血圧低下や血糖値低下などが見られるショック相と,ショックから立ち直り,血圧や血糖値の上昇が起こる反ショック相に分けられる。②次の抵抗期では,一旦は安定を迎える。この時期にストレッサーが弱まるか取り除くことができれば、ストレス状態から回復して健康を取り戻すことができる。しかし,③ストレスに対抗しきれなくなり、抵抗力が衰えるようになると,疲憊(ひはい)期となる。この時期は生体機能の低下や不適応が見られ,最悪の場合死に至るとされる。

③ 人の心の病に関しては,単にクライエントが精神疾患を患っているかそうでないかということ以上のことがしばしば問題となる。具体的に言えば,同じ診断名を有する別々の患者がいたとして,その二人の患者は決して全く同じ状態像を示すとは限らない。もしかすると,片方のクライエントは精神疾患の症状はあるものの,対人関係や社会的適応を見れば,比較的健康な側面を見出せるかもしれないが,もう片方のクライエントは同じ症状を有していても,対人関係や社会問題を見ても非常に困難が大きく,より重篤な状況に置かれている,という場合もある。こうしたことを踏まえ,心理学的な診断においては,診断の分類ではなく,クライエントの病理がどの程度の重さなのか,ということがしばしば問題となる。

このような問題に対して有用な理論,「病態水準論」を提唱したのが,アメリカの精神分析家,オットー・カーンバーグ(Kernberg, O.)である。彼は,①現実検討能力,②自我境界の明確さ,③防衛機制のレベル,という3つの基準をもとにパーソナリティの構造を判断する,「人格構造論」を提唱した。病態水準論とは,この人格構造論に基づいて病理のレベルを「神経症水準」,「境界例水準」,「精神病水準」に分ける考え方である。

神経症水準は,①現実検討能力は保たれており,②自我境界も明確,③防衛機制のレベルが高い水準である。すなわち,神経症水準は自我がしっかりと機能しており,基本的な特徴は,葛藤を持てるということである。物事の見方はしっかりと現実に根付いており,「自分」がどんな人かのイメージは明確で,自他の区別はしっかりとついている。

これに対して,最も病態が重いのが精神病水準である。精神病水準は,①現実検討能力,②自我境界が障害されており,③防衛機制は原始的なものを用いるか,あるいは機能していない。特徴としては,妄想・幻覚といった症状に代表されるように,現実をしっかり把握できないことが挙げられる。統合失調症の思考吹入や思考奪取に見られるように,自分の外から思考が入ってくるように感じたり,逆に自分の思考が筒抜けになるなど,「自分」というものの境目は全くないか,極めて弱い。

境界例水準とは,神経症水準と精神病水準のあいだ(境界)に位置づけられる概念である。①現実検討能力は通常保たれているが,場合によっては容易に被害妄想的になる恐れがある。②自我境界は障害されており,③防衛機制は原始的な防衛を主に用いる。

投影同一視や分裂を代表とする原始的で機能的でない防衛機制を用いる。そして,これらの防衛に見られるように,自分と他者との境界は曖昧である。すなわち,過度に親密になろうとする境界のなさ,自分の怒りを相手のものと感じる,などの特徴がある。

また,理想的な人か無価値な人,という極端な対人関係を持ち,自分自身の気持ちや考えも連続性がなく,日によって全く態度が変わったりする。「自分」というしっかりした核がないと言える。

キーワード ① 生物―心理―社会モデル ② 病態水準論 ③ 神経症水準 ④ 境界例水準 ⑤ 精神病水準
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:現代の心理アセスメントにおいては,クライエントの心理面だけでなく,生物学的な要因,そして社会的要因を考慮し,多面的な視点から対象を理解する視点が重視されている。したがって,生物―心理―社会モデルの考え方はしっかりと復習しておく。また,病態水準論は心理学的な視点からクライエントの病理の重さを判断する上で有効な理論であるため,しっかり身につけておく必要がある。①現実検討能力,②自我境界,③防衛機制のレベル,という視点に関して,しっかり復習してその考え方に対して理解を深めておくことが望まれる。

予習:次回は心理アセスメントの実践について学ぶ。実際にクライエントと初めて会ったときを想定し,どのような観点からアセスメントを行うのか,という点について理解を深める。そのため,予習では「インテーク面接」「見立て」「関与しながらの観察」といった用語についてあらかじめ調べ,意味を理解しておくことが望ましい。特に,臨床心理学における「見立て」という考えは実践において重要かつ頻繁に使用される用語であるので,あらかじめ調べておくと良いだろう。

12 心理アセスメント⑤:心理アセスメントの実践 科目の中での位置付け 本科目は,公認心理師法第7条に規定されている公認心理師となるために必要な科目であり,その基準を満たすために,①臨床心理学の成り立ち(A:精神分析学と力動的心理療法の成り立ち,B:行動理論と行動療法の成り立ち,C:人間性心理学と人間中心アプローチの成り立ち,D:認知理論と認知行動療法の成り立ち,E:心理療法の諸理論の成り立ち,F:心理アセスメントの成り立ち),②臨床心理学の代表的な理論(A:臨床心理学の基本概念,B:面接法によるアセスメントの理論と技法,C:知能・発達・認知機能のアセスメントの理論と技法,D:性格検査の理論と技法,E:見立てと心の病理学,F:心理療法の理論,G:心理療法の折衷と技法選択・効果のエビデンス)などの内容を含んでいる。本コマ(第4回)では,②臨床心理学の代表的な理論(B:アセスメントの理論と技法(1)面接法,E:見立てと心の病理学)について学ぶ。
配布資料,および参考文献(細目①:教科書 pp. 9-10,細目②:川畑直人 監修 『対人関係精神分析の心理療法 わが国における訓練と実践の軌跡』誠信書房 pp.56-74,細目③:下山晴彦 他 編『公認心理師スタンダードテキストシリーズ3 臨床心理学概論』ミネルヴァ書房 pp. 62-68)
コマ主題細目 ① インテーク面接 ② 関与しながらの観察 ③ 見立て
細目レベル ① 本コマでは,心理アセスメントの実践について学ぶ。すでに述べた通り,心理アセスメントは,相手(クライエント)を一人の人間として理解しようとする試みであり,特にその人が何を体験しているか,何がその人を苦しめているかを理解しようとする試みである。この過程は,初めてクライエントと会った時,さらに言えば相談申込を受けた時から始まっている。臨床心理学においては,このようなクライエントとの最初の出会いの面接を,「インテーク面接」あるいは「受理面接」と呼ぶ。

インテーク面接(受理面接)は多くの場合初回面接のことを指すが,クライエントの問題に対して,どのような背景要因があり,どういったメカニズムでその問題が起きているのかについての仮説を立てることに加え,その相談機関でクライエントの問題を引き受けるかどうか,引き受けるとしたらどのように対応するかなどの方針を決定するための面接という意味を含んでいるため,初回から数回までの面接を意味する場合もある。

インテーク面接では,主訴(主に相談したい内容)・これまでどんな治療を受けてきたか(相談歴)・誰からの紹介か・主治医がいる場合主治医の承諾はあるのか・家族歴・生育歴・現在の環境を聴取し,必要に応じて心理検査をすることもある。以上のことをふまえて,話を聞きながらある程度の見立て(この人の本質的な問題はどこにあるのか)を考え,最終的にクライエントに方針を提案できるようにすることを目指す。

 では,実際のインテーク面接ではどのようなことを行われるのか。ここでは,最もスタンダードな形の一つと考えられる,大学に付属する臨床心理相談室の場合を考えてみる。

相談申込がどのような形でなされるかは,支援機関によって異なることが一般的である。相談者が相談を電話で申し込む形式の場合,電話の時点である程度詳しい内容を聞いて受付可能か,相談者のニーズと合致しているかを確かめて受付を行う場合もあれば,そういったフィルターがない場合もある。また,担当者決定の流れも様々である。例えば,初回面接はインテーカーという役割の心理士が行う場合がある。これは,初回の面接である程度の見立てができる力量のある経験を積んだ心理士が担う場合が多い。もちろん,このようなインテーカーという役割がない場合もある。

子どものケースの場合,子どもと保護者の面接担当者を分けて面接を実施することも多い。こうした形を「母子平行面接」と呼ぶ。大学院の訓練では一般的な形と考えられるが,実際の臨床現場では,セラピストが一人しかいないことも多いため,母子並行面接を前提とした形式が適切なのかどうかは議論の余地があるかもしれない。

 なお,「主訴」とは相談者が相談したい主な困りごとのことである。例えばこれは,「学校に行けないこと」のように,現実的な困りごとが多い。一方,問題の本質と主訴は異なるため,主訴は臨床心理面接への「切符」と呼ばれることもある。

インテーク面接では,先のコマで学んだ,生物―心理―社会モデルの視点から,多面的に背景要因を探索することが重要である。例えば,子どものケースでは生物学的要因として,発達障害(神経発達症)などの生得的な要因が存在していないかを検討する必要がある。このような生得的要因を検討する必要があるのは,生得的な特性を心理療法で根治することは不可能であるため,それらの困難とどのように付き合っていくか,どのような工夫が有効かを考えていくことが重要であるためである。

社会的側面としては,家庭環境など,本人が置かれている状況をアセスメントする必要がある。例えば,虐待や孤立などの状況がないか,といった視点が重要な項目となろう。

心理的側面では,本人の人格的特徴についてのアセスメントが重要となる。この点をアセスメントするためには,本人によって語られる主観的体験や感情,周囲の人から得られる本人に関する情報などを活用していく。そして,本人の人格的特徴を理解する上で重要な概念が,「関与しながらの観察である」

② 「関与しながらの観察」とは,アメリカの精神科医,ハリー・スタック・サリヴァン(Sullivan, H. S.)が提唱した概念である。心理臨床では,心理専門職は本人と直接関わりながら,相手の様子を観察していく。実際にクライエントと関わる中でクライエントが示す反応,そしてセラピスト側に生じる反応は,面接の中で何が起きているのか,ひいてはクライエントが抱える困難の本質を捉えることにつながる。これは,面接場面で生じる現象は,クライエントの日常生活でも生じている可能性が高いためである。

ここで,関与しながらの観察,という用語は,ただ単に「対象者と関わりながら相手のことを観察する」,という行為であると理解されやすい。しかし,この概念は実際は行為レベルではなく,むしろ面接場面で生じている現象を理解するための「認識のあり方」であると言える。具体的に言えば,関与しながらの観察は,中立的,受動的なセラピストという従来的なセラピストのあり方からの脱却とも言えるのである。

従来の心理療法,例えば古典的な精神分析では,治療者は中立的で,受動的な立場を取るべきであるとされている。具体的に言えば,セラピストはクライエントが自由に連想することを黙って聞き,それに反論したりすることはほとんどない。また,セラピストは自身の個人的考えを解釈を除いて話さない。こうした態度を取ることで,クライエントにとってセラピストはどのような人か捉えづらい対象となり,結果的に,さまざまなことを投影し,いわゆる転移(過去の重要な他者に抱いた感情をセラピストに対して抱くこと)を起こしやすくなるとされている。このように,セラピストが受動的,中立的な態度を取ることでさまざまなことを投影,転移しやすくなる,という仮定は,「ブランク・スクリーン(空白のスクリーン)仮説」と呼ばれる。

しかし,セラピストがクライエントに影響を与えない,という考えは妥当なのか?という疑問を呈するのが,「関与しながらの観察」という考え方である。実際には,セラピストの言動はクライエントの言葉や態度の影響を受けるはずである。また,クライエントもセラピストの言葉や仕草,態度を「観察」しているはずなので,クライエントの言動はセラピストの影響を受けるはずである。さらに言えば,クライエントが抱える困難は,セラピストとの関係においても生じることとなる。この時,セラピストはクライエントが抱える困難を示す対人関係のパターンが成立するために,「関与」している。したがって,関与しながらの観察は,クライエントと実際に関わる中で生じる現象にはセラピストも関与しており,その中で生じるやりとりや,クライエントとセラピスト双方に生じる感情を観察し,理解することを重視する見方であると言える。

実際の臨床場面では,フロイトの時代のようにカウチにクライエントが寝て自由連想を行う状況は少なく,対面形式でクライエントと話し合う状況の方が圧倒的に多い現状を踏まえると,この関与しながらの観察,という考えをしっかりと理解しておくことが望ましい。

③ 心理臨床では,診断という言葉より,「見立て」という言葉が用いられることが多い。「見立て」は,単に原因を特定するだけでなく,クライエントを複雑な背景を持った一人の人間としてその人を見,何がその人の生きづらさを生じさせているのか,その人が本当に困っている問題は何なのか,対応方針はどうしていけばいいのかを判断することが含まれていると考えられる。見立ては,アセスメントの結果立てられる,治療のための仮説と言えるだろう。

この細目では,心理専門職における見立ての考え方について学ぶとともに,「診断」や「ケースフォーミュレーション」といった関わりの深い概念についても学び,その共通性や違いについて検討していく。

まず,「診断」とは,医者が患者を診察して,病気の種類や病状などについて判断を下すことを意味している。これは,原因となる疾患を特定し,適切な治療方法を確定することが目的となる。

一方,「ケースフォーミュレーション」は,介入の対象となる臨床的な問題の成り立ち,それが維持されている道筋を説明するための仮説を形成するプロセスを意味している。

キーワード ① インテーク面接 ② 関与しながらの観察 ③ 見立て ④ 診断 ⑤ ケースフォーミュレーション
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:①クライエントと初めて会う面接において,どのような情報を集め,ある程度の見通し(見立て)を立て,心理療法を方向づけるか,という問題は非常に複雑な仮定である。復習においては,生物―心理―社会モデルの枠組みを活用しながら,どのような情報を聞くべきかについて確認しておくことが重要である。②ブランクスクリーン仮説,および関与しながらの観察という考えについて,それぞれの理論的枠組みの相違点を確認できると良いだろう。③「見立て」という用語は,さまざまな文脈で使用されており,一貫した定義を見出しづらい特徴を有している。そのため,地震で「見立て」という用語について調べ,どのような定義がなされているか,どのような文脈で使用されているかを確認し,理解を深めておくと良いだろう。

予習:次回は臨床心理学における第三の領域である,「臨床心理学的地域援助」について取り上げる。キーワードとなるのは,「コミュニティアプローチ」「コンサルテーション」そして「予防」である。それぞれの用語について,教科書や文献を参考にしながらそれぞれ意味を確認しておくことが望ましい。また,これまで扱ってきた心理療法と臨床心理学的地域援助では,どのような点が異なるのかについても事前に調べておけると良いだろう。

13 臨床心理学的地域援助 科目の中での位置付け 本科目は,公認心理師法第7条に規定されている公認心理師となるために必要な科目であり,その基準を満たすために,①臨床心理学の成り立ち(A:精神分析学と力動的心理療法の成り立ち,B:行動理論と行動療法の成り立ち,C:人間性心理学と人間中心アプローチの成り立ち,D:認知理論と認知行動療法の成り立ち,E:心理療法の諸理論の成り立ち,F:心理アセスメントの成り立ち),②臨床心理学の代表的な理論(A:臨床心理学の基本概念,B:面接法によるアセスメントの理論と技法,C:知能・発達・認知機能のアセスメントの理論と技法,D:性格検査の理論と技法,E:見立てと心の病理学,F:心理療法の理論,G:心理療法の折衷と技法選択・効果のエビデンス)などの内容を含んでいる。本コマ(第4回)では,①臨床心理学の成り立ち(E:心理療法の諸理論の成り立ち)②臨床心理学の代表的な理論(A:臨床心理学の基本概念)について学ぶ。
配布資料,および参考文献(細目①:下山晴彦 他 編『公認心理師スタンダードテキストシリーズ3 臨床心理学概論』ミネルヴァ書房 pp. 125-128,細目②:下山晴彦 他 編『公認心理師スタンダードテキストシリーズ3 臨床心理学概論』ミネルヴァ書房 pp. 129-132,細目③:下山晴彦 他 編『公認心理師スタンダードテキストシリーズ3 臨床心理学概論』ミネルヴァ書房 pp. 133-135)
コマ主題細目 ① コミュニティアプローチ ② コンサルテーション ③ 予防
細目レベル ① 臨床心理学的地域援助とは,問題を抱えた個人ではなく,それを取り巻き支える人々や,一般の人々を対象にした援助のことである。このような支援は,「コミュニティ・アプローチ」とも呼ばれる。これは,人々の生活の場に入り込み,そこで暮らす人々の生活の様子を理解しながら,生活の質(Quality of Life)を高めていく支援と言える。

これまで扱ってきた心理療法は,問題を抱えた個人への直接的なアプローチの手法であった。また,基本的には専門家は支援機関において相談者がそこに訪れる,つまり専門家は面接室の中だけで支援を行う形式であった。これに対してコミュニティ・アプローチでは,面接室の外に出て支援を行う。これを「アウトリーチ」と呼ぶ。ここで言う「外」とは,学校や職場,地域といったコミュニティの中である。

コミュニティ・アプローチでは,上記以外の点においても通常の心理療法とは異なる考え方をする。例えば,①病理に着目するだけでなく,人々が本来持っている強さやコンピテンス(能力)を重視すること,②治療ではなく,予防と増進を重視すること,③多職種連携,すなわち他の専門性を持った人々と協働すること,などが挙げられる。

なお,多職種連携はその名の通り,例えば医師や看護師,教師といった専門家や,福祉職,行政職といったその他の職業の人々と心理専門職が協働することを指す。どのような連携があり得るかについては,生物―心理―社会モデルに基づいて考えると理解がしやすい。例えば,心理面の支援を心理職が行い,生物学的な問題(病気等)については医師や看護師などの医療従事者が行い,経済的・組織的問題などの社会的側面については福祉専門職や教育専門職,行政が支援を行う,などである。

コミュニティ・アプローチでは,個人を取り巻く環境からの影響を理解することが重要である。このような環境が個人に与える影響を説明する理論として,ブロンフェンブレンナー(Bronfenbrenner, U.)が提唱した,「生態学的発達理論」がある。これは,個人の問題を,個人の問題として捉えるのではなく,環境とその相互作用に目を向けることの重要性を示唆する理論である。

② コミュニティ・アプローチには,2つの側面がある。そのうちの一つは,問題を抱えた個人を取り囲む人々へのアプローチである。

問題を抱えた個人の周りの人々へのアプローチの具体例としては,学校での支援が挙げられる。学校現場で心理支援を行うスクールカウンセラー(SC)は,児童生徒のカウンセリングを行うだけでなく,そのカウンセリングから得られた理解や重要な情報を,担任等の関係者に伝えたり,助言することが業務内容となっている。また,問題を抱えた児童生徒本人との直接の関わりがない場合も多い。そのような場合には,先生から児童生徒への対応についてアドバイスを求められることも多い。また,職場での心理支援では,精神疾患等で休職中の人の上司に,クライエントの現在の状態に関する見立てを伝えたり,職場でできる工夫についてアドバイスを行うなどの間接的な支援が求められる。

このように,心理専門職が教師や職場の上司等の支援者にアドバイスを行うなどの支援は,「コンサルテーション」と呼ばれる。これは,専門家が問題を抱えた個人の周りにいる支援者に働きかけ,効果的に当該の対象にそれらの人々が援助できるよう,間接的に援助することである。

コンサルテーションは直接的な援助ではなく,その目的は援助対象の個人,あるいは彼らを支える環境の自助力を活用し,問題に対処できるようになってもらうことを目指すことにある。

なお,コンサルテーションには,①教師や保護者等,クライエントを直接援助する者に対して援助の技法やその進め方について研修を行う「研修型」,②問題が生じた時にその解決を目的として行う「問題解決型」,③集団・組織の運営・経営といったシステムの問題に対して行う「システム介入型」といった種類がある。

③ コミュニティ・アプローチにおけるも一つの側面は,地域の一般的な人たちのQOLを向上させるアプローチである。これは,心理学の知識を用いて地域住民のQOL向上や問題発生を予防することを目指すという考え方である。

予防という考え方を理解する上では,Caplan, Gの「予防モデル」が有用である。この予防モデルでは,予防を一次予防,二次予防,三次予防に分けて考える。

一次予防は一般市民全般を対象とした予防であり,危機的状況の発生を予防することが目的である。例えば,講演会,広報活動等を通じて広く啓発活動を行うことなどがこれに含まれる。

二次予防は,問題を呈し始めた人,すなわちハイリスクの人々を対象にした重篤化予防である。すなわち,問題が深刻化する前に介入し,その被害を最小限に抑えることを目的としている。アプローチとしては,早期発見・早期対応が目指され,手法としては,例えば定期健診などの形式で問題を呈している人を早期に発見する形で行われる。

最後に,三次予防は,問題発生状況にある人,およびその人が住むコミュニティを対象にした,再発予防である。すでに問題が生じた場合に,その再発予防を目指したリハビリテーションを行ったり,対象者が所属するコミュニティの変革・改善により環境の整備を行うことを目的としている。

近年,心理専門職が地域住民に対して行う予防活動として,自殺予防を目的とした「ゲートキーパー研修」が挙げられる。ゲートキーパーとは,悩みを抱えた人,特に自殺を考えている人のSOSに①気づき,声をかけ,②話を聴いて,③適切な支援に繋ぎ,④見守る地域の人々のことを指す。

自殺の問題に関しては,まず自殺に関する正しい知識を持つことが重要である。例えば,「死にたい」と言う人は他者の注意を引きたいだけなので,「死にたい」と言う人は実際には自殺しない,という認識が一般に持たれている場合があるが,この認識は誤りである。自殺について口にすることは助けを求めるサインであり,実際に,このような訴えをしやすい境界性パーソナリティ障害を抱える人の自殺リスクは高い(自殺者の約13%)ことが知られている(WHO,2007)。

キーワード ① コミュニティ・アプローチ ② コンサルテーション ③ 予防 ④ Caplanの予防モデル ⑤ ゲートキーパー
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:①コミュニティ・アプローチについて,これまで学んできた心理療法との相違点について確認する。特に,その方法論や目的,考え方の違いについては説明できる程度にまで理解を深めておくことが望ましい。②コンサルテーションについては,実例を参考にするとより理解しやすいだろう。文献や教科書等から,コンサルテーションの具体例を探し,その具体的な方法について理解を深めることが望ましい。③予防の概念は,臨床心理学の知識を一般の人々の心の健康や,日常生活に応用するにあたり重要なものとなる。それぞれの次元における対象や目的を確認し,理解を深めておく。

予習:次回のテーマは「実践と研究」である。特に,心理援助職が守るべき倫理規程は重要であるため,事前に臨床心理士資格認定協会のホームページに掲載されている倫理綱領に目を通しておくと良いだろう。また,倫理に関しては実際的な問題についても理解を深めることが重要である。例えば,職務上知り得た情報に関しては守秘義務が適用されるが,多職種連携という考えとの兼ね合いはどうなっているのか,命に関する事柄に関しても守秘義務は適用されるのか,適用されないとしても,第三者にその情報を伝えることに問題はないのか,といった問題などがある。こうした問題について,自分で文献を調べたり,自分の意見をあらかじめまとめておくことが望ましい。

14 実践と研究 科目の中での位置付け 本科目は,公認心理師法第7条に規定されている公認心理師となるために必要な科目であり,その基準を満たすために,①臨床心理学の成り立ち(A:精神分析学と力動的心理療法の成り立ち,B:行動理論と行動療法の成り立ち,C:人間性心理学と人間中心アプローチの成り立ち,D:認知理論と認知行動療法の成り立ち,E:心理療法の諸理論の成り立ち,F:心理アセスメントの成り立ち),②臨床心理学の代表的な理論(A:臨床心理学の基本概念,B:面接法によるアセスメントの理論と技法,C:知能・発達・認知機能のアセスメントの理論と技法,D:性格検査の理論と技法,E:見立てと心の病理学,F:心理療法の理論,G:心理療法の折衷と技法選択・効果のエビデンス)などの内容を含んでいる。本コマ(第4回)では,②臨床心理学の代表的な理論(G:心理療法の折衷と技法選択,効果のエビデンス)について学ぶ。
配布資料,および参考文献(細目①:公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会HP:http://fjcbcp.or.jp/,細目②:教科書 pp.12-13,細目③:教科書 pp.14-16)
コマ主題細目 ① 臨床心理士の倫理 ② 様々な臨床現場 ③ 研究と研鑽
細目レベル ① 「臨床心理士」とは,公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会が実施する試験に合格し,認定を受けることで取得できる資格である。臨床心理士に求められる専門行為は,すでにこれまでのコマで学んだ通り,①臨床心理アセスメント,②臨床心理面接,③臨床心理的地域援助,④研究の4つに大別される。臨床心理士は,これらの4種の領域についてのさらなる臨床能力の向上と,高邁な人格性の維持,研鑽に精進するために,「臨床心理士倫理綱領」の遵守と,5年ごとの資格更新が制度として定められている。なお,臨床心理士の資格認定がスタートしたのは昭和63(1988)年であり,令和3(2021)年4月1日現在で38,397名の臨床心理士が認定されている。

臨床心理士は,単に個人的な意欲や情熱,あるいは人生経験だけでは成り立たない。“心の専門家”として人間的資質や倫理観が問われる。臨床心理士の場合,そのために定められているのが,「臨床心理士倫理綱領」である。その前文には,臨床心理士は基本的人権を尊重し,専門家としての知識と技能を人々の福祉の増進のために用いるように務めるものであること,そのため臨床心理士はつねに自らの専門的な臨床業務が人々の生活に重大な影響を与えるものであるという社会的責任を自覚しておく必要があるということ,そして,自ら心身を健全に保つように努め,臨床心理士に付与される倫理綱領を遵守する義務を負うものである,ということが明記されている。

倫理綱領は全10条で構成されている。いずれも重要な項目であるが,その中でも特に理解しておきたい項目を以下に記載する。

第2条<技能>には,臨床心理士は訓練と経験により的確と認められた技能によって,来談者に援助・介入を行うものであると明記されている。そのため,常にその知識と技術を研鑽し,高度の技能水準を保つように努めなければならない。一方,自らの能力と技術の限界についても十分にわきまえておかなくてはならないということも記されている。

第3条<秘密保持>では,臨床心理士は,業務従事中に知り得た事項に関して,専門家としての判断のもとに必要と認めた以外の内容を他に漏らしてはならないと明記されている。また,事例や研究の公表に際して特定個人の資料を用いる場合には,来談者の秘密を保護する責任をもたなくてはならない。

第5条<援助・介入技法>では,臨床業務は自らの専門的能力の範囲内でこれを行い,常に来談者が最善の専門的援助を受けられるように努める必要があると明記されている。また,臨床心理士は自らの影響力や私的欲求を常に自覚し,来談者の信頼感や依存心を不当に利用しないように留意しなければならない。その臨床業務は職業的関係のなかでのみこれを行い,来談者又は関係者との間に私的関係及び多重関係をもってはならない,とある。

② 臨床心理士が働く臨床現場は,①教育分野,②医療・保健分野,③福祉分野,④司法・矯正分野,⑤労働・産業分野に大別される。

①教育現場
教育分野における臨床心理士は,発達・学業・生活面などでの問題に対して心理的援助を行うことが主な業務内容となる。本人との面接のほか,親との面接,教師へのコンサルテーションなどを実施し,必要に応じて他機関との橋渡し役も務める。教育領域の現場としては,学校内の相談室,教育センター,各種教育相談機関などが挙げられる。

学校内の相談室で働く心理職は,学校臨床心理士,いわゆる「スクールカウンセラー」(SC)と呼ばれる。スクールカウンセラーは文部科学省が推進する事業で,平成7(1995)年から全国の公立中学校に配置されるようになった。平成7年当初は154校のみの配置であったが,平成20(2008)年には全10,000校への配置を実現している。なお,問題発生の低年齢化にともない,小学校への配置も順次進められている。

スクールカウンセラーの業務内容は,(1)児童生徒に対する相談・助言,(2)保護者や教職員に対する相談(カウンセリング,コンサルテーション),(3)校内会議等への参加,(4)教職員や児童生徒への研修や講話(現職教育,心理教育など),(5)ストレスチェックやストレスマネジメント等の予防的対応,(6)事件・事故等の緊急対応における被害児童生徒の心のケア,が挙げられる。

なお,スクールカウンセラーの業務において重要な概念として,「外部性」が挙げられる。外部性とは,学校組織の外側に所属する立場であることを意味している。外部性があることによって,教員とは別の立場で相談をすることができるため,カウンセラーならば心を許して相談できるといった雰囲気を作り出すことにつながる。また,教職員等も含めて,専門的観点からの相談ができるという利点が挙げられる。

①医療・保健分野
この領域における現場には,病院・診療所(精神科、心療内科、小児科他),保健所,精神保健福祉センター,リハビリテーションセンター,市町村の保健センターなどが挙げられる。

臨床心理士が病院で働く場合は多いが,こうした病院は大きく2つに分けられる。(1) 単科精神科病院では,心理テスト,心理療法のほかに,デイケアやコンサルテーションなども行う。特徴として,精神病,境界例,重い神経症など病態が重い人々を対象とすることが多いことが挙げられる。(2) 総合病院や開業医院では,小児科や内科など精神科以外での心理士の需要も多い。また,単科と比べて病理が軽い対象が比較的多く,慢性疾患などの心理的ケアも含まれる。

また市町村の保健センターでは,小児科医や保健師とともに乳幼児の健康診査・発達相談などにもかかわる。

③福祉分野
子どもの心身の発達,非行,障害児・者,女性問題,高齢者の問題など,福祉に関する幅広い領域に対し,心理的側面から援助することが業務内容である。この領域における現場としては,児童相談所,療育施設,心身障害者福祉センター,障害者作業所,女性相談センター,老人福祉施設などが挙げられる。

④司法・矯正分野
犯罪等を犯した者の社会的処遇を決定する際の心理的側面に関するテストや調査,矯正に向けての心理面接などを行うことが業務内容となる。この領域における現場には,家庭裁判所,少年鑑別所,刑務所,拘置所,少年院,保護観察所,児童自立支援施設,警察関係等のさまざまな専門的相談業務などが挙げられる。

⑤労働・産業分野
この領域では,職業生活の遂行のために,面接や職場内へのコンサルテーションなど,就業の相談では,職業への適性をめぐる問題等の心理的援助を行う。現場としては,企業内相談室,企業内健康管理センター,安全保健センター,公立職業安定所(ハローワーク),障害者職業センターなどが挙げられる。

③ 臨床心理学は応用心理学の一つとされ,その大きな特徴は実践の場を有し,実践と研究が密接に結びついた学問であるという点にある(科学者ー実践者モデル)。臨床心理学における研究方法には,大きく分けて①量的研究と②質的研究がある

①量的研究とは,分析や結果の記述に数量を用いる研究方法であり,仮説を立て,それを検証する,実証的研究方法である。例えば,「インターネットばかり使っていると体に悪いからやめなさい」という躾はよく見られるものである。このような躾は,「インターネット利用は心身の健康に悪影響を与える」という信念に基づいているが,こうした信念は経験則によって信じられているものであって,実際に「インターネット利用が心身に悪影響を与える」,という因果関係を確かめているわけではない。量的研究では,実際に上記のような因果関係が存在するのかをデータを用いて実証していくのである。

なお,量的研究ではしばしばエビデンス(Evidence)が問題となる。エビデンスとは,科学的根拠という意味であり,エビデンス・ベイスト・アプローチ(Evidence-based approach; EBM)とは,科学的根拠に基づいた方法を意味する。

研究だけではなく,心理療法やアセスメントにおいても,有効性に関するエビデンスがあるかどうかが,今日では重要な価値基準となっている。なお,臨床研究におけるEBMとして,複数の研究結果を集めて解析をメタ分析や,対象者をランダムに条件に振り分ける,ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial; RCT)などが挙げられる。

例えば,クライエントが語った言葉などは数値によって表現されにくいため,量的研究の手法を適用しにくい。こうした場合に用いられるのが,質的研究である。質的研究とは,自由記述データなどの数量にしにくい記述的なデータを対象に,言語的,概念的な分析を行う方法である。

量的研究では,「個性」は誤差と捉えられる。質的研究では,この個性を貴重なデータとして捉え,事象の個別性・一回性を尊重する

分析手法としては,例えば自由記述データを分類するKJ法や,プロセスを検討するグランテッド・セオリー・アプローチ(GTA)などがこれに含まれる。また,臨床研究では単一事例研究も質的研究に含まれる。

単一事例研究で得られた知見は,多くのケースに共通する法則を主張するには向かない。しかし,例えば「心理療法で統合失調症は治癒しない」という定説に反する事例を報告すれば,それは非常にインパクトが大きい。

なお,臨床心理士の業務の一つである「研究」には,調査研究を行うことだけではなく,臨床技能の自己研鑽も含まれると考えられる。すなわち,心理療法やアセスメントの技法を学んだり,先達からの指導を通して自らの臨床力を高め,臨床的な技能を探求していくことも重要な業務である。

臨床心理士の研鑽の機会としては,事例研究と発表,事例検討会,スーパーヴィジョン,個人分析(自分が精神分析治療を受ける),講演,ワークショップなどが挙げられる。このうち,スーパーヴィジョンとは,自分より経験豊富な臨床家に自身の担当するケースを相談し,助言指導を受けることである。

最後に,自分で研究を行わない場合であっても,調査・研究で用いられる研究手法の知識がなければ内容を正確に読み取ることができない。したがって,専門雑誌や専門書などを読み解くことが困難となり,最新の知見を知ることに支障が生じてしまう。こうしたことを防ぐためにも,臨床心理士は実践に加えて研究の視点も身につけなければならないのである。

キーワード ① 倫理 ② 守秘義務 ③ 多重関係の禁止 ④ 研究 ⑤ 研鑽
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:①臨床心理士倫理綱領を読み,その内容を確認しておくこと。特に,守秘義務や多重関係の禁止は重要な事項であるため,説明できるようにしておくこと。②量的研究と質的研究の違いについて確認し,双方がそれぞれどのような研究に用いられるか,説明できるようにしておくこと。③臨床心理士の研鑽の機会について確認しておくこと,特に,スーパヴィジョンは重要な概念であるため,説明できるようにしておくこと。

予習:次回はこれまでの授業のまとめの回である。1回目から14回目までの配布資料やコマシラバスを事前に読み,復習しておくこと。その際は,①臨床心理面接(心理療法論),②心理アセスメント,③臨床心理学的地域援助,④研究の4つの領域にまとめ,それぞれについての理解を整理できると良いだろう。特に心理療法論と心理アセスメントについては,授業の中で複数の観点から学んできたため,それぞれの授業回をもう一度見直し,それぞれの全体像を今一度把握しておくと良いだろう。

15 授業全体のまとめ 科目の中での位置付け 本科目は,公認心理師法第7条に規定されている公認心理師となるために必要な科目であり,その基準を満たすために,①臨床心理学の成り立ち(A:精神分析学と力動的心理療法の成り立ち,B:行動理論と行動療法の成り立ち,C:人間性心理学と人間中心アプローチの成り立ち,D:認知理論と認知行動療法の成り立ち,E:心理療法の諸理論の成り立ち,F:心理アセスメントの成り立ち),②臨床心理学の代表的な理論(A:臨床心理学の基本概念,B:面接法によるアセスメントの理論と技法,C:知能・発達・認知機能のアセスメントの理論と技法,D:性格検査の理論と技法,E:見立てと心の病理学,F:心理療法の理論,G:心理療法の折衷と技法選択・効果のエビデンス)などの内容を含んでいる。本コマ(第4回)は,これまでの授業のまとめの回である。
配布資料,および参考文献(細目①:公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会HP:http://fjcbcp.or.jp/,細目②:教科書 pp. 140-156,細目③:教科書 pp.84-121)
コマ主題細目 ① 臨床心理学とは ② 臨床心理面接 ③ 心理アセスメント
細目レベル ① 臨床心理学の「臨床」clinicalとは,もともと,病気で横たわる人の傍にいて看取るということを意味する言葉である。ウィトマーWitmer がペンシルベニア大学に世界最初の心理クリニックをひらき,臨床心理学という用語を初めて用いた。現在の臨床心理学は,以下の4つの領域にその内容を大別することができる。すなわち,1.臨床心理アセスメント(査定),2.臨床心理面接,3. 臨床心理的地域援助,4. 研究である。

 1. 臨床心理アセスメント(査定)とは,心理検査や観察面接を通じて,個々人の独自性,個別性の固有な特徴や問題点の所在を明らかにすることを意味している。アセスメントを行うためには,心の病や問題を扱う異常心理学,心理検査に関する知識や,面接におけるアセスメントの視点を学ぶことが必要である。また,心理アセスメントは心の問題で悩む人々をどのような方法で援助するのが望ましいか明らかにしようとすることも含まれることに加えて,他の専門家とも検討を行う専門行為といえる。

2. 臨床心理面接とは,さまざまな臨床心理学的技法(精神分析,夢分析,遊戯療法,クライエント中心療法,集団心理療法、行動療法,箱庭療法,臨床動作法,家族療法,芸術療法,認知療法,ゲシュタルト療法,イメージ療法など)を用いて,クライエントの心の支援に資する心理専門職にとってもっとも中心的な専門行為である。これらを学ぶために,本科目では代表的な心理療法の技法の成り立ちや,その理論について学んでいく。

3. 臨床心理的地域援助とは,問題を抱えた個人ではなく,その周りにいて問題を抱えた個人を支える人々,そして地域住民や学校,職場に所属する人々(コミュニティ)の心の健康や地域住民の被害の支援活動を行うことである。このようなアプローチの仕方は,「コミュニティアプローチ」とも呼ばれる。また,一般的な生活環境の健全な発展のために,心理的情報を提供したり提言する活動も地域援助の業務に含まれる。

最後に,4. 研究は,臨床心理に関する手法や知識を確実なものにするために,基礎となる調査や研究活動を実施することを指している。特に,事例研究の学習は,心理専門職に求められる大切な専門業務であり,自らの専門資質の維持・発展に資するきわめて重要な自己研鑽に関する専門業務といえる。また,この領域には,科学的視点に基づいた調査・研究のみではなく,個々の心理臨床に関する個人研究,すなわち自己研鑽も含まれる。

② 臨床心理面接,すなわち心理療法論では,1. 精神分析,2. 認知行動療法,3. クライエント療法,4. その他の心理療法を学んだ。

1. 精神分析では,力動論-構造論に関する理解が重要である。精神分析では,心の病の原因は無意識に押し込まれた心的内容にあると考える。力動論では,「抑圧」(Repression)と呼ばれる防衛規制によって無意識に抑え込まれた心的内容は,おりにふれて意識に浮上しようするが,意識はそれに直面したくないため抑え込みたいという葛藤が生じると考える。その結果として,押さえ込まれた苦痛を伴う経験は,意識的にそれえを思い出すという形ではなく,身体的な症状として表現されて現れてくると考えられる。

また,フロイトは「自我」・「超自我」・「エス(イド)」という心的装置が心の中に存在するという,「構造論」を提出した。この構造論の導入により,人の心の中の葛藤を捉える力動的な理解の仕方が発展していったのである。すなわち,自我(ego=私)に入ることができない,快楽原則に従う欲動や感情を司るエス(es=it),そしてそのような不道徳的な心的内容を監視する,道徳心を司る超自我(super ego)という3つの構造間の力動を想定したのである。

2. 認知行動療法の領域では,行動療法の基となっている古典的条件づけ,オペンラント条件づけを理解しておくことが重要である。古典的条件づけは,生理的な反応と刺激との結びつきが学習されるメカニズムであり,オペラント条件づけは自発的な行動がその結果を受けて学習されるメカニズムをそれぞれ示している。また,認知療法における認知モデルの考え方も抑えておく必要がある。そして,第3世代の認知行動療法の代表例である,マインドフルネス認知療法についても理解しておく必要がある。

3. クライエント中心療法において重要なのは,ロジャーズが提唱した「治療的人格変化の必要十分条件」である。中でも中核条件と呼ばれる3つの条件については,その内容を説明できる程度に理解していることが求められる。

4. その他の心理療法では,家族療法,芸術療法,遊戯療法を学んだ。家族療法においては,円環的因果律の考え方を理解しておくこと。また,芸術療法については,特にその治療機序や描画療法について理解を深めておく必要がある。遊戯療法については,アクスラインの8原則,そして種々の遊戯療法の学派の考え方の違いを理解しておく必要がある。

③ 心理アセスメントでは,アセスメントの考え方や,心の病,精神疾患に関する異常心理学などを学んだ。いずれの内容も重要であるが,特にアセスメントにおいては,クライエントの問題の背景を多面的に捉えるための,「生物―心理―社会モデル」を理解しておく必要がある。

心理専門職が行うのは,医学的診断ではなく,「心理アセスメント」である。すでに以前のコマで述べた通り,心理アセスメントとは,相談者(クライエント)の主訴となっている問題の原因やそれが維持されているメカニズムを明らかにし,その問題を解決,あるいは改善するための方法を導き出すことを目的とした一連の過程である。

医学的診断は,対象者を苦しめている病理を特定し,治療方法を決定することに重点が置かれる。一方,心理アセスメントは,相手(クライエント)を一人の人間として理解しようとする試みであり,特にその人が何を体験しているか,何がその人を苦しめているかを理解しようとする試みであるという違いがある。

心理アセスメントにおいては,心の病に関係する複数の要因を多面的に見ていく必要がある。大別すると,これらの要因は一般的に生物学的要因・社会的要因・心理的要因に大別される。

臨床心理学の成り立ちに関するコマですでに学んだ通り,19世紀に近代精神医学が成立した際に二つの流れが誕生した。クレペリンKraepelinをはじめとする,近代的な合理性に基づいて心の病などの不合理を解き明かそうとする流れである。この流れはいわゆる伝統的精神医学と言うことができる。すなわち,人間が抱える心の病は脳をはじめとする生物学的原因がある異常な状態であると考える流れである。

そして,二つ目の流れが神経症,特にヒステリーを対象としたフロイトFreud,S.らの流れである。フロイトは,人を合理的な存在ではなく,人は本質的に不合理であると考えた。そして,人の心の病の原因は,全て心理的要因にあると考えたのである。

このように,従来は「全て生物学的な原因がある」,「全て心理的な原因がある」という二つの相反する考えが衝突していたのである。しかし,現代ではこれらの生物学的要因,心理学的要因,そして環境的な要因を含め,人の心の病の原因を多面的に見ていく必要があるとする理解の仕方が主流となってきている。このような見方は,「生物―心理―社会モデル」(Bio-Psycho-Social model )と呼ばれる。

キーワード ① 臨床心理学 ② 臨床心理面接 ③ 心理アセスメント ④ 臨床心理学的地域援助 ⑤ 研究
コマの展開方法 社会人講師 AL ICT PowerPoint・Keynote 教科書
コマ用オリジナル配布資料 コマ用プリント配布資料 その他 該当なし
小テスト 「小テスト」については、毎回の授業終了時、manaba上において5問以上の、当該コマの小テスト(難易度表示付き)を実施します。
復習・予習課題 復習:①臨床心理学の4領域である,①臨床心理面接(心理療法論),②心理アセスメント,③臨床心理学的地域援助,④研究の4つの領域を理解しておくことが重要である。特に心理療法論と心理アセスメントについては,授業の中で複数の観点から学んできたため,それぞれの授業回をもう一度見直し,それぞれの全体像を今一度把握しておくと良いだろう。復習においては,1回目から14回目までのコマシラバスを読み,復習しておくことが望ましい。その際,上記の4つの領域ごとに学んだ内容をまとめ,重要なキーワードを領域ごとに整理して,科目で学んだ内容の全体像を把握しながら復習できると良いだろう。

履修判定指標
履修指標履修指標の水準キーワード配点関連回
臨床心理学とは 臨床心理学における基本的な考え方について理解していること。特に,臨床心理学の4領域,臨床心理アセスメント,臨床心理面接,臨床心理的地域援助,研究それぞれの領域について関連する用語を判別できるようにすることに加え,それぞれの領域における具体的な内容を言葉で説明できるようにしておくこと。また,特に法則定立型アプローチと個性記述的アプローチ,科学者-実践者モデルといった重要な考えについては,その内容を言葉で説明できる程度に理解していること。 臨床心理アセスメント,臨床心理面接,臨床心理的地域援助,研究,個性記述的アプローチ,科学者-実践者モデル 10 1, 15
臨床心理面接 精神分析については,その成り立ちと主要な理論の特徴を理解し,説明することができる。特に力動論と構造論,認知行動療法においては古典的条件づけ,オペラント条件づけ,認知療法,クライエント中心療法においてはロジャーズが提唱した治療的人格変化の必要十分条件,その他の心理療法(家族療法,芸術療法,遊戯療法)においては,それぞれの心理療法における治療メカニズムを理解しており,言葉で説明できることが求められる。また,これらの心理療法がどのような問題にアプローチするために有効かについても理解し,その選択の根拠を説明することができる。 精神分析,認知行動療法,クライエント中心療法,家族療法,芸術療法,遊戯療法 30 2〜7・15
心理アセスメント 心理検査の成り立ちについて,知能検査が開発された経緯や,知能指数の概念について理解していること。また,アセスメントに関わる種々の精神疾患や心理的問題について,その特徴(症状)を説明することができること。心理学的なアセスメントについて,医学的な診断とどのような点が異なるかについて,言葉で説明できる程度に理解できていること。加えて,アセスメントにおいて重要な,生物―心理―社会モデルや病態水準論の考え方については自分の言葉で説明できる程度に理解していることが望まれる。 心理アセスメント,心理検査,見立て,異常心理学,生物―心理―社会モデル,病態水準論 20 8~12・15
臨床心理学的地域援助 臨床心理学的地域援助について,その方法論や目的について理解している。特に,個人を対象とした心理療法との違いとして,アウトリーチの考え方や,問題を抱えた個人ではなく,それを取り巻く人々を対象に支援し,環境の持つ自助力を増進すること,などを明確に述べることができること。加えて,「コンサルテーション」とは何を行う援助行為か,「Caplanの予防モデル」とは具体的にはどのようなモデルか,といったことについては,具体的に説明ができるようにしておくこと。 コミュニティ・アプローチ,コンサルテーション,予防,Caplanの予防モデル,ゲートキーパー 20 13・15
研究と実践 臨床心理学の研究について,量的研究と質的研究の相違点やそれらの特徴を理解していること。また,実践家が研究手法を学ぶことの意味を理解していること。加えて,実践においては特に臨床心理士が守るべき倫理規定について理解していること,具体的には,守秘義務や多重関係の禁止といった重要な項目を中心に,倫理規程について説明ができること。また,研鑽の機会としてのスーパーヴィジョンや事例研究などの特徴についても理解していること。 量的研究,質的研究,倫理,守秘義務,多重関係,研鑽,スーパーヴィジョン 20 14・15
評価方法 出席状況および定期試験によって評価する。 *成績発表後、教務課にて試験・レポートに関する総評が閲覧できます。
評価基準 評語
    学習目標をほぼ完全に達成している・・・・・・・・・・・・・ S (100~90点)
    学習目標を相応に達成している・・・・・・・・・・・・・・・ A (89~80点)
    学習目標を相応に達成しているが不十分な点がある・・・・・・ B (79~70点)
    学習目標の最低限は満たしている・・・・・・・・・・・・・・ C (69~60点)
    学習目標の最低限を満たしていない・・・・・・・・・・・・・ D (60点未満)
教科書 川瀬正裕・松本真理子・松本英夫 『心とかかわる臨床心理 第3版』 ナカニシヤ出版 定価(本体2,200円+税)
参考文献 授業内で適宜紹介する。
実験・実習・教材費 なし